ワスレナグサを片手に  没1
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此処は魔術養成学校。

自分の身体に秘められた魔力を引きだし、魔術として使用するため…

そして、優れた魔術使いとなり、社会に貢献するため日々学問に力を入れている。

 

そんな学校内で異色の生徒が入学してきた。

 

 

それから6年。

 

 

 

 

 

ワスレナグサを片手に

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魔術学園 キリスside.

 

 

 

 

「ルーヤ!」

魔術学校の教室に俺は急いで駆け込んだ。

 

 

俺の名はキリス。

この学校の生徒の一人で勉学に対してとても真面目な生徒である。

…真面目だぞ。

 

 

それはさておき俺は教室に入るとすぐに一人の少女の元に駆け寄った。

「…キリス?」

彼女はルーヤ。俺とルーヤは同じ孤児院で育った幼馴染というか、むしろ家族に近い存在であった。

 

魔法が誰にでも使える世の中、自分の身体と魔力が合わないため、

魔術を利用した事件にまきこまれたため、お金の為に子供を魔術の実験材料として売ったため

…さまざまな理由で親元から引き離された子供…孤児院に身を寄せる子供は少なくなかった…。

 

実際ルーヤは5歳に両親が事件に巻き込まれたため、俺は生まれて間もないころに孤児院の先生が捨てられているのを発見したため、15歳である今まで孤児院で暮らしてきた。

 

そんなルーヤは不思議そうな顔をしながら俺をみた。

「まったく…先に行くなんてひどいだろ!おかげさまで遅刻ギリギリだったぞ!」

「だってキリス、朝にはすんごいよわいんだもん。起こしたけど起きなかったもん。」

「うぐぐ…否定できない…」

事実俺は起きるのが苦手だ。・・・どうにかして早く目を覚ます方法がないのか・・・。

「それに置いていくんじゃなくて、朝ご飯食べてないでしょ。おばさんに頼んでサンドイッチ包んできたから食べなよ。」

「いいのか?」

「もちろんだよ、キリス。」

ルーヤはにっこりと笑った。

「朝ご飯どころじゃなかったんだ、ありがとな。」

渡されたアルミホイルの中に入っていた卵サンドを口に入れながら俺はルーヤの頭をなでた。

 

「キリスさん、ルーヤさん。技能試験の規律所の結果がはり出されているらしいですよ。」

「そうなのか、カイ?」

そんな二人の元にカイがやってきた。

 

技能審査…それは様々な職場などの働き口に行くために必要な審査のことである。

そして今回の技能試験は「規律所」という特別な場所への試験であった。

規律所とはいわば法令を破った人を捕獲等を担当とする場所で、優れた魔力所持者出なければいくことはできない。

 

「えぇ。先程小耳にはさんだんです。一緒に見に行きませんか?」

「てか、それなら遅刻じゃなかったのか。ひと安心だ…。」

「キリスの心配するところはそこなの…?・・・・・・・・あたしはいいよ。キリスとカイだけで行ってきたら?」

「その諦めは先生が原因か?それとも自分の力に自信がないのか?」

「両方。私はルートとは違うもん。ルートみたいになんだって出来るわけじゃないもん。」

ルーヤはうつむきながらつぶやいた。

「お前なぁ…」

俺は手に持っていたサンドイッチを食べきってルーヤの頭をなでた。

「ルートはルート、ルーヤはルーヤじゃないか。ルーヤはルーヤの出せる力を出せばそれでいいんだ。」

「キリス…。」

 

「うーん…80点かな?友達以上恋人未満ってかんじ?ヒューヒュー!」

 

「あっ、ルクナちゃん。」

1階にある教室の窓をひょいっと飛び越すと、ルクナはにやにやしながら3人の元へと寄ってきた。

「愛ですか?くっそ、教室でラブラブしおってー♪」

「何言ってるんだよ…ルーヤは幼なじみ、妹みたいな存在だし。」

「うん。友達とはちょっと違うかなー。」

「えー、恋の一波乱…予想したのになぁ…。あぁ、ルーヤ、例え家族のようなお前でもこの気持ち、抑えられないんだー!!的な?うおーあちー!!心が煮えたぎるぜー!!」

「そのまま煮えたぎって燃えつきとけ。」

俺がため息をついた時、カイがぽつりと

「でも、ルートさん…会ってみたいですね…。」

といった。

「カイ、それは難しいと思うよ。マスタークラスの指令なんて普通の人はそばに寄れない様な指令ばっかだし、実際私達が最後にあったのは…それこそ規律所に配属される前、5年くらい前だから…。」

「えっ?そうなんですか?」

「うん。ルートは真面目で熱血だから、1つのことに集中するとそれ以外見えなくなっちゃうの…。実際にはお休みもあるみたいだけど、今は文通だけ。」

「ふぅん…。まぁ、このご時世、休みよりも仕事の方が多くなっちまうよな…。」

 

「おい、結果見に行くんだろ?授業始まる前にいかないと。」

そう話し込んでいる3人の間に俺は割り込んできた。

なぜならルーヤにルートの話題は…。

「そうですね。では、ルーヤさん、急いで見に行ってきます。」

「あたしもついでに行ってくるわ。もしキリスが落ちてたら即座に馬鹿にするためにな。」

「おい。」

「ふふ、みんないってらっしゃい。」

にこりと微笑みながらルーヤは手を振った。

 

 

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「…カイ、ルクナ…。ルーヤの前でルートの話…しないでほしいんだ。」

廊下を歩いていたが俺は立ち止まり、二人の方を向いてそう呟いた。

その言葉を聞いたルクナは

「えっ?なんでよ?はっ、はーん。あれね。優れた兄貴と比較されたらルーヤが俺を見てくれない!…てかんじ?」

と、再び俺のまね(?)をした。

・・・・真似なのかはかなり謎だが多分そのつもりだと思う。

するとカイが首を振りながらルクナの方をぽんぽんと叩いた。

「違うと思いますよ、ルクナさん。…ルーヤさんが長い間会えてないから…ですか?」

「それもある。でも、何よりルートのことを話題にだすと嫌な連中が群がったりするんだ。」

「あー、10歳未満なのにもかかわらず魔力を自在にあやつれるようになった天才って話のせいだな。」

ルクナは校内で発行される新聞などでよく見かける言われについて思い出したようでうんぬんといい名が話し始めた。

とはいっても、ルート本人がどういう性格でどういう容姿なのかは生徒では恐らく俺とルーヤくらいしか知らないであろう。

 

 

ルーヤには双子の兄がいる。それがルートだ。

なんでも、今では規律所の若年層ながらのエリート・マスタークラスの一人らしい。

強大な魔力を持ち、彼が放つ魔術は光速すらも超えると言われ、この学校もいっきに飛び級してしまうほどの実力の持ち主である。

しかし、

 

「ルーヤを利用してルートに媚び売る奴らや、ルートに嫉妬する奴らがルーヤを標的にするんだよ。」

 

 

その実力は憧れる者と同時に嫉妬する者も増やした。

実際ルーヤのクラスでルーヤに好感を持つ人は俺とカイとルクナだけである。

それ以外の人間は好感というより、嫉妬と憎悪をルーヤに対して抱いていた。

 

ルーヤはルートとは違い、テストは赤点ラインぎりぎり、実践に至っては魔力を収束させ、魔術を放つための魔術具・杖をよく粉微塵にしている。

まともに魔力を持っていながらも扱えない彼女にいらだちを隠せないらしく、日々いじめが絶えない。

とはいうものの、俺は自慢じゃないがクラス1の実力の持ち主で、手を出せば力の弱い者などひとひねりされてしまう…と思われてしまうらしい。

それにカイも臆病ではあるが、実力は確かなもの、ルクナは実力はないが、口よりもこぶしが出るタイプなので、下手なことをすれば鉄拳がとんでくる(被害者数知れぬ事実)。

しかし、生徒だけではなく、教師すらも彼女を不愉快に思っており、ルーヤを明らかに避けている。

 

…そう、ただの嫉妬や憎悪の感情だけではない…“あの噂”のせいで…。

 

「そんな…地位や名誉のために利用するなんて…。だいたいルーヤさんには全く関係ないじゃないですか…。」

「てか、ばっかじゃねえの?そんなことしたって地位なんざてにはいんねぇっつーの!それに自分の地位は自分でつかみとってなんぼだろ?…まぁ、私は年がら年中まともに休みなく犯罪者追いかけ回すようなお偉いさんの犬っころにはなりたくないけどな。」

「ははは、ルクナとカイらしい意見だな。」

俺はそれを聞いて安心して、少し笑ってしまった。

「それにルーヤのあの性格が好きだから一緒にいるんだし。キリスだってそうなんじゃないのか〜?」

「何を期待してるかしらないけど、俺は少なくともそんな感情はないから。」

「えー、つまんねーのー。」

「ルクナちゃん、これで何度目ですか、その質問…。」

つまらなそうに舌打ちしたルクナにカイが尋ねると、ルクナは

「そりゃあれよ。そのうちキリスの奴がデレになるんじゃないかと…それが面白そうだからつい。」

と答えた。

「ついってなぁ…。ていうか、さっき犬っころにはなりたくないって言ったよな…。じゃあなんで規律所の採用試験受けたんだ?」

その反応を聞いた俺は思わずため息を漏らしたが、それと同時にふとした疑問が浮かび上がった。

ルクナは成績は中の下、魔術も使えるが、そこまで術を使いこなせていないし、何より先ほど言った通り、彼女は人に利用されたり使われるのが嫌いなんだってことを・・・。

「あー、実はな、親に受けろって言われてんだよ。ち、面倒くせえなあってな。」

「へー、そうなのか…。」

「…あっ、貼りだされてますよ。」

「お、ほんとだ!どれどれ?まずはーっと…」

ルクナは貼りだされている用紙に近づきじっと見つめていたが、うなりながらカイと俺の元に戻ってきた。

「…やっぱあたしはなしだな。よし、やりぃ!!」

「それ、喜んでいいんですか…?あっ、私の番号!キリスさんはどうですか?」

「俺のは…おっ、あるな。」

「ち、おもしろくねーなー。まぁ、1〜3ヶ月体験学習みたいな感じなんだろ?うん、盛大に失敗して落ちろ。」

ルクナはうんうんと頷きながら言った。

「お前というやつは…。」

「…そういや、ルーヤは?」

「聞けよ。」

「ちょっと待ってくださいね。・・・えーっと・・・。」

カイが再び用紙を確認したが、首を振った。

「…ないみたいです。一応番号は知ってますが…」

 

「はぁっ?あんな奴が通る訳がないじゃん。」

 

「…はっ?」

「はっ?はこっちの台詞だぜ。なんたって杖破壊の問題児。まともに自分の魔力扱えないようなバカが通るわけねーだろ。」

声の主である薄茶色の髪にワックスをつけ固めた少年・アオイはルクナに歩み寄ってきた。

アオイはルクナとは幼馴染で、目が合うと、すぐに喧嘩を始めるほど仲が悪い。

もちろん今回もそれっぽい。

…ていうか五月蠅い。

「アオイ…。はっ、あんたこそここに番号あったのかしら?まぁ、あんたみたいな魔術を悪用するようなダメダメ星人がうかるわけがないけどねー。」

「悪用じゃねーよ!俺は俺の正義の為に使ってるだけさ。」

「それにまともに授業に参加しない。」

「そ、それはこんなとこで学ばなくても俺は天才なんだよ!」

「ぷぷー天才かっこ笑い。」

「ル、ルクナちゃん!!」

アオイがルクナとにらみ合う中、俺はルクナとカイの肩を叩いて教室へと足を向けた。

「…なんとでも言えばいいさ。」

「キ、キリスさんも何言ってるんですか!?」

「たしかに魔術具を何度も壊してる…だが、それはルーヤの魔力には合わないって話だ。とりあえず魔術具の基礎学び直すべきだとおもうぞ。」

「なっ…。う、うるせーよ!俺は一度たりとも現場に居合わせたことがねーんだから、そんなこと知るか!!」

「馬鹿が露呈してやんの。やーいバーカ!」

「くっそー!!覚えとけよ!!」

何やら後ろでまだ騒いでいるようだが俺は無視せず足を進めた。

 

 

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「さて、用事もすんだし、戻るか。…それにしてもひでーはなしだよな…ルーヤの力が納得いかねぇのか、あのクソセンコー、ルーヤの杖そろそろルーヤの力に合わせたものにしろっつーの!」

「ルーヤさんの魔力測定時に測定機が故障したから…までは分かりますけど、計り直しなしですし…。」

「あのババア、まじでルーヤのことを忌み嫌ってやがる。」

ルクナはぶーぶーと文句を呟きながら勢いよく教室のドアを開けた。

「あっ、皆!」

その姿を確認したルーヤが席から立ち上がり駆け寄ろうとすると、突然足がルーヤの足元に現れ、

「あいたっ!」

ルーヤは盛大にこけてしまった。

「ルーヤ、大丈夫か?!」

「いたた・・・うん、大丈夫!元気元気!」

にこにこと微笑んだルーヤはスカートについたほこりをささっと払って立ち上がった。

「あーら、ごめんなさい。ぶつかっちゃったー?」

足を出したのはクラスメイトの一人・カールズだった。

「おめぇ…!!今、わざとぶつかっただろ!!」

「ルクナちゃん、落ちついて!」

カイがルクナが殴りかかるのを止めると、カールズの後ろあたりからひょこっとクラスメイトの一人であるナナが顔を出した。

はっきりいって俺はこいつが苦手だ。・・・というより俺はルクナやカイ・ルーヤ以外のクラスメイトには好感が持てなかった。

こいつらは“あの教師”同様にルーヤを傷つけ、嫉妬や“あの噂”を信じ込んでルーヤを傷つけているのだ。

まぁ、こいつはその中でも直接手は下さないもののルーヤのことが嫌いというのがその口ぶりからにじみ出てやがる…。

行動を起こせばどうにかなるかもしれないが、口だけじゃどうしようもない。

「…はぁ、何かと思えばさわがしい野蛮な動物が紛れ込んでいましたのね。」

「ナナさん違いますよ、野蛮ですけど人ですよ、ひーと。」

クスクスと笑いながらカールズが笑った。

「あら?そうでしたの?私野蛮で下賎な生き物は動物にしか見えませんの。」

「なんだと!?」

ルクナがカイに止められてはいるものの、今にも殴りかかりそうな顔でナナを見た。

さすがに俺もここで殴りかかって騒ぎを起こされたらルクナもルーヤもいい思いはせずあいつらが正当化されることが読めたので

「ルクナ、そんな奴らにする時間の無駄だぞ。」

と、止めに入った。

「あら、キリスさん。合格するなんて私のライバルにふさわしいわね。」

「ライバル…?」

「そう、あなたはクラスでの私の順位を脅かすもの…つまりライバルよ。」

「・・・・・・・俺はそんな認識した記憶がないんだが…。」

というか、お前クラス順位は3位だろ。俺1位だし。2位は別の奴だろ…他クラスの全く知らない奴だったけど。

何でこいつこうも突っかかってくるんだ?

「お黙り!私がそう決めたのですから決定事項なのです!だいたいそんな両手にお花状態で結果を確認してくるなんて…余裕しゃくしゃくですわね。」

「よかったな、ルクナ、女には見られていたみたいだぞ。」

「あんた、さりげなくさっきの仕返ししてるでしょ…。」

・・・さすがにばれたか。

「当然だ。やられたらやり返すってやつだろう?」

「ふっ…さすがキリス・・・!そういうことよく分かってるじゃねーか!!」

ルクナはにやにやとしながらも落ちついたのかバンバンと俺の背中を叩いた。

正直痛かったが、ルクナは悪いやつじゃないことくらい知っているからこの程度の痛みならかわいいものだ。

「あぁもう!!人の話くらい最後まで聞きなさい!!聞かないならば決闘ですわ!!」

「あいにくだが、俺はそんな暇ねえし、なによりナナ。お前たしか以前の授業で怪我しただろ?そんな相手に決闘申し込まれても受けて立つーなんて言えるわけないだろ。せめて怪我直してから決闘を申し込むんだな。」

「う・・・うぅ・・・に、逃げるおつもりですの?!それとも臆病風に吹かれたのですの?!」

「・・・お前アホだろ。」

「あ、あほだなんて失礼な!!」

「臆病風に吹かれたなら怪我直してからなんて言うわけないだろ?逆に怪我している今がチャンスって思うぞ。」

「っ・・・。」

俺の言葉を理解したのかナナはそれ以上何もいわなかった。

カールズはというと、ナナを慰めていたようだが、ナナに「うるさい」と怒鳴られていた。

ざまあないな。

 

 

「席に着きなさい、授業を始めますよ!!」

 

 

扉が開き、担当教員・ミカエが生徒の姿を見て一括した。

俺は席に座ると、ルーヤの方を見た。

ルーヤはいつの間にか着席しており、せっせとノートを取り出し、授業の準備をしていた。

 

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「ルート、どうしたの?」

何年前のことだったか…

ルーヤが身支度をするルートに首をかしげた。

そんな姿を俺も一緒に見ていた。もちろん俺はルーヤ側だ。

きりがついたのか、鞄のふたを閉めたあいつがこちらを見て

「僕はここから出ていく。規律所でやらなきゃいけないことがあるんだ。」

と言った。

 

俺は忘れられない、あの日のことを

あの日からルーヤは泣かなくなった。

そして、自分ですべてを抱え込むようになった

俺やルートを心配させないために…

だけど、あんなのルーヤじゃない…

俺は…

 

 

 

 

 

 

 

「またあなたですか、ルーヤ!あなたは授業を受ける気があるのですか!」

教室に大きな罵声が響く。

俺ははっと顔をあげると、そこには教壇の前に立たされているルーヤの姿があった。

「あなた、知っているのに先生が気に食わないから言わないの?!ここは授業なんだからしっかりと答えなさい!!」

そう言ってあの教師が魔術書を手に取ると、ルーヤの目の前で机に叩きつけた。

「せ、先生…それは初歩魔術じゃ…」

「カイさんは黙っていなさい!まったく!先生聞きましたよ!『ルーヤさんはそういうことをきちんと知っているから授業を真面目に受ける気がない』と!そんなに授業を受ける気がないのなら退室しなさい!ほら、はやく!!」

再びあいつが机を叩くと、ルーヤはそのまま教室をあとにした。

「…おい、何が起きたんだ?」

「お前、寝てたのかよ…」

「考え事してたんだよ。」

「…いやな、あいつがまたやったんだよ。修復魔法の基本だってめっちゃよくわかんねぇこと質問してたんだよ。」

「・・・・・・・ルクナに聞いた俺がバカだった…まぁ、大半は分かった。」

あとルクナがアホであることを再認識した。

「おめえ、あとで一発ぶん殴っていいか?…って、そんな気分にはなれねえな。」

 

これで何度目か分からない。

 

担当教員は毎度理不尽な問題を叩きつけてルーヤを攻める。

しかもその問題は一般常識ではない、専門的知識。

クラスの人間だって分かるはずだ。

でも、ルーヤはずば抜けて強い魔力を持っている、だけならまだしも、知識があるのにまともに授業をしない、授業の妨害をしているなどと意味の分からない根も葉もないうわさが流れており、それを信じて誰ひとりとしてルーヤをかばおうとしない。

いや・・・もしかばったとしても、自分が標的にされるのが怖いのかもしれない。

ルクナは基礎自体がほとんど頭に入っていないため助言ができない(暴力的な言葉を言って余計場の空気を悪くすることもしばしば)、かといって、カイや俺のようなそれなりの知識を持った奴が助言をしようとするとその前に阻む、もしくは先ほどの根も葉もない…そう“あの噂”でルーヤを攻める。

それだけじゃない。

ルーヤの魔術具の破壊に関しては彼女が関係していると俺は感じていた。

なにせ、試験時には必ず杖を壊しているのだ。ルーヤにきちんと合ったものであれば杖はそう簡単に壊れることはない。そして、試験時には必ず杖が不正がないようにと支給されている…。

支給する為の能力検査結果を渡すのは教師の役目である…。つまりはそういうことである。

 

だが、他の教員もルートの実力を知り、かつ、その噂が流れているため、誰ひとりとして、俺達の意見を聞こうとはしなかった。

ルーヤはあまりにも自分の意見を聞かれず、押し付けられたためか、決して反論をしなくなっていた。

俺は机をたたいた瞬間のルーヤの姿は正直見るに堪えられなかった…。

だからこそ俺は・・・

 

 

「ルートが…ルートがいれば…。」

 

ルートを連れ戻したかった。

 

 

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規律所…そこは憧れの職業ともいえる場所。魔術に長けた魔術師が集まるその場所は各地の治安を守るための職務を主にしている。

他にも魔術の力ではない「科学」なども研究されており、建物の中は特別なものしか入ることが許さていない…

 

 

 

規律所 キリスside.

 

 

 

 

 

「な、なんだか緊張しちゃいますね、キリスさん。」

俺と試験を通過したカイは辺りを見回しながら規律所ないを眺めていた。

「たしかに、最新の設備があるし、ここに立つだけで、なんというか、圧倒されるな…。」

なんでも規律所は魔術に耐性のある素材でここで魔術を放っても、普通の奴は傷一つつけることができないらしい。

…普通のやつなら。

「ところで…こないですね、私たちの担当になっている人たち…。あと、ナナさんも。」

「まだ、体験学習みたいなものだから来てくれないと話にならないな。」

 

「カイさん、キリスさん!こちらにいましたの!?」

 

そう話しながら待っている中、息を切らしながらナナがやってきた。

「おう、見かけによらず走れるんだな。てか、会場内で走るなよ。」

「そ、そんな問題じゃありませんわよ!」

「どうかしたんですか?」

「実は、私たちを担当するはずの方々がまだ戻ってきていらっしゃらないらしいの!」

「…つまり…どういうことだ?」

「つまり!私たちはそれまで規律所の仕事はできないってことですわ!」

ナナが服も新調しただのぶつくさと文句を呟く中、一人の女性がこちらにあるいてきた。

「・・・・・・・・・えっと、キリスさんにカイさん、ナナさんかしら?」

「あっ、はい。…えっと…」

カイが返答をするの女性はにこりと笑った。

歳は24・5歳といったところか…長髪の樹木のようなきれいな深緑の髪に、黄色の瞳をしたその人は俺たちの顔を一瞥すると、手に持っていた髪を確認した。

「うん、あってるわね。じつはね、あなたたちを担当するはずだったグループが今任務中に問題が発生して、戻ってこれなくなっちゃったの。」

「知っていますわ!つまり、わたくしたちは、今回の試験通過しても無意味だった…ってことですの?!」

「えーっと…ナナさん…ね。大丈夫よ。代わりのグループがあなたたちを担当することになったの。」

「担当者が代わっても無意味なのには変わりは…って…え?」

ナナは驚いたらしく、その女の人の顔をじっと見ていた。

「じゃあ、あなたがその代わりの担当の方なのですか?」

「いいえ。違うわ。私はこの規律所試験に合格した子を案内する案内担当よ。ついていらっしゃい、案内するわ。」

女性はくるりと後ろを向くと、つかつかと歩き始めた。俺たちは顔を見合わせ、少し考えた後にその女性の後についていった。

「それにしても、ちょっと心配ね〜」

「なにがですか?」

「いいえ、実はね…そこのキミ…えーっとキリスくん?」

「俺が何ですか?」

「…気をつけてね。あの人本当に手癖が悪いから。」

「手癖が悪い…?それってどうい…、・・・・!!!」

俺は自分の背筋に悪寒が走ったのを感じた。いや、悪寒だけではない、誰かが撫でている…しかも尻を!

 

「いや〜やはり少年のこのかためのおしりがいいんですよね〜。」

 

「き、きやあ!!!」

「い、いつのまに!?」

ナナとカイが背後の存在に気がつき、驚いて振り返ったと同時に後ずさった。

もちろん俺も即座に後ずさった。何か嫌なものを感じて。

「ラ・リ・イ・さん?な〜にさわってるんですか?」

背後に立っていたのは女性と同じくらいの年…24・5歳の金の短髪の男性。ぱっと見は普通そうな人に見えるが…

「それはあれですよ、少年を見かけたのであれば品定めしないと…私じゃありませんよ〜わかってませんね、マーヤ。」

手をわきわきとさせながら俺の方をじっと見ていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・変態?」

「キ、キリスさんは男の子ですよ・・・!」

カイとナナは異物を見るような眼でラリィと呼ばれたそのセクハラ男を見た。

「へ、変態とは失敬な。私はラリィ。この規律所内ではそれなりに名高い人物なのですよ。」

「ラリィ…あぁ!聞いたことありますわ!全ての魔術を扱うことのできる天才…でも、酷い趣味を持った【残念な天才】…と!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

その発言をしたナナとマーヤと呼ばれた案内人の女性以外は少し耳を疑った。

・・・・残念な天才・・・?

「ざ、残念なって…そこはいらないでしょう…もっと「虹の魔術師」的なカッコいい呼び名はないのですか?!」

「そんな趣味を持っていてはいつまでたってもよばれそうにないわね。」

「マーヤ!」

案内人の女性はため息をついた。

「そ、そんなことより、私たちを担当するっていう人の所に案内していただけますか?」

「あぁ、その必要はないわ。なぜなら…」

「私がその代理を務めさせていただくペアの1人なのですから!」

 

・ ・ ・ 。

 

さすがにその場の空気が固まった。そして俺はただならぬ不快感で倒れかけた。

「変態さんに学びたくなんてありませんわ。」

「キリスさん、しっかりしてください。」

「いちおう・・・だいじょうぶだ。」

そんな俺たちの姿を見て、少しへこんだのか、通称・残念な天才は

「私ってそんなに嫌なものですか?」

と、隣にいる女性・マーヤに訪ねていた。

「・・・ってペア?つまりもう一方いますの?」

ナナの発言に俺とカイはたしかにと残念な…いや、ラリィさん…でいいのか?とにかくラリィさんの顔を見た。

「あぁ、いますとも。君たちと年の近い少年でね。彼も規律所ないではそうとう名をはせている子なのですよ。」

「かれはこの人と違っていい子だから、安心してね。」

「ひ、ひどい!」

・・・俺たちと年の近い少年…?

「年の近い…とは、20歳を超えていないということですの?」

「えぇ、たしか今年で…16とか17とかだったかしら…?」

「同じ年かもしれませんね。でも、私たちと同じ年って今年試験を受けたんじゃないんですか?」

「いや、彼は数年前からこの規律所に働く子でね。才能もあるし、知識もある…それゆえ、かなり飛び級してきたんだよ。」

…飛び級…?

「あっ、彼が来たようだね。」

 

「ラリィさん、ここにいたんですか?」

 

俺は聞き覚えのあるそのすんだ声を聞きそびれなかった。

今の声…もしかして・・・・

 

 

 

 

「・・・・ルート?」

 

説明
ファンタジーのオリジナル作品の没1話です。何人かのキャラクターの立ち位置が変更されたので没になりましたがせっかくなので投稿しました。   ※いじめなどの暴力表現を含みます
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