SAO〜菖蒲の瞳〜 第二十六話
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第二十六話 〜 雷光司りし魔牛の王 〜

 

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【アヤメside】

 

――現状を受け止めろ。

 

「動きを((止|と))めるな! 思考を((止|や))めるな! 敵はまだ生きてるぞッ!!」

 

予めこうなることを本能的に察知していたらしい俺は、この場に居る誰よりも早くたち立ち直りコロシアム全体に届くよう声を張り上げた。

 

声の届いたプレイヤーは、目の前の敵をキッ、と睨みつけ剣を握り直す。何人かは未だ呆然としているが、周りの雰囲気で直ぐに目を覚ますだろう。取り敢えず、無防備なところに壊滅的な打撃を受ける心配は無くなった。

 

問題はここからだ。

 

《アステリオス・ザ・トーラスキング》の登場によりイレギュラーが発生した今、俺たちの取るべき行動はリンドの言っていた通り《撤退》だ。しかし、それは不可能……いや、選択できないと言ったほうが正しい。

 

現在、バラン将軍を相手取るAからG隊はコロシアムの最奥、入口から最も遠い位置で戦闘を繰り広げ、真のボス、アステリオス王はコロシアムの中央を陣取っている。つまり、本隊が撤退するにはどうしても一度はアステリオス王に接触しなければならない。

 

普通のゲームなら望むところだが、本物の命が掛かっているとなればそれは極力避けたい。

 

トーラス族は、共通して相手を《((硬直|スタン))》、あるいは《((麻痺|パラライズ))》にするデバフ付きソードスキルを持っていることはこれまでのMobたちで確証済みなので、それらの《王》であるアステリオス王も使ってくる可能性は高い。それも、今までで最も凶悪なもの――例えば、((一発喰らえば即麻痺|・・・・・・・・・))、なんてふざけたものだ。

 

そんなものを喰らって麻痺してるところに、ボス級Mobが三体も襲い掛かってくればどうなるかなんて想像に難くない。

 

また、俺たちがアステリオス王を完全に無視したところで、向こうが絡んでくる。流石に、ボス級Mob二体を同時に相手するのはキツイ。

 

だけど、本隊もこっちも今の相手を倒しきるにはもう少し時間が必要で、その間にアステリオス王が何もしないはずがないし――――

 

「――ああ、同じか」

 

極力避けたいと言ったが、どうやら一度は接触しなくてはいけないようだ。でも、接触する人数は一人でいい。

 

「……キリト。さっさと倒して、シリカを連れて撤退しろ」

 

「? ……アヤメまさか!?」

 

キリトの声を背中に受けながら、俺は猛然とコロシアムの中央に向かって走り出した。

 

やることは十日前と同じ。全部隊が撤退可能になるまで、ひたすら《囮》になるだけだ。

 

「――――ッ!」

 

いつも通り《スローイング・ナイフ》を取り出し《シングル・シュート》を放つ。

 

投げナイフは一筋の小さな流星となって漆黒のトーラスに向かって飛翔し、その刃を突き立てた。

 

《((威嚇|ハウル))》スキルの影響を受けて無いため、アステリオス王のヘイトは((初撃|ファーストアタック))をヒットさせた俺のみに向けられる。

 

「ヴゥゥヴォオオオオオアアアアアア―――――――ッ!」

 

狙い通り、アステリオス王は俺を睨みつけせり上がった黒石の台座から飛び降りてきた。

 

「……そうだ、こっちに来い」

 

「アヤメさん!」

 

魔牛から目を放さないようにしながら、ポーチからスローイング・ナイフを一本取りだしたとき、背後から聞きなれた少女の声が聞こえてきた。

 

驚愕しながら振り向くと、やはり、ツインテールの少女がこちらに向かっていた。

 

「シリカ!? なん……」

 

「アヤメさん、付いて来るなって言いませんでしたよね?」

 

俺が「なんで付いて来た」と問いただす前に、直ぐ側まで走り寄ってきたシリカが先回りして答えた。

 

「私はアヤメさんのパーティメンバーなんです! アヤメさんを置いて一人で逃げるなんて出来ません!」

 

いつしかの((細剣使い|フェンサー))の少女と同じことを言うシリカの瞳には、その時と同じ光が灯っていた。

 

「ヴァルァアアアアアア!」

 

俺たちを攻撃圏内に入れたアステリオス王が、黒い鉄槌を上段に大きく振りかぶり叩きつけてくる。

 

「くっ……!」

 

「きゃっ!?」

 

シリカを抱きかかえるようにして横に大きく飛び、鉄の塊を避ける。その時、俺たちの姿を追いかけるアステリオス王の目はシリカの姿もしっかりと捉えていた。

 

「……分かった。でも、HPが半分……いや、四分の一でも減ったら直ぐに離脱しろ」

 

要望では無く、命令する。

 

「……はい」

 

そのことに気付いたシリカが神妙な面持ちで頷いた。

 

本当はこんなこと許したくないのだが、シリカの意志が本物だと言うことは見てとれる。彼女の本気を無為にすることはどうしても躊躇われた。

 

本当にこれで良かったのかと思うが、許してしまった手前、取り下げることは出来ない。

 

「……お前は絶対に守る」

 

シリカに聞こえないように呟く。お前は死なせない。当然、俺も死ぬつもりは無い。

 

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【キリトside】

 

「待てアヤ……チッ!」

 

第一層の時と同じように、俺たちの囮となるため一人未知のボスに向うアヤメ。それを止めようとした瞬間、俺の進行を妨げるように青い影が猛チャージで目の前を通り過ぎて行った。

 

舌打ちしながらその攻撃をギリギリで回避する。

 

「行かせねえ、ってか?」

 

ぎゅいいっ、と急ブレーキを掛けて停止し俺を睨む青いトーラスを忌ま忌ましく思い、威圧するような声を浴びせる。

 

その返答としてか、ナト大佐は雄叫びを上げながら表面にスパークを伴うハンマーを振り下ろしてきた。

 

それを《ナミング・インパクト》と見て取り、俺は後ろに飛んで回避する。効果範囲外からは脱出したものの、蛇のように床を奔る小さな稲妻がブーツの靴底を舐め、僅かにピリリとした感覚を覚えた。

 

「ダメよシリカちゃん!?」

 

スパークの嵐が止んだ直後、アスナの悲鳴にも聞こえる叫び声が耳に届いた。

 

何事かと振り向くと、アスナの側にいたはずのシリカの姿が無かった。

 

慌てて周りを見渡せば、((行動遅延|ディレイ))で動きが止まっているナト大佐の側を走り抜けるシリカを発見する。注意を促すより先に、どうするつもりなのかと言う疑問が頭に浮かび、そして、彼女の走るルートがアヤメのいる方、つまりアステリオス王のいる方に向かっていることに気が付いた。

 

「シリカ!」

 

しかし、止めようとするも時すでに遅し。ナト大佐のディレイが終了した。

 

「キリト君ごめん。私が呆けてる間に……」

 

側に近寄ってきたアスナが申し訳無さそうな声で言う。

 

「俺の方こそごめん。周りが見えてなかった」

 

剣を構え、早口で返す。

 

過ぎてしまったことを気にしても仕方無い。切り替えろ。今は、一秒でも早く目の前の障害を排除して撤退することを考えるんだ。

 

「アヤメたちのためにも、さっさとこいつを倒すぞ」

 

「そうね」

 

アスナは決意を固めるように、グッ、とウインドフルーレの柄を握り直しながら答えた。

 

その間に、エギルたちタンク部隊も近くにやって来る。

 

「行くぞ!」

 

「ええ!」

 

「「「おお!」」」

 

H隊の全員が揃うと、俺たちは前衛にタンク部隊を鏃のような形に配置して一斉に走り出す。

 

それに対して、ナト大佐はハンマーを豪快にフルスイングし、俺たちをまとめてなぎ払おうとした。

 

((暴走|バーサーク))状態により、通常より1.5倍の速さで振り抜かれるそれを、エギルたちは驚くべき速度で判断しジャストのタイミングで受け止めてみせた。

 

「アスナ!」

 

「うん!」

 

生まれた一瞬の隙を付き、俺とアスナがそれぞれ攻撃を仕掛ける。

 

やってることは今までと同じだが、より効率よくダメージを与えるため、俺は敏捷値を総動員して高く跳び上がった。

 

どちらかと言えばスピード型の俺は、助走無しでも2メートル近く跳ぶことが出来る。

 

今回はそれに助走が追加されたので、2メートル半あるナト大佐の眼前まで余裕で到達する。そのまま渾身の《バーチカル》を放つと、赤色のライトエフェクトを纏った刃が吸い込まれるように額にヒットした。

 

その後、慌てずにアヤメと同じ要領で戻ると、胸部に《リニアー》を放ったアスナが後衛に下がるのとほぼ同じタイミングで地面に足が着き、バックステップでさらに距離を開ける。

 

ジャンプ攻撃はトーラス族の弱点である額を狙うのに有効な手段だが、危険度も増す。しかし、早々に目の前の敵を排除しなくてはいけない状況においてこれくらいのごり押しは必要だろう。

 

現に、今の一撃で残り一本となったHPバーを三割ほど消し飛ばした。アスナと合わせれば四割だ。

 

「ヴゥヴォオオオオ――――――ッ!」

 

攻撃が止むと、ナト大佐は《ナミング》で反撃してきた。

 

ここで、俺は賭けに出た。

 

成功率は高いとは言えない。しかし、俺とアスナで四割削れたのだから、成功すれば次の攻撃で終らせることが出来るはずだからだ。

 

スパークを纏うハンマーに向かってもう一度ジャンプする。

 

狙うは、ソードスキルの相殺……!

 

「ハアアッ!」

 

十分な高さに達したところで、水平斬り片手直剣スキル《ホリゾンタル》をスキル発動前のハンマーにぶつける。

 

すると、金属のぶつかる激しい音が響き、火花を飛び散らせながら、互いの武器が進行とは逆方向に跳ね返される。

 

「全力攻撃! これで最後にするぞ!」

 

俺が叫んだ瞬間、アスナが真っ先に動き、栗色の髪を靡かせながら流れ星の如きスピードで大佐の胸に突きによる二連撃技《パラレル・スティング》を放った。

 

それにより、HPがイエローゾーンに到達する。

 

続けて、エギルの《ワールウインド》が炸裂。残り三人の剣技も次々にヒットしHPを削っていった。

 

しかし、イエローに入ると肉質が硬くなるのか、ナト大佐はHPを僅か数ドット残した。

 

――まだだッ!

 

俺は落下していく体を空中でぐっと丸め、左足を前に蹴り出す。さっきアヤメもやっていた《弦月》。

 

届けぇええッ! と声にならない声で祈るように叫ぶ。

 

体が上下反対になった時、何かにぶつかる。見れば、黒いブーツの爪先がナト大佐の鼻頭をしっかりと捉えていた。

 

そしてその一撃は、残りHPの全てを刈り取った。

 

「あだっ!?」

 

体勢を立て直すことも出来ず無様にも頭から墜落すると、ナト大佐は激しく状態を仰け反らせ、ひときわ甲高い雄叫びを放ち――――膨大なポリゴン片を振り撒いて爆散した。

 

視界に【ラストアタック・ボーナス獲得】の文字が表示され、そこまで見てようやく「倒したんだ」と実感する。

 

「……バランの方は!?」

 

「No problem。向こうも終わったようだ」

 

息つく間もなくガバッと起き上がると、両手斧を肩に掛けたエギルがネイティブな英語と共に答えた。

 

「だったら、急ぎましょう!」

 

「そうだな。……アヤメ!」

 

終了した旨を伝えようと、アヤメたちのいる方に目を向けると、アステリオス王が不思議な行動を取っていた。

別に強い攻撃を受けた様子も無いのに、上体を大きく仰け反らせていたのだ。

 

俺はその姿勢に見覚えがあった。まるでエネルギーを溜めるような――――そう、ブレスを吐く寸前そのものだ。

 

――ピシャアァァン!

 

俺がそこまで判断した直後、アステリオス王の胸が大きく膨らんだかと思うと視界がほんの一瞬だけ白に埋め尽くされ、僅かに遅れて雷鳴が轟いた。

 

《雷ブレス》。

 

SAO内に存在するブレス攻撃の中で最速のブレス。そして、数少ない遠距離攻撃であり、スタンや麻痺を高確率で引き起こす悪魔の一撃。

 

雷光の迸った直線上には、アヤメに覆い被さるシリカと、そのシリカを守るように抱き締めながら仰向けに倒れ込み、起き上がるどころかピクリともしないアヤメの姿があった。

 

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【アヤメside】

 

ブレスの放たれる一瞬前、俺はシリカを包み込むように抱きしめ、彼女の壁になった。

 

その直ぐ後、全身に弾けるような衝撃を何度も感じ、踏ん張りの効かなかった俺はシリカ共々その圧力に押され、咄嗟に体をねじった俺が下になるような形で倒れこんだ。

 

「カハ……ッ!?」

 

背中が地面に叩きつけられ、思わず息が漏れる。

 

「アヤメさん! アヤメさん……!!」

 

「…シ……カ……」

 

直ぐ近くで聞こえるシリカの呼び声に返事をしようとするが、上手く声が出せない。

 

視線を左上に持っていけば、自分のHPバーが二割ほど減少していて枠が緑色に明滅している。どうやら《((麻痺|パラライズ))》のデバフを受けているようだ。

 

そのまま視線を少しずらしてシリカのHPバーを確認すると、幸いなことに、HPが一割ほど減少した程度でそれ以外の変化は無かった。

 

「だい……じょぶ…か……?」

 

「私よりアヤメさんです! 早くPotで治療しないと……」

 

どうにか声を発すると、泣きそうな声のシリカに叱られ、ポーチから取り出した緑色のポーションを飲まされる。

 

「……私は大丈夫です。アヤメさんが庇ってくれましたから、直撃も((転倒|タンブル))ダメージも受けてません。……それに、この《リボン》のおかげで麻痺にもなりませんでした」

 

ミント風味の液体を飲み込む間、やや伏し目がちのシリカがツインテールを結う赤いリボンに触れながら答えた。

 

少し前、俺がシリカにあげたそのリボンは、名前を《レッドリボン》と言い《幸運補正ボーナス微》の効果のあるアイテムだ。

 

――そうか、シリカを守れたのか。

 

偶然手に入れたレアアイテムだったのだが、あげたかいがあった。

 

嬉しく思い、小さく微笑む。

 

「……アヤメさん」

 

だが、それもほんの一瞬だ。

 

「シリカ……俺を置いて……今すぐ…逃げ、ろ……!」

 

治療Potが効き、多少楽になった声で強く言った。

 

何故ならこの間にも、俺たちの命を押しつぶさんと重い足音が一歩ずつ近付いてくるからだ。

 

「……嫌です」

 

しかし、シリカが紡いだ言葉は拒絶だった。

 

「な……!?」

 

「私はいつもアヤメさんに助けられてすまから、今は私がアヤメさんを助けます」

 

そう言ったシリカは、アステリオス王に向き直り短剣を構え直した。

 

止めろ! お前は無理に戦わなくて良い! あと一発なら耐えられる! 麻痺ももう直ぐ完全に治る! そうすれば逃げられる! だから……逃げてくれ!

 

口に出して叫ぼうとしても、上手く声が出ない。起き上がろうともがくも、体はほとんど動かない。

 

奥歯を噛み締め必死に足掻くが、システムの壁を超えることは出来なかった。

 

そしてとうとう、アステリオス王はシリカの目の前まで歩み寄り、黒金色のハンマーを振り上げる。

 

「……シリカ!」

 

――くわぁぁぁん!

 

どうにか声を絞り出して叫ぶと、上空を黄色い円盤が放物線を描いて通り過ぎ、振り下ろされる寸前のアステリオス王の王冠を弾いた。

 

アステリオス王の巨大が上体を揺らし、王冠を弾いた円盤は、引っ張られるように持ち主の元へと帰って行く。

 

そして、それに入れ替わるようにして五人のプレイヤーが前に出た。

 

手元に戻る投擲武器。そして、その武器と繋がりのあるパーティは一つしかない。

 

「《レジェンド・ブレイブス》の皆さん……?」

 

「はい。恩返しに来ました」

 

近寄ってきたナタクが、俺の上体を起こしながらシリカの問いに答えた。

 

「アヤメ!」

 

「シリカちゃん!」

 

続いて、キリトとアスナ、そしてエギルが走ってきた。

 

「ったく、無茶しやがるぜ!」

 

エギルが俺を軽々と抱え上げ、壁際に折り返す。キリトは最後尾を走り、アスナはシリカの手を引いてそれに付いて来た。

 

「おい…ナタクたちを……」

 

「それに関しては問題無いヨ」

 

壁に凭れる体勢で床に下ろされ、俺が低い声で尋ねたとき、ここに居るはずのない三本ヒゲの顔がどアップで映った。

 

「ア…ルゴ…?」

 

「全く、オネーサンのお願いを断るからこーなるんダ」

 

愉快そうにニタニタ笑いながら、アルゴは俺の頬を軽くつねる。

 

「……もしこのまま戦うなら、ボスの情報を売るゾ?」

 

ぱっ、と頬から手を離したアルゴが俺の目を真っすぐに見つめて尋ねた。

 

それを聞いた俺は、麻痺の治った体を起き上がらせて答えた。

 

「ナタクたちが戦ってるんだ。逃げるはず無いだろ」

 

「毎度アリ。代金はそうだナ……特別に、タダにしといてヤル」

 

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後から聞いた話だが、二層迷宮区近くの密林に開始イベントが設定されている、とある連続お使いクエストをクリアすれば、ちゃんと《アステリオス・ザ・トーラスキング》の情報が入手出来たらしい。

 

それも、《ブレスを吐く直前、ボスの眼が光る》といった攻撃パターンだけでなく、《額の王冠を投擲武器でヒットすればディレイさせられる》という攻略法までもだ。

 

そのクエストを発見したアルゴが、ダッシュで届け物をしまくって、ようやくクリアしたと思ったらレイドは迷宮区の中。

 

仕方なしに迷宮区に入りここまでやって来たはいいが、アルゴは敏捷値全振りため、何度かMobに襲われ本当にピンチに陥ったそうだ。

 

俺にはそれらMobの排除をお願いしたかったらしく、それをネタに、アルゴが俺に((お願い|脅迫))してきたのは言うまでもないだろう。

 

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アルゴの情報により雷ブレスの対象法が解明されたアステリオス王は、はっきり言って、《HPと攻撃力が少し高い漆黒のバラン将軍》である。

 

バラン将軍の相手は、AからG隊で十分以上に務まっていたため、H・I隊の両方が加わり((五十人|フルメンバー))になるとアステリオス王のHPはみるみるうちに減っていき、あっと言う間にイエローにまで至った。

 

特に活躍したのは、ナタクたち《レジェンド・ブレイブス》。

 

ナタクのブレス殺しは当たり前として、ブレイブスのメンバーたちもだ。

 

ブレイブス以外のプレイヤーは《麻痺》を警戒して広範囲スキル《ナミング・デトネーション》が発動すると大きく回避するのだが、ブレイブスはそうではない。

 

彼らの装備はすべてがハイレベルの強化装備であり、高い((阻害抵抗値|デバフレジスト))が備わっているので、回避はハンマーの直撃を避ける程度で済む。

 

そのため、彼らは誰よりもボスに近い位置で戦い前線を支えた。逃げることも出来たのに、臆せず戦い続けた。

 

強化詐欺など赦せるくらいの貢献だと俺は思う。

 

例え、MVPを彼らに与えたとしても、反対意見は起こりそうに無い。そう言う雰囲気が、彼らを見るプレイヤーの目にあった。

 

それを見て、隣のシリカは晴れやかに笑う。

 

予備部隊としてシリカと最後尾に待機する俺はふと思った。

 

《英雄》。その言葉は、悪心を改め、勇猛果敢に闘う今の彼らにはピッタリだと。

 

そんな感慨を抱き、安心するときに限って問題は起こる。

 

「あ……っ!?」

 

さすがに集中力が切れてきたのか、ナタクが狙いを外した。

 

ナタクの投げたチャクラムは、赤く光る目の直ぐ隣に命中して王冠には当たらなかったのだ。

 

「アヤメさん!」

 

予備部隊だからといって、集中を途切れさせ無かったのは正解だった。

 

シリカの後押しするような声が上がる頃には、俺は既に走り出していた。

 

素早く腰のポーチからラスト二本となったスローイング・ナイフ抜き取る。

 

「今度は当てるッ!」

 

持てる力の全てを込めて《ダブル・シュート》を放つ。

 

右手から放たれたナイフは二本のラインを描いて飛翔し、ブレス発射のコンマニ秒前、寸分違わず王冠に命中した。

 

その時、何となく思った。

 

そう言えば俺、コイツには借りがあるな。最終的にはシリカに守られる形になった訳で、彼女には格好悪いところしか見せてないし――――

 

――最後くらい、格好付けてもいいよな?

 

俺にしては珍しい自分本位な思い。しかし、思ってからの行動は早かった。

 

腰を低く落とし、敏捷値をフル稼働させたダッシュでアステリオス王に駆け寄る。

 

射程圏に入った瞬間、俺はスピードを緩めることなく格闘スキル《((空歩|くうほ))》を使い、真空飛び膝蹴りで髭の生えた顎を蹴り抜く。

 

HPを残り数パーセントにしたアステリオス王の顎が激しく打ち上げられ天を仰ぎ、俺は止まることなくそのまま3メートル程上昇。

 

普通なら後は落下するだけだが、俺にはまだ攻撃手段が残されている。

 

頭が下になるように体を動かし、落下運動を始める前に右手を振ってウィンドウからクイックチェンジを選択。すると、左手にハームダガー+8が出現し、それを固く握り締め居合い切りのような構えを取る。

 

ハームダガーの刃が紅いライトエフェクトを纏ったそのとき、アステリオス王と目があった。

 

自分でも分かるくらいはっきりニヤリと笑う。

 

直後、突進系短剣スキル《トラバース》が発動。残像と紅い軌跡を宙に残して垂直に急降下し、漆黒の巨体を王冠ごと額から一直線に斬り捨てた。

 

「ヴウォォオオオオオ―――――――ッ!!!!」

 

僅かな余韻の後、全てのHPを散らしたアステリオス王が他二体と同じく甲高い雄叫びを上げ、爆散する。

 

『うおおおおお―――――――ッ!!!!』

 

それに劣らない勝利の雄叫びがコロシアム中に響いた。

 

雪のように降りしきるポリゴン片の中、ゆっくり立ち上がってこの展開を見ているかもしれない((神様|制作者))に向かって呟く。

 

「……ざまあ見ろ」

 

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オリジナル剣技

《空歩》

・格闘スキル

・真空飛び膝蹴り

・助走によって距離が変化する。

 

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【あとがき】

 

以上、二十六話でした。皆さん、如何でしたでしょうか?

 

やりたいことはやった。文句は受け付けます。

どうにか第二層ボス戦終了。正直、アヤメ君がカッコ良く書けていればそれでいいです。自信ないけど。

 

次回で第二層《儚き剣のロンド》は終了です。

その後は《小話3》ちょこっと挟んで、いよいよ《臆病な兎》のお話です。

 

オリジナルストーリーですが頑張っていきます!

 

それでは皆さんまた次回!

 

説明
二十六話目更新です。


《アステリオス・ザ・トーラスキング》の出現により一変した戦況。
アヤメ君たちはどう行動するのか?


コメントお待ちしています。
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コメント
ネフィー 様へ  かっこよく書けていたようでよかったです。 《臆病な兎》ですか?読んで字のごとくですよ(笑)(bambamboo)
アヤメもシリカもすごくかっこよかったです! 「臆病な兎」……まったく想像ができない…(いい意味で)。では、次回も楽しみに待ってます!(ネフィリムフィストに戦慄走った)
本郷 刃 様へ 二十六話目にして、やっとアヤメ君が活躍した気がする……(笑) 《臆病な兎》は完全オリジナルなので上手く書けるか心配ですが、頑張ります!(bambamboo)
アヤメカッコイイよ! よくぞシリカを守った! さて、次回と小話3、オリジナルの『臆病な兎』も楽しみにしていますね♪(本郷 刃)
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