超次元ゲイム ネプテューヌmk2 〜Blue Wind〜(~to come alive matter~) |
「――――皆さん、本当にお疲れ様でした。」
プラネタワーの頂上近くの謁見室でイストワールが一同を迎えた。
無事、各国の女神候補生達をそれぞれの国に送り終えたらしくソニックも帰ってきている。
だが、コンパやアイエフ……ソニックといった仲間達以外のメンバーにとって初めて訪れるプラネタワーからの街の景色がこれまでの国の街以上に美しいらしく日本一などは時々興奮気味に視線をチラチラ窓に向けていた。
「いーすんさん、ただいま帰りました!」
「ネプギアさん、お帰りなさい。ゲイムキャラの協力は得られましたか?」
「はい!」
「そうですか…………では、残す所は――女神を救出するのみですね。」
それを聞いたネプギアの心臓がドキン、となる。
そう、『女神救出』というものが彼女達の大きな目的であった。前回救出に失敗した分、二度目は決して許されない。
途端に重圧のプレッシャーが彼女に降りかかる。
ぐっ――――
だが、そのプレッシャーも一刻も早く女神達を助け出したいというネプギアの願いに適うことはなかった。
「……いーすんさん、女神救出の決行の日程はいつですか?」
「……出来れば今すぐに向かって欲しいというのが本音ですが、今日はもう遅いです。とりあえず、詳しい日程などは明日決定するということで今日は体を休めてください。皆さんには、万全の状態で救出に向かって欲しいというのも事実です。」
その言葉にコンパはチラッと謁見室内の壁掛け時計を一瞥した。時刻は23時10分。確かに遅い時間である。窓から見下ろせる街の様子は暗黒に支配された都市と化していた。
確かに、ここ最近はまともに寝ていない気もする。コンパは眠そうに瞼を擦った。
「皆さんにはそれぞれの個室を御用意しています。今日はもうお休みください。私もそろそろ失礼しますね。」
「おやすみなさい、いーすんさん。」
「はい、おやすみなさい。」
イストワールは会釈すると謁見室を出ていった。
「じゃあ、今日は休みましょう。」
「はいですの。がすとも瞼が重くなってきたですの。」
「ボクも……コンサートが終わってそのまま来たから疲れが溜まってるなぁ……」
残ったメンバーも歩き出し、自動ドアから廊下へ出るとそれぞれ個室へと向かった。
「じゃあ、先に失礼するわね。おやすみ。」
アイエフもあくびをしながら部屋の中へと入っていった。
そして、他のメンバーもそれぞれ部屋の中へと入っていった。
「…………………」
ソニックは、個室の露台で夜風を浴びていた。
あまり眠くない。手すりに肘を置き、そっとプラネテューヌの都市を見下ろしている。
遥か下……300m以上あるプラネタワーの根元に見える物件が豆のように小さく見える。
街中から点々と灯りが点っている。こんな時間まで、仕事などで作業をしている者もいるのだろう。
「………………………………」
だが、そんなことはどうでもよかった。
何故だか、胸騒ぎがしたのだ。何か、これからとんでもないことが起こるような――
「…………Huh。」
だが、そんなことを気にしていたってどうにもならない。ソニックは小さく肩をすくめると息を吐いた。
「………ヘクシッ!」
突如、鼻がムズムズしくしゃみをぼふーん。首を傾げながらズズッ、と鼻を啜る。雲のない夜空に浮かぶ月の光がソニックを照らしていた。
翌日―――
「いーすんさん、おはようございます!」
「はい、おはようございますネプギアさん。」
謁見室に一同は集まっていた。
そんな一同を笑顔で迎えたイストワールにネプギアが代表して挨拶する。
ネプギアが笑顔で挨拶するとイストワールもそれに応えて笑顔で返してくれた。
「さて、では早速本題に移りましょう。まずは女神救出の作戦決行日ですが…………」
いつもより鼓動が早いことを感じ、ネプギアはイストワールの次の言葉を待つ。
「―――その前に、皆様に依頼が届いています。」
「え?依頼?」
アイエフが聞き返す。
「はい、プラネテューヌより西方の孤島……『ウェスタン・イリース』よりSOS発信が確認されています。内容は『現在犯罪組織により攻撃を受けています。至急応援を要請します!』とのことです。プラネテューヌの隣国とも言える島なので放っておくわけにはいきません。なのでネプギアさん、先にこの依頼を受けて頂けませんか?」
「はい、分かりました!」
「けどいいのか?そんな悠長で……」
「皆さんが戻ってくるまでの間に、私も色々と作戦を練っておきます。」
「こんなとこで駄弁るよりさっさと行ってさっさと戻るですの。それが一番いいですの。」
「だ、駄弁るって……」
何故かがすとに仕切られ、一同はプラネテューヌを離席したのだった。
がすとのスカイ・ビークルに乗り込み海を渡りあっという間に『ウェスタン・イリース』へと到着。
海上スカイ・ビークル内でソニックとがすとが、
「なんでもっと早くこれ出さなかったんだよ!俺リーンボックス行く途中で死にかけたんだぞ!?」
「ですから、あんま使うと足が腐るですの。」
「腐んねーよ!そんなんで足腐ったら現代人ゾンビだらけじゃねーか!」
「がすとは足だけの話をしてるですの。それにゾンビが出たら撃ち殺せばいいだけですの。」
「いくら先進国っつったって国民全員が銃装備してるわけねーだろッ!?」
といった低レベルな口喧嘩をしていたがアイエフの仲裁により(ほぼブチ切れてたが)何とか無事に到着したようだ。
スカイ・ビークルを適当な場所へ停め、がすとが四次●ポケットにしまい込むと一同はSOS信号が確認されたという場所へ地図を頼りに歩き出していた。
「…………てゆーか、どこだろここ……」
5pbが歩きながら不安気に周りを見回す。
一言で言えば目の前に広がっているのはジャングル。豊かすぎる自然が生み出した無駄毛のような草木が視界を遮っている。ネプギア達はそんな無駄毛達を払い除け、道なき道を強引に進んでいた。
「あっついわね……」
アイエフが額の汗を拭う。
やはり、これほどの草木が密集しているとジメジメした空気である。
「こんなに狭いと走ることもできないねぇ……」
ソニックは一同の頭上で木から木へと飛び移り軽やかに移動している。
確かに自由に走り回ることはできないだろうが、自分達が草木を強引に掻き分けながら進んでいるのに対しそれ程自由に行動しておいて今更何を言うと言うのがアイエフの内心だった。
「えっと……確かこの先に……」
ネプギアが地図を片手に目の前の視界を遮っていた大きな葉を払い除ける。
すると、視界が開けた。まだジャングルの中だが、先程までの密集空間と比べれば遥かに動きやすい道である。おまけに、眼前には細長くカットされた木が並べられた小さな橋のような人口の道ができている。
「あった!きっとこの先ですよ!」
ネプギアが眼前を指差し、先に進もうとした時だった。
ザクッ!
「ッ!?」
ネプギアの足元に何かが突き刺さる。
ネプギアは足を止めた。わずか数センチの差だったが、彼女の足元には剣が突き刺さっていたのである。
「へッ!随分な歓迎じゃないか?」
そんなネプギアを庇うようにソニックが舞い降りるとブルーウィンドソウルを抜き出す。
しんと静まり返る一同。
耳に入るのは鳥や動物の鳴き声、そしてザワザワと葉が擦れる音だけだった。
「―――警告する。これより先の人里に足を踏み入れることはこの私が許さない。今すぐ引き返しなさい。」
どこからか、人の声が聞こえた。
若干高めの声……恐らく女性。しかし、姿は見えない。
「ハッ、姿を隠してるってことはこの俺に怯えてるって事か?そんなんじゃ説得力無いねぇ!」
ソニックが挑発するように言うとザワッ、と眼前の草木が揺れる。
「―――なら、私が相手だ!」
突如目の前に生えていた背の高い木のから何かが舞い降りソニックへと走り込む。
「ッ!」
ソニックは咄嗟に剣を振り上げた。
ガキィッ!!
剣と何かがぶつかる。
「……!」
ソニックの鼻先にふわぁ……と浮かぶ赤髪。
そして、ブルーウィンドとぶつかった剣がギリギリと音を立てていた。
バッ!
その姿が大きくバックステップしソニックと距離をとる。
「今度こそ……!」
威勢よく放たれた言葉のボリュームが段々と小さくなっていく。
それも無理はなかった。一同の前に姿を現したのは―――
「ファルコムさんッ!?」
ネプギアがその名を呼ぶ。
そう、随分と前ラステイションで出会った赤髪の少女『ファルコム』だった。
「君はあの時の……?」
ファルコムは目を丸くしていた。
「そうか、君達だったのか。イストワールが言ってた『プラネテューヌから送られた応援部隊』って……」
「え?いーすんさんを知ってるんですか?」
ファルコムは剣を腰に装着している鞘に収めると微笑を浮かべる。
「まぁね。イストワールとは少し連絡を取り合ってるだけさ。女神候補生。」
確かファルコムには自分が女神候補生だ――と名乗ってはいないはずだが、おそらくイストワールから聞いたのだろう。
さて、とファルコムは表情を一変させ真剣な面持ちとなる。
「ここのところ、この島にも犯罪組織の息がかかり始めてる。どうやらその原因の種がここら辺のどこかにいるはずなんだ。けど、私一人じゃ探しきれない。だから君たちを呼んだのさ。」
「んで、俺達は何をすればいいんだ?」
「あたしと一緒にその種を探して欲しい。これだけの人数ならきっと見つかるはずさ。」
「はい!行きましょうファルコムさん!」
ファルコムに続き、一同は歩き出す。
「えへへ、ロムちゃん!次は何しよっかー!」
「次は……絵本読みたい……(もじもじ)」
「えーまたなのー?もう、ロムちゃんてば絵本ホントに好きよねー。」
「………ダメ………?(シュン」
ロムが上目遣いでラムにお願いする。
「もう、仕方ないわねー!わたしが読んであげるわ!」
「ホント……?ラムちゃん……!(きらきら)」
ラムの言葉にロムは嬉しそうに笑顔を作る。
そんな二人のやり取りをミナは同じ部屋で仕事をしながらくすっ、と微笑した。
それから、綺麗に整頓された机の上に束ねられた紙の山に視線を下ろした。
『ルウィー図書館普請要望』
『新ゲーム開発に向けての提議』
と言った他の文字より少し大きめ尚且つ太めのそれが真っ先に目に入る。
そして、それらの横に少し厚めの書籍が置かれていた。
『〜一人前の教祖になるための鉄則〜』
と表紙に大きく書かれていた。
ミナはごくりと唾液を飲み込むとまるで危険物を取り扱うように慎重にそれを手にした。青色の重い表紙に手をかけ、パラパラとページをめくる。だが、かなりのスローペースだった。ページをめくるのに10秒程かけている。
暫く、ミナは同じページを見つめていたが――
―――パタン
静かに本を閉じた。更に、彼女の額には汗が浮かんでいる。
「―――やっぱり私は……ダメ教祖ですね……」
そして、一人で勝手に落ち込んでいた。彼女の耳にはロムとラムの戯れ声しか入っていなかった。
「ミナさん、お疲れ様デス!」
「チャオー!」
ルミーとフィーが歩み寄り、机上に暖かそうな緑茶の入った湯呑を置いた。少し身長が足りなかったようでルミーは爪先立ちとなっていた。一方のフィーはミナの周りを飛び交っている。
ルミーとフィーはあれからルウィーの教会に住み込みながら修行を積んでいた。暇があれば積極的に教祖であるミナの手伝いをしているようだ。たまにロムとラムの遊び相手もしている。
「元気がないデスか……?」
「チャオ……?」
心配そうに顔を覗いてくる二人にミナはフフッ、と小さく笑いを零した。
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
ミナが微笑んだまま二人の頭に手を乗っける。
「ん……えへへデス!」
「チャオチャオ〜♪」
二匹は嬉しそうに頬を赤らめた。
―――だが、そのミナの手が止まった。
ドガァァッ!!
『ッ!?』
突如外から爆音。室内の全員が振り返る。
ミナが窓を開き、爆音のした場所を探した。
「……ッ!」
右方向、街中から一箇所黒煙が立ち上っている。
どうやらただ事ではないようだ。
ババッ!
「!!」
その方向に向かって飛んでいく二つの姿。女神化したロムとラムであった。
「二人共、待ちなさいッ!」
ミナが手を伸ばすが、二人の耳には入っていないようだった。
悲鳴をBGMに周りの人々が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
時刻は現在昼過ぎ。仕事をしている人達が昼休みとなり、それぞれ休憩を取るそんな時間帯の公園に人通りが多くても違和感はなかった。
だが、そんなことはどうでもいい。
――我が目的に、そんなことは関係ない。
先程破壊した配電盤から黒煙が空に向かって伸びている。
次は……公園の中央部にある噴水でも破壊するとしよう。
忌々しい広さを持つこのふざけた公園内の施設など、壊したところで何の腹の足しにもなりはしないが、少しは憂さ晴らしにはなるだろう。
本来なら逃げ惑う人間共を一人残らず根絶やしにしてやりたいところだ。だが、女神の居ない今それを実行したところで意味はない。
―――女神…………我が逆鱗に触れたことを衷心より後悔するがいい…………!
「ロムちゃん!あそこ!」
ラムが飛行しながら黒煙が立ち上っている場所を指差す。
どうやら、街中にある広めの公園からそれは立ち上っているようだ。
「………………!」
その場所にロムは見覚えはあった。
そこは普段ラムとよく一緒に遊びに行く公園であった。その広範な公園内の中央には、この公園のシンボルとも言える大きな噴水が埋設されている。
―――そして、ロムとラムがカオス・エメラルドを発見した公園でもあった。
ロムが瞬きすると、その噴水が一瞬にして倒壊する。すると、先程まで立っていた噴水の根元にまで貯水されていた水が勢いよく空に向かって放たれ、大きな水柱となる。
「ひゃ……!」
水柱からはね飛ばされた多くの水滴が二人の全身に降りかかる。二人はブルっと体を震わせた。
ルウィー―――普段から太陽は灰色の厚い雲に隠れ出ていない上に、雪が降り続けているという一年中真冬のような極寒の地。息を吐けば白くなり、水が張っていれば30分程で凍りついてしまう程の気温が常に続いている。
そんな天気の下で浴びる水のシャワーの冷感というのはいくらこの都市に住み慣れた人でも耐え難いものであった。
「………!」
ロムは再び公園に視線を下ろす。
――――カッ!
水柱の根元付近――何かが光る。
ロムが光の元へと急降下していった。
「ろ、ロムちゃん!」
少し遅れてラムもその後を追う。
「……………ッ……!?」
先程光の放たれた水柱付近に着地するとロムは目を見開いた。
少し遅れてラムも着地した。「どうしたのロムちゃん?」と言いたかったのだろう、その声は途中で途切れていた。きっと、ラムも今自分に近い表情だろうと確信している。
――――あの時、ルウィーのゲイムキャラの回収に行った時に自分達の眼前に姿を現したあのハリネズミが水柱をバックに立っていたのだ。
「…………………………!!」
だが、以前とは様子がまるで違った。前に対峙していた際には、あのハリネズミは常に不気味なオーラを出してはいたものの表情こそは冷静を保っているように見えた。
だが、今はその逆である。今の奴の表情は『明らかに怒っている』。
それも生半可な怒りではない。殺気立ったようにロムとラムを睨みつけ、荒呼吸をしている。僅かに開かれた口元からギリギリ……と歯軋りの音がハッキリと聞こえる。
「あ……ぁ……!」
背後でラムの声が聞こえる。恐らく怖がっているのだろう。
だが、それも無理はない。自分だって泣きそうな状態であったのだから。
『逃げたい』――本気で逃げたかった。
「―――………………―――!!」
ハリネズミが何かを言う。だが、聞こえなかった。
「え……?」
ロムが聞き返す。
その刹那、ハリネズミはドス黒いオーラを纏い二人に襲いかかった。
「みんなありがとう。おかげで助かったよ!」
森の中でファルコムが一同に礼を言う。
今回の事件の種はすぐに見つかった。ただリンダがマジェコンヌを配っていただけだったのだ。リンダが可愛そうな程あっという間に片付けられ、それと同時に一同は今回の依頼を完遂したのだ。
「いえ、お役に立てたようでしたらよかったです!」
ネプギアがニコッと笑顔を作る。
「うん、凄く助かった。出来ればこの島にずっといて欲しいくらいだよ。」
「あはは……」
ファルコムの冗談にネプギアが苦笑する。
「ところで、君達はこの後何処へ行くんだい?」
「俺達か?俺達は……」
言葉を続けようとしたソニックにアイエフが制止しかけた。
「――これからちょっとしたパーティに行くのさ!」
「……パーティ?」
アイエフが目を丸くする。
「何だか、よくわからないけど……楽しめるといいね!」
(楽しめねぇよ……こっちはこれから死と隣り合わせの場所へ行くんだよ……)
アイエフとコンパが顔を見合わせがっくりと肩を落とした。
―――プルルルルルルルルッ!!
突如、Nギアが鳴りだす。ネプギアはそれを取り出すと電源を入れた。
「……………ッ!」
そして、画面に視線を置いたネプギアの表情は一変する。
「どうかしたのかい?」
そんなネプギアの様子に気づいたファルコムが声をかける。
「い、いえ!なんでもないです!」
「そうか、次は仕事としてではなくプライベートで島に遊びに来てるかい?」
「はい、是非!」
「………?」
――焦っている?
アイエフはネプギアの横顔を一視し、悟る。
明らかに彼女は早く会話を終わらせようとしている。
「では、そろそろ失礼しますね!」
「うん、道中気をつけてね。」
ネプギアがファルコムに一礼すると、ファルコムは一同に手を振り歩き去っていった。
「ソニック!」
ファルコムの姿が見えなくなるとネプギアはポケットからカオスエメラルドを取り出し、ソニックに投げ渡した。
「おッ?」
「急いでプラネテューヌまでワープして!」
「ど、どうしたんだよ……――」
「説明は後でするから早くッ!」
今の彼女の様子は尻に火がつくという慣用句の良い例だった。
「ッ……『カオス・コントロール』!」
ソニックは戸惑いながらもカオスエメラルドを振りかざし一同の姿をウェスタン・イリースから消した。
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