真・恋姫†無双 〜胡蝶天正〜 第一部 第05話
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この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

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「貴様等何者だっ!この方が曹家のご息女、曹操様と知っての狼藉かっ!」

春蘭が声を張り上げて威嚇するが相手は全く動じずにこちらに詰め寄ってくる。

風貌は賊を装ってはいるが、隣の通りに行く為に裏路地を横切る瞬間を狙った行動力、一瞬でこちらの護衛を葬り去った手際の良さ、恐らく誰かが私たちを葬り去る為に放った刺客でしょうね。

春蘭や秋蘭が応戦するが多勢に無勢、前と後ろを塞がれては逃げ場が無く、おまけに麗羽という荷物まであっては、一点突破で逃げる事も出来ない。

何もいい案が浮かばず壁ぎわまで寄せられ、春蘭たちの持っていた武器すら叩き落とされてしまった。

「わ、わたくしを殺せば名門袁家が黙っておりませんわよ!わたくしは袁家の息女、袁本初ですわよ!」

私の腰にしがみ付いて半泣きになりながら家柄を喚き散らす麗羽だが、相手にとってはどこ吹く風、意にも介さずに私たちに剣を突きつけた。

「恨むならそこの娘の祖父、曹騰を恨むのだな」

そう言うと刺客どもは私たちを葬る為に、衛兵をなで斬りにした剣を振り上げる。

ここで我が命運も尽きたと目を閉じ、覚悟を決めて最期のときを迎えようとしていた。

しかし、剣は一向に振り下ろされる気配はない。

不思議に思い目蓋を開けて見てみると、剣を振り上げたままの姿勢で動かなくなっている刺客の姿がそこにはあった。

そんな刺客の姿が目に入ったのも束の間、相手の鼻先から血があふれ出し、顔に一本の直線を書くように広がる。

その瞬間、男は頭から二つに割れてその場に崩れ落ちた。

それを見て私を含めた四人が全員目を疑ったが、周りを見回すと既に両の腕が無く腹から血が溢れ出て体が裂けていく者、顎下の辺りから顔が滑り落ち頭の中身が零れ落ちている者など、私たちを取り囲んでいた者の殆どは立ったまま骸となっていた。

残っていた一人が何者かの隙を見て逃げ出す中、周りの囲んでいた骸が崩れ去る。

視界遮る物が無くなるとそこには青い衣を身に纏い、細身の剣を手にした、私と同じか少し年上の男の子が佇んでいた。

目の前の骸を全てその子が作ったというのに不思議と恐怖は湧いてこない。

血振りをして剣を鞘に収める動作ひとつとっても、美しくさえ見える。

全員が呆気に取られている中、男の子は血と臓物と肉の沼地を横切り私の前まで来ると、麗羽にしがみ付かれて動けない私を麗羽ごと抱きしめてきた。

「・・・・・ッ!」

突然の事に少し慌ててしまったが首筋の辺りに水滴が当たる感覚を得て悟る。

この人は私が無事である事に安堵して泣いてくれているのだと、そう考えると今私の眼前に広がる血の海も、首筋に伝わる涙の感触も、全てこの男の子が私の為作ってくれたものだと解り愛おしくなる。

そして何故かは解らないのだけれど、この男の子の腕の中に抱かれていると懐かしい気持ちになり心が落ち着いてしまう。

まるで昔、何処かで会った事があるような、そんな感覚に・・・。

周りで春蘭たちが騒いでいるのを気にも留めず、私はこの気持ちに身を委ねる様に男の子の背中に腕を回した。

 

 

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数分前

屈強な兵士に囲まれながら、俺は華琳らしい人物を見たという報告があった東城下の大通りを奔走していた。

ここへ来る途中、俺のもとに来た諜報員から受けた詳しい報告では、この辺でそれらしい人物を見かけたという事だが、一向にその様な者の姿を見つけることが出来ずにいた。

「違う良家のご息女を見間違えただけなのか・・・。たがそれなら何処を探せば・・・・・・」

大通りの中ほどに差し掛かり、報告が誤りだったのではと考え始めたところで、先ほどとは別の城下を偵察していた諜報員がいつの間にか兵士に紛れ込んで報告してきた。

「郷様、張譲が放った刺客を尾行したところ、ここから二つ先の裏路地にて曹家のご息女を発見。刺客に挟まれて身動きが取れなくなっている模様です」

「前列三名は一つ前の路地から反対側の道に、残りの者は俺と共に来て曹操殿が居られる裏路地を封鎖しろ!」

「「「「「「御意!」」」」」」

俺は周りを囲む兵士に指示を飛ばし、華琳の居る路地へと駆け付ける。

報告を受けた路地で勢いを殺して止まり中を覗く。

そこには華琳を守っていた護衛の亡骸。、

それを作り出した張譲の刺客。

そして・・・・・・。

死の覚悟を決めて最期のときを待つ幼い華琳たちの姿が目に入った。

「──────────ッ!」

気が付くと俺は路地の中へ特攻していた。

動転していて誰をどのように斬ったのかも良く解らず、ただ、華琳たちを囲む者全てを敵と見なしていたのだけは覚えている。

ほとんどの者を斬り捨てたあたりで正気に戻り最後に残った一人を見据えると、賊に扮した男は恐怖で顔を引きつらせながらも、隙を見て路地の出口へと走っていった。

斬り捨てた者が全て地に伏して、視界が開けるとそこには、状況が理解できずに居る春蘭と秋蘭、怯えて震えている袁紹、そして袁紹にしがみ付かれながら俺を見つめる幼い姿の華琳がそこに居た。

俺は刀を血振りして布で拭きながら鞘に収めるとゆっくりと華琳の傍へと歩み寄る。

歩いている最中に頭にある華琳への想い、生きていて良かった、何処か怪我をしていないか、また会う事が出来た、俺の事を覚えていない、そんな感情が混ざり合い自制が利かずに気が付けば彼女を袁紹ごと抱きしめて涙を流していた。

「・・・・・ッ!」

「な、なんですの!?このわたくしをいきなり抱きしめるだなんて、一体どういう了見ですの!?」

「き、貴様ぁっ!華琳様に抱きつくとは何と羨ま・・・何と無礼な真似を・・・・!そこに直れっ!その頸、刎ね飛ばしてくれるっ!」

「まて、姉者。華琳様があの男の背中に腕を回しておられる。あの男が華琳様を案ずる気持ちを汲み取られての事だろう。それに命の恩人の頸を刎ねたとあっては曹騰様に申し開きが立たん」

初対面の俺が華琳に抱きついた事で春蘭と秋蘭が騒ぎ出した、正直名残惜しいが心地よい華琳の腕の中から離れて自己紹介をする事に・・・・。

「すまない、君が無事だという事に安堵して思わず抱きしめてしまった。自己紹介が遅れたが、俺の姓は」

「待ちなさい」

名を名乗ろうとしたが、華琳が手で俺の口を塞ぎ待ったをかける。

「恩人を先に名乗らせては曹家末代までの恥になる。私の名前、姓は曹、名は操、真名は華琳。私のことは華琳と呼んで良いわ」

「なっ!華琳様!?」

「構わないわ春蘭。貴方たちも良いわね」

「承知しました。危ないところを助けて頂きかたじけない、私の姓は夏侯、名は淵、真名は秋蘭と言う」

「・・・・・・・・姓は夏候、名は惇、真名は春蘭だっ!好きに呼べっ!」

立て続けに真名を預けられる形になったが、正直有り難い。

ついウッカリ昔の癖で真名を呼びかねないから。

それに今更、華琳たちの事を他人行儀に曹操殿などとは呼びたくない。

「おーっほっほっほっほっほ!仕方ありませんわね!と、く、べ、つ、に、教えて差し上げましょう!わたくしの名前は」

「三公を配した袁家のご息女、袁本初殿ですね。お噂は兼ね兼ね(あまり本人の良い噂は聞かないけど)」

「そ、その通りですわ!真名は麗羽と言いましてよ!どうぞよろしくお願いいたしますわ!おーっほっほっほっほっほ!」

「こちらこそ、どうぞよろしく」

良くこんな状況で高笑いなどしていられると思ったが、足元や口元に当てている手の指先を見てみると震えている。

彼女なりの意地と名家としてのプライドが今の自分を支えているのだろう。

まあ、とりあえず全員の自己紹介が終わりようやく俺の番に。

「それでは改めて自己紹介させてもらうよ。姓は北、名は郷、真名は一刀。よろしく」

俺は名乗りを終えると華琳たちに対して軽く一礼をすると、道を封鎖していた親衛隊の一人が路地に入ってきて俺に報告をした。

「申し訳ありません郷様。路地から逃げようとした者を捕縛したのですが、奥歯に仕込んでいた毒を飲み自決してしまいました」

「そうか・・・・お前は東部尉にこの事を報告してくれ。但し、誰が放った刺客かは伝えるな、彼女たちが襲われた事のみを話せ。あと他の者は大通り側で合流して待機、俺たちも直ぐにそちらへ向かう」

「御意」

衛兵は俺の指示を聞いた後、軍礼をしてその場を去る。

大通りへ戻る為、彼女たちに声をかけようとそちらを向くと、何か考え事をしていた華琳が言葉を発した。

「北・・・・・御爺様が目を賭けていらした司法官に、その様な姓の方が居られた筈だけれど・・・」

「それは俺の父上だね。曹騰様には大変お世話になっているよ」

「へぇ〜・・・・・・・では、貴方が噂の《天の童》なのね、一刀」

天の童・・・・その言葉が出た瞬間、俺は身が硬直して思わず聞き返してしまった。

「その天の童って・・・・・俺の事?」

「巷では有名になっていたのだけれども、本人の耳には入っていないようね」

「ちなみに、どんな噂?」

「私が耳にしたのは、まだ七つにして一軍を率いて山中を行軍する勇猛さと、まるで洛陽全体を見渡しているような裁量を持つ神童。特にその眼孔は鋭く、洛陽でかの者の話をすれば必ず現れる。と言うものだったかしら」

確かに洛陽城下や宮中の情報を集めていたが、ランプの魔神のようにどこへでも現れるわけじゃない。

前のくだりにしても親衛隊を編成して指揮をしたりはしているが一軍と言える規模の物ではないし山中での訓練はしているが行軍などしてはいない。

誤解を解くために華琳に話をしようとすると春蘭が何か思い出したような声を上げた。

「おお!貴様があの天の童かっ!流麗にして無比の武勇を持ち、剣を振れば万物のいかなる物であろうとも真っ二つに切り裂き《斬れぬものなど、あんまり無い!》と決め台詞を言ってのけるっ!一度手合わせして貰いたかったところだっ!」

「はぁ!?」

「姉者、屋敷の近くの土地に一夜にして城を築いた、どんな病もたちどころに治す妙薬を作っている、と言うのもあったぞ」

「・・・」

尾鰭が付くにも程がある。

一夜にして城を作ったと言うのは恐らく親衛隊や諜報員の宿舎のことだろう。

雇って最初に体力訓練の一環として山の中で木材を切り出して加工、運搬、組み立てを行ったのだが、最期の工程しか見ていない人にとっては一夜にして目の前に建物が出来たように見えたのだろう。

だがあくまで宿舎であって城など造った覚えはない。

第一、なんだよ《斬れぬものなど、あんまり無い!》って、そんなどっかの半人半霊みたいな台詞言った事一度も無いぞ。

「俺はそんな大層な者じゃないよ、その噂だって九割は出任せさ」

「あら、そうでもないのではないかしら。少なくとも私は最初のくだりはあながち外れてはいないと思うわよ」

「まさか、俺は一軍を率いた事なんて一度も」

「確かに軍を率いた事は無いのかもしれないけれど、護衛に対しての的確な指示は見事なものだったわ。」

「いや、それは母上の見様見真似で・・・」

「それに私たちが襲われている最中に助けに駆けつけた事や、さっきの護衛に指示した《誰が放った刺客かは伝えるな》という言葉から考えて、あなたはこの件が誰の謀か知っているのではないかしら?もしそうなら洛陽全てを見通しているというのも眉唾ではないわね」

「・・・・」

流石は華琳、幼くてもその洞察力は健在と言うわけか。

「今回の件に関しては曹騰様の下へ付いたら皆にも話すよ、俺たちだけの問題ではないからね。とりあえず、こんな所で立ち話もなんだし離れよう。」

「そうね、いつまでもここにいて、部尉から尋問されるのも面倒だもの。行くわよ、春蘭、秋蘭」

「はっ!」

「了解です」

俺たちは大通りに出るために路地を後にしようとしたのだが、

「か、華琳さん、待っていただけますこと?あ、足が縺れて上手く歩けませんの」

麗羽が周りに転がる臓物や肉片に足が竦み、動けなくなっていた。

まぁ一歩遅ければ自分がそうなっていたのだから当然と言えば当然か。

「しょうがない」

俺は麗羽へ近づくと、膝と背中に腕を回してそのまま抱き上げる。

「な、なんですのいったい!?わたくしをいきなり抱きかかえるだなんて!」

「足が竦んで動けないんだろ?大通りまでは運んでやるからそこからは自分で歩きなよ」

「し、仕方ありませんわね。特別にわたくしを抱き上げる事を許可して差し上げますわ。おーっほっほっほっほっほ!」

路地裏から出るまで運んでやる事を伝えると麗羽は上機嫌になり、高笑いし始めた。

正直耳元で笑うのは勘弁して欲しい。

「・・・・・」

「ん?華琳様、どうされたのですか?」

「・・・・・・・・・なんでもないわ、春蘭」

「し、秋蘭。私は何か華琳様のお気に障るような事をしたか?ものすごくご機嫌が悪いように見えるのだが・・・」

「いや、姉者は何も悪くはないよ。こればかりは華琳様ご自身の問題だ、我々がどうこう出来る事ではない」

路地から出る途中、華琳がものすごい形相でこちらを睨み生きた心地がしなかったのだが、俺が大通りに出て麗羽を降ろすのを見計らうと彼女は唐突に話しかけてきた。

「一刀、先程の一件で足を挫いてしまったみたいなのだけれど、御爺様の別宅まで運んでもらえないかしら?」

「え?でもここに出てくるまで普通に歩いて」

「いいから、大人しく私を運びなさーいっ!」

「は、はいぃ!」

華琳の要求を恐る恐る承諾すると急に上機嫌になったので、俺は彼女がまた何かの拍子で機嫌を損ねない様に細心の注意を払って曹騰様の下へ向かう。

途中、俺の代わりに華琳を抱えると申し出た兵士が明日の朝肉屋の店先に並ぶ豚を見るような冷たい目で彼女に睨まれた。

また、俺が抱きかかえている華琳を見ていた麗羽が・・・・・・。

「何でわたくしは路地裏から大通りまでで、華琳さんは曹騰様の所までですの?不公平ですわ!」

とまあこんな風に駄々をこねることはあったが、無事に曹騰様の別宅までたどり着いた。

 

 

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「おお!無事であったか華琳!おまえが襲われたと聞いて曹家も、もう終わりかと思うたぞ!」

「御爺様、ご心配お掛けしました。一刀が駆けつけてくれなければ、私の命もあの場で尽きていた事でしょう」

華琳へと駆け寄り両肩に手を掛けて孫娘の無事を喜ぶ曹騰様は、華琳の言葉を聴いてこちらへと顔を向けて謝意を示す。

「そうであったか・・・・・北郷よ、お前が華琳を助けてくれたのか。わしからも礼を言わせて貰おう」

「いえ、曹騰様にご恩を返す事が出来て、わたくしめも嬉しく思います・・・・・・曹騰様、此度の一件の、わたくしめの口からご説明いたします」

俺は曹騰様に華琳を襲った者が誰の手によるものか、何故華琳を襲ったのかを掻い摘んで説明し、それを聞き終えた曹騰様は暫し沈黙した後、俺に向かい言葉を発した。

「張譲にはわしから釘を刺しておくとして・・・・・・・のう、北郷よ。お前の目にはあの張譲と言う男はどのように映った?正直に申してみよ」

「はい、これまでに聞き及んだ話と初めて顔を拝見したときの印象ではありますが、自分の欲望のままに動く狡猾な蛇の様でした。その欲はいずれ漢王朝そのものを喰らい尽くしかねないかと」

俺の言葉を聴き、春蘭や秋蘭、麗羽は動揺を隠せないようだが、華琳や曹騰様は心静かに俺の声を聴いている。

「・・・北郷の言葉はまさしくあの男の正鵠を得ておる。わしの後を継いだ十常侍、その中心にいるあの男は今や漢王朝腐敗の象徴じゃ。このままではわしの名も漢朝の歴史に終止符を打った最初の佞奸と罵られるときが来るかも知れんのう」

「国を憂う((清流派|汚職をする宦官等を批判していた豪族や役人の集団))の方たちに慕われる御爺様が、あんな下劣な者たちと一括りにされて罵られるはずがありません」

「そうであれば良いのじゃが・・・・・・・」

華琳に鼓舞される曹騰様、その姿は遠目からは孫に励ましてもらうただの老翁に見えるが、その眼光は国を憂う傑人のそれであった。

漢王朝が今日まで残っているのも、ひとえにこの方の存在が在ったからだと言われても頷ける。

「それはそうと華琳。北郷の真名を呼んでいると言う事は、おまえ自身も真名を預けたと言う事かのう?」

「はい。命を救って頂いた恩人に真名も預けられないようでは曹家の末席に名を連ねる資格は無いと思いましたので」

「そうか・・・・・華琳、少し話したいことがあるので付いてきてくれ。春蘭たちは宴まで北郷の相手をしていてくれんかのう?袁紹殿も父君がこられるまで緩りと寛いでおられよ」

「はっ!お任せください曹騰様!」

「御意」

「お気遣い感謝いたしますわ」

曹騰様は春蘭たちの返事を聞くと華琳をつれて屋敷の奥へと入っていく。

それを確認した後にその場に残った皆のほうを向くと、勢い良く剣を振り回して準備運動をする春蘭の姿が目に入った。

「しゅ、春蘭?何で剣を振り回しているんだ?」

「そんな事決まってるだろう!お前の相手をする為に体を解しているのだ!」

「あ、相手ってそういう意味のじゃないだろ!」

どうやら春蘭は曹騰様が言われた言葉を試合の相手をしろと勘違いしたらしく、秋蘭がどこからか用意した訓練用の剣を手に臨戦態勢に入っていた。

というか秋蘭も止めてくれよ。

「ああ、もうごちゃごちゃと五月蝿い!いいから黙って私と、しろ!」

「ああ、姉者は可愛いなぁ・・・・」

「このわたくしを助けた一刀さんなら余裕で勝てますわ!おーっほっほっほっほっほっほ!」

「郷様、どうぞこれを。曹騰様の衛兵から借りてきた訓練用の剣でブベラッ!」

何故か俺が試合をする事が前提で外野が盛り上がっている。

特に剣を持ってきた親衛隊が「何の問題ですか?」と言わんばかりの顔をしているのが目に入り思わずぶん殴ってしまった。

「うむ!準備も整ったようだな、ならば・・・・・・・・行くぞ!」

「んまっ・・・・つぁ・・・・ちょぎっ!」

慌てて変な言葉が出てしまったが、とりあえず華琳が戻ってくるまでの間、春蘭に稽古をつけてやることにする一刀であった。

 

 

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屋敷の奥、曹騰が景色を見ながら茶を楽しむ為に作らせた部屋にて、華琳たち二人は眼下に広がる風景を眺めながら話していた。

「御爺様、話というのは一体なんでしょうか?」

「華琳・・・・・・男と言う者を見下してきたお前が、会ったばかりの北景の倅に真名を許したと聞いたとき、わしは耳を疑ったぞ」

そう、曹騰は一刀を華琳と会わせる事で、華琳の男嫌いを解消できるかと考えていたのだが、こうも直ぐに効果が現れるとは思っていなかったのだ。

恩人に対して礼を尽くすのは当然ではあるが、相手が大した者で無かったとしたら華琳は謝礼をしただけでその場を去っていたことだろう。

「御爺様、私は別に男嫌いというわけではありません。ただ、周りに私が興味を示すに足る男がいなかっただけの話です」

「では、北郷はお前が興味を示すに足る男であったと言う事かのう?」

そう問うと華琳は暫し沈黙した後、逆に問いを返して来た。

「・・・・・・御爺様は一刀の噂をご存知ですか?」

「大体は聞き及んでおる。凡そ信じられぬ物も多かったので父親の北景や屋敷まで護衛についてきた北家の臣下に聞き、実際に剣を振るうように仕向けてみたが、どうやらやつの噂はほぼ全て事実のようだ。多少の誇張はあるようじゃがのう」

「私も噂とは人から人へ伝わるごとに大げさになる物だとして信じてはおりませんでしたが、本人に会い噂が真実であるとともに、ある確信を得ました」

「確信を得た?何の確信をえたのじゃ?」

問うと、華琳は(無い)胸を張って高らかと継げた。

「北郷一刀という男は、この曹操の覇道を行くのに無くてはならぬ者。天が二物を与えて私を支える為に向かわせた天の御遣い・・・・・・・そして・・・・・」

「そして?」

「いえ、何でもありません・・・・・・とにかく一刀は私が天下に覇を唱える為に必要な者なので、これから我がものにしてきます。それでは失礼いたします」

華琳は頬を赤らめながらそう言い残すとそそくさと部屋を後にする。

その可愛らしい孫の後姿を眺めながら曹騰は帰る途中で北景が述べていた一刀の本質を思い出していた。

(我が子、北郷はこの漢王朝の器にはとても収まりきるものではありません。あれは大陸に訪れるであろう乱世に翻弄される民を統べて前を悠然と進む王の器です)

「華琳よ、お前が覇道を行く者であるように北郷も王道を行く者。王道と覇道は水と油、交わる事があるとすればどちらかの道が潰えたときじゃぞ・・・・・」

 

 

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春蘭に稽古をつけているうちに、いつの間にか父上や麗羽の父君も到着し、宴の時間となったが大人たちが酒を飲みだすと子供である俺は居場所が無くなり庭へと移動する。

庭園を抜ける夜風が宴の熱気で火照った体を冷まして行くのでとても心地よい。

本当は夜空に浮かぶ美しい上弦の月を肴に酒を飲みたいものだが、今の自分では飲む事が出来ないので宴の席で出されたお茶を飲んでいた。

「・・・・・・こんなところに居た」

「ん?・・・どうしたんだい華琳。こんなところまでやって来て」

俺が月を眺めていると、屋敷のほうから華琳が歩いてきて俺に話しかけてきた。

「それはこっちの台詞よ。宴の席を見回してもあなたの姿が見当たらないのだもの」

「ああ、父上たちが酒を飲みだして子供の俺は居づらくなったからね。庭に来て風に当たって居たんだよ。華琳は?」

「私も似たようなものね。春蘭や麗羽は疲れて眠ってしまったし、秋蘭は春蘭の面倒で手が離せないからあなたを探していたのよ。丁度あなたに話したいこともあったしね」

華琳はそう言うと俺に顔を近づけてだた一言、耳元で囁く。

「一刀。・・・・・・あなた、わたしのものになりなさい」

「・・・・・・・!」

一瞬ドキッとした。

人生一回りしていても、やっぱり愛している人に詰め寄られると動揺してしまう。

「御爺様が認めるほどの武勇と智謀、洛陽の全てを見通す慧眼と兵を手足のように動かす統率力、あなたの才覚は国一つを支えられるほど素晴らしいわ。その才覚を私の覇道を支える為に存分に使ってあげる。」

・・・・・・変わらないなぁ、華琳は。

俺は今の華琳の言葉に、かつての魏の覇王の面影を見て苦笑しつつも答えを告げようと思う。

「華琳、俺の座右の銘を聞いてもらえるかな?」

「ええ、言って御覧なさい」

「欲するものがあれば必ず手に入れろ、手に入れるためには力を示して勝ち取れ・・・・・・華琳はどう思う?」

普段は余り人前では出さない覇気を出して華琳に答えを返す。

この答えを聞いた華琳は・・・・・・。

「そう・・・・・」

ただ一言そう呟き頷いた後に、面白いものを見つけた子供のように大声で笑い始めた。

「ふふっ、あはははははははははははっ!一刀、あなた最高よ!まさか天は二物だけでは飽き足らず王の器という三物まであなたに与えているとは思わなかったわ!」

「一応、褒めてくれているようだし、礼を言うよ。ありがとう」

「ええ、あなたを手に入れるには雌雄を決して私の足元にひれ伏させないと駄目ね。いいわ、受けて立ちましょう」

「ああ、でも・・・・・」

覇気を納め、華琳を見つめならが優しい口調で告げる。

「王としての雌雄を決するなら今はまだその時ではないし・・・・・・・・それまでは華琳と一緒に居るよ」

「・・・・・・・・・・・・・バカ」

華琳は屋敷のほうへ振り返りながら小声で何か言ったようだが、うまく聞き取ることができなかった。

「え?なに?良く聞こえなかった。もう一度言ってくれ。」

「何でもないわよ!春蘭たちの様子を見に行くわ!あなたも一緒に居るって言ったのだから付いて来なさい!」

「あっ!ちょ、ちょっと!待ってくれよ!」

俺は華琳に腕を掴まれてグイグイと引っ張られながら月の光が差し込む庭園を後にした。

 

 

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ある屋敷の一角、弱弱しい灯火のみの薄暗い部屋で一人の男が憎悪に顔を歪め、一編の竹簡に目を通している。

竹簡の内容はまた今回のような事をやれば、その時は男の罪を帝に知らせて処罰するという脅迫状。

男は竹簡を床に叩き付ける。

「あの死に損ないめがっ!!!」

バラバラになった竹簡を踏みつけ、書いた相手を声を荒げて罵りながら男は周りの物に当り散らす。

手当たり次第に当り、物が散乱する中、荒くなった息を整えながら椅子へと腰を掛け、また相手の事を考える。

「この張譲をコケにしただけではだけでは飽き足らず、脅迫までするか曹騰・・・・」

張譲が中常侍の地位についてから、これほどの屈辱を味わった事は今までになかった。

面倒な役人が司空の座に就き、その報復として相手の縁者を殺そうとするもあえなく失敗。

「それもこれも全て、あの北郷とかいう小僧のせい・・・・・」

考えてみれば清流派の役人が司空に就いたのも、曹騰の孫を仕留められなかったのもあの小僧が関係している。

「潰さねばならん、あやつはわしにとって厄災を運ぶ鬼。家ごと潰してしまわねば・・・・・」

一刀や曹騰に対しての呪詛をごちりながら張譲は部屋を後にした。

 

 

説明
皆様、大変長らくお待たせ致しました。
漸く華琳様が登場します。
というわけで、第5話です。
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コメント
ここにまた新たな名言が生まれたw(夜桜)
真人がいたっww(あいりっしゅ)
この件で袁家も味方になってくれれば、そう易々と張譲も手は出せなくなるかな・・・ガンバレ一刀、超ガンバレ(牛乳魔人)
はてさて、この外史は実に面白い(アサシン)
一刀は敢えて華琳に宣戦布告しましたね、自身が王となるか、それとも華琳の元につくか・・・今後の展開次第ですね。張譲も動き出しますか・・・。(本郷 刃)
更新待ってました。期待していた以上におもしろかったです。(芋名月)
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