銀の槍、仕事の話を聞く
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「……ん……む?」

 

 月も沈みきらぬ早朝、将志は普段どおり眼を覚まそうとしていた。

 しかし、いつもと違い右腕に重みを感じる。ついでに言えば何かを抱きかかえているような格好になっているのだった。

 

「…………」

 

 将志は布団を少しはだけて中を確認してみた。

 

「……ん……兄ちゃん……」

 

 そこには燃えるような紅い髪の小さな少女が、将志に抱きついて眠っていた。

 どうやら寝ている間に潜り込んできたようである。

 

「……やれやれ」

 

 将志は腕の中で眠っているアグナをそっと撫でる。

 さらさらとしたその髪は心地良い手触りで、白い肌の頬に触れると柔らかく程よく弾力のある手ごたえを感じた。

 

「……にゅ……」

 

 するとアグナは少しくすぐったそうに身じろぎした。

 

「……それにしても、どうしようか」

 

 将志はアグナを撫でながら、起こさないように起きる方法を考える。

 封印を施して以来、アグナがすっかり甘えん坊になってしまった。

 以降度々布団の中に潜り込んでくるのだが、朝の早い将志は確実にアグナより先に起きる。

 そして、その度にアグナを起こしてしまうのだ。

 

「…………」

 

 将志は起こさないようにゆっくりとアグナの頭を抱き寄せて持ち上げ、下から腕を引き抜く。

 そして身体に巻きついている腕を、引き剥がしていく。

 

「……むぅ……」

 

 それを嫌がるかのように、アグナは眉をひそめる。

 将志は慎重にアグナを身体から引き離していく。

 しかし、アグナの抱きつく力は思いのほか強く、なかなか離れない。

 

「……ん……むむぅ?」

 

 将志が引き離そうと力を込めると、アグナは眼をこすりながら身体を起こした。

 どうやら、今日も抜け出すのは失敗したようだ。

 

「……起こしてしまったか」

 

 将志は小さくそう呟いた。

 アグナはそれに対して大きくあくびをしながら答えた。

 

「ふわ〜ぁ……おはよ、兄ちゃん。今日も早いな」

 

 アグナはそう言いながら将志に擦り寄ってくる。

 寝ぼけたアグナは将志の胸に頬ずりをしながら抱きついてくる。

 

「……おはよう、アグナ。だが、まだ寝ていてもいいんだぞ?」

 

 将志はアグナの頭を優しく撫でながらそう言った。

 すると、アグナは顔を将志に押し付けたまま首を横に振った。

 

「……んにゃ、せっかくだから俺も起きる。兄ちゃんと一緒に練習したい」

 

 アグナはそう言って下から将志の顔を覗き込んだ。

 将志はそれを聞いて、アグナの頬を撫でた。

 

「……良いだろう。ならば一緒に鍛錬を行うとしよう。さて、そうと決まれば仕度をせねばな」

「おう!!」

 

 将志とアグナは布団から出るとそれぞれ準備を始める。

 そして準備が終わると、将志達は境内へと出て行く。

 

「はっ! やあっ!」

 

 すると、そこには先客がいた。

 戦装束に鉢金を巻いた少女は赤い漆塗りの柄の十字槍を軽々と振り回す。

 

「……ふむ」

 

 将志は即座に銀の槍に巻かれていた布を取ると、涼の前に躍り出た。

 そして、槍を振るっている涼に対して突きこんだ。

 

「せいっ!」

 

 涼はその槍を払いのけて将志に突き返した。

 

「……む」

 

 突き返す槍を将志は身体を半歩開いて躱し、涼に銀の槍を上から叩きつける。

 

「せやっ!」

 

 その振り下ろしを涼は槍で捌き、手首を柔らかく使って将志を下から突き上げる。

 

「……ふむ」

 

 それを将志は更に躱して涼に技を返す。

 その返し技に対して涼は将志に技を返す。

 お互いに申し合わせたかのような攻防が続き、最後にお互いに距離をとる。

 

「……修練は怠っていないようだな。その調子で続けるがいい」

「はい、ありがとうございました!」

 

 将志は槍を納め、涼に声をかける。それに対して、涼は礼をした。

 

「にーちゃん、次は俺と練習だぞ〜?」

 

 しばらく放って置かれたせいか、アグナは少し拗ねた表情でそう言った。

 それに対して、将志は小さくため息交じりに頷いた。

 

「……すまなかったな。では、早速始めるとしよう」

「おう!!」

 

 それから、二人はしばらくの間戦闘訓練を行い、その光景を涼が見学することになった。

 

 

 

 

 将志達が朝食を終えて休憩をしていると、突如として目の前の空間が裂けた。

 

「お邪魔します、ご機嫌いかがかしら?」

「失礼するぞ」

 

 するとその中から紫と藍が現れ、将志達に挨拶をした。

 

「……紫か。藍も一緒に居るということは、ただ世間話をしにきたわけではなさそうだな」

「ええ、少し大事な話があるわ。将志、最近の幻想郷の問題点は何だと思う?」

 

 紫の問いかけに、将志は眼を閉じて答えた。

 

「……全体的に妖怪が弱い。今はまだ平気だが、このままではこの先増え続ける人間に対処しきれなくなって妖怪が滅ぶぞ」

 

 その将志の声はため息交じりで、妖怪の現状を憂うような口調であった。

 それに対して、藍が口を挟んだ。

 

「人間が強くなった、とは言わないのだな」

「……人間が強くなったわけではない。人間は元から強いのだ。普段人間を食料としてしか見ていない妖怪達はその危険性に気付いていない。故に、人間を軽んじたものから弱体化していくのだ。……俺からすれば、今の妖怪達は一部を除いて弱すぎる」

 

 将志はかつて、人間の側に立って妖怪達を相手取ったことがあった。

 その妖怪達は現在よりもはるかに強い人間を相手に戦い、圧倒するほど強かった。

 それを考えると、将志から見て今の妖怪はあまりにも弱すぎるのだ。

 その意見を聞いて、紫は笑みを浮かべた。

 

「随分と辛辣な意見ね。でも、間違ってはいないわ。たかが人間と軽く見ていた妖怪は妖怪退治屋に次々と退治されていったわ。人間は確実に妖怪の脅威となりつつあるわよ」

 

 それを聞いて、愛梨は首をかしげた。

 

「じゃあ、何でそんな話をするのかな? そういう話は僕達じゃなくて、妖怪のみんなにするべきだと思うよ♪」

「確かにそうね。でも、私がするのは別の話。貴方達にとっては大事な話よ」

 

 愛梨の質問に、紫はそう答えて話題を変えた。

 それを受けて、将志は納得したように頷く。

 

「……なるほど、仕事の話か」

「察しがいいわね。その通り、この先少し荒れそうだから、貴方達には少し様子を見ていて欲しいのよ」

「荒れるって……何が起きるんですの?」

「何だ? 誰か来んのか?」

 

 紫の言葉に六花とアグナがそろって質問をした。

 戦いが嫌いな六花の表情はうんざりとしたものであるのに対し、戦いがどちらかといえば好きなアグナの表情はどこか期待に満ちた表情を浮かべていた。

 その質問に対して、紫は笑顔をもって答える。

 

「ええ、来るわよ。大陸の妖怪がね」

「大陸の妖怪、でござるか?」

「……足りなければ他所から持って来れば良いと言う事か?」

「大体そんな感じね。今のままじゃ妖怪は人間に押しつぶされてしまうわ。一番良いのは今いる妖怪達が強くなることなんでしょうけど、それを待つには時間が足りない。だから、この国だけではなく他所からも連れて来て数で対抗しようというわけよ」

「それ、大丈夫なんですの? 私達が幻想郷の一員になったときも他勢力と一悶着ありましてよ?」

 

 紫の構想に、六花が待ったを掛ける。

 実際問題、銀の霊峰が幻想郷の一部となった際も他の勢力と一悶着あったのだ。

 おまけに銀の霊峰の非常時における戦力という立場上、その力を危惧する者達が波のように押しかけたため、銀の霊峰は総出でそれを鎮圧することになったのだ。

 最終的には、すでに交流のある妖怪の山が仲裁に入り、そこまで大きな事態にはならなかった。

 余談ではあるが、それを盾に天魔が将志をこき使ったため、将志がそのストレスを発散するために下の勝負に乱入し、銀の霊峰の内部で再び嵐が起きた。

 その時の将志の荒れようは凄まじく、例えるのならば以下のような悲惨な戦いであった。

 

 ザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーヒャッハーペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッヒャッハー ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒ ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒK.O. カテバイイ

 バトートゥーデッサイダデステニー ペシッヒャッハーバカメ ペシッホクトセンジュサツコイツハドウダァホクトセンジュサツコノオレノカオヨリミニククヤケタダレロ ヘェッヘヘドウダクヤシイカ ハハハハハ

 FATAL K.O. マダマダヒヨッコダァ

 

「その時のための貴方達じゃないの。貴方達の役目はそういう小競り合いが起きたときの調停役よ。いざというときには相手を武力制圧しても構わないわ」

「つーことは、大暴れしても問題ないんだな!?」

 

 紫の発言にアグナが橙の瞳をキラキラと輝かせながら紫を見つめた。

 その様子を見て、紫は楽しそうに笑いながら答えた。

 

「やりすぎなければ構わないわ。暴力で向かってきたら容赦なく叩き潰してあげなさい。私はそれをのんびりと観戦させて貰うわ」

 

 つまり、紫は言外に私のところまで来させるなと言っている。

 何故なら彼女は幻想郷のトップである。そんな彼女が簡単に戦う様では、彼女自身が軽く見られてしまう可能性があるのだ。

 トップの人間が軽く見られるようでは、外の世界の者が幻想郷を潰しに来る可能性すらある。

 それを考えれば紫は戦うべきではなく、その部下や協力者に戦わせる必要があるのだ。

 もし、紫の元に力の強い部下や協力者が居るとなれば、外の勢力も幻想郷には容易に攻め込めないからである。

 

「随分過激なことを言うでござるな。そこまでやる必要があるんでござるか?」

「貴女は自分よりも力の強い者に立ち向かう度胸があるかしら?」

「守るためならば、いくらでもあるでござるが?」

「……普通そういった度胸がないものなのだけど。少なくとも、話くらいは聞くでしょう?」

 

 それが当然と言った表情で質問に答える涼に、紫は呆れたといった表情を浮かべる。

 ため息混じりにそう話す紫に対して、涼は腕を組みながら頷いた。

 

「確かに。戦わないに越したことはないでござるからなぁ」

「お前は強いものと戦うことに興味はないのか?」

 

 涼の言葉を聞いて、藍は首をかしげる。

 何故なら、元々銀の霊峰にいるのはほとんどが強さを求めて流れ着いた者達なのだ。

 だと言うのに、戦闘員の一人である涼には強さに対する執着と言うものがあまり無いのだ。

 藍の疑問は当然のものであった。

 

「それは当然あるでござるよ。しかし、それで怪我をしたり死んでしまっては守れるものも守れないでござる。それに、拙者にはお師さんという絶対的な強者がいるからして、強者は間に合っているでござるよ」

 

 藍の疑問に涼はそう言って答えた。

 涼が惚れ込んだのは強さではなく、将志の思想なのだ。

 よって涼が求める強さは戦いの強さではなく、何かを守る力なのだ。

 更に一度死んだときの経験から命を賭して誰かを守るという思想は捨て去っており、何が何でも生き延びるというスタンスを取っているようである。

 それを聞いて、紫は興味深そうに笑みを深めた。

 

「なるほど。ここの妖怪の中にもそういう考えの者がいるのね」

「……むしろ、少しくらいはこういうのがいてもらわねば困る。最近は妖怪の山やその他の勢力に挑戦状を送る者がいて苦情が出ているのだ。ついこの間も、天魔がうちに怒鳴り込んできたところだ」

 

 将志はそう言って頭を抱えてため息をついた。

 なお、将志は天魔にその迷惑料として(ry

 

「そいつらなら私のところにも来たぞ。将志の教えを受けているものがどれほどの強さなのか確かめるだのなんだの言って勝負を挑んできたが、返り討ちにしてしまってよかったのか?」

「……思う存分に叩きのめしてくれ。そうすれば勝負を挑んだ奴も満足するだろう。逆に断ったり手加減をして負けたりすると、相手が本気で勝負をするまで付きまとってくるからな」

 

 藍の言葉に、将志は投げやりな表情でそう答える。

 それを聞いて、藍は首を小さく横に振った。

 

「……まるで鬼達と変わらんな。ここの連中はそんなに強者に飢えているのか?」

「……来るものは拒んでいないのだが、どうにも軍隊という印象が強いみたいでな……気軽に挑戦してくる連中がいないのだ。居たとしても鬼程度だ。当然、何度も戦っている間に新しい相手を求めだす訳だから、外に流れる者が出て来てしまうのだ」

 

 将志はそう言って再びため息をつく。

 元々外から強者が挑んでくることを前提として門を開いているのだが、その入りは思わしくない。

 実を言えば、将志達がやってきた際にやりすぎたことが原因なのだが、将志はそれに気付いていない。

 

「そういえば拙者も来てすぐに、ここの者達に挑戦状を山ほど送られたでござるなぁ」

「でも、涼ちゃん全部返り討ちにしてたよね♪」

「いや、一つだけ黒星がついたでござる」

 

 愛梨の言葉を涼はすっぱり否定した。

 それを聞いて、将志が興味深そうに眉を吊り上げた。

 

「……ほう? 誰に負けたのだ?」

「アグナ殿でござる」

「おう、そうだったな! なかなかに楽しかったぜ!!」

 

 アグナは楽しそうにそう言って笑う。

 一度アグナは封印された後、涼に対して挑戦状を叩きつけていたのだ。

 その結果、涼はそれなりに善戦はしたのだが、最後はアグナの炎に焼かれて敗北したのだった。

 涼の強さを観戦して知っている紫は、それを聞いてため息をついた。

 

「力を封印されているはずなのにそれでも強いのね」

「……当たり前だ。ただ力の強いだけのものは、この社に一生上がってこれん。アグナは元の力も強大だったが、それを制御しきれる能力を持っているのだ。変幻自在のアグナの炎はそう簡単に避けられるものではないぞ?」

「確かに、アグナの炎はどこまで逃げても追いかけてくるな。あれを躱しきるのは骨が折れる」

「へへへっ、なんかそう言われると照れくさいぜ……」

 

 将志と藍に賞賛されて、アグナは頬を染めて頭を掻いた。

 その横で、六花が話を本題に戻そうと声をかける。

 

「ところで、話題が盛大に逸れておりますけど、本題はどこに行ったんですの? まだどうやって大陸の妖怪を呼び込むとかそういう説明が全くありませんわよ?」

「そうね、それについても説明が必要ね。方法としては幻と実体の境界によって、勢力の弱まった外の妖怪を自動的に呼び寄せる方法を取るわ。だからこっちにきてもあまり大規模な騒動にはならないと思うのだけど、もしかしたら勢力が大きいままこちらに来るかもしれない。その時のために貴方達には備えておいて欲しいわ」

 

 紫がそこまで言うと、愛梨がポンと手を叩いた。

 どうやら何か考え付いたようである。

 

「そうだ♪ どうせだから、一緒にここの宣伝もしちゃおうよ♪ そうすればみんな喜んでくれると思うよ♪」

 

 愛梨の提案に、将志は少し考えをめぐらせた。そして、ゆっくりと首を縦に振った。

 

「……悪くないな。他で騒動を起こす前にここに呼び込むことが出来れば、わざわざ外に出るまでもなく解決できる。ここの連中も外から強者が挑んでくれば、他に殴りこみに行かなくなるだろう」

「となると、何とかしてこちらに呼び込む必要がありますわね。その方法はどうしまして、お兄様?」

「……それに関しては放っておいても来るようになるだろう」

「ん? どういうこった、兄ちゃん?」

「……外から入ってきた連中の情報をうちの連中に伝えれば、血の気の多い奴が挑戦状を送るだろう」

 

 将志がそういうと、紫と藍は将志の思惑を理解したらしく頷いた。

 

「ああ、なるほど。それならば暴れたり力を持とうとする奴は向かってくるし、戦うつもりのない奴はくることはない。危険な妖怪も一緒に判別できるし、確かに理にかなっているな」

「ということは、境界を越えた妖怪の情報を将志に送ればいいわね」

「……ああ。頼む。それから、涼。お前には頑張ってもらうぞ」

 

 突然話を振られて、涼は呆気にとられた表情を浮かべた。

 

「はい? どういうことでござるか?」

「……お前にはここに登ってきた者を全員追い返してもらう。お前はこの社の一番槍だ、お前の力を見せてもらうぞ」

「任されたでござるが……場合によっては抑えきれないかもしれないでござるよ?」

「……それならそれで構わない。その時は、俺達が丁重にもてなすとしよう」

 

 将志はそういうと、手にした槍を軽く振るった。

 この男、やる気満々である。

 

「……そういえば、将志本人も結構戦い好きだったわね……」

 

 紫は遠い眼でそう呟く。

 しばらくして、紫は思い出したように手を叩いた。

 

「ああ、それから今日は藍が料理の献立を教えて欲しいみたいだから宜しくね」

「……ふむ、良いだろう。だが、その前に今日の稽古を始めるとしよう」

「ああ、早速始めよう」

 

 将志は藍と共に本殿から境内に向かっていく。

 その様子を、アグナが羨ましそうに眺めていた。

 

「……いいなぁ、狐の姉ちゃん……」

「キャハハ☆ それは同感だね♪ それじゃあ、僕と一緒に練習しようか♪」

「おう! 今度は負けねえぞ!!」

 

 アグナは愛梨に連れられて山の中腹にある広場へと向かう。

 境内ではアグナの炎が強すぎて火災を引き起こす可能性があるからだ。

 

「私は少し下の様子を見て参りますわ。荒れている妖怪が居たら止めなければなりませんし」

「では、拙者は門番に戻らせてもらうでござるよ」

 

 六花と涼はそう言いながら本殿を出ようとする。

 すると、門から人影が飛び込んできた。

 

「あ、見つけた!」

「門に居ないと思ったら、こんなところに居たのかい!」

 

 二つの人影は現れるなり、涼の肩をがっちりと掴んだ。

 その人物に涼の顔から血の気がサッと引いた。

 

「す、萃香殿に勇儀殿!? 何故こんなところに!?」

「いや、だってまだ私達との勝負に決着ついてないでしょ?」

「それに、うちの連中もまたあんたに会いたがっていたからね。とりあえず、妖怪の山まで来てもらおうか?」

 

 以前愛梨と六花に連れ去られて以来、涼は度々妖怪の山に呼び出されることがあった。

 涼は大勢の鬼相手にボロボロになりながらも奮戦し、倒してきた。

 鬼達はその強さと不屈の闘志を甚く気に入り、将志ともども事あるごとに呼び出すようになったのだ。

 

「い、いや、拙者門番の仕事があるんでござるが!?」

「えー、こんな戦力過剰のところに門番なんて要らないよ。さあさあ、つべこべ言わずにちゃっちゃと来る!」

「と言うわけで、涼を借りていくよ!」

 

 二人の鬼は涼の左右を固めて腕を取り、逃げられないように拘束する。

 涼は抜け出そうともがくが、鬼の強い腕力で固められていては抜け出せるはずも無い。

 

「り、六花殿! 何とかならないでござるか!?」

 

 そこで涼は必死の形相で六花に助けを求めた。

 ここで連れ去られれば、再びズタボロになって帰ってくるのが目に見えているのである。

 六花はそれを見て、額に手を当ててため息をついた。

 

「……ここで断っても変わらないですわよ? どうせなら、早いうちに清算してしまったほうが楽ですわ」

「よし決まったね、さっさと行こう!!」

「あ、ちょ、六花殿ぉー!!」

 

 しかし、六花の無情の一言によって望みは断たれることになった。

 萃香と勇儀は嬉々として涼を連れて外に出て行く。

 

「生きて帰ってくれば文句は言いませんわよー!」

「あいよ!」

 

 段々と離れていく影に、六花はそう注意した。

 それに対して、勇儀が任せたと言わんばかりに返事を返した。

 

「殺生なぁー!!」

 

 空に、涼の悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 数日後、涼は杖を突きながら社に帰り着き、玄関先でバッタリと倒れているところを六花に発見されるのだった。

説明
いつもどおりの朝を迎えた銀の霊峰。そこに、妖怪の賢者は新しい仕事を持ってきた。
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コメント
涼の幸運の値は著しく低いと思われる。本当に、色々な要因が重なって苦労が苦労を呼んでくるタイプですからねぇ……(F1チェイサー)
…幻想郷のパワーバランスが傾いているから、海外から妖怪を呼び寄せる、か。…この話が出たと言う事は、そろそろ紅魔館が幻想入りする頃合いか。…それにしても、涼は亡霊になっても苦労性人生だなぁ。よりによって、鬼の四天王に見込まれてしまうとは、御愁傷様…。(クラスター・ジャドウ)
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