魔法少女リリカルなのは −九番目の熾天使− |
次の日、俺は辺りを散策していた。ここ最近、妙な視線を感じていたからその確認をしている。目的は俺か、八神の二つ。
何度か視線を感じてすぐに振り返ってみたが、誰も居なかった。しかし、どうも腑に落ちない。あれほど姿を影も見せずに隠れられるのに視線があからさま過ぎる。
恐らく訓練を受けていないのだろう。だが、姿は見えない。となると……魔法関係か? まったく面倒な事だ。これが管理局ならもっと面倒だな。
「あら、また会ったわね?」
そして俺が散策をしてると後ろから声を掛けられた。
「え? ああー、スカリエッティさんですか」
それは以前スーパーに買い物へ行ったときに出会った人造人間のお姉さんだった。
「今日はお散歩?」
「まあ、そんなところです。スカリエッティさんは?」
「私はちょっと捜し物をね」
へぇ……何を捜しているんだろうかね? あ、そうだ。ちょっと人造人間について聞いてみようか? それと目的もね。彼女がここら一帯を彷徨いているのは知っているし、変な視線が彼女の可能性も否定できないから。
「ウーノさん、ちょっと聞きたい事あるんですが……いいですか?」
「え? いいわよ。それじゃあそこの公園に行きましょう」
俺とスカリエッティさんは公園のベンチに座り、本題に入った。
「で、聞きたい事って何かしら?」
「そうですね……スカリエッティさんって人造人間ですか?」
「っ!?」
動揺したな。それじゃあはいそうですと言っているようなものだぞ?
「私が人造人間? どうしてそう思ったの?」
「身体から金属反応となにかしらのエネルギー反応がしたので」
遠回しに言うのは嫌いなので率直に言ってやった。
「っ! 貴方……一体何者?」
彼女は驚愕し、警戒を強めた。武器は……懐にナイフを隠しているな。
「俺か? まあ、似たような存在だよ」
根本的に違うが似ていると言えば似ているだろうな。俺はただ肉体を改造しただけだがな。
「似たような存在……?」
「ああ。さて、ここで本題だが、スカリエッティさん……貴女の目的を聞かせて貰おうか? ああ、懐にあるナイフを使っても無駄だよ。どんな手段を用いても無駄。付近に貴女の仲間らしき人物はいないし、戦闘力もこちらが上。貴女に選択肢は無いよ」
俺は彼女の頭に銃を突きつけて問うた。因みに、この銃は月村忍さんに頼んで貰ったベレッタというハンドガンだ。
「っ……」
さあ、実力行使もハッタリも救援も無駄だ。聡明そうだから素直に話してくれるだろうね。
「……私の目的はとある機動兵器の捜索及び情報収集よ」
ふむ、とある機動兵器ねぇ……。
「その機動兵器とは?」
「……何も分からないわ。これは本当よ。本当に分からないの……。唯一分かっているのは黒い機体に大きさが2.5m程、それに強力な武装をしている事というだけ……」
…………あれ? なんか身に覚えが……あるような?
「写真はある?」
「…………」
彼女は必死に抵抗しようと策を巡らしているようだが、無駄だ。
「言った筈ですよ? 選択肢は無いとね」
「……これよ」
スカリエッティさんが鞄から取り出した写真を渡してもらった。
それは………………うん、これ……どう見ても黒い『ナインボール・セラフ』だね、ははっ!
「何処でこれを?」
「ただの偶然よ。偶然にも見てしまったの。だから興味が湧いて捜しているのよ」
ふ〜ん……この映像、明らかにアングルが地上から撮られた物じゃ無いね。となると……ああ、また魔法関係か。多分、サーチャーという奴なのだろう。
「なるほどね……。スカリエッティさんはこれを捜してどうするの?」
「……捕獲して研究材料にするわ」
ま、当然か。流石に研究材料は嫌だが、少しだけ協力出来るかも知れないな。十中八九彼女は管理局の手先じゃないだろう。
提督の口から漏れることはないからね。確実とは言えないが……それでも牽制は大きかった筈だ。
「……もういいでしょう? そろそろ解放してもらえないかしら?」
「ねえ、取引しない?」
万が一の為に保険は必要だろう。それなら彼女を味方に引き込む方が得策だ。
「取引……?」
「そう、取引だよ。俺はこの機動兵器の情報を知っている」
「っ! なんですって……!」
「ただし、俺の要望を全て聞き入れることが条件だよ? それを聞き入れてくれるなら機動兵器の情報と在処を教えて上げる」
これぐらいじゃないと割に合わないからな。
「…………私の一存じゃ決められないわ。少し連絡してもいいかしら? 許可がいるの」
連絡ね……許可取る序でに救援を呼ぶ魂胆なのだろうが……まあいい。
「……いいよ」
「ありがとう。ちょっと待ってて」
そう言うと彼女は虚空を見つめて何か呟き、しばらくしてこっちへ視線を戻した。
「ドクターが話があるそうです」
ドクター? ってか話?
俺が疑問に思っていると突然映像が浮かび上がり、彼女と同じ紫の髪に金色の瞳をした長髪の男性が映っていた。
『初めまして。私の名前はジェイル・スカリエッティだ。そこにいるウーノの生みの親だ。君の事はウーノから聞いたよ』
つまり、彼がウーノを作ったと?
『君があの機動兵器の情報を知っていると聞いたが……確証はあるのかね?』
「ああ、確実な情報は保障するよ」
『ふむ……しかし、君の要求を全て呑むという条件では釣り合わないと思うがね?』
馬鹿を言え。俺の命に関わっているんだぞ?
「なに、大した事じゃ無いと思うけど? 要求は俺の身に危害が及ばない事と衣食住の保障。それと開示する情報はこちらが選ぶ事だ。勿論、情報開示は絶対にするので約束を違えないとここで誓おう」
さて、これで彼が納得してくれるか問題だな……。相手からすればかなり無茶な要求だからな。
『ふむ…………いいだろう。その要求を呑もう』
ほっ……なんとかなったな。
「それじゃあ先ず聞きたい事を言ってくれ。その都度教えるか決めるから」
『それでは先ず、あの機動兵器の正体だ』
正体ね……ま、問題無いかな?
「あの機動兵器の名前は『ナインボール・セラフ』だ。とある世界でイレギュラー要素の抹殺任務に使われていた機体だよ。ま、アレはその『ナインボール・セラフ』を改造した『アナザー・セラフ』っていうんだけどね。どっちで呼んでも構わないよ」
『ほう……やはりあれは別の次元世界の物だったか。ふむ……ならば次だ』
「ああ」
『あの『ナインボール・セラフ』の在処と何故君がそこまであの機体に詳しいのか、だ』
当然そう聞いてくるな……いいだろう。こちらを信用して貰うために教えてやろうか。
「その問い両方を答える事が出来るよ。それはね……」
俺はナインボール・セラフを起動し、一瞬で装着した。
「俺がその機動兵器のパイロットだからだよ」
「まさかっ!」
『な……に?』
くくく……やっぱり驚いているな。いきなり子供が機動兵器に変身すれば驚きもするか……。
『くく……あっはっはっはっは!! そうかそうか、そういう事か! それならば確かに詳しい訳だな! いやはや、一本取られたよ……ククク!』
彼は大笑いしていた。そんなに面白かったか?
『それで? 衣食住は申し訳ないが私のラボになるが構わないかね?』
うわぁ……研究室だろ? 胡散臭ぇ……。だけど、高望みは出来ないから仕方ないな。
「解剖なんてするなよ?」
『約束しよう。なに、少し検査させてくれるなら構わないさ』
「ならば交渉成立だ」
よっしゃ、これで交渉は成立だ。これで万が一の時は大丈夫だろう。
それから数十分後、とある公園で……
「……はぁ」
天城王騎こと俺はベンチに座ると溜息を吐いた。
理由はこの間の事だ。プレシアが虚数空間に落ちる時、俺は何も出来なかった。ただ崩壊する庭園から逃げ出したい気持ちを抑えつけるのに必死だった。
あの時俺がなのはから離れ、フェイトに付いていったのはフェイトが心配だったからだ。最近思ったんだ……俺って何も出来ないんだなって……。
魔力はあっても戦闘経験が無いし、遠距離からの砲撃しか役に立っていない。特典で貰ったはずの『無限の剣製』も使えないし……。
「こんなんじゃ……オリ主どころかモブキャラじゃねぇかよ……」
はやても図書館にいないし、家は分からないし……どうしたらいいんだよ?
もうとっくに闇の書は起動している筈だ。そうなるとやっぱりはやての病状が悪化していがいく。早く見つけて何とかしないと……
でも、どうすればいいんだ? 結局は闇の書を完成させてアルカンシェルで吹き飛ばさないとダメなのか?
そうだとしても結局はリィンフォースも消えてしまう……。
「俺って……今も前も役立たずなんだな……ははは……」
俺は自嘲気味に笑うと肩を落としてしばらく座り込んだ。そしてちょうど俺と同じくらいの年齢の男子が通って俺を見ると驚いた顔をした。
ん? 何処かで会った事があるのだろうか?
だが、彼はすぐに立ち去ろうとする。それを俺は……
「待て」
呼び止めた。
「……何?」
そして、すっごく嫌そうな顔をされた。……なんか納得がいかないが、それは置いておく。今は無性に誰かと話したい気分だ。
「その……何処かで会ったことはあるか? さっき俺を見て驚いていた気がするんだけど」
「無い」
そして即答される。
いや、なんか扱いが酷い気がするのは俺の気のせいなのか?
「そ、そうか? まあいいや。それでさ、悪いけど少しだけ俺の悩み、というか話を聞いてくれないか? 今は……誰かに話したくて仕方が無いんだ……」
見ず知らずの彼にいきなりこんな事をお願いする事は自分でもどうかしていると思う。だけど、そうしないといけない気がしてならないんだ。
「…………いいよ」
彼は少し考えた後で了承してくれた。そして、俺の隣に座った。
「それで、何を悩んでいるんだ?」
俺は王騎の話を聞くことにした。最初は嫌だったが、彼が深刻な表情というか、落ち込んでいるみたいだから少し気になって話を聞いてみようと思った。
いつもの王騎じゃない調子で彼は淡々と話していく。
「その……なんていうか……強くなるためにはどうしたら良いと思う?」
「……強く?」
ああ……なるほど、察した。落ち込んでいるのはそういう事か。
ふむ……強く、ねぇ……。
「ああ。た、例えばの話なんだけど、君が魔法を使えたとするね?」
「いきなりだな?」
「だから例えばの話だって! ……続けるぞ? 魔法が使えたとする。そして大切な人を……その、好きな人を守りたいのに守れず、それどころかそいつの足を引っ張ってる状況なんだ」
例えばどころか事実そのまんまを言ってるけどな。
「……それで、好きな人を守る為に強くなりたい、と。一応聞いておくけど、その好きな人も魔法を使える((設定|・・))なのか?」
「あ、ああ……」
「それで、お前は強くなってどうしたいんだ?」
「当然、好きな人を守るに決まってるだろ?」
なるほどね……。だけど、それは傲慢って奴じゃないか? 俺が言えたことじゃ無いがな。
「その好きな人って、お前の((所有物|・・・))なのか?」
「……え?」
「今の言葉を聞く限りでは俺はそう感じた。お前は守りたいと言いつつ、好きな人をまるで自分の所有物のように扱っている。何故か? それはお前が彼女の気持ちを全く考えていないからだ」
今までの言動からしてみればそう感じざるを得ない。現に、コイツは高町達を自分の((モノ|・・))と言っていたからな。
「ち、ちがっ」
「違わないさ。ならば聞こうか。お前、彼女が何か話そうとしたとき、勝手に解釈して行動したことは無いか?」
「そ、それは……」
ふむ、一応自覚があるだけマシな方か……。
「それじゃあ、今のは置いて別の質問をしよう」
次の質問で気付けなかったらコイツはもうダメだな。
「な、なんだ?」
「お前の好きな人はそんなに弱いのか?」
「え?」
「だから、お前が守らなきゃいけないほど……好きな人がただ守られるだけなほど弱いのかと聞いているんだが?」
「ち、違う! アイツ等は弱くなんて……。俺にとってアイツ等は優しくて、可愛くて、憧れで……でも、それ以上に心の強い奴だと……っ!」
そりゃそうだ。恐らく王騎が好きなのはフェイトか高町のどちらかだが、二人は守られるほど弱く無い。端から見ている俺でも分かることだ。
「そうか……俺、今までアイツ等のことを何も考えずに……ただ一方的に……」
ま、それに気付けたなら後は簡単じゃないか?
「ふむ、気付いたか? 別に難しい事じゃ無いと思うぞ? お前の最初の問いの答えになるか分からないが、少なくともこれからどうすればいいかは分かる筈だ」
「ああ……」
コイツは気付いた。ならば、すべきことも見いだせる筈。あの神崎は知らんが、王騎ならまだやり直せると俺は思う。ま、俺はもう手遅れだけどな。俺にはそのつもりが無いから、な。
「さて、これでお前の悩みとやらは解決……したかは知らんが、方針は決まっただろう。それじゃ、俺は帰る」
「ま、待ってくれ!」
俺はそのまま帰ろうとすると再び呼び止められた。
「何だ?」
「……名前を教えてくれ」
……いいだろう。
「煉……篠崎煉だ」
「そっか。俺は王騎……天城王騎だ」
「王騎、か。大層な名前だな?」
「ははっ……名前負けしているけどな。…………なあ、篠崎?」
こいつに名字で呼ばれるのは何か違和感があるな……?
「煉で構わない」
「そっか。なあ、煉…………よかったら、また相談に乗ってくれるか?」
……意外だな。それに、さっきまでとは全然雰囲気が違う。ちょっと悩みを聞いただけでここまで変わるものなのか、人って?
まあいい。王騎なら……話ぐらいは聞いてやろう。
「……いいよ」
「っ! ……ありがとう! それじゃあな、煉!」
「ああ」
王騎は一瞬嬉しそうな表情をし、俺は少し笑みを浮かべて別れの挨拶をした。
とある公園で一人の男子がベンチに座っている。
ほんの数十分前までは暗かった雰囲気だったが、今ではその暗さも消えていた。
そして一人で何かを考えていた。
だが、しばらくすると何か決意したのかのように立ち上がり、取り出したデバイスで通信を開く。
「……何のようだ、王騎」
「クロノ…………頼みがある。一生の頼みだ……」
「ただいま」
「おかえり、煉」
「あ、遅かったな、煉君?」
「ああ、少し散歩をしてたんだよ、八神、シグナム」
俺が王騎と別れて家に帰ると八神が出迎えてくれた。しかし、八神は少し不満そうな顔をしていた。
「むぅ〜……」
「? どうしたんだ八神?」
「それや」
「……は?」
何が?
「だから……いつになったら『はやて』って呼んでくれるんや?」
ああ、名前で呼んでくれってことか?
「そういえばそうでしたね。何故、煉は主はやての事をを名字で呼ぶのだ?」
「あ〜、いや……」
これが癖だからなぁ……。ま、最初はあまり慣れ親しむつもりが無かったから名字で呼んでたけど……。
「なら、これからは『はやて』って呼んでくれる?」
「うぅ〜む……」
今更名前で呼ぶなんてなぁ……。
「諦めろ煉。主はやてはこういう事には頑固だから、引き下がったりはしないぞ?」
ですよねぇ……。本当にこういうどうでもいい事には頑固なんだよなぁ……。実際、シグナム達にはそうだったし。
「はぁ……分かったよ。名前で呼べばいいんだろ、はやて?」
「っ! うん! それじゃ、すぐにご飯の支度をするから待っててな!」
俺が名前で呼ぶと、はやては笑顔でキッチンに向かって行った。
「何であんなに嬉しそうなんだ?」
「ふっ……煉は案外、聡いようで疎いのだな」
あ、なんか馬鹿にされた気がするぞ?
「なんだよ、それ?」
「気にするな。いずれ分かるさ」
教えろよ……。
「あ、おかえり煉!」
そこへヴィータが俺の帰りを聞きつけたみたいで、走ってきた。
「ああ、ただいま」
「なあなあ! 今日はアイスを持って帰ってきたか!?」
ヴィータは目を輝かして聞いてきた。
本当にコイツはアイスに目が無いな……ふふ。
実は俺はアイスを買ってきていたのだ。っていうか、外出した際にはいつもアイスを買って帰る。ヴィータが喜ぶからな。
「はいはい、買って来てるから、夕飯の後に食えよ?」
「っ! うん、分かったぞ煉!!」
そう言ってヴィータはアイスを持って行った。
「なあなあ、はやて! ご飯まだか!?」
「もう少し待ってや。……って、またアイスを買って貰ったんか? ……もう、煉君は甘いなぁ」
向こうで声が聞こえた。
俺って甘いのかな……? ……いや、確かに甘いかもな。あの時に比べたら随分甘いかもしれないな……。
「まったく……お前はヴィータを甘やかし過ぎだぞ?」
「そうか? まあいいだろ、アイスの一つくらい。あんなに喜んでいるんだからさ」
「ふふっ……そうだな」
俺はこの生活が楽しく思えてきた。最初は嫌だったが、今ではそれが心地よくなっている。
正直、保険なんて要らなかった気がするまでに……。
はははっ…………なんだ、俺って……ちゃんと普通の生活が出来るじゃないか。
明日もまた楽しい日々が続きますように……。
だが、それから二ヶ月後……はやてが倒れた……。
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第十三話『悩める少年』 | ||
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