真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ二十八 |
〜青州にて〜
「急にいなくなったと思ったら…華琳様の所に行ってるなんて!!もう、行く
んだったら私も連れていきなさいよ!!」
そう喚きちらしているのは荀ケであった。
しばらく前に共に幽閉されていた許楮が突然いなくなった為、彼女なりに心
配していたのであったが、まさか幽州まで行っていたなど思いもよらなかっ
た為、彼女の驚きと憤りはかなりの物であった。
「でも、州境も船も全部抑えられてるのにどうやって…まさか、この間地図を
見せた時に『幽州と青州って海を渡ればすぐなんだね。泳げば行けそうだな
ぁ』とか言ってたけど、本当に泳いでいったのかしら…季衣ならやりかねな
いわね、でも…行くなら私も連れてけ、馬鹿季衣!!ああ、私はどうすれば
…どうやら華琳様の傍に新たな軍師がいるみたいだし…ううっ、華琳様の軍
師はこの荀文若しかいないんだから!!ああっ、こうしている間にその軍師
と華琳様の仲は進んでいって…ぐぬぬ、そんな事は私の眼の黒い内は許さな
いんだからーーー!!」
荀ケは監視が厳しくなって一歩も外に出られなくなった屋敷の中でそう喚き
続けていたのであった。
・・・・・・
「董卓様に報告…荀ケは曹操に同心する気配有り」
その時、屋敷の外でそう呟いて去って行く影があった。
〜揚州にて〜
「聞いたか、秋蘭!?」
「ああ、華琳様の事ならとっくに聞いたぞ」
「さすがは華琳様、鮮やかな手際だ!!」
そう言って夏侯惇はガッツポーズをとっていた。
「さあ、こうしてはおられんぞ秋蘭。我々も一刻も早く華琳様の下へ馳せ参じ
なければならんぞ!!これ以上季衣に遅れを取る事など華琳様の一の家臣た
る夏侯一族の沽券に関わるしな!!」
夏侯惇はそう意気込むが、
「そうは言うがな、華琳様の決起以降我々に対する監視はより一層厳しくなっ
ていく一方だ。それをどうやって切り抜けていくのだ?」
夏侯淵は冷静に切り返す。
「そ、それは…そうだ!そんな物、我ら二人の力を以てすれば突破する事など
たやすき事だ!!」
「いや、確かに監視の兵の十人やそこらは倒せるだろうが、そんな事になれば
数百、数千の兵に囲まれて取り殺されるだけだ。何とか抜け出せる方法でも
ないと華琳様の下へ行く事など出来んぞ」
「ぐぬぬ…」
夏侯淵にそう言われると何も言い返せない夏侯惇であった。
・・・・・・・・
「董卓様に伝えねば…二人の存在は危険」
その屋敷の外でもそう言いながら去って行く人影があった。
〜并州にて〜
「沙和、聞いたか華琳様の事?」
「うん、遂にやっちゃったみたいだね…さっき阿蘇阿蘇を買いに行こうと外に
出ようとしたら兵士さんに『外出は許可出来ません』って言われたの〜」
并州にいる二人は凪からの口ぞえもあり、監視付きであれば買い物に行く事
位は出来ていたのであったが、曹操の決起によりそれも出来なくなっていた。
「それで沙和はどないするんや?」
「とりあえず阿蘇阿蘇の最新号が読みたいの〜」
「アホ、そんな話ちゃうやろ!華琳様が動いたんやで、ウチらはどうするかと
聞いてるんや」
李典の質問に于禁は眼を伏せながら言葉を続ける。
「ねぇ、華琳様のやってる事って正しいのかな?」
「それはどういう意味や?ウチらは華琳様を信じるって決めたはず『それは分か
ってるの〜』それじゃ何が言いたいんや?」
「沙和は華琳様が正しい事をしてるって信じたいけど…今度のは完全な反逆行為
なの〜、ただ徒に混乱を招いているようにしか見えないの〜」
于禁のその言葉に李典は言い返す事も出来ないでいた。
「確かに役人の人の中には悪い事をしている人もいるんだろうけど、陛下や北郷
さん達が頑張ってそういう人達はどんどんいなくなってるの〜。時々買い物に
行ってお店の人とお話とかしても最近はとても住みよくなった、これも新しい
陛下のおかげだって言ってたの〜。沙和もこのまま陛下達が頑張ってくれて、
戦乱も無い住み易い世の中になるならそれでいいと思ってるの〜。だから今度
の華琳様の行動が本当に正しい事だと心の底から思えないの〜」
「沙和…お前そないな事考えてたんか」
李典はその答えには押し黙ったまま考え込むしかなかった。
「でも…真桜ちゃんがどうしても行きたいっていうのなら沙和は止めないの〜。
でも出来れば沙和が寝ている間にこっそりいなくなってほしいの〜」
「………………」
李典は腕組みしたまま考え込んでいた。
「まさかそこまで考えていたとは思わんかったで。確かに今度の華琳様のやり方は
ちょっとな…ならどうするんや、これから?」
「どうするもこうするもここから出られないからどうしようもないの〜」
「…そういやそうやな。ならここでしばらく寝て過ごすだけや」
二人はそう言って笑いあっていた。
・・・・・・・
その時、二人がいる屋敷の外では、
「うん……問題無い。ねね、月に伝えて『こっちは大丈夫』って」
「わかったのです!恋殿がそう言うから間違い無いと言っておくのです!」
監視を兼ねて聞き耳を立てていた恋とねねが安心した顔でそこから去っていった
のであった。恋達は李典達が曹操に同心する動きを見せようとしたら即座に斬り
捨てるつもりで赴いていたのである。
「分かりました、ありがとう」
報告を聞いた月は使者を下がらせるとふうっと一息入れる。
「やっぱり夏侯姉妹と荀ケが問題のようね。どうするの、月?」
傍にいる詠が問いかける。
「しばらくはこのまま監視を続けるつもりだけど…詠ちゃんはやっぱり雪蓮さんと
同じく処刑した方がいいって思っているの?」
「雪蓮の言っている事にも一理はあるわ。でも葵さんの言った通り、闇雲に処刑し
ても火に油を注ぐだけになりかねないのも事実だしね。いっその事、脱走を試み
てくれればそれを理由に処刑する事も出来るんだけどね」
詠の意見に月は眉をひそめる。
「まさか…詠ちゃん、わざとそういう風に仕向けるとかしないよね?」
「…必要とあれば考えるけど、少なくとも月はそれを望んではないでしょう?」
「必要とあれば…か。そんな事態にならなければいいんだけど…」
「まずは討伐がうまく行けば問題無しだけどね。まあ、こっちは三十万近い軍勢で
行くんだし普通に考えれば問題は無いわね」
「盧植将軍、一刀さん…お願いします」
月は祈るような気持ちで北方の空を眺めていた。
「それではこれより軍議を始める」
場所は変わって冀州との境の近く。
曹操討伐の軍が集結し、総大将に任じられた盧植が皆を招集し、軍議を始めた。
「軍議って言っても間者の報告では向こうの兵力はおよそ十二万、それに対して
こっちの兵力は約三十万、向こうは将も不足しているわけだし普通に攻めれば
勝つんじゃないの?」
「孫策の言う通りだ!そして私に先陣を!!」
雪蓮と華雄は正面から攻める事を主張する。
「まあ、待て。確かに普通に攻めれば勝てるかもしれないが、こちらとて損害が
大きくなりかねん。それに向こうにも軍師がいるとの事、何かしら備えがして
あると見て間違い無かろう。慌てて行けば向こうの思う壺だ」
葵は年長者らしくそれを抑えに回る。
「葵殿の申す通りだ。ここで下手に我々も消耗すればそれこそ五胡に付け入る隙
を与えるような物だ」
冥琳もそれに同調する。
「それじゃどう攻めるつもりなわけ?ちゃんと考えているんでしょうね?」
「それが軍師の仕事だからな。まずは…」
冥琳がそう口を開きかけた時、複数の伝令の兵士が駆け込んで来た。
「申し上げます!涼州に五胡の軍勢約一万が侵入、現在留守部隊と交戦中です!」
「雍州にも五胡の軍勢が侵攻して来ました!その数約八千!!」
その報告にその場は騒然となる。
「バカな…西涼の境目付近の部族はほぼ叩きのめして来たからこちらに刃向かえ
る態勢にはまだ入れないはずなのに…」
「こっちもだぞ、星の活躍でこちらに侵攻して来た者達は殲滅したはずだぞ!」
葵と白蓮は揃って信じられないといった表情でそう言った。
「ふむ…何かあったという事か。しかしこのままこちらにいても埒が開くまい。
二人は早急に領土に戻って五胡の連中にあたるよう」
盧植がそう言うと、二人は礼もそこそこに軍勢を率いて帰っていった。
「何かこんな状況って前にもあったような気がするけど…」
「ああ、おそらくこれは曹操の策であろうな」
雪蓮と冥琳は揃ってため息をついた。
「そういえば益州は大丈夫なの?あっちも五胡と境を接していたわよね?」
蓮華がそう問いかけると、朱里が答える。
「こっちの方の部族は既に懐柔済です。それにもしもの場合に備えて紫苑さん
と輝里さんに残ってもらっていますので」
「そりゃ何とも用意の良い事ね」
雪蓮はしみじみとそう呟いていた。
「さて、少々予定とは違う形になってしまったが、このまま曹操を攻めずにお
いておくわけにもいかぬ故、我らのみでも攻める算段を立てねばな」
盧植のその言葉で再び軍議が始まったのであった。
〜冀州にて〜
「華琳様、手筈通り雍州と涼州に五胡の軍勢が侵攻、それに対応する為に馬騰と
公孫賛は兵を戻したとの事です」
郭嘉からの報告を聞き、曹操はほくそ笑む。
「そう、それは上々。あなたの手際はさすがね、稟」
「いえ、この位の事は…ただ益州付近の部族は既にあちらに懐柔されていたら
しく、失敗に終わったようです」
「それは織り込み済みだから大した問題では無いわ。でもこれで作戦が実行し
やすくなったわね」
「はっ、それでは次なる手に移ります」
郭嘉は次の作戦の指示の為、曹操の前を辞した。
「ふふ、これで一段階は突破ね。次の手が成功すればばらばらになった皆を集
める事が出来る。後はそれが成功するまで討伐軍を引き付けておくだけね」
曹操はそう一人ごちていた。
そして郭嘉は広間に集まった部隊長達に指示を出していた。
「いいですね、こちらが討伐軍と戦闘を開始したらそちらも行動を開始してく
ださい。もし向こうが応じないのであればその時は…」
そう指示を出す郭嘉の眼は暗い雰囲気を放っていた。
〜再び揚州にて〜
「なあ、秋蘭…もう向こうでは戦闘が始まった頃だろうか?」
「おそらくな…でもここにいては全くと言っていいほど情報が入ってこないか
ら、さっぱり分からんな」
二人はこんな会話を既に数十回程繰り返していた。実際、彼女達の屋敷は三
方が山に囲まれもう一方は海という地形で他に人家も無い場所なので、噂で
すら届くような場所ではなかったのである。
「ぐぬぬ…こうしている間にも華琳様は着々と版図を広げているに違いないの
に、この夏侯元譲がその手助けをする事が出来ないとは…これでは先祖に顔
向けする事も出来んではないか!」
「少しは落ち着け姉者、そうやって喚いていたって状況が変わるわけでもない
のだぞ。精々我らに出来るのは目の前の海に飛び込んで華琳様のいる所まで
泳いで行く位だ」
「おおっ、その手があったか!さすがは秋蘭、良い考えを思いついたな!それ
では早速…」
「だから落ち着け姉者!実際そんな事をしても冀州にたどり着く前に溺れるに
決まっているだろうが。泳いで行く事が出来るならとっくにそうしている」
「何を言うか!我ら夏侯一族は華琳様の御為ならどのような無理難題であって
も実行するのが使命ではないか!」
「はぁ…姉者よ、だからといって失敗していては元も子もないだろうが」
二人がこのような漫才じみた事を続けていたその時、
「もし…夏侯惇様と夏侯淵様にございますね?」
「「誰だ!」」
突然かけられた声に二人は瞬時に戦闘態勢(素手ではあるが)に入る。
「怪しい者ではありません…と言っても信じられないでしょうが。私は曹操様
よりの使いとして参った者です。曹操様よりお二人を迎えに行くよう命令さ
れてここまで来ました」
「華琳様の!?そうか、ならばすぐにでも『待て姉者!』…? どうかしたの
か、秋蘭?」
その使者の言葉に夏侯惇は喜々として従おうとするが、夏侯淵がそれを押し
止める。
「お主、本当に華琳様より遣わされた者か?もしそうなら証拠を見せてもらお
うか。納得出来る物が出ない場合はここから生きて出られるとは思うなよ」
夏侯淵は殺気をみなぎらせて迫る。
「お、おい、秋蘭?何故そんな事を『もしこれが孫策…もしくは北郷辺りの策
ならば、我々がほいほいとついていったその先で殺されて埋められる可能性
もあるからだ』…何と!?貴様…我々を騙すのか!!」
「落ち着け、姉者。だからそれを今確かめている所だ。いいから姉者は静かに
していろ。後は私がやる」
夏侯淵はそう言うと使者の方へ再び目を向ける。
「さあ、証拠を見せろ」
「…証拠はありません。何故ならば私がお二人への接触に失敗した場合や孫呉
の者達に捕まった時の為にです。ただ、曹操様より一言だけ伝言を預かって
おります」
「伝言…?何だ、言ってみろ」
「はい、それでは…『いいから私についてきなさい』との事です」
その言葉を聞いた二人は驚いたような顔のまま動きを止める。
「姉者…聞いたか?」
「ああ、それは子供の頃より何時も華琳様が我々に言っていた言葉だな」
そう言った後、二人は笑いあっていた。
「どうやら本当のようだな。すまなかったな」
「いいえ、あなた方のお立場なら当然の事です。さあ、今のうちに。監視の兵
達には賄賂を渡して遠ざけておりますので」
そして二人はそこから姿を消したのであった。しばらく後、月からの指摘を
受け、そこを訪れた思春によって事態は露呈し、賄賂に眼が眩んだ連中は全
て斬首にはなったが、二人を見つける事は出来なかったのであった。
そして舞台は再び冀州へ。
揚州を抜け出し、冀州へとたどり着いた夏侯姉妹が眼にしたのは、玉座に座る
曹操の姿であった。
「「華琳様、お久しゅうございます!!」」
「二人も元気そうね…それにここまでよく来れたわ」
「船を用意したのが良かったようですね」
そこへ郭嘉が声をかける。
「「華琳様、この者は?」」
「二人に紹介するわ。私の新たな軍師、郭嘉よ」
「郭嘉です。華琳様の御為に微力ながら力を尽くしています。これからよろしく
お願いします。我が真名は稟と申します」
「そうか、我が名は夏侯惇、華琳様が真名をお許しになったのなら私も預けよう、
真名は春蘭だ」
「私は夏侯淵、真名は秋蘭…よろしく頼む、稟。ところで華琳様、新たな軍師と
いう事は、桂花はどうされたので?」
「ふふ…桂花、呼んでいるわよ」
曹操が声をそうかけると玉座の裏から荀ケが姿を現す。
「「桂花!?何時の間に?」」
「揚州より青州の方が近いから当然でしょ」
荀ケはそうぶっきらぼうに言う。
「皆の所には同時進行でやっていたのよ。だから桂花の方が早く着いたのよ」
「そうですか…でも真桜と沙和の姿は見えませんが?距離だけで言うのなら我ら
より并州にいるあの者達の方が近いはずでは…」
「揚州と青州へ行くには船を使いましたから思った以上にうまく事が運びました
が、あちらは陸地を進まねばなりませんので逆に慎重に事を運ばなくてはなら
ないので余計に時間がかかるのです」
夏侯淵の疑問に郭嘉が答える。
「そうか、ならば安心だが『申し上げます!并州へ向かった者が一人戻ってまい
りました!』ほう、噂をすればだな」
「いえ…一人とは面妖な。成功するにしても失敗するにしても、一人での行動は
禁じてますので…まさか」
郭嘉は血相を変えてその場から駆け出す。
その様子を訝しく思った皆も後を追う。
「郭嘉様…申し訳ございません」
郭嘉の前でそううなだれていたのは彼女が幽閉されていた者達を集める為に放
った部隊長の一人で、并州へ向かった者であった。
「どういう事です!?そなた一人のみ戻って来るとは…并州で一体何が?」
「はっ…それが…」
・・・・・・・
〜再び并州にて〜
「もし…李典様と于禁様ですね?」
「誰や!?」
「誰なの!?」
突然かけられた声に二人は身構える。
「私は曹操様よりの使いで参った者です。お二人をお迎えに参りました」
「迎えやて!?ウチらをどうしようというんや?」
「お二人を曹操様の下までお連れするよう命を受けて参った次第にて」
その言葉に二人は顔を見合わせる。
「監視の者達は遠ざけております。他の者達に気付かれる前にお早く」
使者の者はそう促すが、
「悪いけどな、ウチらはもう華り…曹操はんに従うつもりはあらへん」
「そうなの〜、か…曹操さんのやっている事はおかしいの〜」
二人はそれをはねのける。
「何と…お二人には曹操様の志が分からぬと仰せか?」
「分からんな、確かに黄巾の頃位まではこの大陸…漢という国は腐っと
った。だからウチらは曹操はんならこの大陸をええ方に導いてくれる
と思って仕えたんやけど…今回のはいただけへんな。ウチらの眼には
ただ徒に混乱を広げているようにしか見えへん。そないな曹操はんに
は従えへんとそう帰って伝えてくれんか?」
李典のその言葉が終わるや否や、使者の男は剣を抜いて斬りかかる。
「何するんや!?」
「申し訳ないですが、従えないのなら斬り捨てるよう言われております
ので…御免!」
男が合図を出すと十数人の武装した者が現れる。
「なっ…十数人もよう来れたな。それだけ鼻薬が効くもんがまだまだ多
いっちゅう事かい」
李典は忌々しげにそう呟くが、逆にその言葉に男は戸惑う。
「十数人…だと? おい、他の者は!?周りの監視は逆に怪しまれるか
ら全員集まれと言ってただろう!」
「ちゃんと言われた通り全員呼び寄せまし『お前らで最後…』ぎゃあ!」
使者の男に問われた者が答えようとした瞬間、背後からその者を斬り
捨てて恋が現れる。
「りょ…呂布だと!?何故だ!お前らは曹操様を攻める為に冀州に向か
っていたはずでは…」
「月に言われた…幽閉している者の所へ手引きする裏切り者がいるから
斬れって…そうしたらお前達がいた。お前ら月の敵…だから死ね」
恋はそう言うと残った者達を斬り捨てる。だが、使者の男だけはその
場から逃げ出していた。
「一人逃げたの〜!」
「…わざと。そうするように言われた」
恋はそう言うと二人の方へ眼を向ける。
「な、何や?」
「何なの〜?」
「……うん、大丈夫。二人とも嘘言ってない。こっちに来る」
「「こっち?」」
「月…董卓が呼んでる。一緒に来る」
恋はそのまま強引に二人を引っ張って洛陽へと連れていった。
「以上です…」
部隊長の報告に郭嘉は歯ぎしりして悔しがる。
「くっ…まさかそこに呂布が現れるとは…」
「稟、今のはどういう事なの!?」
その声に驚いた郭嘉が振り向くと曹操が怒り心頭な顔で立っていた。
「まさか…来るのを拒んだ者は始末するつもりだったと言うの!?」
曹操は怒りの表情のまま郭嘉に詰め寄る。
「あの、それは…」
「稟、これからも私の軍師として仕えるのであればそのような策は二度
と行わないよう、分かったわね」
「は、はっ…!」
郭嘉のその返答を聞いた曹操はそのまま足早に去っていった。
「あの…郭嘉様?私はどうすれば…」
部隊長が恐る恐る聞いてきたが、
「くっ…やはり華琳様はこういうものはお嫌いになられるか…しかし私
は軍師として汚い策とて行う覚悟はあります。それが華琳様の為と信
じればこそ…」
郭嘉はそう呟いたまま去っていってしまったのであった。
「というわけなのです!」
場所は変わって曹操討伐軍の陣中。
月より李典と于禁の身を託された恋とねねが二人を伴ってやってきて
一連の説明をしていた。
「曹操さんがそんな策をねぇ…それじゃ俺達はまんまと乗せられたとい
う事なのか?」
一刀がそう問いかけるが皆、黙ったままであった。
「くっ…不覚などという一言では言い表せられんな。みすみす夏侯姉妹
を逃がしてしまうとは…しかも兵達の中に賄賂などに心を動かされる
者がいるなんてな…」
そう苦々しげな顔で冥琳は呟く。
「それを言っては儂の所とてそうじゃ…末端の連中の心まで完全に改め
させるのはまだまだじゃという事か…」
盧植もまだそう忌々しげに吐き捨てる。
「今それを言っていても仕方ありません。まずは…李典さんと于禁さん
の処遇についてです。ここにまで連れて来たという事は、月様は二人
については我々の裁量に任せるというおつもりで間違い無いですね?」
「そうです!月様と詠殿にはそう言われてきました!」
朱里のその質問にねねはそう答える。
「ならば…李典、于禁、お主達はどうしたいのじゃ?」
盧植が二人にそう問いかける。
「ウチらは…曹操はんには世話になった。もし戦えって言うんやったら
しんどいという気持ちはある。でも…」
「このままじゃただ混乱が広がるだけなの〜。私達が少しでも止められ
る力になれるんだったらって思ってるの〜」
その質問に二人はそう答える。
「ふむ…その言葉、嘘では無いようじゃの。分かった、二人が加わる事
は認めよう…北郷、二人の事はお主に任せる」
「分かりました。それじゃ、二人共こちらへ」
・・・・・・・
そして一刀の陣にて。
「真桜、沙和!!」
「「凪(ちゃん)!!」」
三人はそのまましばらく抱き合っていた。
「凪、二人は我が軍で預かる事になった。世話に関しては凪に任せる」
「はっ!粉骨砕身務めさせていただきます!!」
一刀の言葉に凪は最敬礼で答える。
「おうおう、凪は相変わらず北郷命やな〜」
「凪ちゃん、アツアツなの〜」
「なっ…お前ら、いきなり何を言い出して…べ、別に私は一刀様とは…」
二人のツッコミに凪はしどろもどろになっていた。
「はは、でもまさかこうやってまた三人一緒になれるなんて思わんかっ
たわ〜」
「そうなの、すごく久しぶりなの〜」
「ああ、これからは一緒に戦う仲間だからな!」
そして三人は嬉しそうに笑いあっていたのであった。
……続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
しばらく間が開いてしまい申し訳ありませんでした!!
どうもうまく執筆が進まない…出来も何だか微妙だし。
内容に不満がある方もおられるかもしれませんが何とか
ご了承の程を。
一応次回は…曹操さんとの戦いがメインで行くとは思う
のですが、もしかしたら雍州と涼州方面の話も少し絡め
ていくかもしれません。
それでは次回、外史動乱編ノ二十九でお会いいたしましょう。
追伸 少々モチベが落ちているので次回投稿も少し遅くなるかも
しれません。
説明 | ||
お待たせしました! 前回、曹操に対して追討の勅が発せられて 一刀達が向かう事になりますが、今回はそれ を聞いた曹操の家臣達の動向を中心にお送り いたします。 それではご覧ください。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
6050 | 4572 | 51 |
コメント | ||
PON様、ありがとうございます。そういや徐庶はそんな話がありましたね。そして稟さんは軍師として汚れ仕事を率先してやろうとした結果でもあります。始末しようとしたのは敵方に走られる事を警戒しての事ですね。結局敵になりましたが。(mokiti1976-2010) いやいや、親御さんの説得が通用した人、いますよ。徐庶だけど。一方姜維は拒絶したが。腐敗を正すために戦いを始めた華琳が賄賂を利用するようじゃ「さすが宦官の孫」と言われても仕方ないわな。しかし稟のやったことは正しいと思う。これだけ国力差があるんだからこのぐらいはやらないと…まぁ始末する意味はあまりないように思うが・・・(PON) 牛乳魔人様、ありがとうございます。双方とも最初から話し合いをする気は無さそうですけどね。(mokiti1976-2010) 犯罪者の説得なら親御さん登場がデフォだな この時代じゃ通用しない気がするけども(牛乳魔人) 神木ヒカリ様、ありがとうございます。華琳さんは既に周りが見えてません。稟さんが煽ったのもありますけどね。さて、どうなる事やら?(mokiti1976-2010) ataroreo78様、ありがとうございます。既に大義は無く、後に残るのは野心のみです。そしてその問題児の出番は近いうちにあるかも…。(mokiti1976-2010) yoshiyuki様、ありがとうございます。もはや覇王様は自分の野心に酔いしれている所があります。傍から見たら暴走にしか見えませんが。それに対して沙和は冷静ですね(mokiti1976-2010) 考えてみたら華琳のやっている事って、自分を含め漢を滅ぼす行為でしかないですよね。今勝ったとしても、葵達が黙っていないはずだしそれに勝っても弱体化したところを五湖に滅ぼされるだけ。(神木ヒカリ) 赤糸様、ありがとうございます。沙和は他の面々よりも戦いを嫌っていますのでそういう所は人よりはっきりしてますね。(mokiti1976-2010) うーん・・・華琳さん、凛さん、さすがにこれは擁護できんな。なんだかんだ言って賄賂は使うわ五胡を唆すわで、結果民に被害を齎したのでは大義も霞むな。なにより大乱が収束して漢王朝に人心が戻りつつあるこの時期にああいう手段を取るとは・・・そういえば、偽帝推戴事件以降消息を絶ったあの問題児はなにしてるのやら?(ataroreo78) 前回も都合よく五胡が来たもんだとは思っていたけど、やはり裏があったのですね。 でもそれって、「売国的行為」だと思います。奸雄様は、自分のすることはすべて「愛国無罪」で押し通すつもりでしょうが。 沙和の冷静な判断には、正直感心いたしました。主に盲従する、三佞臣を見た後だけに。(yoshiyuki) 沙和の冷静な視点が良かったですね。今の世を自分の目で見て考えて、はっきりと自分の意思を表明したところが特に。(赤糸) 不知火 観珪様、ありがとうございます。この人の鼻っ柱を折るのは世界平和の実現より難しそうではありますがね。そして恋とねね…というより月と詠の読みですけどね。(mokiti1976-2010) ハーデス様、ありがとうございます。稟さんもいろいろ暴走気味でして…今回の策も既に詠には読まれてますしね。そして曹操に大義は…なさそうな気もします。(mokiti1976-2010) NEOじゅん様、ありがとうございます。実際の話、一理あるとは思うのですが…華琳さんはそういう事を好まないだけですね。お互いモチベを高められるよう頑張っていきましょう。(mokiti1976-2010) ichiro588様、ありがとうございます。はい、お待ちくださる方々がいる限り途中でやめるつもりは毛頭ございませんので。(mokiti1976-2010) きまお様、再びありがとうございます。でもそれは丁重にお断り申し上げます。そんな所へ行く位なら因果地平の彼方へ消えます。(mokiti1976-2010) h995様、ありがとうございます。さすがに今回の行動は二人を曹操側に走らせる方向にはなりませんしね。そして因果は必ず巡るものです。(mokiti1976-2010) 一丸様、ありがとうございます。はい、ようやく揃いぶみです。そして開戦の行方や如何に!?…そして私のモチベさんの機嫌の行方も。(mokiti1976-2010) 殴って退場様、ありがとうございます。ふっふっふ…それは未定です。ですがそう遠くはないかもしれません。(mokiti1976-2010) 華琳さまも少々やりすぎですねー そろそろ、その鼻っ柱を折ってあげないと、後々が大変になりかねないだろうし、難しいところですな……とりま、恋とねねたんはいい仕事をしたようで!(神余 雛) 稟も隋分と華琳を盲信してるな…これじゃいざって時に裏かかれるぞ…軍師ってのは常に冷静に場を読まなきゃだめだと思うが…正直今の凛が考えた策は朱里や風に簡単に読まれると思う。それに今の華琳に大義はあるのだろうか…(ハーデス) 実際、凛のやったことって【曹猛徳の軍師】としては暴走気味だけど一介の【軍師】としてなら間違ってはいないんだよね。程イク(風)辺りなら手段のひとつとしては挙げそうだし。夏候姉妹と桂花は【華琳】という存在に常に付き従いますから、また話は別ですけどね♪ ともあれ、モチベ様の早期回復を願っております。……私のモチベもついでに、ね。(じゅんwithジュン) 投稿ペースが落ちるのは仕方ない事ですけど完結だけは絶対にして下さい。次回も楽しみに待っています。(ichiro588) いきなり二度目ですが少々気になったので今一度。モチベがすねてる?じゃあ再び漢女の口づけが必要ですね・・・。ふ○た君と呼びそうな漢のもとへれっつごー!です。(きまお) 真桜と沙和は国を良い方向に変えてくれると期待して華琳に従っていたので、この離反はむしろ当然ですね。それに心情を抜きで華琳の現状を見ると、かつて自身が桃香にそうしたように稟に担がれた格好になっているようにも思えます。どうやら因果が巡りつつあるようです。(h995) おお〜三羽烏揃いぶみですねえ〜〜〜・・・そして、いよいよ開戦ですか、すごい楽しみです。ではでは、続きを楽しみに待ってます。・・・いろいろなところで、モチベさんが機嫌を損ねているようだww(一丸) 三羽烏の再結成と来れば、今度はあの方たちの復活が?(殴って退場) summon様、ありがとうございます。ちょっと稟さん行きすぎちゃったかな〜?今後、多少なりとも改善すればいいですが。(mokiti1976-2010) きまお様、ありがとうございます。真桜と沙和はまだそこまでいってませんので…でもその日も遠くはないかも(マテ。(mokiti1976-2010) 姜維さんに続き、今度は稟さんが暴走気味ですかね?(summon) ふぉっふぉっふぉ・・・三羽烏加入とくれば凪の決め台詞?「三人一緒に(以下略)」の出番だな!病里?ヤンファ?おいしいのそれ?(きまお) |
||
タグ | ||
朱里 真・恋姫†無双 | ||
mokiti1976-2010さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |