真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第45話]
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真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜

 

[第45話]

 

 

天幕内に再度、張角たちと対面して話しが出来るような場所に空間を設け、その空間の両脇に華陽軍の将軍たちを((控|ひか))えさせつつ、諸葛亮と周泰をボクの両隣に配置する事にしました。

そうして暫くの間、両目を((瞑|つむ))りながら張角たちがやって来るのを待って居ると、天幕の入り口付近に人の来訪を告げる((騒|ざわ))めきが聞こえて来る。

これからどうなって行くのか。それを思いつつ覚悟を決めていると、

 

「失礼しまーす」

 

という、緊張感の無い入室の((挨拶|あいさつ))が告げられ、天幕の出入り口を((覆|おお))っている布が((捲|まく))り上げられました。

その言葉を聞いて((拍子|ひょうし))抜けしたボクは、閉じていた両目を開いて声の((主|ぬし))を確認する。

ボクの目に映る声の主は予想通りの人物だったので、その人物一行が指定の位置に着くまでに落ち着きを取り戻し、それから話しかけていきました。

 

「一刀。君、何やってんの?」

 

張角たちを連れ立って天幕内に入室して来た、緊張感の無い挨拶をした声の主であるところの北郷に、ボクは((呆|あき))れたように問いかけました。

普段から北郷には、なるべく用事の無い時にはボク専用の天幕内で待機してもらっていました。

そうして来たのは、彼の身の安全を考慮しての事であります。

それに、なるべく((血生|ちなま))ぐさい事を見聞きさせたくも無かったので、あまり指令所用の天幕には寄せ付けていなかった。

北郷もそれらを理解してくれていたので、これまでは何の問題も無い月日を過ごしてこれたのです。

そうであるのにもかかわらず、何故か今回は自分の方から((厄介事|やっかいごと))に首を突っ込んできている事に対して、思わずツッコミたくなるような心情に((駆|か))られてしまったのでした。

 

「え……? 何って?」

「いや、だから。なんで君が、ここに来るの?」

「なんでって。ここに連れて来て欲しいって言われたからだけど? 後は、面倒を見ていたのが俺だったから、ついでって感じかな?」

「は? なにそれ?」

 

ボクは予想外の事を北郷から告げられて、思わず((呆気|あっけ))に取られて聞き返してしまいました。

 

「いや。ちょっと気分転換に外の空気を吸ってたら、面倒を見ていて欲しいって頼まれたんだよ」

「誰に?」

「((明命|みんめい))に、だけど……?」

「みんめいぃ〜?」

「いや。困っているみたいだったから((請|う))け((負|お))ったんだけど、なんか((不味|まず))かったのか?」

 

北郷からの話しを聞いたボクは、そのまま顔を横に控えている周泰に向けます。

彼女はボクが何を気にしているのか分からないようで、不思議そうな顔をしていました。

 

「そうなの?」

「はい」

「((何故|なぜ))に?」

「何故にと言われましても、その方が都合が良かったからなんですけど……。その、イケませんでしたか?」

 

周泰に詳しい話しを聞くと、彼女は恐縮したような感じで説明してきました。

どうも、広宗の街に潜入させていた密偵たちと、張角たちとは別の天幕に隔離して待機させていたみたいです。

密偵たちには、潜伏時に取得した情報の整理や報告書の作成などをさせていたようでした。

今回の件については、必要最小限の人員にしか知らせない方が良いと判断したため、張角たちの護衛兼監視役をどうしようかと考えたそうなのです。

周泰がどうしようかと悩んでいる時に、北郷が丁度良い感じで目の前に現れたそうでした。

そこで、ボクの護衛要員の次に優秀な者たちに警護させている彼に、張角たちの世話を((任|まか))せたという事らしい。

そうすれば、監視も警護も少ない人員で済むと考えたそうでした。

 

(まあ、たしかに。一刀の警護を任せている護衛の者は、忠義心・技量に加えて口も堅いだろうさ。それに彼の人柄には、どこか人に警戒心を抱かせないような雰囲気もある。それは分かる。分かりたくないけど分かってしまう。でもさ。それじゃあ、今迄のボクの気遣いはなんだったのって話しになるよね? まったく、やってられないよ)

 

ボクはそう思い、骨((折|お))り((損|ぞん))のくたびれ((儲|もう))けだった事に対して、人知れず溜め息を付くのでありました。

 

「まあ、良いか。そうなっていたのなら、いまさら考えても仕方のない事だしね……」

 

ボクは北郷を見ながら諦めたような言い方で告げましたが、彼はこちらの心情を理解せずにキョトンとしていました。

それを見て、ふと北郷は張角たちの身上を知っていたのかどうか疑問に思ったのであります。

 

「ねえ、一刀」

「なんだ?」

 

ボクが北郷に呼びかけると、彼は何も考えていないといった様子で返答してきました。

 

「あのさ。君は彼女たちの事、知っていて面倒を見ていたのかな?」

「彼女たちって……、((天和|てんほう))たちの事か?」

「天和って……。ああ、そうなんだ。もう、真名を((交|か))わしたりもしている、そんな仲な訳ね。なるほど、分かったよ」

「え? いっ、いや。だって天和たちが、そう呼べって言うからさ。それで呼んでいるだけだぞ?」

 

ボクが北郷の返答を受けて、暗に深い仲に成っているのだという理解を示すと、彼は慌てて深い意味は無いといった事を弁解するように主張してきました。

 

「君が気が付いているのかは知らないけどね。この際だから紹介もかねて代弁させてもらうと、天和の姓名は張角。((地和|ちいほう))は張宝。それに((人和|れんほう))は張梁って言うんだ」

「へ? あ、そうなのか? へぇー。初めて聞いたけど、良い名前じゃないか。とても似合ってると思うぞ?」

 

ボクは気付いていなそうな北郷に、張角たちが史実で云うところの黄巾党の首謀者である事を教えてあげました。

でも彼は、せっかく教えてあげたのにもかかわらず、何故かどーでも良いといった感じで気にした様子を見せません。

それどころか、どこぞの((軟派|なんぱ))な男よろしく、張角たちに笑顔を向けて姓名を褒めている始末。そして、何故かそれを喜ぶ張角たち。

そんな雰囲気になる事を不思議に思ったので、ボクは北郷に確認してみる事にしました。

 

「一刀。やっぱり君、分かってないよね?」

「え? 何をだよ?」

「ボクは彼女たちの姓名を張角・張宝・張梁だって、そう言ったんだよ?」

「ああ、ちゃんと聞こえていたぞ。それが、どうかしたのか?」

 

再度、ボクは念を押して張角たちの姓名を告げました。

でも北郷は、それを気にした様子をまったく見せません。

仕方がないので、ボクは彼にも分かるように説明してあげようと思いました。

 

「じゃあ、一刀。黄巾党。天公将軍。太平要術の書簡。これらの単語にかかわる張角という人物は、どういう存在だったでしょうか? はい、回答どうぞ」

「へ? なんだよ、やぶから((棒|ぼう))に。そんなの決まってるじゃないか。漢王朝に反乱を起こした有名な人物だろう? たしか、張角というのは三人兄弟の一番年上で……。えっ……? 張……角?」

 

北郷の良く知る学校のテスト問題形式で問いかけた為か、彼は自分の知っているの歴史上の人物と、実際に目の前に居る張角たちとが一致していなかった事に、やっと気が付いたみたいでした。

ボクたちのやりとりを聞いていた張角が、北郷の後ろの方で『おねーちゃん達、兄弟じゃないもん! 姉妹だもん!』とか騒いでいる様子。

北郷は、ボクの顔と自分の後ろに居る張角たちを交互に見ながら、混乱している頭を落ち着かせようと確認しているみたいでした。

 

「((冗談|じょうだん))……だよな?」

「ううん、本当」

「マジで?」

「うん、マジで」

 

いまだに信じられないのか、北郷はボクの方に顔を向けて質問してきます。

しかし、((藁|わら))をも((縋|すが))るような顔をして質問してくる彼に、ボクは無情に((徹|てっ))して現実を直視さるしかありませんでした。

 

「いやいや。あり得ないだろう?! そんな事、何かの間違いじゃないのか?!」

「あー、うん。まあ、そう言いたくなる気持ちは良く分かる。でもね、残念ながら事実なんだよ」

「いや、だって。こんなに可愛い子たちなんだぞ? おかしいだろう、それは。そう思わないか?」

「えー。それにつきましては、同意を求められても答えようが無いと云いましょうか、個人的見解でありますので答弁は差し控えさせて頂きたいと思います」

 

ボクの無情の言葉にも目が覚め切らない北郷は、尚も声を荒立てながら否定してきました。

どんな言葉や事実であろうとも、それがそういうものだと気が付かない、((符|ふ))に落とせないものならば、その当人にとっては何の意味も為さないからでしょう。

でもボクは、それでも自分の知っている事実を告げるしかありませんでした。

それを受けても北郷は、自分の主観的見解の価値観を持って否定してきた。彼の後ろに居る張角たちは、それらの言葉を聞いて嬉しそうに喜んでいる。

しかしボクは、たとえ本心では同意を示していたとしても、この場で彼の質問に答える訳にはいきませんでした。

だって。そんな質問に答えたりでもしたら、周りで興味深そうに聞いている華陽軍の将軍たちが騒ぎ出して、それこそ収拾がつかなくなってしまうと思ったからです。

だからボクは、未来的記憶にあるところの、ある種の職業に就いている方々が多用している((常套句|じょうとうく))で、それを回避するしかなかったのでした。

 

「本当かよ。まだ、信じらんねぇ……」

 

北郷は自分の気持ちを((呟|つぶや))くように言い、張角たちを凝視するのでありました。

そんな彼をこのまま見ているのは、それはそれで楽しいものかも知れません。

ですが、このままだと、また厳顔の機嫌が悪くなるかも知れないので、ボクはこの場の状況を進行させる事にしました。

 

「あー、一刀? 分かったと思うけど、この場は天和たちの処遇を決める大事な場なんだよ。本当だったら出て行ってもらいたいところだけども、それじゃあ君の気が収まらないだろう。だから、この場に居ても良いから、こっちへ来てくれないか? 話しが始められないんだ」

 

そう言ってボクは、北郷に周泰の横へ並ぶように手招きするのでありました。

 

「あ? あ、ああ。分かった」

 

北郷は了承する言葉を言いながら、ボクの席がある方へと歩いて来ました。

 

「(まったく君は、なんでこんな事に首を突っ込んでくるんだよ?)」

「(悪かったよ。そんなつもりは無かったんだって)」

 

北郷がボクの前面に来て横へと通り過ぎようとする時、彼にしか聴こえないような小声で注意を((促|うなが))しました。

それを受けて彼は、すまなそうな顔をしながら謝罪する意志を片手で念仏を唱えるような格好で表し、この事態は自分の本意ではないと((訴|うった))えてくる。

北郷が周泰の隣に移動したのを確認してから、ボクは前面を向いて張角たちと相対していきました。

 

「((度々|たびたび))待たせるような事に成ってしまって、すまなかったね」

 

張角たち三人を見回しながら、そう謝罪しました。

 

「いいえー。一刀さんとお話して楽しかったので、ぜんぜん大丈夫でしたー」

「そ、そう。それは良かった」

 

何度も会談を中断した事を謝罪すると、張角が代表するように返答してくる。

ボクは彼女の好意的な発言を聞いて、もしかして北郷は女性に対して手が早いのかな? と思いました。

まあ今回は、それで事なきを得たのですから、不幸中の((幸|さいわ))いという事で問題ありませんでしたけれども。

 

「さて。色々あったけれども、君たちへの対応が決まったので、それを告げたいと思います」

 

そう言うと、張角たち三姉妹は心持ち緊張したように見受けれました。

 

「ボクたちが君たちへ提案できる事は、大きく分けて二つある。

一つは、お互いが納得した形で((袂|たもと))を分かち、今までと同じように敵味方に成るという事。

もう一つは、こちらが提示する罰則を受けた後に仕えてもらって、これからボクたちと一緒にやって行くという事。

 この二つのうち、どちらか一方を選んで欲しい」

 

ボクがそう言うと、張角たち三姉妹は一様に驚いた表情を顔に浮かべました。

 

「選ぶ? 私たちが?」

「そう、君たちが選ぶんだ。自分たちの思い描く未来を決めてからね。ボクの希望としては、ぜひ二つ目を選んで欲しいと思うね。その方が、お互いにとって良い結果になると思うからさ」

 

他の姉妹の気持ちを代弁するかのように、張梁が問いかけてきました。

どうやら彼女たちは、こちらからの決定を告げられるだけで、選択権を渡されるとは思っていなかった様子です。

ボクはそれを受けとめ、あわせて自分の気持ちを三人に告げました。

 

「……答える前に、質問しても良いのよね?」

「うん、構わないよ。そうじゃないと、納得できないだろうからね」

 

暫く熟考した後、張梁が確認するように問いかけてきました。

 

「では一つ目。この場で別れるという事は、見逃してくれるという事かしら?」

「この場では、という事さ。この次に捕縛した場合は、問答無用で斬首といったところかな?」

「……いくらこの場で放逐されても、追跡されていたのなら何の意味もないと思うのだけれど?」

「ふむ、そうだね……。じゃあ、こうしよう。ボクたちは広宗の街を攻略するまで君たちを追尾しない。あくまで、街を攻略した後に君たちの存在を発見して、それで追いかけるという事にする。これなら多少の時間はかかるから、どこかに逃げる時間くらいは稼げると思うよ?」

 

ボクが張梁の疑問に解決策を提案すると、彼女は自分の頭の中で目まぐるしく計算しているようでした。

そうして自分の頭の中で色々な事を整理した後、張梁はボクの方に目を向けて話し合いを再開する。

 

「では次に。後で捕縛して斬首するつもりなら、今それをしないのは何故?」

「それはね。君たちも聞いているかも知れないけれど、これまでの戦闘で多数の黄巾党の賊を捕虜にしているからだよ。今回、君たちは助命嘆願をしに来た。それを無視して((騙|だま))し討ちにした場合、彼らがどういう態度を取るのか分からないのさ」

「それは聞いた事があるけど……。捕虜って、そんなに居るの?」

「そうだね。今現在でも十万人近くは居るかな? その中に、君たちの事を一言も漏らさないような忠義心の厚い連中が居てね。その連中が要注意って感じなんだよ」

 

ボクが張梁の質問に正直に答えると、周りから((騒|ざわ))めきが漏れ聞こえてくる。

張角たちの方から上がる声は、捕虜の人数が十万人に及ぶ事に対しての驚き。

華陽軍の将軍たちから上がってくる声は、こちらの内情を張角たちに話してしまった事に対しての((叱責|しっせき))でありました。

たしかに、こちらの内情を話す事は弱みに繋がり、交渉の仕方としては下策以外の何物でもありません。

ですが、それでは交渉相手から信頼が得られないと思うのです。

ボクの望みは、張角たちと一緒にやっていく事。だからまず、自分の方から打ち((解|と))けて行くしかないと考えました。

そうでなければ、これから一緒にやって行く信頼関係など築けない。それでは何の意味も無いのです。

だから、たとえ物別れに終わって敵味方に成った時に、それが弱みに変わってしまうとしても、自分の方から((胸襟|きょうきん))を開いて行くしかなかったのでした。

 

「聞いておいてなんだけど……。そんな事、正直に話して良いものなの?」

「いや、良くは無いね。どちらかというと、失点になるんじゃないかな?」

「じゃあ。なぜ話してくれたの……?」

「始めに言ったと思うけど、ボクは君たちと一緒にやって行きたい。そして、((縁|えん))無く袂を分かつにしても、お互いが納得して別れたいのさ」

「そう……」

「今はまだ、味方になってもらえる可能性があると思っている。だからこそ、こちらの内情を正直に話したんだよ。君たちを敵と見定めて命のやり取りをするのは、いつでも決められる事だからね。もっと話し合っておくべきだったと後悔する前に、やり残した事がないようにしたいのさ」

 

正直に自分の気持ちを話すと、それを聞いた為なのか周りの騒めきは収まりました。

まあ、後で皆からのお((叱|しか))りが待っているかも知れませんが、素直な気持ちを告げたかったのだから仕方がありません。

 

「次に、私たちが仕える選択をした場合だけど。私たちを、どうするつもりなの?」

「そうだね。まずは、君たちの姓名を捨ててもらいたい。そして新たな名を付けた後、君たちは別々の将軍の元へと配属されて、そこで色々な事を教わるようになるだろう」

 

ボクが姓名を捨てるように提案すると、張梁は目を細めて厳しい表情で見詰めてくる。

 

「……名を捨てろと言うの?」

「悪いとは思うけれど、今の君たちの姓名は有名に成り過ぎているのさ。だから、一緒にやって行く為に名を変えてもらうしかないんだよ」

「……別々に分かれて教わるというのは?」

「それはね。一人ひとり別になって、自分自身を見詰めてもらいたいのさ。君たちが今迄、何をして来たかを。そして、何をしてこなかったかを、ね」

 

ボクが話し終わると、張角たちは不安そうな表情を顔に浮かべました。

今迄、姉妹で力を合わせて生き抜いて来たのでしょう。三人が別れた事など、これまで一度も無かったのかも知れません。

それなのに、((半|なか))ば強制的に別れさせられるの事に不安を感じてしまったのでしょう。

でもそれは、自分が((負|お))うべき責任を、自分一人で取って来た訳では無いという事を意味するのです。

人は誰かと一緒に何かをやって行く時、人の数が多くなればなるほど、自分の行ないに対しての責任の所在が((曖昧|あいまい))になる。

良い意味でも悪い意味においても、誰かがやっているから自分も出来るんだと判断したり、気を大きく持ったような錯覚を起こして”あやふや”に成って安心してしまうからです。

その為、自分一人ではやらない事でも、誰かと一緒であればやってしまうという事が起こってくる。

だから、一人ひとりが独立して責任を負わない関係は、助け合う関係などでは無く、ただの依存する関係でしかないという事を、彼女たちにも気付いて欲しいと思ったのでした。

 

「その後は、どうなるの? ……そのままって訳じゃないのよね?」

「そうだね。でもそれは、ボクの方が聞きたい事だと思うよ? 君たちは、その後をどうして行きたい? どう在りたいと思っているのかな?」

 

張梁の問いかけにボクは質問で返し、彼女の希望を聞く事にしました。

彼女は、少し言い難そうに自分の気持ちを告げて来る。

 

「……私たちは、これからも歌っていきたい。大陸に居る皆に、私たちの歌を聞いてもらいたと思っているわ」

「そうか……。それが君たちの望みというのなら、それが((叶|かな))えられるように助力すると約束しよう」

 

張梁はボクの言葉を聞いて驚きの表情を見せました。

彼女は自分で言っておいて、それが叶えられるとは考えていなかったのかも知れません。

横に並んで居る張角と張宝も、少し驚いている様子です。

そんなにボクって信用ないんでしょうかね?

ちょっと、傷つきます。

 

「もちろん。今すぐ、そう成るという訳ではないよ? 君たちはお((尋|たず))ね者なんだし、ボクたちだって漢王朝と面と向かって((喧嘩|けんか))する訳にもいかないんだ。それは分かって欲しい」

 

喜んでいる所に((冷水|ひやみず))を((浴|あ))びせるようでしたが、それでも言わない訳にもいきませんでした。

案の定、張角たちは失望を感じたような表情をボクに見せてきます。

 

「……では、いつまで待てば良いの?」

 

いち早く気を取り直した張梁が、ボクの真意を確かめるべく疑問を((呈|てい))してきました。

 

「そうだね……。少なくとも、君たちが真名を使っても差し支えなくなるまで、かな? まあ。真名を変えても良いって言うんなら、話しは別だけどね」

「……それは、どうやって判断するというの?」

「ボクたちの勢力基盤が((盤石|ばんじゃく))になって、朝廷に今回の件が露見しても大丈夫になる事で分かると思うよ。でなければ、ボクたちは互いに逆賊になってしまう可能性があるのだからね」

 

真名さえも捨てるようにと提案すると、やはり変更したくないのか張梁は言葉を((濁|にご))してきました。

さらに、我慢はお互い様である事を告げると、彼女は((自嘲|じちょう))したような態度を見せます。

ボクは張梁に話すように、それでいて自分に言い聞かせるように語っていきました。

 

「君たちがどういう選択をするのか、それはボクには分からない。でも、これだけは覚えていて欲しい」

「……なに?」

「ボクたちが目指す世界は、自己を見詰めて望む在り方を確立して行き、その在り方を持って、自分のやりたい事を為して行く世界だという事を。誰も、それを強制しない。誰もが自由に選択する。でもそれは、同時に自分の((撒|ま))いた((種子|たね))は自分で((刈|か))り取らなければならない、そういう厳しさを((併|あわ))せ持つという事なんだ」

 

ボクの言わんとするところを察してくれたのか、張梁は少し疲れたような感じを見せてきた。

 

「……ずいぶんと、((永|なが))くて((険|けわ))しい((道程|みちのり))のようね?」

「そうかも知れないね……。でもさ。そんな永く険しい道程でさえ、実際に時が経って振り返ってみれば、一瞬の出来事だったように感じられるかも知れないよ?」

 

ボクの((慰|なぐさ))めるような言葉を受けて、張梁は((儚|はかな))さを感じさせるような微笑を持って返答する。

その後、隣で一緒に話しを聞いていたであろう姉妹に顔を向けて、相談するように話しかけて行くのでありました。

 

「姉さん達は、どう思う? ……私は、ここに居ても良いと思うのだけれど」

「えっ? そっ、そんな事、急に聞かれても分かんないわよ! ねっ、姉さんはどうするの?!」

「えー。お姉ちゃんだって分かんないよー。ずっと聞いてたんだけど、なんか難しいんだもん!」

 

張梁の問いかけに張宝は意見を決めかねている様子で、姉である張角に丸投げしたようでした。

張角はそれを受けて、自分も決めかねている事を告げる。

 

「ねー、れんほーちゃん。けっきょく、どういうことなのかなー? お姉ちゃんにも分かるように説明してくれるー?」

「……つまり、この話しを((蹴|け))って出て行った場合、私たちは捕まって斬首される可能性が高いの。逆に、ここに残って暫く我慢すれば、また一緒に歌を歌っていけるという事よ」

 

張角が今迄の話しを簡潔にして欲しいと望み、張梁は頭が痛くなってかコメカミを((解|ほぐ))しながら、姉に分かるように噛み砕いて説明してあげた。

 

「えーと、つまりー。ここに残れば、また歌が一緒に歌えるようになるってことかなー?」

「……ええ。そういう事よ」

「じゃあ、お姉ちゃん。ここに残るのに賛成!」

「……そう。分かったわ」

 

張梁の噛み砕いた説明を、さらに簡素化させる事で理解した張角は賛成の意を告げるのでありました。

 

「……それで? ちぃ姉さんは、どうするの?」

「どっ、どうするって。二人が賛成なのに、わたしだけ反対しても仕方ないじゃない!」

「……じゃあ、賛成で良いのね?」

「そうよ!」

 

張梁の問いかけに、張宝は選択の幅が無いと((愚痴|ぐち))をこぼしながらも同意を示しました。

同意を取り付けた張梁は、ボクの方に顔を向けて発言してくる。

 

「……意見がまとまったわ、今ここで投降する事にします。その代わり、私たち三人を助けてくれる事と、約束を果たしてくれる事が((前提|ぜんてい))」

「可能な限り善処すると約束しよう。これ以後、ボクたちは一蓮((托生|たくしょう))の関係になるのだから」

「……それと一つ、お願いがあるの」

「なにかな?」

 

条件付きながらも、張角・張宝・張梁の三人は仲間になる事を了承する。

その後、張梁は言い難い事なのか、少し及び腰で発言してきました。

 

「……月に一度ぐらいで良い、姉さん達と逢わせて」

「ふむ……。全員が一同に会してかい?」

「ええ。できれば……」

「なるほど……」

 

いきなり姉妹全員が別れたままというのが嫌なのか、張梁は情状((酌量|しゃくりょう))を求めてきた。

しかしボクは、それがどういう結果に結びつくのかを見極める事が出来ず、了承するのを((躊躇|ためら))ってしまいます。

 

「なあ、刹那」

「んー? なんだい?」

 

暫く熟考していると、周泰の隣に居る北郷が身体を乗り出して話しかけてくる。

ボクは、そんな彼を見るともなしに返答しました。

 

「人和の願いなんだけど、俺が立ち会うから許してもらえないかな?」

「立ち会う? 一刀が?」

「ああ。刹那が気にしているのは、何が話されるか分からないからだろう? 俺が立ち会えば、変な事は出来ないと思うんだ」

「ふむ……」

 

北郷はボクが返答を渋っている事を誤解したのか、自分が張角たちの脱走を阻止する監視者になると発言してきました。

張角たちが何を((企|たくら))もうと、密偵に監視させておけば何の問題もありません。

ですが、せっかく北郷が((間|あいだ))を取り持つような発言をしてくれた事ですし、張梁の願いを聞き届けても良いかなと思うのでありました。

 

「そういう訳では無いんだけど……ね。でも、まあ。一刀の願いでもあるようだからね。人和の願いを聞き届け、ときたまで良いなら姉妹全員で会う事を許そう」

 

ボクがそう発言すると、張角たち三姉妹は互いを抱きしめ合いながら嬉しそうな笑顔を見せてくる。

そんな彼女たちを見詰めながら、北郷は我が事のように感じて((微笑|ほほえ))んでいる様子でした。

 

(やれやれ。わざわざ、自分から厄介事に首を突っ込んでいく必要もないだろうに)

 

厄介事なんて物は放って置いたって、やって来る時は向こうから勝手にやって来るものです。

それなのに、北郷が自ら買って出で来た事に対して、ボクは((呆|あき))れ半分、心配半分といった感想を持つのでありました。

しかし、これで張角たちは晴れて華陽軍への仲間入りを果たした事になる。

ボクは、張角たちが喜び合う((様|さま))が収まるのを待ってから、おもむろに座っていた椅子から立ち上がっていきました。

皆はボクの動きを見て話すのを止め、何事かといった視線を投げかけてくる。

 

「これからボクたちは、苦楽を共にしていく仲間という事になる。これからも、色々な事があるだろう。時には打開策が見い出せない、そんな苦難もあるかも知れない。それでも共にやっていく事ができれば、どんな壁であろうと必ず乗り越えて行けると思っている。各自、その事を己の胸に((刻|きざ))み、忘れる事の無きように」

 

ボクの宣言とも取れる言葉を聞いた皆は、各々が力強い頷きで同意を示してくれました。

そんな頼もしい仲間たちを((緩|ゆる))やかな動作で一望した後、ボクは静かに両手を大きく広げていって全てを受け入れる覚悟を示し、満面の笑顔を張角たちに向けながら発言していきます。

 

 

 

 

「華陽軍にようこそ! 君たちの仲間入りを、心から歓迎する!!」

 

 

説明
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
*この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。
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