放課後話 2
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 これは、ある日の放課後の話だ。

「今日はとてもおもしろい本を読みました」

 俺も彼女も休み時間にはほとんど本を読んでいる。だが、俺は彼女がどんな本を読んでいるのかは知らないし、どんな本を読んでいるか彼女に言った記憶もない。

「ほう、どんな内容なんだ?」

「普通の恋愛話です。女性がモテモテの先輩に恋をして、様々な障害や競争相手を乗り越る話です」

「それで、どこまでいったんだ?」

 木の下でファーストキスとか、見事先輩の愛を手に入れたのだろうか。そんなことを考えていると、彼女は顔をうつむかせ赤らめながら小声で、

「ええとですね……。その……、最後は先輩にですね……その……誘われて……――に行くんです」

 最後のあたりはとても小さな声で大事なところがよく聞こえなかった。でも、大体の見当はつく。

「すまん、最後のあたりがよく聞こえなかった」

「えと、その、だからですね……。――に行ったんです」

 やはりよく聞こえない。

「すまない、声が小さすぎてよく聞こえなかった。どこに行ったんだ?」

 彼女は顔をあげた。怒っていた。

「もう! いい加減にしてください! いじわるはやめてください!」

 本当によく聞こえなかったのだが、これ以上いじわるするのはよくなさそうだ。

「悪かった。デートに行ったんだろう?」

 どうしてだろうか。彼女は目を丸くして少しばかり止まっていた。

「え、ええ、そうです! そうなんですよ!」

「どこにデートに行ったんだ?」

 彼女はまた先ほどの状態に戻る。

「ええと……えと……」

 また口ごもる、そしてまた怒り出す。

「そんなことより! 一番おもしろかったのはそこじゃなくて、違うところなんですよ!」

「どこなんだ?」

 彼女は一回深呼吸をして気分を落ち着かせたあといつもの調子で、

「先輩には、いつも一緒にいる男性の親友がいるんです」

「それがどうおもしろいんだ?」

「その人があなたにそっくりなんです」

 俺にそっくり? それがどうおもしろいんだ? 彼女はそのおもしろいことを思い出しているのか口元が緩んでいる。

「結果的に、女性にとってその人は先輩の情報を知ることのできる情報源や接点でしかありませんでした」

 話すたびに、彼女がどんどん笑顔になってくる。

「よくあるモブキャラだな」

 おれの人生はモブキャラどころか、背景と同化しているだろう。

「そうですね、モブキャラです。でもあなたにとっても良く似ているんですよ。話し方も、外見も。まるであなたをモデルにしたようでした。そして小説には、彼が最終的にどうなったか書かれているんですよ」

 それは実に気になる。俺と似ているやつがどんな高校生活だったのか。

「彼は主人公の女性の親友に恋をしています。そのことを主人公に打ち明け、お互いに情報源や接点として利用してきました。時にはダブルデートもしました」

 彼女の笑顔がさらに濃くなる。

 十分に充実しているじゃないか。

「それで、最後はどうなったんだ?」

 彼女はとびっきりの笑顔で、

「主人公の女性が告白する前に、彼と親友の告白の場面があります。その結果が主人公に多大な影響をもたらし、場面をさらに……ふふっ……もうだめ……です……耐えられません……」

 何がそんなにおかしいのかまったくわからない。そのまま笑いを出していた彼女はふと、目を大きく見開き、宣言するように言った。

「彼は親友に『は? あんたなんて前っから嫌いだったのよ!』って言って盛大に振られるんです!」

 なんという性悪女だ。俺はかなりショックを受けていた。彼女は大笑いをしていた。悔しいので彼女が落ち着いたところで、またいじわるをしてみることにした。

「そ、そうか。しかし意外だな。おまえがどこにデートに行ったかはっきりと言えないアレな小説を読んでいるだなんて。案外アレなやつだったんだな」

 しかし彼女はご機嫌だったので全く効いていなかった。

「なんとでも言ってください。そのあと思いっきりビンタをくらうんです。そのあとに控えている彼女の告白を盛り上げるためか、とても書き込まれていまして、そのせいでとっても笑えるのですよ。ああ、思い出したらまた笑いが……」

 ここまで言われたら、その小説を読みたくなった。どこまで俺に似ているのか、ビンタされた後どうなったか。読むときは彼女に笑われたことを思い出してしまうだろうから、苦痛ではあるだろうが。

「おい、その本のタイトルを教えろ」

 なるほど、かわいさで男を惑わす小悪魔ってのはこんな顔をするらしい。そんな例が目の前に広がっている。

「ひ・み・つです。こんな楽しい本をどうしてあなたに教えなければならないのですか」

 ぐぬぬ。非常に悔しい。

「今日は気分がとてもよいので、もう帰ります。このあとあなたにいじわるされちゃせっかくの気分が台無しですから」

 彼女は声をかけるひまがないくらいそさくさと帰り支度を始める。

「では、また放課後に」

「ああ、また放課後に。性悪女」

「ええ、さようなら。非モテ男さん」

説明
今回彼女の言動がきついかも
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