毒林檎〜最後の果実〜(オリジナル) |
何を間違えたのだろう・・・
青年は、暗く深い闇の中に一人膝を抱えしゃがみこんでいた。
「みんなと仲良くしたかった・・・ただそれだけなのに」
暗く水の滴り落ちる音が響き渡る暗闇の中で、青年は自らを責め込むかの様にずっと同じ様な独り言を呟いていた。
目にも輝きが無くひたすら手首を爪で掻き毟り、自身の舌を噛み千切るかの様な行動を時折見せている。
何があったのかまったく解らない。
ただ青年は、自らを激しく責め追い込んで、心身共に傷を傷を付けている。
このままでは、青年はそう遠く無い時間に命を絶ってしまう状態だ。
だが、青年の居るこの空間は誰一人と青年を鎮める者など居ない無の空間。
時間が経つにつれて、手首だけでは収まらず身体の中の至る所を伸びきった爪を抉り込むかの様に?き始めた。
身体を掻き続け、もがき苦しみ呻き声を響かせて苦しむ青年の元へ一つの黒い影が現れた。
青年は、その現れた影を見た瞬間に自身の身体の至る所を掻き毟っていた手が止まった。
黒い影の様な者は、人の形をしているが顔が無い。
ただ不思議な事に青年は、存在する筈の無い顔が見えているかの様な感じで黒い影と目を合わせた。
すると、黒い影は地を這い蹲っている青年の顔の近くに赤い物体を落とした。
黒い影が落とした物体を手にした青年は、暗闇の中に輝く鮮やかな物体に少し驚いた。
それは、鮮やかな赤色を放つ林檎だった。
青年は、自身を見下ろす黒い影に再度顔を合わせ林檎に口を付けた。
その林檎は、青年が生まれてから今まで食べた林檎の中で一番甘く酸味が効いた美味しい林檎だった。
一口ずつ食す度に今までの自分が、馬鹿らしく思える程前向きで明るい思考回路に変わってきた。
今なら間に合う、傷の手当をすればやり直せるかも知れない・・・
この暗闇から抜け出してもう一度やり直したい!
そう、思った青年は地を貼ってもがき苦しんでいた態勢から立ち上がった瞬間に急な眠気が襲い、再度地面に倒れ込んだ。
薄れ行く意識の中、最後に青年の目には自分が食していた食べかけの林檎を持った黒い影が居た。
胸が苦しくなり息がままならない急激な睡魔の中、青年は思った。
あの黒い影は、無様に死に行く俺を見下しに来ただけなのか?
それても、本来一人っきりで死ぬ俺を最後に手土産代わりの林檎を持って見届けに来たのかと・・・
最後の考えを導く間もなく青年は、眠るかの様に暗闇の中で息を引き取った。
暫くの間、抜け殻になった青年の遺体を黒い影は見下ろしその場から消え去った。
青年が最後に口にした。鮮やかな赤色の林檎と共に・・・
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オリジナル小説です。 | ||
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