fortissimo EXS//Akkord:nachsten Phase tribade novella
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fortissimo EXS//Akkord:nachsten Phase tribade novella

 

 

 黎明の光りが静寂の夜を照らし、庭先に植えられた、赤、白、ピンク、オレンジ、紫の多彩なハイビスカスの花が色めきだす。

 バルコニーから吹く風が心地よく繊細なレースとベッドで眠る少女達の頬を撫でる。

「おはよう」と囁く風に少女の1人は目を覚ました。

 気品と艶を感じさせる柔らかなウェーブの紫髪、清純を表すような白く透き通る肌、そして強い意志を宿す紅い瞳の少女――雨宮綾音。

 文武両道、冷静沈着、容姿端麗の雨宮は星見学園たっての希望で三期連続の生徒会長を務め、完璧の象徴たる存在の雨宮。

 だが、寝起きの雨宮はセミダブルベッドの上で2人の少女という鎖に縛られていた。

「困ったわね」

 微笑むような困惑の声。

 雨宮は左右の感触に首を向けると寝息をたてて両腕にギュッとしがみついている2人の親友を視程に捉えた。

 左腕には黒髪の少女。解かれた長髪は清流のように優しく、穏やかな寝顔、そして羽毛のような感触の魅力的な双丘を持つ親友の1人――鈴白なぎさ。

 右腕には紅髪の少女。あちこちに寝癖のついた長髪はピンと撥ねて、可憐な小悪魔のような寝顔をした、もう1人の親友――里村紅葉。

 昨日の放課後から「お泊り」で自宅を訪れていた、なぎさと紅葉。

 最近の恋愛や理想の彼氏についての話。

 ミルキーウェイに入った新しいお店の話。

 大型連休を利用した島外への旅行計画。

 ケーキやお菓子そして紅茶を肴に時を忘れて盛り上がり、2人は充実した表情で眠っている。

 暫くは起きそうにもない2人の様子に嘆息する雨宮。

 セミダブルのベッド、そのヘッド部の小物類を置くスペースに置かれた時計の針に視線を向けると時間は早朝6:00前。

 平日なら起床して朝の身支度を整え始める時間、だが今日は休日。早く起きる必要はない。

「もう少し余韻に浸るのも悪くないわね」

 独り言を囁き、2人の温もりに見も心も委ねて瞼を閉じると傍らで覚醒する意思を感じた。

 それは左腕に抱きついていた、なぎさ。

「うう〜ん」

「おはよう、なぎさ」

「あっ、会長おはようございます」

 眼を擦りながら応えるなぎさ。

「起こしちゃったかしら?」

「えっ、そんなことないです、気持ちよく眠れましたよ」

 そう言うとなぎさは抱きついたまま優しく笑顔を向けた。

「なら良かった、でも少し嫉妬しちゃうわね」

「嫉妬?」

「ええ、りゅーいちくんはこの感触を好きな時に愉しめるなんて」

 左腕をなぎさの胸に押しあてプニプニと揺らす。

 その反動で寝衣のボタンが一つ外れ、深い谷間が覗く。

「ななっ、なっ、何を言ってるんですか会長、りゅ、りゅ、りゅ、りゅーいちはそんなことは、ことは、ことは〜」

 途端に頬を紅く染め、文字どおり眼を回す、なぎさ。

「しないの?彼も男性よ、しないわけないわよね?」

「それは、その、します、しますけど〜」

 なぎさは涙目で「これ以上はやめて下さい」と訴えている。

 それを合図に雨宮は追及をやめた。

「ふふっ、いいわ、紅葉も寝ていることだし調書をとるのはまた今度にしてあげる」

 

 眠ったままの紅葉をベッドに残し、なぎさは部活の朝錬のために身支度を、雨宮はキッチンで3人分の朝食を用意していた。

 トースターで焼いた香ばしいパンにタマゴ、野菜、ハム、ジャムなどを挟み簡単なサンドウィッチを作り、刻んだ果実を入れたヨーグルト、それに外国産のビオと呼ばれる「気持ちの良い一日を迎えるため」の紅茶を淹れる。

「会長、手伝います」

 髪を結い、星見学園の白を基調とした制服に着替え、竹刀袋を背負ったなぎさがキッチンに顔を出し言った。

「ありがとう、じゃあそこのトレイに乗せて部屋に持っていきましょう」

「えっ、部屋で食べるんですか?」

「紅葉の分もあるからね、あの熟睡中の子も朝食の香りで眼が覚めるでしょ」

 納得したなぎさと2人で笑い合い、部屋に戻る。

「起きませんね、会長」

「一番はしゃいでたものね」

 未だに深い眠りの中にいる紅葉を見やる。

「紅葉〜会長が朝ごはん作ってくれたよ、起きて」

 なぎさが紅葉の頬をつつく。

 だが、紅葉は無意識に布団に包まり徹底に抗う姿勢をとる。

「もみじ〜」

「なぎさ、もう放っておいて先に食べましょう、冷めちゃうわ」

 2人で朝食を済ませると時間は7:00になろうとしていた。

「会長すいません、そろそろ朝錬に行かないと」

 時計をチラチラと見ながらなぎさが言う。

「そうね、りゅーいちくんが待ってるものね」

 ((紅茶|ビオ))に舌鼓を打ちながら告げる。

「そう、りゅーいちが……ってどうして知ってるんですかっ」

「あら、当然じゃない」

 ((最終戦争|ラグナロク))以降、なぎさと龍一の2人は恋人同士となった。

 だが互いに恋愛下手に加えて一般常識の欠如している2人はミルキーウェイで映画やショッピングをするなどは殆どせずに星見学園の道場で毎日朝練というデートをしていた。

「みんなには秘密ですよ?」

 紅葉を見ながら小声で囁くなぎさ、既に紅葉だけでなく学園生徒全員が知っていることは黙っていよう、と雨宮は思い、微笑んで頷いた。

「勿論、プライバシーは守るわ」

 なぎさを送るため玄関まで移動する雨宮。

「ありがとうございました会長、いってきます」

「あ、まって」

 揺れる黒髪ツインテールが静止して子犬のように小首を傾げるなぎさ。

「どうしました会長?」

「ふふっ、忘れ物よ」

 瞳を閉じ、僅かに唇を傾ける雨宮。

「えっ、えっと何を?」

 困惑した声のなぎさに雨宮は片眼を見開き悪戯な表情を浮かべる。

「『いってきます』のキス」

「……するわけないじゃないですかーーー」

 顔を真っ赤にしたなぎさはそのまま玄関を突き破りそうな勢いで奔り去っていった。

 

 なぎさを送り終えた雨宮は部屋に戻っていた。

 冷めた紅茶と朝食に嘆息し、未だに熟睡中の紅葉の隣に座る。

 読みかけの小説を手に取ると静穏な部屋に紙の擦れる音と風の音が柔らかく響き始めた。

 暫くして小動物のように丸まる紅葉は雨宮の太股に身を寄せ、寝息が肌に触れ、くすぐったく集中できない。

 だが、雨宮は紅葉の傍を離れようとは思わなかった。

 読書で得る知識や感性よりも、傍らで眠る紅葉から伝わる温もりや愛しい感情の方が優位に感じ、そっと栞を挿して本を閉じる。

 柔らかな風に揺られる紅髪に視線を落とし、その性格を示すように撥ねた寝癖を優しく撫で、ゆっくりと待つことにした。

 

 それから2時間ほどが経過して気持ち良さそうに眠っていた紅葉は眼を覚ました。

「んにゃ、かいちょ〜、おはよ〜」

「おはよう紅葉」

 寝惚け眼を擦る紅葉。

酷かった寝癖は元に戻ったが寝相の悪いせいで寝衣はだらしなくはだけて肩が露になっている。

「ほら、女の子なんだから、だらしないわよ」

 紅葉のシルクのような肌に雨宮は手を伸ばし寝衣を直し、軽く紅葉の頬を指先で叩いた。

「えへへ〜、ありがとう会長、で、どう?セクシーだった?」

 完全に眼と意識の覚醒した紅葉は貧相な胸元をチラチラと覗かせて小悪魔のような笑みで言った。

「ええ、とっても魅力的過ぎて即倒しそうになったわ」

 寝起き早々、予測不能な思考をする子だと感心と落胆の感情を抱きながら雨宮は応えた。

「う〜何か感情がこもってない」

「ふふっ、そんなことないわよ」

「それだ、その余裕の笑顔が信用できない」

「もうっ、仕方ないわね」

 雨宮は微笑み癇癪を起こし始めた紅葉を包み込むように両の手を伸ばす。

「えっ?ちょ、か、会長」

 狼狽える紅葉の小さな体躯を雨宮は優しく胸元に引き寄せ、真っ赤に染まる耳元に囁いた。

「確かに私やなぎさに比べて恵まれてはいない部分はあるけれど、貴方には貴方の魅力があって、私は好きよ、誰よりも」

 そういうと雨宮は紅葉の額に唇を重ねた。

「!!」

 雨宮の予想外の行動と告白に表情を髪色に染め、困惑する紅葉。

「かいちょー……今の」

「愛の告白よ」

「女同士だよ」

「あら、いいじゃない、ちょうど零二君を逃し、なぎさに先を越された2人でそっちのルートに進むのもアリよ」

「無い、無い、絶対無いから」

 必死に拒絶する紅葉に雨宮は冷め切ってしまった紅茶と朝食を差し出す。

「まあ、まずは朝食を食べてそれからじっくり話し合っていきましょう」

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fortissimo EXS//Akkord:nachsten Phaseのオリジナルアフターエピソード
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