すみません。こいつの兄です。51 |
初詣の前にお祓いに行こう。
そう思うくらい、毎日なにか望ましくないアクシデントが起きている。まず、妹の部屋に変圧器がダイブしてきた。次に部屋のエアコンが壊れた。次はなんだろう。風呂場にワニがいるとか蛇口からヘビがニョロニョロ出てくるとかだろうか。
そう思いながら、冬休みまであと三日。その夜、居間で本を読んでいると携帯電話に着信があった。名前ではなくて、番号が表示されている。だれだろう?
「はい。二宮です」
「なに変な出かたしてるのよ。私よ」
声で分かった。それはワニでもヘビでもなく、恐竜だった。ヴェロキラプトル三島由香里。
おかしいな。三島は電話帳登録してるから名前が表示されるはずだけどな。
「で、なんだ」
「確認したいことがあるの。今から、学校に来れる?」
「今からか?」
時計を見ると午後七時だ。無茶というほどの時間でもないが…。
「来たほうがいいわ。他の人に聞かれたくないから、この時間にしたの」
三島の声音は、真剣味を帯びている。ただならぬ気配だ。
「わかった」
そういうと、一応制服に着替えて、コートを着て家を出る。
電車の中で、携帯電話の電話帳を確認すると美沙ちゃん以外全員消えていた。だから三島の着信に名前が表示されなかったのか。先日、美沙ちゃんに携帯電話を渡したときだなぁ…。そう思う。
指定されたとおり、文芸部の部室に行く。薄桃色のコートと緑のマフラーをした三島が待っていた。
「どうした?三島?いつになくシリアスだな」
「…そうね。シリアスな事態だからね。これ…」
ぎょっ。
三島がポケットから取り出したそれを見て、血の気が引く。
「見覚えはあるみたいね」
「ああ」
見覚えはある。毎日、毎晩、俺のベッドの下で稼動している盗聴器だ。同時に、数日前の美沙ちゃんを思い出す。階段の踊り場にいる俺と三島を、光の消えた目で見ていた氷の美少女。
「部屋に仕掛けられていたの…今はスイッチを切ってあるわ」
「そうか…」
「二宮は、これがなんだか知っていて、誰が仕掛けたかも予想がついているんじゃない?」
三島の目の奥には、軽蔑はない。あるのは同情と戸惑いと、そしてその影からのぞく、なにか俺の知らない感情だ。
リノリウムの床に膝をつく。両手をつく。額を押し付ける。
「ごめんなさい」
「二宮!?」
「俺がやりました」
「……」
ごっ。むぎゅ。
後頭部に固い圧力が加えられる。三島が踏みつけているのだろう。一瞬後、圧力がなくなり、髪の毛を掴まれる。ひぃぃ。
「嘘つき」
しゃがみこんだ三島が俺を覗き込む。膝の間から縞パンが見えた。縞パンだ。三島が縞パンだ。踏みつけられた分くらいは取り返したといっていい。
「嘘じゃない」
「二宮が市瀬さんの妹に告白されたって聞いたわ」
「……まぁな」
「あの子を振って、私を盗聴しようとしたの?」
「そうだ」
「私が二宮と一緒にいるのを見たあの子が、盗聴器を仕掛けたんじゃなくて?」
「仕掛けた俺が自白してるんだ。根拠のない推理より確かだろう」
「嘘をつくなって言ってるのよ」
三島が俺の両肩に手を置いて、顔を近づける。きしゃあーっ。俺の目の奥から真実を探ろうとでも言うように。
「じゃあ、スイッチを入れろ」
「?」
「スイッチを入れろよ。そいつを仕掛けたのは俺で、聞くのも俺しかいない。それを証明してやる」
「……」
「いいか。そのかわり、納得したらここで聞いたことは忘れろよ」
「…わかった」
三島がスイッチを入れる。
すぅー。息を吸い込む。
「三島…実は、俺は…」
「な、なに?」
「おしっこが好きだ」
「は?」
「美少女のおしっこを飲みたいと常々思っている。夢は、美少女におしっこをかけられながら、ペットボトルに溜めた美少女のおしっこをラッパ飲みすることだ!」
一気に言う。
「ひぃっ?!」
三島が凍りつく。凍りつくがいいさ。
「それだけじゃない。そういえば言っていたな。そうとも!将来、彼女が出来たらエッチするときは、絶対に道具を使おうと思ってる。デートの途中で八百屋さんに寄る!」
「…や、やおや?」
しゃがみこんでいた三島が、理解不能をあらわす動揺を持って後ろに尻餅をつく
「そうだ!キュウリとナスを買う!」
「!?」
「わかったか?そう、キュウリとナスを使う!そして、その後で彼女にその野菜で手料理を作ってもらって食べたい!もちろん、デートの途中からお茶は沢山飲んでもらうんだ!おしっこ用に!あと、美少女が恥らっているのも好きだ。できれば、リモコンで動く何かをパンツの中に仕込んでデートとかしたい。つーか、そういうdvd買った!お気に入りだ!」
三島は、目を大きく見開いて、言葉もなく金魚みたいに口をパクパクさせている。この部屋に俺と二人だけでいることに恐怖を感じているかもしれない。
どーだ。すげーだろう。今までに読んだエロ漫画の知識を総動員した《ぼくのかんがえた、さいきょうへんたいさん》だぞ。むふん。
「どうだ?わかったらスイッチを切れ」
「…え?あ、ああ…」
衝撃のあまり、軽く前後不覚に陥っていた三島が、現実を認識して手に持った盗聴器のスイッチを切る。
「つまり、そういうことだ。今のを他の誰かに聞かれていたら、俺が終わるだろ」
「……本当に?」
「そうだ」
そう言って、ふたたび土下座姿勢にもどる。強気なのか、弱気なのか自分でもわからない。
「か、顔を上げなさいよ」
顔を上げる。床に正座して、両手を膝の上で軽く握る。
「本当に、あんたが仕掛けたの?」
椅子に座って、三島がもう一度たずねる。その瞳は動揺で震えている。そりゃ、そうだろう。スカトロ好きで、道具で女の子をいじめたい願望があるのだとカミングアウトした男が同じ室内にいるのだから。
「そうだ…」
「市瀬さんの妹じゃなくて?」
「なんで、美沙ちゃんがここで出てくるのか分からない」
三島が盗聴器を見せる。スイッチを入れる。
「もう一度聞くわ」
「なんだ?」
「二宮は、女の子と付き合ったら、なにをしたいの?」
「お茶を沢山飲んでもらって、キュウリとナスと電動のなにかでいろんなことをして、おしっこを顔にかけてもらいながら、胸で挟んでもらいつつ、顔に発射。最後はそのナスとキュウリで手料理をつくってもらって、女体盛り状態で食べたい。冗談ではなく、本気。あとお土産にはお漏らしした洗ってないパンツが欲しい」
スイッチを切る。
「増えたわね」
「まぁな」
口に出したら、どんどんエロ漫画の記憶がよみがえってきた。《ぼくのかんがえた、さいきょうへんたいさん》にオプションパーツが付加されていく。
かちり。
三島がスイッチを入れる。
「もう一度聞くわ」
「どうぞ」
「二宮は、女の子と付き合ったら、なにをしたいの?」
「ノーブラの白ブラウスとニーソミニスカ装備。パンツの中にリモコンで動く道具を仕込んでもらって、二人でお買い物。キュウリとナスと魚肉ソーセージを買ってから、ホテルに行って野菜やソーセージでいろんなことをしする。おしっこをパンツはいたまま顔にかけてもらって、胸で挟んでもらいつつ、顔に発射。手料理(キュウリ、ナス使用)を女体盛りで食べて、魚肉ソーセージを両側から二人でポッキーゲームのように食べたい。お土産はお漏らしした洗ってないパンツ」
「増えたわね」
「まぁな」
だんだん《さいきょうへんたいさん》を考えるのが楽しくなってきた。自分がソレだと言っていることさえ忘れていればだけど…。
「もう一度聞いたら、次はなにが増えるの?」
「『人肌に暖めたゼリー飲料を彼女の全身にかけて、それを丹念に舐める』が増える」
「……」
もう三島はなにも言わない。
三島が立ち上がり、両手を組む。
「分かってもらえたか?」
「わかったわ」
「で、お赦しいただけるでしょうか?」
たぶん、お赦しいただけない。《さいきょうへんたいさん》を社会に放つほど三島の正義感は緩くない。人生終わるかなー。なんとなく暢気にそんなことを思った。人生終わったら、どうしよう。
三島が、なにかを言いたげに息を吸い込む。そして、吐き出す。
「…いいわ。なかったことにしてあげる」
「気のすむまで、殴打してもいいんだぞ」
「それは、もちろんするわ」
もちろんするんだ。三島が掃除ロッカーを開ける。モップを取り出した。なるほど。なかったことにするけど、なきものにもするんだな。
「道具を使うのか?」
「二宮だって使うでしょ」
使い方が違うし、俺のは願望で可能性の低い未来だが、三島のは近い確実な未来だ。
「せめて、先端の金属部分は勘弁してもらえるとありがたい」」
「まぁ、道具は使わないでおいてあげる」
そう言って、三島が大きく手を振りかぶる。来る。容赦のない右フックだ。
ぱぁんっ!
意外にも乾いた音を立てる平手打ちが俺の頬を打ち抜いた。それでも、正座していた俺は横にすっとぶ。相変わらずスナップの効いたいい攻撃だ。
右の頬を打たれたので、起き上がって左の頬を差し出す。
ぱぁんっ!ぱぱぱぱぱぱぱ、ぱぁん!
機関銃のような往復ビンタだよ。ジーザス。
「…これでいいわ。ちゃらにしてあげる」
そう言って、三島はつかつかと扉を開けて出て行く。立ち止まり、振り返る。
「これ?どこに仕掛けたの?」
そう言って、盗聴器を投げてよこす。
「どこって…お前の部屋のベッドの裏だ」
三島の目が細められる。
「帰ったらそこも調べておくわ。それは、この部室で見つけたのよ」
自宅の最寄り駅の改札で父親とばったり出くわした。
「よぉ」
猫背で、ちょっとヘロヘロになった父親だ。しゃきっと背筋が伸びていて、泰然として決然としたダンディな市瀬家のお父様とは雲泥の差だ。
「父さん。今日は早いんだな」
午後九時に、もどっているのは父親にしては早い時間だ。
「お前は、遅いんだな」
「ちょっと、学校でね」
「学校エッチでもしてたか?」
「してねーよ」
「卒業してから一回くらいやっとけばよかったーって思うぞ。学校エッチ」
「ああ…それは、わかる」
「でも、高校生だからするなよー」
「どっちだよ」
「大人になると、頭が悪くなるんだよ。自分の言っていることすら、つじつまが合わなくなる」
住宅地の街灯の明かりに照らされた父親が寂しそうに笑う。いつものことだ。快活に笑ったりしない。市瀬家のお父様なら、どういう風に笑うんだろう。でも、今日はいつもよりも少し父親を近く感じる。
「それ、やべーよ。アルツハイマーだろ。この歳で痴呆になった親の介護とか嫌だぞ」
「どっちかというと多重人格だな。俺の中に、高校生のころの俺と、大学生のころの俺と、会社員の俺と、父親の俺と、父兄の俺がいて、違うことを言い出すんだ」
「そういうもんなの?」
「ああ。人は、大人になったりしないぞ。大人っぽくしてないといけなくなるから、そう演技するんだ。あとは…無謀なことをする元気がなくなるから大人っぽくなるだけだ」
元気がなくなっているというのは、納得だ。父親はいつも疲れてる。
そこまで話したところで、家が見えてくる。
父親の中の高校生か大学生に聞きたいと思う。
「じゃあ、高校生と大学生の父さんに聞くよ…。なんでそんな仕事ばっかりでいいんだ?」
「母さんが、俺の家にいて手料理作ってくれるからな」
「それだけ?」
「お前は女子高生の母さんを知らないから、この萌えっぷりがわからんのだ。母さんと俺の立場を、学校の同級生とお前に置き換えてみろ」
想像してみる。
家に帰ると美沙ちゃんがいて、手料理を作って待っている。夜は『そろそろ寝よっか?』とか言って一緒の部屋に行くのだ。
ほほぅ。いいかもしれない。
「わかる…」
「しかも母さんは、真面目な委員長キャラだったからな。真面目な委員長にナマナカで子供を二人も孕んで産んでもらうとか、もうすげーだろ」
なるほど。父親の中の高校生に聞くと、こうなるのか。
「やめろ。ドン引きだ…」
十二月は寒いな。コートの下で全身に鳥肌を立てて、家にもどる。
まぁ、少なくとも父親が幸せなのが分かってよかった。
翌日、いよいよ明日の終業式が終われば冬休み。
教室で、ついつい三島の様子を気にしてしまう。三島は、ほぼいつも通りだ。とはいえ、向こうも気にはなるらしくて、授業の途中で幾度か目が合ってしまい、なんだかお互いに気になる男女みたいになってしまった。
家に帰っても、エアコンは壊れたままだ。昨夜、両親にエアコンの修理のことを言ったら、父さんが交渉すると言っていた。なんのことかと問うと、妹の部屋のエアコンも粉砕されて弁償の対象だ。だから室外機一台でエアコンを二台つけられるモデルにすれば安上がりになるということだった。
つまり、早く妹の部屋が直らないかなぁってことだ。
なにも事態は変わってない。
妹もまだ帰っていない。母親もパートから帰ってきていない。大きな居間を、俺一人のために暖めるのも気が引ける。出かけてしまおう。今の自宅は外とあまり気温が変わらない。
どこに行こうかと思案しながら、駅前までやってくる。スイカで改札を通る。そうだ。真奈美さんのところに行こう。部屋に遊びに来てと言われて行っていなかったのを思い出した。
「おじゃましまーす」
「あら。いらっしゃい、直人くん」
市瀬家に行くと、美人のお母さんが迎えてくれた。タートルネックの黒の縦セタ。市瀬姉妹美人遺伝子の祖である。二階に上がると、美沙ちゃんの部屋から妹と美沙ちゃんの声が聞こえてくる。どうりで見慣れた靴が玄関にあると思った。あいつも寒いから帰ってこなかったんだな。
真奈美さんの部屋のドアをノックしようとしたところで、自動的にドアが開いた。隙間から真奈美さんが覗く。
「や、やあ」
無言で、部屋に招き入れてくれる。暖かい部屋だ。エアコンって素晴らしいなぁ。
真奈美さんが用意してくれたクッションに座る。
すりすり。
背中に真奈美さんがのしかかってくる。いつものことだけど、やっぱり背中に当たる控えめな柔らかさには慣れない。美沙ちゃんよりは小さめだけど、あるんだよな。
「冷たくなっちゃってる…」
「う…うん。外、寒いからね」
俺の部屋も寒いけどね。真奈美さんが、部屋を出て行く。漫画増えてないかな…。本棚を探る。増えてる増えてる。
クッションに座って、漫画を読んでいると真奈美さんがもどってきた。トレイにポットと菓子器を載せている。
「いただきます」
淹れてくれたお茶は、生姜とミルクの甘みのある飲み物だった。チャイだ。真奈美さんは、本当に真奈美シェフになれる。実は高校中退になっても大丈夫だったんじゃないかな。調理師の資格さえ取れば、喫茶店ができる。菓子器に盛られたクッキーも間違いなく手作り。
真奈美さんは俺の横にくっついている。体育座りで、大きめの本を画板代わりにしてちまちまと絵を描いている。
「真奈美さん」
「ん…?なぁにぃ…」
いつもより、さらにスローな声で答える。
「その、ノート」
「うん…」
「なにを描いてるの?」
「お話」
「どんな?」
「わかんない」
「わかんないの?」
「うん」
それっきり、会話が途切れる。別に居心地は悪くない。むしろ落ち着く。真奈美さんといると、お互いに黙っていても当たり前。そんな空気。
そのまま、一時間も経っただろうか。漫画を一冊読み終わる頃。真奈美さんが口をひらく。
「なおとくん…」
「うん?」
「こんど…」
真奈美さんは、部屋にいると安心しているのか、外で話すよりもはっきりと話す。そして、少し甘えたような声音になる。
「いっしょに、おふろはいりたい」
「それは、高校生の、男女は、しては、ならない、ことだと、思う」
俺もゆっくりと、一語ずつはっきりと発話する。動揺を悟られないように。
「なんで?」
はて?なんでだろう?しばし、答えに窮してしまう。
美沙ちゃんと一緒に入ってはいけないのは間違いない。お風呂に入る前と入った後で、たぶん違いが発生してる。過ちが起こらなかったとしても、たぶん脳内保存した映像で美沙ちゃんをオカズにしてしまう。
ごめんなさい。お風呂に入ってなくても、美沙ちゃんの水着姿の脳内保存はおかずにしたことがある。(自白)
あ、そうだ。写真返さないとな。
思考があちこちに飛ぶ。真奈美さんとだとどうなんだろう。なんだか小さな子供をお風呂に入れてやるようなものじゃないかという気もする。いや待て。小さな女の子と一緒に入る方が禁忌度が高いのか。でも、温泉とかだと小さな子供は、男女どっちの湯に入ってもいいことになっているよな。おかしいな。世の中いつから、そんなことになった?
いやいや。
真奈美さんと言っても、身体はセブンティーンなのだ。一緒にお風呂に入っちゃだめだろう。
けっして頭の中も子供ではないのだ。ズレてるだけだ。
それじゃあ心も身体も、むしろ俺より年上の女性じゃないか。なんで、真奈美さんは同い年の女の子と感じないんだ?俺よりも、ずっと辛い思いをして、その心の痛みは真奈美さんを強くして、おそらくは俺よりもずっと大人にしている。身体も心も真奈美さんは俺よりも大人だ。
ああ。そうか…。
「それは、エッチなことだからかな」
真奈美さんが、意味不明って目をする。顔は前髪の下だからわからない。
「エッチなことじゃないと思う」
いや。十七歳の男女が一緒に全裸でお風呂に入るのはエッチなことだと思う。あの妹ですら、昨夜は水着を着てから俺を攻撃してきたのだ。真奈美さんが首を傾げる。髪がさらさらと流れて、前髪の間の目も見えなくなる。ふと、聞いていいのかどうか微妙な疑問が浮かぶ。
「真奈美さん…えっと…」
「うん。なぁに?」
「エッチなこと…ってわかる?」
こくり。前髪をさらさらと揺らして頷く。
「わかるよ。美沙がなおとくんから借りたゲームとか漫画みたいなのがエッチなこと」
そのとおり。『りゃめぇえ!おちんぽミルクでりゅうー』はエッチなことだ。
カッターナイフを人に向けちゃいけないよって話をしたら、元グリーンベレーがコンバットナイフをカウンターに突き立てて『ナイフなら知ってるぜ』って言うくらいに話がかみ合ってない。
「いや。それもエッチなことだけど、女の子と男の子が一緒にお風呂に入ったりするのもエッチなことだと思うよ」
「そうなの?」
そう言って小首を傾げる。
やはりそうか。
真奈美さんは、中学校のころからいじめられていたと言っていた。中学生の頃から友達がいなかったのだと。保健体育の成績は留年や卒業に関係ない。そもそも、保健体育で教わることなんて、エッチなこととかあまり関係ない。
真奈美さんは、たぶんエッチな知識がほぼ完全に欠落してる。
小首を傾げて、肩を俺の胸に乗せてこちらを見上げる真奈美さんの瞳を見る。
エッチなこととか教えてあげるべきなんだろうか。
という問いが、脳裏をよぎってヤバさに気づく。はて?エッチなことを教えるというのは、女子高生を性開発するということなんじゃないかな?さすがに、それは俺の役目じゃないと思う。というか、そんなことを真奈美さんにする男がいたら、死なす。俺なら簡単。自殺ごー。
でも、じゃあ誰の役目なんだろう。男なら、友達、エロ本、エロ漫画、エロdvd、エロゲー、エロゲーで勝手におぼえていく。女の子なら、やっぱり友達なんだろうか。きっと友達と話したりしながら、エッチなことだけじゃなくて、恋のこととかも知っていくのだろう。そこで、ふと気づく。真奈美さんの部屋にある漫画。少女マンガが少ない。SF漫画や、ダークファンタジー漫画、バトル漫画、チャンバラ劇、いろいろあるが恋愛ものが妙に少ない。
真奈美さんの、中学時代。
そして同じ学校に一年いて、俺だって真奈美さんがいることを知らなかったくらいの高校一年。
真奈美さんは思春期を迎えてから、エッチな話どころか、一度だって友達と恋の話をしたこともないのかもしれない。高校二年生の女の子が。
「真奈美さん」
気がつくと、真奈美さんのジャージに包まれた背中を撫でていた。抱き寄せたジャージの襟元から、真奈美さんの匂いがする。
ぎゅっ。
細い身体を抱きしめる。いつも、真奈美さんが俺にするように。
すりすり。
真奈美さんも身体を寄せてくる。俺の首に手をまわす。抱き寄せながら、抱き寄せられる。
あ…。
胸に柔らかな圧力。
まずい。なにしてるんだ…俺。
気づいて、身体を離す。
「こういうのも…たぶん、ちょっとエッチなことかもしれないから」
十五センチ先にいる真奈美さんに呟く。
そうだよ。真奈美さんが普通になっていくためには、こういう風に俺に抱きつきまくるのもやめないと。寂しいけれど、一度やめないと。一度やめて、もう一度、普通になってから…。普通になってから?なにを俺は希望しているのだろう。自分がわからなくなってくる。
くすくす。
真奈美さんの半分の唇と目が笑う。
「…エッチなことって…嬉しいね。一緒にお風呂入るのもエッチなことだね…」
首に回されたままの腕が俺を引き寄せる。
「だってきっと、なおとくんと入ったら嬉しいから…」
息が詰まる。妹みたいな真奈美さんが、年上のお姉さんになる。
「と…とにかく、い、今はだめだよ!」
狼狽した俺は、そんなことしか言えない。慌てて身体を引く。しっかりと抱きついた真奈美さんもついてくる。
「だめなの?」
「だめ!」
「なおとくんは…エッチなこと、嬉しくない?」
胸の鼓動が高くなる。真冬に汗が吹き出る。真奈美さんに翻弄される。
「嬉しいけど。だめだからね」
「…じゃあ、いつになったらだめじゃなくなるの?」
「わかんないよ」
親戚のお姉さんに悪戯された小学五年生だって、もう少しマシな反応だろう。搾乳調教だの、おしっこプレイだの言っててもリアルではこんなものだ。
「と、とにかく!一緒にお風呂はいるとか、だめ!そういう話も今は禁止!」
そう一方的に言い放って、真奈美さんの身体をそっと引き剥がす。
さらりと前髪が落ちて、真奈美さんの顔を隠した。
「…なおとくん」
「な、なに?」
「おねがい」
「なにが?」
「もう一度だけ、ぎゅってして」
なんなの?このお姉さんっぷり。
女の子って…こわいんだな。
(つづく)
説明 | ||
妄想劇場51話目。少し短め、今回の話は次回にちょっと繋がるので覚えておいてね。次回は、なるべく短いインターバルでアップします。 最初から読まれる場合は、こちらから↓ (第一話) http://www.tinami.com/view/402411 メインは、創作漫画を描いています。コミティアで頒布してます。大体、毎回50ページ前後。コミティアにも遊びに来て、漫画のほうも読んでいただけると嬉しいです。(ステマ) |
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