銀の槍、宣戦布告を受ける
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 博麗大結界が張られてからというもの、長きに渡って賛成派と反対派の抗争が続き、銀の霊峰はその収拾に追われていた。

 そんな忙しい毎日を送っていた将志が少ない休日を使って永遠亭に来てみると、突然輝夜に呼び出された。

 

「……いきなり呼びつけてどうしたのだ、輝夜?」

「……将志、あんた少し私に付き合いなさい」

 

 唐突な一言に、将志は訳が分からず首をかしげた。

 

「……何がしたいのだ?」

「……あの女の弱点を教えなさい」

「……はあ?」

「あの女、妹紅の弱点を教えなさいって言ってるのよ」

 

 輝夜は不機嫌そうに将志にそう要求する。

 その様子から鑑みるに、どうやらまたこっぴどくやられたようであった。

 将志は困ったように頭を掻いた。

 

「……要するに、妹紅に何としても勝ちたいから弱点を教えろと、そう言いたい訳だな?」

「そうよ。あんたも妹紅と結構戦ってるんでしょ? なら分かるわよね?」

「……確かに分かる。妹紅の癖も弱点も、確かに俺は把握している」

「なら、教えてくれる?」

「……いや、教えない」

 

 輝夜の要求に、将志は首を横に振る。

 それを見て、輝夜は俯いた。

 

「……何でよ」

「……理由は簡単だ。それはあくまで俺から見た弱点だからだ。一つだけ妹紅の特徴を挙げるとするならば、その攻撃の特性上、攻撃の際に炎で視界が悪くなると言う点がある。俺はその炎の影に隠れて移動をして攻撃を出来るわけだが、恐らく輝夜はそれほど速くは動けまい。それに、輝夜と妹紅の間にはどうあっても覆せないものがある」

「……経験、か」

 

 輝夜は俯いたまま、悔しそうにそう呟いた。

 それを聞いて、将志は頷いた。

 

「……そうだ。輝夜と違って、妹紅は今日に至るまで妖怪退治をして様々な経験を積んで来ているし、現在では俺と戦うことで更に力を伸ばしている。この差を埋めるのは生半可なことではないぞ?」

「それでも、今みたいに軽くあしらわれるのはもう嫌なのよ! ついでに言えば、六花にだって一泡吹かせてやりたいわ!」

 

 輝夜は顔を上げるとあらん限りの声で叫んだ。今までやられっぱなしだったのが余程堪えていたのだろう。

 それを聞いて、将志はため息をついた。

 

「……妹紅はともかく、六花は厳しいぞ。そもそも、だ」

 

 そういうと、突然輝夜の目の前から将志が消え失せた。

 

「……あれ?」

 

 輝夜は何が起こったのか理解できずに、目を瞬かせた。

 

「……これに反応できないようでは、六花の相手は務まらんぞ?」

「きゃあ!? い、いつの間に後ろに立ったのよ!?」

 

 唐突に背後から聞こえてきたため息混じりの声に、輝夜は思わず飛び退いた。

 それを見て、将志は額に手を当てる。

 

「……さっき目の前で移動しただろう? ちなみに、今のは妹紅なら恐らく反応できるだろうな。それが経験の差だ」

「うっ……そ、それでもやられっぱなしは嫌! 何とかならないの!?」

「……何とかしようにも、俺は輝夜がどれほどの強さなのかを知らない。まずは試しに俺と戦ってもらうが、それでいいか?」

「良いわ。それじゃあ、早速始めましょう」

 

 そういうと、輝夜は庭に出て行った。

 将志はそれを追って庭に出ると、思い出したように輝夜に話しかけた。

 

「……ああ……先に言っておく、俺の動きを読もう等と考えるな。とにかく全力で向かって来い」

 

 将志がそういうと、周囲の空気が一瞬にして変わる。まるで前から空気の壁が迫ってくるような、重苦しい感覚が将志から伝わってきたのだ。

 その威圧感に気圧され、輝夜は一歩後ずさる。

 

「え、ええ。分かったわ」

 

 輝夜は何とか将志にそう答えると、攻撃を始める。

 戦闘の内容は輝夜の攻撃を将志が避け続けるだけのもので、輝夜に攻撃が加えられることは無い。

 輝夜は色とりどりの弾幕で将志を攻め続けるが、結局当たることは無かった。

 将志の合図で戦闘は止められ、再び庭に下りる。

 

「……どう?」

「……なるほど、内包する力自体は妹紅よりはるかに上か。だが、力はあってもその使い方が悪いと言うところだな」

 

 将志が感じ取ったのは輝夜の持つ潜在的な霊力である。

 輝夜は霊力と言う点では妹紅よりも遥かに強い力を蓄えられていたのだった。

 しかし輝夜は戦いなれていないため、その力を上手く扱えていないというのが将志の抱いた感想であった。

 

「それで、私はどうすればいいのかしら?」

「……俺が輝夜のような状態で戦うとするならば、相手の動きを常に見られる状況に持っていく。輝夜の場合は遠くから相手に向かって攻撃する形になるだろうな」

「そのためにはどうすればいいの?」

「……それを考えるのは俺の仕事ではない。俺が言ったところで、それが輝夜の戦い方に適しているかと言うと必ずしもそうとは限らん。そのあたりのことは実際に戦って覚えていくしかない。霊力の扱いに関してもそれは同じだ」

「じゃあ、将志はその相手をしてくれるの?」

「……ああ、しようとも。俺としても、輝夜には万が一の時のために自衛の手段を持っていて欲しいからな。俺のほかにも、主やてゐ等に頼んでみるのもいいだろう」

 

 将志は輝夜の質問に順番に答えていく。

 そして輝夜の質問が全部終わったのを確認すると、視線を縁側に移した。

 

「……ところで、先程からこちらをじっと見てどうしたのだ、主?」

 

 将志が眼を向けた先には、将志のことをジッと眺める永琳の姿があった。

 将志と輝夜は永琳のところまで歩いていく。

 

「いえ、いきなり輝夜が将志のことを呼び出したからどんな用なのか気になっただけよ。ところで、将志は誰かに負けたことはあるのかしら?」

「……あるぞ。初めのころは愛梨に負け越していたし、今も何故かは分からんが勝てない相手が一人居る。もっとも、それ以外にはそうそう負けはしないがな」

「それって相手の攻撃を全部避けきれるってことよね?」

「そりゃ攻撃が来る方向と位置をあらかじめ分かっていれば避けられるわよ。あんたの能力、正直チートだもの」

 

 輝夜はため息混じりに将志を見やりながらそう呟く。

 それを受けて、将志はキョトンとした表情を浮かべた。

 

「……『悪意を感じ取る程度の能力』のことか? これは長いこと修行を続けて得たものなのだが……」

「どんな修行を積んだのかしら?」

「……最初期は目隠しをしたまま愛梨達と戦っていたな。眼の見えない状況で愛梨達や恐竜などと戦っていくうちに、ある日突然全身の感覚が冴え渡るような感じがしてだな。これ以来、眼をつぶっても前後左右上下ほとんどの攻撃を察知できるようになったのだ」

 

 将志は当時のことを懐かしむように修行内容を話す。

 その修行内容を聞いて、輝夜は呆れたようにため息をついた。

 

「よくもまあそんなことする気になったわね」

「……せざるを得ない状況であったからな。何しろ、俺は一撃を軽くでももらったら致命打になりかねないのだから」

「本当にね。頭に豆腐が当たっただけで失神した時はどうしようかと思ったわよ。私も匙を投げるしかなかったわ」

 

 将志の言葉に今度は永琳が苦笑いを浮かべた。

 それを見て、輝夜はもうなんともいえない表情を浮かべた。

 

「……永琳が将志関係で匙を投げるってことは、もう本当にどうしようもないのね。というか、豆腐の角で頭ぶつけて気絶って……」

「……初めのうちはアグナに飛びつかれては気絶したものだ。段々と受身を取れるようになって何とか受け止められるようにはなったが、そこまでが長かったな……」

 

 将志は当時の苦労を思い出して苦笑する。

 その様子を永琳はジッと眺めていた。

 

「……それっ!」

「……っと」

 

 突如飛びついてきた永琳を、将志は勢いを受け流すように一回転しながら抱きとめる。

 その回転で永琳が飛んでいってしまわないように、将志はしっかりと永琳を抱きしめた。

 

「……いきなりどうかしたのか、主?」

「何となくやってみたくなっただけよ。それにしても、何で避けようとか思わなかったのかしら?」

「……避けるとアグナは泣きそうになるのでな。それに、今のように主がこうするかもしれない。そう思うと克服する必要があると考えたからだ」

 

 将志がそう言うと、永琳はハッとした表情で将志を見やった。

 

「それって……」

「……まあ、端的に言えば主のためではあったな」

 

 将志は気恥ずかしそうに腕の中に居る永琳から眼を逸らしながらそう言った。

 

「そう……そういうことなら時々飛びつかせてもらおうかしら?」

 

 それを見て、永琳は嬉しそうに笑って抱きついた。

 

「将志、コーヒーちょうだい。とびっきり濃い奴」

 

 そんな二人を見て、輝夜はうんざりした表情で将志にそういうのだった。

 それを聞いて、将志は永琳から体を離した。

 

「……コーヒーと言えば、生豆がちょうど手に入っていたな。待っていてくれ、すぐに淹れてくる。主はどうする?」

「いただくわ。そういえば、てゐが居ないわね。どうしたのかしら?」

「てゐなら、今頃罠の改良でもしてるんじゃない? 今日もまた将志が無傷で通り抜けてきたわけだし」

 

 部屋の中を見回しててゐを捜す永琳に、輝夜はそう言った。

 それを聞いて、将志は苦い表情を浮かべる。

 

「……最近、その罠の仕掛け方がどんどんえげつなくなってきている気がするのだが……あれでは迷い込んだ人間が悲惨な目に遭うぞ?」

「ああ、あれはあれでいいのよ。今のところ悲惨な目に遭うのは妹紅だけだから」

 

 将志の言葉に、心底愉快そうに輝夜は笑った。

 どうやらてゐの罠に嵌りまくる妹紅の様子が面白くてたまらないらしかった。

 ……実は、罠に掛かった妹紅の鬱憤は輝夜を叩きのめすことで解消されているのだが、それを知らせるのは酷というものであろう。

 

「ひめさま〜」

 

 将志達が話をしていると、人型のウサギが一人入ってきた。

 

「あら、貴方どうしたの?」

「てゐさんから伝言で、落とし穴にいのししが掛かったからはりなおしに行ってくる、だそうです」

「ちょうど良いわ。今日は将志も居ることだし、猪料理にしましょう」

 

 舌足らずな口調で話すウサギに、輝夜はそう言って返す。

 そんなウサギを見て、将志は首をかしげた。

 

「……ふと思ったのだが、ここに居るウサギ達は普段食事とかはどうしているのだ?」

「それは各自で取るようにしているわ。ちょうど小鍋も多いことだし、時間を決めて交代で作れば問題はないでしょう?」

「……ふむ」

 

 永琳の言葉を聞いて、将志は考え込んだ。

 そんな将志の顔を永琳は覗き込む。

 

「将志? どうかしたのかしら?」

「……いや、どうせならここで料理教室を開いてみようかと思ってな。ウサギ達も食事当番を決めて料理をすれば仕事の効率も上がるだろう?」

「あの、私たちにお料理教えてくれるですか?」

 

 将志と永琳が話していると、ウサギは将志に話しかけてきた。

 それを受けて、将志はウサギに答えを返す。

 

「……ああ。なに、心配することは無い。菜食主義者だったとしても、ちゃんとそのための献立を俺は知っている。だから安心してくれて構わないぞ」

「あ、いえ、できるなら普通の料理がいいです」

「……む? てっきり野菜しか食べないと思っていたが、気のせいだったか」

「あの、私たちはそうですけど、ひめさま達にも食べてもらいたくて……」

「……そうか。小さいのにえらいな」

「あ、あう〜……」

 

 将志は体の小さなウサギの頭を優しく撫でる。

 するとウサギは顔を真っ赤にして俯きながらそれを受け入れる。

 

「……よし、それなら野菜だけの料理と普通の料理を両方用意しよう。期待して待っているがいい」

「あ、は、はい……じゃ、じゃあ、失礼しますっ」

 

 ウサギはそう言うと駆け足で部屋を出て行った。

 

「……ははっ、健気なものだな」

 

 将志はそれをほほえましいものを見る表情で見送ると、コーヒーを淹れに台所に入っていった。

 そんな将志を、唖然とした表情で見つめる約二名。

 

「……ねえ、えーりん。将志って、実はものすごい女誑しなんじゃ……」

「……話には聞いていたけど、本当に息を吐くように口説き文句が出るのね。実際に、つい最近も人狼のメイドを口説いて領主から攻撃を受けたそうよ」

「ひょっとして、プレイボーイ?」

「それは違うみたいね。将志は自分の言葉が口説き文句だって気がついていないみたいだから」

「……それ、なおの事性質が悪いじゃない」

「……料理教室で被害者が出なければいいけどね……」

 

 将志の言動に、二人はそう言いながら深々とため息をついた。

 なお、永琳が何故外での将志の諸行を知っているのかといえば、愛梨やたまに将志のことで相談に来る藍から聞いているからである。

 そんな二人を他所に、将志がコーヒーとお茶請けの菓子を持ってきた。

 

「……コーヒーが入ったぞ。それからワッフルを作ったから食べてくれ」

 

 お盆の上に載っていたのはコーヒーと、生クリームにラズベリーのソースが掛かったワッフルだった。

 

「あら、このワッフルの上のソースはラズベリーかしら?」

「……ああ。人狼の里で栽培されているものでな。なかなかに質が良かったから買ったのだ」

「それにしても、将志ってこんなお菓子も作れるのね」

 

 ワッフルを食べて、輝夜がそう感想を述べる。

 今まで将志が作っていたのは日本茶に合わせた和菓子が多かったため、あまりこの様な洋菓子を作る機会が無かったのだ。

 

「あら、将志は道具と材料さえ揃えば何でも作れるわよ? 将志が作ったお菓子には飴細工で飾られたフルーツタルト何て言うのもあったわよ?」

「……人狼の里には今まで手に入らなかった果物や乳製品も結構見られるからな。洋物の菓子もこれからは作れるぞ」

 

 それを聞いた瞬間、輝夜の眼が輝き始めた。

 

「それじゃあ、ザッハトルテとか食べてみたいんだけど、作れる?」

「……チョコレートが手に入りづらいから、いつでもと言うわけには行かないな。手に入り次第作らせてもらおう。さて、俺は少し外に出るとしようか」

 

 将志はそういうと、部屋から出て行こうとする。

 その将志に、永琳が声をかけた。

 

「どこに行くのかしら?」

「……てゐの力じゃ、落とし穴に掛かった猪を取り出すのは厳しいだろうからな。手伝ってくる」

 

 将志はそう言うと、外へと向かっていった。

 その日の夕食は、豪勢な猪料理だった。

 

 

 

 

 夕食後、しばらくいつもの面子で語り合い、全員が寝静まった夜。

 将志は一人庭で自らの半身である銀の槍を振るっていた。

 

「……ふっ」

 

 月明かりに照らされて白く輝く銀が空中に線を引く。

 次から次へと繰り出される槍は、夜の庭に銀色の芸術を作り上げる。

 

「……はあっ」

 

 将志は最後に無駄を全て取り払った真っ直ぐな一突きを繰り出した。

 それが流星のように一条の光を放った後、将志は槍を納めた。

 

「終わったかしら?」

「……ああ。今日の分は終わりだ」

「そう……それじゃあ、少し付き合ってもらって良いかしら?」

「……ああ、いいぞ」

 

 酒瓶と杯を用意して待っていた永琳の居る縁側に、将志は座る。

 将志が隣に座ると、永琳は将志の杯に酒を注ぐ。

 

「最近はどう? 随分と忙しそうだけど」

「……博麗の大結界の騒動の後からどうにも小競り合いが多くてな……それの仲裁や処理に負われているよ」

「……無理はしないでね。何となくだけど、疲れて見えるわ」

「……そうか? 俺としてはそんなに疲れているような感覚は無いのだが」

 

 心配そうに話しかける永琳に、将志は意外そうな表情でそう返す。

 それを聞いて、永琳は首を横に振った。

 

「疲れって言うものはそういうものよ。気付かぬうちに疲れが溜まっていて、いつの間にか倒れてました何ていう事例もあるのよ? 疲れを感じないからって油断は禁物よ」

「……そうか。そういうことならもう少し休みを増やすことにしよう」

「そうしなさい。あなたは少し根をつめ過ぎるところがあるわ。少し休みが多いと思うくらいがちょうど良いと思うわよ。何なら、その休みに私が体の状態をチェックしてもいいわよ?」

「……ならば、その言葉に甘えさせてもらうとしよう。俺が倒れると周囲も混乱するだろうからな」

 

 定期的な診察を勧める永琳に、将志は頷いた。

 それを聞いて、永琳は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 彼女にとってそれは将志と会う頻度が増えることになるのだから、それが嬉しいのだろう。

 

「了解。これからは定期的にここに来ること。ちゃんと休めているか確認させてもらうわ」

「……頼む」

「……ところで、主は……」

「鏡月?」

 

 自分のことを主と呼ぶ将志に、永琳はこの場の二人だけが知っている将志の本当の名前で呼びかける。

 それを聞いて、将志は永琳の言いたいことに気付いて頭をポリポリと掻いた。

 

「……××は退屈していないか? ここにずっと居ては娯楽などとは無縁だろう?」

「全然。あなたが居るだけで毎日が楽しいわ。会えない日だって、会える日を想うだけで退屈しない。だから気にすることは無いわよ」

 

 そう言いながら永琳は将志の膝の上に移動する。

 将志はそれを黙って受け入れながら酒を飲む。

 

「……そうか。それは何よりだ」

「でも、強いて文句をつけるならもう少しこまめに来て欲しいわ。退屈はしなくても、鏡月が居るのと居ないのとでは大違いなんだから」

 

 将志の首に腕を回しながら、永琳は将志に文句を言う。

 それを聞いて将志は苦い表情を浮かべた。 

 

「……出来る限りの努力はしよう」

「約束よ? あんまり疎かにしていると、私拗ねるわよ?」

「……疎かになどするものか。仕事がなければここに来るさ」

「それじゃあ足りないわよ。仕事があってもここに来て欲しいわ」

 

 永琳は自信を持ってそう言いきる将志にそれでも足りないという。

 それを聞いて、将志は困った表情を浮かべた。

 

「……流石にそれは無茶というものだろう……」

「む……私と仕事どっちが大事かしら?」

「……××が大事だからこそ仕事をするのだが……」

 

 わがままを言い続ける永琳に、将志は困り果てた。

 そして、どう説明すればいいのか考え込んだ。

 

「ふふふ、分かってるわよ、鏡月。あなたが頑張っているおかげで、ここには人も来ないし強い妖怪も流れてこない。お陰で私達のことは噂にもなっていないのでしょう? それくらいのことはちゃんと分かっているから我慢するわよ」

 

 そんな将志の様子を見て、永琳は笑みを浮かべた。

 永琳は首に回した手に力を込め、将志の頭を口元に引き寄せる。

 

「その代わり、来た時には思いっきり甘えさせてもらうわ」

「……その言葉、毎回言っていないか?」

 

 耳元で囁かれた言葉に、将志は苦笑した。

 

「だから言ってるでしょう? 今のままじゃ足りないのよ。一が手に入ると十が欲しくなるし、十が手に入ると百が欲しくなる。私があなたに満足することなんてきっと無いわよ」

「……それは困ったな。俺が主の為に一度に割ける時間には限りがあるのだが……んっ」

 

 困り顔を浮かべる将志の口を、永琳が口付けで塞ぐ。

 永琳は将志の唇を吸い、甘噛みする。

 

「……ちゅ……もどかしいわ。月に行くまでは鏡月の全てが手に入れられていたのに……今は時折会いに来るあなたにこうして甘えることしか出来ないわ」

「……だが、おかげで飽きないだろう?」

「毎日だって飽きないわよ。私は今でもあなたにここで暮らして欲しいと思っているもの」

「……そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

 永琳は愛おしそうに将志の頬を撫でながら願望を訴える。

 二人の顔は近く、少しでも顔を前に動かせば唇が触れ合う距離であった。

 

「……ところで、あなたキスされても全然動じなくなったわね?」

「……それは今まで散々にされてきたからな。アグナや藍はかなりの頻度でしてくるし、最近では愛梨も好奇心からかしてくるようになったな。特にアグナはこちらが参ってしまうほど求めてくる。まあ、流石にそれだけされれば慣れもするさ」

「ふ〜ん……そう……」

 

 こともなげに言いきる将志に、永琳は少し冷ややかな視線を送る。

 一方の将志は、何で永琳にそんな視線を送られるのか良く分かっていないようである。

 

「……××?」

「ねえ、鏡月。私もアグナみたいに甘えても良いかしら?」

「……何? んむっ……」

 

 永琳は悪戯っぽく笑ったかと思えばいきなり将志の唇を奪った。

 

「……どうしたのだ、いったいっ」

 

 訳が分からず問いかけようとするが、永琳は将志にしゃべる時間を与えない。

 しばらく口を塞ぎ続けた後、永琳は熱のこもった瞳で将志の眼を見つめた。

 

「……私ね、あなたに関することは何でも一番になりたいのよ。それが例えあなたにキスした回数だろうとね……んっ」

 

 それだけ言うと、永琳は再び将志の唇にキスをする。

 永琳のキスは唇、頬、鼻の頭と色々なところに落ちて行く。

 それに対して、将志は永琳の唇に人差し指を押し当てることで一度その動きを止める。

 

「……はぁ、落ち着いてくれ、別に逃げはせん。何か焦っているように見えるが、何事だ?」

「だって、悔しいじゃない……本当なら私が一番付き合いが長いはずなのに、色々なことを先に越されてる。私はその分を取り戻したいのよ……ちゅっ」

 

 永琳はトロンとした眼を潤ませながら将志の唇を吸う。

 

「っ……そんなに悔しいものなのか?」

「ええ、そうよ。私、こう見えて独占欲は強いほうよ?」

 

 永琳はそういうと、将志に笑いかけた。

 首に回された手は将志を逃がすまいと力が込められている。

 

「私はあなたの主の座と、親友と言う肩書きと、『鏡月』という名前を持っているわ。でも、私はそれじゃあ足りないわ。いつか私はあなたの全てを手に入れてみせる」

 

 永琳は熱に浮かされた眼で将志の眼を見つめる。

 手のひらはそっと頬を撫で、唇からは熱い吐息がこぼれる。

 その上気した表情は、これ以上無く艶かしいものだった。

 

「……覚悟は良いかしら、鏡月?」

 

 永琳はそういうと、将志にそっとキスをした。

 それは永琳の、将志に対しての宣戦布告であった。

 

 

 * * * * *

 

 ここの永琳は独占欲が強いほう……と言うか、よく考えなくても最強クラスに独占欲が強いってば。

説明
日々の激務の合間を縫って、主の待つ永遠亭へと向かう銀の槍。久々に訪れたその場所で待っている出来事は。
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コメント
クラスター・ジャドウさん:妹紅はともかく、六花のレベルは鬼を容易く蹴散らすレベルですからね。ろくに訓練を積んでいない状態ではまず勝てないでしょう。輝夜はこの頃から何か不憫な属性が付き始めましたねw あと、イノシシを家畜化したのが豚ですけど、その肉質は大違い。昔の人はどれほどの品種改良を重ねたことやら……(F1チェイサー)
神薙さん:ムチャシヤガッテ……(AAry(F1チェイサー)
…う〜む、やはりニート姫には、六花や妹紅の相手は厳しいか。将志や永琳ならヘマはせんだろうが、下手な自主連で永遠亭の場所がバレたら大事だし…。…そして、二人の空気に中てられる輝夜w そう言えば余り知られてないけど、猪を家畜化したのが豚なんだそうですな。(クラスター・ジャドウ)
そりゃあ、想ってきた年月が凄まじいからな〜…なんといってもうん億ね(ピチューン!(神薙)
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