23 濡れちゃいましたね………、すずか様。
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●月村家の和メイド23

 

すずか view

 

 カグヤちゃんが帰ってこない。

 いつまで待っても帰ってこない。

 すぐに帰ってくるって言ってたのに、二日も経ってしまった。

 お姉ちゃん達も心配してる。

 携帯電話には何度も電話したけど、いつまで経っても出てくれない。

 きっと何かあったんだ。それもとっても辛い事が! 御姉さんに罪悪感を抱く何かが!だって、カグヤちゃんはずっとそれで悩んでいたんだもん!

 もしカグヤちゃんが一人で塞ぎ込んでいるのなら、私がカグヤちゃんを助けてあげなきゃ!

 

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なのは view

 

 カグヤちゃんが帰ってこないらしい。元気の無いすずかちゃんからその話を聞いて、私も空いてる時間に探そうとして見たけど、全然見つからない。そもそも、私が知ってるカグヤちゃんは、いつもすずかちゃんの隣に居て、それ以外の時、何をしているのかなんて解らなかった。

 一人で探すのに限界を感じて、私は龍斗くんに相談しに行ったけど、八束神社には龍斗くんじゃなくて、別の女の人がいた。

「龍斗のお友達?」

「あ、はい! あの、龍斗くんは?」

「何でも友達を探すとか言って出て行ったよ?」

 どうやら龍斗くんもカグヤちゃんの事を何処かで聞いて探してたみたい。そう思うと、なんでだろう? 何だかちょっと暗い気分です。同じように友達の事を心配してるだけなのに、なんでこんな嫌な気分になるんだろう?

 私はちょっと、今日の自分が嫌いです。

 

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龍斗 view

 

 『狐』は既に管理局から帰ったという知らせが来ていた。龍脈の結界も調べてみたけど、戻ってきているのは間違いないんだ。なのに、どうしてカグヤちゃんは月村の家に帰っていないんだ!?

 混乱した俺は、管理局の医師に問い合わせて、診断結果を聞き出した。それで全部分かった。カグヤちゃんは二度と魔術が使えない事を知って、心の箍(たが)を外してしまったんだ。決して外してはいけない、支えと言う名の箍を。

 思い出すのは入院中、夜中の病棟で銀月を眺めていた『誰か』。

 思い出すのは翠屋で治ると知って安堵したカグヤちゃんの姿。

 ………助けなきゃ!

 どちらの姿を見ても、今のカグヤちゃんが相当のダメージを負っている事くらい想像がつく。今彼女を一人にしちゃいけない!

 でも、カグヤちゃんは、一体今何処に居るんだ?

 思い起こせば、俺達は互いに必要以上の干渉をしてこなかった。だから、こんな時、俺は彼女の行くあても解らないんだ。

 俺は、彼女の友達のつもりだったけど、もしかして……、まだ友達になれていなかったのかな?

 

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忍 view

 

 これは相当だと思った。

 あの子をずっと見て居て解ったんだけど、あの子はすずかに対してだけは、何か特別な物を抱いているような気がした。それを好意なんて簡単な言葉にまとめるつもりはない。そんな物と違って、アレはどちらかと言うと忠誠心に近いと思う。すずかの事がとても大事で、ただ大事で、だから全てを費やして守ろうとしていた。そして、それにすずかも応えようとして、努力して、いつしか二人の間には何か特別な絆が生まれたと、そう思っていたのに……。

 もし、今カグヤちゃんが、すずかの事を忘れるほどの何かに取り憑かれたのだとしたら、それを助けられるのは、たぶん私じゃ無理だ。私の元に恭也が来てくれたように、カグヤちゃんの前にも、きっとすずかが必要なんだと思う。

 ……でも、例えカグヤちゃんが帰って来たとしても、すずかの抱えている物は―――。

 

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カグヤ view

 

「 一つ 一つ一人きり 二つ 二重眼でも 三つ 三つ見つからぬ 」

 

 一人きりでは何も見えない。二重眼があろうとも、決してみる事はできない。

 

「 四つ 四つ夜明けには 五つ いつも消えて行く 六つ 六つ昔から 」

 

 夜明けさえも必ず消える。それはいかな時を経ても、遡っても変わってはくれない。

 

「 七つ 七つ曲がり道 八つ やっと八重咲きの 九つ此処で花を摘む 」

 

 此処七つの道選んだ先は、八重咲きの花が咲き誇り、命と言う名の花を、静かに摘む。

 

 そして―――、

 

「 十 とおとお終わりける 」

 

 その先には、何も残ってくれない。全てはまるで、意味が無い。

 

「……、僕はまだ……、曲がり道? それとも……、ここが終わり?」

 

 義姉さん。僕は―――、

 

「もう、どうでもいい……よな」

 

 考えるのは億劫だ。だから……考えるのは止めよう。

 

「……かさま」

 

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フェイト view

 

 初めてその子に出会った時、胸騒ぎがしたのを憶えている。どうしてかは解らなかったけど、何だか他人の様な気がしなかった。転校初日の質問攻めの時も、そっけないながらにフォローしてくれて、本当はすごく嬉しかった。なのはや、すずかやアリサとも違う。少し龍斗に似てるけど、やっぱり全然違う方法で、彼女は私の事を助けてくれていた。

 でも、あの子は何処か私を避けているようで、お話してみようとしても、自然な動作で避けられちゃう。それに気付いたのも、彼女がいなくなったかもしれないと言う報告を聞いて、思い返してやっとだ。

 あの子がいなくなった理由は解らないけど、あの子を心配するすずかを見ていると、どうしていなくなったんだろう? って疑問に思っちゃう。だって、心配してくれる人がいるのに、自分から消えるなんて事はないと思う。だから、きっと何かがあって、仕方なく帰れないんだと―――そう思おうとして、何故だろう? あの子の顔を思い出すたびに、本当は自分からいなくなってるんだって、そう思ってしまうのは?

「……もし、もう一度会う機会があったら、今度はちゃんとお話したいな」

 

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すずか view

 

「みつからないよぉ〜〜〜……」

 もう街中探している気がする。でも見つからない。

 ずっと走りっぱなしだった。運動には自信があったけど、さすがに足が痛くなってきた。

「カグヤちゃん……、何処……?」

 探さないと……、私が探さないと、カグヤちゃんはこのままいなくなっちゃう気がする。でも、あっちこっち探したのに見つからない。後探していない場所は―――、

「すずか? もしかしかして、カグヤちゃん探してるのか?」

 声に顔を上げると龍斗くんが私と同じように肩で息をしていた。龍斗くんも探してくれていたんだ。

「うん……、でも見つからなくて……」

「すずかで見つけられないのか……、これはいよいよ……」

 龍斗くんが何か真剣な表情で視線を外しながら目を鋭くする。何か嫌な事を考えちゃってる顔じゃない。っと言うより、何か心当たりがあって、それを懸念している感じに思えた。間違いかもしれないけど、それでも私は藁にもすがるつもりで問いかけた。

「龍斗くん、何か知ってるの?」

「え? えっと……」

 私の質問に、龍斗くんはとっても難しい顔をする。

 あ、この顔見覚えがある。カグヤちゃんが、初めて私に光る鳥さんを見せてしまった時の事、それについて質問した時、カグヤちゃんが同じような顔をして「東雲の仕事ですから、秘密にさせて下さい」って言った。

「龍斗くん、龍斗くんの名前って、東雲龍斗、だったよね?」

「え? なに? 一応そうだよ。あ、東雲は今だけ名乗ってる名前ね。色々訳ありだから」

「それってカグヤちゃんが使ってる力と何か関係があったりする?」

「!?」

 龍斗くんの顔が目に見えて変わった。

「するんだね。じゃあ、龍斗くんは私の知らないカグヤちゃんを知ってたりするの?」

「……悪いけど知らない。例え知っていたとしても、俺達(・・)は礼儀として、戒律として、『知らない』としか答えられない」

 カグヤちゃんと同じ。カグヤちゃんも私を巻き込まない為に、踏み込んだ内容を一切教えてくれなかった。私にはよく解らない事だったから、カグヤちゃんを信用していたから、だから私は聞かない。今も聞く気はない。だけど―――、

「東雲の事はいいよ、カグヤちゃんにも『聞くな』って止められてるから。でも、お願い! もし、私の知らない、カグヤちゃんが悩んでいる原因を知っているなら教えて! 少しでもヒントが欲しいの! 何か知ってるなら教えて!」

 龍斗くんは困った表情で私を見ていたけど、しばらく悩んだ後、「後でカグヤに叱られるかも……」って呟いてから教えてくれた。

「一応先に言っとく。心して聞いてね?」

「うん」

「カグヤの使っている力は、カグヤの御義姉さんから授かった物、らしいよ」

「カグヤちゃんの?」

「そして、以前の襲われた時の後遺症で、カグヤちゃんは―――二度とその力を使えなくなった」

「!?」

 それってつまり……、カグヤちゃんは大切なお義姉さんからの贈り物を―――、

 

『義姉さん……ごめん……っ! ……なさいっ……! ごめ……い……っ!』

 

 毎夜、カグヤちゃんが魘されていた悪夢の原因! お義姉さんへの謝罪!?

「そう……だったんだ……」

 やっと解った。カグヤちゃんはずっと、お義姉さんから貰った物を失くしてしまって、ずっとその事に罪悪感を覚えていたんだ。それなら、あの入院中の塞ぎ込んだ姿も納得できた。

「どうして……」

 どうして気付いてあげられなかったんだろう……? あんなに近くで、あんなにたくさんの時間を、あんなに一杯知っていたのに……。

「カグヤちゃん……!」

「すずか……、カグヤちゃんの居そうなな所に心当たりは?」

 私は首を振る。カグヤちゃんの居そうな場所は全部周った。

 一緒にお買いものしたお店も、一緒に遊んだ公園も、一緒に付き合ってもらった図書館も、一緒に帰った道のりも、私の知っている所は、全部周った。

 でも、何処にもカグヤちゃんはいない。

「居ないの……!」

 瞳から溢れる物に耐え切れなくて、私は見っとも無くボロボロと零していく。

 その姿に見兼ねたのか、龍斗くんは「今日はもう帰って休みなよ。俺ももう少し探してみるから」と言った。別に龍斗くんの言葉に従ったわけじゃなかった。でも、他にどうして良いのか解らなくなっちゃって、言われるままに家に帰ってきてしまった。

 家には誰もいない。お姉ちゃん達も皆カグヤちゃんを探してくれている。だから今はとても静かだった。玄関で立ちつくす私の耳には、耳鳴りのする静寂に、頭が痛くなりそうだった……。

 カグヤちゃん……、今何処に居るの?

 胸の内で呟いた時、耳鳴りが止んだ。代わりに外からシトシトと音が聞こえてくる。

 ああ、雨が降り始めたんだ……。そう言えばカグヤちゃんと初めて会った日も雨が―――!

 その時、私は玄関の傘入れに目が行った。そこには、二度、カグヤちゃんと一緒に入った傘が差し掛けて在る。

「―――! そうだ……! あそこだ……!」

 私は傘を掴むと、慌てて外に出た。雨が降り始めているけど、私は構わず足を動かす。傘を持ってるのに、差す事も忘れて。

 どうして思い出さなかったんだろう!? カグヤちゃんがお義姉さんの事で落ち込んでるって聞いた時、真っ先に思いつくべきだった!

 なのに、私はずっと最近のカグヤちゃんのことばっかり思い出して、出会う前のカグヤちゃんの事を忘れてしまっていた!

 カグヤちゃんが、もし未だにお義姉さんの想いに、お義姉さんの想いだけに、囚われているのなら、きっとまたあそこに戻るはずなんだ!!

 

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カグヤ view

 

 顔に降りかかる何かに気づいて目が覚めた。どうやらいつの間にか意識が飛んでいたらしい……。目を開き、何が当たっているのかと確認すると、それが雨だと解った。勢いからして長く続きそうだと思った。

 どうでもいい。

 もうどうでもいい事だ。

 無くした物は蘇らない。それは義姉さんの命で知ったつもりだった。だけど、残した物は守れると思っていた。だから大丈夫だと思っていたんだ。なにの、……俺は無くしてしまった。残してもらった物さへ……。

 もう本当に何も残って無い。

 義姉を奪われ、名を奪われ、誇りを奪われ、魔を奪われ、……『カグヤ』に何が残っていると言うのだ? 何も残っていないじゃないか。復讐の機会もこれで完全におジャンだ。もう意味が無い。

 もういい。

 何も考えたくない。

 止めよう……。

 終わりにしよう。

 俺も……義姉様の所に逝ってしまおう……。

 だから……、なあ? 喰って良いぞ? お前?

 

 突然、水を跳ねる大きな音がした。

 

 何故か胸が一つ弾け、身体が勝手にビックリした。

 音の方に視線を向けると、そこには雨と泥にずぶ濡れた、優しい少女が居た。

 どうして彼女が……すずかが此処に?

 ……いや、もうどうでも―――、

「―――ッ!!」

 すずかが持っている傘を投げ捨て、僕の胸倉を掴む様にして引き寄せた。

 体重差に負けて引き寄せきれず、互いに地面に膝を付けて膝立ち状態になる。

 すずかは手を放さず、荒い呼吸を落ち着かせることも出来ずにいるようだった。

 何か質問を投げかけるべきだろうか? そう思った時、すずかの方から言葉を紡いだ。

「一緒に……居てよ……」

「?」

「カグヤちゃんが、言ったんだよ……」

「……」

「今度は……、私から言う、よ……」

 すずかは顔を上げ、ボロボロに泣き崩した顔を痛々しく頬を紅潮させながら、告げた。

 

「『一人にしないで!』」

 

「―――」

 刹那、時間が止まった。

 すずかを一人置いてけぼりにして―――。

「一人に……しないで……、カグヤちゃんが……一緒に居てよ……!」

「―――! すずか……!」

 理解した。その瞬間、耐え切れずに抱きしめた。力を入れ過ぎて、折ってしまいそうなほどか細い身体を、それでも力一杯抱きしめた。

 やっと解った。今まで、分かった様で解っていなかった。

 僕が心の雨に降られていた時、すずかはずっと傘を差し掛けてくれていた。僕が雨粒の痛さに、耐えられなくなる前に、傍に寄せて助けようとしてくれていた。

 だけど、僕はそれを拒絶し続けていた。すずかの優しさが怖くて、目を逸らして逃げ続けていた。自分の知っている事だけで納得して、解った気になって、それだけで結論付けようとしていた。そして勝手に壊れようとしていた。

 だから、すずかは傘を投げ捨てて一緒に雨に濡れてでも助けようとしてくれている。今も、ずっと降る雨に曝されながら、それでもしっかりと僕を捕まえて居てくれる。僕を大切だと言って、僕を必要だと言って、僕を求めてくれる……。

「すずか……、ごめん……ごめんね……」

 やっと見えた……。

 背中を向け続けて、見ないようにしていた僕に、飛びついてまで視界に入ってきてくれて、おかげで見る事が出来た。

 すずかの、顔が……。

 額を合わせる。

「ごめん……、一人にして……、勝手に一人になって……、ごめんね……」

 囁いて……。

「もう、何処にもいかないから……、今度こそ、ちゃんと約束する……」

 告げる。

「僕と―――、俺と、ずっと一緒に居よう」

 すずかが、少し笑って、すぐに疲れたように表情が緩む。腕からも力が抜けて、それでも離すまいと俺の二の腕を掴む。

 俺も、そんな彼女の肘を掴み、互いに離れないように、しっかりと絡み合った。

「「ずっと、一緒に居よう」」

 

 この日、僕は『俺』を見つけた。

 

 この日、私は『カグヤくん』を見つけた。

 

 この日、二人は『共に雨に濡れた』。

 

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ひ、卑猥な意味じゃないんだからね………っ!
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