【小説】しあわせの魔法使いシイナ 『子猫のしてほしいこと』 |
綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。
街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。
綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。
今日は土曜日。
シイナも綾も学校は休みです。
今は昼下がり。
二人は中庭に出て、庭の草花に水をやっていました。
シイナの持つホースの先から、しゃらしゃらと水しぶきが飛びます。
ぱらぱらと水滴が草花にかかって、草花を潤していきます。
「るるる〜 ららら〜」
でたらめな鼻唄を歌いながら、シイナはホースの先をあちこちに向けます。
「ん?」
シイナが何か気付きました。
視線の先は塀の上へ。
「ミャ〜オ」
塀の上に、ちょこんと小さな子猫がいました。
「おや、君、どこから来たの?」
シイナは子猫に話しかけました。
「ミャ〜オ」
すとっ、と子猫は塀から中庭に下りてきました。
「シイナ、どうしたの?」
綾がシイナに声をかけました。
「この子が家に入ってきちゃった」
子猫の頭を優しく撫でるシイナ。
「あら、猫ちゃん」
綾は子猫をまじまじと見つめました。
「野良かしら、この子」
綾が言いました。
「首輪してないし、そうじゃない?」
シイナが答えました。
「どこから来たの、君?」
シイナが子猫に向かって言いました。
「ミャ〜オ」
子猫は鳴き声で答えるだけです。
「どこかから迷い込んできたのかな」
綾が言いました。
「ミャ〜オ」
子猫が二人に向かって、甘えるような鳴き声をあげました。
「あ、もしかしてお腹が空いてるのかな? ちょっと待ってて」
シイナはガラス戸を開けて、キッチンへ行きました。
「ほら、お食べ」
シイナはチーズを一切れ、子猫の前に差し出しました。
子猫はくんくんとチーズの匂いを嗅いだあと、
「ミャ〜ン」と鳴いただけでした。
「食べないねえ」
「お腹が空いてないのかしら」
子猫はチーズを食べようとはせず、何かをおねだりするように、
「ミャ〜ン」と鳴きました。
「何か違うものが欲しいのかしら」
綾が言いました。
「喉が渇いてるのかな?」
シイナが言いました。
シイナはお皿にミルクを注いで、子猫の前に出してやりました。
子猫はやっぱりミルクをくんくんと嗅いだあと、
「ミャ〜ン」と鳴くだけでした。
「喉が渇いてるのでもないか」
シイナが腕組みをしながら言いました。
「そうみたいね」
綾も同意しました。
「ミャ〜ン」
子猫がシイナの足にじゃれついて、甘えた声で鳴きます。
「う〜ん、君は何をして欲しいの〜?」
シイナは子猫の腋の下に手を伸ばして、子猫を抱っこして持ち上げました。
すると、
「ミャ〜ン、ミャ〜ン」
と、子猫が嬉しそうな声で鳴きました。
「おや?」
シイナが意外そうに言いました。
「高い高いされるのが好きなのかな?」
シイナは、自分の頭より高く子猫を持ち上げました。
「ミャオ〜ン、ミャオ〜ン!」
子猫は嬉しそうに鳴き声をあげました。
「喜んでるみたいね」
綾が言いました。
「高いところが好きなのかな? そぉーれっ!」
シイナは子猫を頭上に投げ上げました。
「ちょ、ちょっとシイナ、大丈夫なの?」
「平気、平気。ちゃんと受け止めるから」
ひょいひょいと投げ上げられると、子猫はご機嫌で、
「ミャオォォ〜〜ン!」
と鳴きました。
「ミャッ!ミャア、ミャア!」
子猫が興奮してシイナに甘えます。
「もっと高く飛びたいの? じゃあ、特別だよ?」
シイナは笑って、
「風よ、巻きおこれー!」と魔法の言葉を唱えました。
ごうごうっ、とシイナたちの足元から急に風が巻き起こりました。
風は勢いを増していきます。
ふわり、とシイナと綾の体が宙に浮かびます。
シイナは子猫から、ゆっくり手を離します。
子猫も、ふわりと宙に浮きます。
「ミャンミャン、ミャオ〜ン!」
子猫は大喜びです。
「さあ、空の散歩だよ!」
シイナが元気よく言うと、二人と一匹は、空へ舞い上がりました。
しゅごおおおぅ!
耳元を風が通り抜けていきます。
「ミャオオ〜ン! ミャオオ〜ン!」
子猫は興奮して、足をぱたぱたさせて喜びます。
二人と一匹は、空の散歩を存分に楽しみました。
空から見ると地上の家々が、マッチ箱のように小さく見えます。
白い雲を通り抜けるのは、とてもいい気分です。
空中をくるくる回転しながら上昇したり下降したり、自由自在に飛び回ります。
「ミャオオ〜〜ン! ミャオオ〜〜ン!」
子猫はもう大興奮です。
風の気持ちよさを心ゆくまで味わったあと、二人と一匹は、ふわりと地上に舞い降りました。
「あー、楽しかった」
シイナが笑顔で言いました。
「ミャオ〜ン、ミャオ〜ン」
子猫が満足そうな鳴き声をあげます。
「この子は、空のお散歩がしたかったんだね」
シイナが納得したように言いました。
「変わった猫ねえ」
綾がつぶやきました。
「空が大好きなんだから、この子の名前はソラだね」
シイナが言いました。
「ふふっ、いい名前ね」
綾が言いました。
空の散歩に満足したソラは、そのあとチーズとミルクをペロリとたいらげました。
「ソラ、また遊びにおいで」
シイナがソラに言いました。
「ミャオオ〜〜〜ン!」
ソラが嬉しそうに鳴きました。
―END―
説明 | ||
普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。 何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。 でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。 今日は、綾とシイナがちょっと変わった子猫に会うお話です。 |
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