恋姫†無双 関羽千里行 第2章 17話
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第2章 17話 ―虎牢関の戦い―

 

水関を攻略した連合軍は一路、虎牢関を目指していた。その頃、董卓軍の拠点の1つでは、撤退してきた馬超とカクが軍議を行っていた。

 

馬超「すまねぇ、あたしが冷静さを失ったばっかりに...」

 

カク「いいえ、貴方はよくやってくれたわ。貴方が時間を稼いでくれたおかげでこっちの準備もうまくいってる。あと少し、あと少しで...」

 

馬超「そうか...なら、後は虎牢関だな。」

 

カク「ええ。無理はしなくていいから、あと少しだけ頼むわ。」

 

 そこへ、

 

馬岱「お義姉さま!」

 

 ひどく動揺した様子で、馬岱が広間へと駆け入ってきた。その様子に、馬超の顔にも緊張が走る。

 

馬超「どうした、蒲公英!」

 

馬岱「伯父さまが...伯父さまが!」

 

馬超「!?父上がどうした!?」

 

馬岱「それが...」

 

 

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 北郷軍では、一部では鬼神とも呼ばれている誰かさんが、まさしく鬼のような形相で説教をしていた。

 

愛紗「全く!護衛の任を任されていながら一刀様の元を離れるとは!」

 

霞「うう...」

 

華雄「くぅ...面目ない...」

 

 言い返すことができずにシュンとして俯く霞と華雄。このまま放置すれば、虎牢関に着くまで二人とも子の説教地獄から逃れることはできない。そう考えた一刀は、

 

一刀「まあまあ。結果的には霞のおかげで馬超の足止めもできたし、華雄がいたおかげで俺も無事で済んだんだからいいじゃないか。」

 

 その言葉に、この苦行から解放されると信じて期待を込めた視線を送る霞と華雄。しかし、

 

愛紗「だいたい、一刀様も一刀様です!華雄を追いかけて、自分も自ら危険な場所に飛び込むなど本末転倒です!」

 

 怒りの矛先が俺にも向いただけだった。二人もはぁと溜息をついて再び小さく縮こまる。そんな様子を見かねたのか、星が横から割って入る。

 

星「そのくらいにしておけ、愛紗。自分たちの主君や上官が怒られているのを部下に見られれば、軍内の士気にも影響しよう。」

 

 その言葉自体はもっともなことでもあり、しかしいまだ怒りの収まらない愛紗は少し恨めしそうな視線を新たな介入者である星に送る。

 

愛紗「しかし!何かあってからでは遅いだろう!」

 

星「そうだな。だが、兵の士気が下がり普段通りに戦うことができなければ、その何かが起ころうとした時、対処が遅れてしまうだろう。それはお主も望むところではないはず。どうしてもと言うなら、今は反省しているようだし、また戻ってからすればよい。」

 

愛紗「そうだな...」

 

だんだんとその怒りをしぼませていく愛紗。それに追い打ちをかけるように、

 

星「だいたい、そんなに主たちの事が心配だったのなら、素直にそう言えばよかろう。」

 

愛紗「へっ!?」

 

 予想外なことにうろたえた様子の愛紗。

 

星「見ていると、まるで子どものことを心配する母親のようだったぞ。いや、愛紗の主に対する気持ちを慮れば、その言いまわしは失礼とも言えるかも知れんが。」

 

愛紗「な、何を言っている!」

 

 不敵な笑みを浮かべる星。愛紗も口調は怒っているようだが、その顔は周知で真っ赤になっており、むしろ可愛げすらあると言えるだろう。さらにそこへ、

 

霞「なんや、ウチを心配してくれとったんか。嬉しいで、愛紗ー!」

 

 星の言葉と愛紗の態度を勝手に自己解釈した霞が愛紗に飛びつく。

 

愛紗「こ、こら、抱きつくなぁ!そそそ、そんなこと触るなぁー!」

 

 その様子に俺はホッと胸を撫で下ろす。華雄はまたこれかと呆れ気味だ。そこへ、サッと寄ってきた星(無駄に忍び足)が、

 

星「主、貸し1つですぞ。」

 

一刀「ちゃっかりしてるなぁ。それじゃ、今度美味しい酒を探しておくよ...」

 

星「それで構いませぬ。もちろん、主はそれに付き合って下さるのでしょうな?」

 

一刀「はい、お酌させていただきます...」

 

 酒という言葉に反応したのか、

 

祭「おい、星。当然、それには儂も参加してよいのじゃろうな?」

 

星「というわけだ、主。どうせそこでじゃれている連中や、なんだか睨んでる誰かさんに慌てて固まっているのも参加するだろう。酒は人数を考えて大目に頼みましたぞ。」

 

思春「なぜこちらを見る?」

 

一刀「おいおい、全員分じゃないか。そんなん俺の小遣いじゃ払えないぞ...」

 

 今後、星にはなるべく貸しを作らないようにしようと心に堅く誓った瞬間であった。

 

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 そうしてついに連合軍はそれぞれ軍を再編しつつ、虎牢関へとたどり着いた。しかし、連合軍が見たものは驚くべき光景であった。

 

冥琳「わからんな。董卓軍は何を考えている。あえて有利な状況を自ら捨てるなどとは...」

 

 後の陣営では軍師の二人が、この状況について話し合っていた。

 

陸遜「何か絡め手があると考えるべきでしょうね...それとも飛将軍呂布とは、それほどまでに己の武に自信があるんですかねぇ。」

 

冥琳「一人で戦局を左右できるなどとは考えられんが...今までの相手の行動から見るに、考えなしということはあるまい。まずは周囲に斥候を放ち、伏兵などが配置されていないか、探った方がよかろう。一応雪蓮の意見も聞いておきたい。こう言うのは軍師としてどうかと思うが、雪蓮の勘はあたるからな。今は我ら常人では理解できない者の意見が欲しい。」

 

陸遜「分かりました〜。では雪蓮様を呼んできますね〜。」

 

冥琳「袁術軍と北郷軍にも伝令を出してくれ。情報を互いに共有し、有事の際は連携して敵に当たらねばならん。」

 

袁紹軍兵士「失礼いたします!」

 

冥琳「ん?この機に遣いとは...」

 

 

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一刀「雛里、あれをどう考える?」

 

雛里「そうですね...普通に考えたらあり得ないことではあると思います。」

 

 連合軍の目の前には、堅牢な虎牢関で守りを固めるのではなく、その眼前で陣形を構える董卓軍が士気高々にこちらを見据えていた。

 

雛里「難攻不落と言われた虎牢関を捨てて、わざわざ野戦に持ち込もうとするなんて、普通なら絶対に考えません。それでもあえて野戦をしようと思うなら、そこにはなんらかの策が隠されているはずです。」

 

 細作の持ってきた情報、そして連携を獲っている呉や袁術軍からの情報を分析し、答えをはじき出す。

 

雛里「腑に落ちないところもありますが...素直に考えればこれは囮ではないかと。確認したところ、董卓軍の中に馬の旗が、つまり西涼連合の姿がありません。連合軍が野戦の董卓軍にしかければ、馬超さんの部隊がその隙に乗じて攻めてくる可能性が高いです。いえ、でも...」

 

一刀「どうしたんだい?」

 

雛里「そうだとしてもやはり納得がいかないんです。董卓軍は防御力の極めて高い虎牢関を捨ててまで、囮を使う必要がありません。水関であれだけ時間稼ぎができたのですから、あとは持久戦に持ち込めばいいだけです。それなのになぜ...」

 

愛紗「そうせざるを得ないなにかがあった、か。」

 

星「我らが祭殿は熟練の将として、この布陣について何か気付くことはありませんかな?」

 

祭「年寄り遣いの荒いやつらじゃの。どうせなら、こんなことではなく先陣を任せて欲しいものじゃが。」

 

 そういって董卓軍を見据える祭。そしてその答えは、

 

祭「まあ、なんじゃ。あいつらは素直に相手してやればよいじゃろ。」

 

思春「どういうことだ。」

 

祭「どういうこともなにもない。あやつらは単純に野戦で我らを迎え撃とうとしておるということじゃ。それは相手のギラギラした闘気を見れば明らかじゃ。」

 

華雄「それは...面白いではないか。」

 

霞「この猪武者は...て今は人のこと言えへんな。」

 

一刀「祭はそう見るか...うーん。」 

 

 雛里と祭、両方の意見を聞いてどうしたものかと考える。相手が野戦を選んだ理由がわかれば対策も立てやすいが、今は子の戦場に馬超率いる西涼連合がいないということくらいしか情報がないのだ。そこから考えると、雛里の不安も、また祭の言うように相手が決戦を望んでいるというのも、幾重もの戦をくぐり抜けてきた人の言葉からすればどちらも正しく聞こえる。考えあぐねてふとちらりと愛紗の方を見ると、こちらの目を見据えて一度頷いただけだった。俺の決断ならば、どんなことでも従おうという意思表示だ。それを見て俺は結論を出した。

 

一刀「うーん、もうこの際どっちの線でもいいように動いてみようか。別働隊に備えて2部隊、後は正面の董卓軍に当たろう。」

 

雛里「状況がわからない以上、妥当な判断だと思います。しかし、相手はあの天下無双と言われた呂布さんの軍。できれば戦力の分散は避けたいところですが...」

 

そこへ、金色の鎧をまとった兵士が訪れてきた。おそらく敵を目前にして、連合軍全体としての方針か何かがあるのだろう。

 

袁紹軍兵士「申し上げます!連合軍盟主、袁紹様からの伝達を持って参りました!」

 

一刀「お疲れ様。内容を教えてもらえるかな。」

 

袁紹軍兵士「はい、北郷軍の方々には前曲を担ってほしいとのことです。ここに、作戦指令書を持って参りました。」

 

一刀「へっ?」 

 

 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。前が前だけに、いまだに袁紹がまともに考えを持っているらしいということに慣れていないのだ。

 

袁紹軍兵士「どうかなさいましたか?」

 

一刀「いや...有難う。預かるよ。」

 

袁術軍兵士「はっ。それと、もう1つあるのですが。袁紹様いわく、もし指令書をみてどうしても内容に納得がいかなければ、再考するとのことです。指令という体を取っていますが、あくまでこちらからそちらにお願いするということですので。今のところ曹操軍と呉軍、袁術軍からは了解を得ています。」

 

一刀「そ、そうか。じゃあ皆で相談するから外で少し待っててもらえるかな。」

 

袁術軍兵士「はっ。それでは失礼します。」

 

 少しうろたえながら袁術軍の方に対応すると、作戦指令書と言われたものを皆で覗き込む。

 

一刀「これは...」

 

愛紗「...まともな指令書ですね。」

 

 それには今のこの状況を見て、各部隊の配置と動き、また想定される状況においての対処などが記されていた。

 

雛里「凄いです...戦略面で袁紹さんがここまで細かく分析できるなんて、正直びっくりしました。しかもまだ敵を確認できてからそれほど時間がたっていないのに、これをこんな短時間で...」

 

 軍師としての雛里を驚かせるほど、その内容は的確なもののようだ。相変わらず袁紹がどうしてこうなってしまっているのかはわからないが、この采配も文句のつけどころがない。何より、この方針ならばいるかもしれない別働隊を俺たちが気にする必要がない。

 

一刀「俺はこの線でいいと思うんだけど...みんなはどうかな。」

 

雛里「問題無いと思います。」

 

 雛里以下全員が同意していく。

 

一刀「わかった、そこの君、袁術軍の遣いの方に前曲の件、任されると伝えてくれ。」

 

兵士「はっ!」

 

 あとはこちらの軍内でどう配置するかだけだ。指令書から考えると、ある意味体よくこちらが様子見の斥候のように扱われているようにも見えるが、その実、武闘派の多い北郷軍で勢いをつけるということを考えれば、確かに合理的であると言える。しかも、そのまま北郷軍が敵を撃破できれば、一番槍を受けあの軍を倒した手柄を獲れるという甘い汁が用意されているのだ。袁紹の手の上で踊らされているようにも思えるが、ここは実益を狙うべきだ。あとは、あの虎牢関の前に構えているあの軍にどう対処するかだが...

 

一刀「相手は天下無双と言われた飛将軍だ。慎重に配置は考えていこう。それじゃ...」

 

祭「前の戦ではお預けを食らったんじゃ。儂は当然先鋒を獲らせてもらうぞ。」

 

 その一言を皮切りに、軍議は水関の時と同様に将同士の先鋒争いになってしまった。その様子に、

 

一刀「だめだ、こいつら。はやくなんとかしないと。」

 

 俺は様式美に従って皆には聞こえないようにそうつぶやいた。

 

 

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呂布「...」

 

 呂布は目の前に展開された連合軍を見つめていた。その瞳やぼんやりとした様子からは彼女が何を考えているか常人では理解できない。

 

陳宮「呂布どのー!」

 

 彼女を支える軍師の陳宮が後ろから駆けよってくる。

呂布「ちんきゅー。」

 

 走ってきた陳宮の方に一度向き直る。その陳宮の後ろには、精強な呂布軍の兵士が出陣の時を待っていた。

 

陳宮「連合軍の連中は動揺しているようですな。このままもう少し止まっていればよいのですが...これがねねにできる精一杯です。」

 

 再び連合軍を見つめる呂布が、一瞬表情をしかめる。そして一言。

 

呂布「......くる。」

 

陳宮「なんですとーっ!連合軍の盟主は袁紹。あの馬鹿と言われた袁紹が仕切っているのならば、連合内でもめてこちらにしかけてくるのはもう少し後だと思いましたが...呂布殿が来ると言うのなら来るのでしょうな。ならばここは...」

 

呂布「......行く。」

 

陳宮「ですな。皆の者、機先を制し敵の先鋒を潰した後は、各々力の限り逃げて生き残るのですぞ!」

 

呂布軍兵士「応っ!」

 

陳宮「(馬超殿たちがここにいれば、この戦い勝つこともできたのですが...こうなったらやれるところまでやるだけなのです!)」 

 

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そして北郷軍内では...

 

祭「敵は天下の飛将軍。腕が鳴るのう。」

 

霞「いっちょ呂布をぶちのめして、ウチの汚名も挽回せんとな!」

 

愛紗「それを言うなら汚名返上だろう...」

 

祭「にしても、我らが主殿は随分と慎重なことじゃのう。兵士だけでなく、武将にまで三人一組で行動しろとは...儂らの武をもっと信用すればよいものを...」

 

愛紗「いや、それほどまでに呂布という武将は強いのだ。そしてこれも一刀様の我らを心配する御心からきているものだ。我らの事はちゃんと信用して下さっている。」

 

霞「愛紗は一刀のこと大好きやんなぁ。ウチ、妬けてまうな。」

 

愛紗「う...茶化すな!」

 

 顔を真っ赤にしてプイとそっぽを向く愛紗。その様子にも、霞は胸をキュンキュンさせており、祭はというと面倒な組み合わせに入ったものだと少々溜息をついた。

 

 

そして星・思春・華雄はというと。

 

星「呂布とはぜひ手合わせしてみたかったのだがな。まあ、猛将を前に主の周りが空というわけにもいくまい。」

 

思春「ああ。一刀様の前には何人たりとも立たせはせん。」

 

星「見事な忠誠心だな。もっとも、本当に忠誠心からのみそう言っているのかはわからんが?」

 

思春「ふん。言ってろ。」

 

 いつものように星にからかわれた思春はそっぽを向いてしまう。そんな中、華雄はまだ物憂げな表情を浮かべていた。それに気付いた星は、

 

星「どうした華雄。まだ先のことを引きずっているのか。」

 

華雄「そうかもしれん。情けない話ではあるが。」

 

星「ふむ。だが今は戦中だ。先の事が気になるなら、それを教訓に今この時を尽力して当たればよい。そうだろう、思春。」

 

思春「ああ。私も昔は色々馬鹿なことをやったものだが、それがあるからこそ今の私がある。それに今考えてもどうにもならん。お前も今は考えるより体を動かした方がいいぞ。その方が肌にもあっていよう。」

 

華雄「ああ、そうだな。」

 

 まだ少し思うところのある華雄であったが、星と思春のおかげでなんとか持ち直したようだ。

 

一刀「仲佳き事は美しき事かなっていうけど、その通りだね。これはじゃんけんの神様に感謝しないとなぁ。」

 

雛里「...?天界にはそのような方がいらっしゃるのですか?」

 

 天然からくる好奇心なのか、雛里がそんなことを聞いてくる。

 

一刀「いるかはわからないけど、いたらいいなぁってことで。それに、できれば呂布には愛紗を当てておきたかったしね。」

 

雛里「しかし、こう配置をじゃんけんに頼るというのは、軍としては問題があるかと...」

 

一刀「うぐ。そうだね。俺がもうちょっとうまいこと決められればいいんだけどね。まだまだ精進しなくちゃなぁ。」

 

 そういうと雛里は少し迷うようなそぶりを見せた後、

 

雛里「あの...」

 

一刀「うん?」

 

雛里「ご主人様は一人ではないのですから、助けがいる時はいつでも私たちを頼って下さい。そのために私たちがいるのですから。」

 

一刀「!」

 

 前に頑張れたのも、俺を支えてくれる皆がいたからだ。そういえばこんなこと、前に朱里にも言われたっけ。そう思い返し、雛里の頭に手を乗せ、笑みをもって答える。

 

一刀「うん、これからはもっと頼らせてもらうよ。だからよろしく頼むね。」

 

雛里「は、はひっ!」

 

 そう答えた雛里はなぜか顔を真っ赤にしてしまう。だがその顔はとても嬉しそうに、輝いて見えた。そこへ、

 

兵士「敵軍吶喊!突っ込んできます!」

 

一刀「先を越されたか!全軍迎撃態勢!」

 

雛里「弓隊は斉射を開始してください。歩兵の皆さんは防御態勢を取りつつ、常に左右の人と連携して敵に当たって下さい。」

 

一刀「(恋...うまくいってくれればいいけど。)」

 

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愛紗「関羽隊、敵の勢いに飲まれるなよ!敵将呂布が現われたら迷わず引け!」

 

 戦闘は呂布軍の突撃により初めから激戦を極めていた。呂布単体のみならず、呂布軍に所属している猛者たちは、今までの兵士と錬度が格段に異なるのだ。それでも常に三対一を常に保とうとする北郷軍はその錬度の差をなんとか縮めていた。しかし、それも次第に敵の勢いに圧倒され、だんだんと後退を余儀なくされる。

 

祭「このままでは前線が持たんぞ!」

 

霞「まずいで!まだ呂布の位置は特定できひんのかいな!」

 

 報告は旗色の悪いというものが多くなってくる。率いる将を倒せばそれも覆せるかもしれないが、あいにく呂布がどこにいるのかわからないのだ。

 

愛紗「仕方あるまい...こうなったら向こうから直々に出向いてもらうほかにないか。」

 

 そういうと愛紗は一度大きく深呼吸をすると、あらん限りの声を張り上げて、

 

愛紗「我が名は関羽!飛将軍呂布よ、この私と勝負しろっ!」

 

 その声とともに愛紗から一般の兵士でも感じ取れるほどの大きな闘気が発せられる。愛紗の周囲などは、その声だけで皆が腰を抜かして地面にへたり込んでしまった。

 

霞「うわー。なんかもうむちゃくちゃやな。」

 

祭「お主も修行すれば、あれくらいは余裕じゃろう。」

 

霞「そう言う祭はできるんか?」

 

祭「まあな。折角じゃ、儂もやってやろうではないか。」

 

 そう言ってニヤりと微笑む祭。同じく大きく息を吸うと、

 

祭「この黄公覆が相手じゃ!出てこいっ!」

 

 大地を震わすような大声で叫ぶ。すると、目の前に赤い髪の少女がひょっこりと姿を現した。その肩にはその華奢な体には見合わないほどの方天戟が担がれている。

 

呂布「お前たち五月蠅い。恋はここにいる。」

 

祭「きおったか!いざ尋常に、この儂の相手をせい!」

 

 呂布に向かって矢を番え構える祭。緊張する場には不釣り合いに、その横からツンツンと祭の肩をつつく霞。

 

祭「なんじゃ、霞!危ないじゃろう!」

 

霞「あー、ノッてるとこ悪いんやけど、一刀から一人で戦うなって言われとったやろ。」

 

祭「ええい、五月蠅い!ごちゃごちゃ言ってないで離れておれ!」

 

 強敵に出会い、すっかり気分が高揚しているのか、言うことを聞こうとしない祭。これでは前と立場が逆じゃないかと思いつつ、霞は一瞬で祭が正気に戻る殺し文句を口にした。

 

霞「...愛紗に酒、取り上げられるで。」

 

祭「なにぃ!?...く、愛紗など知らん!今はこやつをじゃな...」

 一瞬思い直そうとするが、先陣を獲れなかった今までの鬱憤が相当たまっているのか、再び呂布に挑もうとする。そこへ、

 

愛紗「私がどうかしましたかな?祭殿。」

 

 愛紗が後ろからジト目で祭のことを見ていた。それに気付いた祭は、

 

祭「お、遅いではないか、愛紗!呂布の足止めをするのは大変だったんじゃぞ!」

 

 慌てた様子で取り繕い出した。声は上擦っているし嘘だと言うのは完全にバレバレだ。それを見た愛紗は、そのままジト目で祭に問いかける。

 

愛紗「祭どの〜?出陣の前にも景気づけとか言って飲んでいましたが、もしかしてまだ酔っ払っているのではないですか?顔が赤いですよ。」

 

祭「そんなことはない!呂布との激戦で体が熱くなっているだけじゃ!」

 

愛紗「ほお。本当か、霞。」

 

霞「嘘やで。」

 

 即答だった。

 

祭「霞、お主!儂を裏切る気か!」

 

霞「裏切るも何も、ウチは最初から愛紗の味方やもん。だいたい、ウチは止めたんやで。」

 

祭「くっ!」

 

呂布「......恋、帰ってもいい?」

 

 大声で呼ばれておきながら目の前で三文芝居を見せられたからか、呂布がクルッと背を向けて立ち去ろうとする。それを見かねた三人は、

 

祭「すまぬ、この通りじゃ!行かないでくれっ!」

 

霞「勘忍してや!全部この祭が悪いんや!」

 

祭「なにぃ!?」

 

愛紗「お前らなぁ!」

 

呂布「......やっぱり、帰ってもいい?」

 

 そうして立ち去ろうとする呂布を引きとめようとして揉め、引き留めようとしては話が逸れを繰り返し、ようやく四人は対峙した。

 

霞「なんやかんやあったけど、ほな死合おうや!」

 

愛紗「なんだかなぁ...」

 

祭「細かいことは良い!行くぞ!」

 

愛紗「細かいこととは...だか」

 

呂布「帰っていい?」

 

三人「すまなかった(すまんかった)、行かないでくれ(行かんでくれ)!」

 

 それを見た呂布はクスリと温かい表情を浮かべると、

 

呂布「お前ら、面白い。相手してやるから、こい。」

 

霞「せやったらウチから行くで!せりゃあああ!」

 

 タンッと地面を蹴る音がすると、霞が呂布に向かって突っ込んでいく。上下左右、あらゆる角度から得物を呂布のからに向かって振るう。そのすべてを、呂布は方天戟を使い軽く受け流していた。

 

霞「ウチの攻撃を全部見切ったやて!?」

 

呂布「......速いけど、見える。」

 

そう言ってから呂布が一振り霞に浴びせると、霞はガードの上から衝撃をもろに受け、地面に足をつけたまま音を立てながら後方へずり下がっていく。その後には派手に砂塵が舞い上がる。

 

霞「なんて馬鹿力や!それに避ける間もあらへん!」

 

祭「当たらなければどうということはない!はあっ!」

 

 今度は祭が方天戟の攻撃範囲外から一気に矢を打ち出していく。その打ち出す姿は速すぎて常人にはちゃんと視認することはできないほどであった。しかしそれも、悉く呂布の方天戟にさばき落とされる。

 

呂布「......それはこっちの台詞。」

 

祭「ならば、これはどうじゃ!」

 

 祭はまとめて三本の矢を番えると、それをそのまま先ほどと同じ速度で射出する。すると呂布は一瞬にして自らの方天戟を体の前に立てると、高速でそれを回転させた。それにより、祭の放った矢は全て撃ち落とされてしまう。

 

呂布「......無駄。」

 

祭「それはどうかなっと!」

 

 呂布が回転を止めた瞬間、距離を詰めていた祭の拳が呂布の額に向かって叩きつけられようとしていた。しかし、それに気付いた呂布は冷静に大きく一歩身を引きそれを交わすと、祭に向かって戟を振り下ろした。

 

祭「くっ!」

 

 再び霞のように、ガードの上から吹き飛ばされる。

 

祭「くっ、あれをかわせるか!」

 

呂布「ちょっとだけびっくりしたけど、平気。」

 

祭「ふむ。儂では歯が立たんようじゃな...」

 

愛紗「ようやく私の出番か。」

 

 そう言って出てきた愛紗はこれまでにないほどの闘気に満ちていた。それを感じ取った呂布も、改めて己の武器を握り直す。

 

呂布「......強い。」

 

愛紗「(相手はあの恋だ。私の今の実力を試すいい機会でもある。)」

 

 そう考え青龍刀を握る力を一層強くすると、愛紗は呂布へとしかけていった。

 

呂布「こい。」

 

愛紗「ああ!関雲長参る!はああああああっ!」

 

そこへ呂布の後方から、銅鑼を大きく打ち鳴らす音が数回聴こえた。するとそれに反応した呂布は、愛紗の攻撃が届く前に大きく後退する。

 

愛紗「くっ!逃げるのか!」

 

呂布「......お前の相手はまた今度会ったらする。じゃあ。」

 

 そう言うと呂布は来た方向へとサッと引き返していく。それを追うため愛紗が駆けだそうとするが、祭に肩を掴まれそれを阻まれる。

 

愛紗「待てっ!」

 

祭「待つのはお前だ愛紗。周りをよく見てみろ。」

 

 愛紗が見たものは、壊滅こそしていないものの、勢いに押されて完全に足を止めてしまった連合軍、そしてそんな連合軍を尻目に一気に撤退していく董卓軍の姿が見て取れた。しかしその様子から、戦略的な撤退と言うよりは、この戦場から離脱するために逃げ出しているように見えた。

 

霞「あいつら、初めから一当てして逃げるつもりやったんや。どうする愛紗。」

 

愛紗「そうか...ならば...」

 

 一軍を預かる将であることを思い出し振り返ると、部隊の者たちに向かって声を上げる。

 

愛紗「敵は撤退した、我らの勝利だ!全軍、勝鬨をあげろ!」

 

兵士「おおおおおおっ!」

 

 湧きかえる軍内で、愛紗は武器を収めた。

 

祭「ここは追撃するのが定石だと思ったが。それはお主もわかっておろう。なぜそうしない。」

 

愛紗「戦うつもりのない者を攻撃するつもりはない。何より、錬度はあちらの方が上だ。下手に追撃してこちらの損害を増やすこともあるまい。」

 

霞「愛紗、考えはわかるけど、それちょっとキザったらしいで。でも、そんな愛紗もかわええけどな!」

 

 そう言っていつものごとく霞に抱きつかれる愛紗。

 

愛紗「ちょ、ちょっと!誰か助けてくれぇ〜!」

 

祭「はっはっは。折角かっこよく決めたのも台無しだな。」

 

 こうして虎牢関は、連合軍の予想をはるかに上回るペースで攻略されたのであった。

 

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―あとがき―

 

 読んで下さった方は有難うございます!

 

 今回タイトルが虎牢関の戦いなのに実際に戦っているのはその前という。今回、いろいろパターンを考えた結果、真の蜀ルートみたいな感じになってしまいました。三兄弟で呂布と戦う話は有名ですけど、一刀君そこまでの戦闘力持たせていないし、そもそも一人いないし...愛紗さんと恋さんの対決とか期待していた方はごめんなさいね。まだその時ではないようです。

 

 次回で反董卓連合編は終了の予定です。それでは、次回も暇があったら読んでやるよ、という方はよろしくお願いします。

 

説明
恋姫†無双の2次創作、関羽千里行の第17話になります。
今回はいつもよりちょっと容量多いです。
多いけど...文章力とか発想力が足りないよなぁ。
温かく見守っていただけると助かります。
それではよろしくお願いします。

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コメント
ツンデレ大好物です(笑 見落としてました、有難うございます!(Red-x)
「だいたい、一刀様も一刀様です!」のセリフ一刀のなまえになってます(まーくん)
次回も暇があったら読んでやるよ>>仕方ない、そこまで言うなら読んでやる、感謝しろ!(超尊大 べ、べつにたまたま暇があったから読んだだけなんだからね、勘違いしないでよね!(きまお)
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