Criminal-クリミナル- 《始祖の原罪》【3】 |
グリーズ団のアジトへ侵入したアンチシーフとは、当然ニクスの事である。
しかし、敵襲を告げた団員は、一人と告げた。
では、ティアを救出に来た筈のインフィは何をしているのか。
――当然、ティアの元へ向かっているのである。
「くそっ、こんな時に不意を衝いて侵入されるなんてついてねぇ!」
グリーズ盗賊団の団員が悪態を付く。
ニクスが侵入したグリーズ盗賊団の根城は現在本業である「盗み」を
行うため、大半の団員をそちらに割かれていた。
根城の在処が判明されていることは勿論の事、根城の守りが手薄に
なっている時間帯すら筒抜けであるかのように侵入された。
何故――答えは残酷なほどシンプルである。
侵入者は「情報」を持っているのだ。
恐らくは巨大情報組織「GAT」の末端辺りから情報を入手したのだろう。
「GAT」からの情報の取得を拒む事など、出来るわけが無い。
「GAT」とは、逆らう事すら無意味を指す程の組織なのだ。
それ以外に、仮にも盗賊団を名乗るグリーズ盗賊団が自身の情報を漏らす
事は在り得ない。
その考えは、先刻ティアと会話をしていたこの男も例外では無かった。
「ほぉ……」
団員の大半が出払っている人気が無い洞窟内で、アンチシーフが現れた
場所へ男が案内された時には、言わずもがなそのアンチシーフの姿は無い。
「アンチシーフは?」
男が案内した団員に尋ねる。
「はい、アンチシーフはこの洞窟の入り口から堂々と侵入して来まして……
捕らえようとしたのですが、逃げられました」
「どっちへだ?」
すると、団員は不思議そうな顔つきになる。
「それが……奴は入口ではなく我々のアジト内へと逃げ込んだんですよ」
「んん?っておいおい、それじゃ奥から歩いてきた俺達と鉢合わせしなけりゃ辻褄が……
ま、分かれ道もあるからな。この洞窟は」
しかし、鉢合わせしない――それは、侵入者がこの洞窟の内部の情報すら入手している可能性を
示唆している。油断は許されない状況だ。
「ええ。しかし出口はこの入口しかありません。ここで待ち伏せするのも手かと」
「そうだな。よし、お前はここで待機だ」
団員は嬉々として返事する。
「はい!お任せ下さい!"団長"!」
「ああ、頼んだ」
「団長」と呼ばれた男――ハングレットは、顔を綻ばせて人指しと中指を立てた。
インフィは、ニクスの侵入後にどこから侵入したのか。
人数的に手薄になっている時間帯を狙ったのでニクス同様入口から侵入しても良いが、
折角陽動役としてニクスが囮を買って出てくれたのに真正直に後続するのも馬鹿げている。
しかし、ファクマから得た情報には入口は此処しか存在しないとの事。
故に――別の入口を作って奇を衒うのが最も効率的だ。
インフィは、グリーズ盗賊団アジトである洞窟の周辺をぐるりと窺い、洞窟内部に近そうな
岩肌に耳を付け、片手に持つ大剣で叩き音を立て、その反響音で岩壁の厚さを測り、
最も薄い個所を探し当てた。
「……っ」
腕の傷が痛むが、支障になる程度では無い。
インフィは、大剣を上段に持ち上げ、一瞬の間を置く。
「はあっ!」
そして、その箇所を大剣で豪快に斬り砕いた。
岩の砕ける轟音が響き、岩肌が斬り崩れて洞窟の内部が外気と光に晒される。
「な、何だ!?」
丁度見張りの配備されていた場所だったのか、こちらに向かってくる声が聞こえて来た。
しかし、インフィは躊躇する事は無かった。
「もうすぐです……もうすぐ、ティアを助けられる」
インフィは迷いなく――寧ろ歓喜に震える衝動を抑えながら、暗闇に身を躍らせた。
ニクスの囮ぶりは"アンチシーフ"だけありながら、撹乱には十分な役割をこなしていた。
「ぎゃはははははははーっとぉ!」
ニクスの馬鹿笑いが洞窟内にこだまする。
余裕ぶりも絶好調である。
「待てコラァー!!!」
追い縋る盗賊団員を尻目に、ニクスは脚力の速度を上げる。
「もははははははははーっはぁー!待つかボケぇー!」
序でにテンションも上がったようだ。
しかし、ニクスが逃げる先は――岩で埋め尽くされた、行き止まりのみ。
「もう、逃げられねえぞぉ……」
背後に迫りくるは、走り疲れた盗賊団員。
しかし、ニクスは腐ってもアンチシーフである。追い詰められても、生きる為に
死ぬ気で活路を見出してきたのだ。
「なわけねーだろっ!」
そう一喝しつつ、ニクスは腰に下げていた一振りの剣を掴む。
眼前には、疎らながらも通り抜けるには無理のある盗賊団員の壁。
しかし、ニクスの顔に余裕の色が消えることは無かった――
洞窟に作り上げた「勝手口」から侵入したインフィは、既にティアが閉じ込められている
檻に到達していた。鍵は必要なく、インフィの大剣で鉄格子は破壊された。
「お怪我はございませんか?ティア」
インフィは嬉々として尋ねる。
「何で嬉しそうなんだ?」
ティアは訝るのも無理は無いが、インフィは心配するよりもティアを助けられた事を
安堵するとともに非常に嬉しく思っていたのだった。
「いえっ、それよりもお怪我は」
「無いわ。さっさとこんなむさ苦しい所から離れたいんだけど」
ティアはインフィの気遣いを無下に流し、檻から出てきた。
「そうですか・・・」
別段、ティアはインフィに対して怒っているのではなく、捕えられた事で
不機嫌になっているだけなのだ――
――何の抵抗も出来ず、言うがままに閉じ込められた自分に対して。
一方ニクスは、追い詰められていた筈の場所と反対側にあたる洞窟の入口へ走っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
追い詰めていた盗賊団員はニクスに倒された訳では無かったが、ニクスとの距離は
大分離されていた。
「はははははーっ、さ〜すがは゛アンチシーフ"。ってかぁ?」
自慢げに自分の手にしている剣を掲げて走っている。
せかせかと洞窟の入口へと走るニクスの足が急に停止をかける。
「面白いアンチシーフ、だな」
前方の、まだ光の兆しさえ見えない暗闇の中から聞こえてきた声。
その台詞の中に込められたプレッシャーで、ニクスは気付かされる。
「ボスのご登場かよ・・・!」
煌々と辺りを薄暗く照らす燭台が、ボス――ハングレットの姿を明確に照らす。
黒いボロボロの鍔帽子を被り、黒いジャケット、白いワイシャツを着込んでいるが
上半身は一目見ただけでも分かるほどの筋肉がついたしなやかな体を肌蹴ていた。
ズボンも使い古したような亜麻色の長ズボンを穿き、靴は履いておらず裸足だ。髪も
手入れされていないような伸び方をしており、肩までの長さをとりあえず維持させている。
「うむ、ボスのご登場と相成るわけだが――」
そう言うハングレットの台詞には、緊迫感というモノが全く感じられない。
しかし、ニクスはひしひしとその台詞に隠れた獰猛な圧力を感じずにはいられない。
これが、ボスの器。 そこに居るだけで感じさせられる、威厳。
「用件を聞こうか、アンチシーフの少年」
正直言って対峙するだけでも疲れさせられるプレッシャーだ。ハングレットの他には
彼を案内してきた盗賊団員一人しかいないと言うのに、先程の盗賊団員の集団よりも、
受ける緊張感は並大抵のものでは無かった。
戦闘?――こんな条件下は以ての外だ。
ならば、どうするか。
こうしていても、後ろはニクスがある方法で引き離した盗賊団員が迫っている。
ニクスは前に進むしかない。
ニクスは右手に持った剣を逆手に持ち、地面へと切っ先を向けた状態で右腕を突き出した。
「お、何だやる気か?」
ハングレットは余裕の表情。だが手はゆっくりと腰の剣へと伸びていく。
「――いや」
ニクスは苦し紛れに笑ってみせ、唐突にハングレット達の方へ肉薄した。
「――!」
ハングレットは剣の柄を掴み、居合の姿勢で迎え討とうと構える。
傍らの盗賊団員もダガーを手に構えるが、ニクスが意識を集中しているのは
やはりハングレットの剣閃だった。
そして、跳躍。
ニクスは天井ぎりぎりまで思い切り跳び上がった。
ハングレットは、ニクスの着地地点を見定め、剣を振るおうとするが――
「何!?」
ハングレットの剣閃が、ニクスを斬り落とす未来へと相成る事は無かった。
「ヒャーッフウゥ!」
ニクスは――飛行していた。
落下せずにハングレットと盗賊団員の頭上を瞬時に通り過ぎ、そのままの
速度を持ってハングレットの後方へ飛んで行った。
「ふ……」
ハングレットは、振り抜いた剣を鞘に納め感嘆する。
「特殊宝具(レガシィ)か。本当に面白い奴だ」
特殊宝具(レガシィ)とは、この世界「メガリス」に存在する特別な力を持った宝具である。
だが、それを単に入手してもその宝具の特殊能力の恩恵を受けることはできない。
宝具を使うには、それに合った「波長」を持つ者でないと力を引き出せないのだ。
その「波長」と同調できれば出来るほど、特殊宝具(レガシィ)の特殊能力の本領を引き出せる。
逆に言えば、波長が合っていない者が持っても言葉どおり「宝の持ち腐れ」となるわけである。
数少ない貴重なものから、生活に利用できるような非凡なものまで現在確認されているだけでも
数百個はある。それでも未だ能力が引き出されていない物を考えると千はくだらないだろう。
「今更追っても……間に合わないか」
しかしハングレットの表情は微塵も焦りを感じさせない。そして、傍らの団員に命を飛ばす。
「あの少年が"盗んだ"ものを洗い出せ。情報屋経由で奪還しに行く」
「はい!」
そう、情報屋が居る限り――逃げ切れると言う確証は何処にも存在しないのである。
ニクスが一先ず無事に囮役を遂行できた頃――
ティアは、インフィに連れられてインフィが切り崩して作り出した「勝手口」から脱出を敢行していた。
「ねぇ、インフィ。協力者って?」
インフィは朗らかに応える。
「はい。゛アンチシーフ゛のニクスさんと言う方で、すごく面白い人なんですよ。」
ティアは怪訝な面持ちになる。
「そう?"事情゛は、勿論知らないわけだよね?」
ティアは念を押さずにはいられなかった。
インフィの嬉しそうな笑顔を久しぶりに見られたのに、何故か不安感じたから――
「え?最初はそうだったんですが・・・事情を知られてからも、私達の事を拒まずに一緒に協力してくれているんですよ」
ティアは薄暗い洞窟で、インフィが浮かべる屈託の無い明るい表情を見て――
――不安は恐怖へと暗転した。
「何、それ……」
「はい?」
ティアの様子がおかしいことに、インフィが気づいた時、
「何を言ってる!」
ティアは怒声を上げていた。
「え……?」
インフィが虚を突かれて狼狽していると、ティアは更に畳掛けるように言を継いだ。
「インフィは、人を簡単に信用し過ぎだっ!誰彼構わず協力を仰ぐな!」
「し、しかし……ニクスさんは裏のありそうな人じゃ無いですよ。私達の素性を知っても」
ティアはインフィの言い分を遮るように声を荒げた。
「それだって……っ、嘘かも知れないんだ!忘れたの?インフィ!今まで……何度も信用して……その度に、私達がどんなに掌を返された様に裏切られて殺されそうになってきたかをっ……!」
既に感極まったティアの声は掠れ始めていた。
「私は……っ、私はインフィのように、信じられないよ……」
ティアは俯いたきり、顔を上げられなくなった。
「ティア」
そう呼びかけてきたインフィの声は、いつもと変わらない落ち着いた口調だった。
「ティアは信じてくれなくても……いいです」
「……っ」
インフィのセリフはティアの怒声とは対照的に、静かだが二の句を告げられなくなる、遮って破る事が憚られるような穏やかさがあった。
「ティアが疑ってくれるから、私は人を信じられるんだと思います。ティアが頑なに疑ってくれなければ、私はとうに殺されちゃってます」
「インフィ……」
いつの間にか、ティアはインフィに抱き止められていた。
インフィの香りがティアの鼻腔をくすぐる。
ティアは彼女の腕の温もりを感じつつ、自分が落着きを取り戻していゆくのを実感した。
ひょっとして、インフィも自分の温かさを感じているのだろうか。
「それに……ティアは私の事を信じて待っていてくれてたじゃないですか」
信じることができなかったと思っていたティアに、インフィの言葉は彼女の温かさと共に心に染みていく。
ティアは不意に涙が零れそうになるのをじっと我慢する。自分を守ってくれているインフィはもっと辛いはずなのに、守られている自分が涙を見せるわけにはいかなかった。
顔を見上げれば、インフィはいつものように微笑んでくれているのだろう。
こんな時に真っ先に泣いてしまう、脆弱な自分が悔しかった。
「ティアは、思いこんでるだけなんです。私を信じてくれるなら、ニクスさんもきっと信じることができますよ」
ティアは頷きはしなかったものの、それ以上インフィを責め立てる事はしなかった。
(本当は、怖かった。賊に連れ去られた時も、ずっとインフィだけを呼んでた……私にはもう、インフィしか居ないから)
だから、ティアは心の中でそっとインフィに囁いた。
(インフィ、これからだって信じるから)
それは、希望と言うより――切なる願いだった。
(どうか……私を一緒に居させて)
結局、何の障害も無いまま洞窟からの脱出を完遂させたインフィとティア。
周囲を窺っていたニクスと合流し、一旦元の街・バイヤーノへ帰還した。
そして軽食の取れる食堂にてインフィはティアに、今回の助力者・ニクスを紹介することになった。
「あのよ・・・」
ニクスが呟く。
「はい?」
インフィがにこやかに訊き返す。
「何でこいつは俺を睨むんだ?」
ニクスの指摘通り、ティアは合流してからずっと、ニクスへ警戒の視線を投げ続けている。
「……」
終始無言で。
ニクスにとっては、不気味以外の何物でもなく、彼が助け船を期待した頼りのインフィは
機嫌良さ気に振舞うばかりでティアの行動を制してはくれなかった。
インフィはニクスとティアの互いの名前を両者に告げたっきり、事の成り行きを極上の笑顔で見守っている……ある意味こちらも不気味である。
仕方が無いので、ニクスは直接ティアとコンタクトを図る事にした。
「あ〜……初めまして、か?」
「……」
無言。
取りつく島も無いとはこの事だ。
寧ろ取り憑いてるのは、ニクスに対する敵対心こもりまくりの視線のみ。
「う……」
流石にニクスも雰囲気に呑まれて言葉を発する事自体が難しく感じられた。
しかし流石ニクスと言ったところだろうか。盗賊との駆け引きで培った度胸はここでも
発揮される。
「……髪、真っ黒なんだってな」
「!」
いきなり核心。
今現在、ティアは頭を覆う程の帽子を被っている。髪が見えないようにインフィが被せているらしい。
「見せて貰っていいか?」
ニクスの申し出に、ティアはインフィを一瞥する。
インフィはそのままの笑顔で、ティアに頷いた。
「……良いだろう」
かなりの上から目線で返事して、ティアは帽子を頭から僅かにずらす。
そこには、漆黒の美しさを帯びた黒髪が確かに覘いていた。
「ふ〜ん……これが黒髪……」
ニクスは珍しげに繁々とティアの頭から覘く髪を見つめていたが、
それはあっけなくティアの帽子に仕舞われる。
「あれ、もう終わりか」
「馬鹿かお前。これ見よがしに見せるものじゃないんだ」
「何だと!?誰がバカだ」
「事情を知ってるんなら暗黙の了解なのは当然の事じゃないか!」
ティアに言い返され、ニクスは閉口した。
何しろニクス自身は、ティアとインフィの事情を知っているわけでは無く、知ったふりをして
ティアを救出しに行っていたのだ。
ニクスは事情を知った上での言動と一致していない言動をしてしまった事に一瞬怯んだが、
「っは。もういいよ。好き好んでお前の頭なんざ見る必要ねぇもんな」
「何だそれ」
何とか取り繕う事に成功。
「……?」
しかし、インフィがその言動に不穏さを感じ取っていたのに、ニクスは気付いていなかった。
それは仕方の無い必然でもある。
何しろニクスは生まれつきの馬鹿なのだから、後天的に身につけた頭の切れではカバーしきれないのだ。
「あ、あのぉ……悪いんだが報酬の方を受け取らせてもらえねぇか?」
ニクスがインフィに尋ねた所、ティアが割り込んだ。
「何それ。お前、報酬目的だったんだ?」
「いいんですよティア。そんな大それた額を要求しているわけではないですし、
一緒に助けに行ってくれたのは事実ですよ」
「どうも、信用ならないな」
ティアがニクスを一瞥して鼻を鳴らす。
「何だと!?」
「だってそうだろ。お前、囮になっただけで直接助けに来てくれたわけでもないし
もしかすると最初から囮役すらもサボってただけかもしれん。実際にお前の
働きを見た人はこの中にいないんだから」
「ティアっ」
流石にインフィが窘めにかかるが、ティアは引っ込まない。
「言っとくけど、"事情゛を知られてるんだから私はお前を信用しない。
報酬も、"実際に"私を助けられたときに払ってやるよ」
実に理不尽極まりない条件である。つまりは今回分タダ働き扱いにされ、
もう一度働いて証拠を見せろと言っているようなものだ。
「お、おいおい……そりゃあこっちも認められるものかよ。証拠は無いけど
俺はちゃんとお前の救出に囮になって一役買った。これは事実だ」
「そうですよ。私がティアを助けた時が手薄だったのもニクスさんが囮になってくれてた証拠じゃ
ないですか」
ニクスとインフィが説得を試みるが、ティアが放つ冷やかオーラは消え失せない。
そして、ティアの視線がニクスからインフィへとシフトする。
「言ったでしょ。私がインフィの分まで疑うって」
「そうですが……」
インフィの表情が曇る。
「ま、安心すれば?実際に私を助けた実績があれば払うっつってんだから」
「だーかーらーっ!」
「ニクスさん……」
インフィが申し訳なさそうな顔をニクスに向けた時、ニクスの勘は最悪の状況を叩き出した。
「申し訳御座いません……ティアは言い出したら聴かないので、
ここは大人の包容力を持って飲んでくれませんか?」
~~~~~~~~~~~~~~~
予感通り、インフィがあっさり裏切った。
インフィ(スポンサー)がこう言うのなら、ニクスにはもうどうしようもない。
ニクスは悪態をつきながら、
「あ〜もう……約束だかんな?」
渋々了承する他なかったのでやれやれと首を縦に振っていた。
元より、ニクスは報酬を貰っても二人から去るつもりは毛頭なかったので揉めるつもりも無かった。
(この娘達の事情って奴を、この目で知るまではな)
それが、あの日何も知らないニクスの前で泣きじゃくるインフィを見て立てた、自分自身への誓いなのだから――
ニクスがぶつぶつぼやきながら席を外した際、ティアが呟く。
「尻尾を出すと思ったんだがな」
ティアが事も無げに言うので、インフィは聞き流すところだった。
「はい?」
「あの馬鹿の事。あんな理不尽な報酬条件出されても尻尾出さないなぁって」
「や、やっぱり試してたんですか!?」
詰め寄るインフィに、ティアはさも当然の如く言い返す。
「探りを入れるのは当たり前だろ?私は疑ってるんだ」
あいつだけじゃなく とティアは区切り――
「この世界全てをね……」
――重々しく吐き捨てた。
その頃、同街の路地裏にて――
石造りの建物がそこそこの数建てられているので、道も入り組んだ
構造のこの街は、裏取引の場所として好都合であると言う裏の一面も持っていた。
そして今日も例外無く、「日常的な取引」が取り行われていた。
「黒髪の情報……あるにはあるが、いいのか?情報ランクはSS++級。
この街一帯なら軽く混乱を招きかねない程の"機密商品"なんだが」
そこで取引をしていたのは――先日ニクスと会話していた、
この街を活動拠点としている情報屋・ファクマだった。
「構わないよ。懐を痛めるのは僕じゃない――"国゛だからね」
対して取引の相手をしているのは、フードを被りマントも羽織った中背の人物。
「ここに請求書を送ってもらうといい……場所は、問題ないよね?」
「ああ」
ファクマと請求書の送付先と情報の記載された紙片を交換する。
「でもいいのかな?君の知り合い……多分、死ぬよ?」
特に気にしないような口調でフードの人物が言うと、ファクマは煙草を咥えて無表情で答えた。
「俺ァ、"情報屋゛なんだ。゛保安官゛じゃあねぇんだよ。鮮度の高い在りのままの情報を確保して売る。
俺が介入して情報を捻じ曲げるようなことがあっちゃなんねぇんだよ」
以前ニクスに言ったセリフを、あの時の柔和さとは真逆の温度差で淡々と言い放った。
「やれやれ……僕も随分感情を押し殺して兵士をやっているけど」
皮肉気にフードの人物は言い捨てる。
「これじゃ、どっちが人形なんだか」
ファクマは、何も言わなかった。
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グリーズ盗賊団のアジトへ侵入したニクスとインフィは、それぞれの役目を果たそうと奮戦する。そして、ここでニクスの隠し玉が披露されることになるのだが…? | ||
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