真・恋姫†無双〜絆創公〜 第三十話 【ほぼ普段通り】
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第三十話

 

 一刀がアキラに内緒話をし終わった時、一旦鍛錬を中断した霞が二人の方に近寄ってきた。

「何や? 男二人がコソコソして。みっともないで?」

 肩に得物を担いだ霞が、からかうように笑いかける。

「あ、いや。別に何も。じゃあ、アキラさん。頼みます……」

「了解っと。じゃあ、確認とってみます……」

 そう返事すると、アキラは二人から少し離れて、一刀の身体を検査した時の機械を取り出した。

「ウーン、果たして都合はつくかな……?」

 手の平の上の機械とにらめっこしているアキラを、霞は訝しげに眺める。

「何や? 精の付くモンでも頼んだん?」

「んー、まあ、似たようなトコかな……?」

 頬を人差し指で掻きながら、霞の質問をそれとなくはぐらかす。

「ふーん。まあ、しゃあないな。これからウチらだけやなくて、一刀にも頑張って貰うんやからな〜!」

 そんな様子に気付かなかったのか、からかうような笑みを一刀にまた向ける。

「そう、だな…………」

 そう話す顔は鍛錬している皆の方を向きながら、その瞳はどこか遠くを見つめているようだった。

「……どないしたん、一刀? 難しい顔して」

「えっ……ああ、えーと……」

 今度は一刀の様子がおかしい事に気付いて、霞はその顔を覗き込んだ。

 いきなり視界に飛び込んできた霞の顔に、言葉は詰まり思考停止する。

 ここで救いの手を差し伸べたのは、またもや一刀の母親で、少し後ろの方から二人を眺めていた泉美であった。

「霞ちゃん、鍛錬に戻った方が良いみたいよ? 霞ちゃんの相手をしていた愛紗ちゃんが、さっきからこっちの方を見ているみたいだから……」

「え、ホンマに?」

 言われて鍛錬場に目を向けると、確かにこちらへ視線を送っている愛紗がいる。

「あ、ホンマや。愛紗こっち見とるわ」

 額に手をかざして、目的の人物を確認する。

 そんな霞の姿を見て、残る一刀の家族も口を開く。

「霞さん、戦の時は十分気をつけて下さい……」

「何卒、御武運を……」

「霞お姉ちゃん……頑張って下さい!」

「なんやなんや、お父はんも爺ちゃんも心配せんでええねんて! 佳乃も安心せい、この霞お姉ちゃんに任せとき!」

 照れ隠しで頭を掻きながらも、送られた激励の言葉を快く受け取っている。

「じゃ、ウチはまた愛紗とやり合うてくるわ。みんな、おおきにな!!」

 一刀の家族に後押しされるように、霞は再び鍛錬場の中へと戻っていく。

 愛紗に近付いて軽く頭を下げた後また戦闘態勢に戻った霞が、外で見ている人間たちに確認できた。

「みんな、ありがと……」

 助け船を出した家族に片手を上げて礼を告げると、四人は気にするなと言うように微笑みかけた。

 家族の間の不思議な繋がり故か、はっきり言わなくても真意は伝わっているようだった。

「……北郷一刀さん、都合つきました!」

 にらめっこを終えたアキラが、視線を一刀に向けた。

「本当かい? 助かるよ、ありがとう!」

「こんなんだったら、お茶の子さいさいです! ま、負担はあなたに行きますが……」

「仕方ないさ、それは……」

 溜め息混じりで呟くその顔は、何か強い意志を感じ取れる。

「他人事みたいで申し訳ないっすけど、大変っすね……」

「なーに、どうってことないさ!」

 吹っ切れたのか、それとも意気込んだのか、満面の笑みで応えた。

「よし、その意気っすよ! で、あとはそこの主任なんすけど……」

 アキラの言葉と視線の先に皆が目をやると、地べたに胡座をかいてうなだれている男の姿があった。

「ヤ、ヤナギさん、大丈夫ですか……」

 一刀が恐る恐る、落ち込んでいるであろうスーツの男に声を掛ける。

「……ええ、もう考え方を変えることにしました」

「へっ?」

 落ち込んでいる様子だった男は、急に立ち上がる。

「皆様の士気が上がれば、九頭竜を撃ち破るのも容易くなります。むしろこれは好ましい事なのです!!」

「おお! 主任が吹っ切れた!?」

 握り拳を震わせながら自分自身を鼓舞するように、男は一人で喋り出す。

「まだ全部を受け入れた訳ではないが、取り敢えずこの状況を肯定的に受け入れてみた!」

「さっすが主任! それでこそ仕事の出来る男!!」

「騒ぎの原因のお前が言うな! とにかく、理由はどうあれ皆様の士気が上がったのは事実! 今後これを何とか維持する為にも、徹底して閨の制限……を……強……化…………!?」

 力強く話していた男のその勢いが、どんどん衰えていく。

 それに加えて、その顔もみるみる青ざめていく。

「ヤナギさん?」

「どうしたんすか、主任?」

「ち、ちょっと二人とも……!!」

 男は慌てた様子で、心配そうな顔の二人を手招きする。

 それに応じて計三名の男が、残る集団から少し離れた所に集まった。

「どうしたんですか? そんなに血相変えて」

「たった今気付いた事があります! 二人とも耳を貸して下さい!」

「じゃあ、僕はその三倍返しで」

「そんな冗談言ってる場合じゃない!! いいから早く……!!」

 ただ事では無い様子の男に、後の二人は眉間に皺を寄せた。

「それでヤナギさん、気付いた事って?」

「名指しの挑戦状が送られる、という事はですよ? 標的はその人になる訳ですよね?」

「まあ、そうっすね」

「そうなるとですよ、それ以外の方々は標的から外れる、狙われる心配が無くなるという事です……」

「まあ、九頭竜が人質をとったりしない限りは、そう考えられますけど……」

「で、主任。それが何なんすか?」

「つまり……標的じゃない方々は何をしようと自由になるんだ…………!!」

「………………あっ!?」

 ヤナギの言わんとする事を一刀は察した。思わず口に出そうとしたのを抑えた。

 しかし、もう一人はそう上手くはいかなかった。

 

「ああ、そうか! 挑戦状の標的じゃない人達は自由に動けるから、誰が北郷一刀さんと閨を共にしても問題無いのか!!」

 

 −……ピタッ!!−

 

 鍛錬場に響き渡るその間抜けな声は、そこにいる全員を固まらせた。

 それはもう綺麗に、一時停止のボタンを押したような見事さで。

 鍛錬中のうら若き乙女達……はい、乙女達です。……も、それに気付いたようで、どこか気まずい表情になる。

「バ、バカッ!! 大声で言うな!!」

 その状況を一番良しとしない男が、またもや一騒動起こした男の頭を抑えた。

「す、すいません! つい……」

「つい、じゃない!! せっかく皆様が意気込んでいたのに…………」

 迂闊な発言のせいで士気がだだ下がると思った男は、鍛錬中の女性陣の様子を伺う。

 だが、次の瞬間には自分の目を疑った。女性陣の一時停止は解除され、再び鍛錬を続けていたのだ。

 予想に反したその反応に、三人は首を傾げた。

「鍛錬を中止していない……?」

「むしろ、さっきよりも力強くないすか?」

「ていうか、みんな力んでない?」

 鍛錬を続けていながら、それでもどこか様子がおかしい皆の姿を首を傾げたまま見つめている。

 

 それではここで、彼女達の心境の変化を順を追って説明しよう。

 全員が、ほとんど自由に行動できる事を男の発言により気付く。

 ↓

 鍛錬に意気込む必要性の無い事を悟る。

 ↓

 しかしここで止めてしまうと、自分が北郷一刀に愛される事が目的で鍛錬をしていた事を認めてしまう事になる。

 ↓

 しかも彼の家族がいる目の前で。それは恥ずかしいので何としても避けたい。

 (いや、北郷の事はどうでも良いが……その……一度始めた鍛錬を止めるのは、武人としてだな…………)

 ↓

 何より、霞からの圧が凄まじい。黙ってても解る。“ウチより先に一刀に抱かれるつもりや無いやろな……?”って言ってるのが表情で解る。

 ↓

 だったら視点を変えて、自分が格好良く勝利する所を一刀の家族に見て貰おう。そうすれば自分の事を認めてもらえるし、点数稼ぎにもなる。

 (いや、だから北郷はどうでも良くてだな……)

 ↓

 良し! 鍛錬を止める理由は無くなり、続ける理由が出来た。じゃあ、鍛錬を続けよう!

 

 という具合である。

 もっとも、当の本人はそんな事は一切気付いていない。

 残る男性陣も同じだったが、女性の方、特に母親の泉美は何となく察しているのか、クスクスと笑っていた。

「皆ホントに可愛いわね〜……」

「えっ? どうしたの、母さん?」

「ううん、別に」

 息子の問いかけをサラリと流して、軽く腰を屈めて側にいた璃々と孫登の頭を撫でている。

 二人は心地良さそうに、その行為を受け入れている。

 

 かくして、昼過ぎまで鍛錬と勉強は続いた。

 書庫から戻ってきた一人の女性が、潤んだ瞳と紅潮した顔で一刀を追いかけていて、黒髪の美しい眼鏡美人の軍師に取り押さえられていたのは、また別の話である。

 

 そうこうしながら、霞の決戦の日を迎えるのだが、それまでの間に起こった話は、また次回から。

 

 

 

 

 

−続く−

説明
次回から、シナリオパートのような話になります。御了承下さい。
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真・恋姫†無双 オリキャラ 北郷一刀  

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