メイド・イン・光ちゃん♪ |
「勝負は一回こっきりだからね?」
光の鋭い眼光に同じく視線を鋭くする健はコクリと頷き、つぶやいた。
「負けたら、約束……忘れるなよ?」
「忘れないよ!」
お互いスタートラインに手を置くと腰を上げ、クラッチングポーズを取った。
「……」
二人の視線が目の前を落ちる木の葉に集まり、木の葉が地面に落ちた瞬間……
バッ!
二人は風のように駆け出した。
ひびきの高校を代表する二人だ。
その速さは男子女子分けても頭一つ抜けて速かった。
そして、百メートル先のゴールにたどり着くと、健は気合を入れてガッツポーズを取った。
「シャッ! 俺の勝ち♪」
「そ、そんな……」
顔を青ざめさせる光に健は小躍りするように弾んだ声で言った。
「じゃあ、約束は守ってもらうからな?」
「……べ、別のにしない?」
「い〜〜や♪」
子供のように舌を出し、健は待ちきれない顔で飛び跳ねた。
「じゃあ、明日の休みはお世話になるよ……」
ニシシッといやらしく笑う健に光は心の中で泣いた。
そして、次の日の土曜日、健の所属する陸上部は休みで健はベッドの中で惰眠を貪っていた。
「光、そんな人前で……」
「……」
健の寝言に、メイド姿の少女は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「なにを見てるんだか……」
少女はそっと健の肩に手を沿え、やさしく揺らした。
「健くん、起きて……朝だよ?」
ユサユサと揺らされ、健は嫌々そうに首を横に振った。
「ご主人様と呼んでくれないと起きない……」
起きてるじゃんっとツッコミを入れたくなったが少女はコホンッと咳払いし、もう一度、言い直した。
「ご、ご主人様、起きてください!」
自然と口調まで丁寧語になり、少女は恥ずかしさに気をおかしくしそうであった。
「う〜〜ん……じゃあ、起きようかな?」
ホッとため息を吐く少女に健は目をキランッと光らせ、彼女の身体をベッドに押し倒し、中へと入れた。
「うぅん……!?」
ベッドの上がモソモソと動き回り、少女がベッドから開放されたときには彼女の顔はどこか呆け、顔が真っ赤に染まっていた。
「もぅ、健くんのバカ……すっごく恥ずかしかったよ!」
「いや〜〜悪い悪い!」
ベッドから起き上がり、なぜか肌をツヤツヤにした健はちっとも悪びれた顔をせず、笑った。
「まぁ、そぅ怒るなよ、光……?」
「……」
そぅ、今、健を起こしにきたのはメイドは、光そのものであった。
事の起こりは昨日の部活のときであった。
いつもの光の出してきた過酷ともいえる猛烈な練習メニューに健は逃げ出そうとして、光は健にヤル気を出してもらおうと、条件付で勝負を持ち出しのである。
それが百メートル走で自分に勝ったら、言うことを何でも聞くというものであった。
そして、結果は惨敗であった。
光が思ったよりも健の陸上の成長具合は早かったらしく、光は心の中で落涙した。
「こんなことなら、条件を出さなきゃよかった……」
「なに言ってるんだ! それよりも……」
ジ〜〜と光を見つめ、健は満足そうに腕を組んだ。
「やっぱり、光のメイド服姿はよく似合ってるな……えらいぞ、光?」
「褒められてもうれしくないよ!」
顔を真っ赤にしながら怒鳴り、光は気恥ずかしそうにメイド服の胸元を掴んだ。
「そもそも、この服、私にピッタリ過ぎない……」
「オーダーメイドだからな……こんな日が来ないかと、密かに作っといたんだ!」
こんな日って、ずっと昔から、自分にこんなものを着せる気だったのかと、光は幼馴染 ながら、この少年の変態的性癖に恐怖を覚えた。
「さて……朝飯にでもするか?」
肩をコキコキならし、健は光の顔を見てニッコリ笑った。
「朝飯、できてる?」
「……うん」
光の返事に健は不満そうに叫んだ。
「そこは「うん」じゃなく、「はい」だ! メイドとしての自覚が足りない!」
そんなメイドの自覚なんか持ちたくないよ……
光は心の中で健の顔を描いたサンドバックを何度も打ちつけ、必死に作り笑いを浮かべた。
「そ、それじゃあ、ご主人様……お、お食事の準備ができているので下へ」
「おし、行ってやろう♪」
ふるふると震える右手を押さえながら、光は心の中でなんども同じ言葉を繰り返した。
罰ゲーム、罰ゲーム……
なんども繰り返すことで気を沈め、光は健の後ろをついていった。
食事を終えると健は満腹そうに腹を摩った。
「いや〜〜絶品、絶品……光、うまかったぞ?」
「あ、ありがとう……」
自分の作った朝食を褒められて、光は満更でない顔で笑った。
だが、逆に健は不満そうに言った。
「ありがとうございます、ご主人様だろう?」
「うぅ……」
また、右手がふるふる振るえ、光は必死に心の中で自制した。
その脳裏にはなんども、罰ゲーム、罰ゲームと呟き、健への殺意を抑えていた。
それから、まさに健のワガママのオンパレードであった。
ことある事に健はメイドとなった光を呼びつけ、くだらない命令を繰り返した。
そのたびに光はメイドの心がけを身に付けさせられ、ストレスをためていった。
そして、夕方も過ぎ、外が暗くなってくる頃、夕食を食べ終えた健は、満足そうに光を見た。
「いや〜〜……今日は堪能させてもらった。感謝するぞ、光?」
「……」
「返事は?」
「はい、ご主人様!」
すっかり疲れきったのか光はヤケクソ気味に返事を返し、心の中で安堵した。
これで、この地獄ともおさらばできる……
光は今日、がんばった自分に拍手を送り褒めてやりたくなった。
これを聞くまでは……
「じゃあ、最後の命令……お風呂で背中流してくれ?」
「なぬっ!?」
光は本気で顔を真っ赤にし、大声で叫んだ。
「健くん、いくらなんでもそれはあんまりだよ!」
「え〜〜……光ちゃん、賭けに負けたくせに約束破る気?」
「クッ……」
その瞬間、光の中の糸がぷつんっと切れるのがわかった。
その切れる音を聞いた瞬間、光は狂ったように笑いだし、猛の首根っこを掴んで歩き出した。
「あ、あれ……光さん?」
どこか雰囲気の変わった光に健はすこし恐いものを見る顔で彼女を見た。
「どうかしたのかな?」
「ご主人様……そんなに身体を洗ってほしいなら、隅々まで洗ってあげますよ?」
キランッと目を光らせ、健をお風呂へと叩き入れた。
「その腐った性根ともどもね!」
その瞬間、健の少女のような悲鳴と衣服の千切れる炸裂音が響き、光の喘ぎに似た嬌声が響いた。
一時間後、びしょびしょに濡れたメイド服でお風呂を出ると光はピカピカに光った肌を撫で、笑った。
「あ〜〜……スッキリした♪」
光はお風呂場でミイラになった健を見て、いった。
「今日は遅いし泊まってくね……夜とぎが必要ならいつでも言って♪」
そのまま、濡れたメイド服を洗濯機に脱ぎ捨て、下着姿のまま、光は自分の服の置いてある
二階の書斎へと向かった。(となりが健の部屋なのだ)
その後ろ姿を見つめながら、健は燃え尽きた顔で真っ白なお風呂場の天井を見つめた。
「ちょ、調子に乗りすぎた……ガクッ」
その後、健の無茶な注文はなくなったらしいが、時々、味をしめた光がメイド姿となり、健に迫りよってきたらしい。
人間、限度を忘れると痛い目を見るものだ。
健は毎回燃え尽きるたびにそう思わざる得なかった。
おわり
光ちゃんのメイド小説が作りたくって、書きました。
今回は光ちゃんのメイド姿が鮮明に書かれず、残念でしたが、満足のいくできでした。
次は茜ちゃんか、ほむらかな?
美幸ちゃんもいいかも?
説明 | ||
陸上にヤル気を出さない健との勝負に負け、光は最初に言った 条件により、健への極悪な命令を聞くことになる。 |
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