彼らはポーのように <はいあお>
[全1ページ]

意味なんかなくて良いと笑うのはもう止めにしたよ。

君が求めるより多くの意味を紡ごう。

全ての言葉に意思の力を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灰青は昔から馴染みの店主で、店の中には骨董品やら古本やらを山積している変り者。

僕らは割りと彼を気に入っていて度々店を訪れる。

丸眼鏡の底から笑いかける穏やかな目も好きだ。

彼は珈琲を挽くのが巧い。

 

「灰青」

「なんだい」

「灰青」

「なんだい」

 

僕らは口々に彼を呼ぶ。

彼は同じ返事を繰り返す。

そうしてまた、僕らはクスクスと笑う。

 

灰青が一番愛しているのは小さな銀製の人形だ。

彼女は細い爪先で地面を踏みながらくるくると踊る。

古の西の都から海を渡ってきたのだという。

彼女がいとおしいのだと灰青はいつも呟く。

 

「灰青は彼女と結婚するのかい」

「結婚ならとっくにしているさ」

「灰青は彼女と添い遂げるのかい」

「彼女は私よりうんと長生きだよ」

 

そう言って灰青は笑うのだ。

僕らはそれを見るのが好きだ。

 

ある日灰青の元に赤い紙っ切れが届いた。

店を閉めなくてはと、彼はまた笑う。

僕らは彼の目の方を閉めて、彼女と共に埋めた。

彼の胸の上で彼女はくるくると回る。

 

彼女は君よりもうんと長生きだよ。

君が生まれる前から生きて、君が死んだ後も生きる。

 

今も骨董品屋の庭では、彼女がくるくると踊り続けている。

その銀の生き物は、ideeという名前を持っているのだった。

 

 

説明
繰り返す時間
止め処無い話
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
481 468 0
タグ
少年 少女 小説 短編 オリジナル 不条理 

haruさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com