SAO〜菖蒲の瞳〜 第二十八話
[全6ページ]
-1ページ-

 

第二十八話 〜 樹海の中の家 〜

 

-2ページ-

 

【アヤメside】

 

前方から振り下ろされる白色に輝く大鎌。それを紙一重で回避し、鎌の主である悪人面の二足歩行イタチを《ヴァーナル・フーフ》で蹴り飛ばす。

 

イタチは錐揉みしながら吹き飛び、側にあった木に叩きつけられた。

 

そこに、木に縫い付けるように《スローイング・ナイフ》を四本投げつけて追撃する。

 

それが最後となり、イタチは断末魔を上げながらポリゴンとなって砕け散った。

 

「ふう……」

 

肩の力を抜くように息を吐き、またすぐに気を引き締める。

 

現在の最前線は第九層。俺はその一つ下の第八層で素材集めをしていた。

 

ここ第八層は、見通しの悪い鬱蒼とした樹海がフィールドの大半を占めていて、昼間でも仄暗い。

 

それだけで十分に不気味なのだが、樹海の中は音一つ無い静寂が広がっておりそれに拍車を掛けていた。

 

樹海が静かな理由は、この層に出現するモンスターのほとんどが《((隠匿|ハイディング))》を得意とする《待ち伏せ型Mob》だからだ。

 

例えば、さっきのイタチなんかは俺が通り過ぎた瞬間、草むらから飛び出し背後から切りつけてきた。

 

その他にも、下から湧いて出てきたり、はたまた上から降ってきたりと、常に気の抜けない層となっている。

 

一応、待ち伏せMobより強力で厄介な《徘徊型Mob》もいることにはいるが、いかんせん、数が少ないから会うことはほとんどない。

 

そんな第八層で本当に厄介な点は――――

 

「ピ―――――――――ッ!!」

 

地面に落ちた投げナイフを耐久値が尽きる前に回収して立ち上がったとき、どこか近くから警笛のような甲高い鳴き声が上がった。

 

鳴き声の発生源を突き止めようと周りを見渡すも、木の枝や背の高い草が視界を遮り発見できそうにない。

 

「チッ!」

 

俺は思わず舌打ちしてその場から逃げるように走り去る。

 

なぜなら、もう少しすると強力な徘徊型Mobがやってくるからだ。

 

今の鳴き声の主は、《ピープラビット》という手のひらサイズの第八層固有ウサギ型Mobのものである。

 

やわらかそうなクリーム色の体毛に、体長ほどある長い垂れ耳が特徴の非常に可愛らしいモンスターなのだが、かなり厄介なヤツらでもある。

 

《ピープラビット》は臆病な性格――と言う設定――らしく、((好戦的|アクティブ))モンスターでありながら人前に出てきて攻撃してくると言うことは無い。

 

その代わりとしてか、ピープラビットはプレイヤーを発見すると、さっきのような鳴き声を上げて他のモンスターを呼び寄せるという能力を持つ。

 

止める方法はピープラビットを発見するだけなのだが、この樹海と言う視界の悪い環境に加え、ラビットたちも高い隠匿スキルを持っているため、非常に困難であり、また余裕もない。

 

そうなると、プレイヤーに与えられた手段は十中八九、《逃げる》に絞られることになる。

 

まさに、今の俺のようにだ。

 

……ウサギは鳴かない? そんなのβ時代に終わった話だ。

 

-3ページ-

 

体感で500メートルほどダッシュした俺は少しずつ速度を落としていき、やがて徒歩となった。

 

「全く、鳴かければ最高なんだけどな……」

 

偶然ながら、過去に四度目撃したピープラビットの姿を思い出す。

 

黒いつぶらな瞳にクリーム色のもふもふの体毛に包まれた姿はまるでぬいぐるみのようで、それに、発見されたときの怯え方と慌て方が加わった様子は実に微笑ましく、そのときこと俺はまだ鮮明に覚えていた。

 

その時はたまたまキリトと一緒だったのだが、それにも関わらず「テイムしたいな……」と思わず本音を呟いてドン引きされたほどだ。

 

「まあ、テイム成功率なんて万に一つの確率だろうけど……なっ!」

 

諦めの言葉を紡ぎながら、俺の直ぐ真下の地面から飛び出してきたツルハシをバックステップで回避する。

 

現れたのは、ライトが付属した安全用ヘルメットを被り、長柄のツルハシを持った灰色のもぐらモドキだった。

 

コイツとは何度も戦ってきたが、見る度に「そこはスコップだろ」と突っ込みたくなる。

 

仕舞いっぱなしにしていた短剣を取り出そうと右手を振ったとき、後方でボゴッ! と言う地面が盛り上がる音が聞こえた。

 

慌てず左に跳んでみれば、先ほどまで俺がいた所にツルハシの鋭い先端が突き刺さった。

 

灰色もぐらが二体。となれば、あと一体いてもおかしくないな。

 

そう思いながら、試しに足下を《パーム・ノック》で叩いてみる。

 

すると、ちょうどそのタイミングで地面が盛り上がり、掌底は現れかけた第三の灰色もぐらのヘルメットに命中して地面に押し戻した。

 

駄目押しで一度踏みつけ、あと一体いても良いよう頭上の太い枝に飛び移る。

 

下を見ると、四体に増えていた。

 

一度のエンカウントで四体か、と心の中で嘆息して投げナイフを二本取り出す。

 

狙いは……一番最後に現れたヤツにしようか。

 

ひし形に並んだ灰色もぐらの中から、一番遠い位置にいるもぐらに狙いを絞って《ダブル・シュート》を放ち胴体に命中させる。

 

それを確認した直後、俺は枝から灰色もぐら目掛けて飛び掛かり《空歩》を喰らわせ3メートルくらい吹き飛ばした。

 

反応しきれなかったもぐら三体を置き去りに、《空歩》の勢いによりヒットした地点から1メートルくらい前方に着地した俺は、地面に倒れ込む灰色もぐらを見据えながら、開いたままのメニューウィンドウより《クイックチェンジ》を選択する。

 

それにより現れた《タロン》を即座に引き抜き、その流れで《トラバース》を発動させて灰色もぐらの残りHPを0にした。

 

「あと三体」

 

剣技発動直後の((硬直時間|ボストモーション))から解放されると、念のため距離を取ろうと軽く前に跳びながら振り返り、一直線上にいた三番目に現れた灰色もぐらにタロンを投げつける。一応、命中して地面に落ちた。

 

まあ、ヒットしたところでそこら辺の石ころ程度のダメージしか発生しないが、これで俺は《武器((落下|ドロップ))状態》となり武器を((装備していない|・・・・・・・))のと同じ扱いとなった。

 

飛び掛かって来た二体の灰色もぐらのうちの一方のツルハシを避けて本体を蹴り飛ばし、ボールのようにもう一方にぶつける。

 

二体が側面衝突でこんがらがっている間に三番目に急接近すると、《パーム・ノック》で弾いて行動を封じ、地面に落ちたタロンを拾い上げて《ペック》でトドメを刺す。

 

「二体目」

 

残った二体に目を向けると、まだ絡み合っていたようで、これ幸いと《トラバース》で二体まとめて切り裂く。

 

すると、背後でポリゴンのはじける音が二度聞こえた。HPはまだ半分以上残っていたから、おそらくクリティカルが発動したのだろう。

 

「……終了。最後は運が良かったか」

 

タロンを鞘に収め、最初に投げた投げナイフを探す。

 

しかし、耐久値が尽きて消滅してしまったのかどこにも落ちてなかった。

 

小さく溜め息をつき、ドロップしたアイテムの確認する。

 

「……素材ゲット」

 

俺が欲しい素材アイテムは灰色もぐらからはあまり入手出来ないのだが、四体も倒した甲斐があった。

 

「さて、移動するか。またピープラビットに見つかるのは厄介。流石に三連戦はキツい」

 

あと二十分はモンスターと遭遇したくないな、と思いながら樹海の中を歩き出した。

 

-4ページ-

 

……そう思う時に限って遭遇するわけで、あれからピープラビットの警笛を四回ほど聞いた――内一回は発見に成功した――俺は東奔西走して逃げ回った。

 

逃げ回ったおかげでモンスターと戦闘する事は無かったが、ろくに考えず走り回ったため道に迷い、妙な場所を見つけた。

 

「どこだここ……?」

 

樹海の中を通る一本の小径。それだけなら獣道と断定できるから普通なのだが、不思議なことに、その小径は下草が綺麗に刈られて道が整備されていた。

 

現在地を確認しようとウィンドウからマップを開けば、周囲が全て空白地帯。

 

第八層のフィールドは全て埋めたはずなので、今いる場所は隠しエリアか隠しダンジョンと言うことになると思われる。

 

俺が辿った道の跡も無いから、多分ダンジョンだろう。

 

隠しエリアやダンジョンに出現するモンスターは、通常のフィールドのものより強力なのがセオリーだ。あまり深く潜らない方がいいだろう。

 

そう結論付けた俺は、ウィンドウを閉じて前に一歩踏み出した。

 

「大丈夫。深く潜らなければ大丈夫」

 

と、誰に対してでもない言い訳を呟きながら、好奇心の赴くまま奥へ奥へと小径を進んでいく。

 

モンスターとエンカウントすることなく五分ほど歩いたところで、開けた場所に出た。

 

そこには、中央付近に木造の小さな家が建っていて、人が住んでいる気配があった。

 

俺は何となく家に近付き、そのドアに手を掛ようとする。

 

「キュィ―――――――――ッ!!」

 

その瞬間、嫌と言うほど聞いてきた警笛のような鳴き声が樹海に響き、頭の中にいくつかのワードが浮かんだ。

 

隠されたステージ。((開|ひら))けた空間。何かがありそうな建物。そして、モンスターを呼び寄せるアラーム音。

 

「――モンスタートラップか!?」

 

そう判断した俺は、周囲を警戒しながら大きく後ろに跳んで素早くタロンを抜き、心の中で自分に対しての悪態をついた。

 

《モンスタートラップ》とは、宝箱などを開けることによって発動するトラップで、発動すると《大量のモンスターが出現し襲いかかってくる》というタイプのトラップだ。

 

さらに、出現するモンスターは通常フィールドやダンジョンのものより強く、具体的に表すと《階層+2or3》となっている。

 

となると、ここは第八層なので、出現するモンスターは第十層か第十一層相当の強さを持つということになる。

 

よりによって、β時代に辿り着けなかった未知の階層の強さだ。

 

順当に敵の強さが上がっていくなら倒せないこともないが、第十層からグッと強さが上がらないとは限らない。

 

前者であって欲しいが、もし後者だったとしたら死ぬかもしれない。いや、間違いなく死ぬ。

 

そう思うと、寒気がした。

 

暑いどころか涼しいくらいなのに、汗があふれ出てきた。

 

音を聞き漏らさないよう、糸を張り詰めるように感覚を鋭敏化させて周囲に張り巡らす。

 

渇いた喉を潤すため、ゴクリと生唾を飲み込んだ直後、建物の影から白い物体が高速で飛び出してきた。

 

「ッ!?」

 

予想以上の速度に体が硬直しかけたが、距離があったためどうにか立て直してギリギリで避ける。

 

白い物体はそのまま俺の側を通過し、地面に着地した。

 

「キュゥっ!?」

 

……と思ったら、勢いを殺しきれなかったようで、派手に前転してごろごろと地面を転がった。

 

「………」

 

余りの事態に言葉も出なかった。取り敢えず、これがトラップの類では無いことは何となく理解出来た。

 

毒気の抜かれた俺は、さっきまで緊張していた自分がアホらしくなり、深い深い溜め息をついて剣を鞘に戻した。

 

そのあと、自然体で地面にのびている白い物体を観察してみる。

 

一言で現わすなら、《白いピープラビット》だった。

 

もふもふのやわらかそうな体毛に、体長と同じ長さの垂れた長い耳。体毛の色が《白》と言うだけで、その他のところはピープラビットと変わらない。

 

でも、ピープラビットはプレイヤーを攻撃しないはずだから、別のモンスターなんだろう。

 

「キュィ……」

 

観察を続けていると、白ピープラビットが可愛い唸り声をあげながら起き上った。

 

白ピープラビットは起き上がると、直ぐにくるりと俺のほうに振り向いて臨戦態勢に入る。

 

しかし、白ピープラビットには悪いが、俺はその姿に警戒心ではなく微笑ましさ感じ、観察を続けた。

 

真正面から向かい合う形になりまず最初に目についたのが、瞳だった。

 

普通のピープラビットと同じつぶらな黒い瞳なのだが、全てを見通し見透かしていると言うか何というか、そんな深さを感じた。

 

「キ、キュゥ」

 

俺がじーっと見つめていると、白ピープラビットはさっきまでの威勢が急に形を潜め、怯えるように小さく震えだした。

 

その姿は、今までで五回見てきたピープラビットたちの姿と被るものがあったが、それでもこの子は逃げ出そうとはしなかった。

 

怖くて怖くて仕方がない。でも、守りたいから頑張る。

 

俺にはそう見えた。

 

「お前――」

 

「あら? どちらさまですか?」

 

「キュイキュイッ!!」

 

俺が口を開いたとき、小径の方から少女の声がかけられた。

 

声がかけられた瞬間、白ピープラビットは震えが止まり、喜色の鳴き声を上げながらその声のもとへ猛ダッシュした。

 

その様子を目で追いながら俺も声の主に目を向け――言葉を失った。

 

さっきのような呆れではなく、本当に頭が理解できなかった。

 

深緑色のどこか和服めいた民族衣装のようは服を身にまとい、髪は背中の中間あたりまで伸びた金色のストレートで、瞳は右が((翠|みどり))、左側が((碧|あお))のオッドアイ。

 

髪を三つ編みに結っていないし、メガネもかけけていないが、その顔の造形は俺の妹――((浅居涼|アサイスズ))と瓜二つだったのだ。

 

-5ページ-

 

オリジナル設定

《第八層》

・中央の山のような迷宮区を中心とした樹海が層を埋め尽くし、大きい湖が北、西、東に一つずつ存在。南に主街区《クウィヒル》がある。

・モンスターの傾向として、《待ち伏せ型》がほとんど。

 

《ピープラビット》

・第八層固有のウサギ型Mob。

・直接攻撃してくることはないが、鳴き声を上げて他のモンスターを呼び寄せる。

・《((peep|ピープ))》は《覗き見》と《警笛》の意味。

 

-6ページ-

 

【あとがき】

 

結局書いてしまったよ。しかも、いつもより一日早い投稿。テスト期間中になにやってんだか。まったく自制心が無い。実に滑稽だな。ほんと、笑えるよ。笑っちゃえばいいよ。あーっはっはっはっは! ……はあ。(リスペクト:リ○バスより朱○戸沙耶)

 

そんなわけで。以上、二十八話目でした。みなさん、如何でしたでしょうか?

 

オリジナルストーリー《臆病な兎》編スタートです。

本編は、原作キャラの登場がほとんどなく、キャラクター含むオリジナル設定が出てきますのでご了承ください。

 

ちなみに、皆さんが思い浮かべる耳の長いウサギは鳴きませんが、中には《ナキウサギ》という鳴くウサギもいます。(まあ、耳が短くてハムスターみたいな外見してますけどね)

 

次回は少女と白ピープラビットの素性が分かります。

 

それでは皆さん、また次回!

 

説明
二十八話目更新です。

今回から《臆病な兎》編です。ようやく登場だよ兎さん!

コメントお待ちしています。


2013年2月28日 一部修正
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
861 794 4
コメント
ネフィー 様へ  さて、それはどうでしょうかね?(bambamboo)
本郷 刃 様へ  そういうことだったんです♪ さてさて、いったいどうなるんでしょうね〜(bambamboo)
妹そっくりか…アヤメくん、平常心じゃいられないだろうな……(ネフィリムフィストに戦慄走った)
なるほど、『臆病な兎』とはこういう意味だったんですね、納得しました・・・しかし、妹そっくりな娘が出て来るとは一体どうなるのでしょうか? 楽しみです♪(本郷 刃)
タグ
SAO オリ主 オリキャラ オリジナル設定 ヒロインはシリカ 

bambambooさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com