24 私は暗殺姫で、家政婦じゃないのよ? 我が君 |
●月村家の和メイド24
「カグヤちゃんは悪役だよね」
それが帰ってきた時、皆さんに言い訳した内容を聞いた時のすずか様の言葉でした。
まあ、解らなくもないですかね? 散々心配かけておいて言った言葉は―――、
「はい、容態を診てもらうのには一日も必要無かったのですが、万全の為、色々検査をしてもらっていたらこんな時間に。はい? 連絡ですか? カグヤが携帯電話を未だにまともに使えないのは御存じの程と思いますが? すずか様とは連絡できたはず? いいえ、掛ける事はできますが、受ける事は憶えていませんでしたから。心配かけた事についてですか? そんなぁ、カグヤはちゃんと、『遅くなるかもしれない』と言い置いて行きましたよ? これは、許容範囲にございますれば、それに謝罪を述べる事はありません。代わりにお礼を申し上げる事はするでしょうが」
―――っと言うモノでしたから、まあ、皆さん呆れてしまうのも解るのですがね。
っで、現在カグヤが何をしているのかと言いますと……、
「えっと……、どれが良いと思う? カグヤ?」
「いえ、カグヤに聞かれても困るんですよ? フェイト様」
「そう、だよね。ごめん……」
「いえ、謝る所でもないのですが……」
現在、カグヤはデパートのとある階、携帯電話の売られているエリアに二人っきりにされている状態です。目的は、フェイトの欲しい携帯を選ぶ事に在るのですが……。
正直勘弁してもらえませんか? カグヤが『カグヤ』で居る間は、極力魔術師関連に係わらないようにしていると言うのに……。
朝から嫌な気配はしていたんです。御馴染みの皆さんで携帯電話の雑誌を見ている時、斜向井(はすむかい)嘉納(よしな)と冴沢花奈(さえざわかな)の二名が、いつになく積極的に話しかけてきて、おまけフェイトの気も引きつけるようにするんです。その間に、すずか様とアリサとなのはが三人でヒソヒソ話をしているのを見れば、何か企んでいるらしい事はすぐに解りました。まあ、あの方達が悪い企みをするわけもないと思い、敢えて放置していたのですが……、まさかカグヤとフェイトをくっつける策だったとは……。
「えっと……、皆遅いね? どうしたんだろう?」
「すずか様は厠と言ったきりです。アリサ様となのは様は遅いからと探しに行ったきりです。そしてミイラ取りはミイラになられたご様子です」
「カワヤ?」
「フェイト様? 日本語の独特な単語についてこられないのは承知しておりますが、今後の為に憶えておいてください? そこは訊き返してはいけない単語です」
「え? そうなの?」
「トイレの事ですから」
「ご、ごめんなさいっ!」
真っ赤な顔をして俯いたしまうフェイト。それを隣で見てしまったカグヤは、あまりの可愛らしさに、こっちが恥しくなってきてしまいました。
何と言いますか、すずか様と違い、意外と隙が大きいところが無防備に可愛らしく、どうも警戒心を削がれてしまいます。
「えっと、その……、どうしようか?」
「カグヤは、すずか様の召使にございますから、ここで待たねば」
「そう、だよね……、うん」
それっきり、フェイトは黙り込んでしまいます。他に話す話題が見つからなくなったのでしょう。対するカグヤも、腕を組んで眉を顰めた状態ですずか様を待っているので、話し掛け難いのかもしれません。
それにしても、すずか様達は何故カグヤ達をくっ付けようとしているのでしょうか? 先日すずか様に引っ張り戻された身としては、いきなり誰かに押し付けられようとしているみたいで居心地が悪いです。まあ、すずか様は良かれと思ってしている事なのでしょうが……。
「こんな見え見えのセッティングに掛ってやる気はないな……」
「え? カグヤ、今何か言った?」
「何でもありませんよフェイト様。皆様遅い様ですし、先に携帯電話を買ってしまいましょう」
「え? だって、その……、まだリンディ提と―――リンディさんが来ていないから」
「催眠術の心得がありますから、それで大人と誤認してもらいましょう。別段、代書きをするだけで、犯罪をするわけではないので問題ないでしょう」
「催眠術!? ……っじゃなくて問題あるよ、それっ!? ちゃんとみんなを待とうよ?」
「解りました。それじゃあ、皆様が帰って来るまで簡単な遊びにでも興じましょうか? フェイト様? こちらに糸で吊るした五円玉があります。こちらを見てもらってもいいですか?」
「え? うん……」
「これをゆ〜〜っくり、左右に動かしますから、目だけで追ってください? ……ほーら、なんだか気持良くなってきますよ〜〜〜? 瞼が重〜〜くなってきますよ〜〜〜?」
「………はい」
「眠〜〜〜く眠〜〜〜く、なってきます。ドンドン意識の深いところに落ちて行きますよ〜〜〜?」
「………(こくり)」
「フェイト様? あなたは今、意識のとても深いところに居ますね?」
「………(こくり)」
「では、これからはカグヤが目の前で指を鳴らしますと、すぐにその状態に入ります。よいですね?」
「………(こくり)」
「ではフェイト様? とりあえず……そうですねぇ? 下着の色は?」
「………しろです」
「おや? 本当にかかってるみたいで―――あ痛っ!?」
スパコーーーンッ!!
「何聞き出してんのよアンタは!? ほら! フェイトも目を覚ます!!」
いきなり後ろから現れたアリサは、フェイトの前で何度も手を叩いて目を覚まさせます。驚いたフェイトは、先程までの事を憶えていない様子で「え? あれ? アリサ? いつの間に?」と混乱してらっしゃいます。
「やっと出てこられましたね? こうでもしないと物陰から出て来て下さらないんですから……」
「うっ!? まさか、気付いてたの?」
「すずか様となのは様の位置も把握しております。カグヤが主の位置を見失うと御思いですか?」
「あんた、いつにも増してすずかの事把握するようになったわね?」
「主の嘘くらい見抜けずして、従者などやっていけますでしょうか? カグヤは、すずか様の従者であり、使用人であり、召使であり、時には騎士にならねばならないのです。スキルは多くて困る事はないのですよ」
「騎士?」
話の後半だけが聞こえたのか、フェイトは首を傾げて聞き返してきます。この間にアリサは手をバッテンにして何処かに合図を送っています。すずか様となのはに、作戦の失敗を教えているようですね。
「ええ、カグヤはすずか様のために、世話だけでなく、時に戦う事も想定しているのです。そうやってすずか様の全てを守って行く事、それが御優しい言葉をかけてくださる、すずか様への、カグヤにできる恩返しなのです」
「優しい人への、恩返し……」
フェイトはそう呟いた後、何事かを考えるような表情となりました。
よく解りませんが、これ以上会話しなくても済むのなら、カグヤにとって越した事はありませんね。
その後は特に会話らしい会話もせず、フェイトは無事に携帯電話を購入なされました。『NF226D』と言う黒を基調としたモデルなのですが、聞いたカグヤには全く解りませんでした。
まあ、皆様の作戦も失敗した事ですし、これで余計な接点を作らずに済むでしょう。
カグヤはその時、そんな風に考えていました。
龍斗 view
フェイトの家に遊びに来ていた俺は、そこで緊急を告げるアラームを聞いた。
目標の相手、シグナムとザフィーラを確認。フェイトとアルフが出動した。
その後しばらくして、別世界でヴィータを発見した。闇の書を持っているのはこっち、つまり本命はこちらだと推測される。俺は土地を離れると霊力を借りれない。それでもここ半年近い修行でそれなりに戦う事はできるようになった。だから、なのはのサポートくらいならと思い、一緒に出撃した。
話し合おうとするなのはに対し、ヴィータはスタングレネードみたいな魔法を使って目暗ましをすると、一旦距離をとって次元転送を行おうとした。そこになのはの長距離砲撃が発射され、見事命中したのだが……。
「少し、やり過ぎた……?」
「いや、防がれたよ」
「え?」
俺が告げた先、ヴィータを庇ったのは、あの黒の暗殺姫だった。
さすがになのはの砲撃をまともに防ぎきれなかったらしく、左の肩を庇っている。あそこの部分だけバリアジャケットが無くなっているのを見ると、相当のダメージが入ったはずだ。今なら倒せる!
俺はクイック・ムーブを使い距離を半分踏破する。なのは程の長距離射撃はできないが、中距離になれば弾幕で狙う事くらいできる。
「行くぞ! フェイトのファランクスからヒントを得た……ヴァーティカルエアレイド!!」
刀を切り上げると同時に無数の風刃を撃ち出し、時間差で振り下ろす一刀には巨大な風刃を撃ち出す。数と質量の同時攻撃だ! 守ろうとすれば後から来る巨大な風刃に、避けようとすれば最初に飛び出した無数の風刃に、防御と回避を同時に潰した。
「……!? 姉君! 動かずに!!」
「クヨウ!?」
「『我が君の盾なる守護者(ガーディアン)』タイプ:ディフェンスシェル!」
クヨウが何か命令すると、例の盾を創り出す板がヴィータの周囲を囲み、まるで亀の甲羅の様に守る。だが、アレだと自分は逆に無防備だぞ? どうする気だ? そう思って見ている先で、なんとクヨウは手に作った黒い魔力刃を展開し、迫りくる風刃を薙ぎ払い防御しようとしている。
「ええっ!? それって無茶なんじゃ……!?」
なのはの言う通り、迫る風刃をパリィで弾いて行くが、盾で守るのとは違う。一瞬の隙が命取りになる上に、あれでは強力な最後の一撃に対応できない!
「死ぬ気かお前!?」
「黒の暗殺姫を……嘗めないでーーーっ!!!!」
クヨウが叫びながら両手に魔力を集め、俺の放った魔力刃と同等の黒い刃を創り出し、相殺しようとぶつけ合う。だが、魔力量が違う。クヨウの刃は削れて行き、完全に相殺しきる事が出来なかった。
「きゃああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
悲鳴と共に、闇色の少女が眼下の森に落ちて行く。対して赤い騎士はクヨウの残した盾が完全にダメージを相殺したらしく、無傷だ。
「クヨウ!? てめぇ〜〜〜っ!!」
ヴィータが突っ込んで来る。正直、カートリッジシステムに対し、『反則』を使えない俺では分が悪い。だが、その相性に増して、俺は接近戦が大の得意。クヨウの様に目の前で消えられる事さえなければ、ヴィータ相手にも充分相手できた。おまけに後方からなのはが迫っている。どうやら此処は俺達の勝ちが決まった様だ。
ヴィータの鉄槌をいなし、その勢いを利用して、返す刀で切り上げる。それだけでヴィータの懐に一撃が入った。力でなく技を使い、完全に相手の力を上回る。まだ魔力の使用にムラがあるかもだけど、充分対応できる。
「くっそ……!」
入った一撃はどうやら魔力を纏って防御されたみたいだ。大したダメージになっていない。だけど、今度はこっちから攻められる距離。クイック・ムーブを使い背後を取ると、振り上げた刀を一刀振り下ろす―――!
「なにっ!?」
刹那、俺の身体が何かの力によって縛りつけられた。なのはがよく使っているバインドだ! しかもかなり強力なのを貰ってしまった! でも一体何処から? 視線を巡らして捉えたのは、先程までヴィータがクヨウに守られていた場所。そこに情報にあった謎の仮面の男が居た。
遠くでなのはがディバインバスターの体勢に入った。相手の手出しができない距離から砲撃。これならなんとかなると俺も思ったが―――何と、あの仮面男、ヴィータも驚愕させた長距離にバインドを放ち、なのはの動きを封じてしまったのだ。おまけに幾つかの魔弾を撃ちこまれ、なのは勢いに押されて落下していった。
「なの―――がぁっ!?」
仲間を心配している暇もなく、今度は俺の胸から何かが飛び出す。
それは手だった。その手が俺の胸から飛び出し、翠色に光る物体を掴んでいる。
これと同じ物を、俺は一度見た事がある。なのはがリンカーコアを奪われた時と全く同じ状況だ。なんとかしようと試みたが、心臓を直接掴まれた様な不気味な感触に、身体が本能を飛び越えて硬直してしまう。このままだとまずいと言う『魔導師』としての反応と、今動くと命に係わると言う『魔術師』としての冷徹な判断が同時に重なり、結局俺はどちらかをとったのでなく、なす術もなく意識を遮断させられた。
クヨウ view
「助けてもらったって事で、いいのよね?」
なんとか無事に生還した私の治療をしてくれながら、シャマルが確認するように呟く。
現在時間は早朝。我が君はまだ自室なので、私達は全員がリビングに集まって作戦会議をしているところ。
「ああ、少なくとも、奴が闇の書の完成を望んでいるのは確かだ」
それに答えるのは我が将。どうやら彼女の方にもあの男は現れたらしい。いや、私は使えないけれど、変身魔法と言うモノがある。仮面を付けて素顔を隠しているのなら、素性を隠す為に、仮面以外の方法を行使していてもおかしくない。ならば、男と言うのも怪しいところ。
「しかしなぜ闇の書の完成を? それを果たした時、彼に何か理があると言うの?」
「完成した闇の書を利用しようとしているのかもしれん」
「ありえねえ!」
私の質問に推測を出したザフィーラの発言に、ヴィータがすぐさま否定した。
「だって、完成した闇の書を奪ったって、マスター以外には使えないじゃん!?」
そうだ。アレに取り込まれた私の中にもその知識はインプットされている。闇の書の主は闇の書が選ぶ。それが完成して、主が固定された以上、他の誰かを主として変更する事などできない。かと言って、マスターを脅す事も不可能。
「完成した時点で、マスターは絶大的な力を得る。脅迫や洗脳に効果がある筈もないしな……」
「まあ、家の周りには、厳重なセキュリティが張ってあるし、万が一にもはやてちゃんに被害が及ぶ事はないと思うけど……」
セキュリティには私も加わったのでよく覚えている。下手な魔力の運用は、この土地の守人に気付かれてしまう。そのため、土地内での魔力使用には、必ず私が同席し、魔力が感知されないように気配遮断の術式を一緒に縫い込んでいる。その気になれば、八神家を一般人には認識できない幽霊屋敷にする事も可能だ。そこまですると逆に不自然になるので実際はしないけれど。
「念のためだ。シャマルとクヨウは、なるべく主の傍を離れないようにしろ」
「うん」
「私もですか? 私のスキルは蒐集に都合がいいのでは?」
「解っている。だが、その怪我ではすぐに動けんだろう? それに、あの少年の分が想像以上に大きく、アレだけで五十以上のページが埋まった」
五十……!? あの白い少女でさえ二十ページだったと言うのに、その倍以上。私が抜けた分のお釣りは充分と言う事ね。
納得して頷くと、何だか不安そうな表情のヴィータが「ねえ?」と皆に訪ねてきた。
「闇の書を完成させてさ、はやてが本当のマスターになったら、それではやては幸せになれるんだよね?」
「なんだいきなり?」
「闇の書の主は大いなる力を得る。守護者である私達が、それを誰よりも知ってるはずでしょ?」
姉君の言葉に、我が将とシャマルが首を傾げるように訊ね返す。
「そうなだけど、そうなんだけどさ……、私はなんか、なんか大事な事を忘れてる気がするんだ……」
その不安そうな顔に、よく解っていない私達全員が浮かない顔になってしまう。ただでさえ不安要素の多い状況、これ以上の脅威も簡単に生まれ出る不安定過ぎる位置に、誰も支えを作る事が出来ないでいる。
私は悪意の塊から生まれているため、『幸せ』と言う言葉を肯定する内容を思いつく事も出来ず、皆と同様に黙るしかなかった。
その時だ。我が君の部屋から何かが倒れる大きな物音がした。
驚いた皆で向かうと、そこには―――胸を押さえて苦しんでいる我が君の姿があった。
龍斗 view
痛手過ぎるミスだった。まさか俺までリンカーコアを奪われるなんて。
幸い……と言う言葉は失礼かもしれないが、俺はカグヤの様にコアの回復がされないような異常はなかった。むしろ回復速度が異常に早いらしく、明日にでも魔法の使用が可能になると言われた時は、自分の事ながら本当に人間か? と疑いたくなった物だ。
とりあえず、俺の方は全く問題が無かったので、同じようにコアを奪われてしまったらしいフェイトのお見舞いに来ていた。
「ごめんね……、私、やられちゃった……」
「ん、ああ……、別に謝る事無いぞ。そこで謝られると俺も謝らないといけなくなるんだし」
っと言うか管理局のサーチャーでも確認できない相手に不意打ちされて、その事を謝れと言われても「困る」としか言いようがない。なんせ誰にも把握できなかったんだから。
っといってもアレは暗殺姫のスキルとは別物のように思える。クロノには既に話したが、アイツらの気配遮断は異常だった。クヨウはありとあらゆる方法を全て使う事で、身を隠す事を絶対の物として成立させている。だが、それは逆を返せば、綻びを作らないよう、それだけに力を特化させたという欠点でもある。事実、彼女は戦闘力その物は、他のヴォルケンに比べ、劣っているようにも見える。
対して、あの男は、まるでこちらの手段を看破した上で、それに対する専用の隠れ蓑を持ってきたかのようにすんなりサーチャーを無視してきたのだ。管理局のシステムに干渉したと言うのも怪しい。それだけの技術を持っているのに、アイツは俺を落さなかった。土地守が龍脈を出ると霊力の援助を得られないという情報を知っているとは思えない。アレはどう見てもミッドの『魔法』だったし。それなら下手に捕縛するより、ダメージを与えて確実に落とした上でコアを回収すれば良かったんだ。バインドを仕掛ける事が出来たのなら、攻撃を当てられないはずがない。そうしなかったのは何故だ? その答えを肯定するには、『ホントはそれだけの力はない』と言う結論を肯定しなければならない。だが、実際にアイツはそれをやってのけた。組織だってやっていると言う話も上がったが、それもどうなのだろう? 管理局を騙せるレベルの組織がいるのなら、その方が問題だ。
まあ、いいか? 今俺が考えたところで、その答えは出ない。後で姉さんかカグヤに話して意見を聞いてみるとしよう。
「龍斗……」
「どうした?」
フェイトがちょっと恥ずかしそうに見上げてくるので、俺も思考を打ち切ってフェイトに答える。
「あの……、その……、今まで、言える機会が無かったから、今の内に言っておこうと思って……」
「なんのこと?」
「あの時の、……時の庭園で言ってくれた事」
「ん、ああ? あの時? 俺何か言った?」
プレシアさん相手に色々言ってしまった気もするが、フェイトが何の事を言っているのか解らない。するとフェイトは少し顔を赤らめて俯きながら、教えてくれた。
フェイト view
私は話した。あの時の事を思い出すように、龍斗が言ってくれた嬉しかった思い出。
あの時の私は、なのはのおかげで母さんの所に向かう事が出来た。母さんの所に辿り着いた時、そこには既にクロノと龍斗が到着していた。
「娘だよ! アンタが何を言ったって、フェイトは娘なんだよ!」
それは龍斗の声だった。どういった経緯でそんな話になっているのかは解らなかったけど、龍斗が私の為に母さんを説得しようとしてくれているのは解った。
「アレが娘? バカを言わないで? 私の娘は、ここに居るアリシア一人だけよ」
「じゃあ、なんでフェイトを生んだんだ?」
「生んでなどいないわ。作ったのよ。ただ失敗しただけ―――」
「ここで作ったと言うのなら、フェイトがあなたの言う『完成』だったとしたら、それも『作られた命』。結局アリシアにそっくりの精巧な人形が出来ただけじゃないか!」
「!? ふざけないで! そんな言葉遊びで―――!」
「フェイトを『失敗作』と呼ぶのなら! 結局それは『フェイト』って一人の少女を生んだ事になるんだ! それを生んだのはプレシア・テスタロッサ、あなたじゃないか!?」
「ちがう!! 私が求めているのはアリシアだけよ!! それ以外はなにも必要じゃない! 娘じゃない!」
「親を思う気持ちがあれば、娘の条件なんてそれで良いんだ! 血が繋がっていないだけで、フェイトは間違いなくあなたの娘で! あなたの新しい家族なんだよ!」
「それはあなたの勝手な理屈でしょう!? そんな屁理屈で、私からアリシアを奪わないで!!」
「それなら、最初っから、フェイトを生み出すなよ!! なんであの子がこんな辛い目に遭わないといけないんだ!? アンタの苦しみを、娘だから、親子だからって一緒に背負ってくれているのに……っ!? なんでその見返りが何もないんだよ!? それじゃあ、アンタがアリシアを生き返らせるために背負った物が、全て『無意味』で突き返されるのと同じじゃないか!?」
「一緒にしないで! アリシアは……フェイトじゃないわっ!」
「そうだよ! だから、フェイトはアリシアの妹じゃないか!? アンタがアリシアの細胞で作った、アリシアの姉妹なんじゃないか!?」
「――――!」
「俺は―――! 俺はフェイトにも、あなたにも! ちゃんと幸せになってもらいたいんだ!! 二人を守ってあげたいんだよ!!」
私は嬉しかった。私を家族なんだと言ってくれた事。私だけじゃなくて、母さんの事も考えてくれていた事。私の事を、守りたいと言ってくれた事。
結局母さんは私の手を掴んではくれなかったけど、代わりに龍斗が私を引っ張り上げてくれた。あの力強い腕に、私は強く惹かれた。なのはの様に温かい手とも違う、もっと頼もしい何か……。
そう、あの時からずっと考えている事があった。龍斗が守りたいと言ってくれた時から、私も彼に何かお返ししたいとずっと思っていた。なのはとは友達の証としてリボンを交換したけど、龍斗とは何も交換できなかったし、なにもお返しできなかった。だから、ずっと離れている間、考えていて、それで前に携帯電話を買いに行った時、カグヤの一言に『これだっ!』って思った。
私はあの時の感謝を述べてから、その考えていた事を龍斗に伝えた。
「龍斗、私を龍斗の騎士にして」
「………へ?」
「出来るなら、なのはにしたって言う『契約』をしてくれると、嬉しいかも……」
「…………What?」
クヨウ view
時は夕方、我が君の病室。
結論から言うと、我が君の症状は思わしくないだろうと言うのが担当医の判断だった。しかし、我が君は痛みなどの症状を隠してしまうので、現状を把握し難い。そのため万全をきたす為、ここは入院してもらう事が一番と言う話に落ち着いた。
この話を聞いた我が君は驚いて声を上げたので、シャマルが「大した事じゃない」とフォローを入れた。それは我が君を思っての言葉だったのですが、我が君が御悩みになっているのは別の事だったようです。
「私が入院しとったら、皆のご飯は誰が作るん?」
その言葉に義姉君達が一斉に固まってしまう。
元々主を護るために戦う事だけを想定された守護騎士、料理などと言うスキルがある筈もなく、誰も作れない。その上姉君の中でもシャマルは特に苦手としているようで、料理を作っているのか爆薬毒物を作っているのか、全く解らない。
そこで姉達の視線は一斉に私へと注がれた。この中で唯一まともに料理が作れたのは私だけです。ただし、それは『まともだった』と言うだけで、我が君にはもちろん、普通の料理にも味は劣り、褒められる出来の物はできていない。
「ま、まあ、……それはまあ、なんとかします。主(おも)にクヨウが」
「そうですよ! 大丈夫です! クーちゃんがいるのでたぶん……」
「クヨウ、頼んだぞ」
「皆私に丸投げなのね?」
悪意の象徴が、家族のために慣れない料理を覚えようと努力する。なんと言う滑稽な姿だろうか?
「はあ……、これでは『黒の暗殺姫』でなく『日向の家政婦』ね……。もう暗殺でさえないわ……」
私の重い溜息に、我が君の表情が少し綻んでくれた。冗談ではなく本気で嘆息しているのですが、我が君が笑顔でいてくださるのなら、いい事よね?
「ほな、ウチは三食昼寝付きの休暇をのんびり過ごすわ」
そう言ってベットに潜り込んでくれた時、何か思い出したように声を上げる。
「アカン! すずかちゃんがメールくれたりするかも!?」
「ああ、私が連絡しておきますよ」
「うん、お願いシャマル」
こうして私達は病院を後にするのでした。
この時、きっと我が君が一人になった病室で痛みに耐えているであろう事は、誰にでも予想出来た。闇の書の完成、私達は急がなければならない。
迅速且つ慎重に―――。
「クーちゃん!! 大変なのどうしよう!?」
そんな折、まさか翌日に事件が舞い込むとはさすがに思いませんでした。
料理本を片手に料理の練習をしていたところ、シャマルが携帯を片手に大慌てで知らせて来たのは、本当に慌てさせるような物だった。
管理局関係者、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、東雲龍斗、更に画像を確認してもらったところ、ザフィーラが襲ってしまったと言う土地の管理者を名乗る少女、カグヤ・K・エーアリヒカイト。この四人が一斉に我が君に会いに来ると言うのだ。理由は我が君のお友達、月村すずかの友人で、皆でお見舞いに来ると言う事。
困った事になった。特に土地管理者を名乗るカグヤは一番複雑な状況に在る。土地管理者を名乗っていながら、アレから一度たりとも出てきていない理由は解らないけど、この子はシャマル達にとっても同じ従者として友人関係にあるらしい。なんだか複雑化しているわね。
「どうしようシグナム!? ああ〜〜、こんな事なら変身魔法を使っていたら! クーちゃんには徹底的にステルスを全開にしてもらって、表に出さないでいれば〜〜〜!」
(「落ちつけシャマル。幸い、主はやての魔力資質は殆ど闇の書の中だ。詳しく検査されない限りは大丈夫だ」)
「それはそうだけど〜〜〜!」
(「つまり、私達と鉢合わせしなければいいだけだ」)
「う、うん……」
「大丈夫です姉君。幸い、私のステルスは彼らの誰一人にも感知されていないわ。常に私が影から傍に居るから、万が一の事も起こさせない」
「う、うん……」
(「それと、主はやてと石田先生には我らの話を出さぬようお願いを」)
「はやてちゃん、変に思わないかしら?」
(「仕方あるまい。頼んだぞ、二人とも」)
「仰せのままに」
「うん」
ともかく今日来ると言う御友人にバレないよう、私はステルス全開で病室に潜む事にした。
軽く危機感を感じた。
何なのだろうこの子は……!?
「……?」
「カグヤちゃん、どうかしたの? さっきからずっと部屋の隅を見つめて?」
「ああ、いえ……、何故かあの場所がものすごく気になるんです。それも今すぐにでも飛び掛かりたくなるほど」
「あんた何言ってんの? 人の見舞いに来てる時に変な事言わない」
「いえ、カグヤも異常だと思うんですが……、先程から神経を逆撫でされているように違和感を感じてまして、どうも気の所為とかで無視できないのです?」
「案外、この病院で死んだ人の幽霊だったり―――」
「「「「止めてよそう言う話〜〜〜っ!?」」」」
「いえ、その類の気配ではないのです。もっと悪意に満ちている物かと?」
「え? それって妖怪?」
「病院で縁起でもない事言わないっ!!」
「妖怪? 近い様な気がしますね?」
「ちょ……っ!? ホンマなんっ!? ここ妖怪おるんっ!?」
「さあ……?」
「自分で言っといて責任感無さ過ぎやん!?」
「み、皆落ち着いて……!」
誰が何を言っているのかなど確認できていない。そんな事よりステルス機能を全開にする事に集中した。なのに、目の前で唯一千早を纏った女の子だけが、こちらを訝しそうな目でずっと睨んでいる。なんなのこの子!? なんなのこの子っ!?
この日、悪意の塊は『悪意より恐ろしい物』を知った気がした。
「やっぱりいますよね?」
「「「もういい加減にして〜〜〜〜〜っ!!」」」
誰か、助けてください……!
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