真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第46話] |
真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜
[第46話]
新しい仲間を迎えるにあたり、華陽軍の将軍たちが個々に張角たちと真名を交換していきました。
その後、当番兵に華陽の酒を天幕内に運んでもらって、固めの((杯|さかずき))を交わして皆で美味しく頂く事にします。
そんな楽しい時を過ごしているうちに、ボクは張角たち三姉妹の偽名を考えていなかった事に気がつきました。
また、どの将軍の下に三姉妹の誰を配属するのかという事も、考えておかなくてはイケません。
そこでボクは、この際だからこの場で皆に((諮|はか))って決めてしまおうと考えます。
さらには、黄巾党の活動資金や使用している武器具の((出処|でどころ))などの情報も、失念していて聞いていないまま。
だから、それらの情報も((併|あわ))せて、張角たちには確かめていかないとイケないと思うのでありました。
「あのね、朱里。この際だから天和たちの配属先を決めておこうと思うんだけど、それについて何か意見はあるかな? それと、名乗ってもらう名前についても、何か意見があれば聞かせてくれると助かる」
手始めとばかりに、ボクは自分の席に座りながら隣に控えてくれて居る諸葛亮に相談していきました。
「そうですね……。((人和|れんほう))さんは、紫苑さんと雛里ちゃんの所が良いと思います。それと、((天和|てんほう))さんは焔耶さんと((亞莎|あーしぇ))さんの所に。((地和|ちいほう))さんは、桔梗さんと私が監督しようと思います」
「そう考える根拠は何かな?」
「はい。いずれ人和さんは、希望する歌い手さんになった時に運営を一手に引き受けると思うんです。ですから、内政に((長|た))けている紫苑さん達に任せた方が良いと思ったんです」
「なるほど……」
張梁は三姉妹の末っ子。世間一般の生活事情であれば、姉たちに甘やかされて駄々っ子に成っていてもおかしくはない。
しかし、今現在の彼女を見た限りでは、その兆候は見られない。むしろ、しっかりしているとさへ思われる感じでありました。
一方、張角は自分の想いに忠実で他の事をあまり気にしない人物で、張宝は依存傾向が強くて周りの意見に流される傾向があると感じられる。
もしかしたら、上の姉たちが頼りに成らなかった為、張梁はしっかりせざるを得なかったのかも知れません。
それでも、三人を別々にすると告げた時に彼女は姉たちとの面会を希望した。それは彼女が、姉である張角と張宝を慕っている事の証明であるとも言えるでしょう。
そして、張梁は黄巾党に居た時、商人たちと色々話し合っていたと張角が語っていた。それはおそらく、彼女たちが歌う会場の設置や警備や聴衆の人員の配置などを話し合っていたのだと考えられる。
であるなら、橋頭堡にて補給物資の調達計画などを立てている黄忠や?統に、張梁を任せてみるのが一番だと思うのでありました。
「天和は?」
「天和さんは、ご自分の一番の望みを理解していらっしゃるみたいでした。なので、焔耶さんと亞莎さんに任せて大丈夫だと判断しました」
「ふむ……。地和の面倒を桔梗と朱里が見るのは何故?」
「地和さんは、ちょっと流されやすい性質みたいですね。ご自分の意思を明確にするより、周りに合わせる傾向が強いと思いました。ですから、桔梗さんに性根を鍛えてもらって、私がそれを((補|おぎな))っていこうと思います」
「ふむ……。地和は依存傾向が強い、という事かな?」
「はい。そのように思えました」
「そうか……」
長女である張角は、自分の望みは歌い手であるという事を第一に考え、それ以外の事は((些末|さまつ))な事だと考えているようでありました。
でもそれは、自分の意図が明確になっている証拠でもある。
今回の件について云えば、それを重視するあまりに他の事を御座なりにした為、老公とやらに付け込まれたのかも知れません。
であれば、彼女の個性を活かしつつ新しい概念を伝え、今後は道を((過|あやま))たぬようにして行けば良いと思えました。
次女である張宝は、進むべき道を直感で決めてきた張角と、その道を適格に補佐してきた張梁の間に居た((所為|せい))なのか、自分で何かを決めるという行為に不慣れなようでありました。
その為に、自分で進む道を決めていくよりも、周りに決めてもらった方が((楽|らく))だと考えるように成ってしまったのかも知れません。
でも、それでは自分の人生に責任を持っているとは言えません。それでは、そこに自分の思いが内在していないからです。
含まれている思いは何かと云えば、自分では選択しないという選択放棄の思いだけ。
だから張宝には、それを理解してもらいつつ自分で決めるという行為に慣れてもらいたい。
それらを考えると、厳顔に性根を鍛えてもらうという((鞭|むち))と、諸葛亮が優しく伝えるという((飴|あめ))を合わせていけば良いと思えました。
「そっか。じゃあ配属先は、そのようにしていこうか」
「はい」
「でだ。次は名前だけども、それはどうしようか?」
「……それについては、私たちが決めるよりも天和さん達に聞いた方が良いと思います」
「はは……。それもそうだね……」
配属先候補についての話しを聞けたので、ついでに偽名についても諸葛亮に相談する事にしました。
ですが、それについては張角たちに聞いた方が良いと言われてしまい、ボクはそれを納得すると共に渇いた笑いをして誤魔化すしかありませんでした。
ちょっと反省です。
「え〜と、天和さん達? ちょっと良いかな?」
和気((藹々|あいあい))としている場で無粋だったかも知れませんでしたが、ボクは張角たちに話しかけていきました。
彼女たちはボクの言葉を聞いて振り向き、視線を合わせてきます。、
「君たちを呼ぶ偽名を決めて置こうかと思うんだけど、何か希望はあるかな?」
「……呼び名?」
「うん、そう。君たちを呼ぶ時の名前を決めて置こうと思ってね。そうじゃないと、これから都合が悪く成るだろう?」
「そう……」
三人姉妹の疑問を代表するかのように、張梁が問いかけてきます。
ボクがその疑問に答えると、彼女は興味なさそうにしながらも納得してくれました。
「それで改めて聞くけど、何か希望する名前はあるかな? 何もないなら、こちらで決めても良いけどさ」
「アンタに任せると、どんな名前になるのよ?」
ボクが改めて張角たちに問いかけると、張宝が露骨に眉を((顰|ひそ))めながら((怪訝気|けげんげ))に返答してきました。
「うん? そうだね……。天和がトレちゃん。地和がバリちゃん。人和がカタちゃんというのは、どうだろうか?」
「……ちなみに聞くけど、その名前の由来はなんなのよ?」
「そりゃあもちろん、華陽軍が誇る投石機の名前だよ? いや、だってさ。皆の反対でね、何故かこの名前って不採用だったんだよねぇ〜。だからこの際、君たちも三人だから丁度良いかなぁ〜って思ったんだ。良い名前だろ? 気に入ってくれる?」
「気に入るわけないでしょ?! なんで、そんな物騒な名前を使わなければイケないの! 冗談じゃないわ! 絶対にイヤよ!!」
かつての野望である命名を張角たちに使ってもらおうと思ったのですが、けんもほろろに断って来て取り付く島がありませんでした。
(むう……。((贅沢|ぜいたく))な人ですね、まったく。可愛い名前を使わせてあげようというボクの好意を無下にするなんて、罰当たりも良いとこだと思います)
めげないボクはそう思い、いずれの日にか絶対この名前が命名できる事を夢見るのでありました。
「なんだよぉ〜……。じゃあ、どうすんのさ? なんか他にあんの?」
ボクは自分の意見が又もや不採用だった事もあり、((不貞腐|ふてくさ))れて面倒くさそうに問いかけました。
張宝は、そんなボクに腕を組みながら横柄な態度で返答してきます。
「わたしは、”ちぃ”で良いわよ。今までだって、”ちぃ”は”ちぃ”って言ってたんだから」
「うわ、なにそれ? ひねりが何もないじゃん。つまんねぇ〜」
「なっ?! しっ、失礼ね?! アンタの命名よりマシでしょうが?!」
「じゃあ、なに? 天和は((天|てん))で、地和は((地|ちぃ))。そんで、人和は((人|れん))って事なの?」
「ええ、それで良いわよ。どうせ人前には、そんなに出ないんでしょうから問題ないでしょう?」
張宝の意見を聞いてボクは、お返しとばかりに美的感覚がないんじゃないかと主張しました。
それを受けて彼女は、、まだ自分の方が良いと反論してくる。
このまま無益な争いをしていても仕方がないので再確認すると、張宝は姉妹の同意も取り付けて偽名が決定されてしまいました。
「はあぁ〜……。そうですか……。まあ、それで良いと君たちが言うのなら、それにして置きましょう。仕方ありませんものね。……皆も、それで良いですか?」
ボクは仕方がなく、張宝の意見を採用する決定を下します。
それを他の将軍たちにも確認を取ると、同意を示すように頷いてくれました。
「でも、まあ。他の人達が居る時にしか使わない名前です。ですから、それで良いかも知れませんね。残念ですけど、納得する事にします」
ボクは独り言をこぼすように((呟|つぶや))き、自分は無念である事を強調します。
周りに居る将軍たちは、仕方のない奴を見ているような感じを匂わせながら、そんなボクを呆れ顔で見ていました。
「え〜……。では、気を取り直して次に行きたいと思います。人和。君に、ちょっと聞きたい事があるんだけど?」
「……なに?」
ボクは周りの呆れた視線を振り切るように次の要件に移らせていきます。
張梁に目を合わせて問いかけると、彼女は平然とした感じで返答してきました。
「あのね。黄巾党の軍事物資ってさ、どこから運んで来ているのか知っているかな?」
「……軍事物資?」
「そう。これだけ大きな規模の反乱に成るくらいだ。使用している武器具などを、どこから調達しているのか知りたいのさ。都市から強奪して来ただけでは、これだけの軍事物資を集められないと思ってね」
「ああ。そういう事……」
ボクの問いかけた事に対して、張梁は少し間を置いて考えてから話しかけてきました。
「……詳しくは知らないわ。でも、疑問に思って一度だけ聞いた事がある」
「ふむ。それで?」
「……その時は『北から来る』って聞いたわ」
「北から?」
「ええ。そう言っていたわ。意味ありげだったから、それ以上は聞かなかったけれど……」
「そう……。北から……ね」
ボクは張梁から詳しい話しを聞いて、少し考え込んでしまいました。
それは、北から軍事物資が来るという話しを、どう解釈したら良いか迷ってしまったからです。
たとえば((冀|き))州を原点とした場合は、北方位に位置するのは幽州と((并|へい))州の二州のみ。
しかし、漢王朝そのものを原点として見た場合は、北に位置するのは”((匈奴|きょうど))”や”((鮮卑|せんぴ))”と朝廷が定めている異民族たちが存在するからです。
異民族は騎馬主体の戦闘集団と云って良く、平地での騎馬戦では漢王朝の軍隊を圧倒する。
かつて高祖・劉邦は、王朝設立で体制が整っていない時分に異民族と敵対して惨敗を帰す。その為に不平等条約を結ぶしかなかったと云われていました。
しかし、時代が下って武帝の((御世|みよ))になり、その条約を解消すべく当時の将軍である衛青や((霍去病|かくきょへい))を派遣し、何度かの戦闘を経た後に戦線を押し戻したそうです。
その後、異民族は内紛を起こしたりして弱体化。体制を立て直した漢王朝に対抗しきれなくなり、内紛の片方が臣従を誓ったりして今現在の国境線に落ち着いていた。
ですが、最近になって度々その国境線が侵される事態が頻発している。
だから、その辺りがちょっと気になったのでした。
(もしも、黄巾党が異民族から軍事物資などを供給されていたというなら、彼らが又もや侵略の意志を示して来たという事に成るのでしょうか? いや……。早急に、そう結論づけてしまうのは危険ですね。まだ、その可能性があるというだけの話しなのですから)
ボクはそう思い、((内憂外患|ないゆうがいかん))に((陥|おちい))っているかも知れない今現在の漢王朝の在り方に、頭を悩ませてしまうのであります。
しかし、答えが出せない事は取り合えず後回しにする事にして、張梁に次の疑問を投げかけていこうと思いました。
「じゃあ次だけど、活動資金はどこから出てたのか、それを知っているかな?」
「……いいえ。それは知らないわ」
「本当に?」
「ええ……。私たちが必要とした資金は、その都度老公が用立てくれていたから関知していない」
「そう……か」
今更、張梁が嘘を言うとは思いませんでしたが、確かめる為に繰り返して聞きました。
それでも彼女は、本当の事だと主張してきます。
それを聞いてボクは、結局のところ老公と繋がっているかも知れない商人たちを捕縛しないと、今回の件を打開していく事は出来ないという事を確認するだけでありました。
「まあ、良いです。商人たちを捕まえれば、それも少しは分かってくるでしょうからね」
そう言ってボクは、自分の意図を確認しながら心に留め置いていきました。
「では。最後だけれども、君たちが持っている書簡を渡してもらえるかな? どこにある?」
「書簡……? ああ。それだったら、そこにあるわ」
ボクが張梁に太平要術の書簡のありかを問うと、彼女は天幕の入り口付近にある荷物を指さしました。
「一刀。悪いけど、彼女たちの荷物を持って来てくれるかな?」
「あ? あ、ああ。分かった」
名前を呼ばれるとは思っていなかったのか、北郷はボクの呼びかけに少し驚いたようでした。
でも要件を理解すると、彼は張角たちの荷物を取りに行ってくれます。
その後、北郷はボクの前まで荷物を両腕で抱えながら持って来てくれました。
「持って来たぞ。これで良いんだろう?」
北郷はそう言って、抱え込んでいた荷物をボクの前に並べて見せてくれました。
「じゃあ次は、その中から書簡を探し出してくれるかな?」
「書簡?」
「うん、そう。太平要術の書簡さ」
「ああ。そういう事か……」
ボクが何の為に荷物を持って来てもらったのかを話すと、北郷は納得して荷物を覆ている布の結びを解いて書簡を探してくれました。
荷物は全部で三つあり、そのうちの一つ目に書簡は無かったようでした。その為に彼は、続いて二つ目の荷物の中を探し出していきます。
二つ目の荷物を暫く((漁|あさ))っていると、北郷は目当ての書簡を引き当てたのか少し嬉しそうな表情を顔に浮かべました。
「あっ。あった。これだよな? ……あれ?」
北郷はそう言って、ボクの方へ太平要術の書簡を差し出すように見せてくれました。
でも何故か、その書簡には何かの布きれが((付随|ふずい))している。
北郷は不思議に思って、その布きれを書簡を持ったまま器用に両手で広げて見せてくれます。
すると、その布きれはビロ〜ンってな感じで広がり、その全貌が((露|あらわ))に成っていきました。
「あ……。これって、もしかして下着……か?」
自分で広げて見せた布きれの正体に気がつき、北郷は周りに居る皆にも分かるような声で呟きました。
どうやら、彼が引き当てた布きれは女性の下着だったようです。
しかもそれは、”パンティー”と呼ばれる女性が下半身に履く方の下着だったのでした。
「あ……」
「ぶべらぁあー!!」
ボクは北郷に背後から迫る危機に気がついて知らせてあげようと思ったのですが、その存在は告げるよりも早く神速と云って良い速さで迫って来て、見事な張り手を彼の顔面にかましたのでありました。
背後から迫り来る存在に気がつかない北郷は、不意をつかれて無防備状態で張り手を喰らってしまいます。
そしてそのまま、彼は空中で二回転半してから地面に倒れ、張角たちの荷物を((撒|ま))き((散|ち))らすのでありました。
「えっち! ばか! 変態! なんて事してくれんのよ?!」
張り手をかました張本人であるところの張宝が、恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にしながら北郷を罵倒していました。
しかも彼女の手には、先ほどまで北郷が手にしていた下着が握られている。
これらの経緯を((鑑|かんが))みるに、どうやら張宝の下着を広げて見せてしまったようでした。
ボクは、地面で((悶|もだ))えている北郷の顔面についている((紅葉|もみじ))後を見ながら思います。
世が世であるのならば、オリンピックに出場してバレーボール競技で世界を狙えただろうに、と。
「えー、地和さん? 君の気持ちは良く分かる……事もないかも知れないけれど、ちょっと落ち着いて下さい。一刀も悪気があって、やった訳じゃないんだからさ。ね?」
ボクは張宝に落ち着いてもらう為に((宥|なだ))めようとしたのですが、彼女が『アンタも同罪よ?!』みたいな感じの憎しみの目をこちらに向けてくるので、語尾を濁して話しかけるのでした。
それを聞いた張宝は、『ふんっ』ってな感じの荒い鼻息で返答し、そのまま元居た場所に戻っていきます。
ボクは彼女の後ろ姿を見送りながら、人知れず溜め息をつくしかありませんでした。
「あー、一刀くん? 大丈夫? ていうか、生きてる?」
「……」
ボクは一息ついてから、改めて目前の地面で死体状態になっている北郷に呼びかけます。
しかし彼は、うんともすんとも言いませんでした。
「ふむ……、返事がありませんね。仕方ありません、一刀は名誉の((殉職|じゅんしょく))……と」
「俺は死んでない! 生きてるぞ!」
ボクは、ふざけてご((臨終|りんじゅう))だと宣言します。
それを聞いた北郷は、慌てて飛び起きるのでありました。
「なんだよぉ〜。生きてるなら返事ぐらいすれば良いだろう?」
「気絶してたんだよ! ちょっとは、心配してくれても良いんじゃないか?!」
「えー。そんな事したら、((矛|ほこ))先がボクに向いちゃうじゃないか。やだよ、そんなの」
「するのは自分の心配だけかよ?!」
「うん、そうだよ?」
「なっ――!」
慌てて起き上がる北郷を心配する事なく、ボクは無情に徹して文句を言いました。
下手に((庇|かば))い立てすると、張宝の怒りがこちらに向く可能性があると思ったからです。
でも北郷は、そんなボクの態度が冷たいと非難してくる。
それを受けてボクは、『なに言ってんの? 当たり前でしょ?』といった感じで平然と答えました。
何故なら、墓穴を掘って二人諸共に処断されるよりは、どうせ助からないであろう北郷一人を犠牲にする事で、自身の身の安全を((図|はか))るというのは至極当然の流れだと思うからであります。
しかし北郷は、それを聞いて開いた口が((塞|ふさ))がらないようでありました。
ちょっと、かわいそうでしたかね?
「そんな事よりさ。((肝心|かんじん))の書簡はどこだい? 見たところ持ってないみたいだけど」
「ああ……? そんな事ないだろう……って、あれ? どこだ?」
ボクは小言を聞いていても何も得るものが無いので、話しを元に戻して北郷に太平要術の書簡の((在処|ありか))を聞きました。
しかし、彼は自分が持っていると勘違いしていたのか、((怪訝気|けげんげ))に返答してしてきます。
でも、直ぐに自分の間違いに気がつき、慌てて書簡の在処を探しているようでありました。
「あのー、刹那様?」
ボクが椅子に座りながら身を乗り出して、北郷が自分の身の周りを見回しながら地面に落ちているであろう書簡を探していると、お((伺|うかが))いを立ててくるように魏延が問いかけてくる。
「うん? なんだい、焔耶? 今ちょっと((忙|いそが))しいんだけど」
「お探しの物でしたら、そこにありますよ」
「え? どこ?」
「ですから、そこの((篝火|かがりび))の中にあります」
「えっ……?」
地面をいくら探しても書簡を探し出せないでいるボクたちに、魏延は北郷の((脇|わき))にある天幕内を照らす篝火を指差しました。
彼女の指差す方向を凝視してみると、篝火の枠組内で火に((炙|あぶ))られて燃えている書簡らしき物体を確認します。
篝火の炎は書簡を燃料とでも勘違いしているのか、良い((塩梅|あんばい))に燃え上がらせているようでした。
「先ほど北郷がひっぱたかれて回転した時に、篝火の中へ放り投げたんです」
「あー、そう……。はは……」
ボクと北郷が((呆然|ぼうぜん))として篝火の中で燃えている書簡を眺めていると、魏延が経緯を簡潔に教えてくれます。
でも、ボクは立ち直り切れていないので、渇いた笑いで気のない返事をするしかありませんでした。
(とほほ……。なんてこったい。……でも、まあ。これで良かったのかも知れませんね。どのみち処分するつもりだったんです。それが、ちょっと早くなったと思えば良いだけですよ)
ボクはそう思いながら、なんとか自分の心を立ち直らせていきました。
そうすると、北郷が地面に撒き散らした張角たちの荷物が目に留まります。
「あーあ。まったく、もう。こんなに散らかしちゃってさあ」
どこぞのお母さんが言いそうな小言を呟きながら、ボクは椅子から立ち上がって地面に片((膝|ひざ))をつき、散らかっている荷物を片づけていきました。
そうして片づけていると、北郷や近くに居る他の将軍たちも一緒になって荷物を((纏|まと))めてくれます。
暫く荷物を纏めていると、ふとボクの目に((巾着|きんちゃく))袋からはみ出している((五銖|ごしゅ))銭が留まりました。
そして、何故だか分からないのですが、その銅銭を見た時に自分の内側から((騒|ざわ))めきが感じられて、手に取って見るようにと((促|うなが))されるのです。
だからボクは、その感じに従って銅銭を手に取ってみる事にしました。
でも、手に取って見てみても、なんら変わった所のない普通の三官五銖銭だと確認できるだけ。
しかし、自分の内側から感じる小さな声は変わらずささやき続けてくる。
自分の感覚を不思議に思ったボクは、試しに意識変換して手に持っている銅銭を調べてみる事にしました。
「っ――?!」
銅銭を詳しく調べたボクは、思わず叫びそうに成ってしまいました。
昔、自分の意識変換の訓練をしていた時に調べていた銅銭の成分や重量と、今現在手に持っている銅銭のそれとが明らかに違っているからです。
念のためにと、もう一度調べて結果が相違ないと判断された時、ボクは眉を((顰|ひそ))めて厳しい視線で手に持っている銅銭を((睨|にら))みつけていきました。
「あの、ご主人様? どうかしましたか?」
ボクが険しい表情で銅銭を睨んでいる事を不審に思ったのか、隣で一緒に荷物を纏めてくれていた諸葛亮が問いかけてきました。
でもボクは、彼女に視線を合わせる事なく告げていきます。
「朱里」
「はい?」
「すぐに、ボクたちの所持している全ての金銭を調べさせて欲しい。それから、伝令を出して橋頭堡にある金銭も紫苑たちに調べさせてくれ」
「え……? どういう事ですか?」
ボクは諸葛亮の戸惑う問いかけに答えるように、彼女に顔を向けて手に持っている銅銭を放り投げます。
彼女は慌てて投げられて来た銅銭を両手で受け取りました。
そしてボクは、諸葛亮が自分の手に持った銅銭を凝視しているのを見ながら、自分の調べた事実を告げていく。
「それは、((偽金|にせがね))だよ」
「えっ! これがですか?!」
「ああ、間違いない」
「そんな……」
聞いた言葉が信じられなかったのか、諸葛亮は驚いてボクを凝視してきました。
彼女の問いに答えるように、ボクは真面目な顔つきで頷き返します。
それを受けて彼女は、事の重大性が理解できたのか顔色を思いなし青((褪|ざ))めさせました。
そしてボクは、静かに立ち上がって話しを聞いていたであろう郭嘉に顔を向けます。
「((稟|りん))」
「はい」
ボクの言わんとする事を理解しているのか、郭嘉は真剣な顔持ちで返答してきました。
「やはり、何者かが((暗躍|あんやく))しているかも知れないね」
「……そうかも知れませんね」
郭嘉はメガネを片手で持ち上げて位置を修正しながら、ボクの意見を肯定してくれました。
三官五銖銭というのは本来、朝廷が定めた三官以外が((鋳工|ちゅうこう))してはイケない決まりになっている。
そうであるのにもかかわらず、何故か黄巾党では偽金が使用されていた。
それはつまり、偽金を造らせる事が出来るほどの政府高官に、内通者が居る可能性が濃厚であるという事。
もちろん、((鋳型|いがた))と鋳造施設さえあれば偽金の鋳工事態はどこでも出来ます。
しかし、それを周りに気づかれずに行なえたという事実が、それにも増して事の重大性を物語っているのでした。
人知れずに行なえたという事は、漢王朝の中央集権体制が((綻|ほころ))びを見せているという事を意味するからです。
それが行きつく先は群雄((割拠|かっきょ))。つまりは、血で血を((拭|ぬぐ))う戦乱の世に他ならない。
だからボクは、これによってもたらされる最悪の事態を想定するがゆえに、険しい表情をするしかなかったのでした。
「もし、こんな偽金が大々的に出回っているとしたら……」
自分の頭の混乱を収めるように、ボクは導き出される答えを呟くように小声で話します。
「いるとしたら……?」
ボクの小声を聞き取ってか、魏延が真剣な顔持ちで問いかけてくる。
そんな彼女に顔を向けて、ボクは自分の考えられる最悪な予想を告げていきました。
「大陸の貨幣経済は…………((瓦解|がかい))する」
[補足説明]
三官五銖銭:上林苑(皇帝のための大庭園)に建設された鋳銭所で造られた青銅のお金。
((水衡都尉|すいこうとい))の属官の三官である、鍾官、技巧、弁銅(均輸、鍾官、弁銅かも)が鋳工する。
地方とかでも造れる旧銭(郡国五銖とか赤側五銖)などの私鋳銭を防止するために製作される。
*ネット上で調べただけですので、間違ってるかも知れません。
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無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。 皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。 でも、どうなるのか分からない。 涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。 『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。 *この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。 |
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