【小説】しあわせの魔法使いシイナ 『古代ギリシャへ修学旅行』 |
綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。
街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。
綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。
今日は、修学旅行の日です。
綾の通う学校とシイナの通う魔法学園の、合同修学旅行が行われます。
「楽しみだねー、綾ちゃん」
シイナが笑顔で綾に話しかけます。
「そうね」
大好きなシイナと一緒に修学旅行に行けるので、綾も期待で心が踊ります。
綾とシイナは同じ班です。
出発の準備が整いました。
行き先は、紀元前の時代。
場所は、古代ギリシャの都市・アテナイとオリンピア。
現代の文明社会の始まりになった文化を、目で見て学ぶのが目的です。
引率の先生が、魔法の言葉を唱えます。
先生は時間を自由に操る大魔法使いです。
長い長い魔法の言葉が10分以上続いて、やっと終わりました。
ふいに、綾たちのまわりの景色がぐにゃりと歪みます。
まわりの景色が見たこともない色の輝きを発して、ぐるぐる渦を巻きます。
綾は、落ちていくような、浮かんでいくような、不思議な感覚に包まれました。
「わあ、綾ちゃん、見て!」
シイナの声が聞こえました。
気がつくと綾の目の前に、真っ白く輝く大きな建物がそびえていました。
それは、アクロポリスの丘に建つパルテノン神殿。
アテナイ市の中心にある、女神アテナに捧げられた神殿です。
綾たちは時間を超えて、古代ギリシャ時代に到着したのでした。
「すごく、きれい…」
パルテノン神殿の美しさに、綾は感嘆の声をもらします。
生徒たちはパルテノン神殿を見学したあと、アテナイ郊外にある古代最大と言われる学校・アカデメイアを訪れます。
数学、天文学、哲学など、高度な学問を学ぶ人たちがたくさん集まっています。
シイナは難しい哲学についての講義を聞きながら、眉間にしわを寄せて、
「ふむふむ」
と真剣な表情でうなずいています。
綾はそれを見ながら、
『本当にわかっているのかしら?』
と思って、ついクスッと笑ってしまいました。
アテナイでの見学が終わると、引率の先生は生徒たちを集めて、また魔法の言葉を唱えます。
魔法の力であっという間に場所を移動し、アテナイからずっと西にある都市・オリンピアにやってきました。
オリンピアでは今日、オリンピックが開催されています。
4年に一度、鍛え上げた出場選手たちが、スポーツ競技を競い合います。
たくさんの観客が、選手たちに声援を送ります。
選手たちは、手を振って声援に答えます。
円盤投げ、槍投げ、短距離走にマラソン、レスリングに格闘技、様々な選手が拍手で迎えられます。
競技が始まりました。
選手たちが切磋琢磨して競い合います。
勝った選手には祝福の声援が送られ、負けた選手には健闘への拍手が送られます。
次々と競技が進んでいきます。
綾は夢中になって見入っていました。
次は、円盤投げ競技です。
「あらっ?」
綾は思わず声を上げてしまいました。
なんと、円盤投げの選手の中に、笑顔で手を振るシイナが混じっています。
綾と目が合うと、シイナは悪戯っぽい笑みを浮かべてウインクしました。
魔法学園の生徒たちは、熱狂的な声援をシイナに送ります。
シイナはぴょんぴょん飛び跳ねて声援に応えます。
競技が開始されました。
筋骨隆々な選手たちが次々と円盤を投げます。
いよいよシイナの番がやってきました。
綾はドキドキしながらシイナを見守ります。
「いくよ! そーーれっ!」
かけ声とともに、シイナは勢いよく円盤を空へ放り投げます。
シイナの投げた円盤は、ぐんぐん空を登っていきます。
円盤はそのまま空のかなたに吸い込まれて、空に輝く一等星の位置まで飛んでいきました。
星になった円盤が、空にキラリと輝きます。
観客席から大きな歓声が上がりました。
シイナの優勝です。
シイナは、優勝者に贈られるオリーブの冠を受け取りました。
綾はそれを見て、とても嬉しく思いました。
全ての競技が終わって、大会が終わる時間がやってきました。
生徒たちは、現代の時間に帰る準備をします。
生徒たちが観客と選手たちに手を振ると、彼らも手を振って別れを惜しみました。
引率の先生が魔法の言葉を唱えると、また綾たちのまわりは不思議な色の光に包まれました。
気がつくと綾たちは出発した場所と同じ、学園の校門前に立っていました。
もうすっかり日が暮れて、空には星が瞬いています。
解散の指示がでて、生徒たちはみな笑顔で帰宅していきました。
「楽しかったね!」
シイナが満面の笑顔で綾に語りかけます。
「うん。シイナ、すごかったわ」
綾が言うと、シイナはくすぐったそうに笑いました。
「あら、あれは…」
綾が夜空を見上げて言いました。
「あっ! ふふふっ」
シイナも夜空を見て気がつきました。
夜空には、さっきシイナが投げた円盤が星になって輝いていました。
「昔も今も、星はちゃんと見えるのね」
綾が言いました。
「うん、きれいだね」
シイナが言いました。
二人は星の輝きに包まれながら、一緒に帰り道を歩いていきました。
―END―
説明 | ||
普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。 何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。 でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。 今回は、綾とシイナが学校の修学旅行に行くお話。 魔法の力で時間を超えて、古代ギリシャでオリンピックに参加します。 |
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