愛佳はご主人様!? |
「……あれ?」
気付くと、貴明はベッドの上に寝かされていた。
わりと広めの身体に心地いいベッドであった。
ただ、一つの例外を除いて……
「……なんで、俺、縛られてるの?」
そう、貴明はいま、両手を頭上に持ち上げられた状態で縛られていた。
しかも、よく見ればその縄はSM用の赤い荒縄だった。
「……なぜ、このような事に?」
貴明はふか〜〜〜く自分の過去を思い出しても、なぜ自分がこのような事態になったのか検討がつかなかった。
たしか、最後に残っている記憶は……
「愛佳と一緒にお茶をして……それから?」
不思議なことにそれから先の記憶が全然無かった。
クッキーを食べて、愛佳の入れたお茶を飲んだまでは確かに覚えていた。
それからが思い出せなかった……
「まさか、愛佳の奴、お茶に怪しげなクスリを入れて……!?」
……
それは無いと、貴明は瞬時に否定した。
タマ姉だったらありゆるかもしれないが、あの愛佳が……
天地がひっくり返っても想像が出来ない!
「そういえば、『天地無用』ってものを逆さにしちゃいけないって意味だったな?」
今の状況をうまく理解できないのか……
または理解したくないのか、貴明は取り合えず下らないことを言って自分を誤魔化した。
だが、無意味な時間はドンドンと過ぎていった。
「……なんだか、ちょっと怖くなってきた」
過ぎ行く虚空な時間に貴明の心にだんだんと黒いモヤモヤしたものが表れてきた。
そう、本人が言うように恐怖である。
「知らない人のおうちに入って、タマ姉に叱られないかな?」
……まだ、割と冷静らしい。
「うう〜〜ん……、どうやって縄から抜けよう?」
頭をひねりながら、貴明は唸った。
唸ってどうにかなるわけではないが。
「手首の間接をはずすって、以外に痛いし、難しいんだよな?」
生まれ変わったら忍者がいいな……と貴明はまじめに考え出した瞬間……
ガチャ……
「あ、貴明くん、起きたんだ?」
「ん?」
部屋のドアの方から聞こえる女の子の声に貴明は怪訝そうに首をまげた。
「え?」
ドアのほうを向くと、貴明はマヌケに目を点にした。
「ど……どうして、愛佳がここに?」
「はて……?」
貴明の言葉に愛佳は不思議そうに首をひねった。
「ここは私の家だけど?」
「……」
貴明は目を三角にし、愛佳を見た。
「なんで、俺ここにいるの?」
「私が連れてきました!」
あっけらかんとした答えに貴明は言葉を続けた。
「どうやって、連れてきたの?」
「最近は便利ですね♪ 頭の弱いお医者さんをダマせばいくらでも睡眠薬をくれるんですから♪」
「……」
あんた、本当に愛佳か?
少なくとも、俺の知っている愛佳はこうまで子悪魔的に笑わないし、平気でクスリを使う娘でもない……
もしかして、これが本当の愛佳かな?
そういえば、タマ姉も会ったときはネコをかぶってたな?
もしかして、女ってみんなネコをかぶる生き物なのかな?
だったら、もしかしてこのみも……!?
「むぅ〜〜〜!」
「ん、どうしたの、愛佳? むくれて?」
「いま、貴明くん別の女の子のこと考えた!」
「よくわかるね?」
愛佳は目じりに涙をためながら貴明をにらんだ。
だが、これ以上に無いまでに迫力が無かった。
これなら、このみの方が何倍も迫力がある、親の遺伝のせいかもしれないけど……
そういえば、最近、春夏さんが俺を見る目がいやらしいような?
時々、よだれをすする音が聞こえるし……
「ぎょわ!?」
「言ってるそばから!」
「いひゃいいひゃい!」
両頬を思いっきりひっぱられ貴明は悶絶しながら暴れた。
「もう、これは躾ひつようですね!」
「しつけの部分が漢字になっている部分が卑猥だな?」
「やだ、貴明くん!」
両頬を抑えながら恥ずかしがる愛佳に貴明はとんでもない事に気付いた。
愛佳……人の上にまたがるな……恥ずかしいから!
そう、今、愛佳は貴明の上におおいかぶさるような状態で立っていた。
下手したら、これは逆レイ○に見えてしまう。
だが、貴明は気付くことになる。
愛佳がなぜ、貴明をここに招き入れたかを……
「貴明くん♪」
「はい?」
妙に機嫌のいい愛佳の口調に貴明は不思議そうに首をひねった。
「私たち……付き合っているよね?」
「ああ……なぜ、いまさら?」
貴明と愛佳の関係は校内公認のベストカップルである。
だが、愛佳は不愉快そうに眉をひそめ、喋りだした。
「それなに、貴明くん、浮気ばっかりするんだもん! いつも、悲しかったんだよ!」
「……浮気?」
身に覚えの無い言葉に貴明は目を細めた。
「いっつも、柚原さんと一緒に登校したり、向坂くんのお姉さんとお食事したり……最近じゃ、ミステリ研の人とも仲がいいっていうじゃない!」
最後のほうは過ちがあるぞ!
少なくとも笹森さんとのあいだには愛はない!
半ばだまされた身だし……
だが、それ以上に!
「……それで、なんで、俺が縛られなければならないの?」
そこが一番、疑問でしょうがなかった。
「……考えたんです」
「なにを?」
「浮気を防止するにはどうすればいいのかって?」
「だから、してないって!」
「そこで、天命がくだったのです!」
「天命?」
愛佳の言葉に貴明は訳がわからず首をひねった。
「飼いならせばいいんです! 私以外には決して尻尾を振らないように!」
「……」
あまりに、現実離れした発想に貴明は目をますます三角にした。
「俺は飼い犬ですか?」
「違います!」
「!?」
力強く、否定され、貴明は目を瞬かせた。
「貴明くんが犬なんて……そんなの犬に失礼です!」
「おい!」
愛佳の失礼極まりない言葉に貴明はツッコまずにいられなかった。
だが、愛佳はそれすら許さなかった。
「さて……無用なおしゃべりはここまでです!」
「お、おい……なんか、目がこわいよ?」
愛佳は一度、貴明上からから離れると部屋のすみに置いてある赤いベルトみたいなのを取り出し貴明に見せつける。
そのベルトみたいなものに貴明は顔を真っ青にした。
「お、おい……それって、もしかして?」
「はい、首輪です!」
ご名答と言いたそうに満面の笑顔を浮かべる愛佳。
だが、逆に貴明は笑顔になれなかった。
「ま、愛佳……俺たち恋人だよな?」
「はい、昨日までは!」
恐ろしいまでに晴れやかな笑顔をする愛佳に貴明は身震いを覚えた。
「き、今日からは?」
「……ふふっ♪」
意味ありげな笑みに貴明はますます恐怖を覚えた。
「奴隷と……ご主人さまの関係です♪ なんだったら、犬と同格してあげますよ♪」
「お、俺の人権は!?」
「奴隷に人権は必要ありません♪」
「学校は!?」
「後で退学届を出してあげます♪」
「せ、世間が黙ってないぞ!」
「人の噂も七十五日、みんな貴明くんのことなんか忘れます♪」
じわじわと近づいてくる首輪。
これを着けられたら、強制的に貴明の人としての人生は終わる。
「ま、待て、愛佳! 話せばわかる!」
必死に、抵抗する貴明に愛佳は最後に極上の笑みを浮かべた。
「これからはご主人さまですよ♪ それと、言葉遣いも丁寧になさい♪」
「あわわ……!」
もはや、逃げることも出来ない貴明に愛佳はやさしく赤い首輪をつけた。
カチャ……
学校の史書室で貴明は本をあさっていた。
前まで本に興味の無かった貴明だったが、愛佳と付き合うようになってから、その本にも興味を持ち始め、こうやってあさるまでになった。
最近は推理小説やサスペンス小説なんかがお気に入りらしく、愛佳の出すお茶と一緒に読むのが日課になっている。
「今日はこれでも読むか……」
読む本を決めると、貴明は愛佳が待っているテーブルまで足をすすめた。
「あれ?」
テーブルまでもどると貴明は笑みを洩らした。
「愛佳のやつ、寝てるのか……」
そっと愛佳を起こさないようにソファーに座ると貴明はふと微笑した。
「かわいい、寝顔だな……」
いつ見ても、愛する恋人の寝顔はかわいかった。
その寝顔が自分のものだと思うと貴明はどうしようもないほどの優越感を覚えた。
「うう……たかあきくん……」
「お、俺の夢を見てるのか?」
ガラにも無く顔を赤らめる貴明。
恋人に寝言で名前を呼ばれるなど、男の三大ロマンの一つであろう!
まさに、今の貴明は幸せの絶頂にいた。
「きっと、いい夢を見てるんだろうな?」
そっと、愛佳の見ている夢を想像していると……
「もっと……強く舐めなさい……」
「……?」
愛佳の密かな夢を知るものは誰もいない。
あとがき
小牧愛佳SS完遂!
どうも、委員ちょは見た目から中身まで受けってイメージが強いが今回はその逆をついてみました。
いくら夢の中って言っても、ファンにケンカを売った小説だと自覚はあります。
でも、また書こうかなっと計画を立てているスーサンでしてた。
説明 | ||
ダーク愛佳の小説です。 見るともしかしたら、原作のイメージが壊れるかも? |
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コメント | ||
それはもう、このサイトでは、まだ(本当にまだ)書くことのできない展開が……(スーサン) はは……やっぱり、ちょっと羽目を外しすぎましたかね? でも、一応、夢オチにしただけ、勘弁してください?(スーサン) 少し怖いです。(sutadast) |
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