魔法少女リリカルなのはDuo 22 |
・第二十二 親愛
暗い暗い闇の中で、誰かが嗤っている。とても楽しそうに、可笑しそうに、嗤ってる。
とても煩わしい声が世界を満たし、不愉快な気持ちが勝手に胸を焼く。
「嗤うな!」
声を上げても意味が無い。むしろ笑い声が大きくなっただけだ。
「一体誰だよ!? なんで笑ってやがる!」
嗤いは止まらない。いつまでも聴いていると、こっちの頭がおかしくなりそうだ。
目の前に薄く影が見えた。闇の中で判別しにくいが、たぶん人間。
「笑ってるのは…お前か?」
そいつは答える代わりに別の言葉を返してきた。
「アナタはいつまで自分を放っておくのかしら? そんな事では、いずれ過ちを犯すわよ? ………いや、既に犯していたのだったか?」
その声は女の様でいて、しかし、男の様でもある。知っている人間の声にも思えるが、知らない人間の声にも思える。あまりにも情報が不確かで、その全てが理解に届かない。それでも確かなのは、その声がとてつもなく不快なものだと言う事だ。
「一体何なんだよ……!? お前は俺に何が言いたいんだよ!?」
「大声を上げるなよ、程度が知れる……。大声を上げれば皆黙ると思っているのか?」
「俺の質問に答えろ!」
「やれやれ……、これで本気で怒っているのならまだ可愛げもある……。その実、焦っているだけで『怒り』の類など何一つ感じていない。そこに如何程の価値があると言うのか?」
「訳の解らない事を言うな! 俺は守りたいもののために戦う! ただそれだけだ!」
「『助ける』でも『救う』でもなく『守る』……。それがアナタの原風景と言ったところか? その願いが崇高であるが故に遺憾。そこには他人ばかりでお前自身が全く含まれておらん……。それが不満」
「お前がどう思おうと関係ない。それが正しい事なのだから、俺は胸を張って前に進める」
「やれやれ重傷なのか、それとも未だに引きずっているのか? もはや呆れた偽善ぶりよな……」
喋り方の安定しない『誰か』は、ともかく俺の神経を逆撫でするのが得意なようだ。何でも無い一言一言が、一々癇に障る。コイツを認めてしまうと、俺の中で何かが崩れてしまうような、そんな危機感を抱く。
「まったく、未だ理解に及んでいないとは……、あの男も言っていたが、確かにお前達は『同じ』だな。自覚しているだけあの男の方がマシと言うもの?」
「………」
あの男と言うのは誰だ? 最近似たような事を誰かに言われた気がするが、思い出せない。いや、思い出す必要なんて無い。間違った道を進む奴らなんか知らない。俺は俺の正しいと思う道に進むんだ!
「『正しい事をしたい』なるほど悪くない答えだ。だが、それはあまりにも自分を見ていない上辺の発言だと知るべきだな………」
「上辺……!? 俺は本気だ。お前が何を言おうとこの事実だけは変わらない」
「事実であって真実ではない。お前自身はそう思いたいから『そう言う事にしている』だけだ。その実は、お前の優先事項は逆にある」
「そうかよ」
いつまでも印象に残らない、その癖、癇に障るだけの『誰か』に付き合ってはいられない。背を向けて、さっさとその場を去ろうとする俺に、そいつは事も無げにそれを告げた。
「『間違えたくない』。………本当はただそれだけなんだろう?」
「………っ!」
「そんなに自分の過ち(・・)が許せなかったのか? それほどまでに完璧な人間に―――、何一つ間違う事の無い『理想の人間』になりたかったのか?」
「ちがう……っ! 俺はただ……っ! ただ、あの時の様に! 俺の思い上がりで、誰かを失うのは嫌なだけだ!!」
「実に不快な自己嫌悪だ。自分が間違わなければ、あの者達は全員生き残れたと?」
「確かに、俺の力だけで皆を守りきる事は出来なかったかもしれないが……! それでも、全滅はしなかったはずだ! 俺の力で、助けられたかもしれない人達は確かに居たんだ………! 俺があんな間違いを犯さなければ……っ!!」
「あまり失望させてくれるなよ? それがそもそもの間違いだと言うのだ」
「何を―――!?」
「罪の意識で自分を蔑にする人間が、一人前に責任感を感じるなど痴(おこ)がましいと言っているのだ。『反省』は必要だが『後悔』はいらず。アナタは『反省』しているつもりで『後悔』しているだけだ。そんな事績を抱え続けるから、アナタの心はとっくに壊れた」
「壊れ、た……? 俺の心が……?」
「当然に質問を返すな。あの男にも言った事であろう? 『俺達は解り合える』と、………あの男は気付いていたぞ? 互いに心が壊れているからこそ、理解に及ぶのだと」
「俺は……っ、そんなつもりで………っ!」
「喚くなみっともない。それこそがアナタとアイツとの決定的な差と言うものだろう? 己を理解しているのかいないのか? だからこそ、アイツは図星を突かれて嘆いた。解っているからこそ、それは心を傷つける。アナタは図星を突かれて混乱した。それを否定したい事実だったから。ならばお前の言葉などあの男には届くまい。子供が正論で大人を諭しても、苦労を背負った大人の重みを理解していないのでは正に『子供の戯言』。説得など出来るわけもない」
呆れた様な気だるげな声は、次第に嘲笑(わら)いが混じり始める。
姿など見えない『誰か』。そもそも『見ている』のかも定かでない『誰か』。だが、はっきりとそいつの存在が、行動が、手に取る様に解って、逆に気持が悪い。
「なんで、お前にそんな事が解るって言うんだよ………!?」
「解るとも。解って当然ではないか?」
そいつはとっても可笑しそうに厭らしい笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んだ。
「なぜなら『私』は、『お前』なのだから、解って当然だろう?」
心臓が、嫌な高鳴りを覚えた。
「なんで………!? そんなはずないだろう! それだったらなんでお前が俺を………―――ッ!?」
「なんともまあ……、あの男は端的に一言で上手くまとめたものだ」
俺が言葉に詰まっていると、『誰か』は可笑しそうに笑って―――また俺に言いやがった。
「『お前、間違ってるよ』」
「うぅっ、うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!」
「きゃあっ!?」
早鐘を打つ心臓に押され、荒く息を吐く龍斗は、続く言葉が無い事で徐々に平静を取り戻す。
「りゅ、龍斗さん………?」
自分に呼びかける声を聞き、そちらに視線を向けると、自分が最もよく知る人物の顔がそこにあった。
「シャマル……?」
「大丈夫ですか!? 凄い汗ですよ!? ………何か悪い夢でも見たんですか?」
「夢………?」
シャマルにそう言われて、やっと先程のが夢である事を自覚できた。まだ整わない息を方でしながら、龍斗は周囲に視線を泳がせる。
ここは自分達が現在の拠点としているホテルの一室だ。広々とした部屋の中で、いるのは龍斗とシャマル意外に誰もいないようだった。皆の事は気になったが、その当然の疑問を質問する事さえ、今の龍斗には難しかった。
ともかく余裕が無いのだ。アレがただの夢であったとしても、結局、カグヤと言う男に言われた事は、それだけに自分の心を揺るがすものであったのだから。
アレは、あの言葉だけは認めてはいけない! 龍斗の中でそんな反発が激しく明滅する。それを認めてしまっては、龍斗の今までの行動も、決意も、覚悟も、―――いや、そもそも『龍斗』と言う人物その物を否定する事に何の違いもない。故に認めるわけにはいかない。
だが、その一方で冷静な己が、あの言葉は嘘でないと認めてしまっている。あの言葉を否定しようにも、自分の今までの行いを振り返れば、正にそれが証明となるのだ。全ての過程が彼の中での『心当たり』になり、否定する力を失わせていく。
「う、うぅぅあぁぁ………っ!」
頭を抱え、胸を掴み、苦しみに悶える。
頭は痛い。胸は苦しい。どっちを優先して庇えば良いのかが解らない。
冷静に今置かれた自分を見つめようにも、自分自身がまるで定まらない。
様は単純に混乱している。言ってしまえばそれだけの事で、とりあえず感情を吐き出し、ガス抜きしてしまえば済むだけの状態。それは実際難しい事ではなく、誰もが無意識にしている『発散』である。
―――だが、それを龍斗はする事が出来ない。
明確な感情が定まっていない彼には、その『気持』をどう表現すればいいのか解らない。無暗(むやみ)矢鱈(やたら)に八つ当たりするのが普通の人間だが、龍斗にはそれが『できない』。
『八当たり』は自分の中で溜まったストレスを、『怒り』と言う形にして何かにあたる行為。それはつまり、『自分のために自分の持て余した感情を他人にぶつける』ただのエゴだ。
龍斗にはそれは出来ない。彼は自分の事で、自分に向けられた事だけで、怒りを表す事など出来ない。それは間違いなく『憤り』の類に他ならないのだから。誰かが龍斗を明確に攻撃している訳でもない。だから龍斗は溜めてしあったストレスを向ける相手を見失い、ただただ『混乱』するしかないのだ。
それは、精神的に追い詰められた事に他ならない。
「う……っ、はあ……! うううぅぅ〜〜〜………っ! うああぁぁ〜〜〜………っ!」
「龍斗さん……!?」
行き場の無い苦しみを、僅かでも吐き出す事の出来ない苦悩を、龍斗は内から溢れる分だけ全てを背負ってしまう。受け流す事も、躱す事も、避ける事も、逃げる事も、吐き出す事も、打ち勝つ事も、何もできない。溢れるだけの感情を溢れた分だけ背負い続け、やがてそれに押し潰される。
口からは苦痛の呻きしか漏れる事はなく、溢れる苦悩を暴れる事も出来ずに苦しむ。
「龍斗さん……っ!」
他人の声など聞こえなかった。聞こえたとしても、今の龍斗には自分を追い詰める要因の一つとしてしか処理できなかっただろう。
混乱したままでは感情を制御できず、制御されるぬ感情は混乱しか呼ばない。
龍斗は蹲って必死に自分を抑えようとする。だが、発散するのではなく我慢しようとするその行為に如何程の意味もなく、彼の助けとなる事はない。
「うあ、ああ、ああぁぁぁあぁぁああぁぁ〜〜〜〜〜………っ!!」
やがて彼の心は、己自身の侵食によって、内に封じていた闇が溢れ始める。
自分自身の全てを自らが否定してしまったのだ。もはや彼の中でまともに思考が行われているのかさえ怪しい。
頭を掻き毟ると言う、単純な八つ当たりさえも、もはや彼の行動として否定されていた。故に彼は自らの全てを否定し、そこに存在する何もかもを自ら壊していき……精神崩壊していく。
「龍斗さん!!!」
龍斗自身、もはやまともに五感を働かせていたか解らない。にも拘らず、その時自分の身体を包み込んだ温もりは、酷く彼を安心させた。
狂ったように呻き声を漏らす龍斗に、見ていられなくなったシャマルが、彼女のありったけの想いを込めて抱きしめたのだ。
「う、うあ……?」
「私が此処に居ます……。例え龍斗さんに何が起ころうとも、私はいつまでも傍に居ますから………」
心が落ち着いて行く。温もりと優しさが沁み入り、彼の動揺を静めて行く。
だが、それでも彼自身の『行き場の無くなった感情』が消えたわけではない。
それは罪なのだ。自分自身が正しいと思ってやってきた事は、もう誰も傷つけないと決めた、そんな彼自身の覚悟で、同時に優しさだった。それを自らの行いで否定した。それを罪と言わずなんと言うのだろう? 例え誰かが彼を許したところで関係ない。彼自身が己を許す事など出来ようはずがない。許してしまえば、それは彼にとっての『間違い』を肯定する事になるのだから。
だから龍斗の心にはまだ『どうしようもない感情』が渦巻き、罪悪感や嫌悪など渦巻き、どうしていいのか解らなくなってしまう。
―――故にそれは当然の帰結。
ただ彼は涙を流し、感情の全てを『悲しみ』と言う形で表現する結果に陥っていた。
それは逃げだ。紛れもない逃避だ。だが、それが人間として最も正しい姿であった。
「シャマル……、シャマル……! 俺は……、俺はどうしたらいいんだ……? どうしてこうなっちゃったんだ……? 俺は、俺は……っ! こんな思いをするために、今まで頑張ってきたんじゃない……っ! こんな思いをしない為に、誰もこんな思いをしなくて済むように……! だから頑張ってきたはずなのに………っ!?」
「龍斗さん……」
それは男としては情けない、ただ泣きついただけの幼い行動だ。良い大人が甘えているとしか言いようのない光景だ。
それでもそれは龍斗には必要だった。いや、不可欠だった。
自分の全てを自分で壊してしまった彼に、吐き出す方法を知らない彼に、それは確かに不可欠なものだった。
そして……その時必要な存在もまた、シャマルだった……。
「私は何も知りません。だから、龍斗さんの求めている答えを教えてあげる事は出来ないかもしれない。……でも、私には、今のアナタを安心させる方法を一つだけ知っています。……それはきっと私のエゴで、あなたにとっては望まない物なのかもしれないけれど………」
もはや焦点の合わない瞳を見つめながら、シャマルは慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ゆっくりと近づく。
数秒、二人の唇が重なり合い、やがて離れる。
今の龍斗にはそれを正しく理解するだけの精神状態はない。だが、それがとても気持ちの良い事だと言うのは理解出来た。
殆ど反応しない龍斗の涙を拭いながら、一度目を瞑るシャマルは、何かを決意するように頷き、再び瞳を開く。彼女は少しだけ頬を朱に染めながら、思い切って上着を脱いでしまう。一瞬だけ、ピンク色のブラが曝されるが、すぐに傍に置いてあった白衣を被って隠してしまう。それでも彼女は白衣の中でブラを外し、スカートを降ろす。殆ど裸の状態になった彼女は、恥ずかしそうに頬を染めながら、横たわる龍斗に覆い被さる。
「……シャマル………?」
「私に、全部ぶつけてください……。私が龍斗さんの抱えている苦しみ、全部受け取りますから」
そう言って、シャマルは彼の下半身に移動し、そこから目的の物を取り出しに掛る。
精神不安定で理解が及ばずとも、本能的に龍斗は慌てた。何かいけない事をしているのではないだろうかと、焦点の定まらぬ瞳をシャマルに向ける。
「ちょっ、ちょっと待って……っ!?」
「大丈夫。慌てないでください…。私も経験があるわけじゃないですけど……、今はこれが一番の薬だと思います。それに私、龍斗さんになら構いませんから」
「え、……や、でも……」
「龍斗さん」
軽い混乱を表情に露わす龍斗に、彼女は慈愛の表情で笑いかける。
「今は考えるんじゃなくて、流されるべき時です。流れに逆らってばかりじゃ、大切な物を落しちゃいますよ?」
「あ……う……」
二の句が出なくなった隙に、シャマルは目的の物を取り出す。それが想像していたのより小さい事に一瞬首を傾げそうになるが、シャマルも医療のエキスパート。それがまだ大きくなる前のものだとすぐに思い至る。
「最初はこんなに小さい物なんですね……?」
独り言を呟きながら、まずはそれを両手で壊れモノを扱う様に包み込み、ゆっくり揉むようにして上下させる。やがて刺激に反応しだしたそれが、少しずつ大きくなる様を目の当たりにして、目を丸くする。
「こ、こんな風になるんですね……? え、えっと、それじゃあ、ここから……」
大きくなったそれを、今度は飴を舐める様に根元から丹念に舌を這わせる。
さすがにその快感をはっきり感じ始めた龍斗自身も、ぶるりっ、と震え上がった。
「え? え!? さ、更に大きく……? え、えっと……、ええいっ!」
本土は想像してたより大きくなった事に慄きながら、思い切ってそれを口の中に頬張る。そのまま頭を上下に動かしながら、片手を自分の股の間に差し込み、その奥を刺激していく。
「んっ! んぅ……っ」
くぐもった艶めかしい声を上げながら、自分の身体の準備ができたのを確認すると、口を放し、唾液と別のもので濡れそぼったそれを、自分の中へと招き入れて行く。
「うん……っ! い、た……っ」
「う、あ……っ!」
龍斗の首に腕を回し、必死に体を密着させて痛みを堪える。
自分の中に異物が侵入する感触を痛みと、何とも言い難い特別な感触を伴いながら、それが自分の愛する相手の物だと認識して、根元まで一気に差し込む。
「………っ!!」
自分の大切な何かを失う感触と共に、身体の中を満たされる感触を同時に味合う。
痛みに身体を動かせないでいると、腰のあたりに温かい何かが触れた。
どうやら龍斗が無意識に彼女を求めているようだ。入れられたまま半端な状態で放っておかれて、身体の方が先に根を上げていると見える。
そんな少し苦しそうな表情の龍斗を見て、シャマルは胸がぽかぽかした気持ちになる。
(解ってる……、龍斗さんは別に私を特別求めている訳じゃないって……、私を見てくれている訳じゃないって……。でも、今この瞬間だけは、私を求めてくれている。私だけを見ていてくれる……!)
痛みが残る中、シャマルは健気に腰を上下させる。
やがて苦痛に呻いた声は、艶めかしい喘ぎ声へと変わり、次第に自分で自分の身体の制御ができなくなっていく。いつの間に龍斗自身も、何かを吐き出そうとするかのように、積極的に打ち込んで来る。
そして、限界に達し、全てを吐き出した瞬間、二人は絶頂を迎えた……。
目を覚ましてすぐ、気だるさが身体にのしかかってきた。上体だけ起こし、状況を確認するために周囲を見回す。寝ぼけた頭で、情報処理能力が落ちているとしても、寝起きのとりあえずとしては妥当な行動。
ふと隣で、何か温かくて柔らかい物に触れた。それに視線を向けると肌色の何かがあった。視界が定まらないのではなく、正しく認識できていない気がする。ただ、その感触が気持ち良くて、すべすべしたそれを何度か撫でて遊んでいた。
「………、龍斗さん………?」
ふと声がしてやっと頭がはっきりしてきた。
そこでやっと自分が触っている物がシャマルの抜き身の肩だと気付いた。女の子の身体って、肩だけでもこんなに柔らかくてスベスベするのか……。
―――などと感心した数瞬後には、自分の行動の意味を理解して手を放す。
俺の行動に不思議そうな視線を向けていたシャマルは、自分の姿に視線を降ろして―――慌てて毛布を手繰り寄せて自分の肌を隠す。
そんな羞恥心に顔を赤くする彼女の姿に、俺は罪悪感を抱いた。
「シャマル……、えっと……、ごめん………」
「っ!?」
シャマルの身体を見ないように視線を逸らしながら謝罪する。自分が間違った行為をしてしまったのではないかと言う恐怖に、勝手に身体が震えていた。
そしたら突然、頭に軽い衝撃が落ちてきた。
「いたっ」
大して痛くはなかったが、不意を突かれて思わず声が出てしまった。
肩越しに視線を向けると、俯いて前髪で顔を隠したシャマルが、叱りつけるように拳を打ち降ろしていた。
「なんでそこで謝っちゃうんですか……?」
「え……?」
「私はやりたくてやったんですよ。龍斗さんの意思を無視して、私がやったんですよ? それで謝るってなんですか? 私とあんな事するのがそんなに嫌だったんですか?」
「ち、違う! それだけは絶対に違う! ……俺は感謝してる。シャマルに助けてもらわなかったら、きっと俺は壊れてた。……でも、それを理由に、シャマルを―――」
俺は別にシャマルと付き合っている訳じゃない。嫌いなわけじゃないが、恋愛対象として好きか?と聞かれれば『Yes』とは答え難い。いや、もっとはっきり言うのなら『No』と答える可能性の方が高いくらいだ。それなのに俺は……。
「私は、私は龍斗さんにだから、されても良いって思ってやったんですよ? 龍斗さんだから、そうしようって思ったんですよ? それなのに謝るってどう言う事ですか? それじゃあ、まるで後悔してるみたいじゃないですか? ……それとも龍斗さんにとって、私は、誰とでもこんな事しちゃうような女に見えるんですか?」
「!? 違う!! 違うんだ! 俺はただ―――!」
「だったらっ!!」
「!?」
一際大きな声を上げたシャマルは、片手で俺の胸の辺りを掴みながら、顔を上げた。その顔は、とても傷ついた、それでも健気に笑っている、そんな痛々しい表情をしていた。
「だったらそんな風に謝らないでください……。そんな他人の事ばかりを気にかけた優しさは、誰かを傷つける優しさになっちゃうんですよ?」
「―――!? ………」
そ、うか……。
だから俺は……俺は……、
―――俺は『間違い』だったんだ………―――。
「ごめんシャマル、さっきの無し。……ありがとうな。俺を助けてくれて」
そう言って俺は、シャマルに向き直ると、一瞬躊躇して、だけどすぐに意を決して―――シャマルを力一杯抱きしめた。
「―――!」
「本当に……、本当にありがとう………」
万感の思いを、感謝を、籠められるだけ籠めて、彼女の想像以上に細い身体をぎゅっ、と抱きしめた。
「………はい。どういたしまして」
そうして俺は、やっと自分の間違いを思い知った………。
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シャマルと龍斗が………!? 18禁に近いので注意! |
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