運・恋姫†無双 第九話
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「運び屋竿平か……うむ、なかなか良い響きではないか」

 

 

顎に手を当て、ご満悦の様子で頷く紗羅である。『運び屋』という響きが、紗羅の心を妙にくすぐるのだ。そんな様子で来たのは川。ここで朝食となる魚を獲るのだ。彼の隣には陳宮が居た。紗羅の大事な『荷物』である。

 

 

「公台、火を熾してくれるか」

 

「はいですぞ!」

 

 

陳宮はすぐさま準備を始める。彼女もこういう経験があったのだろう。手慣れた手つきだ。その間に、紗羅は靴を脱いで川に向かった。短剣を手に、泳いでいる魚に狙いをつける。二人と一匹の腹を満たす数になるまでは、やはり時間がかかった。

 

 

「まだ未熟だな、俺も」

 

 

今度、銛(もり)でも用意してみるか。

 

 

そんな事を考えながら魚に枝を通していく。この作業にも段々慣れてきた。陳宮はこっちは慣れない手つきだったが。全ての魚に枝を通すと、枝を倒れないようにして火に当てる。これで時間が経てば食えるようになるだろう。

 

 

「準備完了だな。では公台、川に入るか」

 

「はいですぞ……ってええ!?」

 

 

突然の水浴び宣言である。紗羅にはこういうところがあった。下心からではない。

 

 

「紗羅殿ぉ〜、そのぅ……水浴びするとなっては必然的に……うぅ……確かにこの身体も使っていいとは言いましたがねねにも心の準備をさせてほしいというかなんというか……」

 

「手を出そうって訳じゃないぞ」

 

 

紗羅は衛生面を気にしているのだ。やはり、この時代に風呂というのは、毎日気軽に入れるものではない。だから身体を清潔に出来るときにはしておきたいのだ。

 

 

「公台」

 

「なんでしょうか?」

 

 

もっとも、それだけではないが。

 

 

「お前、臭うぞ」

 

 

……………………………………

 

 

「なんですとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 

その言葉は、年頃の女性だけでなく、大半の人の心を抉れる威力を持つ。

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考えても見れば当然だ。彼女は死にそうになるまで流浪していたのである。そんな状態になるのなら、自身の身なりなどに気を配っている場合ではない。彼女の服も、かなり汚れている。

 

 

「ついでに服も洗うか。よし、陳宮も脱げ」

 

「うわ! ちょっ、紗羅殿ぉ!」

 

 

紗羅はさっさと脱いでしまう。そしてさっさと川の中に入っていき、張々もそれに続く。陳宮が入ってきたのは少ししてから。迷いに迷ったが、臭う、と言われては、女性として看過できないものであった。

 

 

川の水は冷たい。だが紗羅は、それが嫌という訳ではなかった。これも大事な事である。電気がないのも、毎日風呂に入れないのも、馬の鞍に鐙がないのもそうだが、紗羅はこの時代の不便さというものを楽しんでいた。

 

 

「どうして紗羅殿は平気なのですかぁ……」

 

「安心せい。今は欲情できる気分じゃない。つーか、大事な荷には手出しせんよ」

 

 

洗った服は木の枝に引っ掛け、次に身体を洗う。その様を、陳宮はちらちらと横目で見てくる。

 

 

「どうした、公台。男の体に興味があるのか?」

 

「なぁっ!?」

 

「まぁ、そういう年頃か」

 

「ご、誤解ですぞ! 男の体に興味などああいえ決して紗羅殿に魅力がないというわけではなく――」

 

「はっはっはっ、照れんでもいいさ。恥ずかしい事でもない。異性への興味は当然の事だろう」

 

「ですから誤解ですぅ!」

 

 

そんなやり取りをして体を洗い終わった後は布に包まって火に当たる。魚もちょうど焼けた頃だ。焼けた魚には、塩をかけて食うとかなり美味い。塩は高価な物なのであまり使う事は出来ないが、たまには贅沢したい気分にもなる。

 

 

食い終ると、陳宮の提案で今度は馬を洗った。馬車の中に道具があったのだ。彼女は以前、馬の世話もしたことがあるらしい。それなら馬の世話もどうにかなるだろう。彼女は早速、心強い味方となった。洗い終ってから馬が乾く頃には、火に当てていた服も乾いていた。

 

 

「では行くか」

 

 

馬車に乗って手綱を操作する。一度嘶(いなな)いてから、馬が歩き出す。まだ上手く操れないが、歩かせる程度なら紗羅にでも出来た。馬車が揺れ、振動が伝わってくる。やはりこういう体験も、紗羅の心をくすぐらせた。

 

 

「紗羅殿、聞きたいことがあるのですが」

 

「何だ」

 

「紗羅殿はどこへ向かわれているのでしょうか?」

 

「知らん」

 

「……えっ?」

 

「俺は、行く場所を決めてないんだよ」

 

「なんですとおっ!?」

 

 

そう、紗羅は目的地を決めていないまま旅へ出た。紗羅に土地勘はないので、今いる場所もどこなのか解らない始末なのだ。

 

 

 

「まあ目的地は出来たけどな」

 

「目的地ですか?」

 

「おう、お前の在るべき所へ」

 

「ねねのですか?」

 

 

陳宮の在るべき所。呂布の元だ。紗羅は『運び屋』である。陳宮を呂布の元へ運ぶのが、自分の仕事であるとしたのだ。

 

 

「深くは考えるな。俺も、その時がいつになるか知らん」

 

「はぁ……」

 

 

陳宮は理解できてないようで首を傾げている。いきなり自分が在るべき所と言われても、解らないのは当然だ。

 

 

「そうだな……とりあえずはどこかの街だか邑に着くことを目標としよう。そこから、とりあえず洛陽を目指すか」

 

 

大雑把な計画だが、それも悪くない。自由なのだから。時間に怯える必要はない。そんな風に思いながら馬車を駆けさせた。

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あとがきなるもの

 

 

お気に入りが数人増えてるとほっこりします。二郎刀です。今回は行間とかも変えてみましたが、これ位の長さが読みやすかったりしますかね?

 

 

今回は短かったですね。私の文才が悲鳴を上げたのです。上手く書けないの! もどかしいです。延々と愚痴りたくもありますがやめましょう。

 

 

では本文の方を。人から、臭う、って言われたら自分だったら死にたくなりますね。うわぁ、主人公最低だわ……とか思いながら書きましたよ。こういうなんてことない日常というか拠点フェイズみたいなものとか書きたいんですけどね、いかんせん私はこういうの苦手みたいです。三回くらい書き直して出来たのがこれです。他の二つは他の作者様の作品を見つつ書いていたので、それに影響されてこの外史にそぐわぬ奇妙なものが出来ましたよ。ギャグ要素とか私には無理でした。

 

 

そういえばですが、やっと自分の中で主人公のキャラとかが確立してきた気がします。今最初から自分の作品を見返してみると、違うなぁ・・・・・・って思いました。ここまで読んでくれた方も、なんか裏切られた気分になってませんか? 私は裏切られた気分です。

 

 

では今回の話はどうでしたでしょうか? 少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。

説明
今回の話は短いです。
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コメント
>Lumiere404さん 月影さん コメントありがとうございます。行間を変えるだけで作品の感じ方が変わるものなのですね。(二郎刀)
忙しくて見に来れなかった間に二話も更新が!? それはさておき、サクサク読めて読みやすかったです。ねねは結構好きなキャラなので、こういう展開は良いですねw(月影)
個人的に読みやすくて好みです。 臭いに関しては風呂が一般的でなく徒歩や馬での長時間の移動ですと致し方ないですよね。言わぬが花とは言え黙っているのも憚れる、それくらいのアレだったのでせふね。(Lumiere404)
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