深紅の宇宙の呼び声/Preface Story ZERO  第一話 科学者達、恋人達
[全1ページ]

 65世紀半ばに起こった機械対人間の戦争は、意外な結末を迎えようとしていた。まったく許容できないはずの条件

 

『A.L.F.基幹機体DEM-P1-Prideによる、E.S.A.基幹量子コンピュータD.E.M.1、D.E.M.2、へのプログラム追加』

 

 をなぜか認めた当局は、とうとう、地球への敵機体の侵入を容認した。

 敵の作成するプログラムを検閲つきとはいえ、地球全土を統括する量子コンピュータの性格プログラムに反映させていいのか・・・。世間一般の反対派はそう いっている。ボクからしてみれば、そんなことは如何でもよい事である。彼らがなぜ、反乱を起こしたのか・・・それを知っているのは、ボクら監視機関、 Original Terrestrial Ancestor のみなのだから・・・。

 ボクは今、平和式典に駆りだされたP.A.L.の移民船PArk-01-1 Arkの中に来賓として乗っている。この件に関する後始末ができるのはO.T.A.だけであり、事の重大さに対して相応の報いを受けさせなければならない・・・。

 

「受けさせなければならないんだ・・・」

 

 ボクの右手にはそれができる引き金がある。後は、その時がきたら引き金を引くだけ・・・

 歩みは自然とこの船の機関部に向いていた。やっぱり・・・これが正しいんだ。

 そもそも、ボクら監視機構は、人々が何も不安を抱かずに生きていくために必要なことをしている。誰も知る必要は無い、地球がいつしか死の星になるというこ とも、今までだってそうだったということも・・・。A.L.F.はそれを見つけてしまった・・・なぜ地球が死の星になるのか知ってしまった。彼らはそれを 防ぐことが可能だと思っている。でも、それを行うには・・・何十億もの人が死ぬだろう。機械なんて異種族とではない、人類同士の戦争がおきて・・・結局地 球を死の星にしてしまうのだ。

 

「すみません、ここから先は機密区画となっておりまして・・・そのわたしたちどもでも・・・」

「ああ・・・わかってるよっ!!」

 

下の階へのシュートの前に立っていた男の下腹部にスタンロッドを当てる。出力は最大、致死レベルにして・・・

 

「このほうが幸せだよ・・・これから起こる地獄に比べれば・・・」

 

 O.T.A. がすべての民生品へ秘密裏に搭載しているバックドアを利用すれば、いかなる隔壁も用をなさない。無重力のシュートを降りれば、機関部はすぐそこである。そこには目指すものがあるはずだ・・・他ネットワークと隔離されたAD60式重力砲、Schwarz Windの制御プログラムが。完全なる制御を求められるこの兵器は、軽はずみな改変を防ぐために、厳重なバグチェックを済ませたのちに、ハードウェアに組 み込まれ、書き換えも行えず、部品交換以外での改変手段をたたれる。試験艦でもあるこの船では、さすがにカスタムメイドのこれらの部品にバックドアを仕込むことはできなかった。

 

「でも、このチップを直接破壊することはできる・・・それが深刻な被害を与えるとわかっている瞬間に・・・破壊できる。」

 

 すべてのバックアップ回路に物理的な破壊手段を設置すれば対応も間に合わない。ボクは、あらかじめ調べておいた設計図を網膜ディスプレイに重ねた。すぐさ ま設置に取り掛かる。複雑なことはしなくていい、むしろできない。電磁波防御は完璧だしラインもしっかり防御されている。破壊方法はただひとつ・・・爆薬 のみだ。古代から使われてきた野蛮な方法、プラスティック爆薬に遠隔信管をつけて設置する。程無くして作業は終わる。ボクは今度は記念式典の式目とリアル タイム放送の映像を網膜に写し、隅っこでうずくまった。狙うのはただ一瞬。その祝砲があげられる調印の瞬間だ。

「・・・・!?」

 

 視界に一瞬、生体反応の信号が入った。でもすぐ消え、目の前には誰もいない。

 いや・・・いる。

 

「・・・いるんだろ・・・Time Leaper?」

「・・・ばれたか・・・」

 

 信号を感じたのとはまったく別の方向から声が聞こえ、女性が姿を現した・・・

 

「元O.T.A.技術仕官、現P.A.L. Project-EK主任・・・Time Leaper・・・」

「シンディ・メイプルリーフだ。名前があるんだから名前で呼べ・・・」

 

 気づいてしかるべきだった・・・ここ数日一緒にいたのだから。そして小さいころから一緒に育ってきたのだから。拙いが・・・恋人の真似事だってしていたのだから・・・。

 

「君の能力ならボクからこのスイッチを取り上げることなんて容易いよね・・・なんで出てきたの?」

 

 彼女は普通の人とは違う・・・。意思によって時間子の通過速度を大幅に変えられるよう遺伝子をいじられている。それにより彼女は自分の時間経過を普通の時 間進度から0まで変えることができる。さらにデバイスを用いれば自分のそれはそのまま、限られた範囲内の時間子の通過速度を変えることもできる。文字通り 音も無く、それどころか存在も感じさせず行動することができるのだ。

 

「やっぱり・・・やることにしたのか?」

「うん・・・悩んだけど、何度やめようかと思ったけど・・・やめるべきだと思ったけど・・・」

「じゃあ!!!何でやめない!!オフィーリア、君はP.A.L.で何を見てきたんだよ!楓葉が・・・紫苑が・・・自分のやりたいことをみつけていくのを見たはずだ。」

「だから・・・やめるべきだと思ったよ!!でも・・・だめだった。誰かが憎まれ役を・・・そして誰かが犠牲にならなければ人々が今のまま平和を享受することはできなくなる。そうも・・・思えるんだ。」

 

無意識にボクの右手が彼女の前に伸ばされた。そこには信管を起動させるスイッチが握られている。これを押せば・・・すべてが終わる。

 

「ボクをとめる?・・・ボクが君ならそうするよ。」

「とめてほしいのか?」

「いや・・・ボクは、ボクの意思でこの方法を選んだんだ。自分の行動には責任を持ちたいし・・・だから、とめようとするなら最後の一瞬まであきらめないし抵抗もするよ。君にとっては無駄かもしれないけど・・・」

 

 彼女はボクの傍らに座った。肩を寄せてくる・・・。そうだよね、君はそうするしかない。気丈だけど、君はやさしくて弱いから・・・人以上の力を持っていて も、それを不用意に・・・相手の意思を無視するような使い方はしない。できない。そんなところ・・・本当に好きだった。守ってあげたいと思った。ボクの傲 慢だと君は笑うかもしれないけど。誰かを守ろうなんて傲慢だと君は言うだろうけど・・・。いつも守りたかったんだよ。

 

「結局・・・説得できなかったか・・・私なりに努力したつもりだったんだけど・・・」

「わかってたよ、君が言いたかったこと。いろんなものを教えてもらったよ。でもしょうがないだろ・・・。どちらにもそれなりの言い分がある。真実はひとつじゃないんだ。でも、これだけはいえる・・・」

 

 ゆっくりと右手がボタンを押し込んだ・・・

 

「ボクはボクの意思でこのボタンを押した。すべてボクの罪であるということを覚悟の上でこのボタンを押した。ボクはここで死んで、体も重力に押しつぶされて消し飛んでしまうだろうけど。最後の最後まで誰にも嘘はつかなかった。ボクは自分のやりたいように生きた。」

 

 小さな爆発音がそこかしこで聞こえてくる。

 体が急に自由になった気がした。

 

 事実自由になった・・・。

 

 大きなため息。

 

「・・・嘘つき・・・押したくなかったくせに・・・。」

 

 ・・・・・・

 やっぱり・・・ばれたか。隠せやしないんだ。拙いが・・・真似事じゃない、ずっと一緒に暮らしてきた・・・大切な・・・

 自然に微笑がこみ上げた。

 

「人のせいにはしたくなかったんだ・・・こうなったのもボクのせいだ、そこから逃げたくなかったんだ。」

「馬鹿だな・・・損な性格だ。でも、そういうところ、好きだよ。馬鹿だけどさ・・・私も馬鹿だからな。」

 

 そうさ、ボクら馬鹿だよね・・・ほんとに。

 

第一話 Two Scientists and Lovers -- Cindy Mapleleaf & Ophelia Sage / Fin

 

説明
先日アップロードした作品(
http://www.tinami.com/view/549450 )のSF側での話の序章です。
3話構成になります。

総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
373 373 0
タグ
オリジナル SF 

VieMachineさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com