真・恋姫†無双 〜彼方の果てに〜 7話 |
〜神威〜
「すまない、俺の配慮が足らなかった。……怪我は無いか?」
俺は劉備に謝罪の言葉を掛け頭を下げた。
あれから風花に散々説教をされ腑に落ちないところもあったが、軽率な行いをしたという事に変わりはない。
勢い良く倒れた劉備を見て、もしかしたら怪我をしていたかも知れないというのは流石の俺でも判ったのだから。
「そんなに謝らないで下さい、私なら全然大丈夫ですから!
ちょっとだけびっくりしちゃいましたけど」
それをあはは、と何でもない事のように笑いながら答える劉備に安堵と同時に一抹の不安が過ぎる。
もしかしてこの娘は怪我をしたとしてもこうやって笑っていたのではないか?
まだ知り合ってそれほど時間は経っていないが、何故か否定出来ないような気がする。
それにしてもこの大刀はそんなに重いのだろうか?
俺は自分でも不出来な方だと思っているし、大した武も才能も無い。
一応はそれなりの年月を鍛えて来たのだから一般の将としてぐらいは戦えるだろう。
だが関羽のような武人にはとても敵わない。
この大刀も扱えるようになるまでかなり苦労した物だ。
「怪我が無かったのは良かったが……そんな軽いノリで大丈夫なのか?」
「これでも意外と身体は丈夫なんですよ?体力とかはあんまり無いですけど……
でも姜元さんってすっごい力持ちなんですね!」
「そうなのか?慣れれば誰でもこれくらいは――」
「いい加減にして下さい、兄さん」
「む……」
「あはは……」
反射的に答えようとして風花にジト目で睨まれてしまった。
流石に劉備も苦笑している。
まあ、これ以上同じ事の繰り返しをしていても仕方ない。
納得は出来ないが今は諦める事にしよう。
それと少し前から気になっていた事がある。
風花の様子だ。
他者から見れば俺に対して呆れたような、怒っているような態度をしているように見えるだろう。
だが先程からずっと何かを警戒しているというのが俺には解った。
初対面の相手に気を許すような真似は流石の俺でもしないが、妹の様子はそれ以上の何かがあると物語っている。
誰にも気付かれぬように俺は目の前の劉備に視線を合わせたまま周りを探った。
すると俺に向けられた鋭い視線に気が付く。
確認するまでもない、諸葛亮と鳳統が俺を見ているのだろう。
それも探るような、見定めるかのような目で。
その視線からは興味と期待、疑惑や敵意等といった様々な感情が込められているように感じる。
(初めはあまり気にされてはいなかった筈なんだが……なるほど。
いつから警戒されていたかは知らないが、これならば風花が気にするのも頷ける。
さて、何を探っているのか。おそらくは俺達が危険かどうか、だとは思うが……)
考えながらおおよその検討をつける。
尤も、見ず知らずの人間が自らの主の前に立っているのだから当然の反応だろう。
寧ろ今まで警戒されなかった事の方が不思議なくらいだ。
まあ、わざわざ助けた相手を警戒するというのもおかしな話だが。
何にせよ先程までの二人の様子からはとても想像出来ないような複雑な感情を含んだ視線だ。
幼い外見に惑わされれば何があるか判らない。風花の安全の為にも注意しておかねばならないだろう。
俺がどうしたものかと思考を巡らせていた時、天幕の入り口が勢い良く開いた。
「お姉ちゃん、今戻ったのだ!」
元気一杯に飛び込んで来たのは小さな赤毛の少女。
見た目の年齢は諸葛亮や鳳統と同じくらいだが、その手には少女の身長の数倍はあろう長大な矛が握られていた。
「お疲れ様、鈴々ちゃん。怪我は無い?」
「当然なのだ、鈴々に掛かればあんな奴等何でもないのだ!」
劉備の言葉に赤毛の少女は屈託なく笑うと、やっと俺達の姿に気付いたのだろう。
視線を此方に向けて不思議そうに首を傾げる。
「このおっちゃんとお姉ちゃんは誰なのだ?」
「り、鈴々ちゃん!?」
「お、おっちゃん……」
少女の言葉に愕然とする。俺はそんなに老けて見えるのだろうか?
確かにこの中では一番の年長者ではあると思う。
だがそれほど皆と歳が離れている訳ではないだろう。
ならやはり老けて……いや、相手は子供だ。
ある程度歳が離れた相手に悪気無くああいう言葉を使う。
(ついに俺もこれぐらいの子供からおじさん等と言われるような歳になったのか……)
自分はまだ若いと思ってはいたが、流石に直接こんな事を言われるとそれなりに衝撃を受ける。
心の中で溜め息を吐いてついしみじみとしてしまった。
「こ、こら、鈴々!失礼じゃないか!」
「何でなのだ?鈴々は何も間違った事は言ってないのだ」
関羽が少女の言葉に慌てて声を荒げるが、態度を改めるどころか当然の事だと言わんばかりに返されてしまう。
そんな少女に風花が凄い剣幕で詰め寄る。
「に、兄さんに何て事を言うんですか!訂正して下さい!!」
「にゃにゃ!?な、何なのだ、この怖いお姉ちゃんは?」
「私の事は良いですから兄さんに訂正を!あんな兄さんの顔、私は初めて見たんですよ!?」
風花の言葉に全員の視線が俺に向けられる。
赤毛の少女はさっぱり判っていなさそうに首を傾げていた。
だが劉備は酷く心配そうに、関羽は神妙な表情で頷きながら、
諸葛亮と鳳統の二人は揃って何とも言えない微妙な表情で俺を見る。
(俺はそんなに酷い顔をしているのか?
確かに衝撃を受けたが、それほど気にしてはいない。……気にしてない筈だ。
というか諸葛亮と鳳統も何だその目は?おい、さっきまでの雰囲気は何処に行った)
俺の視線に気付いた二人はビクリと身体を震わせてわたわたと慌てふためいている。
もはや今の彼女達に先程までの面影は全く無かった。
「は、はわわ!だ、大丈夫でし!きょ、姜元しゃんはまだまだ若いでしよ!」
「あわわ、あ、あの、しょの……お、お兄しゃんと呼んだ方が良いでしゅか……?」
もう滅茶苦茶だ。先程までの俺の苦悩を返して欲しい。
何が悲しくて警戒されていた少女にまで庇われなければならないのか。
あまりの展開に頭が痛くなってくる。
「結局このおっちゃんが何なのだ?」
「い、いつまで兄さんを侮辱すればっ……ぅあ?」
風花の言葉で俺は我に帰った。少女の言葉に苛立ちのような物が含まれていた事に風花が腹を立てたのだろう。
このままでは風花が少女に掴み掛ってしまうと思った俺は背後から左腕で風花の顔を覆うようにしてそっと抱き寄せる。
「……え?あ、あの……に、兄さん?」
「気遣ってくれるのは嬉しいが俺なら大丈夫だ。だからもう、怒らなくても良い」
「あ…あぅ……」
後ろから頭を抱き寄せたまま、俺は風花を安心させるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
それが功を制したのか、風花は静かになってくれた。
流石にこの状況で問題を起こすのはあまり好ましくない。
今後の為にも助けてくれた相手を裏切るような行為は避けなければ。
もしかしたら既に不興を買っているかもしれないと思い、俺は念の為に劉備達の様子を探ってみた。
何故か劉備は驚いた表情で口を手で押さえながら何事か騒いでいる。
どうしてあんな行動をしているのかまでは判らないが、この娘の事だ。問題はないだろう。
関羽は顔を真っ赤に染め、わなわなと肩を震わせていた。
一応は少女を窘めるような態度を取ってはいたようだが、
未遂とはいえ仲間を悪く言われるような真似をされては流石に快く思わなかったのだろう。
だが此方をチラチラと窺うような視線だけが気掛かりといえば気掛かりだった。
諸葛亮と鳳統は二人で寄り添いながら興味深そうに此方を注視していた。
ゴクリと同時に唾を呑み込む音が俺まで届く。
まるで観察されているみたいで居心地が悪い上にこの行動の意図も不明だ。
この二人は本当に俺を困惑させてくれる。
そして当の本人は何も判っていないらしい。
まあいきなりの事なのだから当然の反応だろう。
「に、兄さん?私はもう、大丈夫だから……そ、その……は、離れて……」
「ん?ああ、すまなかった。苦しくはなかったか?」
「い、いえ……」
腕を解いてやると風花は俺から離れて顔を伏せてしまう。
何やら思った以上に大人しくなってしまった。何故か周りの皆も黙ったままだ。
それから暫くの間何とも言えない空気が辺りを包む。
誰も言葉を発する事もなくただ時間だけが過ぎて行き、訳が判らずに首を傾げる俺と少女。
そんな俺を見て風花が疲れたように溜め息を吐く。
「はぁ……やっぱり兄さんは変なところで鈍いんですね」
「そんなつもりはないんだが……そもそもこれは風花が招いた事だろう。
子供相手に少し大人げなかったんじゃないか?」
「それが鈍いと言ってるんですよ」
「二人して鈴々を子供扱いしないで欲しいのだっ!」
俺達の会話に憤慨した少女が割り込んで来る。
風花に問題を起こさせないように気を付けていながら自分で起こしては本末転倒だ。
「おっと、それは悪かったな。
だが俺くらいの男をおっちゃん呼ばわりするのは子供だけだぞ?」
「にゃ!そうなのか!?」
「ああ、意外と歳を気にする者も多いから気を付けておいた方が良い。
お前も子供扱いされるのは嫌だろう?それと同じだ」
少女に説明しながらも俺は気にしてはいないと心の中で呟いておく。
……本当だぞ。
「むむむ……ごめんなさい、おっちゃんは言い過ぎたのだ」
少女は悩む素振りを見せた後、素直に頭を下げた。
失礼な少女、という訳ではなく、良くも悪くも純粋な娘のようだ。
「……良い娘だ」
「うぅ〜、やっぱり子供扱いしてるのだ!」
つい呟いてしまった俺の言葉に不満げに此方を見上げる少女。
そんな姿に俺は苦笑してしまう。
「そんな事はない。今はまだ大人とは言えないが、お前なら立派な大人になれるさ」
「……本当?」
「勿論だ。自らの過ちを認める事は大人でも難しい。
だがお前はきちんと認め、謝る事が出来た。だからきっと大丈夫だ」
そう言って俺は少女の頭を撫でてやる。
「えへへ……何だかくすぐったいのだ」
「俺の名は姜元。あっちに居るのが俺の妹、姜維だ。お前は?」
「鈴々は張飛なのだ」
「張飛、俺達の邑を襲った賊を退治してくれてありがとう。感謝しているよ」
俺は張飛と名乗った少女に礼を言うと小さく微笑んだ。
そんな俺を見て嬉しそうに笑う張飛の頭をポンポンと軽く叩いてから彼女から離れ、劉備に視線を向ける。
「劉備達はこれからどうするんだ?いつまで此処に居る?」
「えっと、そうですね……今夜は此処で休むとして、お昼くらいまでには発とうと思ってます」
「そうか……。厚かましい事だとは判っているが、出来れば妹を休ませたい。何処か場所を貸しては貰えないだろうか?
一人分だけで構わないんだ。もし人手が必要なら俺を使ってくれて良い。雑用でもなんでも――」
「な、何言ってるんですか、兄さん!怪我をした兄さんを放って置いて私だけ休むなんて出来ません!」
「だがな、風花。これ以上彼女達に甘える訳にもいかないだろう」
「ですが兄さんっ!」
納得がいかなさそうに声を荒げる風花を見かねてか、慌てて劉備が間に入ってきた。
「わわっ、け、喧嘩しないで下さい!ちゃんと二人が一緒に休める場所は用意してますから!」
「しかし……」
「私は姜元さんに助けて貰ったんですよ?これくらいはさせて下さい」
「……」
劉備の言葉に俺は言い淀んでしまった。
此処で断れば彼女の命を軽んじる事になる。
「……何から何まですまない。ありがたく使わせて貰う」
「気にしないでください、困った時はお互い様ですから」
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして♪あっ、じゃあ案内しますね?」
俺は一度天幕に居る皆に軽く頭を下げてから、風花と供に案内を申し出た劉備に着いて行き天幕を後にした。
あとがき
どうも、月影です。
遅くなって本当にすいません;
思ってたよりも数倍忙しい……幾ら忙しい時期にトラブルが重なったとはいえ、ここまで酷いとは。
今回は短いですが投稿しました。話が進まないです……ですがあまり投稿が遅くなっても問題ですし、難しいですね;
何とか時間を作って少しでも早く投稿出来るようにしなければ。
それでは、この辺りで失礼します。
当分はこんな調子ですが、見捨てずに読んで頂けると嬉しいです。
説明 | ||
前書きについて。 心優しい方からメールで御意見を頂きました。 やはり受けが悪かったようです。素人が下手な事をするもんじゃないという事ですね。 色々と御指摘も受け、もっと小説を書く事に慣れてからの方が良いのだと痛感しました。 もし再開するとしてもずっと先になるか次の作品(書くかどうかは判りませんが)になります。 そんな訳で、次回からはあらすじ(?)的な物でも書いてみます。 居るかどうかは判りませんが、期待していた方には本当に申し訳ありませんでした。全ては自分の力不足が原因です。 まだまだ至らない事ばかりですが、これからもどうかよろしくお願いします。 |
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コメント | ||
二郎刀様、二人の視線については作中で語った通りの意味ですね。軍師として彼を見極めようとしています。味方に引き込めるか、敵対した場合の事とか……神威については読んだ通り実はかなり気にしてますw表情は御想像にお任せしますよw(月影) 諸葛亮、鳳統の視線も気になりますが、おっちゃんと呼ばれた時の姜元さんの顔も気になりますねww(二郎刀) |
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