恋姫†無双 関羽千里行 第2章 18話
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第2章 18話 ―上洛―

 

 夜の連合軍陣内にて。虎牢関で呂布軍を撃退した連合軍は伏兵を警戒しつつ洛陽に向かっていた。しかし、関を出たからというもの、敵といっても運悪く見つかってしまった盗賊がいた程度で、軍隊規模の戦闘は全く発生していなかった。しかし、馬超率いる西涼連合の動きが全くつかめていないことは、かえってこの静けさを警戒感の強いものにしていた。何より、撤退したあの呂布も再び襲ってこないとは限らない。連合軍には一部の除いて緊張した空気が流れていた。そう、一部を除いて...

 

雪蓮「ぷっはー!やっぱこのお酒美味しいわねぇ!ねえ、もっとないのー?」

 

一刀「そろそろ持ち合わせはなくなるかなぁ。全く、まだ董卓軍が来るかもしれないのに、そんなに飲んでていいんだろうか...」

 

祭「斥候は出しておるんじゃし、来るとしてもすぐ戦闘とはならんじゃろ。何より、策殿が来ないと言っておるんじゃ。恐らくこんじゃろ。」

 

一刀「それはなんだかお酒が飲みたいからそう言ってるような...」

 

雪蓮「ほらほら、一刀も飲みなさいよっ♪」

 

霞「せやせや!ほれほれ〜♪」

 

一刀「うっぷ!」

 

 無理やり杯を傾けられ、むせそうになる一刀。北郷軍と呉軍・袁術軍はおそらく最後のこの戦への景気づけということで、軽く飲み交わしてる所であった。もっとも、美羽などはお酒の匂いだけで眠くなってしまい、そうそうに七乃が連れ帰ってしまったが。雪蓮のお目付け役の冥琳はというと、雪蓮と祭の悪ノリにつき合いきれなくなり、後は任せたととっとと自分の陣幕に帰ってしまった。そうして残った者の一部で騒いでるその横では、

 

星「愛紗、止めてやらんでいいのか?」

 

愛紗「もう知らん!」

 

 ふてくされた愛紗がちびちびと酒を飲んでいた。その実お酒に弱い彼女は、それを何倍にも薄めているおかげで正気を保てているのは秘密である。

 

星「いよいよ洛陽か。董卓軍の規模はわからんが、まだかなりの兵力を備えているとみてもよいだろう。愛紗はどう思う?」

 

愛紗「そうだな...」

 

 愛紗は少し赤みが差したその顔で、少し懐かしむようなそぶりを見せるとこう言った。

 

愛紗「案外、誰もいないかもしれないな。」

 

星「ほう、それは面白いな。軍師殿はどう思う?」

 

雛里「...すぅ...すぅ...」

 

 愛紗の横では、雛里が可愛らしい寝息を立てながら舟を漕いでいた。その陣幕の外では...

 

思春「お前は中に入らんのか。」

 

華雄「...ああ。あまり騒がしいのは得意ではないからな。」

 

 資材に腰掛けて華雄が一人酒をしていた。その横に思春も自分の杯をもって腰掛ける。

 

思春「賊上がりの私が天子のいる都にまで来られるとはな...正直自分でも驚きだ。」

 

華雄「そうか。私もこの国の都に来ることになることは、可能性としては考えていたがこうも早くなるとはな...」

 

思春「...そうか。」

 

 それだけ言葉を交わした二人は、そのまま夜が更けるまで静かに酒を飲んでいたのであった。

 

 

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 そうしてからついに、連合軍は洛陽の眼前へとたどり着いた。結局のところ何もなかったわけだが、洛陽についてまで全く動きがないというのは多くの諸候の首をひねらせた。その上、洛陽を守る最後の砦とも言える城壁には、旗1つ立っていない。そして開かれた軍議では斥候がたてられ、今その報告を皆で聞いているところであった。

 

曹操「誰もいない?」

 

兵士「はっ。洛陽内には董卓軍の影も形もないとのこと。」

 

雪蓮「洛陽の住民は?」

 

兵士「皆至って平常通りとのこと。噂では董卓が圧政をしいてたとのことですが、そのような事実はなかったとのことです。ただ、董卓の姿を見たという情報は、街の者からは得られませんでした。」

 

美羽「妙な話じゃの...」

 

曹操「...」

 

一刀「(やっぱりそういうことになってたか。それなら...)白い装束を身にまとった、妙な連中がいたという報告はなかったかい?」

 

兵士「白くて妙な連中ですか?そのような報告は入っていませんが...」

 

一刀「そうか...ありがとう。」

 

 俺の質問にそれこそお前が妙なことを聞くなという顔を何人かにされたが、それは気にしないことにした。

 

一刀「(隠れてるのか?やはりこっちに手引きしたのがアイツってことは、これはアイツら絡みじゃないのか...)」

 

 憶測が憶測を呼ぶ。そこへ、袁紹が一言。

 

袁紹「みなさん、難しく考えることはありませんわ。誰もいないなら堂々と入ればよろしいんですわ。」

 

雪蓮「でも誰もいないことはどう説明するの?」

 

 それに対し、袁紹は自信満々に、

 

袁紹「それはもちろん、董卓さんはわたくしたち連合軍に恐れをなして逃げ出したに違いないですわ、おーほっほっほ!」

 

 溜息をつく一同。その反応を見て少し慌てた様子の袁紹は、

 

袁紹「ま、まあ?ともかく入らないことにはどうにもなりませんし?そうではありませんこと?華琳さん。」

 

 なんだか頭がいいのか悪いのか判断しづらい。言ってることは至極正しいと言えるのだが...

 

曹操「それもそうね。なんなら私のところが先に入って様子を見ましょうか?」

 

袁紹「いえ、言いだしたのはわたくしですし、ここは名門たる袁家の代表であるわたくしが、直々にみなさんの安全を確認してまいりますわ。おーほっほっほ!」

 

 ああもう勝手にしてくれとでも言いたげな雰囲気が皆の中に流れる。そうしてその後の段取りを大まかに決めた後軍議は解散となった。

 

 

 

 

 ウチはあまり気にしないが、袁紹のところが洛陽入りに一番乗りになるのには別にかまわないのか...軍議の後、その旨を雛里に訊いてみた。

 

雛里「そうですね...みなさん多分、今回の場合は様子見にしようと考えたんだと思います。」

 

一刀「というと?」

 

雛里「報告を聞く限り、董卓さんが暴政をしいていなかったとなれば、洛陽の方々は今まで平和に暮らしていたんだと思います。そこにいきなり争いのタネとも言える軍隊がズカズカと乗り込んでくれば、洛陽の住民さんもいい顔はしないでしょう。」

 

一刀「ああ、確かにそうだね...それなら状況がわかるまでは様子見して、場合によっては入らないで帰るってのもアリなのか。ありがとう、勉強になったよ。」

 

雛里「いえいえ、そんな...でも袁紹さんが先に入るとなると、私たちが入る時は一層注意したほうがいいかもしれません。私たちが入った時にはもう洛陽が混乱しているなんてこともあり得るかも...」

 

一刀「ああ...」

 

 なぜか納得してしまう。結局、安全を確認しに行った袁紹がある意味一番危険なのではないか...入城していく金色の人垣を見ながら、そんな思いが頭をよぎった。

 

 

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 洛陽に入城する袁紹軍を見守る連合軍の中に一人、それをやきもきした様子で見つめる軍師がいた。曹操軍の軍師、荀ケである。その後ろから彼女の主君である曹操が歩いてくる。

 

曹操「どうかしたの?桂花。」

 

荀ケ「恐れながら...華琳様に軍師として伺いたいことがあります。」

 

曹操「なにかしら。」

 

荀ケ「華琳様はなぜ...この戦で何もなされなかったのですか。」

 

 荀ケは連合の結集からずっと考えていたことを口にした。確かに、時に動かない方がいいと助言したこともあったが、ここまで動かなければ遠征してきた甲斐がない。確かに、諸侯の実力を測ると言うのは今後の戦略を立てる上でも重要なことであるが、それにしたってもう少し何かしてもいいはずだ。今回の遠征では戦闘こそあれ、目立った成果は全て他の勢力に取られているのだから。

 

曹操「...桂花はどうしてだと思う?」

 

 曹操の笑みは崩れないがそこにはどこか怒気にも似たものを感じる。それは見てわかったが、どうしてそうなっているのか荀ケには理解できなかった。

 

荀ケ「華琳様の軍師として恥ずかしい限りですが...私にはわかりません。」

 

曹操「そう。じゃあ教えてあげるわ。」

 

 一瞬ためを作り、笑みを崩す。そして、

 

曹操「それはね、これが貴方によって仕組まれた、つまらないものだったからよ。」

 

荀ケ「!」

 

 曹操の醸し出す雰囲気に一瞬体がこわばり動けなくなる荀ケ。しかし、すぐにその言葉の意味を頭で理解する。

 

荀ケ「いつからそれを...」

 

曹操「貴方が麗羽からの書状をもってきた時からよ。」

 

荀ケ「それじゃ初めから...」

 

曹操「いえ、貴方が裏で董卓にまつわる噂を操作していたところから、もっと言えばそうしようと考えていた時から気付いていたわけではないから、その言葉は正しくないわね。でも董卓にも事情があったとはいえ、ここまでのことをするなんてね...」

 

 曹操の態度にだんだんと気持ちが沈んでいく荀ケ。ここまで来れば、今の董卓がどういう状態なのかも調査済みなのであろう。情報を尊ぶ軍師に気付かれずに自軍の事を調べるなんて...改めて自分の前に立っている人物の能力の高さに感服する。しかし、

 

荀ケ「私はただ、黄巾の反乱で得られなかった名声を華琳様のために...」

 

曹操「桂花。これだけは覚えておきなさい。」

 

 荀ケの目をしっかりと見据え、一層真剣な様子で言った。

 

曹操「この私が求めるのは、時代に名を残すような英傑との武と知の粋を極めた戦い。私の覇道はその上に完成するのよ。だから、誰かを貶めてはめるような真似は金輪際止めなさい。」

 

荀ケ「...わかりました。」

 

 完全に負けだ。曹操という英傑の器を測りきれていなかった自分の未熟さに悔しさをかみしめる。それを見た曹操は満足すると同時に、荀ケの様子に少しばかりの嗜虐心が首をもたげ、

 

曹操「わかってくれたかしら。では桂花、貴方には罰として一カ月、私の閨に来ることを禁じます。」

 

荀ケ「そ、そんな!華琳様〜!」

 

曹操「私を思ってくれるのは嬉しいけど、これに懲りたら次はしっかりやりなさいよ。」

 

 少し楽しそうにその場を後にする曹操に対し、地獄行きを宣言されたかのように絶望を顔に浮かべた少女がその場に一人、取り残されたのであった。

 

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 順番としては少し後になったが、洛陽に入った我らが北郷軍は、心配していた混乱などもなく、すんなりと洛陽に入ることができた。どういうことかわからないが、住民からは鬱陶しがられるどころか、なんだかお疲れ様とか声をかけられたりしてむしろこちらが申し訳なくなってきてしまった。一体袁紹は最初に何をやらかしたのか...どこからか、あの特徴的な高笑いとわっしょいわっしょいと掛け声が聞こえてきていた。本当に、一体何やったんだ。

 

一刀「入ったはいいけど、俺が天子って人に会うわけにはいかないだろうしなぁ...どうしたものか。」

 

雛里「噂では董卓がまだここ洛陽に潜伏しているという噂があり、諸侯の一部が血眼になって探しているようです。私たちも探しましょうか?」

 

一刀「!それはまずいな。俺たちも探すか...でも兵士の人たちには絶対に街の人に乱暴はしないように伝えてくれ。それと、董卓がもし見つかっても他の勢力には絶対に気取られないようにして、こっそりここへ連れてきてくれ。難しい注文だと思うけどよろしく頼むよ。」

 

雛里「はぁ...御意です。」

 

 少し怪訝そうにする雛里に代わって、今度は愛紗がこちらに寄ってきた。

 

愛紗「一刀様、少々お話が...」

 

一刀「うん、わかったよ。」

 

 少し周りから距離を取る。なんとなく内容は察しているが...

 

愛紗「やはり、月たちを保護するおつもりなのですね。」

 

一刀「うん、噂が嘘だったことからすると、やっぱり今回も何かに巻き込まれただけみたいだし...女の子がひどいことされるのは嫌だしね。」

 

愛紗「全く、貴方という御方は...それと、私からも一つ探したいものがあるのですが...」

 

一刀「恋の家だろ?」

 

愛紗「はい...先の様子だと、恋がセキトたちを戦場に連れてきていたとは思えませんし、おそらくこちらにおいてきたのではないかと。恋がこちらに帰ってきた時にセキトたちが餓えで倒れてなどいたらあんまりです。」

 

 初めの頃は色々あったが、愛紗も今では恋や恋の家族のことを心配しているらしい。本来なら、先の戦いの時に恋にも声をかけたかったが叶わなかったようだ。それならせめて、セキトたちの安全を確保してあげたいという気持ちもわかる。そこへ、

 

祭「おい、北郷!一部の馬鹿共が狼藉を働いているようじゃ!儂にやつらをとっちめる許可をくれぃ!」

 

一刀・愛紗「!」

 

一刀「分かった!皆、各隊長の指揮に従って自体の鎮圧に動いてくれ!街の人の安全が最優先だ!」

 

兵士「応っ!」

 

 皆に任せておけば、悪いようにはならないだろう。そして今自分にできることは...

 

一刀「呂布邸へ向かうぞ、愛紗!」

 

愛紗「御意!」

 

 記憶に従って一路呂布邸を目指すのであった。

 

 

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 その頃、洛陽内のある邸宅では、一人の少女が通りに面した窓の隙間から外の様子をうかがっていた。

 

カク「連合軍の連中が月を探してる...ここが見つかるのも時間の問題ね。」

 

董卓「どうしよう、詠ちゃん...」

 

カク「そんな、泣きそうな顔しないの。月はボクが絶対に守って見せるんだから!」

 

 強がって見せてはいるが内心では焦っていた。ここで捕まってしまえば二人とも命はおそらくないだろう。

 

董卓は今まで十常侍の生き残りである張讓によって幽閉されており、カクは董卓を盾に命令を聞かされていたのであった。それも時間をかけて張讓の周りを懐柔することでなんとか救出することはできたのだが、自分たちが逃げる時間までは確保できなかったのだ。

 

カク「(ふん。あのちびっ子にはいざとなったら祖父が宦官だった曹操なら助けてくれるかもしれないって吹き込んでおいたし、いい気味だわ。実際にはあの男嫌いの曹操ならあんな下種、開口一番切り捨ててくれるだろうし。あとは私たち...)」

 

 軍師カクには月の脱出計画とは別に画策していたことがあった。それは董卓という人物像に立った悪評から、どうやって大好きなこの子を守るかということだった。悪評を広めたのは張讓と彼に口添えをしたどこかの勢力だということはわかっているが、今その者たちを討っても董卓の安全が保証できるとは限らない。

 

カク「(ホント馬鹿よね...いざとなったら身代りにできるからって言われて、それが攻め込まれる理由になるなんて考えもつかないなんて...私の嘘の報告も、自分が月の命を握ってるから私が逆らわないと思って全部信じちゃうんだし。)」

 

 実際今まで張讓が気に入らないという理由だけで討ち首にしようとした者たちをカクは隙を見て助けていたのであった。確かにそれは董卓の命を危険にさらす行為ではあったが、彼女を守るために無実の人の首をはねるなど、董卓が最も嫌う類の行為であることは理解していたため、どうしてもすることはできなかったのだ。しかし今考えればその甲斐もあってか、救出に手を貸してくれるものができたのだと思えば、善行をすれば善行が返ってくるというどこかの教えも捨てたものではないのかもしれない。

 

カク「(あそこまで行けば、あとは手はず通りにやってくれるはず。そうすればもうボクたちは自由になれる!)」

 

 危険な状況にあっても一縷の望みを抱いた少女は、心配そうにこちらを見つめるもう一人の少女の手を取ると、扉の外へと駆けだした。

 

 

 

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 洛陽の街並みをかいくぐり走っている二人に、いつか見たものと同じ屋敷が見えてきた。

 

一刀「あれだっ!煙が上がってる、急ごう愛紗!」

 

愛紗「はい!」

 

 なだれ込むようにして武器を構える二人。しかしそこに広がっていたのは意外な光景だった。

 

雪蓮「あら、一刀。こんなところで何してるの?」

 

 目の前には意識を失って倒れている数人の男たちとそれを縛り上げている呉の人たち、そしてその真ん中で恍惚とした表情で猫を抱えて座っている少女がいた。その周りには、猫だけでなく、犬や鳥といったさまざまな動物が群がっていた。煙の方も、松明が転がって引火していただけのようで、すぐに消し止められるところだった。

 

一刀「えーと、雪蓮さんたちはなんでここに?」

 

雪蓮「ちょっと探し物をしてたんだけど、そしたらいきなりあの子がものすごい勢いで走り出したものだからついてきたの。そしたらそこに伸びてる連中がここの動物に乱暴しようとしてたからとっちめてたってワケ。」

 

 猫を抱えた少女に視線を送りあれと示す雪蓮。その彼女はというと、

 

??「お猫様〜♪モフモフで最高です〜♪」

 

 どこか別の世界に旅立っていた。それをみて、どっとと肩の力が抜けた俺と愛紗を見た雪蓮にはクスクスと笑われる。

 

雪蓮「あの様子じゃ当分あのままね。あの子、周泰って言うの。今はあんなになってるけど凄くいい子だから、仲良くしてあげてね。」

 

一刀「あ、ああ...とりあえずあの子たちの飼い主に代わって礼を言うよ。」

 

愛紗「私からも礼を言わせていただきたい。守っていただき、感謝する。」

 

雪蓮「あら、ここの人と知り合いなの?ならこの動物たちはそちらに預かってもらおうかしら。」

 

 するとその言葉に反応したのか、すっとその雰囲気をしぼめた周泰が、猫を抱えたまま走り寄ってきた。

 

周泰「あの、雪蓮様。私、お猫様たちとお別れしなくちゃいけないのですか?」

 

雪蓮「そうね。飼い主の知り合いって言うなら、一刀たちに預かってもらった方が妥当じゃないかしら。」

 

周泰「はう!あ、あのっ!私の給料からお猫様たちのお食事代もおうちも出させてもらいますからっ!私に預からせてもらえないでしょうか!絶対にお猫様たちに不憫な思いはさせませんっ!」

 

 ものすごい勢いでまくし立てあげられ、そして上目遣いで見つめられる。よほど猫が好きなのだろう。それにしても、うっ...可愛い...そんな心の内は愛紗には筒抜けで、後ろからジト目で見られているのが手に取るように分かるが気にしない。

 

一刀「そ、そうだね...そこにいる犬や鳥たちも、その人にとっては家族みたいなものだから一緒に居させてあげたいんだけど...大丈夫かな?」

 

周泰「もちろんです!私が責任をもってお世話させていただきます!」

 

 元気な声で心底幸せそうに答える周泰。ここまで気持ちよく言いきられると断り様がない。何より、今この子からこの動物たちを取りあげたら、この子がもの凄く落ち込む気がする。

 

一刀「そうか...じゃあ君にこの子たちのことを頼むよ。飼い主が見つかったらそっちに行くよう連絡するから、それまで預かっていてくれるかな。」

 

周泰「はい、ありがとうございます、一刀様!信頼して下さったお礼といってはなんですが、これから私の事は明命とお呼び下さい!」

 

一刀「あ、ありがとう明命。」

 

 なんだか後ろからの視線が今度はきつくなった気もするが気にしない。そう、もういちいち気にしてなんかいられないんだ!

 

雪蓮「まあ、厠のしつけはちゃんとしなさいよ。あっちらこっちらでやられたらたまったもんじゃないわ。」

 

明命「いえ!お猫様にしつけるなんて恐れ多い!私にできるのはお願いすることだけです!」

 

 なんだか凄く先行きが不安な気がする。そこへ、

 

兵士「董卓が発見されました!今、三つ向こうの通りにある邸宅に立てこもっている模様!」

 

一刀「!まずい、先を越されたか!愛紗いくぞ!」

 

愛紗「御意!」

 

 最悪のケースが脳裏をよぎる。そうでないことを願いながら二人はまた駆けだすのであった。

 

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一刀「これは...!」

 

 一刀の目の前には火柱を立てて激しく燃え上がる建物が、バキバキという大きな音を立てながら次第に崩れ去ろうとしていた。先に来ていたらしい兵士に若干取り乱したまま問い詰める。

 

一刀「董卓はどうなった!?」

 

どこかの兵士「は、はぁ...それがここに追い詰めたと思ったら、殺されるくらいならと叫び声がしまして、すぐに火の手が...」

 

一刀「くっ、なんですぐに火を消そうとしないんだ、くそ!」

 

 その建物に飛び込もうとするが、すぐにその体を後ろから抱きつかれ動きを止められる。

 

一刀「離してくれ!このままじゃ!」

 

愛紗「いけません!あんなところに飛び込んだら、一刀様まで死んでしまいますっ!」

 

一刀「でも...!」

 

愛紗「もう離れないと誓ったではありませんか!」

 

 半泣きになってそう漏らす彼女の言葉に動きをとめてしまう。その時、目の前の屋敷の入り口がガラガラと音を立てて崩れていった。

 

一刀「うっ...!」

 

愛紗「私だってできることなら飛び込んでいきたいです。でも貴方がそうなさるおつもりなら、私は私の命に代えてもお止めしなければなりません...それでも行かれるおつもりですか...?」

 

 そう口にする愛紗も、涙を溜めて崩れゆく建物をしっかりと見据えていた。愛紗も、彼女たちへのあらゆる気持ちを押し切って俺を止めてくれているのだ。

 

一刀「...わかった。すまない、愛紗。とにかく火を消そう。そこの君も手伝ってくれ...あれ?」

 

 いつのまにか、先程まで燃える屋敷を見つめていた男はいなくなっていた。

 

一刀「さっきまでここにいたのに...ともかく愛紗、近くの住民や兵士を集めて手伝ってもらうんだ!まだ間に合うかもしれない、急ごう!」

 

愛紗「...御意!」

 

 袖で涙をぬぐった後、二人は三度街へと駆けだした。

 

 

 

 

 結果から言うと、家はほぼ全焼してしまった。焼け跡からそれらしい骨は見つかったが、その損傷の度合いから、それが本当に人の骨かは断定することができなかったが、連合軍の中では董卓は自害したという判断が下った。しかし、火を消し止めて一番に確認した俺と愛紗は気付いてしまった。焼け跡に残った床下の隙間からわずかに空気が漏れ、灰が舞っていたのを。つまり、この下にはどこかにつながる空洞があるのだ。俺と愛紗は他の人には気付かれないようにその穴を隠したのだった。

 

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 ―あとがき―

 

読んで下さった方は有難うございました。コメントや支援下さった方も有難うございます。こんばんは、れっどです。

 

反董卓連合編は今回でほぼ終了です。次回からは本編にない展開に...なるんじゃないかな!多分。実際、他の方が書いてたとかはありそうなんですけどね...とりあえず知ってる範囲では被ってないはず、うん。といってもまだ本文は書いてないんですけどね!次回か次々回に拠点を挟む予定です。ちょっと人も増えてきたし、他の勢力にも拠点とかで触れた方がいいんでしょうかねぇ?周幼平の充実猫ライフとか(ないか

 

それでは、今後もお付き合いくださるという方はよろしくお願いいたしします。

 

説明
恋姫†無双の2次創作、関羽千里行の第18話になります。
ぬこかわいいよ、ぬこ。
あんな可愛さで迫られたら...俺はもう!
それではよろしくお願いします。
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コメント
うーん、そこらへん無印とかでもお咎めないですよねぇ。少なくとも今回に関しては戦功があって武名とかあげられたとこは特に文句言う必要もなく、華琳さんは筋を通して何も言わないだろうし、狼藉働いたのも袁紹軍の人ではないので怒る人がいないという解釈をしてます。連合のリーダーっていうのも今回あえて明言はしていませんし責任とらされるってこともないはず。(Red-x)
昔の歌でこんなことが歌われていました。「偉ければ黒でも白になる」と。どうやら、そういうことになりそうです。(h995)
なんの確証もなく混乱を招いたという事で駄名家にはきつい処罰があってもいいのでは?・・・動物ズが保護されて何より。でもセキトは恋家族ズというか、洛陽の動物のボスとかになっていそうw人中の恋、犬中のセキト!(きまお)
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