〜貴方の笑顔のために〜 Episode 28 天の御使い 北郷一刀 |
〜亞莎視点〜
私たちが、愛紗さんたちを救出するために、駆け付け、半日もすることもなく
敵は壊滅、今、戦場には静けさがただ広がるだけ・・・
私はそんな戦場を見渡しながら思う。
もし、彼が駆け付けてくれなかったら、私がここで目にしていたものは
愛紗さんの亡骸であったのかもしれないと。
北郷一刀、いえ、一刀様。 彼は、本当になんでも見通しているのだろうか・・・
一日前、私たちは愛紗さんとともに反乱軍に当たるため、兵を集めようとしていた。
しかし、我々は1万5千という敵を前に撤退をせざるおえなくなった。
悔しかった、つらかった。撤退、つまりそれは愛紗さんを置いていくことになるから。
でも、兵を預かる指揮官として、兵を死なせるわけにはいかなかった。
撤退せよ! 私がそう命令し後退していた時だった。
そう、そんな時だったのだ。
一人の男が私たちのもとへと駆け付けてきた。
それは刃様、いえ、一刀様だった。
私はなぜ彼がここにいるのかわからなかったけれど、今、私たちが
おかれている状況と愛紗さんのことを短く説明した。
そうすると彼は、わかっているというようにただ静かに頷いた。
1万5千、私はそう告げた。
彼は、驚きもせず、ただこういった。
「亞莎、愛紗を助けに行こう」
そんな風に。私は、そう聞いたとき、腹が立った。
だって、私だってそうしたいのに、1万5千の兵なんてどうにもできない!
そう思った。
けれど、彼は続けてこういった。
「亞莎、黄巾党が呂布、恋に壊滅させられた時の話を聞いているか?」
私は情報としてしか知らなかったが、静かにうなずく。
「その時の黄巾党の数は、2万だ」
そういって、彼は反乱軍に一直線にかけて行った。
私は、戸惑ってはいられなかった。撤退しているすべての兵に反撃の準備をさせ、
そして一刀様が向かっていった方向へ軍を動かした。
結果は、驚くべきことに私たちの兵はほとんど減らず、敵は瓦解。
戦場に散るものも多かったが、多くはおそらく一刀様を恐れ、それぞれに逃げて行った
のだろう。
「亞莎、このまま、愛紗を助けに行くぞ」
彼は、息を切らすこともなく、そうただ言った。
しかし、私は無理だと思った。
なぜなら、ここにいるのはたった5千。 ここに来た敵が1万5千なら
愛紗さんのとこに向かった兵は3万、もしくは4万、それ以上かもしれない。
そんなところに5千の兵で突っ込んでいくのはむりだ。
一刀様の武を見たけれど、さすがに、愛紗様を守りながらそして、城を守りながら
戦うことなんてできるはずがない。
そんなわたしの疑問を見透かしたのか、彼はこういった。
「大丈夫だ、亞莎。こちらに向かってくるとき、すでにここから近いところ各地に、
伝令を送っておいた。樊城から2里地点、地図でいうとここに結集するようにと。」
そして、私たちは彼の言葉を信じ、その地点へと兵をすすめた。
そこについた私は驚くばかりであった。
総勢5万の兵が集まっていたのだ。
関羽殿の危機といえば駆け付けるのは当たり前だが、それに加え、
雪蓮様が認めた英雄、一刀様からの直々の書はなにより心動かされるものがあったのであろう。
一刀様はそれぞれを見渡し、命令を伝え、準備が整うのとともに、
突撃命令を下したのだった。
外はひえはじめ、私は蜀の兵が用意してくれた部屋に向かっていた。
「何度も、あなたには驚かされますよ。刃様」
戦いが終わった今でも、彼が突撃していった姿を思い出す。
「愛紗――――――!!」
彼はそう叫びながら敵に切りかかって行った。
4万の敵を目の前にしても、彼の背中からは恐怖は伝わってこなかった。
ただ、愛紗殿を絶対に守って見せる、そのような覚悟しか伝わってこなかった。
私は、彼に続くようにと、私の旗をその大地にたなびかせ、反乱軍へと突撃していった。
彼がいてくれたから、愛紗さんは救われた。
そもそも、彼はこのことを知っていたのだろうか?
愛紗さんが死にちかいことを。
だからここまで来ることができたのであろうか・・・・
三国時代、彼は赤壁の戦いで、私たちの作戦を知っていた。
だから、彼らは勝つことができた・・・
で、あるならば、彼は蜀のことも知っていた?だから彼はすぐに駆け付けることができた?
で、あるならば、彼は、これから起こるすべてのことを知っているのだろうか・・・
そんな時だった。
私の部屋の扉を開けようとしたとき、
私のもとに伝令が届いた。伝令は一通の書を携えていた。
それは冥琳様からの書であった。
なんなのであろう、私はそう思い、
その書をあけて読み始めた。
読んでいる半ば、私の手からその書は離れ、
私はその場に跪いた・・・
そして、気づけば体が震えているのが分かった・・・
扉に片手をつきもたれかかってい自分がいた。
ありえない、心の中でそう否定している自分がいた。
それと同時に別の感情がこみあげてくる。
一刀様・・・・なぜ、なぜ、ですか・・・
あなたは、このことを知っていたのですか・・
知っているのならなぜ!
あなたは!
私は、その手紙を手に取り、一刀様たちのいる場所へと思い足を運びながら
向かっていった。
〜愛紗視点〜
気が付いたら私は城内の救護室にいた。
おそらく刃殿がここに運んでくれ、その間に気を失ったのであろう。
部屋の外はなにやら、騒がしかったが、
兵たちの笑い声から、それは戦いによるものではないとわかる。
戦いはこちらの勝利に終わった。
そういうことだ。
刃殿が亞莎とともに駆け付けてくれた時、もう大丈夫であろう、
そう思った。
けれど、戦いが終わったとわかる今、やはり安心感がこみあげてくる。
蜀を守ることができた、安心感。そしてなにより、自分がまだ生きられるという
喜び。
でも・・・
私には一つの疑問があった。
いや、正直今三国で起こっていることがよくはわからないのだが、
それでも、一つの大きな疑問がある。
それは刃殿のことだ。
呉王、雪蓮殿がもし、私の危機を知っていたのなら、それなりの援軍を
送ってくださるであろう。
しかし、実際に来たのは刃殿であった。
それも、彼は亞莎と呂蒙のことを真名で呼んでいる。
確かに蜀を去ったあと、呉に行ったと考えればそれは、不思議ではない。
しかし、刃殿が雪蓮殿からの使いで私を助けに来たとすれば
それは、おかしい。
なぜなら、雪蓮殿の書も一通も届いてはいないし、
刃殿は呉の客将でもない。
となると・・・
なんなのだ、彼は?
私がこうなるのとわかっていた・・・?
だからこそ、私が死ぬ前に私を救うことができた・・?
そう思っていると扉の向こう側から声がする。
「愛紗、入っても大丈夫か?」
「はっ、はい。」
私は、彼、刃殿の声にそう答える。
「だいぶ元気そうだ。よかった」
私のけがは大したことはなく数日もすれば自由に動かすことはできるようになるらしい。
「刃殿、このたびはありがとうございます。
刃殿のおかけで、私は九死に一生を得ました。
本当になんてお礼を言ってよいのか・・・」
「そのことなんだが、俺は、君に謝らなければならない」
「・・・え?」
「・・・」
「どういうことですか、刃殿。 だって、刃殿は助けに来てくれた。
私が、感謝するのは当然のことですが、
刃殿が謝る理由なんてどこにあるのですか?」
「それがあるんだよ、愛紗。
俺が謝らなければいけないことは2つある。」
「2つ、ですか・・・」
「一つは、愛紗、俺は君にずっと嘘をついてきた。
それと、もう一つは、俺は、君がこうなるのを知っていたのに、
早く来れなかったことだ。」
どういうことだ?彼の言っていることは、意味が分からない。
彼がずっと私に嘘を、ついていた?
嘘って・・・なんなのですか?
それに、私がこうなるのを、知っていた・・・
彼がそう言ったとき、どこからもない納得感と恐怖感がこみあげる。
「刃殿・・・どういうことですか、
あなたが、このことを知っていたって」
三国の誰もがおそらく知らなかったこと、それを知っていたということは
彼は、敵となんらかしらのつながりが・・・
いや、でもそれはない・・
ないけど、それしか・・
「刃殿、あなたはいったい何者なんですか?」
「ああ、俺ももう、嘘はやめようと決めたんだ。
周りにも、そして、自分にも。
愛紗、すこし、話を聞いてくれないか・・・」
「はい。」
「俺は、ある男をずっと見てきた。その男は別世界から来て、
天の御使いなんてそんな立派な名前で呼ばれた。
彼は、運がよく、今の魏王、曹操に拾われ、
ともに戦った。」
「魏の天の御使い殿のお話ですか。それなら私も聞き及んでおります。
三国が統一された後、役目を終え、天に帰還したと。」
「ああ、勝手に来て、みんなに何も言わずにいなくなるなんて勝手な奴だよな」
「そう、かもしれませんね。私は御使い殿のことはよくわかりませんが、
魏の皆の気持ちを考えるとそう、思います。」
「そう、だよな。」
その時、刃殿がさびしそうに笑ったような気がした。
「でも、愛紗。その話には続きがあるんだ。」
「続き、ですか・・・」
私は思い出す。蜀を出る前に軍議で聞いた話を。
「その、続きというのは、裏切り・・の話ですか・・」
そう、今、天の御使いはかつていた魏にその刃を向けている。
私には理解ができなかった。
「裏切り・・・そう、なのかもな」
「それで、その続き話というのは・・・?」
「その男はこの世界から姿を消した後、男は
思ったんだ。まだ、この世界にいたいと。自分が愛する人たちと、
自分とともに三国を生き抜いてきた兵たちと、
そして、冗談をかわし笑いあった民たちとともにいたいと。」
「そうなんですか」
「彼はもっと強くなりたい、そう思った。
そして彼は、ここでいう、天で、特訓をくりかえし、やっと、
この世界に戻ってくることができた。」
「・・・」
ちょっと、待て。なんで、彼は御使い殿の話、いや、彼が天に帰った
後の話を知っている?
いや、それも、彼がいま魏に攻めてきている御使い殿と仲間であるのなら
すべて納得がいってしまう・・・
刃殿・・・あなたはいったい何者なのですか・・
「その男は、魏へ走った。彼のこの世界での故郷を求めて。
でも、そこで彼が目にした光景は、彼を呆然とさせた。
なぜなら、皆がこれからのことを考え、前へしっかりと
歩いていたからだ。男は自分が自分のことしか考えていなかったことに
きがついたんだ。」
「だから、男は思った。自分も、前へ歩けるように自分の存在意義を
求めるために旅に出た」
「そして、男は思った。この世界はこんなにも広いのだと。
小さな村で民とかたらい、いろんな人がこの世界にいるとわかった。
今まで出会ったことのない兵たちと話し、戦場で戦うことが
どんなに辛いことかわかった。
子供たちと触れ合い、この世界の未来のために男が
守らなければいけないものを学んだ。そして、」
「蜀の王に出会い、どこまでも自分の理想を貫き通すことを学んだ」
「桃香様に!! 桃香様と御使い殿はあっていたのですか!」
「ああ、そうなんだ。」
「そう、ですか」
私は、話を追求しようと思ったが、刃殿の話を聞くために口を結んだ。
「そして、呉の王と出会い人生で大切なことを学んだ」
「雪蓮殿とも・・・」
「男はこのたびで、たくさんのことを学んだ。どれもこれもが男にとって
大切なものだった。
でも、男はやっと気が付いたんだ。
彼が、魏に最初に帰った時思ったことは、結局は自分の弱さから
逃げるための言い訳でしかなかったって。」
「?でも、御使い殿は自分でも前に進めるように、旅にでたのでしょう?」
「それは、ただの言い訳だったんだよ。 あの時、男はみんなのもとに帰れたはずだ。
でも、男は帰れなかった。みんながあまりにも輝きすぎていて。
自分がまったく前にすすんでいなくて・・・」
「だから男は言い訳をつくって、逃げたんだ。」
「でも、気が付いった。やっと、この長い時間をかけてやっと気が付いたんだ。
自分に向き合わなければいけないと。
自分の弱さは他人に打ち明けることで、お互い成長できるということを。
そして、逃げからの始まりでは、まったく前に進めないということを。
だから、愛紗・・・もう、逃げないよ。
決めたんだ。自分の思いにもう、嘘はつかないって。
もう、俺は逃げたくないんだ・・・」
「・・・?どういうことか、よくわからないのですが・・
今まではなしていたのは御使い殿の話で、でも、刃殿が逃げたくないって・・」
・・・、ちょっとまて。 よく考えれば、彼が、私が死にそうになっていたことも、
そして、今までの話も、そう考えれば納得がいく・・でも、そしたら
「まさか・・」
私はそんな風に刃殿をみる。
「ああ、そうだよ。愛紗。もう、俺は逃げない。自分であることから。
そして、自分の道から。」
そういった彼は仮面に手をかける。
「俺は、もう北郷一刀であることから逃げはしない。」
説明 | ||
民と語らい、兵と語らい、そしてみんなの笑顔を見て、一刀は気が付く。自分に足りないもの、自分が求めていたものはなんだったのかを。 |
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コメント | ||
sonron様、 浮かんじゃいますか! これからフィナーレです! お楽しみに! 次回は2日以内の予定です。(白雷) h995様、 まさか・・・はっ!(白雷) デーモン赤ペン様、 やっと、一刀は仮面をとりましたねー。 これからはクライマックス!(白雷) 牛乳魔人様、 呂蒙と関羽、はたしてこの二人は今後どんな行動にでるのか??(白雷) nao様、次回をお楽しみに!(白雷) きまお様、 どうなのでしょうか・・?今後、お楽しみに!(白雷) 不知火 観珪 様、 待っていてくださるとは・・・ 感激です^^;(白雷) 本郷刃様、それはおそらく次回で明らかに・・・(白雷) 最後のシーンが目に浮かび、目頭が熱くなるわぁい! 次回はいつ、いつ、いつ!?(sonron) そう言えば、呉の勇将で孫策と互角だった太史慈は演義では合肥の戦いで伏兵の矢を受けて戦死していましたね。まさかとは思いますが……(h995) 冥琳からの手紙には何が書いてあったのか、北郷一刀として歩くことを決めた一刀に待ち受けるものは。(デーモン赤ペン) 雛里の「落鳳破」の時は場所も移り相手も殺して回避できたけど、今回はまだ「呂蒙」と「関羽」が同じ場所にいるからどうなるか・・・(牛乳魔人) ついに本郷一刀として行動するのか〜呉で何かあったのか気になる〜(nao) 何やら気になるなあ。あいしゃたんの危機がまださっていないような気がする・・・。(きまお) なんとなく、冥琳さまからの書が不吉な予感…… 待て、次回!(神余 雛) ついに刃の仮面を取り、本来の一刀へと戻りましたか・・・冥琳から届いた書とは一体・・・?(本郷 刃) |
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