真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ三十
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「むぅ、華雄は誘いにのりませんか…あの者の性格なら目の前に敵が現れ

 

 れば脇目もふらずに突撃するはず…余程強力な抑えがいると見るべきで

 

 すね。ならば尚一層の事こちらの作戦の成功が勝利の為の重要な鍵とな

 

 るという事ですね…」

 

 報告を聞いた郭嘉はそう一人ごちる。

 

 彼女は現在、本隊より離れて行動中である。

 

「もう少し進めば敵軍の横合いに続く道へと出れるはず…おそらく守備兵

 

 はいるでしょうがこちらは約二万、一気に抜いてしまえば問題無いはず

 

 です」

 

 彼女の作戦は密かに別働隊を率いて間道を抜け、本隊の横合いから奇襲

 

 をかけるというものである。普通といえば普通なのだが、そこへ通じる

 

 道を知る者は地元の者達でもごく少数であり、不意を衝いて一気に抜け

 

 れば成功する算段はあったのである。

 

「郭嘉様、向こうに開けた場所が」

 

 兵士の報告に郭嘉は頷きながら告げる。

 

「よし、ではその場所に出たら一気に駆け抜けます。いいですね、途中で

 

 脱落した者達は見捨てて行く事になりますので死ぬ気で駆けなさい」

 

 そして郭嘉の合図と共に兵達は一気に飛び出したのだが…。

 

「郭嘉様!あれを!!」

 

「な、何と!?…そんなバカな」

 

 目の前に翻った『法』の旗印と数千はいるであろう敵軍に郭嘉は驚きを

 

 隠せなかった。

 

 

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「なるほど…ここは風の読み通りという事ね」

 

 目の前に飛び出して来た敵軍の姿を見た燐里はそう呟く。

 

 燐里は風と共に別働隊を率いてこの地に赴いたのであったが、その途中

 

 で風が『おそらくこの辺りに敵の奇襲部隊が現れるはずですので、燐里

 

 さんはここで陣を組んで潜んでいてくださいねー』と言ったので、半信

 

 半疑ながらも八千の兵をそこに伏せ、それに従っていたのであった(風

 

 は『ちょっと調べる事があります』と言って三千の兵を率いてそこを離

 

 れている)。

 

「法正様、敵軍が攻めて来ます!数は三万を超えるものと…」

 

「落ち着きなさい、数は精々二万といった所です。それでも向こうの方が

 

 二倍以上ですので…そうですね、此処と此処、この二点に三千ずつ配置

 

 し、そこの防備のみ固めなさい。敵が他に兵を展開させてもそれは無視

 

 するように」

 

 地図を一目見て出された燐里の指示を受け、兵達が配置についていった。

 

 ・・・・・・・

 

「郭嘉様、戦況はこちらが優位に進めています。相手は防戦一方です!」

 

「もう一押しですね…それでは一千の兵をこちらへ展開させなさい」

 

 兵からの報告を聞き郭嘉は指示を出していたが、何とも言えない不安に

 

 駆られていた。

 

「確かにここまでこっちが優位に進めています…しかしその割にはどうし

 

 てももう一押しが押し切れていない…これはどういう事か」

 

 郭嘉は地図を凝視しながら考える。そして…。

 

「…そういう事か!くっ、これでは幾らこちらが多くとも抜く事が出来な

 

 いわけか…相手の指揮官も相当の知恵者というわけね」

 

 一つの考えに達し、苦渋に満ちた顔になる。

 

「ならばここは何としても…誰かある!こっちに展開させた兵を戻して、

 

 こちらに回すよう『申し上げます!先ほどそちらに展開させた部隊が壊

 

 滅したとの事です!!』…なっ!?馬鹿な…!」

 

 

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 その報告を聞いた郭嘉の顔は驚愕に彩られる。

 

「他に部隊がいたというの?そんなはずは…ここを抜けて進める事を知っ

 

 ている者は私の他には…」

 

 その時、目の前に翻る『程』の旗を見た郭嘉の眼にさらに驚愕が走る。

 

「そうか…お前か、風!!」

 

 ・・・・・・・

 

 敵の別働隊を壊滅させた風の眼にも郭嘉の姿が映っていた。

 

「稟ちゃん…しばらく見ないうちに随分様子が変わってしまいましたね…

 

 あなたもまた朱里ちゃんに対する嫉妬から抜け出せないというわけです

 

 ねー。こんな事ならあの時何としても説き伏せておくべきだったようで

 

 すね…」

 

 ・・・・・・・

 

 〜風が一刀に仕える前〜

 

「ならば…どうしても風は北郷の下へ行くというの!?」

 

 風から『北郷に仕える』と告げられた郭嘉は何度も『我ら二人は曹操様

 

 の下でこそ才を発揮出来るはずだ』と風を説得しようとしたが、それを

 

 風が聞き入れるはずは無く、逆に郭嘉も北郷に仕るべきと言われていた

 

 のである。そんな二人の議論は始まってから既に二刻以上が経っていた

 

 が、全くといっていいほど解決する糸口が見える事は無く、郭嘉は苛立

 

 ちを隠せずにいたのであった。

 

 

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「風、あなたが北郷の所へ行った所で何の役にも立たないわよ。向こうに

 

 諸葛亮がいる限り、あの者の補佐として甘んじるしか無いのよ!?それ

 

 が分からない風ではないでしょう!」

 

 郭嘉はその苛立ちをぶつけるが如くに風に言い放つ。それに対し風は、

 

「稟ちゃん…風達がいろいろ旅をしていろいろな知識を得たのは何の為な

 

 んですか?」

 

 ぼつりとそう聞き返してきた。

 

「な、何よ突然『いいから答えてください』…そりゃこの大陸を少しでも

 

 良くする為の助けになればと…」

 

「ならば曹操さんの為に働くのが本当にこの大陸の為になるのですか?」

 

「ぐっ…そ、それは…でも…」

 

「稟ちゃん、あなたは諸葛亮さんの才能に嫉妬しているだけではないので

 

 すか?稟ちゃんが諸葛亮さんの執った戦略・戦術を研究しながら何時も

 

 ため息ばかりついていたのは知っています。この間は寝言でも『諸葛亮

 

 のこの戦略は如何に破るべきか』なんて呻いてましたしね」

 

「ね、寝言まで言われても私は…」

 

「でもそれとこれとは別の話です。曹操さんが劉備さんを奉じて洛陽を我

 

 が物にしようとしたのは単なる野心にしか見えません。そんな曹操さん

 

 に力を与えて果たして大陸の為になるのですか?確かにちょっと前まで

 

 の漢は腐り果てていました。正直、風も漢なんて無くなってしまった方

 

 がいいとまで思ってました。でも、反董卓連合の戦いが終結して新たに

 

 皇帝陛下と相国閣下による政が執り行われてからこの大陸はとても住み

 

 易くなりました。まだまだ地方の役人の中には腐ったのが残ってはいる

 

 ようですが、これからはそういうのも無くなっていこうとしています。

 

 そのような時に曹操さんはいらぬ混乱を招いただけではないのですか?

 

 だからこその流罪でしょう?それでも稟ちゃんは曹操さんがこの大陸を

 

 良くしてくれると本気で思っているのですか!?」

 

 

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 風の詰問に郭嘉は答える事が出来なかった。何故なら自分でも曹操の下

 

 へ行こうとしているのは諸葛亮に対しての嫉妬心と対抗心から来るもの

 

 である事は分かっていたからだ。

 

「どうしました?何も答えられないのであれば風の言っている事が正しい

 

 と認めるという事でいいのですね?」

 

 既に頭の中では風の言い分が正しいのは理解してはいたのだが、最後の

 

 感情の部分のみで郭嘉は反発していた。その結果…。

 

「ごめんなさい、風…元気でね」

 

 そう言って風の制止を振り切り郭嘉は洛陽から旅立ったのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「あれ以来ですねー。あんなに冷静だった稟ちゃんがすっかり様変わりし

 

 てしまいました…でも今は敵同士です。きっちり決着をつけさせてもら

 

 いますよ」

 

 そう言い放つ風の眼光は鋭く光っていた。それに対して、

 

「ふ、風…そうか、この地は風も一緒に旅をした場所。風が北郷に仕えて

 

 いるなら間違い無くこれに備えるか…」

 

 郭嘉は少々狼狽気味であった。しかし、

 

「郭嘉様、あれを!」

 

「おおっ、間に合いましたね…もしもに備えて秋蘭殿に頼んでいた甲斐が

 

 あったというもの。これで形勢逆転です」

 

 そこに現れた『夏』の旗を靡かせた軍勢の到着に郭嘉はそう不敵に微笑

 

 んでいた。

 

 

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 場所は変わり雍州。

 

 五胡の侵攻の報告を受け、白蓮達は急ぎ戻って来ていたのだが…。

 

「終わった!?留守の者達だけで撃退出来たというのか?」

 

 戻って来てみれば五胡の軍勢を撃退したという報告であった。

 

「はい、魏延将軍と関羽殿のお力にて。領民達を城に収容している最中に

 

 五胡の軍勢が迫って来たのですが、お二人が一気に百人近くの兵を葬る

 

 と奴らは算を乱して逃げていった次第です」

 

 報告する守将のその言葉を聞いて白蓮と星は合点がいく。

 

「そうか…確かにその二人の力があればな」

 

「しかし焔耶はともかく愛紗が勝手に行動するのは問題では?」

 

 星のその質問に、

 

「愛紗は桃香達に付き合って幽閉先にいただけであいつが流罪だったわけで

 

 はないから問題無いだろう」

 

 白蓮はそう明快に答える。実はそれは星も内心そう思っていた事なので、

 

 安堵した表情で引き下がった。

 

「しかし桃香達には借りを作ってしまったな。何か礼をしなくてはならんな」

 

 白蓮がそう呟くと、

 

「ならば本日を以て桃香殿達の謹慎を解くというのはどうです?確かその事

 

 については伯珪殿に一任されていたはず」

 

 星がそう進言する。

 

「おおっ、そうだな。私も桃香達があのままではもったいないと思っていた

 

 んだ。早速にそう知らせよう」

 

 

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「私達の謹慎が解かれるの?」

 

 白蓮より本日ただいまを以て謹慎を解くとの言葉を聞いて劉貞は目を丸く

 

 していた。

 

「何だ、桃香は謹慎していたかったのか?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど…やけにあっさりと解かれるんだなぁと

 

 思っただけで」

 

 劉貞のその言葉に白蓮は苦笑いを浮かべながら言う。

 

「実を言えば『劉備』が処刑された時点でほぼお前達の処罰は終わったよう

 

 なものだったんだ。お前達がそれでは納得しなさそうだったんで北郷が私

 

 の所に謹慎という名目で預けただけなんだよ。だから私が『許す』と言っ

 

 たらそれで終わりってわけだ」

 

 白蓮のその言葉に三人共開いた口が塞がらない状態だった。

 

「それじゃ、もしかして私達が外出したいとか言ってたら…」

 

「ああ、監視付きにはなるが別にダメだと言うつもりは無かったぞ」

 

「うが〜〜〜〜〜っ!だったら鈴々達が家の中でじっとしていたのは何だっ

 

 たのだ!?」

 

 張飛がそう喚くと、

 

「おや?鈴々は自ら反省して屋敷に引き籠っていたのではなかったのか?私

 

 はてっきり鈴々も自分の行いに反省しきりなのだなぁと感じ入っていたの

 

 だがな」

 

 星がそう言い返す。それには張飛も押し黙るしかなかった。

 

「はは、星もあまりいじめるなよ。まあ、そういうわけでたった今より三人

 

 は無罪放免だ。どうする、これから?出来れば私の所に来てくれると助か

 

 るんだが…」

 

 

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 白蓮がそう申し訳無さそうに聞くと、

 

「こっちこそ願ったりだよ!私はともかく愛紗ちゃんと鈴々ちゃんには活躍

 

 の場が無いとね〜」

 

 劉貞はうれしそうにそう答える。

 

「何を仰いますか、桃香様こそこれから必要となるお方でございます!!」

 

 そこへ魏延がそう口を挿む。

 

「お前の場合、桃香がいればそれでいいんだろうが…」

 

「な、何を仰いますか、白蓮様!べ、べ、別に私は桃香様も出仕されるので

 

 あれば毎日桃香様のお顔を拝見出来て嬉しいなぁとかそんな事を考えてい

 

 るわけでは決してございませんで…」

 

 白蓮の呟きに魏延はしどろもどろに言い訳をしようとするが、完全に思っ

 

 ている事が声に出てしまっていた。

 

「ははは…ええ〜っと、ありがとう焔耶ちゃん…でいいのかな?」

 

 さすがに劉貞もこれには苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「まあ、それはともかく…それじゃ、三人共これからもよろしく頼む」

 

 白蓮はそう言って頭を下げる。

 

「伯珪殿、一応これからは正式にあなたが皆の主なのですからそう簡単に頭

 

 をお下げにならない方が良いと思いますぞ?」

 

「そ、そうか?星がそう言うのなら…でも、北郷も何時もこんな感じだった

 

 しな…」

 

「あの方は少々おk…特別なのです。あなたがそこまで真似ずとも」

 

 星と白蓮がそんな会話をしていたその時、劉貞が疑問を口にする。

 

「ねぇ、確か北郷さん達って曹操さんの所を攻めてるんだよね?白蓮ちゃん

 

 は援軍に戻らなくても大丈夫なの?」

 

 

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「あっ…そうだな。こっちを攻めていた五胡が撤退した以上、向こうへ戻る

 

 べきだな…」

 

「しかし伯珪殿、兵達は半ば不眠不休でここまで戻って来て疲労困憊ですぞ。

 

 このまま戻る事もままなりません。一旦休ませませんと」

 

 白蓮の言葉に星がそう進言して押し止める。

 

「それもそうか…では二日休んだ後、改めて冀州へ取って返す事にしよう」

 

「白蓮ちゃん、それ私達も同行させてもらえないかな?」

 

 突然劉貞がそう言い出したので皆驚く。

 

「桃香様、あなたが危険な戦場へ出向く必要はありません!代わりにこの私

 

 が参ります!」

 

 魏延がそう進み出るが、

 

「そうは言うが焔耶よ、向こうに行ったら北郷殿がいるぞ?平気なのか?」

 

 星にそう言われて言葉に詰まる。

 

「うっ、それは…でも桃香様を危険にさらす位なら私が身代わりに…」

 

「おい焔耶、それじゃまるで北郷が桃香に襲い掛かるみたいに聞こえるぞ」

 

 魏延の言葉に白蓮がムッとした顔で即座にそう言う。すると、

 

「おや、珍しい。伯珪殿が即座に北郷殿の事を庇われるとは。もしやとは思

 

 っていましたが、まさか…」

 

「な、何を言ってるんだ星!私は別に北郷の事を…」

 

 即座に星にそうツッコまれ、白蓮は言い繕おうとしたがそう言おうとする

 

 白蓮の顔は真っ赤になっていた。

 

「まあ、伯珪殿のかなわぬ想いの行方はともかく『おい、何だそれ!』北郷

 

 殿は嫌がる者を無理やりにという事をされる方ではないから安心しろ」

 

 星は白蓮の叫びを聞き流しつつ魏延にそう告げる。

 

 

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「そうだよ、北郷さんは例えこっちがその気になってもそういう事をしよう

 

 とはしない人なんだから!」

 

「その気になってって…まさか桃香も?」

 

 劉貞の言葉に白蓮がそう呟く。その言葉を星が聞き逃すはずもなく、

 

「ほう、『も』と言う事はやはり伯珪殿は北郷殿の事を…」

 

「えっ!?…い、いや、そのだな…ああっ!そういう話はどうでもいいんだ!

 

 今は桃香達を連れて行くかどうかの話だろう!」

 

 即座にツッコもうとするが、白蓮は無理やり話を戻す。

 

「そういえばそうでしたな。まあ、私としては特に問題は無いかと思います

 

 が…あくまでも判断するのは伯珪殿ですので」

 

「結局はそうなるんだよな…私個人としては賛成したい所なんだが、向こう

 

 には桃香の顔を知っている奴も多いだろう?一応『劉備』は死んだ事にな

 

 っている以上、そういう所に行くのは…まさか『顔がそっくりなだけの別

 

 人です』とか『生き別れになった双子の妹』ですとかいうわけにもいかな

 

 いだろうし、少なくとも桃香を行かせるわけにはいかないだろう」

 

 白蓮はそう言い切る。そこへ、

 

「ならば、桃香様の代わりに私が参ります。私であれば問題は無いはず」

 

 関羽が進み出てそう告げる。

 

「確かに愛紗なら…よし!星、お前が愛紗を連れて冀州に向かってくれ。私

 

 は焔耶と共にこっちの混乱の収拾とさらなる五胡の襲来に備える。桃香は

 

 鈴々と一緒にここで私の手伝いをしてくれ」

 

「う〜〜〜っ、愛紗ばっかりずるいのだ!鈴々も冀州の方に行きたいのだ!」

 

 白蓮の言葉に張飛がそう噛み付く。

 

「鈴々、ここにいて五胡の襲来に備えるのも立派な仕事だ。それにお前には

 

 桃香様を守ってもらわなくてはならない…頼む」

 

 関羽がそう頭を下げるとさすがに張飛もそれ以上は何も言わなかった。

 

 こうして星と関羽とで冀州へ向かう事となったのであった。

 

 

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 場所は涼州へと変わる。

 

 ここは既に五胡の軍勢が深く侵攻してきており、留守居の者達は領民を城

 

 に収容して立て籠もるので精一杯の状況となっていた。

 

 全員が『馬騰様達が戻られるまでは何とか』という気持ちで支えていたが、

 

 数日を過ぎてもそういう前触れも感じられず、疲労と焦燥感が皆の心の内

 

 を徐々に蝕み始めていたのであった。

 

「姜維殿、こちらでしたか」

 

 書庫の中で考え事をしていた彼女に声をかけたのは?徳であった。

 

「お姿が見えませんでしたので少々心配になって探しておりました。このよ

 

 うな所で何をなされているのです?」

 

 そう聞いてくる?徳に姜維は呟くように答える。

 

「いや、どうしたらこの状況を打開出来るかと考えていましてね」

 

「打開…?我々は馬騰様達が戻るまでこのまま立て籠もっているしかないの

 

 では?」

 

 ?徳のその疑問に呆れ気味に視線を送りながら姜維は答える。

 

「本当にあなたはこのままで持ちこたえられると思っておいでか?」

 

「………うっ、それは」

 

 姜維のその言葉に?徳は何も言い返せない。何故なら彼自身もそう思って

 

 いるからだ。

 

「それが分かっていながらあなたは何も考えないのですか?」

 

「私とていろいろ考えてはいるのですが、何分兵達の士気が低いのが問題で

 

 して…まずはそれを如何にすべきかが」

 

 そう言って?徳はため息をつく。

 

 

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「それを打開する方法がないではないですがね」

 

「何と!?そのような方法があるのですか!」

 

「だがそれを行うにはあなたの力が必要です」

 

「私の…?」

 

 姜維の言葉に?徳は首をかしげる。

 

「ああ、あなたに少々頑張っていただければ成功するはずです。やっていた

 

 だけますか?」

 

「私などでお役に立てるのであれば」

 

「本当ですね?これは提案した私が言うのも何ですが難しい仕事になります

 

 よ。やめると言うのなら今の内です」

 

 姜維はそう言ってじっと?徳を見つめる。

 

 その視線に少し気圧されながらも?徳は答える。

 

「私とて男です。一度口にした以上それを撤回する事はありません」

 

「そうですか、確かにその言質はいただきました。それでは…」

 

 その答えに姜維はにやりと笑いながら?徳に指示を出す。

 

 それを聞いた途端、?徳の顔色はみるみる内に青ざめる。

 

「ちょっ、そんな、まさか…」

 

「あなたは自分でやると言ったのです。それともあなたはこれからも逃げ続

 

 けるおつもりですか?それではあなたは馬騰殿の期待すら裏切る事になり

 

 ます。そんな程度なら一族が何を言おうが武官などやめてしまえばいいの

 

 です。あなた自身が本気でやめるつもりがあるのでしたら如何様にも方法

 

 はあるはずです。本当はあなたはどうしたいのです?人に腰抜けと言われ

 

 ても武官をやめないのは武人としてのお気持ちがあるからではないのです

 

 か?まあ、最終的に決めるのはあなたですけどね。ただ、あなたが本気で

 

 事を行おうとするのであれば、私はそれを補佐する用意はあります」

 

 姜維のその言葉に?徳はうつむいたまま考え込む。そして、

 

「…正直、怖くて仕方がありません。でも、ここで逃げたら本当に負けです

 

 よね…分かりました。自分で言い出した事でもありますし、粉骨砕身励ま

 

 させていただきます」

 

 そう言った?徳の眼には確かな輝きがあった。そしてそれを感じた姜維は

 

 嬉しそうな顔でそれを見つめていた。

 

 

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 場所は変わり曹操討伐連合軍の本陣。

 

「今の所、夏侯惇に動き無しか…」

 

「どうやら夏侯惇は本当にこちらが動くのを待ち構えるつもりのようですね」

 

 俺の呟きに朱里がそう答える。

 

「でも、事ここに至ったら作戦は失敗したとか思わないのか?」

 

「多分あの人は律儀に曹操の言う通りにしているのでしょう。そして曹操は

 

 郭嘉の作戦の成功を待って動くつもりかと」

 

「それじゃ、こっちはどうするんだ?燐里達の応援に行った方がいいのか?」

 

「それは既に手を打ってありますので大丈夫です。私達はこのまま待機して

 

 後は雪蓮さん達の方が成功次第、行動を開始します」

 

「なるほど、こっち方が数は多いわけだし幾らでも手は打てるって事か」

 

「それに幾ら連合とはいえ、我々も完全に足並みが揃っているわけではあり

 

 ません。ならばそれぞれに指揮させた方が作戦的にはうまくいくかと」

 

 朱里のその言葉に俺は少々呆れ気味に言葉を返す。

 

「やれやれ、足並みの乱れすら策に取り込むとは…さすがは諸葛孔明殿」

 

「…実を言えばこれは、おばあ様…張良様が項羽との戦いで執った戦術なん

 

 です。あの時も連合とはいえそれぞれ独立した勢力である韓信さん達に自

 

 由に指揮を執らせて自分達は劉邦本隊のみ固める事で、項羽軍に隙を作ら

 

 せずに追いつめたとおばあ様から教わりました。今回はそれを真似ただけ

 

 なんです」

 

 朱里は舌をペロッと出しながらそう言った。

 

 やれやれ、西楚の覇王に対して行った方法を今度は魏の覇王に対して行う

 

 ってのか…まさか向こうも敵の軍師があの張良の弟子だなんて夢にも思わ

 

 ないだろうな。だが戦は始まったばかり、まだまだ気は抜けないな。

 

 俺はそう思いながら改めて気合を入れ直した。

 

 

 

                                          続く。

 

 

 

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 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 少々中途半端な展開で終わってしまい申し訳ございません。

 

 あれやこれやと考えていたら全て収める事が出来なくなってしまいました。

 

 どうにもうまくいきません…。

 

 というわけで、次回はこの続き…雪蓮達の執った作戦や涼州方面の戦いの

 

 お話をお送りする予定です。

 

 その後に曹操軍との一大決戦の予定です。あくまでも予定ですけど…。

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ三十一にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 

 追伸 おかげさまで初投稿より一年が経過しました。ここまで続けてこれた

 

    のも、応援してくれている皆様のおかげでございます。つたなき駄文

 

    ではございますが、これからも頑張っていく所存ですのでよろしくお

 

    願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

説明

 お待たせしました!

 それでは今回より曹操軍との本格的な戦闘の開始です。

 何やら稟さんが作戦を立てているようですが…。

 それにどのように対していくのか?

 そして雍州や涼州のお話も絡めていく予定です。

 それではご覧ください。
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コメント
不知火 観珪様、ありがとうございます。風さんの所の動きは次回か次々回にてお送りします。?徳は次回に覚醒の時が…お楽しみに。(mokiti1976-2010)
風ちゃんのところの戦線が気になりますね…… ?徳さんもそろそろ孵化しそうですし、これまた続きに期待ですね!(神余 雛)
yoshiyuki様、再びありがとうございます。確かにそういう効果は期待出来るでしょうが…そういうのは麗羽さん一人でやろうかなぁとか…実際桃香さんは白蓮さんとお留守番ですので。(mokiti1976-2010)
桃香さんは麗羽様と一緒に、官軍(討伐軍)の先頭にいて「逆賊曹操を打ち取るのです」(高笑いしながら)とかやると、キレて突っ込んで来る人が居そうな気もしますね。(yoshiyuki)
ataroreo78様、ありがとうございます。あまりにも朱里の能力が眩し過ぎたのでしょうね。結局はそれに寄り添うか反発するかしかなかったという事ですね。(mokiti1976-2010)
きまお様、再びありがとうございます。…ここでそういう事を口走ると孔明の罠に落ちるのです。ちなみに貧乳党党首は桂花さんですよ。(mokiti1976-2010)
神木ヒカリ様、ありがとうございます。朱里による下半身の再封印がうまくいけばいいのですが…どうやら今その儀式を決行中との事です。でも成功の確率は良くて三割ではないかと。(mokiti1976-2010)
結局、今外史で暴走した連中は朱里の光に当てられて己を見失ったんですよね。光強ければ影もまた・・・か(ataroreo78)
yoshiyuki様、ありがとうございます。そうですね…一割どころか一厘位でもあれば違ったのでしょうが。そして…桃香さんのそれはアニメ版でのやつですね。さすがにそれで騙される面々はいないのでは…多分。(mokiti1976-2010)
↓神木ヒカリさん、阻止どころかもっと作ってくれ!そのほうが話が面白く(以下貧乳党党首による血まみれの自主規制(きまお)
やはり桃香も一刀争奪戦に参戦することになるのか。 朱里ちゃーん、一刀のハーレムをなんとしても阻止してくれー。(神木ヒカリ)
嫉妬ですか、なまじっか才能が有り自尊心が高いばかりに。“白蓮”さんの半分いや、一割でも謙虚さがあれば。(爪の垢でも煎じてみようか?)桃香さんは、星の仮面を被れば某歌姫のお姉ちゃんと間違えやすいというネタをどこかで?(yoshiyuki)
一丸様、ありがとうございます。私も原作キャラの軍師の中では朱里の次に風が好きだったりします。活躍は次回以降にて。そして命さんの登場はもう少々お待ちください。(mokiti1976-2010)
NEOじゅん様、ありがとうございます。嫉妬を乗り越えた者とそうでない者との違いといった所でしょうか?風にとっては自分が目立つ事はあまり重要ではなかったようです。(mokiti1976-2010)
きまお様、ありがとうございます。姜維の覚醒の結末は次回で…書けるといいなぁ(オイ。そして種馬の周りにはそういうものが常に形成されるようです。(mokiti1976-2010)
ハーデス様、ありがとうございます。確かにそれはあまりカッコいいお姿ではないですね。戦いの続きはもう少々お待ちください。(mokiti1976-2010)
氷屋様、ありがとうございます。自分の知力に自信があったからこそ余計に朱里の能力に対する嫉妬が高まったようで…そして風VS稟の戦いは次回以降にて。(mokiti1976-2010)
風がかっこいい!!風も結構上位に食い込む好きな恋姫なんですよねえ〜〜もっともっと、活躍といたずらをしてほしいですww・・・ではでは、続き楽しみに待ってます。・・・・・・・・・・・・PS.命は!?(一丸)
嫉妬。人の業とも呼べる7つの大罪の1つですね。多分、風も凛と同じで朱里に嫉妬していたかもしれませんねー。でもそこから先に思った感情がそれぞれ違ったのかな?(じゅんwithジュン)
個人的には主役級であるかりんたんよりも、他の面々の結果が気になりますね。覚醒したまひろとか鼻血さんとか。・・・( ゚ー゚)( 。_。)うんうん、徐々に(女性陣による)一刀カオス網が構築されつつありますね。ハムさんも参加?してるし。戦?なにそれ美味しいの?(きまお)
Shit!!! 凛までもが朱里に嫉妬していたなんて…あのカッコ良くて常に冷静で、風の尻拭いをして妄想膨らまして鼻血のアーチを作っていた凛は何処へ行ってしまったのか?あれ、あんまりカッコよくないか?とにかく次の決戦、そして結末大いに期待大です。早く読みたいな〜。(ハーデス)
天の国の知識を得てパワーアップしすぎた朱里の神算鬼謀ぶりに思わぬ弊害がでてしまっているんですねい、さてさて、風と凛の対決はどうなるか楽しみです(氷屋)
h995様、ありがとうございます。人は嫉妬に取り憑かれると完全に一人よがりになってしまうのです。さて、どうなる事か。(mokiti1976-2010)
牛乳魔人様、ありがとうございます。そうか、そういう手があったか…すみません、特に捻りも無く、本当に秋蘭の軍勢ですので。(mokiti1976-2010)
やはり嫉妬と言うものは怖いですね。中華に誇る稀代の賢人を知恵の回るだけの愚物に変えてしまうのですから。(h995)
やってきた「夏」の軍勢は本当に稟の味方なのだろうか・・・(牛乳魔人)
ヒトヤ犬様、ありがとうございます。稟さんは少々自分の名を売る事にこだわり過ぎた所があるのです。さあ、これから風はどうするか?(mokiti1976-2010)
M.N.F様、ありがとうございます。そうやる気さえ出せば…それを姜維が考えるという事なのです。(mokiti1976-2010)
本当に大陸を平和にするのが目的なら別に補佐でも何も問題は無い、いつの間にか目的が「自分が活躍した上での平和」に変わってたんだね(親善大使ヒトヤ犬)
?徳はやる気さえ出せば関羽と五分で渡り合える武将。やる気さえあれば・・・(M.N.F.)
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