ひねくれた話
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寒さも和らいだ3月。暖かな風が吹いていた。

はじまりもこんな日だったのかなと思いを馳せつつ、狙撃手は目を閉じゆっくりと草原に身を倒す。

地面から感じる温もりを肌で感じていると、新芽の香りが鼻をくすぐった。

 

もう春だなあと心地よく微睡んでいると腹を思い切り誰かに踏みつけられ、あたりにカエルが潰されたような声が辺りに響く。

踏まれた狙撃手が目を白黒させ飛び起きると、呆れたような表情の白い盗賊と目があった。

 

「なんで寝てんだよ」

 

そう言いながら首もとの布を掴まれ無理矢理身体を立たされる。

もうみんな集まってるぞと叱責されたので視線を明後日の方向に飛ばしたら、全くと頭を小突かれた。

 

「せっかく企画したんだから素直に来い。ちゃんと時間決めないと一生揃わないんだからな」

 

そう言って盗賊は狙撃手の手を引いた。

行くぞと誘うように。

狙撃手は気分が乗らないと露骨に顔に出しつつ、引かれるままに歩みを進めた。

仲間たちが待つ会場へ。

 

 

今回は一同が会するちょっとした話。

個々に差はあり、そうでないのもいるにはいるが、

きまぐれ・気分屋・マイペース

三拍子揃った風属性の面々が、珍しく揃ったときのお話。

 

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盗賊に手を引かれグイグイ引っ張られている現状抵抗しても無駄だと諦め、狙撃手はちゃんと行くから手離して貰えますかと訴えた。

そう簡単には離してもらえないだろうという予想とは裏腹に、あっさりと手は離され盗賊は跳ねるようにくるりと向きを変える。

向かい合うような形になったがふたりとも歩みを止めず、そのまま会話が交わされた。

 

「楽しそうにしろとは言わねーが、もうちょいどうにかしろよ」

 

そんな不満か?と盗賊は少しばかり寂しそうな表情を浮かべた。

目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。マスクで口元が覆われているのにも関わらず、感情の変化がわかりやすい。

そんな表情をさせるつもりはなかった狙撃手は、目を逸らしつつ口元に手を当て言葉を紡ぐ。

 

「…いえ、気分がのらない→時間がくる→用意してない→面倒くさい→時間が過ぎる→遅刻で、怒られるだろうなと思うとなおさら面倒で気分がのらないなあと」

 

神妙な面持ちで語る狙撃手をみて、盗賊は「お前は真面目なんだか阿呆なんだかわかんねぇな」と呆れたように笑った。

狙撃手が真面目ですよ?と小さく笑って返せば、盗賊は真面目なヤツは自分から真面目だと申告しねーよとケラケラ笑う。

 

「真面目に不真面目やってます」

 

狙撃手がにこりと微笑みながら言い放つと、盗賊は一瞬呆気にとられたもののすぐに大きな声で笑い、狙撃手の頭に手を乗せて、ガクガクと乱暴に撫で回した。

愉快で仕方がないというように。

 

「いい顔出来んじゃねーか、そのままでいろよ」

 

思い切り撫で回したあと、狙撃手の肩に腕を回して組み、逆の手で前方を指差した。

差された先には木々に囲まれた小さな広場。そこから賑やかな声が溢れている。

 

序章の風属性が中心となって企画した風属性だけが集められた花見。

その目的地に到着した。

 

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ふたりが会場に入るや否や、シュッという風を斬る音とともに、怒号が飛びかかってくる。

 

「遅っせえぇぇええ!!」

 

狙撃手は慌てて頭の側面に手を出し防御した。ガッという音を響かせ腕から身体に鈍い衝撃が伝わる。

狙撃手の頭を狙った見事な蹴りは残念ながら当てるに至らず、しかし恐怖を与えるには十分な気迫を纏っていた。

 

あ、やべぇ。

マジだ。

 

すんでのところで防いだが、殺意を隠さず放たれた蹴りを受け、狙撃手は「ああほらやっぱ怒られる」と泣きたくなる。自業自得という言葉は聞こえない。

蹴りを放った祭司はというと、器用に片足で立った状態でもう一度「遅い」と言葉をぶつけた。今度は静かに冷たく、圧力のある声だった。

この人こんな声出せるんだとか、てかこの人怒るんだとか割と当たり前なことを今更ながらに認識し、もう帰りたいと目が泳ぐ。

そんな狙撃手をみて、祭司はゆっくりと脚をおろした。

 

「俺が、全員集めるのに、どれだけ、苦労したと、思ってる」

 

一言ひとこと噛みしめるように祭司は言葉を吐き出す。

召喚を駆使し、人脈を駆使し、世界の端から端まで渡り歩いたらしく、祭司からは若干疲労の色が伺えた。

まあまあと盗賊が間に割り込み宥めると、祭司はちらりと後ろに目線を送って小さくため息をつく。

 

「…あいつとか、凄く、大変だった」

 

祭司の視線の先には、赤い髪で首に赤いマフラーを巻いた月の一族末弟が談笑している。ふたつの守り玉を召喚し、ふわふわ漂わせながら不思議な物語を皆に語っていた。

地獄へ行って剣を取り返して兄たちの仇をとった冒険譚。3Dダンジョンはしんどかったと頬を掻く。

 

「コマンド知ってからはすぐ会えたけど! もう!ほんと!泣くかと!思った!」

 

当時の苦労を思い出したのか祭司は割と涙目で狙撃手の服を掴んだ。ランダム出現レアドロとかマジやめろ、と小声で呪詛に近い言葉を吐き出す。

 

「僕に言われても」

 

「お前も苦労したわ!」

 

祭司は狙撃手の服を掴んだまま声を荒らげた。己が参戦するまでの面倒くささは自覚している。

面倒事にはなるべく関わりたくないもんで、 と言い訳したら盛大なため息をつかれた。

 

「…一応な、面識があれば喚べるんだよ。それを、召喚を、蹴りやがって」

 

ああ、と狙撃手は召喚されかけた時のことを思い出す。

風属性花見会があるから来いと連絡を貰い、面倒だからと完全に流していた。

連絡を放置ししばらくして、ふと嫌な風を感じ、なんとなくひょいと移動したその刹那。先ほどまで自分がいた場所にピカピカ光る召喚陣が現れていた。

召喚対象がおらず若干戸惑ったように光る召喚陣。しかし触る気になれずぼんやり眺めていたらそのまま消えた。

カード読み取り失敗って多分こんな感じ。

 

「召喚出来なかったときのあの絶望感、お前にわかるか」

 

「いえ全く。…一方的に喚びつけるとか酷くないですか」

 

そう言ったら杖で脳天に一発くらった。

祭司は狙撃手に連絡もスルー、召喚もスルーした理由を問う。「そういう気分じゃなかった」と答えたら「殴るぞ」と怒鳴られてまた一発くらった。

もう殴ってるじゃないかというベタな突っ込みは口に出さないほうが多分賢いだろうなと思う。

 

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「アノ…」

 

まだ何か言いたそうな祭司の背後から、おずおずと少し機械的な声が響いた。

声のした方に顔を向けると、空色の体をした小さな天使がふよふよと浮いている。

仮面で顔を覆っているから表情は全くわからないが、声色と動きから少しばかり困っているかのようだ。

どうした?と祭司は先ほどとは打って変わって穏やかに声をかけた。ついでに天使の頭をぽんと撫でる。

ふたりは二三言葉を交わし、祭司はやれやれと頭を掻いて「わかった」と呟いた。盗賊の方を向き直り広場の奥を指差して言う。

 

「食べ物が足らないそうだ、手配しとく」

 

「おう、よろしくなー」

 

盗賊がそう答えると祭司は足早に歩みを進め、天使もその後を追うようについていく。

すると急に祭司がピタリと止まり、くるりと狙撃手の方を振り向いて「帰るなよ!」と声をかけた。

わざわざ言わんでも、と狙撃手はそっぽを向く。しかしまあ珍しい組み合わせだな。

ポツリと呟くと盗賊が笑いながら説明した。

 

「2章は風属性少ないだろ?だから来たばかりのときは兄弟揃ってロック鳥にくっ付いてたんだ」

 

カエルとツボ抱えて、と盗賊はほのぼのしたように語る。来たはいいがどうしていいのかわからず、とりあえずデカいのにくっ付いてたんだろうなとまた笑った。

 

「だけどロック鳥が鳥竜たちのとこに寄ってっちまって、カエルもカエルで集まったから」

 

放置されてオロオロとしはじめたらしい。

天使兄弟がぽつんとしていたら「あのモフモフしたのと知り合いか?」と雷鬼や風鬼たちが近寄っていき、天使兄弟を介して羽毛や毛皮と戯れる会が発足したそうだ。

だからあの辺賑やかなのかと狙撃手はそちらに顔を向けた。でかい体躯のドラゴンや雷獣の上に数人が乗ってはしゃいでいる。

 

「…あれ?じゃあなんで天使兄弟の兄の方は手伝いやってんですか?」

 

「バタバタしてんのに気付いた兄貴が自主的にお手伝い」

 

よい子だなと感心していると、ああいうのを真面目って言うんだと笑われた。いやだなぁぼくも真面目ですよ?

にこりとお互い笑いあう。…と、狙撃手は指折り数えて気付いた。

 

「2章には風属性がもうひとりいませんでしたか?」

 

「ああいやあいつは、」

 

盗賊が言葉を濁しつつ口をひらいた瞬間、狙撃手は背後からものすごい力で抱きしめられた。

完全に不意をつかれて思考が停止する。抵抗すらするのを忘れ、狙撃手は軽くパニックに陥る。

 

狙撃手を背後から羽交い締めにしている本人が、「アタシのお話?」と嬉しそうに楽しそうに声を降らせた。

不自然に甲高い声だった。

 

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声をかけられて狙撃手は背後にいる者の正体に気付く。

まあチラチラ視界に入るゴツい腕やピンク色の毛を見れば、…というか男に対しこんなことするやつは風属性ではひとりしか思い当たらない。

 

助けを求めるように隣にいた盗賊に目線を向ければ、引きつった顔で若干距離をとられていた。

仕方ないと少し顔を上げ、自分を拘束している相手に苦痛を訴える。

 

「…苦しいんで、離して、もらえます、か」

 

「えぇー?嫌よぅー」

 

もう来ないかと思ったものと獄卒はニタリと笑う。本人的にはにこりと笑っているのだろうが、捕食者特有の「狙った獲物は逃がさない」臭を読み取ったせいでニタリと笑ったようにしか見えない。

 

「あとー、祭司様が『放っといたら帰るかもなぁ』と仰られてたし。 …逃がさないわよぅ?」

 

ド畜生。

引きつった表情で、どうやったら離してもらえるかと思案していると、狙撃手の身体が妙な音をたてはじめた。

待って、なんで力込めるの。なんでますます力込めてるの。

羽交い締めにされた身体からミシミシと軋む音が響く。凄い力で圧迫され、血の巡りが悪くなってきたせいか視界がかすみ、なんか、うまくいきが、できな、

 

 

「あー…、顔色ヤバくなってきたから緩めてやってくれねーか?」

 

「あらやだ」

 

ぐったりしはじめた狙撃手をみて獄卒はほんの少し腕を緩めた。

逃がさないと思ったらつい力がはいっちゃったわ、と獄卒は笑う。尻尾は楽しそうに揺れていた。

こいつには逆らうまいと盗賊がドン引きしながら、それを表に出さぬよう「行くか」と誘うと、はーいと明るい返事をし、獄卒は狙撃手を抱えたままトコトコと歩き始める。

 

なんでそこまでがっちりと拘束するのかと盗賊が問えば、獄卒は「アタシ紅一点だもの!ハーレム要員は多いほどいいわ」と嬉しそうに微笑んだ。

突っ込みたい箇所は多々あるものの、盗賊は「紅一点…?」と不可解そうに呟く。

そのひとことを聞き逃さず「なに?」とキッと歯を見せあからさまに威嚇する獄卒に曖昧な笑顔を返し、盗賊はこっそりと重い息を吐き出した。

 

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皆の集まる輪の中に連れ込まれて、狙撃手はようやく拘束から解放された。

集まっているとはいえ数個のグループに分かれており、獄卒も盗賊も呼ばれた別のグループへと移動していく。

ひとりになった狙撃手は息を吐き出しつつペキペキと骨を鳴らし呟いた。

 

「苦しかった…」

 

「まだ顔色悪いな、ほれ飲め」

 

ふらっとやってきた雷神にほいと杯を渡され神酒を注がれた。喉が渇いていたのもあり、狙撃手は杯を一気にあおる。

ふうと一息つくと、すぐさま空の杯に神酒が足され笑顔で飲めと促された。

今度はチビりと少量を口に含み舌の上で転がし味を楽しむ。

 

「普段も分けてくれればいいのに」

 

狙撃手はポツリと呟いた。美味しいし、回復するし、攻撃力も上がるしと毎回チーム全員に振る舞われれば使い道も広がるのに、と。

 

「毎回分けるなど勿体無いだろう?」

 

普段の厳しい表情はどこへやら、へらりと笑って雷神も己の杯をあおる。「甘露甘露」とすこぶるご機嫌なようだ。

敵に回れば己ひとりでグビグビと酒を飲みまくる神様だったことを思い出し、狙撃手も諦めてまたひとくち口に含んだ。

 

「元よりこの神酒は栄養と英気を与え、寿命を延ばすと言われておる。正に神酒」

 

はあ、と狙撃手は雷神の好物自慢に耳を傾ける。

好きすぎて飲み過ぎて酔っ払って暴走し、雨神や他の神たちの持ち物を破壊しまくったと風の噂では聞いたが定かではない。

 

「同時に興奮作用もあってな、戦場で重宝する。…ここぞというときに無いと困るだろう?」

 

雷神は酒を杯で飲むのやめて、直接瓶から神酒を流し込んでいた。

美味しそうに喉を鳴らし、それに合わせて物凄い勢いで瓶の中身が減っていく。あまりの飲みっぷりに、狙撃手が口に含んだ酒を忘れて見とれていると、酒を飲み干した雷神はぷはっと気持ちよさそうに息を吐いた。

超笑顔。

 

「まあ、幻覚みたり異様に高揚するから麻薬でも入ってんじゃないかとは言われとるがな!」

 

狙撃手は思わず含んでいた酒を吹き出した。

雷神は勿体無いと笑いながら「いや実際な?大麻入った酒供えられたりな?しとったぞ?」と事も無げに語る。

口元を拭いながら狙撃手は己の持っている神酒が注がれた杯を見つめた。大丈夫かこれ。

 

「これは大丈夫だ」

 

そんな狙撃手の心を読んだかのように、雷神はニッと笑って断言した。

本人が大丈夫だと言ってはいるし、大丈夫だとは思うが、本人を見ているとあながち大丈夫でもないかもしれない。

 

若干の危機感を覚えた狙撃手は今ある神酒を急いで飲み干し、雷神に挨拶をして彼から離れた。

 

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雷神から離れた狙撃手はふらりと広場内を見て回る。同じ章出身で固まっているかと思いきや、よくよく見ればかなり混ざり合っており、また頻繁に面子が入れ替わっていた。

風の気質の高いものは、ひとところに留まるのを嫌がると言われたりするが、その通りなのだろうか。

自分は基本的に森の中に引きこもってるからなあと狙撃手は不思議そうに小首を傾げる。毎日広い森の中を、特に理由もなく縦横無尽にウロウロしている自覚は無いらしい。

森の奥や木の上、近くの平原と狙撃手の行動範囲はかなり広く、毎回違うとこウロウロしてるなと周りから認識されているのだが。

 

 

思案しながら会場内をぼんやりと歩き回っていた狙撃手のすぐ横で大きな声が聞こえた。驚いて、思わずそちらに顔を向ける。

 

「だから!そろそろ魔界吟醸くれよ!」

 

「小童が何を言う」

 

噛みついているのは緑色の鎧を身にまとった竜騎士。酒を片手に魔王に苦言を呈していた。

元よりこの魔王は比較的接しやすく、狙撃手も幾度も会いに行っている。テリトリー内を荒らさなければ基本的に無害であり、ただの緑を愛するおじいちゃんだ。

魔王にこういう表現をするのも違和感があるが狙撃手は彼を「良い魔王」と認識していた。邪神も我が森LOVEな思考が変わらないあたり、この人に任せておけば世界に何かしらあったとしても、あの森が一番安全な場所になる気がする。

そんな魔王ではあるが、面と向かって堂々と文句を言われている場面に出くわすとやはり驚く。狙撃手は成り行きを見守ることにした。

 

「何回挑んだと思って…、ミラーマッチでドロップ率上がるなんて信じない…」

 

先ほど食ってかかったときとは違い、弱々しく落ち込んでいるような声。狙撃手は竜騎士が涙目になっていることに気付いた。

出てきてくれないこともあるし、なかなかくれないしと、愚痴をこぼす。酒の勢いもあって感情の制御が出来ていないらしい。愚痴りながらぐすぐすと顔を拭い、「最近いやにボコボコにされるし、もう疲れた」と小さく呟く。

 

「ならば何故会えるクラス数ギリギリでくる」

 

「☆4ばっかだとあっさり勝てて面白くない…」

 

竜騎士は毎回チームクラス合計10で挑み、勝つか負けるかのギリギリを楽しんでいる。同属性・同種族の狙撃手も巻き込まれて何回かチームを組んでいたからそれは知っていた。

 

「コマンド整えにくいだとか、キャパの割に重い技覚えたがるだとか、黒い方が扱いやすいだとか火力あるだとか早々に☆4になっただとか祟竜戦で黒は見たけど緑はあんま見なかっただとか、」

 

竜騎士は流れでどんどん自虐しはじめ、ポロポロと涙を落とし始めた。

 

「おれだって、おれだってがんばって、がんばっ、」

 

それでも言葉を続けるものの、しゃくりをあげる音の方が大きい。泣き上戸だろうか。

目の前でボロボロ泣かれてしまい狼狽する魔王に、狙撃手は竜騎士の首根っこを掴みながら声をかける。

 

「ちょっと借ります」

 

そのまま竜騎士をズリズリと引きずって、ドラゴンたちの集まる場所へと連れて行く。

銀竜たちに事情を説明したところ、竜たちは軽く竜騎士に頬ずりし龍神のところへと連れて行った。大事なものを扱うように。

「赤竜から竜騎士に大切にされていると聞いた」と言わんばかりの優しい扱い方だった。

竜騎士をみた龍神は彼をふわりと羽根でくるむ。ふわふわとした暖かな羽毛にくるまれて、竜騎士はすぐに寝息をたてはじめた。

あれにくるまれりゃ一発だよなあと狙撃手は周りを見渡した。ちょっと前までモフモフしていたであろう面々がそこかしこで眠っている。

頭を掻いて、狙撃手は「あとお願いしていい?」と竜たちに問う。こくりと頷いた竜たちに「よろしく」と伝えてその場を去った。

 

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狙撃手が周りを見渡せば、そこら中でダウンしている者や暴走気味な者も多々見受けられた。

気分がのればそれに身を任せるタイプが多いせいかペースが早い。同属性で集まっているのも原因のひとつだろう、ストッパーがほとんどいない。

テンションが上がれば上がるほど凄まじいノリになっているようだ。

 

その最たるものが今目の前で行われているやつだな、と狙撃手はステージを見上げた。

鴉天狗が音楽を奏で、吟遊詩人が詩を歌い、舞将が踊って、蝶が舞う。

ダンスショーとでもいうのだろうか。ステージ下で音楽に合わせ身体を揺らす面々も楽しそうだ。

 

「娯楽に困らないうちの属性どうなってんだ」と狙撃手は軽く頭を掻いた。体力が低めだったり火力が足らなかったり技に癖があったりと、戦闘であまりパッとしない割にはこういうことに困らない。

音楽や酒や踊り、東国出身者が多いせいか特有の料理や食材も入手できる。あとは絵描きか作家でもいれば完璧なんじゃないだろうかとぼんやり思った。

 

「いやはや、舞将殿は見事でござるな!」

 

斬将が手をくるくる回しながら同意を求めてきたので、狙撃手は頷いてステージに目を向る。リボンを持ってくるくる回る姿は目に楽しい。

 

「拙者もあれくらい出来れば楽しいでござろうなー」

 

同意を得て嬉しかったのか、斬将はニコニコとその場で回った。が、慣れぬせいかバランスを崩し前のめりによろける。狙撃手は慌てて斬将を受け止めた。

身体を支えられた状態のまま、斬将は「ふむ、やはり難しい」と呟いて顔をステージに向けた。いまだにくるくる回っている舞将の体の作りはどうなっているのかと思案しているようだ。

 

「拙者も鎌を使って紙を斬りまくったり切り絵をやったでござるが、やはり舞は華やかさが違う」

 

ステージから目を離さず、斬将は楽しそうに語る。というかやったんだ切り絵。

芸達者だなと狙撃手が思っているのも知らず、斬将はニコニコしながら言葉を続ける。

チームを組んだことはなかったしお互いの技を考えると今後もあまり組めそうにないが、個人的には仲良くしたい、と目をキラキラさせていた。

気に入ったものには敬意を払い下心無く憧れの目を向ける。その素直さが羨ましい。

 

舞将のステージが終わった頃、斬将はようやく自ら身体を起こし狙撃手に軽く頭を下げる。そしてポテポテと舞将の方へと走っていった。

周りを見れば鑑賞していた面々もその場を離れはじめており、それにあわせて狙撃手も行く当てもなくただふらりと歩き始めた。

 

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「見っけた!」

 

明るく元気のよい声とともに狙撃手は後ろから首に腕を回される。誰かと思えば、頭にカエルを乗っけた王子がニコニコと微笑んでいた。

何でカエルを乗っけているのかと問うと、なんか親近感があるんだとカエルをポンポン撫でる。呪いでカエルになっていた影響だろうか。

 

「あと旨そうだよな!」

 

物凄い笑顔で宣言されて狙撃手はおろか、頭の上のカエルもビクッと反応する。さすがに食わないけどな、と豪快に笑いながら王子は逃げようとしているカエルをがっしりと押さえつけた。いつか食い付きそうで怖い。

割と食えそうなモンスター多いけどさと頬を掻く狙撃手に、王子は本題を切り出した。

 

「そろそろ〆らしい。皆集まってるから来い」

 

そう言って王子は、有無をいわさず狙撃手の手を引いた。表情は柔らかいが掴んだ手はがっちり固く、離す気はないらしい。

あったかいな、と狙撃手が思ったのも束の間、行くか!と王子は笑い凄い早さで駆け出した。狙撃手は速さについて行けず足がもつれる。

速すぎると訴えても、このくらい大丈夫だろとケロッと言い放たれ速度を緩めてもらえない。

すばやさ50代で成長が止まるのに90越えるのについていけるか。

 

 

半ば浮いた状態で走ったため到着するころには息があがりきり、狙撃手は王子が足を止めると同時にその場に崩れ落ちた。荒い呼吸を繰り返し、酸素を補給する。

 

「もう無理…」

 

そう呟く狙撃手をみて王子は笑う。息も切らさずケロッとしている王子を見上げて、

 

(たとえ僕が今後強くなれたとしても、王子さんのように速くは走れないだろうし腕力も得られないだろうな)

 

と少しだけ寂しく思った。

そういうものだと理解していても、やはり少しだけ悔しい。せめて体力だけでもと願うのは贅沢だろうか。

それとも、強くなりたいと願うこと自体が無駄なのだろうか。

 

(マヒ矢と毒矢で埋めてみたり、狙い撃ちで埋めてみたりしたけれど)

 

試して足掻いて抗って、追い付こうとしてみても届かない。

今のままでも十分なのだけれど、戦士の種族に身をおいている以上、もう少し強くなりたいとも思う。

 

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地面に膝を突いたまま己の手を見て軽くため息をつく狙撃手の背中に、ずんと何かが乗ってきた。

顔を向けて確認すれば、白い化粧をした黒い破戒僧。そのまま彼は手を伸ばし狙撃手の頬を引っ張った。

 

「発見ラスト組が戯れてるな」

 

と誰かが笑う。

ああなるほど、と狙撃手はマジマジと破戒僧をみた。この子は序章で発見が一番遅かったんだっけか。

狙撃手たちが戯れているのを見て、あからさまに機嫌が悪くなったのは祭司。愚痴るように言葉を紡ぐ。

 

「戦士リーダーでボス、ロボリーダーでボス。初期面子で何かしらあったんだからもっと早く気付かれても良かったのに」

 

祭司は小さな召喚士を膝に乗せたまま、どうせ当時誰も俺をレベル10にしてリーダーにしてくれませんでしたよ、と小さな召喚士の頭に顔をうずめた。

誰も来なかったから俺も暇だったな、と骸骨を被った呪師も呟く。まあ発見されたらされたで「なんで幼女引き連れてんだ」と突っ込まれたが、と己の骸骨をコンと叩いた。

なにこのひとたち、不憫。

 

「なんで最後?」

 

ようやく頬をつねるのをやめてくれた破戒僧が狙撃手に問う。

破戒僧に目線を合わせながら狙撃手は答えた。

 

「死神リーダーで聖天使出るとは思わなかった」

 

実際のところ、ふたりは関連性がないといえば全くない。即死技をつかう死神と回復技をもつ天使という、相反した存在故の組み合わせなのだろうか。

とりあえず弓矢を探して無駄に片っ端からアイテム合成していった阿呆な過去は忘れたくとも忘れられない。

なんであの聖天使は自身とはなんら関係ない矢を提供してくれるのだろうか。というか、使わないからくれるのか。

EX技であの矢を散々ばらまいている身としては多分一生頭が上がらない。

 

「まあ序章時分は探り探りだったからな」

 

と王子が懐かしそうに笑った。知ってるか?と楽しそうに序章の時を語り出す。

合体の館で未解放のドラゴンの卵がでたり、EX発動の表示効果が違ったり、EXスロットの速さが遅かったり、無駄にEX技を発動していたりと今とはかなり違ったようだ。

 

「あ、クラスチェンジでコマンドが移動に書き換えられなかったな。おかげで移動が全くない状態になったりしてた」

 

「他にも、白い女魔王はひとりで戦ってたな。今は銀竜を連れてるけど」

 

盗賊も混ざり懐かしそうに笑う。ただでさえ混乱させられてやりにくかったのに、お供がついて更に倒しにくくなったと苦笑した。

いくつかの変更点を聞いて狙撃手が驚いたのは、毒の効果だった。

序章のときは毎ターン10ダメージしか与えられず、しばらくしたら自然回復していたらしい。軽度の毒だったのだろうか。

拡散攻撃で相手に与えるEX数はひとつだったことにも驚いた。今でもそのままだったら、乱れ撃っても時雨撃っても相手に与えるEXはひとつ。

これなら相手の反撃を恐れることなく好きなだけ撃ち込めて楽しかっただろうなと思わず笑みがこぼれた。

 

「ちょくちょく変なことになったりするが、大抵序章から1章になったくらいに安定したな」

 

1章は今とあまり変わらないと王子が笑う。文字の表記が変わったり、討伐記録表が出来たり、かりモンが感情豊かになった等ささやかな変化はあるものの、基本的はあまり変わらなくなったようだ。

属性も、同属性なら100%、強ければ150%、反対側なら90%、弱ければ80%と確定し、裏属性は150%よか少し少ないくらいだと判明したのも1章になったあたり。

本当に探り探りだったと柔らかく微笑んだ。今と違うのは即死技でもダメージ表記が999だったくらいか、と王子は死神に顔を向けた。

そういえばはじめはそんな表記だった、と死神も思い出したように鎌を回す。DEATH表示になったのはいつだったか。

 

「ま、ちょくちょく変化してるってことだ。良いか悪いかはやってみないとわからないしな」

 

ある程度は受け入れる、と笑う。暴走しすぎていないのならば、改悪しすぎていないのならば、と空を見上げてどこかを見ているような見ていないような目で小さな声を風に乗せた。

 

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「変なことって?」

 

と竜騎兵が疑問を口にした。同じような疑問を持ったものは小首を傾げ、多少の事情を知っている者は微妙な表情で笑う。

自由気ままに動くことの多い風属性は、比較的噂話に精通している。今だから笑い話になるが、と王子は頭を掻きつつ今まであったことを語り始めた。

一時期全員が「属性」を忘れたこと、蟹がアイテムを使わないで成長したこと、兎が延々スロットを回し始めたこと、聖天使が自分の回復をしなくなったこと、古神兵のコマンドが愉快な状態になったこと。

敵リシャッフルとかあったなあ、と腕を組んでため息をつく。つらつらと並べられた愉快な出来事に無駄に胸がときめいた。

今は問題ない状態になってるけどな、と「喋ってよかったのかなぁ」と目を泳がせながら王子は曖昧な笑みを浮かべた。

今なら死神の技が要検証かなぁと小さく呟く。確殺しなくなったんじゃないかと、目に不安の色が宿っていた。

 

「ああ技はいまだにふわふわしてんのあるな」

 

盗賊が割り込んで語り出す。物理と魔法の区別とか、効果がちょいちょい変わってたりとか細かすぎて網羅は出来ていないけどと口元に手を当てて考えこんだ。

 

「一番安定しねーのはオレらのアサシンエッジだなぁ」

 

序章から3章に至るまで変更に次ぐ変更を受けたらしい。1しかダメージを与えられなかったり、スカ扱いになったり、攻撃力の1/4だったり1/2だったり。

今のが一番いいかな、と盗賊は呟く。欲を言えば即死率もうちょい上げてくれ、と俯いた。

 

「割と高いだろ。…敵対すれば」

 

黒い盗賊が口を挟む。冗談半分で放った言だったようだが、その言葉に周りの全員が同意した。

「戦うといやに即死ヒットするよな」「そのノリ味方のときもやれよ」「ピンポイントでアサシンエッジくらって落ちた」「敵体力低いと暗殺率上がるって聞いたけど」「普通に会心当てた方が早い」

 

あちらこちらから散々言われ白い盗賊も黒い盗賊も声を揃えて「うっせぇ!」と叫んだ。

白かろうが黒かろうが言動があまり変わらないだけあって、息はぴったりのようだ。仲良いな、とからかわれれば仲良くねーし!とまた言葉が揃う。

 

盗賊たちは顔を合わせ、睨み合う。喧嘩という名のじゃれ合いでも始まりそうだが、お互い同時にアサシンエッジ出して同時に倒れる未来しか見えない。

ふうと息を吐く狙撃手の頭を、いまだ背中にくっついている破戒僧がぺしと叩いた。

 

「なんで今日来るの遅かったの?」

 

ぺしぺし叩きながら破戒僧は狙撃手を睨む。なかなか発見されなかった者同士だから気になってたのに、と叩き続けた。

 

ああ、まあ、と完全に破戒僧から目を逸らし狙撃手はひとこと口に出す。

 

「だって女の子いないし」

 

 

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そんなに大きな声を出したつもりはなかったが、全員が静まり返り狙撃手を凝視した。

注目され怯んだ狙撃手だったが、全員から目を逸らしたまま押し黙る。

 

 

以前会ったとき白騎士が言っていた。

『水属性で集まったが、女性は女性で固まるな。目の保養になった』

 

…羨ましいと思った。

だってここには、僕と同じ風属性には…。

 

 

そんな理由かよと怒鳴られるかと思ったが、全く音沙汰がない。不思議に思って狙撃手が皆の方に顔を向けると、全員俯いていた。

 

「そうなんだよなー…」

「全く出てこないとは思わなかったなあ」

「もうさ、人型がいいとか亜人がいいとか人外がいいとかケモがいいとか」

「巨乳がいいとか貧乳がいいとかむちむちがいいとかスレンダーがいいとか」

「清楚がいいとかエロがいいとかそんな贅沢言わないからさ」

 

「とりあえず女の子欲しいよな」

 

そして一斉にため息をつく。女の子がいないのは風属性だけ、それは全員残念に思っていたようだ。

どんよりとした空気が溢れかえる、が、そんな空気をぶち壊すように、盗賊が叫んだ。

 

「いや、野郎だけなのも悪い事ばかりじゃない! 例えば今全裸になったとして!『サイテー』と冷たい目で罵られることはない!」

 

「我々の業界ではご褒美です」

 

ポツリと主張した者に対して盗賊は、特殊性癖は黙ってろと一括しひゅっと姿を消した。すぐさま両手に酒を抱えて同じ場所に戻ってくる。

 

「あれだ、女子会ならぬ男子会だ!新しい島が解放されればまた新しいやつもくるし、そいつら歓迎かつ負けないようにすっぞ!」

 

そう叫んで盗賊は鬱憤晴らすため飲むと酒に手をかけた。そんな盗賊をみて我も我もと皆酒に手を伸ばす。

〆るはずだった花見は延長され、会場内には喧騒が戻った。これは2・3日続くなと、狙撃手は賑やかな輪をぼんやりと遠巻きに眺める。

巻き込まれたらたまらないと早々に会場を去ろうとした狙撃手の両腕を、盗賊ふたりが掴んで引っ張った。ぎょっとふたりの顔を伺うとふたりとも狙撃手に笑顔を向ける。

 

「空気悪くしたお前はあれだ吐くまで飲め」

 

「ああ遅刻もしたな吐いても飲め」

 

爽やかな笑顔を作るふたりに引き摺られ、狙撃手は輪の中心に連れて行かれる。

これからはじまる地獄絵図に恐怖を覚え、若干抵抗したものの無駄とばかりに押さえ込まれた。逃げられないと悟った狙撃手が思う。

 

(そういや花をみてないな)

 

空を見上げても取り囲まれているせいでなにもみえなかった。…ああ、皆の頭の上に花びらが乗っている。

これで花見としようか、とゆっくり手を伸ばした。

多分もうどうにもならない今日のことが、いつか笑い話になりますように。

 

 

 

 

数日後、顔が土気色となりピクリとも動かない狙撃手が背負われて帰ってきたと噂となり、花見じゃなかったのかと不思議に思われたのは、些細な話。

 

 

 

END

説明
狙撃手中心・風属性のみ 捏造耐性ある人向け メタ会話有。3章まで
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オレカバトル

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