千鶴v千歳 |
これは夢だろうか。私は姉さんの腕の中で包まれている。つまり抱かれているのだ。
どうしてこうなったかというと・・・。
私はいつも通りに学校で杉浦先輩と姉さんが話してるのを見て妄想に耽っていて
気がつくと姉さんが私の顔を覗き込んでいた。
妄想に集中している内に話が終わったところで私を見つけたようだ。
私は慌てていると、姉さんがポケットからハンカチを取り出して私の口元を拭ってくれた。
「ほら、涎まみれやで」
「姉さん・・・ありがとう」
私と同じような顔をしてはいるが、中身は全然違って姉さんはとても可愛らしく見えた。
よからぬ考えに至る前に私は必死に妄想によって姉さんのターゲットを他にずらすのだ。
自分の気持ちに蓋をしていた。それをほぼ無意識で行っていたのだ。
「姉さん、今日の仕事は」
「今日は特にないな〜。久しぶりに一緒に帰ろうか。千鶴」
「うん・・・」
姉さんが私の手を握ってきたから、私が今手に汗かいてないか少し心配しながら
胸の音が激しく聞こえてくるのは姉さんの手から伝わる温もりから来るものだろう。
杉浦先輩との関係を応援している者としては、すごく矛盾した気持ちだけれど。
このままずっと姉さんの傍にいられればいいと思った。
その叶うはずもない願いがこの夜に叶おうとしていたとはその時の私には
思いもつかないことだったのだ。
おばあちゃんが友達と出かけていったと、帰ってきた時に嬉しそうに話していて
それのお土産としてチョコレートを買ってきたのがきっかけであった。
「わぁ、美味しそうやな〜」
「いただきます」
おばあちゃんは知らなかったのだ。ほんの少しでもお酒が入ってるようなチョコを
姉さんが摂取したらどうなるか。それから新しい用事が出来たとおばあちゃんが
外出をした途端に姉さんの態度が豹変した。
「ちづるぅ〜」
猫なで声で私の名前を呼ぶ姉さんは擦り寄ってくるように私にピタッとくっついてくる。
「ね、姉さん!?」
いつもと違う様子に私はハッと思いついてチョコの箱を見ると微量といえど
お酒の名前が表示されているのを確認してしまい確信してしまった。
そう、この状況はそうして起こってしまったのだ。
私はくっついている姉さん引き剥がそうとするが、動きもしないことに焦る。
そうでもしないと私が姉さんに対する気持ちに我慢ができなくなってしまうから。
「姉さん、やめて・・・」
「なんで・・・。私こんなに千鶴が好きなのに」
「それは酔ってるからで・・・!」
私がどんなに説明をしても聞き入れようとしない姉さんを強引に引き剥がすと
姉さんは私と視線を合わせないで剥がされて放られた姿勢のまま床を見つめながら
呟いていた。
「私が酔ってるからこんなことしてると本気で思ってるん?」
「だって・・・」
私達姉妹だし・・・そんなのおかしいしって続こうとしたが、その直後に私の胸は
針のようなものが刺さったような苦しさがあった。そうだ、この言い訳は本音じゃない。
本当は姉さんのことが好きだけど、許されないから勝手に自分でそう思い込んでるんだ。
だけど姉さんは真っ直ぐ私を見ていてくれている。
最初は私のためにやってるのかと思っていたけど・・・。
「ここ最近ずっと千鶴のことに頭がいってしまって、妄想が上手くできないんよ」
「私も・・・そうだよ」
妄想してるとはいっても前ほど興奮できなくなっていることに気づいていた。
だけど、そのことにずっと思考が行っていても辛いだけだから考えないようにしていた。
「私、千鶴に拒まれたらどうすればええの・・・」
「姉さん、私だって姉さんのこと・・・!」
言い切る前に振り返る姉さんの目からは涙が浮かんでいた。
メガネを外して拭おうとした姉さんの腕を掴んで私は恐る恐る姉さんの涙を舌で
掬った。
姉さんの味が口の中に広がる。しょっぱくて悲しそうな姉さんの味が。
私の行動に目を見開いてから、私に抱きついてくる。
震える手を止めて姉さんの背中に触れようとした時、姉さんの顔が上がって
私の唇に姉さんの唇が重なってくる。
「ん・・・」
同時に色っぽい溜息をつく私達。どれくらい経ったかわからないくらい
何度も何度も長い時間、二人は唇を重ねていた。
ずっと夢見ていたこの一時。
まさか叶うとは思わなくて。私の胸は喜びの気持ちで破裂しそうになっていた。
それと同時に杉浦先輩に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
本人にその気もちがあったかは知らないけれど、自分で勝手に妄想して勝手にそういう
罪悪感に駆られているのは不思議な感覚である。
それから久しぶりに二人でお風呂に入ったり、一緒に寝たり。
小さい頃を思い出しながら、その頃と違う気持ちで寝ている姉さんの横顔を見ていた。
姉さんの匂いを感じながら私も眠りに就いた。
その後日から再び似たような日々を過ごしてはいたが、明らかに距離感が前より
縮んでいて、嬉しいのに複雑な思いがした。
それまであった関係や、今までしていた妄想が薄くなっていって。
懐かしく感じるようになったからだ。
幸せと引き換えに大事な何かを失った感じ。
だけど、姉さんが微笑むたびに私の心は癒され潤っていくのでこれはこれで
良いのだと思った。毎日手を繋いで姉さんと帰る時間、家で姉さんと繋がってる時間。
特別なことが日常になったのだ。そしてとあるカフェで、一緒にお茶をしながら
微笑みあう二人がいた。
「ふふ、こんな時間過ごせるようになるとは思わなかったなぁ」
「私も・・・」
「まるで夢みたいや」
「うん」
暫くふわふわしていた気持ちが徐々にリアルに戻っていって、姉さんと一緒になった
ことをひしひしと実感した私であった。この幸せがずっと続くようにと願いながら…。
お終い
説明 | ||
誕生日ということで二人の百合を書いてみました。急いでる感が半端なくて内容が薄いと思いますがぜひ見てってくださいな〜。 | ||
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