銀の月、趣味を探す |
「……最近、銀月が修行を終えたと思ったら部屋に籠もっているのだが、何をしているか心当たりは無いか?」
小豆色の胴衣と紺色の袴を着けた銀髪の男が、問いかける。その問いに、赤い長襦袢を若草色の帯で留めた女が男に向き直る。
女は男と同じ美しい銀色の髪を腰まで伸ばしており、六つの白い花が円形に並んだデザインの髪飾りをつけていた。
「流石に部屋の中で修行はしていないと思いますけど……けど、中で何かぶつぶつ言ってるのは分かりますわ」
「……祝詞でも読んでいるのか? だとすれば、それも修行になってしまうのだが……」
将志と六花はそう話し合いながら、古めかしい板張りの廊下を歩く。
廊下はしっかりと手入れが施されており、ささくれ等は見当たらない。
「う〜ん、やっぱり上手くいかないなぁ……ううん、諦めちゃダメダメ! 僕は絶対出来る、そう思わなくっちゃ♪」
しばらく歩いていくと、二人に耳に少し高めの明るい少女の声が聞こえてきた。
その声は、二人が古くから聞いてきた声であった。
「……愛梨の声?」
「……銀月の部屋の方から聞こえてきましたわね?」
「……行ってみるか」
何故愛梨が銀月の部屋に居るのかと疑問を抱きつつ、二人は銀月の部屋へと向かう。部屋に近づくに連れて、何やら物音も聞こえてくるようになった。
どうやら、部屋の中で何か運動をしているらしい。
「やっ! ……ああ、あとちょっと! よ〜し、もうちょっとだ、頑張るぞ♪」
部屋の中からの声は先程と変わらず、明るいピエロの少女の声。
その声を聞いて、二人は顔を見合わせる。
「……やはり銀月の部屋から聞こえてくるな」
「……そうですわね」
そう言って、二人は中へ入ろうとする。が、直後に聞こえてきた声にその足を止めることになる。
「……うっそぉ〜……」
「……む?」
「え?」
背後から聞こえてきた声に、二人は同時に振り向いた。するとそこには、呆然とした表情を浮かべたピエロの少女が立っていた。
部屋の中に居るはずの少女を見て、二人は首をかしげた。
「……愛梨? 何故ここに居るのだ?」
「貴女、銀月の部屋の中に居るのではありませんの?」
「う、ううん、僕はずっと外に居たよ?」
二人の問いに、愛梨は首を横に振って答える。それを聞いて、将志は部屋の戸に眼を向ける。
「……では、今の声は?」
「……入ってみれば分かると思うよ?」
愛梨の声に促され、将志は静かに戸を横に引く。すると、中では銀月が三つの玉でジャグリングをしていた。
銀月はボールを上に放り投げると、その場で後ろに宙返りをしてボールをキャッチする。
「よっ! やったね、成功だよ♪」
「……何だと?」
「はい?」
銀月の口から出てきた声に、将志と六花は間の抜けた声を上げた。何故なら、銀月の口から出てきた声は愛梨の声と完全に見分けが付かなかったからだ。
その声を聞いて、銀月がキョトンとした表情でその方を向く。
「え? ……わ、わわ、お父さん!? それに六花お姉ちゃんに愛梨お姉ちゃん!?」
銀月は将志達の姿を見て、普段どおりの声で上ずった声を上げた。どうやら、この練習を見られたくなかった様である。
「……何がいったいどうなっているのだ……」
「何で、銀月の口から愛梨の声が聞こえたんですの?」
訳が分からず、二人は混乱した様子でそう疑問の声を漏らす。
その横で、愛梨が乾いた笑い声を上げた。
「きゃはは……まさか、本当にやっちゃうなんてなぁ……」
その言葉を聞いて、将志と六花が愛梨の方を向いた。
「……どういうことだ?」
「えっと……説明するね……」
* * * * *
透き通ったフルートの音色が辺りに響き渡る。演奏しているのは、うぐいす色の髪に赤いリボンの付いた黒いシルクハットを被った少女。
そんな少女のところに、黒髪の幼い少年がやってきた。少年は茶色い瞳に好奇心を宿しながら、その演奏を聴いていた。
少女の演奏が終わると、少年は話しかけた。
「愛梨お姉ちゃん、何してるの?」
「ん? ああ、今はちょっと笛を吹いてたんだ♪」
「そうなんだ……ねえ、僕もやってみていい?」
「うん、いいよ♪ ちょっと待ってね、確かこの中に……ああ、あったあった♪」
愛梨は普段乗っている黄色と橙色に塗り分けられた大玉の中から、細長い箱を取り出した。
その箱を開けると、中から銀色に光るフルートが出てきた。
「はい♪」
愛梨は取り出したフルートを銀月に手渡す。すると銀月はそのフルートをまじまじと見つめた。
「わぁ〜……ピカピカだぁ……ねえ、吹いてもいい?」
「どうぞどうぞ♪」
愛梨の言葉を聞くや否や、銀月はフルートを吹き始める。しかし息の吹き込み方が悪く、音はならない。
「ふ〜、ふ〜……あれ〜?」
音が鳴らないフルートに、銀月は首をかしげた。
それを見守っていた愛梨が、にこにこと笑いながら銀月に声をかける。
「これね、音を出すのにコツがあるんだ♪ よく見ててね♪」
そう言うと愛梨は自分のフルートに口をつけ、息を吹き込んだ。するとフルートは澄み切った綺麗な音を辺りに響かせた。
「綺麗な音……」
銀月はその音に聞き惚れながら、思わずそうこぼした。
それを聞いて、愛梨は笑みを深くする。
「キャハハ☆ ありがと〜♪ それじゃ、やってみてごらん♪」
「う、うん……」
銀月は愛梨に促され、再びフルートを吹き始める。
初めのうちは音が出なかったが、何度も繰り返すうちに段々と音が聞こえ始めた。
「……音が鳴った……」
「キャハハ☆ すごいなぁ〜♪ フルートの音を出すのって、慣れるまでは結構難しいんだよ♪ ささ、もっと吹いてみて♪」
「うん!」
銀月はひたすらフルートに息を吹き込む。そのうちコツを掴んだのか、フルートからは澄んだ音が聞こえてきた。
愛梨はその音を聞いて頷いた。
「うんうん♪ それじゃあ、今度は指を動かしてごらん♪」
銀月は言われるがままにフルートに添えた指を動かす。すると高めの音であったものが、優しい低音に変わっていった。
「音が変わった!」
音が変わったことがが嬉しかったのか、銀月は色々と指を動かし始める。
その度に音は様々に変わっていき、銀月は笑みを浮かべる。
「そうそう、その調子! よ〜し、それじゃあ簡単な曲を練習してみよっか♪」
「うん!」
それからしばらく、愛梨と銀月は一緒になってフルートの練習をした。愛梨が手本を見せると、銀月がぎこちないながらもついて行く。
しばらくすると、銀月はごくごく簡単な曲を演奏できるようになっていた。
「キャハハ☆ 上手い上手い♪ うん、今日はここまでにしよっか♪」
愛梨は突如としてそう言うと、フルートをしまう。
それを見て、銀月は不満そうな表情を浮かべる。
「え〜……もっとやってみたいのに……」
「ごめんごめん♪ でも、実はね……銀月くんに見せたいものがあるんだ♪」
「見せたいもの?」
「これさ♪」
こてんと首をかしげる銀月に、愛梨はそのものを差し出した。
それは、人形劇で使われるマリオネットであった。
「……お人形?」
「うん♪ これから少し人形劇をするよ♪」
愛梨がそう言うと、銀月は少し訝しげな表情を浮かべた。
「……面白いの?」
「キャハハ☆ 面白いかどうかは見てのお楽しみさ♪」
愛梨はそう言って笑うと、大玉の中から人形劇のセットを取り出した。そして裏で少し準備をすると、観客に眼を向けた。
「それじゃあ、『長靴を履いた猫』の始まり始まり〜♪」
その言葉と共に、舞台の幕が上がった。
愛梨はマリオネットを巧みに操りながら、話を続けていく。
「やい、魔王! お前が何にでも化けられるってホントか!?」
愛梨は高めの女のよく通る声で、長靴を履いた猫の台詞を言う。
その黒猫の人形の尻尾が二本になっていて、銀月の知り合いの化け猫に良く似ていた。
「いかにも。貴様が望むのならば見せてやろう」
それに対して、今度は少し低めのハスキーな声で魔王の台詞を話す。
魔王の人形には黒く大きな翼が生えていて、山の大将を思わせた。
「じゃあ、まずはライオンに化けてみろ!」
「ふっ、容易いな。それっ!」
魔王の台詞と共に煙が上がり、舞台が真っ白になる。
煙が晴れると、そこに居たのは立派なライオンの姿だった。
「どうだ?」
「ふふん、今のはお前が化けられるか確かめただけだ! いくらお前でもドラゴンには化けられないだろ!」
「その程度が出来ぬと思ったか? そらっ!」
再び煙が上がり、魔王の姿が隠れる。
次に現れたとき、その姿は大きなドラゴンに変化していた。
「……これなら文句は無いだろう?」
「へ〜んだ、どうせでかいのしか化けられないんだろ! 悔しかったらネズミに化けてみろ!!」
「いいだろう、お安い御用だ」
三度舞台の上が煙で白く染まる。
すると魔王は、小さなネズミの姿に変わっていた。
「……これでもまだ不満か……?」
「いただきまーす♪ パクリ♪」
猫はネズミに化けた魔王を食べて、魔王の城と財産を自分のものにした。
そして、その猫の主人である三男は姫と婚約を結ぶ。
「こうして、三男はお姫様と結婚し、末永く幸せに暮らしました。そして、その傍らにはいつも賢い相棒の姿がありましたとさ。……めでたしめでたし」
愛梨がそう言うと、舞台の幕が下りた。
「どうだったかな、銀月くん♪」
「面白かった……愛梨お姉ちゃん、声変わるの凄かったよ」
銀月の感想を聞いて、愛梨は嬉しそうに笑う。
「キャハハ☆ ありがと〜♪ これね、こんなことも出来るんだ♪ あ、あ〜……」
愛梨は何かを確認するように声を出す。そしてしばらく眼を閉じると、一つ頷いて口を開いた。
「うぉっしゃあああああ! 燃えてきたぜええええ!!」
口から発せられたのは、幼い少女の熱い叫び声。その声は、銀月にとってとても馴染み深いものだった。
「あ、アグナお姉ちゃんだ!」
本物そっくりなその声に、銀月は思わず声を上げた。
その様子に、愛梨は楽しそうに笑った。
「それから次は〜……銀月、そろそろ夕食の時間ですわよ?」
「今度は六花お姉ちゃんだ!」
大人びた女性の声を聞いて、銀月ははしゃぐ。
「ね、面白いでしょ? これで変装とかすれば色んなお芝居が出来るんだよ♪」
「へぇ〜……ねえ、僕にもそれ出来るかなぁ?」
眼をきらきらと輝かせて問いかける銀月。
それを聞いて、愛梨は困った表情で頬をかいた。
「う〜ん、これはちょっと難しいかな? いっぱい練習しないといけないし、お芝居は声だけじゃ出来ないからね♪ そのお芝居の役の人がどんなことを考えるかが分からないといけないし、他の人になりきるんならその人の癖とかも分からないといけないよ♪」
「練習すれば出来るの?」
「それはやってみないと分からないかな?」
夢を壊さないように、愛梨はわざとぼかしてそう告げる。
しかしそれを聞いて、銀月の眼は強い光を放った。
「そっか……よし、頑張ってみる!」
そういうが早いか、銀月は走り出していた。
その後姿を、愛梨は呆然と見送る。
「……ひょっとして僕、やっちゃったかな……?」
火の付いた銀月に、愛梨は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
* * * * *
「……というわけなんだ……」
愛梨の説明を聞いて、将志は納得して頷いた。
「……つまり、銀月は愛梨が披露した声真似がしたくて、ずっと練習していたのだな?」
「ううん、違うよお父さん。僕はね、真似がしたかったの」
将志の言葉を、銀月はそう言って否定した。それを聞いて、六花が首をかしげた。
「真似……ですの?」
「うん。僕ね、愛梨お姉ちゃんにびっくりさせられてばっかりなんだ。だから、愛梨お姉ちゃんの事を全部真似してびっくりさせようと思ったんだ」
「それで、今ジャグリングの練習をしてたのかな?」
「うん。でも、もうバレちゃったけどね……」
愛梨の質問に、銀月は肩を落としながらそう答える。
それに対して、愛梨は首を横に振った。
「ううん、僕もう十分びっくりしたよ……だって僕、これは絶対に真似できないって思ってたんだよ?」
やや呆然とした表情の愛梨がそう言うと、銀月がキョトンとした表情を浮かべて愛梨の方を見る。
「そうなの?」
「うん……だって、僕はあの声真似に『相手を笑顔にする程度の能力』を使ってたんだよ? だから、普通なら出来ないはずなのに……」
愛梨の能力は、相手を笑顔にするためならば様々な事が出来るようになる能力である。それを使って、通常女性が出せない音域の声を出すことが出来るようにしていたのである。
その能力がなければ、愛梨は他人の声で喋ることなど到底出来ないのであった。
「……ますます分からなくなってきたな。銀月、お前の能力はいったい何だ?」
しかし、今回銀月はそれと同じ事をやってのけたのである。
これにより、将志の頭の中に大きな疑問が現れる。能力が効果を及ぼす範囲が広すぎるのだ。
銀月が今まで確実に能力を発動させたと思われるのは、最初の妖怪達との戦闘、その後の銀の霊峰の登山、そして今回の声真似である。
それぞれ必要なものが戦闘力、持久力、演技力とあまり関連性が無く、銀月の能力の正体が分からないのだ。
「……わかんない。お父さんに言われたとおりにしてみても、ぼやけてて全然見えないんだ」
将志の問いに、銀月は困った表情を浮かべてそう答える。
当然ながら、銀月も自分の能力が何か知りたいので、将志と同じ様に自分の能力が何か調べようとした。
しかし、何が拙いのかその能力が何であるか全く分からないのだ。
「声真似を抜きにしても、あの声の感じや感情の籠もり方は間違いなく愛梨のものでしたわよ? そこにも能力が使われているのではなくて?」
そんな銀月に、六花が少し考え込みながら更なる疑問を呈した。
その疑問を聞いて、愛梨は何かを思いついたように顔を上げた。
「ねえ、銀月くん。他の人の演技も出来るのかな?」
「えっと……うん、ちょっと待ってね…………お師さん、今日は一日平和だったでござる!」
聞こえてきたのは、少年のようなさっぱりした声。その声の本来の持ち主は、銀月の兄弟弟子のものであった。
その声を聞いて、将志は小さく頷いた。
「……どう聞いても涼の声だな。他には?」
「えっと……手伝うわ、お姉さま♪ ……だぁ〜! 手伝うとか言っときながら抱きついてんじゃねえ!! ……まあまあ、遠慮しないで♪ ……燃えさらせえ!! ……わきゃあ〜!?」
次に聞こえてきたのは、楽しげな少女と少し怒り気味の幼い少女のやり取り。
それを聞いて、将志と六花は難しい表情で考え込んだ。
「ルーミアとアグナですわね。恐らく、眼を瞑って聞いたら銀月の声とは分からないでしょうね……」
「……おまけに浮かべる表情まで本人によく似ている……何だ? 確実に能力は発動しているはずだ。いったいどんな能力ならばこんなことが出来る?」
「……俺にも分からん……何しろ能力を使ったと言われても、俺は使った感覚が無いのだからな……」
将志の問いに、銀月は低めのテノールの声で答えを返す。
間の取り方、込められる感情、その全てが父親そっくりであった。
「今度はお兄様……滅多に見せない困り顔もそっくりですわね……」
二人を見比べて、六花は思わずそう漏らした。
その傍らで、愛梨が銀月に話しかける。
「銀月くん、今度は僕が言う役をやってみてくれるかな?」
「どんな役?」
「妖怪に食べられる人間の役さ♪ 妖怪役はつけないから、自分で想像してやってみてね♪」
「……う、うん、やってみるよ……」
銀月は躊躇いがちに頷くと、一つ深呼吸をする。
そして、その場で走る演技を始めた。
「はぁ、はぁ……うわぁ!?」
足を木の根に引っ掛けたように、銀月はその場に倒れこむ。
「いったぁ……ひっ、こ、来ないで!!」
銀月は振り返ると、恐怖に顔を歪めて手で床を押して後ずさる。
腰が抜けて立てないらしく、手足をじたばたと動かしている。
「やだ、やだよぉ……僕まだ死にたくない! だれか、だれかたすけうああああああ!?」
泣き叫びながら這いずる様に逃げようとすると、銀月の左足が後ろに引っ張られるように伸び、ずるずると後ろに下がる。
そして、劈く様な叫び声を上げた。
「あ、あう……痛い……痛いよぉ! ぐすっ……足が、足がなくなっちゃったよぉ……ぎゃああああああ!!」
銀月は左膝の辺りを触りながら、半狂乱で泣き叫ぶ。
その手は左膝から右足首、右膝へと移っていき、段々と食べられていく様が見えてくる。
そしてその手が下腹部まで登ってきた時、銀月の顔に笑みが浮かんだ。
「あ、あははははは……もうすぐお腹も食べられちゃう……へ、へへへへへ……次は胸かなぁ……それとも腕から食べられちゃうのかなぁ……それともそれとも、頭からバリバリいっちゃうのかなぁ……うふふ……うふふふふふふふふふふふふふふふふ……」
銀月は完全に発狂し、焦点のあっていない眼で虚空を見上げながら、自分の身体を食んでいる妖怪の頭を抱え込むような動作を取った。
そしてその手が腹の上部に届いた時、銀月は力なく倒れた。
それからしばらくして、銀月は何事も無かったかのように起き上がった。
「えっと……どうだったかな……?」
銀月は緊張した面持ちで感想を問う。すると、六花が額に手を当てながら首を横に振った。
「……正直、生々しくて見てられませんでしたわ……」
「……実際に人間が食われていたところに出くわしたことがあるが……まさにこんな感じだったな……で、何でこんな役をやらせたのだ?」
将志は苦い表情を浮かべながら、愛梨にそう質問をした。
すると、愛梨は腰に手を当てて考え込んだ。
「あのね、銀月くんの能力が『誰かの真似をする程度の能力』じゃないかなと思って、この役をやってもらったんだけど……違ったみたいだね♪ ほら、死ぬ時の怖さってそのときにならないと絶対に分からないことだよね? だけど、銀月くんは食べられてる最中まで細かく演技してたよね? だからたぶん、演技自体は銀月くんの才能なんだと思うよ♪」
「才能にしても行き過ぎですわ。今度からはもっと明るい役を演じてくださいまし」
愛梨の考察を聞いて、六花は深々とため息をつきながらそう言った。
「うん。分かったよ、六花お姉ちゃん」
そんな六花の言葉に銀月は頷いた。
すると、愛梨が何か思いついた様に手をたたいた。
「あ、そうだ♪ 銀月くん、さっきまでジャグリングとか曲芸とかやってたみたいだけど……覚えてみる? ちょっと見たけど、君なら頑張れば出来そうだしね♪ 色んな事をいっぱい教えてあげるよ♪」
「うん、やってみる!」
愛梨の言葉に、銀月は元気良く返事をした。
「キャハハ☆ それじゃあ、早速やってみよう♪」
愛梨はそう言って笑うと、銀月を連れて部屋から出て行った。
愛梨が銀月に色々と教え始めてからしばらくして、再び銀月が部屋にこもることが多くなった。
そこでその様子が気になった将志が銀月の部屋に入ると、中で銀月は縄抜けの練習をしていた。
将志が床に眼を向けると、鍵も無いのに外された手錠や錠前が落ちていた。
「……縄抜け、錠外し、気配消し……銀月、何故そんなものを覚えているのだ? 忍者にでもなるつもりか?」
将志は気配を消して背後に回ろうとした銀月にそう声を掛ける。
すると、銀月は首を横に振った。
「違うよ。もし捕まっても、これが使えれば逃げられるから。それに、これでみんなをびっくりさせてやるんだ」
「……確か、愛梨に曲芸を習っていたのではなかったのか?」
「うん。けど、それじゃあ愛梨お姉ちゃんはびっくりしてくれないでしょ? だから、愛梨お姉ちゃんが知らないやり方でびっくりさせるんだ」
どうやら、銀月は何が何でも愛梨を驚かせてやりたいようである。
そんな銀月の声を聞いて、将志は一つ頷いた。
「……そうか。なら、一つ面白いことを試してみるか?」
「え、何、お父さん?」
「……付いて来い」
興味を示した銀月を、将志は外に連れて行く。
将志の手には中華鍋が握られていて、その中には手ぬぐいが入っていた。
そして、銀月には皿を手渡した。
「……銀月、今から俺がここからこの鍋の中の手ぬぐいを投げる。お前はそれを皿で受け止めてみろ。手ぬぐいには紙粘土が包んであるから、それをこぼさない様に受け止めるのだ」
「う、うん」
将志の言葉に、銀月は緊張した面持ちで頷く。
それを確認すると、将志は鍋を軽く二、三回振るう。
「……行くぞ。そらっ」
そう言うと、将志は鍋を大きく振り上げた。
中身が高々と宙を舞い、綺麗な放物線を描く。
「うわっ!?」
銀月はそれを受けきれずに、下に落としてしまう。
散らばった紙粘土を拾い集めて手ぬぐいに包み、将志のところへ持っていく。
「……逃げずに受け取れ。次行くぞ」
「よいしょ! あっ!?」
将志が投げた手ぬぐいを銀月は皿で受けた。
しかし、皿にぶつかった衝撃で中身が弾け、周囲に散らばってしまった。
「……受け取る時には皿を引きながら受けて勢いを殺せ。それっ」
将志はそう言って三度目を投げる。
それは銀月のいる位置から大きく外れていた。
「うわわわわ、遠いよお父さん!!」
銀月は必死に手を伸ばしたが、あと一歩のところで届かず地面に落ちる。
それを見て、将志は一息ついて銀月に近寄った。
「……銀月、愛梨の曲芸を思い出せ。手だけで受け取ろうとするのではなく、全身を使って受け止めるのだ」
「う、うん!」
その後、銀月は将志の期待に応えようと必死に努力をするのだった。
「……愛梨達を驚かせるにはまだまだ練習が必要だな。精進するのだな、銀月」
「う、うん……分かったよ、お父さん……」
練習を終えてヘトヘトになっている銀月に、将志は声をかける。
それを聞いて、銀月は大きく深呼吸をした。
「……さて、一しきり汗をかいたところで茶でも飲むとしようか」
「うん。ねえ、お父さん。今日のお茶は僕が淹れてもいい?」
立ち上がる将志に、銀月はそう尋ねる。
それを聞いて、将志は納得したように頷いた。
「……なるほど、練習がしたいのか」
「うん。お父さんが仕事してる時に練習したから、味を見て欲しくて……」
将志の言葉に、銀月はそう言って頷いた。
「……いいだろう。言っておくが、俺の採点は厳しいぞ?」
「僕はその方がいいな。だって、早くお父さんに追いつきたいもん」
銀月はそう言って将志に笑いかける。
それを見て、将志も笑い返した。
「……その意気だ。ふふっ、本当にお前は俺の修行時代を思い出させてくれるな?」
将志はそう言って銀月の頭を撫でた。
すると、銀月はくすぐったそうに笑った。
「えへへ……だって僕、血は繋がってないけどお父さんの子供だもん」
「……そうか」
お互いに笑みを浮かべながら、二人は台所へと向かう。
なお、この日の銀月のお茶は七十五点であった。
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修行に明け暮れる息子に趣味を教えて、無謀な修行をさせないように画策する銀の槍。そんな中、銀の月の取った行動はと言うと。 | ||
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ケットシーは妖精でしょう。「シー」とはケルトの言葉でズバリ「妖精」を意味するので、ケットシーは直訳すると「猫妖精」です。尤も、メガテンシリーズに出て来た時は、外見は「長靴を履いた猫」その物でしたが、種族は「魔獣」でした。他には、カーシーが「妖精犬」で、バンシーが「女妖精」ですね。(クラスター・ジャドウ) クラスター・ジャドウさん:可能性はあると思いますよ? ケットシーは妖精の扱いになるんでしょうかね? あと、悪賢さと言うか、黒さではシンデレラも負けてなかったり。実は、原作では一人目の継母をSATSUGAIしていますし。(F1チェイサー) …銀月、曲芸の一環と声帯模写を身に着けるの巻。愛梨が銀月に披露していた『長靴を履いた猫』だが、この主役の猫は人語を操る上に二足歩行。ひょっとして、ケットシーの眷属なのだろうか?…能力はあっても御人好しな魔王を騙し討ちにする様は、現代人の悪賢さにも匹敵する?(クラスター・ジャドウ) |
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