Fate/The black truth 第8話 「間桐翁の誤算」 |
第8話 間桐翁の誤算
儂は応接間のソファで腰を据え、今回の聖杯戦争を使い魔の眼を通して小童どもの戯れを眺め、何故今回の聖杯戦争に積極的に関わらなければならないと内心で愚痴る。テーブルの上に置いてあるマスター・サーヴァントの情報を調べ上げた書類をみて思う。儂の計画はどこから狂ってきたのだろうか。
−1年前−
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今までの聖杯戦争を見てきた儂は前回の大番狂わせの事態があったことを記憶しているからこそ今回の第4次聖杯戦争は様子見にするつもりだったが、何年も前に消えた出来そこないの息子が戻ってきてあろうことか聖杯を持ち帰るから桜を解放しろと言ってきた。
惚れた娘の為に戻ってきた出来そこないを見てこのまま帰しても詰まらない。桜は大切な胎盤故元から帰すつもりはないが裏切り者の雁夜の悶え苦しむ様を見たいと思い、今回の聖杯戦争に参加して聖杯を掴み取れば解放すると雁夜に約束させる。蟲に犯されぬいた、壊れかけの娘のためにどこまで耐えられるか楽しみよ。
−召喚日−
蟲蔵で雁夜の悶え苦しむ様を1年間見て良い退屈しのぎにはなった。サーヴァントを召喚するに当たって、クラス別スキルとして単独行動を持ち、マスターの負担が少ないアーチャーを召喚するのが妥当だが、この出来そこないに勝機はない。あくまで本番は第5次聖杯戦争に定めているからこそ今回は茶番なのだ。儂は娯楽のために、雁夜がさらに苦しむ姿を見て楽しもうと思い、他のクラスよりも大量の魔力を必要とし、マスター殺しと言われるバーサーカーの召喚を指示した。苦痛に歪み壊れるか、それとも何も成し遂げないまま後悔しながら死ぬのか想像するだけで楽しみだ。
「―――告げる。汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば 答えよ。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我は汝三大の言霊を 纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
サー・ランスロット
バーサーカーのクラスに英雄“ 湖 の 騎 士 ”の触媒を用いて召喚することで雁夜がさらに激しい激痛を味わい苦しむ姿を内心愉しみにしていた。だが雁夜が呪文を唱え眩しい光の中からサーヴァントが出現した者は間桐 臓硯の最大の過ちだった。
サーヴァントが出現した瞬間、体中のありとあらゆる感覚が“逃げろ”と叫びだした。部屋全体の気温が急激に下がったかのように体の震えが止まらない。
―――――――――― 何を呼び出したのだ ――――――――――
目の前で悶え苦しむ出来損ないが目に入るがそんなものはどうでもよい。儂が恐怖に震えることなどありえない。今まで3度の聖杯戦争を生き延びた儂がたかが数十年の人生を歩んだ英霊ごときにここまで恐れたことはない。英霊と言っても所詮は元人間。どうとでもなると考えていたがあれは違う。あのサーヴァントは今までの英霊とは比べものにはならない。
サー・ランスロット
姿を現したサーヴァントは “ 湖 の 騎 士 ”ではないことは確実だ。奴の姿は中世の騎士の姿をしておらず現代の服装にて出現した。英霊は最も力がある時代の姿にて召喚されるが、どう見ても騎士には見えない。問題は奴の体から発する“闇”が恐ろしい。
あの“闇”を見つめているとまるで何かに取りつかれたかのように目が離せなくなる。
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あの男から滲み出ている闇がまるでこの世の悪意全てを集めたかのようで、目の前で天災が降りかかる前触れのように居合わせたかのように全身の震えが止まらない。
儂の意識が伝わったのか部屋にいる蟲がざわめき始めた。蟲共のキィキィ鳴く音を聞き漸く意識がはっきりしそして理解した。
あれは儂が最も恐れている“死”以外での恐怖だと理解した瞬間であり、同時にこの聖杯戦争の“切り札(ジョーカー)”であるということだ。
「そうだ。サーヴァント“バーサーカー”これにより契約を完了する。」
気が付いたら雁夜とバーサーカーの契約が終了したところだ。出来損ないは魔力不足で気絶したらしいがそんなことはもうどうでもよかった。あの男を利用すればこの聖杯戦争は思いのままになる。だが可能なのか?あれを利用することが出来るのか。
バーサーカーは周りを見ながら蟲蔵の異臭が気に食わなかったらしく、眉に皺をよせて動かなくなった雁夜の襟を掴みながら階段を上がっていくが、恐怖に震える体に鞭をいれてバーサーカーに問う。
「・・ま・・待てバーサーカーよ」
儂はバーサーカーに対する恐怖を億尾にださず体に鞭を入れ呼び止めた。この男をここで儂の制御下に入れなければならない。そのためには“令呪”が必要になる。
「なんだ。・・・いたのか」
バーサーカーは儂の事をそこらに落ちているゴミを見ているかのような目で見てくるが構わん。雁夜からこちらに集中させれば問題ない。後は周りにいる蟲を使って片手を喰いちぎってでも、令呪を奪えればよい。
「・・・わ、儂は間桐 臓硯。おぬしが手に持っている雁夜の父よ。おぬしは何を望んで聖杯戦争に参加する」
儂はバーサーカーに問いかけながら、相手に悟られないように表情を怯えたままにしながら蟲共に命令を与える。
“雁夜の腕事喰いちぎって儂の元に運べ”
後はもう少し此方に意識を向ければ良いのだったが奴の行動の方が早かった。
「俺に指図するな爺」
バーサーカーが儂に向かって魔術を放ち腹に風穴が開いた。
「がぁぁぁぁぁぁっ!!」
儂は突然の攻撃になす術もなく床に横たわり苦しむ。痛みはあるが体は蟲で出来ているためすぐに修復を行う。だが奴は儂の事などお構いなしに魔術を雁夜の周りに蠢いている蟲を始末していった。辺りを粗方始末すると儂の方に手を翳した。
「狙いがこいつの手に宿っている令呪だというのはすぐに分かった。俺のような奴を制御するには首輪が必要だからな」
バーサーカーは儂の狙いが手に取るように分かると馬鹿にしたような笑みを浮かべるが、まだまだ青臭い餓鬼であったか。見かけ倒しならば巧みに操れる。
「うがぁああああああああああああああ」
突如雁夜が大きな声で悲鳴を上げのた打ち回る。バーサーカーはその様子を見ながら儂の方へ眼を向ける。
「体に何か仕込んでいるな」
「その通り。元々雁夜はお主を呼び出す魔力がないため刻印蟲を体に入れることで魔力を生成しているが蟲の管理は全て儂が行っている。故に儂に刃向うなら雁夜の命はないぞ」
これでよい。雁夜の命を此方が握ることが出来れば奴も儂の命令に従うはずだ。何せマスターが居なくなれば現世に留まることが出来ない。このサーヴァントを上手くコントロールすることが出来れば或いは儂の願いに届くやもしれん。
「・・・・・・フっ・・フッハッハッハッハッハッハッハ」
唐突に奴は笑いはじめだした。このどうしようもない状況で笑うしかないと考えたのか。
「どうした。儂の言っていることが理解できんのか。さあ儂の命に従ってもらおうか」
いつまでも調子に乗らすことは不愉快だ。このまま操り人形の如く働いてもらわないとのう。
「―――――ハッハッハッハ・・・・・楽に死ねると思うなよ爺」
奴の笑い声が終わった瞬間部屋の温度が急激に下がった。奴は儂を殺すスイッチを入れたのだろう。バーサーカーは手を鳴らしたが特に変化がない。何をしたか知らないが行動される前に雁夜の命を握れば儂には逆らえまい。雁夜の中にいる蟲に命令するが信じられない事が起こった。
「・・・あ・・・ありえぬ。・・・何故じゃ。・・・・・何故・・・何故儂の呼びかけに答えぬのじゃ」
そう儂は雁夜の体内にいる蟲に呼びかけ魔力を貪れと呼びかけたのに何も答えない。それどころか今まで騒いでおった蟲共の鳴き声も止まった。
「・・・・・いっひっひっひっひ。・・・・何かしたか爺」
儂が蟲を操ろうとしながら操れない滑稽な姿を見たせいか、バーサーカーは笑いを堪えながら訪ねる。
「貴様何をした。何故蟲の命令が聞かなくなった」
バーサーカーが何かをしたのは間違いないが何をしたのかが分からない。魔術を使って操っているのか宝具なのかが分からないが現状蟲を操っているのは奴で間違いあるまい。こんな小僧にしてやられるとは不甲斐ない。
「どうでも良いだろそんなことはさ。これから死ぬお前には話す必要がねえよ」
バーサーカーが儂の方へ一歩一歩と近づき、奴が歩くことで蟲たちも退いていく。まるでこの蟲蔵の主は奴だと主張しているかのように。その一歩一歩が死のカウントダウンに見えてしまう。儂はこの状況に追い詰まれたことで理解した。奴が召喚された瞬間逃げ出さなければならなかったことに気が付いてしまった。儂の本体を司る蟲は蟲蔵の奥に隠れさせていたが“どういう理由か分からないが心臓の位置”に転移していることが未知なる恐怖に陥れられていた。
「待て。話を聞いていたのか!儂を殺せばお前のマスターは死に、お前も消えてしまうぞ!!」
バーサーカーは儂の言葉を聞いて口元をにやつけ
「【お前が消えても何とかなるから安心しろ】」 (黒の真実)
バーサーカーは儂に手を向けたまま冷酷な表情で死の宣告をする。体の修復がまだ完了していないが構わん。すぐこの場から逃げなくては消されてしまう。全体を操るのではなく人型のみを奴の支配から解放し蟲蔵から脱出する。外に出てしまえばさすがのバーサーカーも追うことは出来まいとほくそ笑む。だが自身が望んだ結末にはならなかった。
「落ちな!」
バーサーカーは“儂の考えていること”が分かっているかの如く魔術を使い蟲蔵から出ていく蟲を潰していく。儂自身の蟲を掴み力が入っていく。
「終わりだ」
終わる。目の前が真っ暗になっていく気分だ。震えが止まらない。このままバーサーカーの手で終わってしまうのか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
「待ってくれ!!・・・そ・・それなら敵マスター・サーヴァントの情報を調べ上げるから殺さないでくれ!!」
必死な懇願でバーサーカーに頼み込む。儂は選択を誤った。今まで聖杯戦争に参加してきた英霊を見てきたからこそ、このバーサーカーも何とか制御できるだろうと心の隅で考えていたんだろう。だがこの男だけは出会った地点で形振り構わず逃げ出しておくのが正解だった。バーサーカーは手を離し冷酷な瞳で見ながら問う。
「いいだろう。【俺が必要な情報を必ず提供しろ。出来なければお前の命はそれまでだ】」 (黒の真実)
こうしてバーサーカーに情報を提供することで生き続けることが出来るようになった。失敗したら奴は何も言わなかったが儂は用済みとなり殺すだろう。あの後、聖杯戦争の間は冬木市から出ていれば命は狙われなくなるだろうと行動に移そうとした瞬間バーサーカーは儂の前に再び現れ儂の考えを先読みをしているかの如く冷笑しながら
「いっひっひっひ。・・・・・逃げ出したらどうなるか・・・・分かっているな」
冷たい言葉と共にねっとりとした殺意を全身に浴びてしまう。体の震えが止まらなくなりバーサーカーは儂の行動原理全てを読まれていることが理解した。何をしようと向こうは先回りが出来る状態だ。命を狙おうとしたらこちらが先に殺されるだろう。聖杯戦争は約二週間行われる祭りだ。それさえ過ぎればバーサーカーも消え、儂の命を脅かす者はいなくなる。聖杯の力で不老不死を得るまで何を犠牲にしても必ず生き続けてやると心に誓う。
説明 | ||
かつては間桐家を支配していた翁。雁夜を襤褸雑巾の如く扱ってやろうと画策をしていたが戦人を呼び出す事で全てが変わってしまった。 | ||
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