天使と悪魔の代理戦争 13話 |
海に落ちたフェイトちゃんを連れてアースラに戻ると、フェイトちゃんには手錠を嵌められた。
そのまま艦橋へとやってくると、武装局員がフェイトちゃんのお母さんがいる時の庭園へ突入している映像がモニターに映されていた。
武装局員の人は王様が居そうな玉座の間のような場所にやってくると、そこには先程ジュエルシードを奪ったあの仮面の人がいた。
『ようこそ、時空管理局の方々。一応訊いておくけど、ここを訪れた要件は何かな?』
『プレシア・テスタロッサには時空管理法違反、お呼び時空管理局艦船への攻撃容疑による逮捕命令が出ています。彼女の身柄確保へのご協力と、あなたにも事情を訊きたいので管理局艦船アースラへご足労願います』
『時空管理局? 何かなそれは?』
武装局員の一人が言った投降要請に仮面の人は軽く首を傾げてそう言った。
『それよりも、私はそのプレシア・テスタロッサに伝言を頼まれていてね。あなた方に手を煩わされている場合でもないんだよ』
武装局員の人たちの足元に正方形の迷路と蜘蛛の巣が組み合わされた((白雪色|スノーホワイト))の魔法陣が出現する。
『少し下がれ』
指を弾くと同時に魔法陣が閃光を発し、光が収まる頃には武装局員たちは気絶していた。気絶した武装局員たちはすぐにアースラへと転送される。
『邪魔者がいなくなったところで、まずは自己紹介をしようか。庭園の((防人|さきもり))にして城主代行。もしくは一縷の望みを授けし者。気軽にエクスとお呼びください』
彼はまた独特な名乗りを上げる。
『さて、プレシア・テスタロッサからの伝言を伝えようか。だけどその前に、少しだけ語らなくてはいけない事がある』
やれやれと首を振り、脇にあるテーブルの上にある写真立てをこちらから見えるように向ける。その写真に写っているのは今よりも幼いフェイトちゃんと、恐らくプレシア・テスタロッサ。
『ここに写っているのは数十年前のプレシア・テスタロッサと、その娘――((アリシア|・・・・))・((テスタロッサ|・・・・・・))』
「アリ、シア……」
仮面の人の声を聞いて、フェイトちゃんが呆然としながら呟く。それを聞いてか、仮面の人が静かに語り始める。
『かつて、プレシア・テスタロッサには一人の娘がいた。名前はアリシア・テスタロッサ。ある時、エネルギー技術開発会社に勤めていた彼女が開発を推めていた新型魔導炉が、安全管理不良で事故を起こした。それにより、アリシア・テスタロッサは死亡してしまう』
駄目だと思った。この先をフェイト・テスタロッサに聞かせてはいけないと、そう思った。だけど、モニターの向こうの相手の口を塞ぐ事は出来なかった。
『それ以降、プレシア・テスタロッサは職を辞し、一つの目的――失った愛娘、アリシア・テスタロッサの蘇生を果たすために生きることとなる。そしてたどり着いた一つの成果が、記憶転写形特殊クローン技術――通称、プロジェクト「((F.A.T.E|フェイト))」』
その名前は、ある一つの想像を思い起こさせるには十分だった。
『フェイト・テスタロッサ。君はプロジェクト「F.A.T.E」で生まれたアリシア・テスタロッサのクローン。アリシアの出来損ないのお人形。本物足り得なかった偽物』
言葉の刃がフェイトちゃんの心を切り刻む。
『そして本題、プレシア・テスタロッサからの伝言だよ、フェイト・テスタロッサ。――「あなたは私の娘じゃない、どこへなりとも消えなさい」』
仮面の人の最後の言葉――プレシア・テスタロッサの言葉は、フェイトが心に止めを刺す。
『「フェイト。あなたを生み出してからずっと、私はあなたが大嫌いだった」――以上だよ』
フェイトちゃんの手から力が抜け、ひび割れたバルディッシュが落ちて砕けた。まるでフェイトちゃんの心の様に。
それを聞いていた僕はとても((憤|いきどお))っていた。
「……何で」
『ん、何かな?』
「何でそんな事言えるんだ。フェイトちゃんは普通とは違う生まれ方をしたかもしれないけど、それでも血を分けた娘じゃないか! それなのに人形だなんて呼んで、要らなくなったら捨てるだなんて、酷すぎるよ!」
思いの丈を吐き出し、荒々しく肩で息をする僕に仮面の人が声をかける。
『私はただの伝言役だから、プレシア・テスタロッサの真意は分からないね。けど、((親が子を捨てるのは|・・・・・・・・・))((そんなに珍しい事|・・・・・・・・))かな?』
仮面の人の言葉はどこまでも冷たく、背筋に冷たいものが奔った。それと同時に突然アースラ全体が揺れ始めた。
『始まったようだね』
「一体何を始める気?」
『さっきも言ったと思ったけどね。プレシア・テスタロッサがジュエルシードを使ってアリシア・テスタロッサを蘇生させるんだよ。これはその余波だね』
リンディさんが問いかけると、仮面の人が呆れたように答える。
『止めに来ても構わないけど、簡単に止められるとは思わない事だね。こっちもただ玉座を任された訳じゃないんだ』
仮面の人がパチンと指を弾くと、アースラのオペレーターの人が慌てだす。
「屋敷内に魔力反応多数! いずれもAクラス!」
「総数60……80……まだ増えます!」
『さて、娘を取り戻そうとする彼女を止めに来るかい? そのつもりなら覚悟しなさい。私は本気で迎撃するよ』
どうするかは、もう決まっていた。
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