詩集「奏詞」景巻 |
【舞春】
淡く淡く舞い踊る春に降る雪
出会いと別れを彩るために
ただただ舞い踊りすべてを美しく飾る
だたでさえ心弾む出会い
さらに素敵なものにかえる
たとえどんな悲しみが伴っていても
最後には笑顔でいられるように和らげる
舞い終わったあとに
敷かれている薄紅色の絨毯は
人と人の交わり跡なのかもしれない
【春泳】
春の眠りに誘われて
うつらうつらと眠りにつく
いつまでも続くようなまどろみの中
起きていてはえることも出来ない浮遊感に身を包み
底のわからない夢の中を泳いでいく
春独特の陽気とも混ざり合いただただ漂っていく
目覚めるのが疎ましいぐらいの心地よい春の眠り
目覚める時は少々の気怠さを覚える
【滅姿】
月夜に照らせれて闇夜に浮かぶ桜
現代では目にする事の出来ない姿
古典のなかで紡がれ想像する事しか出来ぬ姿
無粋な人工灯に照らされている姿
美しくないわけでないただ作られた芸術で
どこも同じに見えて味気ない
心動かされるもの
人もモノもすべておいて
他とは同じでなく
そして限りなく自然であること
【誘夏】
ずっと近くなった青空
窓越しに見る白い雲と青空は
いやらしいぐらいに夏らしく
仕事に向かう自分を誘惑する
Uターンして遊びにいこうよ
そんな声を聞いた気がする
気のせいだとわかっているから
いつも何事もなかったかのように
ハンドル握り進んでいく
【夏夜】
夏の暑さが体けら抜けない
火照る体を癒すため
冷水を一口含む飲みほす
思った通り冷水は体を蝕むかのように
火照る体の中をゆっくりと静かに進んでいく
その感覚が楽しくて火照りが治まるまで
いくどとなく繰り返す
夏夜におこなういつもの動作
【彩魅】
色鮮やかに化粧をする山々
1年のうちで
一番派手な化粧をする季節
夏の青々しい化粧とはちがい
色艶のある魅惑の化粧をまとい
多くのものを山に誘い込む
甘い香り
瑞々しい空気
気づかぬうちに
惹きつけられ魅せされる
【粧冬】
冬の準備を始める街はどことなく枯れていて
それでいて1年の中で一番派手な色で飾られる
日の差す時間が短く闇の時間が長いから
無意識のうちに明るく暖かい配色を求め
闇の中でも明るいように寂しくないように
闇に押しつぶされて温もりを失わぬように
できるだけ明るく感じれるように
暖かさを肌で身近に感じられるように
派手な色で飾られていく
【霞月】
月にかかる白い雲
反射する月の光を浴びながら
薄い黄色に色づき
月の明るさを際立てさせる
ぱっと見は雲のせいで
霞んでいるように見える月
でもじっくりとよく見ると
雲のおかげでこれ以上がないくらい
はっきりと月の輪郭を感じることができる
【寂秋】
秋冬の夕暮れは
少しだけ寂しさが強い
夕日に染まる街並
帰路を急ぐ人々
すべてのものがどことなく
寂しさ漂わせている
温もりが近くにあれば
簡単に吸い寄せられる
そんな錯覚をおこすぐらい
秋冬は寂しさが強い
【歩桜】
桜が吹雪く遊歩道
四月に降る雪だと言った
貴方の言葉を思い出す
ある時は仲良く並んで歩きながら
またある時はベンチに座りながら
そしてシートをひいてお弁当を広げながら
眺めた四月の雪
今年も吹雪き舞い散る
どれだけ時間がたっても
自然の流れは変わらない
【同風】
窓から運ばれてきた風が心地よく部屋の中を通過する
湿った感じもなく乾いた風が通過していく
梅雨だという事をも忘れてしばし風の通過を楽しむ
この風はここだけを通過していったのか
それてもあの人の場所までもいったのか
願わくば同じ風を感じていたい
【祭狂】
心が勝手に踊った季節
夏と冬の間に短く存在する秋
肌で感じる時間の流れが極端に早く
気がついた時にはクリスマス前
そんなことがおこる不思議な季節
そしてその季節が今年もまた来た
たぶん気がついた時には終わっている
【優月】
黒い闇にうかぶ月
全てを照らす柔らかな光を放ち
ただただ空に君臨する
月光に照らされる草木は生き
夜の成長をとげる
その成長は外側でなく
内側ではじまり内側で終わる
【瞼思】
瞼にうつる懐かしい景色
今はまだはっきりとうつっている
けどこの景色もいずれは色あせて
最後には消えていく
最後の瞼にうつる景色は何だろうか
できればステキなものだよいのだけど
【期歩】
肌に感じる寒さが強くなるこの季節
暖かい飲み物を片手にゆっくりと街を歩きたくなる
子どもを連れて散歩している母子
畑の冬支度をしている老夫婦
遊び回るこども
何の目的もなくただただ目につくものを追いかけて
気が向き足が向くまま歩き続ける
【遊夕】
夕方の日がさす時間帯
なんだか今でもワクワクする
窓から入る光に照らせれると
沈んでいた気分が薄らぐ
なんてことは無いんだ
ただ昔から真面目じゃなかったって事の証明
当時は退屈な授業が終わり
夕日がさす時間
一番学生らしい時間の訪れだった
だから今でも夕方はワクワクする
【魅歪】
寒空にぼやけた月が見えた
周りに街頭が無いから
月明かりが眩しすぎてぼやけて見えた
太陽を眺めるように目を軽く細める
そこにはくっきりと輪郭を伴う満月が浮いていた
月の魔力とでも言うべきか
寒さも忘れ見惚れてしまう
【虚温】
天気があまりにもよすぎて
冬ということを忘れて窓を開けた
気持ちのいい風が開けた窓から入り
十分に火照っていた体を冷やしす
今の今まで残っていた火照りは
体からほとんどが散っていき
わずかに残った火照りも
窓を閉める前には散り去った
火照りが去った後は
ただただ虚しくて寂しい気持ちに包まれた
【補覚】
寒さの中で見つける彩りは
とても鮮やかに目に写り
焼き付けられる
同じ色なのに深く濃く
それでいて瑞々しい
感覚が色彩を変化させる
【憶薄】
冷たい部屋が当たり前のこの時期なのに
いつの間にか暖かい部屋が当たり前になっている
もはや肌で季節を感じることができるのは外にいる時だけなんだろうか
気がつけばいつの間にやら部屋では季節を感じられなくなっていた
冷えきった部屋で厚着して何かをしていた幼い頃の記憶
それさえも今では幻だったような気がしてならない
【枠画】
無邪気に笑い走り回る子ども
ちょっとばかりはしゃぎ過ぎて
母親に叱られふてくさせる
しばらく大人しく母親の側にいるが
次の面白い物を見つけたのか
ソワソワし目的に向かって走り出す
母親は声をかけ注意するも
わかっているとの返事を聞くと
暖かい笑みで子どもを眺める
いつみかけても心が安らぐ一コマ
【空遊】
窓から見える青空は
何かを語りかけてくる
しょうがないなと思い
仕事を投げ出して表に飛び出る
後ろで聞こえる声は無視する
残った仕事のことは明日の朝にでも考えよう
今はただ青空のことだけ
足の赴くままに空を見上げながら歩き出す
何を語ろうとしているのか
聞き漏らしたくないから
すれ違う散歩中の親子学校帰りの子ども達
みんな不思議そうに空を眺める
すれ違い様に目が合うと
何が見えるの何が聞こえるの
不思議そうな顔していた
耳をすまして聞いてご覧よ
聞こえるだろ青空の語りかけが
【雨鏡】
雨の日だけアスファルト一面に広がる鏡
自然の鏡がライトの光を反射させる
無粋な人工光が自然ととけ込み
新たな自然を作り出す
不思議な国に迷い込んだように
いつものと違う景色が広がっていく
見なれた景色が別の顔を見せると
ちょっとだけワクワクドキドキする
何だか幼い頃に感じていた懐かしい感覚
この感覚はいつの間にか
何処かに落としてきてたみたい
こんなにも楽しい感覚なのに
何だか損した気分でいっぱいだ
【窓絵】
ちょっと外にテーブルを出して
お茶にしましょうか
なんてね
窓からうつる景色だけを見ていると
とっても気持ち良さそうなんだけどね
アイスティーでもアイスコーヒーでも
麦茶でもジュースでもビール?でもいいや
それらを片手に二人なら
時間を忘れるぐらい語りましょう
一人ならゆっくりと時間が経つのを
感じながら世間の忙しさからくつろぎましょう
【化時】
こんな雨もたまには悪くない
天気ばかりの日が続くとそう思える
空調の効いた部屋から眺める
灼熱の外に突然降る雨
慌てて駆けていく人
カバンから傘を出す人
通り雨と踏んで店先の軒にたっている人
それを面白そうに眺める自分
色とりどりの人の行動
変わりのない日常にほんのちょっぴり
加わるアクセントが新鮮だ
【視反】
雨で湿った街は
どことなく大人びて
懐かしくて
そして色が霞んでいる
いつもと変わらず
賑やかなのに
ただ雨が降るだけで
印象が180度違う
涙で湿った心も
どことなく大人びて
切なくて
そして色が霞んでいる
いつもと変わらず
いるつもりでも
表に出る表情は180度違う
【ある雨の日】
ポツポツポツコンコンコン
ポツポツポツコンコンコン
二つの音が遊んでいる
意味もなく遊んでいる
ポツポツポツコンコッコン
時には音を変えて遊んでいく
規則がありそうでない不規則なリズム
イライラしていた気持ちをちょっとだけ
紛らわしてくれる