なにも映さないとき(恋姫短編)
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詠「じゃあ、今日もがんばりますか」

月「うん」

詠「今日はまず、あの馬鹿起こして、午前中は軍の訓練の視察と演習で午後は部屋の掃除だったかしら?」

月「うん。がんばろうね」

 

我ながら忙しいというか、節操のない仕事内容ね

たぶん三国探してもお茶入れする軍師も軍事会議に出席する侍女もボクくらいでしょうね

まあ、今日はまだいい

日によっては町の開拓計画なんて仕事もある

拾われた身だから文句なんてないんだけどね

 

 

詠「ほら朝よ、さっさと起きなさい。こっちだってほかに仕事があるんだから」

月「ご主人様ー。起きてくださいー」

一刀「…う、う〜ん…ふぁ〜あ…おはよう詠、月」

詠「おはよう」

月「おはようございます」

詠「ほら、さっさとどいて。寝台直すから」

月「じゃあ、私は準備に行ってくるね」

 

そう言って月は部屋を出て行った

部屋にはボクとあいつの二人きり

 

一刀「準備?今日何かあるの?」

詠「ボクたちは今日の午前に軍の訓練とかあるのよ。それより、か、一刀の方はどうなのよ」

一刀「う…なんか詠に名前を呼ばれると妙に恥ずかしいな」

詠「う、うっさいわね!いいじゃない、今は二人きりなんだから!」

 

ボクだって恥ずかしいわよ

でも、二人きりのときはなるべく名前で呼びたいのよ

絶対に口には出さないけど察しなさいよ

 

一刀「今日は午前中愛紗と恋とで警邏して、午後は執務室で朱里と雛里と桃香とで書類仕事だな」

詠「相変わらず一刀の周りには女が多いわね」

 

仕方ないことだけどね

一刀は皆の物ってことになってるし

 

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詠「あ〜あ、今日も疲れたわね。おやすみなさい、月」

月「うん。おやすみなさい詠ちゃん」

 

 

ボクが寝静まった頃

がさごそと普段なら起きないような小さな音でなぜか今夜は目覚めちゃった

 

詠(……ん?何よ?何の音?……月?)

月「…」

 

どうも月が起きてこそこそなんかやってるみたいね

あんまり意識がはっきりしないまま月を観察してると、月はボクに気付いた様子もなく部屋から出て行ったわ

 

詠(こんな時間にどこ行くのかしら?)

 

しばらくたっても帰ってこないから厠ってことはないって推測できるけど…

 

詠(一刀のところかしら?)

 

月にだって一刀にこっそり会いに行きたいと思うことはあるわよね

あの子は一刀のこと大好きだし

まあ、この時間に行ってやることといったら想像つくわ

一刀は皆の物だからボクにどうこうは言えないわ

 

詠(そうよ。ボクにどうこう言う資格はないのよ)

 

でも今頃、月と一刀が愛し合ってると思うとどうも嫌な感じするわね

 

詠(ボクだってたまにやってることを月がやってるだけじゃない。落ち着きなさいよボク)

 

ああ、でもなんか気になる

妙な焦燥感が出てくる

 

詠(ちょっとだけ…ちょっとだけ見に行こう)

 

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詠(一刀の部屋の前まで来ちゃったけど、やっぱり……いえ、ここまで来たら覚悟を決めましょう)

 

扉の隙間からこっそりとのぞいてみる

 

月「ご主人様ぁ…ご主人様ぁ…」

詠(やっぱりやってたのね。月だって一刀のこと好きなんだから当たり前よね)

 

月の声を聴いたときに最初に感じたのは苛立ちだった

 

詠(仕方ないじゃない、一刀は皆の物なんだから。ボク一人を愛してもらうなんて出来ないのよ。それに相手は月なのよ…まだ納得できるでしょう…納得しなさいよボク)

 

でも苛立ちは消えてはくれずに募るばかりだった

 

月「ご主人様ぁ…れろ…ぴちゃ…」

詠(……口淫かしら?……でもなんか変ね)

 

そのとき、雲が晴れたのか部屋の中が月明かりに照らされて多少は見えやすくなった

 

詠(自慰?一刀のやつそんなことさせてるっていうの?)

 

さらによく観察してみると…

 

詠(…あれ?一刀、寝てるんじゃない?)

月「ご主人様ぁ…あむ…ぺろ…」

詠(それに月が咥えてるのは…指?…何?…どういうこと?…あれじゃあまるで)

 

そこまで考えてると体験したことないような嫌悪感があらわれた

 

詠(気持ち悪い…気持ち悪い…汚い…気持ち悪い…気持ち悪い…汚い…汚い汚い汚い…うそでしょ…月?)

詠「……月、あんた何やってるの?」

月「ごしゅ……え?」

 

ボクと月の視線がぶつかる

月はボクを見るとすぐに顔を青くした

 

月「詠…ちゃん…?…違う…の…これは…ちが…ごめんなさ…やだ…見ないで…違う…のよ」

詠「…何やってるの?」

月「違うの違うの…ひっく…これは違うの…ぐすっ…何かのまちが…」

詠「何やってるのって聞いてるの。とりあえず部屋に戻りましょ。そこで話を聞くから」

 

部屋に戻ってる最中も月はしゃくり声をあげながら妙なうわ言を繰り返してる

いつもなら心配するところなんだけど

 

詠(気持ち悪い)

 

今のボクにはただただ腹立たしいだけだった

 

 

 

部屋に入ると月にボクの前に座らせて事情を聞こうとした

 

詠「で?あんたはあそこで何をしてたのかしら?」

月「…ひっく…違う違う違う…ぐす…これは違うの…ちが」

詠「何やってたかって聞いてるのよ!さっさと答えなさい!」

月「ひっ…うう…ぐす…うわあああああぁぁん…」

詠「………最悪。………他人の体使って自慰するなんて頭おかしいんじゃないの。……もういい、ボク寝る」

 

結局、ボクが寝るまでボクは月の泣き声を聞き続けた

 

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翌朝

流石に泣き疲れてたのか月は机につっぷすように眠っていた

言うまでもなく目元は赤く腫れ上がってる

 

詠「月、起きなさい」

月「…うーん…詠…ちゃん?詠ちゃん!わ、私…」

詠「今日からなるべく話しかけてこないで。あと、なるべく近づかないでボクにも一刀にも」

月「え、詠ちゃ…」

詠「じゃあ、もう行くから。一刀を起こしに行くけどついてこないで」

 

それだけ言うとボクは部屋を出ていった

あの女とは話したくなかった、視界にも入れたくなかった

 

 

詠「ほら、起きなさい。もう朝よ」

一刀「…う、う〜ん…おはよ、詠、ゆ…あれ?今日は月いないの?」

詠「おはよ。月は別の仕事に行ってるわ」

一刀「ふーん。…ん?」

詠「どうしたの?」

一刀「いやなんか手が濡れてるんだよ。なんだろこれ?」

 

月『ご主人様ぁ…あむ…ぺろ…』

 

詠「…っ!ちょっと一刀何やったのよ。拭いてあげるから来なさい」

一刀「え?なんか悪いな」

詠(汚い汚い汚い…あの女のにおいがする)

一刀「い、痛い痛い痛い。そんな強くしないでいいって」

詠(あの女のにおいが消えない…そうだ!)

詠「あむ…ちゅぱ…」

一刀「え、詠?」

詠「…ふう、これで大丈夫ね」

一刀「大丈夫って。なんでこんなことしたんだ?」

詠「え!?な、何って…消毒よ消毒!」

一刀「消毒って」

詠「ああもう!さっさと仕事に行きなさい!」

一刀「ちょっ!押すなって」

 

ちょっと強引だったかしら

でも、あの女のにおいは消えたみたいだし問題ないわよね

 

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今日の午前中は侍女としての仕事だった

部屋の掃除が終わったら一刀たちのところへお茶を持って行った

ちなみに月とは会っていない

あの女がどこで何してるかなんてどうでもよかった

 

詠「失礼するわよ。お茶が入ったわ」

桃香「ありがとね。じゃあ休憩にしよ」

 

部屋には一刀のほかに桃香、愛紗、朱里、雛里がいた

まあ、この部屋の標準的な人たちってところね

 

桃香「ご主人様〜♪」

一刀「あ、こら抱きつくな」

 

休憩中ということもあってじゃれつく二人

割といつも見る光景なんだけど

 

月『ご主人様ぁ…』

 

なぜかこの瞬間にあの場面が脳裏によぎった

 

詠(いつものことでしょ。なんでこんな気持ちになるの。一刀は皆の物なんだから仕方ないのよ。そう、仕方ないのよ)

桃香「えへへ〜♪」

一刀「重いだろ。まったく」

桃香「あ!女の子に重いなんて言っちゃいけないんだよ。そんなご主人様はこうだ!」

 

そんなことを考えててもそれに気づくはずもなく二人はじゃれあい続ける

 

月『ご主人様ぁ…あむ…ぺろ…』

 

詠(離れろ離れろ離れろ…汚い汚い汚い)

詠「……一刀、ちょっといいかしら?」

一刀「ん?どうした?」

桃香(あれ?)

詠「ちょっと話したいことがあるからあんたの部屋に来てくれないかしら。なるべく早く終わらせるわ」

一刀「早く終わるならいいけど…」

桃香(今、詠ちゃんご主人様のことを名前で呼んだ?)

 

 

 

部屋につくとすぐに一刀が尋ねてきた

 

一刀「話ってなんだよ?」

詠「…」

 

ぎゅっ

 

一刀「詠?」

詠「お願い、今すぐボクを抱いて」

一刀「え?まだ昼間だぞ。何言ってるんだ?」

詠「いいから抱いて。何も言わないで」

一刀「…分かったよ」

 

消毒しなきゃ消毒消毒消毒

 

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だめ耐えられない

その日以降そんなことを考えるようになった

ボク以外の女が近づくと一刀が汚れてしまう

何とか手を打たないと

でも、どうすれば…

 

詠(ああ、そうだ。ずっとボクだけを見てくれるようにすればいいんだ)

 

どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろう

ボクは一刀のことを愛してるし、一刀もボクのことを愛してるんだもの

なんの問題もないわよね

あはは…待っててね一刀

すぐにいいところを見つけ出してあげるから

 

 

 

一刀はボクだけを見てればいいの

一刀はボクだけの物なの

説明
また短編です
前回は「友情系を書く」と書きましたが、あれは「殺伐系を書く」のタイプミスです
今回は『なにも映さない夜』の続編です
http://www.tinami.com/view/550213
暗い雰囲気を払拭するドタバタを目指したいと思います
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コメント
詠が壊れてきてる!!(きたさん)
逆の立場だったら月の気持ちも判るだろうに〜。 ε=(・д・`*)ハァ…(劉邦柾棟)
ゆ、歪んでいる・・・・!(某ガンダムマイスターっぽく)(暇神(ヒマジン))
一体何が始まるんだ……!?(喜多見功多)
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