真・恋姫†無双〜絆創公〜 小劇場其ノ五 |
小劇場其ノ五
業務報告書
担当者コードネーム:ヤナギ
某月某日 晴天
本日も、九頭竜の動向は掴めずに何も問題なく過ぎていきました。警戒はこのまま解かないまま続けていきます。
失礼、たった今問題なくと書きましたが、厳密に言えば問題が全く無い訳ではありません。
あくまでも私自身の感想ですが、この世界の皆様の精神面について多少の違和感を覚えたのです。
表面上何も問題ないように過ごしていらっしゃるのですが、どうも…………欲求不満気味なようで。
九頭竜の挑戦状の件とアキラの提案した褒賞により、我々の提示した閨の制限規約がほぼ無い事になりつつあるものの、いまだに北郷一刀様との逢瀬に踏み切れないようです。
その大きな理由は、我々が一緒にお連れした北郷一刀様の御家族にあるようです。
愛しい男性の御家族にお会いして、嬉しい気持ちになる反面、はしたない姿を見せたくはないとも考えている、アキラ曰く“可憐な乙女心”故の悩みだと思われます。
御家族の皆様は、“それで幻滅したりはしない。むしろ愛する人と過ごす時間を沢山作って欲しい”と仰っていたのですが、やはりそれでも難しいようです。
このまましこりが残るのは我々も望む事ではありません。ですので御家族の皆様に協力を仰ぎ、ある事を試みました。
映像の記録は問題があるとこちらで判断しまして、同封したレコーダーにその内容が記録されています。
ちなみにこの時の状況ですが、謁見の間に北郷一刀様の御家族四名が集まり、しかもその外には、どこで聞きつけたのか女性陣全員が、扉とその周りに張り付いて中の会話を盗み聞いていたようです。
その為、彼女たちの声も入り込んでいるのですが、それも計算の上での会合です。
記録された音声は確認後消去して、レコーダーも完全に処分して下さい。
・記録された音声
「さて、皆準備は良いか……?」
「ええ、大丈夫よ」
「佳乃、扉はちゃんと閉まっているか?」
「大丈夫だよ、お父さん。ちゃんと確認したよ」
「えー、では……これより“一刀の伴侶会議”を始める……」
−ご、ご主人様のお嫁さん会議だって! 愛紗ちゃん!!−
−桃香様! 皆様に聞こえてしまいます!!−
−静かになさい。中の会話が聞こえないじゃないの−
−そうだっ! お前たち、華琳さまの邪魔になるぞっ!!−
−姉者、その声が一番大きいぞ……−
「では、各々の皆の印象を訊いていこう。佳乃、まずお前からだ」
「ええと……会う前は凄く逞しい姿を想像していたんだけど、でも皆凄く綺麗で、優しくて、それでいて強くて頭の良い人達だからびっくりした。カズ兄ちゃんが皆を愛しているって理由が、ちょっと解った気がする……」
−おお! 鈴々誉められたのだ!!−
−たぶん、鈴々じゃないと思うぞ?−
−お姉様の事でも無いと思うけど?−
−何だとっ!?−
「なにやら、さっきから外が騒がしいようだが……」
「きっと皆が鍛錬の準備をしているんじゃないかしら?」
−り、鈴々ちゃんも翠さんも、お、お静かにお願いしましゅっ!−
−ご、ごめんなのだ……−
−あ、ああ、悪い……−
「ふむ、そうかの……では次、燎一君の意見は……?」
「佳乃の意見と似ていますが、皆様非常に強い女性であると認識しています。それは武力がどうこうという話ではなく、精神面でという意味です。何人かは母親となっておりますから、命を授かり育てたという経験が、男性では持ち得ない女性特有の強さが、より一層引き立てるのではないかと……」
−蓮華はいまだに苦労してるみたいだけどね〜♪−
−ね、姉様! 私だってそれなりに努力を……!−
「ふむ……母は強し、という事か。では母親代表として、泉美の意見を聞こうか」
「ここに来る前は……宴会の時に話したように、皆のことを信じられなかったし、何よりカズ君が生きているって事も信じられなかったの……でもね、皆とカズ君の様子でお互いを想っている事が解ったから、私は皆の事を、どんな事があっても信じようって決めたの。カズ君が皆を愛するように、ね……?」
−……隊長のお母はんはメッチャ優しいな〜−
−ウンウン、すっごく憧れちゃうのー!−
「……それで、お父さんの印象はどうなのかしら?」
「正直、会う前は見くびっていた……三国の英傑に名を借りただけの小娘かと……だが、彼女らはその名に恥じぬ武の持ち主だ。だからこそ、もっと一刀を鍛えて貰わねばならん……あやつの為にも……」
−鍛えようにも、アイツは落とし穴避けていくのよ!?−
−そもそも落とし穴で、お兄さんの何が変わるんですかね〜−
−うっさいわね!!−
「さて、本題に入ろうか……一刀の嫁として、現時点では誰が相応しいか……?」
−……!!!?−
「お父さん、もうその話はあまりしないように決めたじゃありませんか……?」
「確かに決めはした……だが、それに甘んじて女としての精進をしないのは、果たしてどうかと思ってな……だからこそ、皆に集まってもらったんだ」
「まあ、お義父さんの意見は分からなくもないですが……」
「では、誰が相応しいと思う?」
「私は…………」
「佳乃は確か……紫苑さん達に気に入られていたみたいだったが?」
「あ、うん……紫苑お姉ちゃん達は、私も大好きだよ。料理も上手だって聞いてるし……でも」
「どうしたの?」
「私お酒弱いから……桔梗お姉ちゃんと祭お姉ちゃんは、お酒飲んでない時だったら……色んな事沢山話せると思う」
−酒を呑む事で出来る話もあるんじゃがのぅ……−
−そういうのは、まだ佳乃ちゃんには早いみたいね−
−うーむ、可愛い“妹”の為、酒を控える事も考えてみるか……−
「御三方の他には、誰かいるか?」
「……華琳お姉ちゃんは、素敵だと思う」
−あら…………−
「ああ、確かに華琳さんは才知溢れる女性だね……」
「あのね。ここに来た時に、華琳お姉ちゃんが最初に私を認めてくれたの」
「佳乃ちゃんを……認めてくれた?」
「うん。じっと強い瞳で見つめてきて……最初は怖いって思っちゃったけど、でも……何となくだけど、ちゃんと私を見極めようとしているのが解ったから……だから、色んな意味で凄い人なんだなって思ったの」
「なるほど……佳乃なりに、曹孟徳殿を理解したという事か……」
−ほう……一刀殿の妹は、なかなかの眼を持っているようですね−
−一刀と同じように、あの子も磨けば光るのかもしれないわね……−
「あ、あとね…………」
「ん? まだ誰かいるのかい?」
「白蓮お姉ちゃんも、良いお嫁さんになれると思う」
−ふぇっ!? わ、私が!!?−
「あら、白蓮ちゃん?」
「うん。肉じゃが……美味しかったから」
「ハハハッ。佳乃はそういう素朴な料理が好きだったなー」
「カズ君も美味しいって言ってたわね。そう言えば、私達の国で良く言う言葉だったかしらね。“肉じゃがが得意料理だって言う女の子と結婚したい”って」
−ッ!!!?−
「ふむ……将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、白馬長史の名に相応しい策と言えるな……」
「さ、策って……別にそこまで大げさな事じゃないと思うけど……でも、白蓮お姉ちゃん凄く頑張り屋さんみたいだから、カズ兄ちゃんと良い夫婦になりそうだなって思ったの……」
−うぅ〜、ありがとうな〜佳乃ぉ……これからも私頑張るよ〜。゚(゚´Д`゚)゚。−
−白蓮殿、そこまで嬉しいのですか……−
−……次は絶対、私が肉じゃが作るもん−
−なるほど、肉じゃがか…………(カキカキ)−
−何やら必死に書き残している者もいるな……−
「さて……泉美と燎一君の意見も聞きたいんたが、二人の事だ……おそらく皆相応しいと思っているんだろう?」
「ええ。だって皆カズ君とお似合いだと思いますから」
「皆さんと関係を持っておいて、しかも子を生しておきながら、特定の誰か数人を優遇するというのは、やはり……」
「あ、あの……私も本当は、皆に幸せになってほしいと……」
「やはり佳乃もか……しかしな、男女の関係になり子を設けたからといって、それで幸せとは限らん。ワシらの国でもいただろう? 子を産んでおきながら、その存在を鬱陶しく思い育児放棄する輩が」
「そ、それはそうですが、でもここの世界の皆さんはそんな非道な事は……」
「それをしない優しい方々だという事は重々理解している。だからこそ、皆には一刀との時間を大事にしてほしいのだ。人の命は永遠ではない。故に愛する人間が傍にいることを当たり前と思わず、貴重な自分との人生を分け合える素晴らしい事なのだと」
「フフフ……お父さんがそんな事言うなんて。ひ孫の顔が見れたから考え方が柔らかくなったのかしら?」
「そういえば、お義父さんは霞さんや凪さんがお気に入りみたいですが、それはひ孫の顔が見たいから子供のいない方々を優遇するという事ですか?」
「イ、イヤ、それとこれとは……!!」
−良かったな〜凪! ウチら一刀の爺ちゃんに認められてんで!−
−ハ、ハイ……///////−
「ゴ、ゴホンッ! と、とにかくだ。皆にはもっと一刀との時間を作る必要があるという事だ。今更一刀と話す事は無いかもしれないが、それでも良い。日常に起きた些細な事で構わない。それを少しでも積み重ねて、皆の中の大切な思い出として残していってほしいのだ」
「そうね……私達の事を気遣って、皆遠慮しているみたいだし……」
「もう一刀は、皆様のかけがえの無い存在だからな……」
「私達のせいで、ギスギスしてほしくない……」
−……………………−
「ところで……今回名前の出なかった面々だが、何も一刀に相応しくないという訳ではない。今回の我々の見解はあくまでも現時点での判断だ。他の方々はまだ発展途上というだけであり、今後変更になる事だってあり得る……」
−当然ですわ! 三国の名家の出である私が、敗北することなんてあり得ませんわ! 今回は言わば私の為の御膳立てであり……−
−麗羽さまっ! 声が大きいですッ!!−
「さて……長々と付き合わせてすまなかったな……では、今回はこれでお開きにする。皆の所に戻ろうか……」
−ドタバタッ!!……ガラガシャンッ!!……タタタタタッ!!−
「皆、行ったみたいだよ……」
「……あれでバレないと思っているのだろうか?」
「そもそも、あの大声で気付かない方が変だと思いますが……」
「ああいうのも、皆の可愛らしい所なのよね〜」
「しかし、こういうのはどうも悪い気がしてならん。気付いていないフリをしてこちらの会話を敢えて聞かせるなんて……」
「お義父さんも本当は嫌なんでしょう? 皆に評価を付けるというのは……」
「うむ……」
「そうよね……正妻なんていう肩書きだけで、カズ君の一番を決めてしまうのも、ちょっとね……」
「なんとかならないかな……?」
「この国の基盤に基づく以上、避けられないのかもしれん。皆平等になどというのも、綺麗事にしか聞こえん。だが、それを可能にすることが、ワシらかヤナギさん達に出来るのであれば……」
「まあ、それも何れ話し合いましょう。伴侶会議は、
あまり開きたくはありませんが……」
「……あ、レコーダーをヤナギさんに渡さなきゃいけないわね」
「……これどうやって止めるのかな?」
「録音ボタンがこれだというのは聞いたけど、停止は……」
「下手にいじったら消してしまうかもしれん。このまま持っていこう……」
「失礼、念の為内容を少し確認致します……」
一刀の家族四人からレコーダーを受け取ったヤナギは、それから伸びたイヤホンに耳を当てて、ボタンを操作する。
「……御協力感謝致します。あとは皆様、ごゆっくりと」
内容を確認したヤナギは、一刀の家族四人に深々と頭を下げた。
「ふう、これで関係が良好になればよいのだが……」
レコーダーを添付する報告書を書き上げたヤナギは、その転送手順を終えて一息ついた。頭を回して肩のコリをほぐしている最中に、報告書は姿を消した。
「さて……北郷一刀様の相手をしているアキラはどこにいるかな……?」
がら空きになった両手を胸の前で組んで、自分の守るべき相手と、この世界に一緒にやってきた部下を探しながら歩く。
家族の希望で、会議は一刀抜きで話し合いたいとの事だったので、時間稼ぎの為にアキラが対応していたのだ。
と、その歩みを急に止めて苦笑した。
「フッ、随分と暢気になったものだな、私は……」
そう。普段なら駆け足で二人を探すものを、今の自分はゆっくりと歩いている。
生真面目な性格の自分らしくなかった。
この世界、或いは北郷一刀の雰囲気に毒されてきたのか。
「まあ、気にする程ではない……どうせまた、アキラの変な言動に怒るのだろうな……」
半ば自分に言い聞かせるように呟いて、ヤナギは再び歩き始める。その視線が、兵士達と談笑している目的の人物二人を発見するのに、そう長くは掛からなかった。
その和やかな雰囲気に苦笑しながら、一応は部下を窘める言葉を頭に浮かべる。
それに気を取られていたからか、先程の報告書の件に対しての返信が、ヤナギの携帯のメールに届いていた事に気付いていなかった。
・メール文面
報告書と音声確認した。音声の消去、レコーダーの処分、滞りなく終了した。今後の両方の展開の報告を待つ。我々も対応を急ぐ。
追記:北郷一刀氏の要求した物、用意できた。そちらに転送する。確認されたし。
管理局長官 オオガミ
おまけ
談笑の内容の一部
「ヤナギ様なんだが、どこか親しみがあるよな?」
「ああ、俺も何となく思ってた。何か初めて会った気がしないんだよな〜」
「あ、その理由この前気付いたよ。ヤナギ様って蜀の兵士のヤツらに似ているんだよ」
「ああ、そうだ! 眼鏡を取ったら、そっくりだな!」
「そうだ! ヤナギ様は髪型もそっくりだしなあ!」
「だったら俺達と話は合うのかもしれないな!」
「……何だろう。この会話はヤナギさん本人に聞かせたくないような……」
「はい、俺も何となくそう思ってたんすよ。なんか……その他大勢みたいな言い方で……」
「うん。聞かせちゃダメだな」
−続く−
説明 | ||
投稿遅れて申し訳ございません。我々二人とも最近スランプ気味で。今回の話、今までもそうですが一番まとまりが悪いかと……(追記)おまけを書くのを忘れていました。追加致しました。 | ||
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