ディーゼルで待つ
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 まだ冬の寒さが残る三月の、ある晴れた夕方四時の駅ホーム。喧しいディーゼルの音、特有の臭いの中で、流れゆく紅の雲、どこまでも眺め続けた。紺色のセーラー服は夕暮れの茜に染まず、そこに有る。

「やあ文学少女。今日もここに座ってたか」

 くたびれたボックスシート。対面の老けた青年。学校の帰り道には、いつだってそう、彼がいて、微笑みかける。

「今日は、良い写真が撮れたんですか」

 日常の、数限りなく繰り返した挨拶。彼はそう、微笑み浮かべこう答え、楽しそうにメモリを見せる。

「ああ。昨日よりも素晴らしい今日を撮れたよ」

 彼の撮る写真はみんな、この列車。片隅にいつも、私のいる窓が収まっている。

「君は、いいお話を書けたのかい?」

 本当は、お話なんて作らない。ただ一人、白いページに書き記す単語達だけ眺め続ける。それだけが、私を癒す唯一の潤いであり、安らぎの時。首を振り、問いに対して返事する。彼はただ、曖昧に笑み、メモを見て。

「そうか。かなり沢山書き込んであるみたいだから、もう書き始めているのかと思ったけど、まだ構想を練っている段階か」

 そう言って、一人自分で答え出し、満足そうに首を振ってる。

「いつか、そのお話が出来たら読ませてくれよ」

 そう言って、いつも通りに降りていく。二つ隣の半無人駅。その背中、いつでもどこか、寂しげで、見える限りは見送っていた。

 

 そんな日々、遠い昔の夢の中。気がつけば彼は消え去り、残された私は一人、ディーゼルの中。待ち続け、待ち続けるの、そう思い誓ったあの日。もう彼は、戻らないとは知っている。茜色、紅の駅、轢死体。朱色の手、私の見てた眼前で。けれどまだ、私はそれを認めない。また彼が、微笑みながら現れて、写真を見せてくれるのだろう。お話を、書き終えるのを待つだろう。ただそれを祈って、今日も待っている。喧しいディーゼルの音、茜色、流れる雲は、変わらないまま。

説明
ふと昔やった書き方を思い出し思い出しで一時間ちょっとで書き上げてみた短編。この書き方をするとどんな言葉あったっけ……と考えながら書けるのでそこそこ頭にはいい刺激になってる、といいなあ。
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