夜天の主とともに 37.嘘と本当 |
夜天の主とともに 37話.嘘と本当
空は闇に包まれ、人気がないない夜空。
その空を断続的に金属をぶつかり合わせ衝撃音を出している影が2つあった。
「はぁぁぁぁぁ!!」
「………………」
かたや黒い戦斧、バルディッシュを振るうフェイト・テスタロッサ。
かたやその体躯を大人のそれへと変化させ、時野健一の体を使用しているジェットナックル。
離れたところから見たならば黄色の閃光と漆黒の風が瞬き、高速移動しているように見えるだろう。
両者ともに高機動型魔導師。移動速度もさることながら、一つ一つの攻撃速度も恐ろしく速い。フェイトがバルディッシュを振り下ろせば障壁で防ぎ、手甲で受け止め、受け流す。
ジェナが拳撃、蹴撃を放てばデバイスを打ち合わせて防ぎ、障壁で防いでいた。
両者は互角のように思えた。しかし当の本人、フェイトはそうでなかった。
(前よりも早いなんてものじゃない!なんとかついていけてるけどそれもギリギリ。それに一撃一撃の攻撃が重すぎて手がしびれてきてる)
それを示すかのようにバルディッシュを握るその腕は痙攣しているかのように震えている。
(このままじゃきっと追いつめられる。この人の攻撃をもらうとかなり危ないけどソニックフォームでいくしか)
「考え事とは余裕なのですね」
「!?」
一瞬。ほんの一瞬の思考であった。その一瞬でジェナはフェイトの背後を取っていた。
〈Sonic move〉
その瞬間ジェナの必殺ともいうべき拳が空を切った。周りを確認すれば少し離れた場所にフェイトは回避・移動していた。しかし、やはりよけきることができなかったのか脇腹を押さえていた。
「ありがとう、バルディッシュ。」
〈No problem〉
(バルディッシュのおかげで直撃は避けたけど少しあたっただけど、この威力‥‥危険だ。ただでさえ私は装甲が薄いのに)
フェイトはおそらくこの状態が長くは続かないと感じていた。そしてソニックでなければ対応しきれないことも。
「いまのを避けますか。いいデバイスですね。ここで消してしまうには惜しいぐらいには」
「私もバルディッシュも負けません。そしてあなたも救います!!」
「無理だ」
どうするかと思った時、ナリンの声が響いた。
『フェイト!下がれ!!』
それを聞いた時にはすでにフェイトは本能的にジェナから距離をとっていた。
「くらえや。フレイムランス・レイン!!」
気付けば上空にナリンが炎の槍のようものを大量に滞空させていた。それを見たジェナはすぐにその使用用途を把握し右手を上にかざし障壁を出した。
次の瞬間、炎の雨が降り注ぎジェナへと迫った。それと同時に後方から魔力の高まりを感じジェナがそちら見るとなのはが砲撃態勢にはいっていた。
「ディバインバスター!!」
バリア貫通の効果ももった高威力の砲撃は真っすぐジェナへと向かい襲い掛かった。
そしてその桃色の砲撃がジェナが新たに出した障壁に衝突するのとナリンの攻撃が衝突したのはほぼ同時だった。
2つの攻撃に挟まれるようにして耐えているジェナもさすがに耐えるしかないようだった。そして魔力の高まりが激しくなったと瞬間、爆発した。
防ぎ切ったジェナは辺りに立ち込めた煙を一気に吹き飛ばそうとしたが振り払う直前でその動きを止めた。そして体の向きを入れ替えた。背後にナリンが迫っていたのだ。
ナリンは驚いた顔をしていたがその動きを止めることはできずジェナの攻撃は無防備なその腹へと吸い込まれるように叩き込まれ―――――ナリンの姿が消えた。
「フェイクシルエット」
「!?」
その呟きとともにジェナの脇腹にロッドが叩き込まれた。戦いが始まって初めてまともに入ったその一撃はジェナを勢いよく吹き飛ばした。
瓦礫から這い出てジェナが見たものは二人のナリンだった。見ていると片方が幻のようにスゥと消えた。
「幻影‥‥」
「こういうのが得意なんや」
「素晴らしいですね。よき魔導師になれた事でしょう私に出会わなければ」
そう言うとジェナはカートリッジを2発ロードした。ナリンも攻撃に備えロッドを構えた。だからこそナリンは見誤った。近距離で戦闘に違いないと。
ジェナの両腕、両足の外側の側面から瞬時に魔力刃が形成され、その全てがナリンへと高速で放たれた。
「しもた!?」
〈Defencer〉
反応が遅れたナリンはすぐさまシールドを張ったのと魔力刃が衝突したのは同時だった。それは消えることなくガリガリとナリンの魔力を削り続け、さらに完全に足止めした。
「くっ、きついねんこれ!!」
「落ちなさい」
はっ、とナリンが横を向くとすでに脚を振りかぶっていた。しかも巨大化した状態だった。
「ナリン!」
そこにぎりぎりフェイトが割り込みバリアに魔力を集中させた。魔力刃の束縛から逃れたナリンもフェイトのバリアに重ねるように自分のバリアを張った。
フェイトとナリンによる二重の守り。しかし、それを見ても怯むことなく重々しい一撃を放った。
「「ぐぅぅっ!!」」
「いいコンビネーションですが……足りません」
一瞬の拮抗ののち、威力に耐え切れなかったバリアは砕け散りその衝撃で二人まとめて吹き飛ばされビルへと叩きつけられた。
「フェイトちゃん!!ナリン君!!」
遠く離れたところからそれを確認したなのはは更なる追撃をさせぬため即座にシューターを次々と放ったが、そのどれもが完璧に防がれていった。
「次はあなたです」
「そんなことはさせない!!レイジングハート、カートリッジロード」
〈Load Cartridge〉
「アクセルシューター!!」
〈Axel Shooter〉
「シュート!!」
レイジングハートから14発の魔力弾が放たれる。ジェナはそれを避けて進もうとするが、
(誘導弾………極めて追尾性能が高く速度もありますか)
「この数をコントロールできるとは末恐ろしいものです。ですが…」
両腕、両足に再び魔力刃を出したかと思うと近づいてきた4つのスフィアを切り裂いた。切り裂いたことにより小規模の爆発が起きたがその勢いも利用して一気に前進した。
それを阻もうとなのはも残る魔力弾を操りジェナへと放った。迫ってくるジェナに対して前後、左右からとタイミングもずらしながらジェナへと襲い掛かる。
ジェナはその光景を見ても気にも留めないとばかりにむしろさらに加速した。
向かってくる真正面の魔力弾を右腕の魔力刃で振りぬき、その勢いのまま左回転し裏拳する様に後方を左腕の魔力刃で切り裂く。
さらに行き着く暇も与えぬように左右から同時に迫る4つの魔力弾をその場で一回転するかのように両脚の魔力刃で一掃し一直線になのは目掛けて飛んだ。
一瞬で距離を詰めたジェナは拳を巨大化させ振りかぶる。
〈Protection Powered〉
バリアと拳のせめぎあいにより両者にかなりの衝撃が襲った。なのはのバリアはいまだ破られる気配はないが一発でダメならばとばかりに拳打のラッシュが襲った。
一撃だけでも大きな衝撃があるというのにそれが連打されるとなるといつまでもつかわからない。
(でもこのタイミングなら!)
なのははマルチタスクで防御に集中しながらも、ジェナに破壊されなかった残りのアクセルシューター4発すべてを背後から強襲させた。
「…………!?」
気付くのが遅れたか、避けることができなかったのかは定かでないが、アクセルシューターは全て吸い込まれるようにジェナの背中に全弾命中した。
背後からのダメージにより拳が止まりジェナの体が大きく仰け反る。これをチャンスだととらえたなのははそのままバインドし、動きを完全に封じようとした。
刹那、ジェナの眼がぎらついたかのように光った。なのはは反射的にバインドを途中放棄し、バリアを張りなおした。
瞬間ジェナは仰け反っていた体を勢いよく戻し、拳を大きく後ろに引き魔力を溜めはじめた。それに比例して拳をその大きさを肥大させる。
(逃げてもジェナさんのスピードだと逆にすぐ追いつかれてやられる!ここは防御なの!!)
そしてその鉄槌が振り下ろされた。
バリアと激突した瞬間これまでのとは比ではない轟音と衝撃がなのはを襲った。
「……カートリッジ」
さらにジェナはカートリッジロードすることで威力を上げ、そのまま押し込もうとする。さきほどまでのラッシュ、そしてこの攻撃についに耐え兼ねはじめたのかバリアにひびが入り始めた。
しかも衝撃とは別になのはを吹き飛ばそうとする不可思議な風がなのはを襲っていた。衝撃と風圧に負けないように踏ん張るがそれも時間の問題だった。
「終わりです」
「まだっ!まだ終わってあげたりなんかしない!!」
〈Barrier Burst〉
バリアの魔力が急速に高まっていく。ジェナもそれに気付き押し込む拳をさらに強めようとするが、それよりも早くバリアは爆発した。
その爆風と衝撃でジェナは大きく距離を取らされた。至近距離での爆発であるためダメージも少なからず与えられていた。
〈マスター、大丈夫ですか?〉
「う、うん。大丈夫だよレイジングハート」
しかし、なのはも無事とは言い難い状況だった。今のでダメージがなかったとは言えど、今の間での疲労が蓄積される。
「お願いです、止まってください!!こんなこと……はやてちゃんはもちろんあなたのマスターも望んでないはずです」
「…………マスターは心優しい人だった。いつも主はやてや騎士たちのことを想い、共に在ることを願っていた。しかしその願いもお前たちに壊された」
辺りが静寂になりジェナの声が響き渡る。その声音は悲しみに彩られていた。
「ならばせめて、せめて最後の願いぐらいは叶えて差し上げたい。それを邪魔するものあらばたとえ誰であろうと‥‥‥」
「嘘だよ、そんなことない!!そんなの本当の願いじゃない!!あなただってそうじゃないことぐらいわかってるはずだよ。あなた自身だって本当はこんなことしたくないはず」
「私はデバイスです。マスターの願いを遂行するだけです」
「なら‥‥‥」
なのはは唇をかみしめながらジェナに向かって叫ぶ。
「どうしてあなたは泣いているの!!」
「!?」
ジェナが自分の頬に手を当てるとそこは濡れていた。なぜと思った。そして自分が涙を流していることに気付いた。
「これは……」
「本当に考えていないのだったらそんな悲しい顔はしないはずです」
気付けば後方数十メートル離れた場所にフェイトとナリンがいた。お互いに肩で息をし、ダメージもあったがそれ以上に悲しそうな顔をしていた。
「フェイトの言う通りや。遂行するだけ?そやったらなんでいちいちこっちを褒めたりするんや。いまだってそうや。あんたはあいつの願いとやらをせずにワイらの話を聞いとる。ホンマはあんただってしたくないんや」
「……黙れ」
ジェナが何かをこらえるように顔を俯かせる。涙の雫が頬を伝い、地上へと落ちていく。それでもなのは、ナリン、フェイトは言葉を紡ぐのをやめない。
「あなたは健一君を、はやてちゃんを、ヴィータちゃん達を助けたいと思ってる」
「そんでワイらも助けたい」
「だから戦闘をやめてください!!」
「黙れぇぇぇぇぇぇ!!」
直後、魔力が爆発するかのようにジェナを中心に漆黒の風が拡散した。突風に煽られながらも3人はその場を離れない。
止まることなく溢れ出る涙をぬぐうこともせずにジェナは心の激情を表すかのように叫んだ。
「私はッ!もう止まることはできないのです!私がどれほど願おうと歪められたマスターの願いを……改変を受け壊れた私が聞き入れてしまった以上……どうすることもできないのです!!」
「どうにもできなんてことはないの!」
「それでもって言うんやったら……」
「私たちがあなたを救います!」
ジェナは頭を振る。この短時間で自身の感情をコントロールしたのか、壊れた機能によるものかは定かではなかったが、その眼に涙はなく無表情へとなった。
「バルディッシュ!!」
〈Sonic Form〉
一瞬光に包まれるとフェイトは装甲をさらに薄くした状態へと換装した。
「まともな装甲部分は私の攻撃を受けに使う手足のみ………あなたは死ぬ気ですか?ただでさえあなたは装甲が薄いのですよ?それならば少し当るだけでも堕ちるでしょう」
「あなたの速度に追いつくためです。それに私とバルディッシュは堕ちませんよ、あなたを救うまでは」
〈Yes Sir〉
両者は静かに構える。次の瞬間二人の激突が始まった。
夜空を飛び交う二人は何度も斧と拳・脚を激突させその度に来航でも走るかのように火花が散る。足場のない空中にもかかわらず自らの攻撃力を削ぐことなく様々な角度からお互いの攻撃を返し、返し、返し続ける。
フェイトは自らの防御力を削ぐことでこれらを実現している。しかしこれは諸刃の剣。ジェナが言った通り掠るだけでもダメージを受けまともに受ければ再起不能となるだろう。
ジェナは両腕から出る魔力刃を阻害しないため肩辺りまでの装甲は除去されているがそれでもフェイトに比べれば装甲は十分だった。
しかし、焦っていたのはジェナの方だった。
(瞬間的な速度は私のほうがわずかに速いですが、この機動力・攻撃速度の持続力は私以上ですね。………決死の覚悟というわけですか)
結果的に最初とは逆にジェナが受けをすることが多くなっていった。そしてジェナが対抗策を練る前に予想外な出来事がさらに続く。
「こ、これは!?」
「チェーントラップや!」
急に動かなくなった手足は突如空中に現れたチェーンバインドによって縛られていた。そうしている間にもバインドの数が増えていく。
「これほどのバインドを設置するような時間はなかったはず………まさか!」
「そのまさかや。ワイが意味もなく魔力弾をばら撒くわけないやろ」
ジェナに放ったフレイムランス・レインの中にいくつか発動のキーとなる魔力弾をばら撒かれていたのだ。さらに各地に設置されたことも同時に発生した爆煙を隠れ蓑にすることでジェナに気付かれることもなかった。
「しかし、私が通るとは限らないはず」
「だから私が誘導させてもらいました」
そう言うのはフェイトだった。同じ高速戦闘ができ、ジェナを押さえることができたフェイトだからこそ為せた策だった。
「ですがこの程度のバインド、すぐに壊して……」
魔力を大量に放出しながら無理やりに壊そうとする。それに耐え切れず次々にバインドが壊れ始める。
「させないの!!」
それを見計らったようになのはがさらにバインドを重ねがけしてジェナを拘束した。それに抗い続けようとするジェナだったが、ついに限界が来たのかゴボッと吐血した。
「ジェナさんもう止めてください!!」
「これ以上動くとあなたが危ないです!!」
「オオォォォォォォォォ!!」
なのはとフェイトの言葉もすでにジェナの耳には届いていなかった。限界が来たことで一気に暴走状態へと移行しようとしていた。
段々と意識が遠のいていくのをジェナは感じた。その時だった。声が、声が頭の中に心に響いた。
『…もう、いいんだ』
それはとても優しい声だった。
『もういいんだよ、ジェナ』
もう一度、できることならばもう一度聞きたいと思っていた自分の心を安らげてくれるあの声。
『みんなならなんとかしてくれる、きっと』
その声はすでにジェナに影響を与えていた。暴走寸前だったジェナが完全にその動きを止めていたのだ。眼を見開き、その眼からは涙があふれる。
『俺の馬鹿な願いで……ごめんな。もうそんなことしなくていい。だから…もう休もう』
「……はいマスター」
そこで三人は驚いた。あのジェナが笑っているのだ。今までのを払拭する程に優しい微笑みだった。
「高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ナリン・ノーグルよく聞きなさい。いくら私が望まなくとも暴走を止めることはできません。方法は一つ。私を大きな魔力ダメージでぶち抜きなさい。そうすれば暴走機能がエラーを起こし止めることができます」
「で、でもそんなことしたら……」
「早くしなさい。長くはもちません」
ジェナの言葉通り一時は動きを止めていたそれも再び暴走しようとバインドをギシギシ軋ませていた。
「……了解や。なのは、フェイトいくで!!」
「「うん」」
ジェナから離れ砲撃態勢に入る三人。視線の先では少しずつ束縛から逃れ始めているジェナ。しかし、依然とその柔らかな表情は変わらない。
「ディバインバスター・エクステンション!!」
「プラズマスマッシャー!!」
「ヴォルテックスファイア!!」
三つの砲撃が混ざり合い巨大な砲撃へと変貌を遂げジェナへと一直線に放たれた。うねりを上げその奔流がジェナを飲み込んだ。
凄まじい轟音と煙があがった。そして煙の中の人影がぐらりと揺れた。その揺れがさらに大きくなりジェナは地上へと真っ逆さまに堕ちていった。
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更新遅れました。今回も長めの文となってます。最後まで読んでくれたら嬉しいな。 | ||
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