cross saber 第12話 《聖夜の小交響曲》編
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第12話?戦慄の訃報? 『聖夜の((小交響曲|シンフォニア))』編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【side イサク】

 

俺達の住むアラディフィスの中枢とも言える中央都市管理局はその名とは裏腹に都市の東の外れの方にある。 まあ、中心にはシンボルである大山“サンベルク”が堂々とその身を構えており、その周辺は観光客やらなんやらで賑わってしまっているから仕方ない。

 

飾り気のない白質の石で構築された管理局の佇まいはまさしく“威風堂々”を形にしたようなもので、逆にあんなところにあったら困るほどである。

 

俺達が今いるのはその最上階に位置する第一会議室の扉の前。 分厚い壁を隔てて、向こう側にはこの都市の上層部の中でもさらに位の高い者のみが定着することのできる場所がある。

 

その会議は八人の権力者によって執り行われるため、“八部会”と呼ばれ、法律の制定や自治政策、対外政策などの最終決定機関である。

 

ゆえに、一般人はおろか、並の地位の者ではこの階層に足を踏み入れることさえ許されていない。

 

隣に立っているマーシャが柄にもなく震えるほどに緊張している理由もわかってもらえるだろう。 俺だって、質の良い赤いカーペットが引かれた床上に立っていることに少々重々しさを感じる。 それでもレイヴンに至っては、いつものような落ち着いた目つきで物珍しげに辺りを見回していた。

 

やがて、扉が内側に向かって少しだけ開き、その影から赤い眼鏡をかけた美しい女性が現れた。

 

「八部会の命により、ただいま参上しました」

 

俺が三人を代表してやや緊張気味にそう告げると、彼女は「それでは」と、凛として言い、俺達を中へと通した。

 

初めて入るその場所は固く闇に埋れており、所々に置いてあるオレンジの光を灯す蝋燭が唯一の光源だった。 だが、その光も物寂しく微かに周辺を照らすだけなので、視界は非常に悪い。

 

目を凝らすと、数メートル先に扇型のシルエットが視認できる。 おそらく会議用の長机であろうその奥には、等間隔に大きな椅子が八つ並んでいるようだった。 八つの席はすべて埋まっており、それぞれの人影の前にはその役職を示すプレートが設置されている。

 

俺はその中に見覚えのある人物を見つけた。 不意にそちらから声が飛んできた。

 

「おお。 イサク君……だったかな。 こんなにも早い再会になるとはな」

 

暗闇の中でもはっきりと視認できるような異様な明るさを持った紅い瞳。 背景に溶け込むような漆黒の髪は綺麗に後頭部で結われており、鋭く尖った顔の輪郭を際立たせている。 おそらくは八人の中で最も若いと思われるが、その身にまとうオーラは周りのそれに劣らない。

 

「どうも。 三週間ぶりです」

 

慣れない敬語で俺が応えると、彼が暗闇で満足そうに頷いた。

 

研究局局長の肩書きを持つこの人物と出会ったのは前述の通り三週間前、“露店街襲撃事件”のあった場所で、実際に対峙した者の意見を参考に聞かせて欲しいと、俺に話しかけてきたのだ。

 

その胸に、八部会のメンバーの証である豪勢な黄金の紋章を見つけた時には驚きを隠せなかった。 同時に、都市を一様に背負う人物が身分のはるかに違う研究員と共に熱心に調査を行っていることに感服したものだ。

 

確か名前を、ディラクールといった。

 

「あの件は本当に世話になったな。 それでまた急な話なんだがーー」

 

彼は俺の急く感情を読み取ってか、余談も一時のうちに本題を切り出した。 どうやらこの件は、研究局に一任されているらしい。

 

「今回君達を呼び立てたのは他でもない、レベル4警報に関することだ」

 

俺が頷いた横で、堪えきれなくなったようにマーシャが口を開く。

 

「あの……今回の対象って……」

 

彼が予期していたように、マーシャの言葉を片手をあげて制して続けた。

 

「うむ。 君達の気持ちはよく分かる。 そこで先に述べておくが……安心してもらいたい。 此度のことにラバールは関係していない 」

 

俺とマーシャは同時に大きな安堵の息を漏らす。

 

ーー良かった。 良かった!!!

 

今まで張り詰めていた糸が切れたように身体の力が一気に抜ける。

 

だが、俺達は安心したことですっかり忘れてしまっていた。

 

レベル4警報の対象は、ラバールではなくとも確かに存在するのだということを。

 

それを再認識させたのは、ディラクールの静かで威厳を含んだ言葉だった。

 

「しかし、此度の件は、この百年の平和の歴史の中で、最も驚愕的なことだと言ってもいい。 なぜなら………“スウル村”が壊滅したのだからな」

 

「なっっ!!?」

 

安堵から一転、すぐさま身体を揺らすほどの衝撃に打たれた。

 

ーー壊滅……?

 

一つの単語が重々しく喉に突っかかってうまく飲み込めない。

 

“スウル村”はのどかな農耕産業を営む平和的なイメージしかないため、なかなかどうして一致しない。 それが、壊滅だって!!?

 

と、今まで黙っていたレイヴンが平然と丁寧語のカケラもなく問うた。

 

「それには亜獣が関わっているのか?」

 

周りの高位の何人かが憤慨の声をあげたが、ディラクールはさして気にする事なく応えた。

 

「ほう……。 察しがいいな」

 

俺とマーシャが驚く横で、やはりと言うように顎に手を当てるレイヴンに目を向けながら彼は続ける。

 

「どうやらそうらしい。 現場には何体か死骸が残っていたそうだ。 あの妙な炎を残滓として消え失せた異質な亜獣の痕跡はまだ発見されていないがな」

 

彼は後半はチラリとこちらを見ながら言った。

 

俺はなんとか一度冷静になり、思考を巡らす。

 

ーーってことは、大量発生してた奴らの方か。 つまりあの妙な亜獣は、希少種なのか? どちらにせよ、情報が少なすぎるな。

 

そう考えると今回呼び出された理由が何となく分かってきた。

 

「君達には研究員を伴って、ラバールとの連携調査を行ってもらいたい。 まだ残党が残っている可能性も怪しまれるからな。 実を言うならもう少し動員したいのだが、この状況だ、都市に危険が迫り得ることを考えると人を割けないのだ」

 

「なるほど。 だから、“三剣”の名を冠する程の力があって、ラバールのメンバーとの連携も取りやすい私達が適任というわけですね」

 

落ち着いてくるとさすがに頭の回転が速いマーシャがその意図を汲み取る。

 

ディラクールは「本当に話が少なくて助かるよ」と、苦笑しながら言うと、果たして今までの穏やかな雰囲気を残しつつも強い口調になって告げた。

 

「それでは、自体は急を要するからな。 話もこれくらいにして任務を発令する。 満を時して臨んでくれ。 ……それと、我々は君達を頼りにしている。 しっかり頼むよ」

 

俺とマーシャは姿勢を正して「はいっ!」と明朗に言い礼儀を済ませると、浮かない様子で立ち竦むレイヴンを引っ張って扉を音高く開け放った。

 

外へと飛び出すと、もう薄暗いはずなのに、俺は奇妙な眩しさを感じた。

 

 

 

 

 

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【side マーシャ】

 

「マーシャ!!」

 

目的地の“スウル村”まであと少しというところで、足を淡々と動かすマーシャの耳に馴染み深い友の声が聞こえた。

 

「ハリルちゃん!」

 

そちらへ目を向けると、威勢良くツンツンと跳ねた金髪を揺らす大剣使い、カイトを先頭に、5人編成の小隊が隣に並んだ。 その中に小柄なショートボブのレイピア使いを見つけて声をかけ返す。

 

しかし、無駄話をするような場ではないので、軽い挨拶を終えたあとでカイトがすぐさま本題を切り出した。

 

「最近音沙汰がないと思っていたのにね……」

 

「ああ……。 まさかこんなことになるとはな」

 

イサクも眉を寄せて低く言う。

 

二人共、もう自らの驚きや悲嘆の感情を可能な限り排除することにしたらしい。

 

確かにこの先、どんな危険が潜んでいるか分かったものではない。 もしそこに亜獣の群れが残っていたらーーいや、最悪の場合には露店街を襲ったあの鬼のような、悪魔のような異形の獣を相手取らなければならないのだ。

 

あの進化した亜獣が複数体いたとしたらそれこそーー

 

ーー最早考えるべきでない。

 

だが、それでもマーシャは心の内のもやもやしたものを晴らせないでいた。

 

“スウル村”にはマーシャと同じくらいの歳の少年、少女が何人もいるはずなのだ。 温厚な老人も、愛らしい赤ん坊も。 その人達の身に起こったであろうことを想像するだけで、心臓を鷲掴みにされたような苦しさを覚える。

 

隣を並んで走るハリルも、その顔を悲痛と心配の念で曇らせていた。

 

「…何でこんな……」

 

マーシャは思わず答えのあるはずのない疑問を小さく口にしていた。

 

ーーあの獣達は何の理由もなくこの地に生誕したの? 何でこんなに酷いことをするの?

 

きっと誰にも答えることはできない。

 

だからこそ、やるせない気持ちが無限に膨らみ上がる。

 

「……理由なんて分からないけど……僕達は護ることができるんだから、今はただそれを成すだけだよ」

 

ふと、マーシャの心中を読んだように前を走るカイトが顔を向けることなくポツリと言った。

 

「……うん、そうだよ。 向こうに理由がなくたって、私達には命令されるより先に自分の意志がちゃんとあるんだもん」

 

続いてハリルが自分に言い聞かせるようにゆっくりと言う。

 

ーーそうだ。 私達は皆を護りたい。 皆と幸せに暮らしたい。

 

だから、茨の道と知りながら剣をとったのではないのか。

 

嘆くことを愚かだとしてはいけない。

 

私達はその嘆きに打たれ、二度と同じ過ちを繰り返さぬように己を戒めなければならないのだ。

 

ただ、だからと言って悲しみに浸るだけではいけない。 まだそこに護ることのできる余地があるのだから、後ろを向くことなく一心に走る。 それが、今の私達の使命であり、意志であり、希望なのだ。

 

「……そうだよね、二人共。 きっとまだ“スウル村”には無事な人がいるはずだもんね……。 今から怖気づいてる暇なんてないんだ」

 

マーシャは決意に心を転換し、呟いた。

 

ハリルとカイトが肯定に頷く。 マーシャも自分に認識させるようにしっかりと頷き返した。

 

と、その瞳に僅かに前方を走るイサクの表情が映った。

 

何故か彼の顔色がいつもより暗く沈んでいる気がした。 苦しみに歪んでいるようにも見える。 だが、悲痛でも怒りでもない。 これはーー

 

 

ーー恐怖………?

 

 

普段の落ち着いた状況分析に長けていて怖いもの知らずのイサクには滅多にないことだ。 が、マーシャは確かに、彼からなにかに怯えているような不安を感じ取ったのだ。

 

思い返せば最近の彼は、いつもの明るさを微かに薄れさせていた気がする。

 

いつかに彼が「後で話す」と言っていた話に関係があると、確信に似た予測があったが、どうしても聞くことができなかったのだ。 だが、今のイサクを見ていると居ても立っても居られない。

 

マーシャは思い切って口を開く。

 

「……ねえ、イサクーー」

 

「着いたぞ!!!」

 

果たして、マーシャの少々控えめな声は、彼に届く前に緊張で張った大声に阻まれてしまった。

 

いつの間にか目的地に到着したらしく、ラバールの研究員の一人がそれを知らせたのだ。

 

マーシャは不意に意識を戻され、気を張る。

 

そして、皆が張り詰めた空気の中その光景を見て、絶句した。

 

そこには以前の、緑豊かで様々な動物が闊歩する平和的な村の跡は一切なく、ただ剥き出しになった抉れた地面の上に無残にも乳牛や羊が伏し、原型を留めていない生活用品であったであろう残骸が散乱している様子が、ずっと広がっていた。

 

 

 

 

 

説明
春休みということでSAOを一話から見返してるんですけど、ユイが激辛サンドウィッチを食べて「おいしい」って言うシーンが物凄く好きなのは僕だけなんですかね?

はい、そんなことを考えている作者ですが、前述の通り春休みなので若干投稿が不規則になると思います。

それでも一週間に一回は投稿するつもりですので、お楽しみに。

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