魔法少女リリカルなのは〜原作介入する気は無かったのに〜 第五十九話 すずかを狙う者
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 〜〜???視点〜〜

 

 「…依頼だ」

 

 「……………………」

 

 「対象は月村家当主の月村忍とその妹、月村すずか」

 

 「……………………」

 

 「妹の方はお前と同い年だ。だが…」

 

 「……………………」

 

 「我が一族の生業は理解しているな?」

 

 「……………………」(コクン)

 

 「ならば躊躇するな。対象者は必ず…」

 

 「……………………」

 

 「殺せ」

 

 「……………………」(コクン)

 

 

 

 〜〜???視点終了〜〜

 

 本日は週末の金曜日。

 普通に授業が終わり、放課後に図書館へテレサを案内しに来ました。

 本人もこの街の図書館にある書物に興味があったみたいで俺が付き添う事になった。

 シュテル達は明後日で短期メニューが終わるため、今日は朝から訓練校に通っている。

 で、図書館に来たら

 

 「あれ?勇紀君とアリサちゃん?」

 

 すずかがおりました。

 

 「すずかか。今日は一人か?」

 

 「うん」

 

 「こんにちはすずか。何か本を借りに来たの?」

 

 「こんにちはアリサちゃん。そうだよ」

 

 すずかが手に取っているのは…

 

 「料理の本?」

 

 本屋でも売っている様な料理の本だった。

 

 「ノエルさんにでも頼まれたのか?」

 

 「違うよ。これは私が料理の勉強をしようと思って」

 

 すずかが料理の勉強か…。

 

 「私も料理ぐらいは出来る様になりたいなと思って(勇紀君の好みに少しでも近付きたいから)」

 

 「そうか…頑張れ。俺も何か手伝える事があったら手伝うし」

 

 「じゃあ、お願いがあるんだけど…いいかな?」

 

 「お願い?何だ?」

 

 「もし…もし私が料理を作れる様になったら最初に勇紀君に食べて貰いたいんだけどいいかな?//」

 

 「それぐらいならお安い御用だ。楽しみにしてるよ」

 

 「!!うん!私、頑張って勉強するから待っててね!(これで少しでも距離を縮められたらいいな。勇紀君に教えて貰うのもいいけど、自分で頑張ったら勇紀君、凄く褒めてくれそうだし)」

 

 やる気が入ったすずかを見て俺も微笑む。本当に楽しみだ。

 

 「…じゃあ、私も何か本を探してくるわね」

 

 テレサはそう言って別の棚の方へ行ってしまった。

 

 「私はあそこの席でこの本を読んでいるよ。勇紀君はどうするの?」

 

 「そうだなあ…。俺も適当に面白そうな本を探してこようかな?」

 

 すずかと一旦別れて俺も図書館内を色々歩き回りながら面白そうな本を探す。

 …と言ってはみたものの、中々良い本が見付からない。

 SF、ラブコメ、ミステリー………。

 色々なジャンルの本棚を見て回り、何冊か手に取って軽く読んでみるがこれといったものが無いんだよね。

 軽く読んではすぐ本棚に戻すという行為を何度か繰り返す。

 結局、一冊も面白い本に出会えず手ぶらなまま、すずかの座っている席に戻って来た。

 俺がすずかの近くまで寄ると本を読んでいたすずかが顔を上げる。

 

 「あれ?勇紀君、本は?」

 

 「『コレだ!』っていうのが無くてな」

 

 すずかの隣の椅子を引いて座る。

 俺はランドセルから教科書とノートを取り出す。

 

 「予習か復習でもするの?」

 

 「今日の宿題。『18ページの問2〜問4をやってくるように』って先生が言ってたから」

 

 「そうなんだ」

 

 その言葉を最後にすずかは再び本に視線を戻し、俺は問題を解き始める。

 そういやテレサの奴はまだ本を探してるのか?

 宿題をしながらそんな事を思ったのでノートから顔を上げてキョロキョロと辺りを見渡す。しかしテレサの姿は視界に映っている範囲の中には見当たらない。

 

 「(まさか迷子になってないよな?)」

 

 テレサに限ってそんな事は無いと思いたいが。

 視線を教科書とノートに再び戻して宿題を続ける。

 しかし小学生の問題だ。10分もかからずに全問解き終え、する事が無くなってしまった。

 隣のすずかは真剣に本を読んでいるので声を掛けるのを憚られてしまう。

 

 ブー…ブー…

 

 「ん?」

 

 ポケットの中で携帯が揺れる。図書館内で着信音が鳴るのはいけないのであらかじめマナーモードにしておいた。

 

 「(誰だろう?)」

 

 ディスプレイに表示されている相手の名前は

 

 「(さくらさん!?)」

 

 メガーヌさんが家に来る以前、俺の保護者代理人になってくれていた『綺堂さくら』さんだった。

 さくらさんからの着信はメガーヌさんが保護者代理人になってくれる旨を連絡して以来だから、ずいぶんと久しぶりだな。

 けど図書館内で携帯を使う訳にはいかないので席を立って外に出ようと足を動かす。

 すずかは俺が席を離れた事にも気付いていない様なので声を掛けずそのままにしておく。

 図書館から出る前に携帯の震えが止まり、画面には『着信あり』の文字が表示されている。どうやら切られたみたいだ。

 外に出た俺は自分からさくらさんの携帯にかけ直す。

 

 「もしもし、勇紀ですけど」

 

 『あっ、勇紀君?さくらだけど…』

 

 「お久しぶりですさくらさん」

 

 『本当に久しぶりね。元気にしてる?』

 

 「ええ、毎日健康に過ごせてます」

 

 『そう…それなら良かった』

 

 「ところで突然連絡してくるなんてどうかしたんですか?」

 

 『実はもうすぐ海鳴に着くのよ』

 

 海鳴に?さくらさんがこっちに来るのか?

 

 『少し忍に用があってね。で、折角だし勇紀君の様子も見ておこうと思ったんだけど』

 

 忍さんに用事か。しかも直接会って話すって事は月村家の問題なんだろうな。

 

 「さくらさん、なら俺が海鳴駅まで行きますよ」

 

 『えっ?別にそこまでして貰わなくてもいいわよ』

 

 「でも今、図書館の前にいるんですよ。ここから駅までならそれ程時間も掛かりませんし。後、すずかも一緒にいるんですよ」

 

 『すずかも?』

 

 「偶然図書館で会ったもので。今は中で本を読んでます」

 

 『そう』

 

 「それに俺から会いに行った方がわざわざ家に来る手間も省けますし」

 

 図書館では特に読みたい本も見付からなかったし。

 そうと決まれば中にいるすずかとテレサに一声掛けておかないと。

 

 「だからもし俺より先に海鳴駅に着いたら待ってて貰えませんか?」

 

 『…分かったわ。なら海鳴駅前で会いましょう』

 

 そう言ってさくらさんとの通話を終え、図書館の中に戻る。

 

 「あっ!?勇紀君、何処行ってたの!?」

 

 中に入ってすずかのいる場所に戻ったらすずかが声を掛けてきた。

 多少大き目の音量だったので静かな図書館内にすずかの声が響き渡り、一部の人達の視線がこちらに集まる。

 

 「すずか。声抑えて」

 

 「あっ!?………はう//」

 

 俺が指摘して気付いたすずかは恥ずかしそうに俯く。

 

 「まあ黙って側を離れたのは悪いと思うけど、すずかが本を真剣に読んでたから声を掛けるのは悪いと思ってな」

 

 「別に気にしなくても良かったのに…。でも、席を離れて何処に行ってたの?」

 

 「外だよ。館内では携帯使っちゃ駄目だから」

 

 「誰かから電話が掛かってきたの?」

 

 「さくらさんからな」

 

 「さくらさ「シーッ!」…モガモガ」

 

 驚いたすずかがまた大声を上げようとしてたので俺の手ですずかの口を塞ぐ。

 少ししたら落ち着いたので手を離してやる。

 

 「ふう…。すずか、あまり迷惑掛ける様なことしたら図書館の司書さんに悪印象与えるぞ?」

 

 「ご、ゴメンね…気を付けるよ。でもどうしてさくらさんが?」

 

 「もうすぐ((海鳴|コッチ))に着くんだってさ。忍さんに用があるみたい。で、どうせだから俺の様子も見に来るって言ってくれたんだけど『俺の方から会いに行きます』って返しちゃってな」

 

 「じゃあ、今からさくらさんに会いに行くの?」

 

 「そういう事。すずかはどうする?まだ図書館にいるのか?」

 

 「………私も着いていこうかな。この本は借りて、家に帰ってから続きを読むよ」

 

 すずかは俺と行動を共にするらしい。あとはテレサなんだが…

 

 「お待たせ」

 

 タイミング良くテレサが戻って来た。持っている本は3冊。

 

 「私、ファンタジー系って結構好きなのよね」

 

 「それ、借りるのか?」

 

 「ええ、帰ったらじっくり読むつもりよ」

 

 「そうか。アリサはこれからどうするよ?」

 

 「特に予定が無いから帰るつもりだけど?」

 

 「俺とすずかは海鳴駅に行くから一緒に行かないか?」

 

 テレサも電車通学だ。一緒に行動しても問題無い。

 

 「私は構わないけど貴方達も駅まで?何しに行くの?」

 

 「俺とすずかの共通の知り合いがもうすぐ海鳴に来るらしいからお迎えに…かな」

 

 「へえ〜」

 

 俺はすずかとテレサが本の借り出し申請を行うのを待つ。

 申請を終え、すぐに俺の元に来た二人を連れて図書館を出る。

 そのまま徒歩で海鳴駅まで向かい、テレサと別れの挨拶を済ませて駅のホームに消えてから数分、俺達の待っていた人物…綺堂さくらさんの姿が見えた。

 

 「「さくらさん!!」」

 

 「勇紀君にはさっき電話でも言ったけど改めて…二人共、久しぶりね。元気にしてた?」

 

 俺とすずかが声を上げると笑顔を浮かべながら近付いて来て、答えてくれるさくらさん。

 

 「はい。お久しぶりです」

 

 「さくらさんも元気そうで何よりです」

 

 久しぶりに会えて嬉しいせいか俺もすずかも若干テンションが上がっているのが分かる。

 

 「もっと色々お話したいけどそれは後で。今は先に月村の家に向かうけど良いかしら?」

 

 『話の続きは月村邸で』との事だけど俺はどうしようか?

 元々『俺は元気です』っていう姿を見せるためにここに来た訳だし、さくらさんは忍さんに用事があるから来た以上、月村の人間でない俺が着いて行くのは流石にマズいな…。

 俺が聞いて良い話かどうかも分からないし。

 

 「じゃあ俺はこれで帰ります」

 

 「「えっ?」」

 

 すずかとさくらさんが同時に声を上げる。

 

 「さくらさんに俺が元気な姿はこうやって見せる事が出来ましたし、忍さんに用事があるって事は月村家に関わる事でしょ?なら他人である俺が聞いて良いとは思えませんし」

 

 「そういう事なら心配しなくてもいいわ。むしろ勇紀君にも聞いておいて貰った方がいいかも」

 

 「はい?」

 

 俺も聞いた方が良いかもってどういう事だろうか?

 

 「だから勇紀君さえ良かったらこのまま一緒に行きましょう?」

 

 「うーん。どうしようかな…」

 

 少し気になるのは事実なんだけど…

 

 「勇紀君。家に来てよ」

 

 すずかからもお誘いの声が掛かる。

 

 「でも迷惑じゃないか?」

 

 「全然!そんな事無いよ!(もう少し一緒にいたいから迷惑だなんて思う訳無いよ)」

 

 海鳴駅のデジタル時計に表示されている時間は16時28分。

 今日はメガーヌさんが買い物に行くと言ってたから商店街やスーパーに寄る必要は無い。

 

 「…じゃあお邪魔しようかな」

 

 あまり遅くならない内に帰れば問題無いか。

 

 「それじゃあタクシーで行きましょうか」

 

 ノエルさんに連絡して車を回してもらうより、タクシーを使って少しでも早く月村邸に行きたいとの事で駅前に停まっているタクシー一台に乗り込み、月村邸に向かう。

 一体何なんだろう?さくらさんの話って………。

 

 

 

 「「「狙われている?」」」

 

 「おそらくね」

 

 俺とすずか、そして忍さんが声を揃えてさくらさんに聞き返す。

 月村邸に着き、さくらさんが話した内容は夜の一族の一部の連中が忍さんやすずかの身柄…もしくは命を狙っている可能性があるというものだった。

 現在、部屋にいるのは俺、すずか、忍さん、さくらさん、ノエルさん、ファリンさん、イレイン。

 

 「一部って、月村の財産を狙ってる誰かなの?さくら」

 

 「十中八九そうでしょうね」

 

 「ハア〜…これだから大人っていうのは…」

 

 こめかみを手で押さえ、溜め息を吐く忍さん。

 安次郎みたいな連中がまだいる事を考えて頭が痛いのだろう。

 けど、誰だろうな?月村の財産を狙ってるのって?

 俺が知っている『とらハ3』の原作知識で安次郎以外に月村の財産を狙ってる奴なんて出てこなかったから予想がつかないな。

 …それか『とらハ3』ではなく『とらハ』に出て来るキャラならば『氷村遊』という奴が思い当たる。

 俺達長谷川家がさくらさん…そして夜の一族に関わったきっかけになったヤツ。

 でもコイツは忍さんじゃなくさくらさんに因縁のある相手だし、何より俺の父さんが完膚無きまでに叩きのめしたせいで『極度の人間恐怖症に陥ってしまった』ってさくらさんが以前に言ってた。

 そんな奴が忍さんとすずかを狙うとも思えない。

 …やっぱ完全なイレギュラーかな。

 

 「ここには防犯設備もあるしノエル達もいるから安心だとは思うけど外出の際には充分気を付けておいて頂戴」

 

 さくらさんが注意を促し、頷く忍さんとすずか。

 

 「ていうか、俺が聞いて良かったんですか?」

 

 「勇紀君はもう夜の一族については知ってる訳だし大丈夫よ」

 

 まあ、そうですね。

 

 「…それにしても少し話が長くなったわね」

 

 部屋の壁掛け時計を見ると『確かに』と思う。

 時間は19時を少し過ぎた辺り。外はもう日が沈んでます。

 さくらさんの話を聞くのに集中していて時間については失念していた。

 

 「…じゃあ俺は帰らないと」

 

 「あら?折角だから夕食も一緒に…というより泊まっていってもいいのよ」

 

 「っ!!?」

 

 忍さんの何気ない一言。そして過剰に反応した様子のすずか。

 

 「いえ…お気持ちは有り難いのですが、家には何の連絡もしてませんし」

 

 メガーヌさんが晩ご飯作ってくれてるだろうから。

 

 「それについては問題ありません。あらかじめメガーヌ様には『19時を過ぎた時点で勇紀様が家に戻られていない場合、((月村家|ここ))で夕食を食べていく』旨を連絡済みですので」

 

 「…ノエルさん、メガーヌさんとそんなに仲良いんですか?」

 

 メガーヌさんとノエルさんが初めて会ったのって初詣の時だよな?

 

 「よく商店街やスーパーで買い物する際に会いますし、懇意にさせて頂いております」

 

 それは知らなかった…。

 

 「まあ、そういう訳で勇紀君が泊まっていっても問題は無いのよ♪」

 

 「…でもメガーヌさんには『夕食を食べていく』としか言ってないんですよね?」

 

 「今、連絡したらいいじゃない♪」

 

 「……………………」

 

 チラリとすずかを見ると

 

 「……………………」(キラキラ)

 

 すっっっっっっっごく期待する様な目でこちらを見ていらっしゃる。

 

 「…拒否権が無い様な気がする」

 

 ハア〜と一息ついてから俺は携帯を取り出し、メガーヌさんに連絡を取るのだった………。

 

 

 

 〜〜すずか視点〜〜

 

 今日は図書館で勇紀君と会ってからずっと一緒にいたけどまさか私の家に泊まる事になるなんて。

 

 「(予想外にも程があるけど…う、嬉しいな)////」

 

 いつも勇紀君と一緒に暮らしているシュテルちゃん達が羨ましいと思ってた。すぐ手の届く距離に彼がいるから。

 

 「(けど、今は…)////」

 

 私もシュテルちゃん達と同じ立ち位置にいるんだ。

 勇紀君と一緒にご飯を食べて、私の部屋に来てからさっきまで色々お話してた。

 今は勇紀君がお風呂に入りにいったから部屋には私一人だけど…。

 

 「(は、早く戻ってこないかな?なのはちゃんじゃないけど、もっと沢山お話したいし…)////」

 

 勇紀君の通う海小は土曜日もお休みみたいだけど、私が通う聖祥は午前中だけとはいえ授業がある。

 うう…聖祥も土曜日がお休みなら、勇紀君と一緒にいられる時間が増えるのに。

 明日の朝には勇紀君も家に帰るだろうし。

 

 「ふう〜、良い湯だった♪一番風呂貰って悪い気もするけど」

 

 ガチャリと扉が音を立てて開き、湯上り後の勇紀君が部屋に戻って来た。

 服は家に来た時の海小の制服ではなくパジャマ姿になっている。

 何でも『お泊りする時に着る着替え一式は宝物庫に入れてるから』だって。

 …ホント、勇紀君の能力は便利だなぁ。

 

 「すずかも入ってきたらどうだ?」

 

 「私も?」

 

 「丁度良い湯加減だったぞ」

 

 そう言いながら勇紀君が私の部屋の床に座る。

 

 「別にもう少し後でもいいんだけど…(出来ればお話したいし)」

 

 「そう言っていざ入ろうとした時に眠気がきたら風呂の中で寝る可能性あるぞ?」

 

 「そ、その時は無理してお風呂に入らずに寝るよ。私、朝に入るお風呂も好きだから!」

 

 「あんなに良い湯加減なのに勿体無い事を…」

 

 だって…明日の朝までしか一緒にいられないんだもん。

 

 「すずかお嬢様、流石にそれは見過ごせません」

 

 「「えっ!?」」

 

 私と勇紀君が同時に向くと視線の先にはノエルがいた。

 

 「勇紀様はお客様です。お客様と同じ布団で寝るというのにすずかお嬢様だけお風呂に入らないというのは認められません」

 

 『早くすずかお嬢様も入浴なさって下さい』とノエルに言われる。

 

 「ってノエルさん!?今何か凄い事言いませんでした!?俺とすずかが同じ布団で寝るってどういう事ですか!?」

 

 !!!

 そういえば今、確かにノエルは言った。『同じ布団で寝る』と…。どういう事!!?

 

 「その事でご連絡が。他の客室のシーツは全て洗濯中でして…今現在シーツの洗濯が終わってるのは忍お嬢様の部屋と私達使用人、そしてすずかお嬢様の部屋だけなのです。さくら様には忍お嬢様のお部屋で寝てもらう事にしましたので」

 

 「どう考えてもそれ嘘ですよね!!?ノエルさんがそんなうっかりするとは思えないんですけど!?」

 

 「…申し訳ありませんが事実です」

 

 視線を若干逸らしてから頭を下げて謝るノエル。

 勇紀君の言う通り、ノエルがうっかりするとは思えない。なら今回の件って…

 

 「(まさか、お姉ちゃんが?)」

 

 有り得そう…。お姉ちゃんなら面白がってやりかねないよ。でも…

 

 「(ゆ、ゆゆゆ勇紀君と同じ布団!?つまり私のベッドで一緒に寝るの!!?)//////」

 

 私は今その事で頭が一杯だった。

 確かに子供の私には若干大きめで同い年の子と一緒に寝れるぐらいのベッドサイズだけど。

 

 「(それだとみ、密着する事になるよ!!)//////」

 

 はうう…。い、一緒に寝るならお風呂に入らないといけないよね!?

 汚いまま一緒に寝て勇紀君に悪印象を与える訳にはいかないし。

 

 「ノエル!!私、今すぐお風呂に入るから着替えを持ってきておいて!!」

 

 それだけノエルに言って振り返る事無く部屋から飛び出す。

 と、とにかく身体を綺麗に洗っておかないと!!

 お風呂に向かって駆けている私の頭はその事で一杯一杯だった………。

 

 

 

 〜〜すずか視点終了〜〜

 

 すずかが慌てて風呂に向かってからノエルさんもすずかの着替えを持って部屋を出て行く。

 一人、取り残された俺は何をする訳でも無くボーっとしていた。

 

 「勇紀君、ちょっといい?」

 

 そこへ現れたのは忍さん。俺とすずかを同室のベッドで寝かせる様に仕向けた張本人。

 

 「…何ですか?諸悪の根源さん」

 

 「諸悪の根源って…ストレートにそんな事言われると悲しいんだけど?」

 

 「忍さんが仕組んだ事でしょうが。すずかと一緒に寝るとか…//」

 

 「あれ〜?もしかして照れてる〜?」

 

 ニヤニヤして言う忍さんがちょっとムカつく。

 

 「貴方もまだ子供なんだからそこまで意識しなくてもいいでしょうに」

 

 「すみませんね。精神年齢が高くて」

 

 ムスッとした表情で答える。

 

 「もう、拗ねない拗ねない♪すずかと寝れるのを役得だと思えばいいじゃない♪それともすずかと寝るのは嫌?」

 

 「…恥ずかしいだけです//」

 

 「つまり嫌じゃないのね?良かった良かった♪」

 

 「…もういいです。忍さんには何言っても無駄っぽいですから。それより何か用ですか?」

 

 「ああ、忘れる所だったわ。勇紀君が持ってるデバイスっていうヤツを少し貸してくれないかなーって」

 

 「ダイダロスをですか?」

 

 「そうそう。魔法を使う補助機械に興味があってね。少し見てみたいなぁと」

 

 「えっと…((分解|バラ))したりします?」

 

 「細かく((分解|バラ))したいわね♪」

 

 「じゃあ遠慮します」

 

 「えー!?」

 

 いや!『えー!?』じゃないですから。

 大切な相棒なんですよコレ。

 

 「壊れて元に戻らなくなったら嫌ですから」

 

 「じゃあ、ちょっとだけ!ちょっとだけで我慢するから!!」

 

 ((分解する|バラす))という思考から離れて下さいよ。

 忍さんは引き下がりそうにない。ただ、時間が過ぎていき結局…

 

 「…ホントに深く((分解し|バラさ))ないなら良いですよ」

 

 俺が折れる事になった。

 

 「ユウ君!?」

 

 「本当!?」

 

 俺の発言に驚いた様子のダイダロスと明るい表情を浮かべた忍さんの声が同時に上がる。

 

 「約束破るなら俺にも考えがありますからね」

 

 ちょっとだけ凄んで忍さんに念を押しておく。

 

 「分かってるわよ♪」

 

 しかし俺の凄みにも気にした様子の無い忍さんは上機嫌だ。

 

 「いやいや!ユウ君、そこは断固拒否でしょ!?」

 

 「でもこの人絶対に引いてくれないだろうから…済まんダイダロス」

 

 「簡単に諦め過ぎだよ!!」

 

 俺がダイダロスを外すと嬉々とした忍さんがダイダロスを手に取り、上機嫌で部屋を出て行く。

 

 「(本当に済まん。最悪の場合は((修正天使|アップデイト))使ってでも元に戻してやるからな)」

 

 心の中でダイダロスに謝る。

 けど忍さんは機械に関する知識は強い筈だから決して無下に扱ったり壊したりはしない筈だ。

 後はダイダロスが魔改造されない事だけ祈ろう。

 ノエルさんにロケットパンチを装備させる様な人だからなあの人は………。

 

 

 

 「…という事がすずかのいない間にあった」

 

 「お、お姉ちゃん…」

 

 風呂から上がってきたすずかに先程までこの部屋で起きていた事の顛末を話していた。

 

 「まあ。忍さんの腕は信頼するつもりだけど」

 

 あの時は『考えがあるから』とか言って凄んでみたけど実際何かしたりするつもり無いし。

 

 「ゴメンね。お姉ちゃんが迷惑掛けて…」

 

 「いいよ別に」

 

 「でも、デバイスが無いと魔法が使えないんじゃ?」

 

 「いや、別に無くても使えるぞ。デバイスはあくまでバリアジャケットを身に纏ったり魔法を使用するための演算補助装置って感じだし」

 

 実際ユーノやアルフさんだってデバイス無くても普通に魔法使ってるしね。

 

 「それに俺はレアスキルだけでも充分戦えるしな」

 

 もっと正確に言えば宝物庫に収めてある宝具も使いこなせてますから。

 ま、((天火布武|テンマオウ))だけが俺の攻撃系レアスキルだと周囲に認知させてるし。

 最近は火拳のエースの技も大体使える様になったので別のキャラの技を練習している。

 …カイザーフェニックス、恰好良いよね。

 

 「だからデバイスが手元に無くても大丈夫」

 

 「そうなんだ…」

 

 『ほえー』といった感じの表情を浮かべているすずか。

 

 〜〜♪〜〜♪

 

 そんな時、いきなり俺の携帯が鳴り出した。

 相手はユーリか。どうしたんだろう?

 

 「もしもし」

 

 『ユウキですか!?』

 

 電話越しから聞こえてきた大音量。

 耳が痛いです。

 

 「ゆ、ユーリ。声でかいから…」

 

 『そんな事はどうでもいいんです!!』

 

 聞く耳持ちやがらねえぞコイツ…。

 

 『今、家に帰ってきてメガーヌに聞きましたけど、すずかの家に泊まるって本当ですか!!?』

 

 「本当だけど…」

 

 『……………………』

 

 何でだろう?電話越しにとんでもないプレッシャーを感じるのは?しかも複数の…。

 

 『…それで、いつ帰ってくるのですか?』

 

 「あ、明日の朝には帰りますけど?」

 

 『そうですか…朝帰りですか。私達は明後日が短期メニュー最終日だから頑張っているというのに随分と良いご身分ですねぇ?』

 

 怖えええええぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっ!!!!!

 このドスのきいた声を発してるのは本当にユーリなのか!!?

 

 『…まあ、いいです。明日は私達も朝から訓練校行きますけど、夜はしっっっっっっっかりとO☆HA☆NA☆SHIしましょうね』

 

 「……………………」

 

 『それでは…イイユメヲ』

 

 そう言ってユーリは電話を切った。

 

 「勇紀君、どうしたの?震えてるよ?」

 

 「…俺の命日は明日になる事が確定したんだ」

 

 「???」

 

 ああ……転生後は更に短い人生だったなぁ………。

 

 

 

 「すずか、もうそろそろ寝ないと明日起きれなくなるぞ?」

 

 既に時計は23時を回っている。あまり遅くまで起き過ぎていると明日は寝坊する羽目になる。

 

 「もう少しぐらいなら大丈夫だよ(時間経つの早いよ…)」

 

 「そう言う奴に限って授業中に居眠りしたりするんだよ」

 

 「でもでも…(明日には勇紀君帰っちゃうし)」

 

 「『夜更かしはお肌の大敵』とも言うんだろ?俺の母さんがよく言ってたし」

 

 「うー…」

 

 「明日の朝までは一緒にいるんだから今日はもう寝よう。な?」

 

 「…分かったよ」

 

 渋々だがすずかは納得してくれ、ベッドに潜り込む。

 

 「ゆ、勇紀君も一緒に寝るんだよね?…どうぞ////」

 

 俺もベッドに入れる様にスペースを空けてくれる。

 …そうだよね。一緒に寝ないと駄目なんだよね。

 

 「あー、先に寝てていいぞ。俺トイレに行くから」

 

 実はさっきから少しずつ尿意を感じていた。

 

 「ううん。勇紀君が戻ってくるまで起きてるよ」

 

 俺の目を見ながらそう告げるすずか。

 

 「…分かった。すぐ戻るから」

 

 そう言って部屋の電気を消して退出した後、トイレに向かう。

 今度からは宝物庫に布団も入れておこう………。

 

 

 

 〜〜すずか視点〜〜

 

 「////////」

 

 私は勇紀君が戻ってくるのを待っている。

 

 「(き、緊張するよ…)////」

 

 い、一緒に寝るなんて。これはお姉ちゃんが仕組んだ事なんだけど。

 

 「(お姉ちゃん、グッジョブだよ!!)」

 

 心の中で私は実姉にお礼を言う。

 

 「(は、早く勇紀君戻ってこないかなぁ)////」

 

 い、一緒の布団で寝るんだもん。ベッドから転げ落ちない様にしないと。

 だ、だから勇紀君に抱き着いて寝ても…いいよね?

 ふ、二人で出来るだけベッドの真ん中によって寝ないと。だから密着するのはし、仕方ない事なんだよ!うん!仕方ない!!

 枕に顔をうずめながら自分にそう言い聞かせていた時…

 

 カタン

 

 「???」

 

 何か窓の方から音が聞こえた様な…。

 そう思って顔を上げた時

 

 バタン

 

 「っ!!?」

 

 勢いよく窓が開かれる。

 そこから人影が侵入し、私の方に迫り来る。

 

 「うぐっ!」

 

 咄嗟にベッドから飛び起きようとしたけど間に合わず、そのままお腹を蹴られてベッドから転げ落ち、床に頭を打ち付ける。

 私を襲った人影はそのまま仰向けで床に崩れ落ちていた私にのしかかる。

 

 「貴方…は……?」

 

 部屋の電気は消えているため、その素顔を確認する事は出来ない。

 私の問いに人影は答えず

 

 「…死んで」

 

 ただ、その一言を発するだけだった。

 声色からすると目の前にいるのは女の子…人影の大きさから察するに私と同年代ぐらいの子だ。

 私は逃げようと必死に足掻くけど、その人影は私のお腹の上にのしかかっている…マウントポジションっていうのをとられているせいで動く事が出来ない。

 夜の一族だから普通の子より身体能力は高いけど、逃れられない。

 

 「(こんな子がいるなんて)」

 

 その子の手にはナイフが握られていて

 

 「……………………」

 

 何か言葉を発するでもなく振り上げたナイフを真っ直ぐ私の胸元…心臓の位置に振り下ろしてきた。

 

 ドスッ

 

 「う…ああああああぁぁぁぁっっっっ!!!」

 

 咄嗟に抵抗したのが功を制したのか心臓に刺さる事は無かったけど、私の胸元には突き刺さったナイフが。

 パジャマが私の血でジワジワと染まってくる。

 

 「あ…ぐっ……」

 

 痛い…痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイ。

 私の思考をその言葉だけが支配する。

 私を襲った人影はナイフを抜き取ろうと柄に手を伸ばすが

 

 「っっ!!!」

 

 人影の手首を掴み必死に離すまいとする。

 相手は驚愕した様な様子なのが何となく分かる。

 段々と意識が朦朧としてきたけど、この手は離さない。

 もうすぐ彼は来てくれる。私が大好きな男の子がきっと。

 彼なら目の前にいる人影を捕まえてくれる。だから彼が…勇紀君が戻ってくるまでは。

 それにもう1年近く前…誘拐された私を助けてくれた勇紀君にはまだ自分の想いすら伝えていない。その前に死んでしまったら…絶対に死んでも死にきれないよ。

 けど、私の手からは少しずつ力が抜けていき、その事を察した人影は私の手を容易く振り解く。

 ナイフが胸元から抜かれ、更に血が溢れ出てくる。

 

 「(勇紀…君……)」

 

 ゴメンなさい……そう思った時に

 

 「すずかぁ〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!」

 

 あの時…誘拐事件の時と同じ様に私を助けに現れた勇紀君の姿が暗い室内であるにも関わらずはっきりと目に映った………。

 

 

 

 〜〜すずか視点終了〜〜

 

 「でやあああああっっっっっ!!!!!」

 

 ドガァッ!

 

 すずかの上にのしかかっている人影を蹴り飛ばし、すぐさますずかを抱き上げて様子を見る。

 すずかの胸元には刃物で刺された跡がありパジャマがその鮮血で赤く染まっている。

 

 「すずか!死ぬなよ!!」

 

 「勇紀く…ゴメ……なさ……」

 

 「いいから喋るな!今治すから!!」

 

 俺はすぐさま治療魔法を使い、すずかの胸元の傷を塞ぐ。

 デバイスが無かろうと((高速思考|ハイパーハイスピード))をフル稼働させ演算処理を行えばデバイスと同等かそれ以上のスピードで魔法の行使が可能になる。

 あっという間に傷を癒し、すずかをベッドに横たえらせる。

 これで命に別状は無くなった。意識もかろうじてある。もっとも治療魔法で無理そうなら迷う事無く((修正天使|アップデイト))使うつもりだったけど。

 すずかを襲った奴には魔法を見られたがすずかの命が助かった事に比べればそんな事はどうでもいい。

 この部屋に近付いた時、中から暴れる様な物音がした。

 俺はさくらさんが言っていた『忍さんとすずかの身柄、もしくは命を狙う者がいる』という言葉を思い出し、即座に部屋へ飛び込むとすずかが人影にのしかかられ、今まさに殺されそうになっていたのだ。

 かろうじて救出には間に合ったが…。

 

 「お前が誰かなんて事はどうでもいい」

 

 俺は暗い室内であるにも関わらず人影を睨む。

 

 「ただ、俺の大切な友達を手にかけようとしたんだ。タダで済むと思うなよ!!」

 

 自分でもドスのきいた声を発したのが分かる。

 それ程今俺は怒っているからな。すずかを傷付けた相手と…すずかを護れなかった自分に。

 

 「っ!!」

 

 相手は俺の怒気に呑まれた様で、僅かに怯んだ。その隙を見逃す俺では無い。

 一瞬で相手の懐に飛び込み

 

 「シッ!」

 

 ドンッ!

 

 鳩尾に拳を叩きこむ。身体強化等は使わず純粋な力だけで攻撃したが相手の意識を奪い取る事には成功した。俺の方に倒れ込んでくる相手を受け止めて、宝物庫から取り出した縄で縛り上げる。

 

 「勇紀君…」

 

 傷が治ったすずかは俺の側に来るが

 

 「すずか。傷の方は?」

 

 「大丈夫だよ。勇紀君が治してくれたから」

 

 「そうか…良かった。悪いけど部屋の電気を点けてくれるか?」

 

 「あっ、うん」

 

 パチッとスイッチが音を鳴らすと、天井の電気が点く。

 俺とすずかは侵入してきた相手の顔を見る。

 

 「…女の子?」

 

 「やっぱり私が思った通りだ。声色から何となく思ったんだけど」

 

 気絶しているのは俺達と同い年ぐらいで黒い長髪の女の子。この子がすずかの命を奪おうとした人影の正体。

 

 「…夜の一族かな?」

 

 「どうなんだろう?少なくとも私は知らないよ」

 

 「そうか…」

 

 俺が考えても埒が明かないし忍さんに報告を…

 

 「っ!?そう言えば忍さんは無事なのか!!?」

 

 「っ!!?」

 

 こうやって襲ってきたのは一人とは限らない。もしかしたら忍さんも…

 

 「すずか。忍さんの所に行こう!!」

 

 「うん!!けど、この子は?」

 

 そういった時、窓から何かが投げ込まれ

 

 「すずか!!」

 

 俺は咄嗟にすずかを庇い、シールドを展開する。直後…

 

 カッ!!

 

 「ぐうっ!!」

 

 「きゃあっ!!」

 

 眩い光が部屋中を包み込む。

 しばらくして光が止み、目を開けると捕まえた女の子の姿は無く再び部屋に静寂が訪れた。

 

 「うー…目がチカチカするよ」

 

 「どうやらあの子の仲間がこの部屋に閃光弾を投げ込んだみたいだな」

 

 「逃げられちゃったね」

 

 「済まん。逃がしたのは俺の落ち度だ」

 

 「そんな!!気にしないで。むしろ私も勇紀君も無事だったのを喜ぶべきだよ!!」

 

 そう言って気遣ってくれるすずかの言葉に心が和らぐ。

 

 「それでね…その…////」

 

 「ん?」

 

 「えっと…いつまでこの姿勢のまま…なのかな?////」

 

 言われて気付いた。

 俺はすずかを庇うため咄嗟に引き寄せ、思いきり抱きしめていたのだ。

 

 「////////」

 

 「す、すみません//」

 

 俺はすぐにすずかを解放して謝る。

 

 「きき、気にしないで!私を護るために…だよね?(し、しまったあああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!指摘しなければまだ抱きしめて貰えていたのに!!馬鹿!私の馬鹿!!!数秒前の過去に戻って自分を注意してあげたいよ!!)////」

 

 何やら後悔してる様な表情だな。

 

 「っと!!それより忍さんの方が心配「ご心配には及びませんよ」…ノエルさん!!?」

 

 俺の言葉に割り込んできたのはノエルさんだった。、

 

 「物音がしたので様子を見に来ましたがお二人共ご無事…とは言い難いようですね。すずかお嬢様、その服は?」

 

 「あ…これは…その…」

 

 「すみません。俺がすずかから離れた隙にすずかが襲われて…」

 

 「…まあ、ここでは何です。忍お嬢様とさくら様は今、食堂にいらっしゃるので二人共、ご足労願えませんか?」

 

 俺とすずかは互いに顔を見合わせた後、

 

 「「分かりました(分かったよ)」」

 

 同時に頷いて食堂に向かうことにした。

 その前にすずかを着替えさせてからだが………。

 

 

 

 「そう、刺客が…」

 

 食堂には月村家にいる全員が集合していた。幸いにもここ、食堂には俺同様泊まっているさくらさんと、メイドのイレインがいたから襲われはしなかった…というより襲えなかったんだろうな。ファリンさんは熟睡していたらしい。

 

 「治療魔法が間に合ったとはいえ、すずかに致命傷を負わされたのは俺の不手際です。すみません」

 

 「もう気にしないで。勇紀君の魔法のおかげですずかは死なずに済んだんだし。すずかも気にしてないみたいだし、ね?」

 

 「そうだよ。勇紀君は私を助けてくれたんだもん。むしろ私の方が心配掛けてゴメンなさいだよ」

 

 「…ホント、済みません」

 

 もう一度頭を下げる。

 

 「…本当にいいから。ね、勇紀君。それより本題に移りましょう。今回屋敷に侵入してきた連中の事だけど」

 

 忍さんの言葉で全員の表情が引き締まる。

 

 「まず侵入してきた経路からね。ノエル」

 

 「はい。先程屋敷の外を改めて調べた所、庭の一角に防犯カメラの死角になる場所がありました。おそらくそこから侵入したものだと」

 

 「そう、すっかり防犯設備は完璧だと思って油断してたわ。もう一度見直さないと」

 

 「それは明日にでも私とファリン、イレインで取りかかります」

 

 「ふえぇ!?私もですかぁ〜!?」

 

 「当然です」

 

 「アタシ、めんどいからパス」

 

 「いいのですか?この家の猫が危険に晒されるかもしれませんよ?ここで頑張れば猫達の貴女に対する好感度がアップしますが?」

 

 「アタシに任せな!」

 

 「切り替わり早っ!?」

 

 イレインの態度の豹変ぶりの早さに声を上げてしまった。

 

 「それと屋敷内にも何か対策を講じた方がいいわよね」

 

 「ええ」

 

 さくらさんと忍さんが屋敷内のトラップの設置について協議し合う。勿論、知り合いには引っかからない様にもしないといけない。

 

 「後はすずかの護衛よね」

 

 「えっ!?」

 

 「『えっ!?』じゃないわよすずか。アンタの身を守る術も考えないと」

 

 「そうよすずか。現に貴女は襲われた訳だし、相手を取り逃がした以上また『襲われない』という保証は無いから」

 

 忍さんとさくらさんが言う事はもっともだな。忍さんには恭也さんがいるからあの人に頼めば安心だろう。

 ならすずかの護衛をどうするかだけど…

 

 「勇紀君、お願い出来ない?」

 

 「私からもお願いするわ」

 

 さくらさんにご指名頂きました。忍さんにも頭を下げられました。

 

 「俺ですか?けど俺、すずかと四六時中一緒にいる訳じゃないですよ?学校も違いますし管理局の仕事もありますし…」

 

 ちなみにさくらさんには管理局云々の事を今日の夕食の際に伝えてある。

 

 「毎日って訳じゃ無いの。せめてノエル達がすずかの事に手が回らない時だけでいいから」

 

 「それなら何とか出来なくも無いですけど…」

 

 「私の方で今回の侵入者に関して調べておくから。せめて『もう安心だから』って言い切れる状況になるまではすずかの事護ってあげてほしいの」

 

 「…了解です」

 

 さくらさんが今回の犯人を追っている間、俺は時折すずかの護衛をする事にした。

 俺としてはさっきみたいな光景をもう見たくはない。

 もし寸分違わず心臓に刃物が刺さっていて、すずかが死んでしまったらと思うとゾッとする。

 

 「それと念のため、すずかの周囲にはサーチャー飛ばしておきます。監視してる様で申し訳無いんですけど」

 

 「私は気にしないよ」

 

 「まあ、すずかの安全のためを考えると仕方ないわよね」

 

 すずか本人も特に反対はせず、サーチャーの許可を出してくれた。

 それから俺達は後の対処云々を忍さん達に任せ、すずかの部屋に戻って来た。

 ついでにダイダロスも返却して貰った。魔改造されてない様で安心した。それどころか忍さんの事気に入ったとか。何があったのかねぇ?

 

 「じゃあ、部屋にも結界張っておくから」

 

 「うん」

 

 俺は部屋に結界を張る。

 

 「…これでいい。すずか、安心して寝てもいいぞ」

 

 「???勇紀君は寝ないの?」

 

 「俺、明日学校休みだし」

 

 「駄目だよ!寝不足で護衛が務まらないなんて言い訳にはならないよ」

 

 「む」

 

 一理あるな。

 

 「だから…どうぞ//」

 

 やっぱりそうなるんですね。

 

 「し、失礼します//」

 

 観念した俺。二人してベッドに横になる。

 むー、何か一気に眠気がきた。

 すずかには悪いけど先に寝かせて貰おう。

 寝てても結界は維持…するように…してるしな………。

 

 

 

 〜〜すずか視点〜〜

 

 「〜〜zzz…〜〜zzz…」

 

 私の隣で寝ている勇紀君。

 規則正しい寝息が聞こえ、深い眠りについてる。

 

 「(えへへ…)////」

 

 そんな彼を抱き枕みたいにギュッと抱きしめながら寝顔を堪能しています。こんな機会、次はいつ訪れるか分からないからね。

 

 「(今日も、勇紀君に助けて貰えたなぁ…)////」

 

 私は自分が刺され、もう駄目かとも思ったけど勇紀君は来てくれた。

 これで彼に助けられたのは2回目だ。

 

 「(あれからそろそろ1年が経とうとしてるんだよね)」

 

 1年前…勇紀君と初めて会った時も、私を護るために戦ってくれたっけ。

 私が夜の一族だと知っても態度を変えず、友達にもなってくれた。

 

 「(あの頃から私はずっと勇紀君の事…好きなんだよ)////」

 

 勇紀君の顔を見ながら心の中で告げる。

 

 「(好きだから…皆には負けたくないな!)////」

 

 私は抱きしめるのを止め、上半身を起こして勇紀君に覆い被さるように真上から彼の顔をジッと見て、ゆっくりと自分の顔を彼の顔に近付けていく。そして…

 

 「ん……」

 

 彼と私の顔の距離を0にし、((私の唇と勇紀君の唇が重なった|・・・・・・・・・・・・・・))。

 

 「…んんっ……」

 

 時間にして10秒ぐらい?けど私には寝ている彼にキスをしている時間がとても長く感じられた。

 ゆっくりと顔を離す。

 

 「こ、これは私を助けてくれたお礼…私の……ファーストキスだから////////」

 

 そう小さく呟いて再び勇紀君の隣で横になって彼を抱きしめる。

 やってから凄く恥ずかしくなってきて心臓がバクバクと音を立て、早く鼓動しているのが分かる。

 本当なら彼の意識がある時にしたいけど、そこまでの勇気はまだ今の私には出せないから。けど…

 

 「(いつかはちゃんとキスしたいよね。出来れば勇紀君の方から私に…)////////」

 

 それから私は眠るまでの間、勇紀君を強く抱きしめ、彼の体温の温かさを感じていた………。

 

 

 

 〜〜すずか視点終了〜〜

 

 朝、目が覚めてから俺はすずかと朝食を摂って、一緒に歩いている。

 すずかを聖祥まで護衛がてら送るためだ。

 いつも乗っているというバス停までのつもりだったのだが

 

 『今日は歩いて学校に行きたいんだけど、良いかな?』

 

 そうお願いされた。

 本来ならバスに乗って通学してほしいのだが、昨日の侵入者たちが無関係な他人を巻き込むか分からなかったし、何より上目使いでお願いするすずかを前に断る事は出来なかった。

 …可愛かったし。

 だからいつもより家を出るらしい時間よりも早く出て二人でゆっくり歩いている。

 ただ、家を出てすぐにすずかが腕を組んできた。

 …もう慣れたけどね。シュテル達もたまに腕組んでくるし。

 にしても…

 

 「////////」(チラチラ)

 

 さっきからすずかの視線を感じる。しかも俺の口元を見てる様な…。

 

 「…すずか?俺の口元に何かついてる?」

 

 まさか朝食の食べカスが口周りにでもついてるのか?

 だとしたら拭かないと。

 

 「えっ!?ううん!!何もついてないよ!!」

 

 「じゃあ、さっきからコッチを見る理由は?」

 

 「えっと………そ、そう!勇紀君と通学するなんてまずないから貴重な体験だなぁって(アレは夢じゃないアレは夢じゃない…)////」

 

 「そりゃ当たり前だな」

 

 俺は海小、すずかは聖祥。学校自体違うし通学路が重なる事もないし。

 

 「それよりなのは達バス組に連絡入れたか?いつもの時間帯にいなかったらきっとお前の事心配するぞ?」

 

 「うん♪『今日は歩いて通学するから』ってメールで連絡したよ♪」

 

 「ならいいけど」

 

 二人で会話しながら歩く。

 もっとも俺は会話しながらサーチャーで周囲に怪しい人影が無いか警戒しているが。

 

 「〜〜♪〜〜♪」

 

 にしても本当に嬉しそうだな。

 俺はすずかを見ながらそう思う。

 

 「勇紀君、こうやって歩いて通学するのも悪くは無いね」

 

 「ん?そうだな。健康には良いかも」

 

 「今度から土曜日は勇紀君に迎えに来てもらって歩いて通学したいかな?」

 

 「俺の都合にもよるぞ」

 

 「勿論、勇紀君の予定が大丈夫な時だけだよ」

 

 「…考えとく」

 

 他愛も無い会話をしながら、しばらく歩いて聖祥の正門が見えてきた。

 そして丁度聖祥前のバス停にバスが停まり、中からはお馴染みの5人娘が。

 バスから降りてきた時は笑顔だったのにコッチを見た瞬間、一気に無表情になるなのは、フェイト、はやて、アリシア、アリサ。

 無言のままコッチに近付いてくる。

 

 「お、おはようございます…」

 

 敬語で挨拶する俺。

 

 「「「「「…おはよう。早速聞きたいんだけど(聞きたいんやけど)何で勇紀君(勇紀)とすずかちゃん(すずか)は腕を組んでるのかな?(組んでるんや?)(組んでるのよ!?)」」」」」

 

 無表情で淡々と言わないでくれ、怖いから。

 

 「えへへ////」

 

 すずかは嬉しそうに笑うだけ。

 

 「まあ、気にするな。それより早く学校に入れよ。すずかももう腕離して。さもないと俺が帰れんから」

 

 この場はとっとと退散した方が良いと判断。

 何やら他の聖祥の生徒からも視線を感じるし。

 たった1人、私服姿の俺なんだ。浮いてる浮いてる。

 

 「うう…残念だなぁ」

 

 名残惜しそうにして俺から離れるすずか。直後に

 

 ガシッ×2

 

 「ふえぇっ!?」

 

 両腕を((テスタロッサ姉妹|フェイトとアリシア))に掴まれ

 

 「「トリアエズ、キョウシツニイコウカ」」

 

 「い、痛い!痛いよフェイトちゃん!!アリシアちゃん!!」

 

 すずかの言葉を無視しズルズルと引っ張られ、連行されていった。

 

 「勇紀君。すずかちゃんと腕組んどった理由…教えてくれるやんなぁ?」

 

 俺に迫ってくるなのは、はやて、アリサは無表情のままだ。

 

 「…すずかに聞いて下さい。じゃ、俺はこれで」

 

 俺は即座に踵を返して走り出した。後ろから3人の声が聞こえるが俺は振り返らずそのまま家までダッシュした。

 

 

 

 「ふー…怖かった」

 

 ようやく家まで帰ってきた。

 玄関の扉を開け、中に入ると

 

 「お帰りなさい勇紀君」

 

 「おかえりなさーい」

 

 アルピーノ母娘に出迎えられた。

 

 「ただいまです」

 

 挨拶して家に上がる。

 

 「勇紀君。今日はシュテルちゃん達が帰ってきたら大変な事になるかもしれないから気をつけてね」

 

 メガーヌさんの言葉を聞いて俺は固まった。

 ………すっかり忘れてた。

 俺は自分の部屋に戻り、いずれ帰ってくるであろうシュテル達に戦々恐々としていたのだった………。

 

 

 

 〜〜???視点〜〜

 

 「任務は失敗か…所詮は出来損ないだな」

 

 「一度の失敗でその評価、手厳しいですね」

 

 「一度でも失敗は失敗だ」

 

 「……………………」

 

 「それで、出来損ないの処遇だが…」

 

 「どうするんです?」

 

 「記憶を消去して分家の『加納』に預けるつもりだ」

 

 「記憶を消去?」

 

 「どうも今回の失敗で『人間の死』というものを理解したらしく、人を殺す事そのものに恐怖を抱いてしまってな」

 

 「それで存在価値が無くなったという事ですか」

 

 「ああ」

 

 「しかし、我等本家ではその様な出来損ないの烙印を押された者は消すのが良いでしょうに何故『加納』に?」

 

 「ふん。あれでも才能に関しては飛びぬけているからな。『加納』の元で一から鍛え直せば今以上に使えるかもしれんようになるだろう?」

 

 「…そういう事ですか」

 

 「もっとも、出来損ないを鍛えるために預かると進言してきたのは『加納』の方だがな」

 

 「ですが今回の失敗は仕方ないものでは?」

 

 「…何が言いたい?」

 

 「今回アイツがターゲットにした月村すずかの側には『衝撃』の血を継ぐ者がおりました」

 

 「『衝撃』…長谷川泰造、その一人息子か。そ奴も衝撃波の使い手か?」

 

 「いえ…。ですが何か異能を持ち合わせているのは事実です」

 

 「……………………」

 

 「現にただの子供ならばアイツを苦も無く制するとは思えませんし」

 

 「…まあいい。とりあえず、記憶の消去に関してはお前に任せるぞ」

 

 「…仰せのままに」

 

 

 

 〜〜???視点終了〜〜

 

-2ページ-

 〜〜あとがき〜〜

 

 なのはの劇場版第3弾、しかも完全新作…これは期待してもいいんですよね?

 

説明
神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。
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コメント
刺客の役目を小学生くらいの子供に任せること自体がどうかと思うんだが・・・いや、詮無きことか(海平?)
誤字報告です。「もそもし、勇紀ですけど」は「もしもし、」だと思うのですが・・・(俊)
今回すずかさんストーリーアーク, シリアスだが面白い&ロマンチックでしだ.(deltago)
(私が理解したからによるど) '恋色空模様'名前のゲームキャラクター登場! この物語アークがどのようになるが エキサイティング!(deltago)
『加納』ですか。これは恋空シナリオを通過するルートになる可能性が高そうですね。すずか達のために簡易防御アイテムでも作ることが出来ればいいのだけれど。(chocolate)
『加納』に記憶を消されて預けられるってことは恋色空模様でしょうね。以前には伊東誠悟も出てたし。(匿名希望)
↓いろいろとあかんwwww(黒咲白亜)
闇の炎に抱かれて消えろでいいわ(匿名希望)
カイザーフェニックスだけじゃなく、カラミティエンド等も出して欲しいです(ライト)
人吉善吉さん、それいいと思います!!!(匿名希望)
爆炎剣とか屠龍閃とかのテイルズ系の技とかどうでしょう?(人吉善吉)
???sideっておまもりひまりの鬼斬り役十二家だと思うな~~。だってあのキャラが出っているから。(セイバー)
お初にコメします。ユウキの技ですが火繋がりで覇焔降魔衝とか使えるようになったりしませんか?魔法と精霊魔術の違いはありますが……(てんぺす党)
映画は期待していいんじゃないかな?俺は恥ずかしいから行かないがな・・・・・・・・・・・・・・・・オッサンだし・・・・・(匿名希望)
あっ・・あれ?スタジオ緑茶からゲストが出ていますよ。(THIS)
とある島に行くわけですね、わかります(アヌビス)
これをきっかけにすずかが戦闘に関して強くなるとか言い出して、魔改造されそうですね(竜羽)
???SIDEが明らかになる時に勇紀の周りが如何変化してるのか楽しみです。それは兎も角、カイザーフェニックスが使用可能。それならフィンガー・フレア・ボムズと超魔爆炎覇も使って欲しいですね。後は「悪魔図書館」でアバン流刀殺法を検索して習得して欲しいです。(俊)
この???SIDEってのは一体何なんだろうな・・・それはそうとこれですずかが頭一つ抜きん出たかな?(はらっぱ)
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