つり乙〜いーじーるーと(続いたよ)〜
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(。・ω・)ノ 1! (。・ω・)ノ 2! (#・ω・)ノ 3!! (。#・д ・)ノ始まりだぁい!!

 

 〜dream dream dreaming……多分、深い意味は無い〜

 

 

 

 

――おまえとはいずれ、青山の夜桜を肴に杯を交わす日も来よう

 

 それは情愛というものを感じぬ冷たい言葉だった。

 だから自分もその時は適度な距離を保った返事をした。

 

(だけど本当は……)

 

 本当に懐かしい夢だった。

 昔に見た走馬灯以来であるマンチェスター時代の思い出。

 兄の期待に応えられず不甲斐無い自分が嫌で半ば忘れていたこと。

 確かにデザイナーとして才能は兄から言われなくともわかる。

 だけれども、ふとした切欠から新たに別の可能性が見えてきた。

 もし、この才能が認められれば……

 

――いつかの日かの約束を……果たせるだろうか?

 

 

 

 

――ここでCMが入ります。提供は大蔵グループ(以下ry)

 

 

 

 

 才能。それは努力だけでは覆せないもの。

 努力した者が必ずしも報われるわけではない。

 勿論、直向な努力が不要とは言わないが……世の中にはソレを凌駕する天才という者が存在する。

 

(わかってはいたけど、目の前でマジマジと見せ付けられる結果になるなんて……)

 

 妹りそなの友人、桜小路ルナのデザイン画を見て、心の中で呟く。

 しかも彼女からしたらコンテスト等には出さないもの。謂わば選外品だ。

 これには圧倒的な差を感じざるを得ない。

 スポーツに例えると全国区と地方エースという言葉が良く似合う。どちらが、とは言うまでもないが。

 デザイナー志望のままであったなら絶望しかけて、驚愕の果てに呆然としていたかもしれない。

 

「……凄いよ、どれこれも新しい挑戦に満ちてる」

 

 口に出来た感想は、少し震えていた。

 漠然とだが、彼女とは見ている世界……いや、視えている世界が違っているのでは?

 そう思えてしまう程、彼女のデザインには斬新さが溢れている。

 

「うん、褒められて悪い気はしない。私も金儲けに飽きてきたし、本格的にデザインを勉強しようとしていた矢先なら尚更だ」

 

 と、デザインを書いた本人、桜小路ルナは威風堂々のたまう。

 しかし、視線はポータブルのゲーム機に向いたままだが。

 

「はぁ、本当に多才ですねルナちょむは……あっ、そっちのミッションお願いします」

 

 株に起業にデザインと様々な分野で成功している友人にりそなも小さく溜息を付く。

 どうでもいいが、りそなはなんで変な呼び方やあだ名しか付けないのだろうか?

 ついでに付け加えると、彼女の視線もポータブルのゲーム機に向いたままだが。

 

「その私でも昨日の今日で偶然出会った見ず知らずの人物を屋敷に招くなんて思わなんだが……」

 

 それはこちらにも言えることだろう。

 偶々雨宿りした軒下で出会った人物が妹の数少ないであろう友人だとは思わなかった。

 失礼だが、そもそも妹に年頃の友人なんているとは思っていなかった。

 勿論、そんなことは口にしないし、表情にも極力出さないが。

 

「妹、兄が外でルナちょむとエンカウントするとは思いませんでした。例えるなら、いきなりプラチ○キングに出会って、転職のための心を手に入れて、更に牧場送りしたようなものですよ?」

 

「きっとリメイク版ではもうちょっと確立も上がっているんじゃないかな?」

 

 プレイしていないから知らないが。

 例えが良くないが、桜小路ルナがあまり外を出歩くタイプじゃないことが、りそなの発言から読み取れる。

 

「おい。人のことをレアモンスターやレアイベントのように言うな……おっと、ライフがマズイな。ここからはヒットアンドウェイでいくか」

 

 とりあえず2人とも、話をする時は相手の目を見て欲しい。もしくは身体をこちらに向けて欲しい。最低限視線だけでもお願いしたい。

 彼女達が集中しているポータブルのゲーム機にはゲームキャラが激しく無双で乱舞していた。あっ千人斬りスゲー。

 

 

 

 

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 桜小路ルナ。妹りそなの友人。銀髪の美しい少女。

 桜小路家の家柄は旧華族として一流だが、事業に失敗して相当の痛手を被ったらしい……が、ソレはあくまで本家の話。

 当の本人は、株で当たった資金で起業して大成功した個人資産家。

 本家とは縁を切って暮らしているので、そっちは関係ないとか。

 付け加えると、りそな曰く『上の兄の女性版』という性格と能力……ナニソレコワイ。

 りそなとの交友関係は、ネット上で夜も徹して語り合う仲のようだが、直に会うとそうでも無く、会話が無いのもザラだとか。

 だが、不登校で対人恐怖症の域にある妹に、年頃の友人がいるのは兄として非常に嬉しく感じてもいる。まぁ、それ以前に驚愕もしたが。

 実行には移さないが、ついつい妹の手を握ってルンルンと歩きたいくらいには喜んでいる。

 

(類は友を呼ぶとは、このことなんだろうな……悪い意味じゃなくて)

 

 桜小路ルナについて語るりそなを傍目に、普段のりそなもかなり気分屋なので、似たタイプだと推測する。

 

「昨日の時点でなんとなく理解出来たけど、りそなの話を聞いた限り、中々に気難しい人みたいだね」

 

 無論、悪い印象では無かったが。

 

「妹が思うにルナちょむが気難しいのは納得ですが、下の兄がいい加減なのも問題があると思います」

 

 りそなからすると兄が自分の友人と外でお茶していたのが気に食わないようだ。

 確かに肉親が異性(しかも自分の友人)と密会(と言えるのだろうか?)をしていたとなると、あまり気分が良いものではないだろう。

 そんな話をしながら、今日はりそなと共に彼女の家……桜屋敷へと向かっている。

 

「それにしても昨日の今日で色々と申し訳ないなぁ……」

 

「ルナちょむが良いと言ったのだから、こちらが杞憂することではないです」

 

 あの後、一緒に雨宿りしていた少女が妹の友人だということがわかったため、後日挨拶に伺うことにしたのだ。

 りそな曰く、彼女はそんなこと気にする性質ではないと否定していたが、縁が縁であったため自分からお願いした。

 

(まぁ、りそなが褒める彼女のデザインセンスが気になる、というのが本音なのだけど……)

 

 早速(何故か怒り気味の)りそなにアポイントメントを取ってもらったところ、翌日……つまり今日の午後ならば都合が良いということで今に至る。

 昼食後、彼女の好みであるピエラナイ・エルメのマカロンを何とか入手し、それを手土産にりそなの案内で桜屋敷へと向かったのだ。

 

「そういえば桜屋敷の名前の由来ってなんなんだろうね? 桜がたくさん植えてあるのからとか? それとも桜小路家に因んでとか?」

 

 ふと、現在向かっている屋敷について名の由来が気になったので、りそなに尋ねてみた。

 

「そんなもの妹が知るわけありません。こちらの人生に関係でもあるというんですか?」

 

 りそなが超不機嫌そうに答えてくれた……元より、知っているとは思っていなかったのだが。

 というか、今日のりそなは彼女のことに関して尋ねると凄く機嫌が悪くなるのは何故だろうか?

 

「そこまで大げさな話じゃないよ。ただね、桜の名を冠するお屋敷は一体どんなのだろうか、ってさ」

 

 桜。咲き誇り散っていく輝きと滅びの美学。

 自らの元型、果たせなかった約束。

 昔日を懐かしむように瞳を閉じ、心の中に思い浮かべた桜を眺める。

 

「下の兄は……いえ、これについては上の兄もですが、本当に桜が好きですよね? 何か思い入れでもあるんですか?」

 

「……うん、色々とね。あっ、屋敷が見えてきた! ねぇ、アレが桜屋敷かな!?」

 

 母や兄との思い出をりそなに話すには少し重たいし、りそなには知らないでいてもらいたい。

 件の屋敷が見えたことで話題を変えることとした。

 

 

 

 

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 屋敷のインターフォンを鳴らし、対応してくれたのはおそらく兄と同い年くらいの美人メイドさん。

 しかも美人なだけでなく、メイド服のデザインも良い。更に良く似合っている。むしろ満点だ。

 無論、デザインが良くとも自分自身がメイド服を着たいとは決して思わないが。

 大切なことなので二度言うが、自分で着たいとは思わないが。

 

「お客様、私はまだ20代ですのでお間違いなく」

 

 兄も20代なので決して間違えてはいないが、年齢にやたらと敏感だった。

 ちなみに今、自分は発言はしていない。

 視線や表情だけで訂正されるとか、ナニソレコワイ。

 

(うん、少し気を引き締めようか……)

 

 別に敵地でも戦争地帯でもないが、気を引き締めることとする。

 まぁ、実際に戦争地帯へ行ったことは流石にない……強盗騒ぎで死を覚悟した経験はあるが。

 

「八千代さん、案内はけっこうです。さぁ、行きますよ」

 

 そう言って、勝って知ったる他人の家を堂々と進むりそな。

 

(客人の案内もメイドの仕事なんだから、案内されるべきなんだろうけど……)

 

 所詮、自分も現在はりそなの付き人のようなものであり、その妹には逆らえない。

 自身の情けなさを感じつつ、若干苦笑いを浮かべる年齢20代の美人メイドさんに会釈をして、急ぎりそなの後を追う。 

 

 

 

 

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「ほう、やはり君を驚かないのだな。大抵の人間には眼を見るたびに驚かれ気分を悪くするのだが……うん、そういうところは好感が持てるよ」

 

 りそなに追って辿り着いた場所はリビングであった。

 そこに件の少女、桜小路ルナが、昨日出会った銀髪の少女がいた。

 そう、昨日の黒眼と異なる美しい紅の瞳をした少女が。

 

「ちなみに私は言ってませんのであしからず」

 

 りそなもこのことは事前に教えてくれなかった。

 玄関で気を引き締めていなかったら危なかったかもしれなかった。

 

「少しだけ。やっぱり黒は違和感があったから、もしかしてとは思っていたけど……」

 

 ヨーロッパ、北米、南米、中東、ロシア、東南アジアと渡り歩いたことがあるが、この色の瞳は初めて見る色だったので予想出来なかった。

 白銀の髪に紅の瞳を持つ少女。

 普通だったら気味が悪いと嫌悪や侮蔑の眼差しを向けられるのかもしれない。

 だけど目の前の少女に対して浮かんだ感想は異なっていた。

 

「――凄く綺麗だ。うん、初めて見た色だけど、昔見た青より「ふん!!」っ痛!? 何するのりそな!?」

 

 りそなに脛を蹴られた。

 判定的にはクリティカルヒット。

 

「……兄こそ、なんで妹の前で女誑かしてるんですか?」

 

 別に誑かしているわけではない。というか酷い言い草だ。

 その証拠に目の前の彼女は微塵も動揺している様子はない。

 ただ、妹的に今の発言はアウトらしい……というか脛が痛い。

 

「苦労しているのだな大蔵兄。あぁ、今更だが私は桜小路ルナ。君にまでルナちょむとは呼ばれたくはないので、ルナと呼んでもらってかまわない」

 

 ファーストネームで呼ぶ許可を得られたので、今後はルナと呼ばせてもらう。

 

(こう、何ていうか……様付けした方が似合うのは気がするなぁ……って僕は変態か!?)

 

 妹の友人(自分と同い年)を様付けするとんでも末期な自分自身にドン引きした。

 

 

 

 

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「ルナちょむのことはともかく。妹、どうしてデザインの話までしていたのか疑問です」

 

 一通り無双を終え、紅茶を飲みながらりそなが昨日の顛末を尋ねる。

 曰く、どうして互いにそんな内容まで話したのかと。

 

「僕からしたら、今まで彼女のことを紹介してくれなかった方が疑問なんだけどね」

 

 何故、こんな素晴らしいデザインセンスを持った人を紹介してくれなかったのか?

 質問を質問で返すというマナーの悪いやりとりだが、文句の一つでも言いたくなる。

 りそなもデザイナーに興味が無くとも、服を見る目はあるのだし、僕自身の憧れを知っているのだから尚更だ。

 

「妹、自分の質問に質問で返されるのは大嫌いです。いいからさっさと答えなさい」

 

 が……勿論、りそなは取り入ってくれなかった。

 原因はりそなへのプレゼントだが……本格的に服を作るとなると流石にバレるだろう。

 

「まぁ、黙ってても何れバレただろうし、先に言っておくね。実は一昨日にりそなと話したプレゼントについて悩んでいてね」

 

 昨日の会話内容を若干省略し、りそなに説明する。

 

 

 

 

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「妹、超感激です。もう結婚して下さい」

 

 プレゼントの件で悩んでいた旨を伝えると物凄く喜んでくれた。

 何か激しくベクトルがズレている感がしなくもないが。

 

「近親婚を認める国はないよ? それに僕は近親恋愛には反対だな」

 

 一瞬、『じゃあ大っきくなったら、りそながお嫁さんになってあげる!』と天使のような笑みで言っていた妹の姿が思い浮かんだ。

 が、大切なことなのでハッキリと否定しておく……その道は決して幸せにはなれない。

 

「何バカなことを言っているんだ大蔵兄妹……」

 

 そんなやりとりをルナは若干呆れたように呟く。

 

(あれ? 別に僕はバカなことを言ってないよね?)

 

 一瞬、彼女の発言にツッコミを入れようとしたが、りそな同様にそういうのは嫌いな可能性が高いので、心の中だけに留めた。

 とにかく、これを期に服飾への道について再挑戦の志を伝えることにする。

 

「まぁ、そういうわけでこの件を切欠にさ、もう一度夢に……服飾に関わっていきたい。そう思ったんだ」

 

 デザイナーとしての才能は……衣遠兄様に言われた通り、無いだろう。

 それは今日、ルナの……本当に才ある人の作品を見て確信した。

 いや、本当はわかっていたし……本当にとても悔しい。

 だけれど……

 

「デザイナーで無くともやれることはある。自分の得意分野に可能性があるのなら、頑張ってみようと思う」

 

 直ぐにパタンナーを目指すわけではないが、りそなへの服を作りながら色々と考えたい。

 

「うん、そういう向上心は嫌いではないぞ大蔵兄。人間は誰しも向き不向きがある。完璧な存在などいないからこそ、そうあろうと日々精進しているのだから」

 

 ルナも僕の宣言に賛同してくれた。

 傍からの評価で桜小路ルナとは完璧超人なイメージだが、見えないところで相当の努力をしているのだろうと推測される。

 そんな彼女が『一つ提案がある』と、とんでもない話を持ちかけてきた。

 

「デザインに迷っているのなら私のデザインを参考にしてもらっても構わない。その代わりと言ってはなんだが、私にも作品の経過を見せてくれないだろうか?」

 

 

 

説明
前回の続き。
いーじーの由縁とこれから。
『乙女理論とその周辺』予約しました(笑)
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