インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#101
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管制室はアリーナに次ぐもう一つの戦場であった。

 

「避難者の先導にあたっていた陸上自衛隊部隊より先頭集団が安全圏へ離脱したとの連絡がありました。」

「有澤先生と如月先生から、最後発便が会場を出発したとの連絡です。」

「救護の下屋先生から、自衛隊と共同で救護所を設置したと連絡!」

「千凪先生以下織斑くん、篠ノ之さん、一年の更識さん、デュノアさんが交戦中、ボーデヴィッヒさんと鳳さんも別方向から戦闘領域に突入して戦闘を開始!」

 

刻一刻と変わる状況、それに合わせて飛び交う情報。

その集約点に真耶は立たされていた。

 

(お、織斑先生、まだなんですか!?)

 

内心では悲鳴を上げながらも極めて冷静に、落ち着いた風を装って真耶は飛び交う情報を頭に入れ続ける。

 

(ああ、こんな事になるなら『織斑先生が来るまでは私が指揮を執ります!』なんて大見栄張るんじゃなかった…)

 

そんな今更な後悔をしつつも体が動いてしまったのだから仕方が無い。

それに混乱して収拾がつかなかった管制室はその真耶の一声で落ち着きを取り戻しているのだから。

 

「―――避難誘導に当たっていた先生方は出撃の用意を、有澤先生と如月先生には出撃準備に入る避難誘導担当と入れ替わりで逃げ遅れた人や隠れている人がいないか確認するように連絡をお願いします。」

 

「ハイッ!」

 

「それと、ピット内で撃墜された機体はどうなってますか?」

 

「ピット内で稼働中なのは…警備詰め所のブルー・ティアーズ一機だけです。」

 

空間投射モニターに表示された施設内のISの位置データを見つめながら真耶は考える。

 

「――暴走機のうち、撃墜されてそのままの機体と撃墜されても復活する機体に分けて線で繋いでもらえますか?」

 

「へ?」

 

「いいから、お願いします。」

 

「は、はあ…少し時間かかりますよ?」

 

「構いません。」

 

「それじゃあ、始めます。」

 

真耶に指示されて動き出す教員たち。

 

程なくして、『できました』の声が上がる。

 

それと同時に―――

 

「すまない、待たせた。」

 

真耶の前に投影されたディスプレイに映る配置図にいくつかの円が加えられたのとほぼ同時に千冬が到着した。

 

「織斑先生!」

 

「山田君、状況を。」

 

千冬が来ただけではあるが、真耶は自分がとてつもなく安心している事に内心で苦笑する。

 

「はい。現在、千凪先生と一年生専用機保有者がアリーナ内にて暴走機と交戦しています。観客の避難はほぼ完了していますが念の為に有澤先生と如月先生を確認に廻しています。」

 

「ふむ………それは?」

 

千冬の目に留まったのは真耶が作らせた暴走機をつなく線の入った配置図であった。

 

「これですか?これは機能停止したままの暴走機と機能停止しても復活する暴走機をそれぞれ線で繋いで貰ったもので―――」

 

「…見事な円になっているな。この中心に居るのは?」

 

千冬の問に答えたのは管制担当を請け負っていた一人だった。

 

「ええと………試作量産型打鉄弐式、操縦者は航空自衛隊の一澤一尉です。」

 

「その近くに居る非暴走機は?」

 

「ボーデヴィッヒさんと鳳さんが居ますが他の暴走機に阻まれて近づけないみたいですね。」

 

ふむ、と何かを思案する千冬。

 

真耶はなんとなくではあるが『嫌な予感』を感じた。

 

「判った。―――山田君、君に全体の指揮権を預ける。」

 

「ふぇッ!?」

 

唐突な宣告に思わず変な声を上げる真耶。

実際、やっている事自体は変わらないのだが。

 

「人手が足らな過ぎる。教員部隊も出撃用意だけはしてピット内に機能停止している機体を回収させてくれ。くれぐれもその『円』の内側には入れさせるなよ?」

 

「え、織斑先生、何を…?」

 

だいたい、千冬のやりそうな事は予想は付いていた。

それでも、問わずには居られなかった真耶だった。

 

「私も出る。――生徒だけに任せっぱなしにする訳には行かんからな。」

 

「だったら私が―――」

 

出撃します、そう言おうとしたが…

 

「確かに、私は有事の際の指揮権を理事長から預けられている。だが、指揮官としての適正は自衛隊で正規の幹部教育を受けてきた君の方が上だ。」

 

「……」

 

真耶は黙るしか無かった。

「それに、私には指揮官は向かん。…所詮私は、世代遅れの武将がいいところだ。」

 

「………判りました。指揮権をお預かりします。」

 

「―――頼む。」

 

踵を返して管制室から出る千冬。

 

見送ってから真耶ははぁ…と小さく溜め息をつく。

 

「IS持ちの各教員にピット内で機能停止中の機体を回収、その後は観客席に展開して暴走機が会場外に出ようとするのを阻止するように指示を出してください。」

 

「了解です。」

 

「あと、戦闘中の千凪先生たちに連絡を。」

 

「なんて送ります?」

 

「―――『織斑先生が出ます』と。」

 

 * * *

[side:鈴]

 

「ねぇ、ラウラ。」

 

「――どうした、鈴。」

 

手は休める事無く動かし続けながら、何気なく背中合わせになっているラウラに呼びかけるとすぐに返事が返ってきた。

 

「『戦いは数』って、昔の偉い人が言ったらしいけど…正にその通りだと思わない。」

 

「物量を適切に投入するのは戦略の基本だな。まあ、それを少数精鋭が基本なISでやると物凄く厄介だが。」

 

その声の響きにはかなりげんなりとした…辟易としたような感じの響が混じっている。

 

まあ、それはあたしも同意見なんだけど。

 

「で、どうする?」

 

「どうしようもないだろう。我々がこの囲みを突破するか、連中に押しつぶされるかのどちらかだ。」

 

あたしたちの周りに居るのは暴走を起こした選手の機体がズラリ。

 

せめてもの救いは高性能な専用機は一夏と箒が、量産機の半数弱は簪とシャルロットが受け持ってくれていることと相手が単調な攻撃しかしてこないことくらい。

 

「それっきゃないか…」

 

「増援でも有れば話は別だがな。」

 

ラウラがワイヤーブレードを振り回しあたしが衝撃砲をぶちかます。

 

そんな繰り返しをどれくらいしていたのやら。

倒したそばから復活してくるゾンビみたいな相手を前にしてはジリ貧もいいところね。

 

「セシリア、遅いわね。」

 

「淑女の身支度と言っても長すぎる気はするな。」

 

とはいえ、あたしらは室内爆破で負う筈のダメージまで肩代わりさせた身だから本人には文句言わないけどね。

 

屋内戦闘もけっこうあったみたいだから通れるルートが限られているみたいだし。

 

…場合によってはそっちの戦闘にかりだされている可能性も否定できない。

 

「あ、さっき一夏に落とされた会長が今度は箒に落とされてる。」

 

「所詮は暴走機だ。本来の技量が発揮できん((ただの第三世代機|・・・・・・・・))にあの二人が負けるものか。」

 

ま、そりゃそうよね。

操縦者の技量を覆せるほどISの世代差は大きなモノじゃ無いんだから。

 

それから、さらに一夏が二回、箒が一回ほどミステリアス・レイディをたたき落とした頃にオープンチャンネルでの通信が飛び込んできた。

 

『―――――』

 

ちょうど飛びかかってきた相手をたたき落とすのに気を取られていたあたしは聞き逃したけど、

 

「ラウラ、今の通信は何だって?」

 

相棒にとりあえず聞いてみる。

 

「うむ、管制室から三つほどの連絡があった。」

 

へぇ、管制室からって事は学園の先生からって事ね。

 

「一つ目は?」

 

「((増援|きょういんぶたい))が来る。セシリアもそちらと同時に出てくるそうだ。」

 

「そりゃ朗報ね。で、次は?」

 

「二つ目は((我らが副担任|やまだせんせい))がこの現場の総指揮を執る事になった。」

 

「珍しいわね。」

こう言う時は織斑先生が指揮執るのに。

 

「三つめは教官――織斑先生が、((出撃|で))る。」

 

「―――へ?」

 

その瞬間、ラウラが言った事の意味がよく判らなかった。

判らなくて、変な声を出して、理解した。

 

―――((織斑千冬|さいこうのぞうえん))が、やってくるのだ、と。

 

「こりゃ、風向きがこっちに変わってきてない?」

 

「ふん、消耗戦が消化試合になっただけだ。」

 

我ながら、現金なモノだと思う。

 

千冬さんが増援として出てくると聞いただけで教員部隊の増援が来ると聞いた時よりも気が軽くなっているのだから。

 

「で、切り札は何時出てくるの?」

 

「それは―――」

 

『((拡散弾頭弾|クラスター))行きまーす!』

『鈴、ラウラ――逃げないと巻き込まれるよ。』

 

元気のいいシャルロットと物凄く他人事でどーでもいいみたいな雰囲気の簪の声がラウラの声を遮るようにして聞こえてきた。

 

って、

 

「おぉい!?」

 

「ツッコミを入れてる場合か!逃げるぞ、鈴!」

 

思わず突っ込みを入れてしまい、ラウラに呼ばれてハッと我に帰る。

確かに、そんな事してる場合じゃない。

 

「ッ、了解!」

 

逃げれる方向を慌てて探す。

行けるのは―――

 

「上ッ!」

 

その方向に向かって衝撃砲を乱射。

 

それで出来た隙間にラウラが飛び込んでプラズマ手刀とワイヤーブレードを振り回して空間を広げ、

 

「っしゃあ!」

 

そこに飛び込んでそのまま逃げる。

 

逃げて逃げて、後を振り返った時に物凄いモノが目にとまった。

 

観客席に、暴走機を取り囲むようにして展開した二十機余りのIS。

 

その全機が、四角い箱のようなものを構えている。

 

「あれって………」

 

『―――全機、撃てッ!』

 

その、力強い声と同時に『グリップ付きの箱』から放たれる四発の中型ミサイル。

それに交じってセシリアのミサイルビットと簪やシャルロットが放ったらしい小型ミサイルも混ざっている。

 

大人しく撃墜などされてくれない高機動ミサイルの群れに食らいつかれた暴走機たち。

 

何と言うか…乗ってる子たち、生きてる?

 

『――教員各位は千凪先生の指揮下に入り目標機以外の足止めに、生徒各員は織斑先生と目標の撃破に当たってください。目標は、この機体です!』

 

ピットから届けられる山田先生の声。

 

通信ウィンドウに表示されたポイントに居るのは、あたしらが狙って阻まれた打鉄タイプの機体。

 

「ビンゴ!」

 

「大当たり、だな。」

 

観客席から飛び立った見慣れぬISと入れ替わるようにして一度戦線を離れる。

 

((淡い紅色|さくらいろ))の機体が上がってくるのをハイパーセンサーで確認したと同時、あたしたちは金色の燐光に包まれた。

説明
#101:戦人(いくさびと)、立つ


気がついたらもう四月ですよ…
8巻刊行前完結は無理っぽいのでマイペースに行く事にします。
5月には教育実習で7月には採用試験があるし、卒論も進めにゃならん私は大学四年生。

前回の『100回記念』は『キャノンボールファスト編』が終わった所に番外話としていれるつもりです。
現段階では組合長様案の過去話が最有力。

短編の案が他にありましたら感想等にどしどしお願いします。
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コメント
感想ありがとうございます。楯無さんの哀れは今に始まった事じゃ無く、#一桁代からだったり。…暴走のからくりは意外と単純だったりします。さて、最強コンビも投入したけどどうこの風呂敷を畳もうか…(高郷 葱)
更新お疲れ様です。今に始まったことではありませんが、楯無会長、いろいろと哀れだ。それはそうと専用機の中でも『暴走』に巻き込まれているものといないものに分かれているというのは考えてみれば少し不思議ですね。はたしてどんなカラクリなのやら…。(組合長)
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