望むなら何度だってあたためる
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まぶしくてついていけそうにないや、そんな事を思ったら動いていたはずの脚が動かなくなってしまった。

かつかつと小気味いい音を立てながら彼は遠ざかっていく、もう少しで見えなくなってしまう、その前に。

──ああ、一人で歩くのってどうするんだっけ?

アレクセイという主を失ってから時たま繰り返される己の中の尋問。道具として生きていた両手分の年はいとも容易く体を鉛に変えてしまう。

歩かなきゃと思うのに動かない、見失ってはいけないと思っているのにそれに反するように顔は角度をつけて地面を見つめる形になる。

(待って、いかないで、置いていかないで)

それはまるで駄々をこねる子供のようで。

何で動かないんだ、どうして動けないんだと自問して、上手くいかない事に焦りを覚えて目を瞑る。

それは端から見れば逃避でしかなく、ああまた俺は前を向くのを諦めてしまうのかと頭の何処かで警鐘が鳴らされる、けれどもやはり体は動かない。

 

 

 

「…おっさん!」

 

 

 

肩に宿る暖かな体温と感触、これはなんだ?

 

「おっさん、おい」

「……青年…?」

 

じわりと広がっていく優しい熱に自然と何かが溶けていくのを感じる。

そして、それは肩だけでなく全身から感じるものだと気付いた。手も、足も、背中も、首も、そして──

(魔導器も、あったかい)

それはまるで生命を満たす水のように体をかけめぐり、己を急速に現実へと導いていく。

──もしかして、抱きしめられている?

ゆるゆると目を開ければ遠くの景色が見える、少し逸らせばよく見知った彼の綺麗な黒髪が目に入った。

どうやら考えていることは間違いではないらしい。でも、何故。

 

「青年、どうして」

「おっさん道で急に座り込んじまうんだもん、焦ったぜ」

「でもどうして」

「おぶってやらねえとな、って思って」

 

またしょうもない事考えて変なループに陥ってるんだろ、顔青いぜ。

そう言われて、己が相当ひどい顔をしていたという事実に気付く。いつも通りの笑いが何処かにいってしまっているらしい。

急速に取り繕わなければと思うのに、口を歪めてみても目を歪めようと思っても思い通りに動かない。

それどころか何故か鼻の奥がつんとして目頭が熱くて喉から変な声が漏れそうになって必死にこらえようとするのに、上手に出来る気がしない。

 

「ほれ、背に乗りな。そしたらどんな顔してても俺には見えない。」

「でも、」

「ひどい顔見られるのと、おぶられるのどっちがいい?」

 

選んでいいぜ、と言われ頭のなかで整理する。

ひどい顔を見られる、というとこのどうしようもない嗚咽を垂れ流した顔を見られてしまうかもしれないということ。

おぶられるなら顔は見せずにすむ。重たい人間を背負わせる罪悪感はあるが──

 

「…おぶられる方でお願いするわ」

「んじゃ乗れ」

 

──こんなみっともない己を曝け出すくらいならよっぽどマシだ。

乗りやすいようにしゃがみこんだ背にゆっくりと体を預ける、黒髪が揺れてああ本当におぶられているんだなと他人ごとのように感じた。

(青年は、どうしてこんな俺を生かしてくれるのかねぇ)

まぶしい彼、いや彼らには不釣り合いな薄汚れた人間を事あるごとに拾い上げて何度も手を差し伸べてくれる、その度にそう思うのだ。

いわばきらめく宝石の中にある何の変哲もない石なのだ己は。時に足を引っ張り、時に迷惑をかけ、時に裏切ったのにそんな事はどうでもいいと言うのだろうか、いやそれは絶対にない。

それならばこれは情けか?哀れみか?いや、それも違う。

ぐるぐると頭のなかで回り続ける思考。ああ、おぶられてよかったと今心の底から思った。

 

「おっさん、別に寝ててもいいからな」

 

彼はそんな心中を察したのだろうか、いや、それともだんまりなので眠いと判断したのだろうか。

(青年はさ、優しすぎるよ)

きっとこんな単純明快な己の心中など見ぬかれているのだろう、怖いくらいに鋭くて優しい彼のことだから。

それでも、今はその気持ちがじんわりと染み渡る気がした。

(やっぱり魔導器もあったかい、今は少し苦しくない)

ひたひたと彼という水で失った血が補われていく、そんな感じだ。

 

説明
今更TOVをはじめて、一周クリアして、創作意識がわきました。レイヴンとユーリ。ザウデ後〜エアルルーミンあたりまでを想定した甘いのか甘くないのかわからない話 ユーリ→→←レイヴン いちおう青年がおっさん抱きしめてるのでユリレイつけときます。
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