無限転生、甘楽 〜第三章・前篇3 ハイスクールD×Dの世界〜 |
第五話:戦神(ベルセ)、目覚めます!
「す〜す〜………」
「塔城……! 塔城………っ!」
眠っている塔城の部屋に忍び込んだ俺は、ベッドの中ですやすや眠る塔城に小声で呼びかける。
「………っ!」
就寝中の女の部屋に来た事もあってか、驚いた様子で飛び起きた塔城。その猫の眼が俺を捉えた瞬間、『戦車(ルーク)』の拳が思いっきり引き絞られた。
「待て待て待て………っ! 寝ている女の子の部屋に男が突然現れた事に攻撃的になるのは解る! その対応は女の子として間違っていないけど、ちょっと待とうかっ!?」
有無も言わず拳が振り降ろされまくるのを必死に躱しながら説得する。
「それで、こんな時間に一体なんですか………?」
とりあえず別荘の裏手の森に移動したのだが、時間も時間な上に急な呼び出しだった所為か、表情からもかなり御立腹だ。
「ええっと………、とりあえずごめんな塔城? 結構考えたんだが、お前以外に適任がいなかったんだよ」
「適任? 私に一体何をやらせたいんですか………?」
「目的は二つ。一つは俺の『戦車(ルーク)』としての完成。もう一つは戦いで足手纏いにならない為の決め手作り」
「『戦車』の完成と決め手作り………ですか?」
塔城が何を言っているのかよく解らないと言いたげに首を傾げる。その仕草は、別に媚を売っている訳でもないのにやたら可愛く見えてドキッ! っとしてしまう。落ちつけ俺! 俺はマスターの豊満な双眸に包まれても耐えたのだ! この程度で一々ドキドキするな!
内心活を入れながら、俺は詳しい説明を始める。
「えっと………、まず、『戦車』の完成って言うのは、言葉ほど凄い事じゃなくて、単に特性を発揮できるようになる、ってだけの事。要するに力と耐久力のアップが目的かな?」
『戦車』の特性は屈強な防御力とバカげた攻撃力。この二つは俺の神器(セイクリット・ギア)の特性から考えても案外重要な意味を持っている。早期習得が必要な基礎能力と言える。
「っと言っても、こっちは時間をかけないと無理な話だ。たぶん今回のレーティングゲームには間に合わない。それでも付け焼刃程度には身につけないと話にもならないからな。重要なのは二つ目の方………」
「決め手………要するに技が欲しいと言うところですか?」
「解り易く安直に言えばその通り『必殺技』が欲しいんだ。基礎を手に入れるのには時間がかかる。ならば、急凌ぎにはなるが、最悪でも敵の駒一つを道連れにできる程度の切り札が欲しいんだよ」
「言いたい事は解りました。ですが必殺技と言うのなら、既に甘楽先輩は一撃必殺の技を持っていると思われますが………?」
「いや、あれじゃダメだ」
「え?」
塔城の言葉をすぐに否定した俺は、わりと真剣にその理由を話して伝える。
「塔城が言っているのは、たぶん、俺の神器が使う破城槌の一撃。………ええっと? 『パニッシュメント』って言ってたっけ? アレは確かに破城槌その物の強力な力だったけど、正直アレは実戦的じゃない」
俺は神器を呼び出し、右腕のアームガードと破城槌のハンマーを装備する。呼び出されたハンマーを右手で掴むが、重さに耐えきれず、地面に槌を叩きつけてしまう。
「見ての通り、この破城槌(ハンマー)は片手では扱えない程に重い。『戦車(ルーク)』になったおかげで振り回される事はなくなったが、扱いが雑になるとすぐに身体を持っていかれる。こんな重たい破城槌を振り回して、動きの速い相手に容易に当てられると思う?」
「思いませんね。『騎士(ナイト)』には余裕で躱される上に、防御する隙も与えず切りつけてくるでしょうし、同じ『戦車(ルーク)』が相手でも見るからに攻撃力に傾いているハンマーの一撃を受け止めようとしてくれる人はいないでしょう。仮に『僧侶(ビジョップ)』が相手だとしても、魔術に長けた相手では搦め手を取られて終わりそうです。動きが鈍重な所を考えると、最悪『兵士(ポーン)』相手には逃げ回られて『プロモーション』されるなんて事も考えられます」
『女王(クイーン)』相手は言わずもがなだ。
これでは俺は文字通りの破城槌としてしか役に立たない。限定的にしか役に立たない戦力ではあの人の不安要素以外の何物にもならない。ここで俺が駒として最低限の能力を持っておかなければ!
「だから俺は、何としても当てられる業を必要としているんだ。あの神器は攻撃を受け止めないと力が堪らない。だからどうしても先手を相手に取られてしまう。その上、溜めた力の一つ分は身体強化に当てないと槌が重すぎてまともに振るえない。これでは遅れをとるばかりだ」
俺の神器の身体強化は、イッセーの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と違い、単純に力を倍にしていると言うわけでもない。俺の一回分とイッセーの一回分では強化できる力の総量に天と地の差が付く。この先鍛えて行けば、『神滅器(ロンギヌス)』とレアなだけの神器との差を思い知らされることになるだろう。
「それで、俺は考えたんだ。俺の唯一のアドバンテージは、神器のレア性、つまり相手に情報が無いって事だ」
「その程度のアドバンテージでは―――」
「解ってる。足りないって言いたいんだろ? 俺が考えたのはそこじゃない」
俺は、自分の考えが上手くハマれば、かなりの力になれる事を予想し、自分の案を塔城に話す。少し自慢げになってしまったのは要反省かもしれないけど、今はそれは良い。
「―――ってな感じ。どうかな?」
俺の話を聞いた塔城は、少しだけ目を丸くした後、しばらく考える素振りを見せてから返答してくる。
「幾つか補正は必要です。でも、概ねその方法で良いと思います」
「よっし!」
思わずガッツポーズを取りながら、僅かに見えた希望に胸が高鳴る。
この作戦には木場か塔城、もしくはアーシアとのコンビネーションが必要になるが、上手くいけば全力状態を発動するイッセーと並ぶ事だって難しくはない!
塔城の了承を得た俺は、さっそく今夜から特訓を開始する事になった。
「イッセー、甘楽、二人とも神器を使いなさい」
特訓三日目、マスターからそんな事を言われた。特訓中は神器の使用を禁じられていたが、どうやら解禁を貰ったようだ。
俺は破城槌の神器を、イッセーは『赤龍帝の籠手』を互いに呼び出す。
「イッセーはとりあえず限界まで自分を強化しなさい。その間に甘楽は朱乃の攻撃をひたすら受け止めるのよ」
「え?」
言われた瞬間、背筋に冷たい物が走った。
一体何を求められているのか解らない上に、あのSっ気溢れる副部長の攻撃をひたすら受けろと? 俺はM属性無いですよっ!?
………いや、まあ確かに最近、俺には『誰かに仕えたい願望』があるらしい事が解ったが、それは忠誠心の類であってMとは位置を同じくしない境界があるわけで―――、
「それじゃあ逝きますわよ? 甘楽くん?」
「今、甘い声でとんでもない発音しませんでしたっ!?」
俺のツッコミを無視して、副部長が得意の雷撃を打ち出してくる。
咄嗟に避けようと考えたが、不可能だとすぐに悟って槌で受け止める。掌全体に静電気でも走った様な痺れと、ハンマーで殴られたような衝撃に仰け反ってしまう。
『Guilty(ギルティ)』
副部長の攻撃を受け止めた瞬間、槌の宝玉が光り、音声を発した。最初は気付かなかったが、この音声は間違いなくピーターハウゼンの声だな。
「甘楽、覚えておきなさい。アナタの神器(セイクリット・ギア)は、イッセーの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』ととても似ているの」
副部長の雷撃が休みなく放たれる中、マスターは説明する。
『Guilty(ギルティ)』
「その音声でアナタはエネルギーを一つ分チャージする事が出来る。そして、そのエネルギーを好きな場所に打ち込む事が出来る。それがアナタの神器(セイクリット・ギア)の特性よ」
その事自体はなんとなく解っていた。直接ピーターハウゼンにも聞いていたし、何より塔城との訓練で色々試したからな。
「ただし、アナタのエネルギーチャージには『相手の攻撃を受け止めなければならない』っと言う条件があるの。ある一定以上の攻撃を受けると一回分のエネルギーをチャージできる。つまり、悪魔として未熟なアナタが最低限の強さを得るには、自らを追い詰める必要があるのよ」
そう、そして、チャージしたエネルギーはイッセーの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と違い、『倍加』などと言う都合の良い強化ではない。あくまで『+1』の効果でしかない。
「チャージしたエネルギーは貴方自身か、攻撃力か、その二択に打ち込む事が出来るわ。そして、チャージした分のエネルギーを一度に叩き込む事も出来る」
だが、俺自身が強化に当てられるエネルギーは『+8』が限界。攻撃力は全力強化した俺なら『+15』までは一度に打ち込めるはずだ。
『Guilty(ギルティ)』
副部長が恍惚の表情で放つ雷を受け止め続ける事二十回。さすがに泣きそうな気分になってきた所で俺が溜めていられる限界に入り、それを見切ったマスターが俺に合図する。
「甘楽! 最大まで自分を強化しなさい!」
「はいっ!」
『Execution(エクスキューション)!』
マスターの命令に従い、チャージしたエネルギーの八回分を自分の強化に当てる。イッセー同様に、鋼色のオーラが体中から噴き出し、破城槌(ハンマー)と身体が一気に軽くなる。さすがにこれだけ強化すると破城槌も普通の棒並みに軽く感じる。
「子猫!」
マスターに名を呼ばれた塔城が俺の前で構え―――っと、次の瞬間には塔城が俺目がけて殴り掛って来た。
「っ!」
ズガアァンッ!
とてつもない衝撃音が山彦となって木霊した。
咄嗟の事で動けなかった俺は、塔城の拳を掌で受け止めたのだが………、それが信じられない程余裕があった。
いや、確かに塔城の拳は重い。決して軽んじられない程の一撃だ。まともに受けていれば危険だったのは明白。それでも俺は受け止められた。受け止める事が出来た。
『戦車(ルーク)』である塔城の一撃必殺の拳を、未熟な俺が片手でまともに受け止める事が出来るほどの余裕が生まれているのだ!
夜中に訓練し合っていた俺達だが、それでも全力状態は試した事がなかった。それだけにこの状況は互いに表情に出てしまうくらい驚愕モノだった。
一旦、拳を引いた塔城は試す様に拳と蹴りを幾つか放つが、その全てを俺は片手で受け止める事が出来た。
『Guilty(ギルティ)』
自身を強化してから三回目の音声。それを待っていたかのようにマスターが高らかに命じる。
「今よ! 全ての力を攻撃に転換しなさい!」
「打ち貫けっ!」
マスターの命に合わせ飛び上がった俺は大きく振り被った槌を塔城の頭上目がけて叩き落す!
『Punishment(パニッシュメント)!』
音声が発生られ、破城槌の撃鉄が何度も打ちつけられる。全てのエネルギーが槌に叩き込まれ、振り降ろした一撃を―――瞬間、はっとした表情になった塔城がギリギリのところで攻撃を避ける。槌は敢え無く地面に叩き付けられ、全てのエネルギーをそこに解放されてしまう。
刹那に爆発が起きた。
ミサイルが直接着弾したんじゃないかと言う衝撃が破城槌から打ち込まれ、躱したはずの塔城にまで衝撃波が及び、彼女の服を半ば吹き飛ばしてしまう。衝撃波はそれだけに止まらず、マスターやイッセー達の所にまで及んだが、そっちはしっかり躱すなり防ぐなりしてくれていたようだ。
衝撃波が止んだ後、半ば目を瞑ってしまっていた俺が見たのは………。
「………ま、まじで?」
正真正銘、ミサイルの着弾後とした言えない巨大なクレーターと、衝撃波に煽られ破けた服から下着を晒し、尻持ち付いている塔城の姿があった。
皆で驚いている中、マスターだけが冷静に告げてくる。
「甘楽、アナタは確かに経験も少なく、実力もまだ未熟よ。でも防御力を上げるだけでチームの劣勢を覆す要になれるのよ! アナタは私の眷族で最強の盾を目指しなさい。チームに振り掛る火の粉を全て受け止め、受けた分を利子を付けて返せる最強の盾に!」
最強の盾………!
そのフレーズは俺の胸の中で強い衝撃を受けた。
今まで俺は、どの世界に居ても何かを求められた事はなかった。
「自分で行きたいところを選べばいい」と、無責任な事を言われ、だが、選ぶ自由を与えられたばっかりに何も言えず、どうしていいのか先を迷ってばかりいた。
だけど今、この俺の主様は、俺に目指すべきビジョンを与えてくれた。その上で、彼女は俺にそうなれる様にとしごいてくれている。それが堪らなく胸を打つ。
「はいっ! 俺はチームに降りかかる火の粉を払う、最堅(さいけん)の『戦車(ルーク)』になります!」
『戦車(ルーク)』中、最強の盾になって、イッセー達を襲う全てを受け止め、彼等の形勢を覆す役割を担おう!
などと意気込んだのは良いのだが………。
この後、イッセーの全力状態を見せられる事になって、少し萎縮してしまう事になった。
なんせ、俺の全力がミサイルの着弾なら、イッセーの全力攻撃は文字通りのレーザービームだ。魔力の波動一撃で山一つが消し飛んでしまった。
俺の全力に対しイッセーの全力はあまりにも規格外だ。
正直、同じチャージ系だと言うのにイッセーの後人を拝しているみたいで落ち込みそうにもなったのだが、マスターが最後に言った一言が、俺にもしっかり勇気を与えてくれた。
「イッセーは最大の攻撃力を、甘楽は最堅の防御力を、二人がいれば矛と盾が揃う。貴方達は私達のチームの要になるわ!」
―――っと言うわけでゲーム当日。
駒王学園をモチーフに作られた疑似空間が戦場となり、こちらの拠点周辺の森に罠を仕掛ける事になった。
「甘楽、アナタの使い魔で罠を張れそうなのはいる?」
「アイリの低級霊を、百々目鬼の霧なら視覚を配置して監視カメラの役割を担えます。後は………、サーニャの力を借りれば敵を索敵できますけど、これは俺が中心のレーダータイプだし、俺の使い魔使用は結構力食うんで………」
情報をしっかり提示しておきながら渋ってしまうのは理由がある。俺が塔城と特訓した戦闘法は、どうしてもヤミの力を借りる事になる。現在、一度に召喚できる数は二人までが限界。今回はアイリにも戻ってきてもらっているので一度に二人呼び出せる。それでも召喚継続で力を奪われる戦法を控えている俺は、出来るだけ力を温存しておきたかった。
「いいわ。アナタは優斗と一緒に森で敵を迎え撃ちなさい。優斗に援護させるから、そこで出来るだけ力を溜めてくるのよ」
「解りました」
詳しく説明してもいないのに察してくれるマスター。とてもありがたい限りだ。
その後、全員にとりあえずの指示を出し、イッセーに施していたらしい『兵士(ポーン)』の封印を幾つか解いたマスターは、先程渡された耳に入れる通信機越しにこっそり耳打ちしてきた。
『甘楽、アナタに一つ忠告しておきたい事があるの』
「なんです?」
片耳に手を当て、声をひそめながら応じる。
わざわざ小声になり、イッセーやアーシアに聞かせない様にしているのだ。内緒にしたい話なのかもしれない。
『アナタの「悪魔の駒(イービル・ピース)」も、イッセー同様、「戦車」の駒一つ分を全て受け切る事が出来なかったの』
うえ………っ!? 俺ってマジでステータス低い扱いなのな………。
「………イッセーの時に俺も一緒に封印を解放しなかったって事は、俺には基礎体力が少な過ぎて解放できなかったって事ですか?」
『いいえ、そもそも私はアナタには封印を施していないのよ』
は? それは一体どういう事だ?
思わず視線で訪ねると、マスターは詳しく説明をしてくれる。
………どうでも良いが、この間もマスターに膝枕されて喜んでるイッセーが羨ましくて少し憎いぞ………。
『恐らく、アナタが先祖から受け継いでる「契約の力」が原因なんじゃないかと思うのだけど………? アナタが受け切れない「戦車」の余剰分の力が、全部別の所に流れているみたいなのよ?』
なに?
まさかと思い、目を閉じて自分の中にある『悪魔の駒』の存在を確認してみる。もちろん『Fateの世界』で会得した確認方法だ。
ほどなくして、悪魔独特の魔力の反応を自分の中に発見する。その一部が俺の身体に満たされ、大部分が別の方向に漏れ出ている。行先は………、マスターの言った通り、俺の契約場所、深層世界に送り込まれているように感じる。
目を開けた俺は、視線をマスターに向けて頷き、彼女の仮説が正しい事を伝える。
『やっぱりね………。だとすると、封印の解除は私の任意ではなく、自分の任意で行えるはず。私が忠告しておきたかった事はまさにそこなの』
そこまで言われればなんとなく察しはつく。先程イッセーにも言っていた。『悪魔の駒』の強過ぎる力を受け切れない肉体では、全ての力を解放するのは危険な事だ。だからイッセーは封印をしてもらい、俺は自らの余剰スペースに流し込んだ。
問題なのはこの力を俺が自由に解放出来てしまえると言う事だ。マスターなら今の俺がどの程度なら力を戻しても大丈夫なのかすぐに解るだろうけど、俺自身にはそのめあすが全く解らない。下手な開放は自滅に繋がる。
『良い事? 私がアナタの力を加減して解放できない以上、その任意はアナタに任せるわ。大事なゲームですもの、『使うな』っとは言わないわ。でも、決して大きな力の解放は止めなさい。出来る事なら使わない事。良いわね?』
「了解ですマスター。使わなくても良い様に戦って見せます」
そう伝えつつも、俺は使ってしまうんだろうなという予感はしていた。
原作通りで行くなら、この試合は絶対に負ける。でも、俺はマスターを勝たしてやりたいと思っている。生憎、俺は弱いし、原作知識をひけらかすには疑われる可能性の方が高い。それでも、この身を最大限に活用して、彼女を勝利に導いて見せる。そのくらいには考えている。
まあ、それで自爆してしまったら元もこうもない。使いどころは間違えないようにしよう。
ほどなくして、準備が整った知らせを聞き、俺達は所定の位置に拡散して行った。
「どうやら相手が罠に掛った様だよ」
木場と一緒に本陣の森で控えていたら、隣で木場がそんな事を言ってくる。
俺には全くその気配が解らなかったが、戦いが近づく予感の様な物は感じ取っていた。
転生を続けるうち、戦いの気配を『予感』と言う形で感じ取れるようになってきているらしい。生憎木場達の様にはっきりした物でもなければ確実な物でもないので、「かもしれない」程度の物なんだが………。
考えてみれば、殆ど役には立たなかったとはいえ、幾つもの世界で戦いをこの身で感じておきながら、未だにその気配をはっきり感じる事も出来ないなんて、ちょっと平和ボケが過ぎているのではないだろうか? 反省して、これからは注意深く感じ取るようにしておこう。
決意したタイミングと同時、罠に掛った敵側の『兵士(ポーン)』が三名、こちらの誘き出した所に上手く現れた。
俺達は二人前に出て、それぞれの武器を構える。
「甘楽くん、僕が二人相手にするから、君は一人を相手に出来るだけチャージを―――」
「待って木場、今お前が此処に居てくれるこの隙に、試しておきたい事があるんだ」
魅惑的な踊り子衣装に、露出が高めのメイドさんの格好をした『兵士(ポーン)』を前に、俺は一歩前に出る。
「え? 試したい事?」
「俺の弱点は明らかに『鈍足』だ。チャージ無しでは足手纏いになる。だから塔城に弱点克服の戦術を手伝ってもらった。木場が後ろに付いてくれていて、相手は全員が『兵士』。増援の可能性も無く、失敗しても仲間がとり返してくれるこのタイミングを逃したくない」
そう言って俺は、まだ名前の無い己の神器(セイクリット・ギア)を呼び出す。
右腕に纏う鋼色の手甲と、巨大な破城槌のハンマー。俺は、神器の扱いは想いの力だと言う事を思い出しながら、塔城相手に何度も試したアレを実行する。
「待機モード」
『Wait(ウエイト)』
俺の命令に従い音声を発した槌は、巨大なハンマーから、分解して俺の左肩と腰に装着され、右腕の手甲には長方形のバックラーが追加された。
重たくて振り回せなかったハンマーは、俺の身体を守る鎧と盾になって重量も軽くなった。体積が減ったわけでもないのに軽く感じるのは、これが純粋な物質ではないことの証拠なんだろう。後は俺のイメージが原因かもしれない。
「甘楽くん………!」
「これなら動き易いだろ。まあ、見ててくれよ。無理そうなら力を貸してくれるとありがたい」
そう言った俺は、最後の仕上げにヤミを使い魔として召喚する。
「ヤミ!」
呼ばれて現れたヤミは、いつも通りの黒い戦闘服姿で………何故か非難めいた視線を俺に向けている。
「え? あれ? なんでいきなり不機嫌?」
「あの使われ方は正直気に入らないんです」
ええっ!? た、確かにあんな使われ方は俺でも嫌だけど、そんな今更になって!?
「そんな事言わずに頼むよ! 後でお詫びするから!」
「アナタの使い方も荒っぽいのでイヤです」
だからそんなの今更じゃん〜〜っ!?
「そもそもアイリだけ頻繁に召喚する贔屓もどうかと思います。口には出しませんが皆そこは気にしています」
「そっ!? それはなんとなく気付いてるけど………っ!? でも仕方ないだろ!? その辺は俺の力量と言うもので―――」
「そうでなくとも、アナタはイッちゃんを特別視し過ぎな所があるんです。その不公平はこちらとしても遺憾を覚える物です」
「う……っ!? お、俺そんなにイチ様を特別視してるかな………? ってか、いつの間にヤミはイチ様の事を『イッちゃん』とか呼ぶ仲にっ!?」
「親しい友人ですから」
俺の知らないところで俺の契約した皆が親しくなってる!?
何なんだよお前ら!? なんで俺のいないところで親交深めてるんだよ!?
ピーターハウゼンとディズィーと言い、グリードとセイバーと言い、なんかお前ら俺も混ぜて欲しい様なドラマを自分達だけで展開してるんじゃないだろうな!?
「おい貴様っ!」
「いい加減にこちらを無視しないで頂戴!」
声に気付いて振り返ると、敵の『兵士』三名が飛びかかってきていた。
慌てて右のバックラーで受け止め事なきを得る。
『Guilty(ギルティ)!』
「あっぶね……!」
音声が発せられたのを確認しながら、三歩退がって左手を伸ばし、ヤミの手を握る。
「悠長な事言ってられる状況じゃないんだ! 今回は力を貸してくれ! 文句があるならこの後たっぷり聴く! 改善もその後!」
ヤミは、なんでかちょっとだけ頬を赤くしながら、仕方ないと言った感じに溜息を吐いた。
「後でタイ焼きを買ってください。それと、早く深層世界にもタイ焼き屋作ってください」
「後者は努力してます! 前者はOK!」
俺の返答を聞いたヤミはトランスで姿を変え、一振りの剣へと変身する。IZUMO時代に俺が使いなれた諸刃の直刀だ。
「剣に姿を変える使い魔っ!?」
この世界ではレアな存在なのだろうヤミの特性に木場まで声を上げて驚く。
敵は、ちょっとだけ動揺しながらも果敢に攻め立ててくる。
「姿形を変えた所で………っ!」
「所詮見せかけでしょう!」
三人が三人とも同時に飛び掛かってくる中、俺は左手に持ったヤミの剣で一人の攻撃を捌き、残り二人の攻撃を右のバックラーで受け止める。
『Guilty(ギルティ)!』
二人分の攻撃を受け止めたのだが、発せられた音声もチャージしたエネルギーも一つ分だった。相手が『兵士』だから一撃の威力が弱いのか? 塔城が相手の時は軽く二つ三つはすぐに溜まったんだがな………。
敵三人は、間髪入れず三方から俺を取り囲むと一斉攻撃を止め、時間差での波状攻撃を仕掛けてきた。
逆にやり易い。IZUMOでの戦い方は常に多対一が殆どだった。特に俺はテルの護衛として、彼女が強敵と戦っている間に、雑魚を相手にするのが常の戦い方としていた。それ故に、囲まれた状況での戦いは、下手な一騎打ちよりやり易い。
視野を広く持ち、視線を常に固定しない。対処する相手への優先十位を瞬時に把握して行く。
最初に迫ってくるのは左のメイド。僅かに時間差を付けて右からもう一人のメイド。
左の相手に剣を振るい牽制、相手の動きが一拍送れると同時、右側の飛び蹴りが迫り、これをバックラーで受け止める。
『Guilty(ギルティ)!』
音声確認。受け止めた勢いを利用して一回転、刃を横薙ぎに振るい、敵二人を牽制。後ろに飛び、一旦距離を取るメイド。
背後から踊り子が迫り、手に持つ暗鬼を幾多も振るい抜く。振り返り、全てを最小の動きでバックラーに当てさせ、防御。
『Guilty(ギルティ)!』
剣を振り降ろし牽制。優雅な動きで避ける踊り子は、余裕の笑みを浮かべる。
後方から左右に別れる様にして迫るメイド二人に振り向き様に剣を振るって早めに牽制するが、相手も最初っからフェイント目的の様で切っ先は全く届かない。
左右に割れたメイドが再び俺を挟み込み、片方が掌から魔力の弾丸を幾つも放ち、もう片方が直接迫ってくる。今度は同時攻撃だが、対処が難しいタイプ。
慌てない。この程度、テルと一緒に戦ってる時は当然の様に戦い抜いた。あの時の俺は足手まといになる事さえあるほどだった。だけど! 悪魔となり、マスターに鍛えられ、神器化したピーターハウゼンと剣になってくれているヤミがいる今の俺に!
「そんな程度―――!!」
バックラーで魔力の弾丸を受け止めつつ、肉薄してきたメイドの攻撃を左手に持つ剣で全て捌いて行く!
『Guilty!』『Guilty!』『Guilty!』
魔力の弾を受け止めたバックラーが中心の宝玉を輝かせ音声を宝にかに連続させる。これでエネルギーは七回分溜まった。
「………! こいつの神器は既に発動している! 何かしてくる前に叩き潰すぞ!」
さすがに俺の神器を警戒し始めた三人は下から上から後ろ正面左右と、複雑なコンビネーションで攻撃を仕掛けてくる。
スライディングの様な下からの攻撃を飛び上がって避けながら、空中に居る内に研ぎかかってきた相手の攻撃はしっかりバックラーで防御。
『Guilty!』
ついでに衝撃を利用して瞬時に地面に着地。後ろ左右から同時にしかけると見せかけ、右の相手は囮、盾の無い左側の踊り子が迫るが、全ての攻撃を剣となるヤミで受け切る。
そろそろだ………!
そんな予感と共にその場で飛び上がり回転するようにして剣を横薙ぎに振るう。
予想通り、同時攻撃を仕掛けようとしていた三人の動きが止まる。だが、相手は瞬時に飛び上がると、空中で合流して身体に炎を纏わせ一点突破に攻撃を仕掛けてきた。
これは強い! バックラーだけじゃまともに受け止めるのは危険だ!
俺がそう感じると同時に背後の木場が飛び出そうとするが、俺はそれを対処と言う行動で止める。
「ヤミ! 盾だ!」
俺の要望に応え、剣だったヤミは、バックラーよりも厚いラウンドシールドへと姿を変える。バックラーとラウンドシールド、二つの盾を正面に構え、俺は特大の攻撃を正面から受け止める。
俺は最堅の『戦車』になるんだ! たかが『兵士』三人程度の攻撃………っ! 防げなくてたまるかーーーーっ!!
塔城から受けた渾身の一撃と見紛う衝撃が俺を貫く。だが、俺はその攻撃を防ぎ切った。ノーダメージとはいかなかったが、それでも目立った外傷もなく、精々三、四歩分吹き飛ばされた程度だ。
「ば、バカなっ!?」
「我ら三人の攻撃を………っ!?」
「防ぎ切ったと言うのかっ!?」
『Guilty!』『Guilty!』『Guilty!』『Guilty!』『Guilty!』
驚愕に顔を歪める三人を余所に、バックラーの宝玉が輝き、けたたましく音声を発する。
これで十三回。全力ではないが既に充分だ!
「ヤミ、一旦戻れ!」
召喚の維持でも力を使ってしまう俺は、一度ヤミを退かせる。
「待たせたなっ! 行くぞピーターハウゼン!」
『Standby(スタンバイ)!』
左肩と腰の鎧、バックラーが解除され、最初に出現した巨大にして鈍重な破城槌が姿を表わす。
『待っていた………、待っていたぞ主!』
ピーターハウゼンの歓喜が神器を通して伝わってくる。戦いを求めてやまない存在たる黒龍は、戦場の気配に興奮しているようだ。
コイツがこんな性格の所為か、神器(セイクリット・ギア)を待機モードにしていると、不満げな気配が伝わってくる事が多い。せっかく戦える状況にありながら、防御一辺倒なあの形態は中途半端な感じがして彼の好みに合わないのだろう。
その反動の所為か、逆に待機モードから通常軌道に戻すと、通常よりも張りきっている様な系さえ感じる。期待に満ちた思念を受け止め、それに応えるが如く、俺も叫んで命令を下す。
「弾丸三発! 撃ち込め!」
『Execution(エクスキューション)!』
不思議と音声も高揚した風に聞こえ、三回分のエネルギーが俺の身体に打ち込まれる。
ドカッ! ドカッ! ドカンッ!
撃鉄が連続して打ち鳴らされ、俺の身体に鋼色のオーラが噴き出す。
敵三人の表情が一気に固まる。
迷わず、俺は槌を両手に握り飛び込む。
右側に居るメイド目がけて破城槌を振り降ろす。わざと速度を抑えていたので右側に躱された。今度は全力で槌を振るい、躱したメイドに強化した状態でも相当に重くて扱い難い破城槌をプレゼント。躱せなかったメイドは、そのまま槌の重量に押し潰され、動けなくなってしまう。
武器が無くなって隙と見たのか、もう一人のメイドと踊り子が向かってくるが、強化した分の力は全く解除されていない。さっきとは違い、やたらとスローモーションに見える相手の攻撃を躱し、同時に二人の手を掴み取り、力任せに頭上に投げ飛ばす。
「木場!」
俺が名を呼んだ次の瞬間、頭上で閃光が瞬き、投げ飛ばした『兵士(ポーン)』二名は、受け身も取れずに地面に落下した。
「ナイスだよ甘楽くん」
嬉しそうに笑みを向ける木場を相手に、強化した今の俺でも目で追えない速度を出す『騎士(ナイト)』様に、苦笑いを浮かべて応じる。ついでに槌の下敷きになってもがいているメイドさんに、槌を掴んで体重をかけると言うトドメを刺しておくのも忘れない。
「木場一人でも何とかなった様な気もするけどね………」
「そんな事はないよ。とりあえず運動場に向かおう。イッセー君達も予定通り、敵を倒したみたいだし」
「え? あれ? アナウンスやってた? 俺聞こえなかった」
既に走り出す木場を追いかけながら神器を待機モードに移行する。
「甘楽くん、戦いに集中してたもんね。………それにしてもさっきの使い魔の子、変身能力があるんだね。ビックリだよ」
「ああ、ヤミの事ね? でも、俺の使い魔召喚は召喚維持にも魔力使うし、ヤミの場合だとトランス能力………変身させる度に力を持っていかれちゃうんだよな。だから、あんな武器みたいな使い方しちゃって………さっきも本人に怒られちゃったし、改善方法を早く見つけないと………」
そんな風にぼやいている時、そのアナウンスは俺の耳に届いた。
『リアス様の「戦車」一名、リタイヤ』
「「っ!?」」
いま、なんていった………?
マスターの『戦車』がリタイヤ? 俺は此処に健在だぞ? だとしたら誰だ? 誰って一人しかいないじゃないか? え? でも、だって………アイツは………。
そんな筈がない。そんな筈がない。
塔城が俺より先にリタイヤする筈がない。だって敵は既に倒しているはずだろう?
俺の思考が、知っているはずの知識を置いて行って、勝手に迷走を始めて行く。
俺は知っていたはずだ。塔城子猫が敵の『女王(クイーン)』にやられる姿を、俺は知っているはずだろう?
知っていた。知っていたんだ。だけど………。
ドクンッ―――。
鼓動が鳴る。
耳元から直接叩き込まれる様な煩い音で。
ドクンッ―――。
体中の血が沸騰して行く。抑えられない何かが俺を突き動かして行く。
ドクンッ―――。
本能的に解る。俺は変わろうとしている。騒ぎたてる血が、俺を別の何かへと変えようとしている。
「甘楽くん!」
「!?」
声に気が付いて顔を上げると、木場が心配そうな表情で俺を見つめていた。
「気をしっかり持つんだ。仲間がやられたのはショックだろうけど、ここで僕達が足を止めるわけにはいかない」
「………ああ」
解っている。未だ覚め止まぬ鼓動と血流を意識しながら、苦い気持ちを抱えて、俺達はイッセーが待つ運動場へと向かう。
運動場周辺に辿り着いた俺達は、そのすぐ後に走ってくるイッセーを発見する。丁度俺達が倒した『兵士(ポーン)』達の失格を告げるアナウンスが告げられる中、木場がイッセーを文字通り捕まえ、近くの体育用具室まで鮮やかに連れ去る。一緒に走っていた俺は、その鮮やかさに呆れるばかりだ。
木場を確認したイッセーもまた同じように呆れた顔を見せる。
「お前かよ………。って、じゃあさっきのアナウンス!?」
「それは僕じゃないよ。甘楽くんが一人でやった」
「ま、マジかっ!?」
「木場一人でも充分だった気がするけどね………。まあ、今の内にチャージはしておいたよ」
「そういやなんだその格好!? お前の神器(セイクリット・ギア)か!?」
「神器は想いの力で変化するって言われたからね。俺が思うに、強く想う以上の武器は無いと思うぞ」
軽口を叩き合うのも束の間、イッセーはすぐに申し訳ない表情になる。
「すまん、子猫ちゃんが………」
「………」
「アナウンスは聞いたよ。無念だったろうね。顔には出さないけど、張り切っていたしね」
俺も良く知っている。塔城と訓練を夜中まで続けていた俺は、彼女がいつもと違って厳しい程に張り切っていたのを間近で見ていたのだから。
「………勝とうぜ」
イッセーが俺達に向かって拳を突き出す。
「ああ」
「もちろん」
俺と木場も答えて拳をぶつける。
『イッセー、優斗、甘楽、聞こえる』
突然マスターの声が耳に届く。イヤホン越しに指示を出しにきたのだ。
内容は俺達が敵の陣地である新校舎に正面から突入し派手に暴れる。その隙を突いてマスター自らライザーを倒しに行くと言うものだ。
「フェニックスは不死身なんでしょう? マスターの力量を疑うわけじゃありませんが、楽観できる相手とも思えないんですが?」
この先の展開を知っている俺は、申訳ばかりの抵抗に訪ねて見る。
『肉体は不死身でも、その精神までは不死身ではないわ。何度再生しようと消し飛ばし、ライザーの心をへし折って見せるわ』
「頼もしい御言葉とは思いますが、あえて言及させてください。己を不死身と知るあのライザーの心を折るには、相当回数葬る必要があるように思えます。それは生半可な数ではないと思うんですが?」
暗に、奇襲作戦を止めるか、アーシアの他にもう一人を助っ人として連れて行って欲しいと進言するが、マスターはそれを承知の上で否定した。
『戦力が正面に集中していなければ囮の役を果たせない。動けるのは私とアーシアだけよ』
「副部長………朱乃さんも信頼における実力なのでしょう? ならばせめて彼女が戻るまでは待てませんか?」
これも先の展開を知っておきながら提案してしまう。先の展開が俺の予想通りなら、副部長は敗れるが、それでも作戦を練り直す事が出来るかもしれない。策を他人任せにするのは嫌だが、俺に妙案が思いつく様なスキルは無い。ヒステリアモードなら別だが、俺はともかくかかり難いのだ。っと言うか個人的に使いたくない。
『ここで時間をかけても戦力を守りに固められたらこちらが不利になるわ。この好機を逃すわけにはいかないの』
提案全てが納得の理由で潰されてしまう。これじゃあどうしようもないな。
溜息を吐きたくなるのを堪え、諦めの言葉を口にすると、マスターは苦笑いでもしている様な声で気遣ってくれた。
『私のために渋ってくれてありがとう。でも、私なりに今考えられる最善を尽くしているつもりよ』
そう言われたら仕様が無い。
視線を正面に向けた俺は、そこで複雑そうにしていながら、俺と同じように『しょうがない』と言いたげに笑うイッセーの顔を見る。不思議とそれだけで全部どうでもよくなった。
「そんじゃ、オカルト研究部男子トリオで!」
イッセーに促され、俺達は同時にグラウンドに突入した。
木場と相手の『騎士』カーラマインが互いに名乗りを上げ激突している。
その横ではイッセーが『戦車』のイザベラと、俺は『騎士』のシーリスを相手にする事になった。
戦闘開始の合図がいきなり剣での一撃だったので、俺はバックラーで攻撃を受け止めてからヤミを呼ぶ事になった。
『Guilty(ギルティ)』
「ヤミ!」
「むっ!? 使い魔か!」
呼ばれて現れたヤミの姿に相手も警戒を見せる。
同時にヤミを見たイッセーが涙を流した。
「金髪ロリっ子だと!? ちくしょう! 本当に可愛い女の子使い魔と契約してんのかよ!? 羨ましいぞ甘楽〜〜〜〜っ!!」
「そんな理由で戦闘中に号泣するの止めてくれますっ!?」
「か、かわいい………?」
なんか突然ヤミが照れ始めていた。
あれ? なんか今までに見た事無い程もじもじしてない? もしかしてイッセーのストレートな褒め言葉に喜んでる!? そうなのかっ!?
「他人の使い魔口説くなイッセーっ!!」
「ええ〜〜〜っ!? なんか初めて甘楽に本気で怒られたっ!?」
などと漫才かましていたらイッセーがイゼベラに殴り飛ばされ、俺はシーリスにバックラー越しに斬り付けられた。
『Guilty』
「余所見をするな貴様らっ!」
いかん、敵に怒られた………。
チャージは今のところ十二発だが、イッセーの増加が終わるまでは俺も使わない。この後の展開的に、イッセーがイザベラを倒した所で俺が強化すればイッセーの再強化時間を稼げるはずだ。それまでは防御に徹する。
「ヤミ! もう一度剣になってくれ!」
「はい!」
あれ? 何か素直だな? さっきのタイ焼き交渉のおかげ?
「あと、タイ焼きは遅くなっても良いです」
「明らかに機嫌よくなってるっ!? イッセーに褒められたのがそんなに嬉しかったのっ!?」
「………何の事だか解りません」
こ、この子………っ! いつの間にかとんだツンデレさんになってしまった!?
イッセーに対してちょっと悔しい物を抱えながら、俺はヤミを振るい、シーリスの剣を受け流す。俺がチャージできる限界まであと三発。すぐに溜まりそうだから、できるだけバックラーで攻撃を受けたくはない。全開を出すのはイッセーが『戦車(ルーク)』を倒した後だ!
『Guilty! Guilty! Guilty!』
などと思っていたのだが、呆気なく溜まった。
相手の速度が速い上に、倍加中のイッセーのフォローしてたらあっという間だった。
「甘楽! 俺は良い! 使っちまえ!」
「そんじゃ、一発!」
ヤミの召喚を維持したまま、右手に破城槌を展開。両手で握り、殴り掛って来たイザベラに振るい降ろす。易々と一撃をガードして見せたイザベラはせせら笑う。
「どうした!? 見た目ばかりの『戦車(ルーク)』かっ!?」
「打ち抜け! ピーターハウゼン!」
『Punishment(パニッシュメント)!』
撃鉄が一つ打ち込まれ、パイルバンカーよろしく、インパクトが破城槌に叩き込まれる。突然巻き起こった衝撃に、イザベラは溜まらず吹き飛んでしまうが、残念ながらこれでリタイヤとはいかないようだ。
「………くっ!? 一発の攻撃力を秘めた神器(セイクリット・ギア)かっ!?」
「だが、その形態では動きが遅い!」
途端に横合いからシーリスが身の丈ほどもある剣を振り放ち、俺に斬り掛ってくる。
すぐに神器(セイクリット・ギア)を待機モードに戻しながら剣で受け流して見せると、相手側に驚愕の表情が見え始めた。
「コイツッ! 防御の技術は桁違いだぞ!?」
「当然だ。俺はリアス・グレモリー様、最堅の『戦車(ルーク)』になるんだ。防御能力だけは誰であっても負けない!」
起き上ってきたイザベラとシーリスが同時に襲い掛かってくるが、俺は上手くイッセーを自分の影に隠しながらバックラーで受け止め、剣で受け流す。イッセーが倍加を終了するまで絶対に守り抜く!
「ちくしょう〜〜〜………っ! 木場の奴もすげぇ神器(セイクリット・ギア)出して魅せてくれるし、甘楽も最堅の盾らしくカッコイイ所見せてくれるし………っ! 俺も負けてられねえっ!」
叫ぶと同時に、イッセーの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の準備が整った。
「おっしゃ〜〜っ! 選手交代だ甘楽! ここからは俺が魅せる番だぜっ!」
『Exploson(エクスプロージョン)!!』
イッセーの身体から真っ赤なオーラが一度に膨れ上がる。それを確認した俺はイッセーに道を譲る様に斜め後方に飛び退がる。
まるでそのタイミングが解っていたかのように、イッセーが魔力の塊を放つ。
「ドラゴン波ならぬ………ドラゴンショット!!」
果たして放たれた砲撃は、躱されはしたものの、前方に見える森を一気に吹き飛ばしてしまい、その威力がどれほどの物なのかを物語っていた。
「き、危険だ………! あの神器(は………っ! ここで私が倒しておかねばっ!」
焦ったイザベラが深く入り込んでイッセーに肉薄する。一撃を躱したイッセーは籠手に覆われた左の拳をカウンターでぶつける。
「それで攻撃のつもりかっ!?」
『戦車(ルーク)』の防御力相手には確かに力不足だ。でも、イッセーの狙いはそこじゃなかった。
「弾けろっ! 『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』!!」
イッセーが指を鳴らした瞬間、イザベラの服が下着一枚残さずに吹き飛んでしまった。
「うおっ!?」
そして、突然俺の視界が真っ暗になった。何事だっ!?
「えっちぃのはキライです………」
「ヤミかよっ!?」
くっそっ! なんて惜し―――っ! じゃなくてナイスタイミングの眼隠しだ! 何がどうなってるのか見えないが、敵の『戦車(ルーク)』がリタイヤしたアナウンスが流れたので上手くいったらしい。目隠しもほどなく解かれた。
でもヤミさん、君がトランス使うと、その分俺の魔力とか取られるんで、あんまり任意していないところで力使わないでくれるとありがたいです。
「………女にとって、恐ろしい技だな」
「僕も始めて見たんだけど………、うちのイッセー君がスケベでごめん」
「こら〜〜っ! 身も蓋もない謝り方すんな〜〜〜っ!」
いや、カーラマインと木場の言う事も尤もですよ? イッセー………。
「………えっちぃのは、キライです」
またヤミが御馴染の言葉を口にしたよ。今度はイッセーに向けて。何か聞こえたらしいイッセーがショック受けてるんですけど、俺は苦笑いしながら視線を逸らすしかない。余計イッセーが傷ついている様子を見せるが、ごめん、何も言えない………。
「ちょっとそこの『兵士(ポーン)』さ〜ん?」
っと、相手側の『僧侶(ビジョップ)』レイヴェルがイッセーを呼び、新校舎の屋上付近を指差す。
そこにはマスターとアーシアが、ライザー・フェニックスと対峙している姿が見えた。
「部長っ!?」
「奇襲を読まれていたのかっ!?」
イッセーと木場が驚く中、レイヴェルは余裕の笑みで楽しそうに語って見せる。
「『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』、『雷の巫女』、『魔剣創造』、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』に、『赤龍帝の籠手』。ついでに名も無き希有な神器(セイクリット・ギア)を持つ『戦車』。御大そうな名前が並んでおりますが………、こちらはフェニックス、不死鳥、不死なのですわ!」
誇る様にそう言ったレイヴェルは、猫耳をした『兵士(ポーン)』二名に指示を出し、イッセーを襲わせる。原作通り、相手の脚を狙い、逃げ脚を封じるつもりか!?
「させるかよ!」
「させてもらいます!」
間に入ろうとした俺の前にライザーのもう一人の『僧侶(ビジョップ)』が立ちはだかった。
まずいっ!? 原作でこいつの出番は完全に無かった! コイツがどんな能力者なのか俺には皆目見当もつかない!?
焦って動きを止めたのがまずかった。次の瞬間、俺の身体を炎と風の鎖が包み込み、動きを封じてくる。慌てて破城槌を展開しようとするが、バックラー、肩当て、腰鎧、全てががっちりと捕縛されていて展開できなくなっている。
「予想通り、その形態ではその神器の力を充分には引き出せない様ですわね。精々、相手からの攻撃を受け止め、受けたダメージをエネルギーに変換する程度なのでしょう?」
い、今初めて見る神器の特性を完全に見透かされた!? この子、俺が想像していた以上に頭が切れるっ!? 伊達にライザーの『僧侶(ビジョップ)』はやっていないと言う事かっ!?
「動けないってんなら………、仕方ないよな?」
意味深な俺の呟きに眉を曲げるレイヴェル。この間にもイッセーが『兵士』二人と『騎士』にボコられてんだ。悠長に構えるつもりはないぞ!
俺は目を閉じると、自分の内側に意識を集中して、契約(リンク)を繋ぐ相方を選ぶ。呼び出す相手は、炎系の能力を持つ鬼門術姫―――!
「ミナヅキ!」
呼び出されたのは般若の面を被った露出の多い巫女服少女。否、正しくは半分人間をやめてしまっている妖怪の様な存在だ。
彼女は現れるや否や、手に炎を宿し、相手の『僧侶』に向けて狙いを定める。
「その井手達………! 日本の『般若』と呼ばれる女の鬼ね! 見たところ炎の使い手の様ですけど………!」
レイヴェルが余裕の笑みで『僧侶(ビジョップ)』に視線を送る。
「ええ、我らフェニックスは火と風と命を司る眷族。その相手に火で対抗するなど………、 愚かしいにもほどがあります!」
言うや否や『僧侶(ビジョップ)』は空中に作った幾つもの火の玉をミナヅキ目がけて乱射する。
対するミナヅキは、何処か不機嫌そうに眦を上げ、迫りくる炎に対して掌を翳す。
「甘楽が私を召喚したのは、相手の力が炎だからこそっ!」
次の瞬間、ミナヅキに迫ってきた炎は、次々と翳した手に吸い込まれて行き、彼女の炎と混ざって、人の頭二つ分はあろうかと言う大きな火球としてまとめられてしまった。
「なにっ!?」
「私は『鬼門術姫・ミナヅキ』! 炎を得意とした、術に優れた存在! 我が『意趣返し』の法にて、甘楽と私の力を思い知れっ!」
大きく振り被って放たれた火球は、想像以上の速度で『僧侶(ビジョップ)』に向かい、彼女が防御する暇も無く直撃した。爆発を起こした火球に吹き飛ばされた『僧侶(ビジョップ)』は、こちらの捕縛している術への意識が薄れたのだろう。ミナヅキの片手で簡単に引き千切られてしまった。
「助かった、ミナヅキ」
「………もっと頻繁に呼んでくれて良いのだぞ………?」
「………!」
や、やばい………っ! 可愛い!
コイツ、元の世界で一緒に住んでた事もあって、かなりデレ気味なんだよ! おかげでドキドキする様な事を『顔を赤らめて恥ずかしそうに拗ねた感じで言う』っとか物凄くドキドキする表情で言ってくるんだもの! もうそれだけでヒスっちゃいそうだよ!
「お、おのれ………っ!」
おっと、相手の『僧侶』もまだやられてくれてないぞ。俺はヤミを構えながらミナヅキと共に並び立つ。正直ミナヅキとヤミを同時に召喚維持するのはかなり苦しい。だが、早くこいつを倒して、一度に複数の敵を相手にしているイッセーの援護に行かなくては!
そんな時、新校舎の屋上付近で爆発が起きる。マスターがライザーと戦っているんだ!
「部長〜〜〜〜〜っ!」
心配したイッセーが、『騎士』の攻撃を躱しながら声を上げる。
『私の事は気にせず、目の前の相手に集中しなさい!』
イヤホン越しに、イッセーに向けられたマスターの声が聞こえる。
「でも………っ!?」
『イッセー! 私はアナタを信じてる! このリアスグレモリーの下僕の力を見せつけておやりなさい!』
力強いマスターの言葉に触発され、迫りくる剣を籠手で受け止めるイッセー。
「そうだ! 俺はあの人の下僕悪魔なんだ!」
「な、なにっ!? 受け止めただとっ!?」
まだ力は倍加中。自身も強化していない素の状態で受け止めて見せたのだ。相手も驚愕するのも当然だ。
「なんも考える事ねえ! 俺はあの人を信じて突っ走るだけだ!」
剣を籠手で握り潰したイッセーは『騎士』を蹴り飛ばし、籠手に向かって―――いや、籠手に宿るドラゴンに向けて語りかける。
「赤い龍帝さんよ! 聞こえてるなら応えてみせろ!」
『Dragon(ドラゴン) booster(ブースター)!!』
まるでイッセーの言葉に応える様に籠手から音声が発せられるが、イッセーは想いを込めた力強い声で更に訴える。
「もっとだ! もっと俺の想いに応えて見せろ! 『赤龍帝の籠手』!!」
『Dragon booster second(セカンド) Liberation(リベレーション)!!』
瞬間、籠手から新たな音声と共に眩い光が放たれ、籠手が形を変えた。
「木場ーーーーーっ!! 神器(セイクリット・ギア)を解放しろーーーーーーっ!」
イッセーの呼びかけに、一瞬戸惑った木場だが、すぐにイッセーの言葉を信じ、剣を地面に突き立てる。
「魔剣創造(ソード・バース)!」
地面に向かって解放された力。それに合わせてイッセーも『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を地面へと翳す。
『Transfer(トランスファー)!!』
新たな音声が発せられた次の瞬間。運動場を埋めつくさんばかりの剣が、地面から次々と刃を突き出してくる。まるで地中に隠れていたハリネズミが一斉に毛を逆立てたかの如く視界を埋めつくす剣に、俺も呆気に取られてしまう。
この剣の群れに成す術も無く串刺しにされて行ったライザーの僕は、次々とリタイヤを告げられて行った。ただ、原作の知識通り、レイヴェルだけは生き残っているようだった。
イッセーは自分の力を相手に譲渡する力を手に入れ、歓喜に声を上げる。
「『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』だ〜〜〜〜っ!!」
突然―――、まるでイッセーの歓喜を掻き消すかのように爆発が起きた。続いて、俺達の『女王(クイーン)』がリタイヤしたというアナウンスが流される。原作通りとは言え、直接仲間がやられた知らせを耳に、俺の中で鼓動が早まる。
それを抑える暇もなければ、切り替える暇も無く、再び爆発が起きる。そこに巻き込まれた木場が、あまりにもあっけない程にリタイヤさせられる。
「木場〜〜〜っ!?」
駆け寄るイッセーだったが、その手が届く事も無く、木場は光となって消える。
不意に予感がした。危機感とか直観とは違う、あやふやな未来に対する知らせ。いわゆる虫の知らせに似ている予感。
それに従って視線を空に向けると、そこには予想通り、ライザーの『女王(クイーン)』が宙に浮いて、こちらに向けて杖を翳していた。
鼓動が、更に速度を増した。
―――コイツだ! コイツが塔城を………っ! アイツを俺から奪った!!
心の奥からドス黒い何かが溢れ、どんどん鼓動が高まり、止められなくなっていく。
アナウンスを聞いた時はまだ実感が持てなかった。だが、今こうして本人を目の前にして、俺の中で騒がしい衝動が関を切って押し寄せてくる。
これは………、憎しみにも近い、妬みの感情だ。
周囲に魔法陣の光が取り囲み、奴が俺を狙い、既に攻撃を仕掛けているのに気付いていた。ミナヅキが咄嗟に俺を庇うために抱きついてきた事も、ヤミが形を変え始めているのも解っていた。
それでも俺は、憎むべき相手を見据え、決して視線を外さなかった。
刹那、視界を光が覆い尽くし、耳がおかしくなる様な爆音が轟いた。
「撃破(テイク)」
「甘楽!? 甘楽〜〜〜〜〜〜っ!!」
自分に起こった変化には気づいていた。
ミナヅキの時も一度なった事がある。だが、あの時とは、何かが違う様な気がしていた。
―――甘楽深層世界 ????
甘楽の深層世界は大きく分けて三つの世界に分割されていた。彼と契約した相手は、その世界の情報を与えられ、好きな場所に住み着く事が出来る。ただし、その深層世界の風景は、あくまで甘楽の想像と発想と再現力に影響されるので、西洋の城をイメージしても、中の詳しい構造を知らなければ、殆ど張りぼて並みにスカスカになってしまう。それ故に、彼の心が揺さぶられれば、その深層世界にも影響が及ぶようになっている。彼の世界が、三つの世界に分割されているのも、それが起因している。
彼と契約したグリードもまた、その事実を認識していた。知っていたが故に、いつの間にか引っ張られてしまった暗闇の空間で、彼は訝しい表情を作っていた。
「ここは何処だ? 俺が引っ張られたって事は、アイツの心情的に俺がここに相応しいと判断されたって事か? それともアイツの心が乱れてバクったか?」
地面も空も何もない空間で、グリードは腕組して思案に耽る。
………っと、正面奥の方に何かが存在する事に気づいて近寄ろうとして見る。そう意識するだけで、この空間は簡単に移動できるようだった。
やがて見えてきたものの存在を知ったグリードは、最初こそ驚愕した物の、次第に可笑しくなって歓喜の笑いを上げた。
「俺のストッパー役にあの女剣士がいやがったのはアイツも知っていたはずだ! それなのにここにはアイツはいなくて俺だけがいる………! つまりそう言う事かよ!! コイツは俺が『担当』しろってか!? あーーーははははははははっ!! 甘楽よう!? 俺の新しい宿主さんよぅ!? お前は本当に最高だぜぇ〜〜〜〜〜っ!!」
全身で喜びを表現しながら、笑い声を上げるグリードの前には―――、
黄金の鎧と、交差した二本の剣と、それらを守る様に前面に押し出された盾が、錠前付きの鎖に縛られ、丸く固定されていた。
その鎧は、まるで生きているかのように兜の奥から赤い光を淡く揺らめかせていた。
「………くっそ! またお前かっ!?」
声が聞こえる。物すごく悔しそうなイッセーの声だ。
「遅かったですわね。ユーベルーナ」
「雷の巫女、噂以上の相手でした。やはり、これを使う事になりました」
「勝ちは勝ちですもの。問題ありませんわ」
「なんだよそれっ!?」
「これはフェニックスの涙。どんな傷でも瞬時に回復させる我が一族の秘薬ですわ」
「そんなのありかよっ!?」
「あら? そっちだって『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を使ってるじゃありませんこと? ルールにだって二つまでなら使用を許可されてますのよ」
俺は『女王(クイーン)』の一撃を受けたはずだ。なのにどうして声がまだ聞こえるのか?
普段の俺なら解らなかったかもしれない。でも、今の俺には解る。ミナヅキが実を呈して守ってくれ、ヤミが人型に戻って、背中から翼の様なもので俺の周囲全体を防御してくれたおかげで俺は生き残っているんだ。身体を軽く確かめるが、怪我らしい怪我はしていない。あれで完全に防げるはずがなかったが、俺が“変わった”時に、施されていた『戦車』のリミッターが幾つか外れて防御力が高くなった事も要因だろう。
ヤミとミナヅキはいない。おそらく、ダメージが大きすぎて彼女達の方が留まれなくなったのだろう。召喚した相手のダメージが一定を超えると、強制的に深層世界に戻されるらしいからな。
まだ立ち込めている煙越しに視線を上げると、煙の間に何処かへ飛んで行こうとしている敵の『女王(クイーン)』を見つけた。途端に心臓が大きく跳ねた。
「待ちやがれっ! 俺と勝負しやがれっ!!」
イッセーの声を無視して去ろうとする『女王』。俺はシャーリィを『テルクェス』と言う形で掌に召喚する。死ぬ気の炎の雨の炎を纏わせ、そいつ目がけて撃ち込む。
「シャーリィ!!」
名を呼ぶ事で『召喚』の意味を表わし、力を引き出させる。
放たれたそれは真直ぐと『女王』へと飛来する。
俺の声に気付いた『女王』が振り返ると同時に、直撃した。
「な、何事ですのっ!?」
「まさか………甘楽っ!?」
煙が晴れた事でやっと俺が確認できたのだろう。『女王(クイーン)』を含める全員が俺に視線を向ける。足を止めさせるのを優先したとは言え、直撃して倒せなかったのはちょっと悔しいぞ。
「甘楽!」
イッセーが歓喜の声を上げて近寄ってくる。俺は軽く視線で応えながら、『女王(クイーン)』を睨みつける。
「そんな殆ど無傷だなんてっ!?」
「私の一撃を受けて平気だったと言うのっ!?」
驚愕する敵二人に対し、俺は唾を吐き捨てたくなる気持ちを殺しながら言い捨てる。
「お前の所為で大事な仲間が二人も傷ついた。おかげで俺は生き残れたが、そのツケはしっかり払ってもらうぞ!」
俺の言葉に何か納得したらしいレイヴェルが不敵に笑う。
「なるほど、自分の使い魔を盾にしたんですのね。そう言えばさっき、彼の使い魔が彼を守る様に動いてましたものね」
警告無しに掌で作った水を帯びた魔力の塊をレイヴェルに放つ。慌ててレイヴェルは躱して文句を口にする。
「いきなり何しますの!? 私は戦わないって言ってるでしょっ!?」
「黙ってろ………」
「!?」
「俺を守るために行動してくれたヤミとミナヅキの事を、軽々しく口にするな。不死身である事を後悔させるぞ?」
自分でも驚くほどに低くてドスのある声が出た。“今の俺”じゃなかったら絶対に口にする事は出来なかっただろう。
ヒステリアモード・ベルセ。自分の女を奪われそうになった時、力付くでも取り返そうとする嫉妬心から生まれるヒステリアモードの派生形。『被弾のアリア』の世界で、次兄ぃと兄弟として生まれる事で手にしたものだが、ベルセになったのは、『超昂閃忍ハルカ』の世界でミナヅキを奪われた時以来だ。
このモードは思考が攻撃よりになるので、ヒステリアモードの弱点『女性に優しくなってしまう』と言うのを無視できる。相手が女でも容赦なく殴り飛ばせる。おまけに攻撃力も向上されているらしいので、今の俺はかなり攻撃特化になっているはずだ。ただし、このモードは攻撃よりなために、防御には向かない。『最堅の盾』と言う、俺の目指しているスタイルとは大きく異なる。
いや、もうどうでも良い。どうせこちらも既に後がない。なら、後先考えず、俺はこの『女王(じょおう)』を倒す事だけに全力を尽くそう。
「八咫(やた)」
ヤタローを呼び出し、彼女の回復能力を使って俺とイッセーの傷をある程度癒す。全快させるには、俺の残り魔力では足りない。イッセーの方はアーシアに任せよう。
「怪我が治って………! お前、そんな使い魔もいるのかよ!?」
「一誠。お前はマスターの所に行け」
「! 俺も一緒に―――!」
「ライザーは不死身だぞ? マスターとアーシアだけじゃ倒せるわけがない。良くて互角だ」
「!?」
「お前が必要なはずだ。お前の存在は力以上に励みになる。だから行ってやれ。それに………」
俺は一拍間を開けて、一度も視線を外していない『女王(クイーン)』を更に鋭く睨み上げると、背中から悪魔の翼を広げる。
「子猫を………俺の女に手を出したアイツは、俺の獲物だ!」
ベルセの俺が、なにげに爆弾発言してしまったが、素でない俺には恥ずかしがる事も出来ない。イッセーも目を丸くして俺の変貌に動揺しているようだったが、すぐに表情を改めると拳を突き出してきた。
「解った! ここはお前に任せる! 朱乃さん、木場、お前の使い魔、それに子猫ちゃんの仇! 俺の分もまとめてぶつけてくれ!」
ベルセの俺は、男に対してそっけない所が多分に含まれている。それは仲間で在ろうと関係なく、自分の女以外にはかなり険悪な態度になる―――筈なのだが………。
「ああ、任せておけ」
神器を破城槌に変えた俺は、拳をイッセーに向けてぶつけていた。まるで、心を許した友にするような、その行動に自分で驚いていた。
一度笑ったイッセーが、俺達に背を向けマスターの元へと向かう。彼がプロモーションできる室内に入ったところで、俺は破城槌を構える。さっきの爆発で、エネルギーは全てチャージし終わっている。
「全て強化だ」
『Execution(エクスキューション)!』
自分に当てられる八発分のエネルギーが全て俺の強化として打ち込まれる。
もはや重量感を殆ど感じない破城槌を構え、足の力を溜める様に屈み込み………一気に飛ぶ!
一瞬で『女王(クイーン)』の眼前に迫った俺は、驚愕の表情を浮かべる顔面目がけ迷い無く槌を振り降ろす。
ギリギリのところで障壁を張ったのか、魔法陣が間を阻み、攻撃は受け止まられてしまう。だが、俺の神器は受ける事は逆に命取りだ。
「三発だ!」
『Punishment(パニッシュメント)!』
撃鉄が三発撃ち込まれ、力が解放される。
ドバガーーーンッ!!
凄まじい撃鉄音の後、『女王(クイーン)』は吹き飛ばされ、あっと言う間に地面に激突した。
「ゆ、ユーベルーナが………っ!」
俺の一撃に吹き飛ばされた『女王』に驚愕するばかりのレイヴェル。
「それにあなた、確か転生して間もないはず………! なのにどうしてもう飛べるんですのっ!?」
空中で静止している俺がそんなに不思議なのだろうか? まあ確かに、ついさっきまでの俺なら不可能だった。今はベルセになっているので通常よりも、技の習得率が早い。だから“今飛んで覚えた”のだ。元々塔城と練習はしていたのでベルセになったらあっさりコツを掴んでしまった。素に戻った時に、まだ少し手間取りそうだが、今の状態なら問題は無い。
質問を投げかけてばかりの相手を無視して地上の敵を見る。アナウンスはまだ告げられていないので、『女王(クイーン)』は健在のはずだ。相手が起き上ってくるのを待つ必要はない。相手にはまだフェニックスの涙がもう一つ存在するんだ。回復させてやる気はない。
飛び出しながら槌を振るい、煙の中心目がけて叩き降ろす。煙を吹き飛ばし叩きつけられた槌は、地面に激突して小さなクレーターを作った。そのすぐ脇で、ライザーの『女王(クイーン)』が身を翻していた。どうやらギリギリ避けたようだ。
「この………っ!」
すぐに俺の周辺の空間に魔法陣がいくつも浮かび、次々と爆発して行くが、それを的確に見抜いて縫うようにして突き進む。今の俺には、出現した魔法陣をパッと見るだけでどれがどれだけの威力でどんな順番で爆発するのかが解ってしまう。
全ての攻撃を躱して槌を叩き込むが、慌てながらもさすがは『女王(クイーン)』、間一髪で空へと逃れる。
それを追いかけながら疑問が生まれる。
今、俺がなっているベルセより、アゴニザンテの方が、ヒステリアモードとしてはレベルが高いはずだ。なのに、今の俺の感覚ではアゴニザンテより、圧倒的にベルセの方が能力的に高く感じる。これは、俺個人の相性が起因しているのだろうか?
慣れない空中戦で巨大な槌を縦横無尽に振り回し、相手の『女王(クイーン)』を追い詰めて行く。『女王(クイーン)』もやられまいと魔法を放ってくるが、一々魔法陣が出現する様な攻撃はあっさり躱せてしまい、動作の必要な攻撃なら狙いを簡単に読み取れる。
『Punishment(パニッシュメント)!』
撃鉄を一発打ち込み、上から叩きつける。身を翻して躱した『女王』だったが、打ち込まれた衝撃が空間自体に衝撃波を与えたかのように響き、風圧に吹き飛ばされてしまう。空中に投げだされるように吹き飛ぶ『女王』に向けて、もう一発槌を叩き込む。
「ハルカ!」
召喚不可能な仲間の名を呼び、彼女の力だけを取り出し叩きつける。雷を纏った一撃は、まるで神話に出てくる雷神の槌が如く、直撃した『女王』を用具倉庫の屋根へと叩きつけた。
「使い魔を単純に呼び出すだけではなく、その力だけを呼び出したんですの!? 有り得ませんわ!?」
レイヴェルが何か言っているが俺には関係ない。休ませるつもりの無い俺は、一拍の間もおかずに倉庫に向かって突っ込む。相手の『女王』は、すぐに扉を破壊し、外へと逃げるが、俺も追いかけ槌を振るい続ける。
俺の神器で強化していられる時間はイッセーより長い。が、それでも力を使えば使った分だけ維持してられる時間は短くなっていく。そろそろ強化も終わりだ。ここで一気に仕留める!
空へと逃れようとする『女王(クイーン)』に追いすがり、一撃必殺の力を叩き込む瞬間を狙う。相手もその危険を感じ取ったのか、守りに徹している。かなり必死なのか、攻撃する事は完全に諦めているようにさえ見える。
「! ユーベルーナ!」
『女王』がじりじりと追いつめられる中、レイヴェルが彼女の名前を呼ぶ。その声に気付いた『女王(クイーン)』の口元が笑みに歪んだ。
なんだ? ヒステリアモードになっている俺は、その違和感を確かに感じ取っていた。だが、同時にベルセである俺には、『攻撃的な思考』以外は理解するのが難しい。
敵の『女王(クイーン)』が転身。振り向き様に魔法で特大の炎を放ってきた。受け止められないわけではなかったが、足は止まってしまう。せっかく追い詰めてる所でそんな隙は作りたくなかった俺は、それを躱し―――刹那に己の失策に気付いた。
考えてみればあまりに単純な手だが、ベルセ状態で、しかも自分が優位に立っていた所為で失念してしまっていた。
放たれた炎は俺を狙ったものじゃない。俺の後ろ、屋上で必死にイッセーとマスターの怪我を治しているアーシアに向けた物だった。
「………え?」
アーシアが攻撃に気付いて振り返る。だが遅い。圧倒的に遅い。彼女の反応速度では、気付いたところで何もできない。直撃を受けて終わりだ。
「アーシア!?」
気付いたイッセーが駆け寄り、アーシアに飛びつく。そのまま自分を盾にする様に押し倒すが、それではイッセーが代わりにやられてしまう。あんなものを受けたら、いくらアーシアの回復能力でも、リタイヤは間逃れない!?
「くっそ………っ!」
短く毒吐き、急いで槌を足の裏にくっつける。身体はイッセー達の方を向け、まるで槌を足場に飛びつこうとするような体勢を取る。
『Punishment!』
力を一つ解放して、自分に向けてインパクトを放つ。その力を利用して加速。瞬時にイッセー達と炎の間に回り込む。
『Punishment!』
残りの力を全て使い、迫る炎を掻き消す。ついでに生じる衝撃波を、相手の『女王(クイーン)』に見舞うが、これは予期されていたらしく、簡単に躱される。そして、力を解放してすぐの技後硬直を受けている隙だらけの俺の周囲に紫色の魔法陣がいくつも出現する。まるで今度は手加減なしだと言わんばかりに、多くの魔法陣が取り囲み、回避と防御を全て封殺する。
「今度こそ消えなさいっ!!」
「イチ様!!」
刹那、物凄い爆音に包まれ、俺の意識は途絶えた。
次に目を覚ましたのが運動場だと言う事に気づいて、意識が飛んだのが短い間だった事に安堵した。
「甘楽さん! 大丈夫ですか!?」
火傷だらけで土の上に転がる俺に、青い着物の小さな女の子が心配そうに覗き込んで来る。咄嗟に呼んだイチ様だ。水の神でもある彼女は、俺が力を借りられる中では最強の存在と言える。だが、それでも彼女の全ての力を借りうける事は出来ないし、神の力を少しも引き出せなかった。それでも水の力を行使する時は、かなり頼りになる。今回は大量の水で自分を包んで、爆発のダメージを吸収しようとしたのだが、それでもギリギリと言った所の様だ。
『Erase(イレース)』
おまけに悪い事は続く、破城槌の宝玉からその音声が発せられた途端に、俺の全身の力が失われ、神器の展開も困難になって消えてしまう。もちろん、俺の力で呼び出していたイチ様も、召喚を維持できなくなり消えてしまった。
いや、そもそもイチ様の様な神様レベルの存在を召喚しようとした事自体が無茶だった。いくら相性が良いとは言え、燃費が激しいイチ様の召喚をやるのは今の俺にはまだ早い。
とは言え、あの場面では他に防御策が思いつかなかった。芳佳のバリアじゃ一方向しか防げないし、ヤミは治療中で召喚不可。魔力で防御しても耐え切れなかった。イチ様の助力があって初めて防げたのは本当だ。
身体中に重りを吊るしてるのではないかと思える身を起こしながら、視線を前に向けると、そこに相手の『女王』が疲れた表情で降りてきた。どうやら今ので向こうも相当の魔力を使ってしまったらしい。当然と言えば当然だ。アイツはこっちの『女王』、姫島朱乃副部長とやり合い、子猫、木場、そして俺に必殺の一撃を放っている。いくらフェニックスの涙で傷を癒せても、魔力までは補充できていないはずだ。少し休めば違うだろうけど、アイツは休む間もなく連戦しているのは確かだ。もう飛んでいることだって辛いのだろう。
―――なら、まだ最後の好機が残っている!
ベルセの俺が、自動的に倒すべき相手を倒す為の算段を付ける。
素の俺だったらとっくに諦めている事だろう。いくら“それ”を思い付いたところで、この満身創痍の身体では、とてもやろうとは思えない。
だが、今の俺は諦めない。ただ敵に向かって疾駆するだけだ。
ぐらつく身体を叱咤して、無理矢理立ち上がると、身体を前のめりにして、いかにも飛び出そうとする姿勢を見せる。否、これは“姿勢”ではなく“構え”だ。肩の力を抜き、腕をだらりと垂らしながら、俯いて垂れた髪の間から狙いを定める。
「しぶとくまだリタイヤしていないのか? だが、今度こそ散りなさい!」
『女王(クイーン)』が手を翳し構えた。
「―――散らせるものならッ!」
その瞬間、刹那を、俺は逃すことなく飛び出す。力を溜めていた足を爆発させ、地面を蹴り飛ばしながら前へ前へと加速し、時速36qを弾き出す。
咄嗟に反応した『女王』は俺の俊足に、何か逆転の手があると見抜いたのか、攻撃ではなく障壁を前面に創り出した。こちらの一撃を防ぎ、確実にカウンターの爆発を与えようと目論んでいるのかもしれない。だが、その選択は誤りだ!
障壁に飛び込む様に踏み込み加速し続け、額が壁にぶつかるのではないかと言う程接近し―――瞬間、障壁をすり抜ける様に身体を捻りながら右に避ける。踏み込んだ右足を軸に回転し、その勢いに任せて、右の抜き手を捻る様に突き込む。
「散らしてみやがれッ!!」
爪先で時速100q、膝で200q、腰と背で300q、肩と肘で500q、手首で100qの瞬発的な速度を生み出し、その一撃を同時に放つ。合計時速1236q―――超音速の一撃。遠山キンジが編み出した自損技『桜花』。俺はそこに回転を加える事で更に数十キロの加速と、対峙する相手をすり抜け後ろから心臓を狙う器用さを付けたしてある。おまけに今の俺は『戦車(ルーク)』。本来なら音速の衝撃波による腕が切り裂かれ、鮮血が飛び散るのだが、それも幾分か少なくなっているようだった。
音速の抜き手は、『女王』ユーベルーナの背中を易々と貫き、鮮血を噴き出した。
「………春桜(しゅんおう)」
それがこの技の名前だ。『桜花』はあくまでキンジの技。これは俺自身が弟として考え編み出した技なのだ。故に、同じ“桜”でも別の物。
鮮血と言う名の華吹雪を盛大に上げた『女王』は、俺が腕を引き抜くと、ゆっくりと膝を突き、地面に倒れるを待たずに光となって消えた。
『ライザー様の「女王」一名、リタイヤ』
アナウンスを聞いた俺は、身体中に震えが走るのを感じた。俺は俺のやるべき事をやりきった。その充実感に襲われているのだと理解し、思わず涙が溢れてきてしまう。
いや、まだだ。まだ終わっていない。マスターとイッセー、それにアーシアが、未だ屋上で激戦を繰り広げているはずだ。行かなくちゃならない。
まったく言う事を聞かない足を動かし、前へと進む。校舎に向かっているはずなのに、方向が逸れたり、倒れそうになって手を付いたり、疲労感に思わず立ち止まってしまったりを繰り返してしまう。
視界が霞む程の疲労感に耐えながら、それでも俺はなんとか屋上に向かおうとする。イッセーは譲渡の力を手に入れた。俺がライザーの攻撃を受け止める盾となり、イッセーがマスターに力を譲渡して攻撃する。その陣形が整えば、きっとあの不死身の肉体だって滅ぼせるはずだ。きっとできると信じる。信じるからこそ、俺は脚を進める。
「あなた、まだ戦うつもりですの?」
いつの間に現れたのか、俺の前にレイヴェルがいた。
無視して俺は脚を動かす。膝が勝手に曲がって倒れそうになるが、何とか手を付いて立ち上がる。
やはり『戦車(ルーク)』の開放が身体に思った以上の負担を強いているようだ。今確かめて解ったのだが、俺がベルセになっている内に、殆どの封印が解除されていた。どうやら戦ってる内にテンションが上がるみたいに封印の解除が簡単にされていたらしい。攻撃思考のベルセの弊害がここにもあった。
「ユーベルーナを倒したのは驚きましたけど、正直それだけよ。結局結果は変わりませんわ。リアス様も未だに頑張ってるみたいだけど、いくら怪我を直せても体力は回復しない。既に魔力も残り僅かみたいですし」
レイヴェルの言っている意味は解る。原作を知っている俺でも、この程度では原作の流れを覆す事は出来ない事も、そもそもの実力差を補っていない事も全て承知している。それでも俺は、ここまで来て、全力を出さないのは嫌だった。俺は無駄な事のために戦ったわけでも、がんばったわけでもない。
「まだ………終わったわけじゃないだろ………」
だから俺は返した。返して必死に前に進む。俺が守るべき主のために、俺は―――。
そこまで考えた時、不意に頭の中に浮かんだ相手がマスターではない別の誰かだった。そもそもその姿は女性ではなかったのだが、イメージが漠然として誰なのか判別できない。
いや、そんな事はどうでも良い。マスターを守りたいと言うのも俺の意思には違いない。なら、迷う必要などない。
「もう結果は変わりませんわ。いくらなんでも、お兄様相手にあの三人だけでは足りませんもの。………今のアナタが加われば、もしかすと………ですけどアナタ―――もう、動けてないですわよ」
その言葉をぶつけられて初めて、俺は進めていない事に気付いた。いくらベルセになっていても、身体の修復がされるわけではない。俺の身体はもう、立っているのさえ限界なのだ。
自覚した瞬間に押し寄せる絶望感。そして、虚脱感。辛うじて保っていた意識が薄れ、視界に光の粉が垣間見えた。
ダメだと思いながらも、俺の意識はそこで静かに落ちて行った。
『リアス様の「戦車」一名、リタイヤ』
第六話:その理想に憧れた。
目を覚ました時には全てが終わっていた。
レーティングゲームは俺達の負け。原作通り、マスターがリザインしたらしい。
イッセーは未だに眠っていて、アーシアは付きっきりで看病している。俺達は、マスターの婚約パーティーの前に、色々準備を進められていた。っと言っても、パーティーに着て行くための服を用意させられるだけみたいだが、今後の事をフェニックス家の奴等はあれこれ進めてこようとしたので、俺は黙してやり過ごした。
いや、妹の潤美が未だに病院でリハビリ中だったので、顔合わせしてた事も理由としてはあるのだが………。
目覚めてすぐから丸一日、俺は自分の不甲斐無さに腹立ちの様な物を抱えて落ち込んでいた。何もできなかった自分を恥じ、マスターに平伏したのは、罪悪感からだったが、彼女は当然の様に許してしまう。それが、俺の甘えの様な気もして、余計に気落ちしてしまった。婚約パーティーの日になっても、釈然としない気持ちを腹に抱えたままだ。
「いつまで不貞腐れてるんです………?」
パーティー会場の隅の方で、着なれないタキシードに身を包みただぼうっ、と突っ立っていた所を、塔城が話しかけてきた。やけくそでテーブルに並んだ料理を皿一杯に盛っておきながら、まったく手をつけていない俺は、彼女の目から見なくても不可解なものだろう。
「塔城、ドレス似合ってるね」
「ありがとうございます」
綺麗なドレス姿の塔城を褒めてから、彼女の質問に答える。
「さっきからモヤモヤして上手く食事が喉を通らないんだ。せっかくあの人の眷族になったのに、あの人の望みを一つ潰す事になるんだろうな〜〜って、考えたらさ………」
「それは………、私にも責任があります………」
俺の言葉に、逆に塔城が俯いてしまった。思い出してみれば、この子は俺達の中で一番最初にリタイヤしたんだ。罪悪感もひとしおだろう。考えなしに愚痴ってしまったかもしれないと思い、次の言葉を見失う。
「でも………」
「え?」
「まだ終わりじゃありません」
顔を上げてそう言う塔城の瞳は、強い信頼感が窺えた。とてもじゃないが、俺が太刀打ちできないだろう強い思いを込めた、確信めいた瞳。そんな瞳をさせる人物を思い浮かべて、少し胸の奥がモヤモヤして不貞腐れてしまう。だが、同時にその言葉に頷く俺自身もいるわけで………、結局また視線を逸らしながら黙ってしまう。
何だかんだで食欲が戻ったので皿の上の物をフォークで突き刺し口に運びながら、他の皆を視線で探す。
木場は何処かの御令嬢らしい魔族の人と何か喋っているのが見えた。あのイケメンの事だ。もしかしたら貴族流の上品なナンパでも受けていたのかもしれないが、丁重にお断りでもしているのだろう。もしくは普通に社交辞令か?
黒い着物を着ているはずの副部長を探してみると、何やらガタイの良い男に寄り添っているのが見えた。その光景に僅かばかり驚愕しながら、その男を注意深く観察してみる。
大変顔立ちが整っており、何処かの対戦ゲームで出てきそうなジャケット姿だったのだが、見た目からしてもオーラの様な物を感じて様になっている。引きしまった顔は、木場とはジャンルの違うイケメンフェイスだ。うっかりすれば厨二病だと言いたくなるような容姿なのだが、観れば視る程、様になっていて、伊達や酔狂でそんな格好をしているのではないようにも思える。誰かに似ている様なと思い返してみれば、『生徒会の一存』で出てきた架空の存在(だよな?)、『残響破壊(エコー・オブ・デス)』お兄さんに瓜二つだ。
一瞬、男がこちらを一瞥して来て視線が合うが、軽く確認しただけだと言わんばかりに、すぐ副部長に視線を戻してしまう。何だかあの二人の関係が意味深に見えるのは気のせいだろうか? 原作では彼女と接点のある若い悪魔がいた様には思えないが………。
「あの………」
つい、そんな事を考えていると、ずっと傍にいた塔城がまた話しかけてきた。
「な、なに………?」
慌てて視線を戻し、返事を返すと、何故か彼女は視線を逸らしている。
「あの………、敵の『女王』と戦う時………、言ってた事って………」
「え? 『女王』と? えっと………、俺、あの時は殆ど頭に血が上ってたしな………? 何か言ってたっけ?」
一瞬、本気で思い出せず、そう返しはしたが、塔城の頬がどんどん赤くなっていく事で、なんとなく思い出し始めていた。
そう言えば俺、ベルセになった時、塔城の事を『俺の女』みたいな発言をしていたかもしれない。
あの時塔城は、既にリタイヤしていて、医務室で眠っていたはずだが、アレは中継されていたはずだし、録画と言う技術も普通にあるはずだ。そうでなくても、アレを聞いた誰かが塔城に話したと言う事もありえる。
自覚した瞬間、とんでもなく恥ずかしくなってきて、上手く頭が回らなくなってしまった。
ど、どうしよう俺っ!? ここは誤魔化しておくべきなんだろうか? それとも、しっかりと告白しておくべきなんだろうか!? いやいや、そもそも俺は塔城の事を本気で好きなのか? 確かにベルセになってしまう程、塔城に好感は持っているはずだが、それが本当に恋感情と言えるのだろうか?
塔城の事は可愛いと思う。正直好きだ。だが、恋人になりたいのかと聞かれればそれは解らない。
好みの女の子がいれば、その女の子の事は好きだと言える。だが、その女の子全員と付き合いたいと思っているのかと聞かれれば、それはノーだ。
ただ友達として好きなのか? それとも女の子として好きなのか? 俺はその判断が出来ずにいた。ベルセの俺にはそんな物は些細な問題なのだろうが、素の俺はそう言うわけにはいかない。
答えに窮している間も、塔城は視線を合わせず頬を赤くしているし、俺も恥ずかしくなって視線を逸らしてばかりだ。
気まずいながらもお互いに話を逸らそうともせず、だからと言って離れる事もしない。一体何がしたいのか互いに解っていない状況になっていた。
「あらあら? お二人して顔が赤いですわよ〜〜〜♪」
「「!?」」
突然掛けられた声に、俺も塔城も驚いて視線を向けると、そこに黒い着物姿の副部長がいた。さっきまで話していた『残響破壊』兄さんは何処に行ったのだろう?
「あらあら、うふふっ。甘楽くんったら、先程私や木場君が話しかけても何も反応しませんでしたのに、子猫ちゃん相手にはすぐに気が付くんですのね〜〜」
なん、だと………?
思わず塔城に視線をやると、真っ赤な顔になってそっぽを向いてしまう。それが事実だと教えてくれて、余計恥ずかしくなってきた。穴があったら入りたいっ!!
「お兄様ったらレーティングゲームで御嫁さんを手に入れましたのよ! 勝ちは解っていた事ですが、魅せ場を作って差し上げたつもりなんですのよ〜〜!」
唐突に耳に入ってきた声に、俺も塔城も一気に頭が冷えた。見なくても解る。レイヴェルが他の悪魔にお家自慢をしているのだろう。
「言いたい放題言ってくれるね」
苦笑を浮かべながらやってきた木場が肩を竦める。
すると、そのすぐ後に、ドレスを着た黒髪にメガネの女性がやってきた。
「中継されていたのを忘れているのでしょう。結果はともかく、充分な善戦―――いえ、圧倒していたのは誰の目にも明らかでしたよ」
そう言ってくれる女性に見覚えがありながら思い出せず首を傾げていると、副部長が可笑しそうに含み笑いを漏らしながら、こっそり教えてくれた。
「駒王学園の生徒会長、支取(しとり)蒼那(そうな)、悪魔としての本名はソーナ・シトリーですわ」
言われて思い出した。そうか、この人が駒王学園の会長。
思い返せば、確かに始業式やなんやと、学園のイベント事に顔を見かける人ではある。
それでも言われるまでその顔を思い出さない辺り、大概他人への認識能力の低い自分を恥じるばかりだ。
すぐに思い出せなかった事を内心で謝っていると、副部長は会長に向かって笑いかける。
「うふふ………っ、御気遣い感謝しますわ。でも、その必要はありませんわ」
「え?」
意味深な事を言う副部長に、木場と塔城も続く。
「たぶん、僕達はまだ終わって無い。と思ってますから」
「終わってません………」
「まあ、終わらせないだろうなぁ〜〜………」
塔城の後に続いて、件の男の事を思い出しながら俺もぼやく。
婚約パーティーの会場で、火の手が上がった。火はすぐに消えると、そこからライザーが登場し、演説めいた事を始める。
「―――では御紹介しましょう! 我が妃、リアス・グレモリーーーーーッ!!」
ライザーが紹介するとともにグレモリー家の紋章が入った魔法陣が現れ、そこに純白のウエディングドレスを身に纏ったマスターが姿を現した。
―――刹那、会場の扉をぶち破り、門番らしき兵士が吹き飛ばされてきた。
皆が視線を向ける先で、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を既に装着しているイッセーが、拳を構えた姿で立っていた。
知っている。俺はその姿を知っているはずだった。
だが、こうして実際の場面に立ちあってみると、これがどれだけの事態なのかと言う事を肌で感じ取り、思わず緊張してしまう。
「イッセー!?」
「部長!!」
イッセーに気付いたマスターが驚きの声を上げ、イッセーがそれに応えるように呼び掛ける。間に割って入ろうとしたライザーが嗜めようと口を開くが、イッセーはそれを待たない。
「おい貴様、ここを何処だと―――」
「俺は駒王学園オカルト研究部、兵藤一誠!! 部長―――リアス・グレモリー様の処女は俺のもんだーーーーーーーっ!!!」
言った。原作そのままの台詞を、コイツは恥じらう事無く躊躇せずに言い切った。
見事だと思った。正直、エロいのもここまで来ると尊敬せずにはいられない。
思わず頬を赤くするマスター。苦虫を噛み潰した様な表情のライザー。
すかさず、ライザーの眷族が指示を出し、兵士がイッセーを取り囲む。
「それじゃあ、僕達も………」
木場の合図で塔城と副部長が同時に動く。
「イッセー君、ここは僕達に任せて!」
「遅いです………!」
木場と塔城が正面の兵士を吹き飛ばし、続いて副部長が背後に回っていた兵士を雷で気絶させた。
「あらあら、やっと来たんですのね」
「木場、子猫ちゃん………、朱乃さん!」
イッセーが歓喜の声で名を呼ぶ中、ライザーの眷族もさすがに動こうとした。多少原作と違うが、それも些細な問題だろう。イッセーに迫ろうとした彼らの前にゆっくり躍り出た俺は、全ての力を“彼女”に注いで呼び出す。
呼び出されたのは青い着物姿の小さな少女。俺の傍らに立つ姿は、見た目それほど強そうでも無いし、実際、土地神である彼女には戦闘力は殆ど無いだろう。
ただし、水源がある場合は別だ。俺の力で水を呼び出し、彼女に託せば、それだけ水は強力な浄化の力を帯び、水の蛇の様になって俺達の周りに控える。簡単に言えば聖水で出来た水蛇だ。悪魔にとっては忌避すべき存在だろう。ましてや、その浄化力は、普通の聖水とは比べ物にならない程強い力を帯びている。下手に近寄る事も出来ない。
「な、なんだ!? コイツは一体何を呼び出した!?」
「これは………っ!? コイツは使い魔などと言う領分を越えているぞ!?」
恐れて離れる悪魔一同。唯一、『女王』であるユーベルーナだけが杖を翳したが、俺もすかさず『春桜』の構えを取ると、解り易く怯えた。よっぽどコイツが嫌いと見える。
「甘楽!」
「イッセー、早めに用事済ませて。………イチ様の顕現を維持するのはかなり辛い」
既に額から汗が滲み出している。やはり、神様である彼女を呼び出し、戦わせるのは、今の俺では規格外に等しい。
イッセーは嬉しそうな顔で頷くと、そのままマスターの元へと向かおうとする。
「一体何だっ!?」
「リアス殿、これは一体ッ!?」
周囲の悪魔達が騒ぐ中、その声は凛ッ、と響き渡った。
「私の用意した余興だよ」
「サーぜクス様!?」
「お兄様っ!?」
現れたのは紅の髪をマスター似の精悍な顔付をした男性。サーぜクス・ルシファー。マスターの兄にして、現在の魔王。
「サーぜクス様、余興とはいかなる―――?」
「ライザーくん。レーティングゲーム、興味深く拝見させてもらった」
ライザーの台詞を片手で押し止め、言の葉を紡ぐ魔王様。ここからは遠目のはずなのに、随分と貫録のある姿に自分の立場的に緊張を強いられてしまう。これが魔王として立つ者の威厳と言うものだろうか………?
「しかしながら、ゲーム経験も無く、戦力も半数に満たない妹相手では些か………」
「あの戦いに御不満でも………?」
「いやいや、私が言葉を差しはさんではレーティングゲームそのものが存在意義を失ってしまう。まして、今回は事情が事情だ………。旧家の顔も立たないと言うものだ」
「………っ」
「可愛い妹のせっかくの婚約パーティー。派手な嗜好も欲しい物だ。そこの少年? 君が有するドラゴンの力、この目で直接見たいと思ってね? グレイフィアに少々段取って貰ったのだよ」
「なるほどつまりは………」
話を聞いたライザーの顔が苦い物から不敵な物へと変わる。
「ドラゴン対フェニックス、伝説の力を宿す者同士、会場を盛り上げる―――っと言うのはどうかね?」
「お、お兄様………っ!?」
話を聞いたマスターが息を呑む。
気持ちは解る。俺だって『女王』相手に苦戦した。あの時は偶然ベルセの発動条件が揃っていたから良い物の、素の俺では到底はが立たない。だからこそ、今は無茶をしてイチ様をお呼びして、ハッタリの『春桜』で牽制しているだけだ。これが『王』として不死の属性を持つライザー相手ともなれば、今のイッセーでは………。
逆の立場だった時、俺にはとてもまねできない。それだけの恐怖が背筋を通り過ぎた。
「さすが魔王様ですな。面白い嗜好をお考えになる」
「ドラゴン使いくん」
「は、はい!」
魔王様に呼ばれたイッセーが、やや緊張した面持ちで応える。
うん、正直失礼だけど、俺はこう言う時イッセーは強気に出るタイプだと思ってた。ライザーの時みたく。でも、ちゃんと弁える人なのね。勘違いしてごめんなさい。
「この私と、上級貴族の方々に、その力を今一度見せてくれないか?」
「はい………!」
擦れてはいたが、イッセーは即答して見せた。
「イッセーお止めなさい………!」
「このライザー、身を固める前に最後の炎をお見せしましょう!」
それを止めようとマスターが一歩出るが、ライザーが片手でそれを制する。
「さて、ドラゴン使いくん? 勝利の対価は何が良いかな?」
魔王様の申し出に、他の悪魔方は、下級悪魔に対して不相応だと言葉を漏らすが、魔王様は取り合わない。
「何を希望する? 爵位か? それとも絶世の美女か?」
「部長………、いえ、リアス・グレモリー様を、返してくださいっ!!」
やはり迷いの無い発言に、俺もイチ様も、思わずイッセーに見入ってしまう。
どうしてこの人は、こんなに淀みも無く、一切の躊躇なく、それを真直ぐ口にできるんだろう………?
用意された決闘場にて、戦闘服に着替えたライザーと、制服姿のイッセーが対峙する。
その光景を魔力で作ったらしいモニターで見ている俺達は、先程の会場から動いていない。見物するなら来客には楽をさせようと言う図らないなのか、それとも面倒だっただけだろうか? あまり重要ではないので深く考えるのは予想。
イッセーは『赤龍帝の籠手』を構え強い声を放つ。
「部長! 十秒で決めます!」
「お、お兄様を十秒ですって!? 正気で言ってるのかしら!?」
イッセーの声を聞いたレイヴェルが怒気の籠った声を上げる。その兄たるライザーは、むしろ余裕の表情で炎の翼を広げる。
「面白い。なら俺は五秒でその口を塞いでやる。二度と舐めた口を聞けんようになっ!」
「部長! プロモーションする事を許可してください!」
ライザーには取り合わず、叫んだイッセーは認証を確認するとすぐさま駆け出し、プロモーションする。
「プロモーション『女王』!」
「無駄だ!」
ライザーが手に炎を創り出し攻撃の構えを取る。いくら『女王』にプロモーションしたところで、ライザー斗の実力差は歴然。倍加する時間も与えずに倒されてしまう。
だが、イッセーは十秒で倒すと言った。倍加を待つことなく、十秒以内に決着を付けるのだと。つまり、これで終わりではない!
「部長ーーーー!!」
イッセーは叫び、自分が惚れた女に、想いの限りを声にして伝える。
「俺は木場みたいな剣の才能はありませんッ! 朱乃さんみたいに魔力の天才でもありませんッ! 子猫ちゃんの様にバカ力でもないし、甘楽の様に沢山の使い魔と契約してるわけでもなければ、アーシアの様な素晴らしい治癒の力もありませんッ!」
声を張り上げながら、彼は誓うように左手を、『赤龍帝の籠手』を掲げる。
「それでも俺は最強の『兵士』になります! あなたのためなら、神様だってぶっ倒して見せます! 輝きやがれぇぇぇぇぇッッ!! オーバーブーストォッ!!」
『Welsh Dragon over booster!!!』
籠手から今までにない輝きを放ち、イッセーの身体を取り込む。光は彼の身体にまとわりつき、真っ赤な龍の鎧として装着されていく。
「これが龍帝の力! 禁手(バランスブレイカー)『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』だッ!」
イッセーが真っ赤に輝く龍の鎧を纏った瞬間、周囲の悪魔達が一斉にざわめいた。
『「禁手」は簡単に使えるものではない。お前も知識だけは知っているだろうが、アレは「禁手」の言葉通り、本来なら忌まわしいとされ、忌避される力だ』
俺の中でピーターハウゼンが詳しい内容を伝えてくれる。
今まで実感はなかったが、神器化しているピーターハウゼンに言われ、実際にイッセーの姿を見れば、それがいかほどの物なのか理解できる。あれは、転生者と言うだけで辿り着けるような領域ではない。同じく神器を持つ俺でも、イッセーの様に禁手を使える様にはなれないだろう。悔しいが、そこに辿り着くためには努力とは別の何かが必要になる。それが解ってしまう以上、俺には真似できない。
イッセーがライザーに向けて魔力の塊を放つ。その大きさは、既に何回分かの売価が住んでいるのと同じくらい巨大で、激突した闘技場の壁を容赦なく破壊した。
この一撃を躱していたライザーも、さすがに表情が険しくなる。
そこ目がけてイッセーが突進するが、攻撃は外れ、勢い余って壁に激突してしまう。どうやら急激すぎるパワーアップで上手く制御できないでいるみたいだ。
「なんだこの力は………ッ! 今のお前は見た目通りの化け物だッ!」
吐き捨てるライザーは、両手を広げ、自身の炎を高める。
「火の鳥と鳳凰、不死鳥フェニックスと称えられし業火! その身に受けて燃え尽きるが良いッ!!」
高めた炎を纏い、一気に突撃するライザーに対し、イッセーは正面から迎え撃つ。
「てめぇのちんけな炎で………この俺が焼かれるかッ!」
ドラゴンのオーラとフェニックスの炎が正面から激突し、眩い光が放たれる。
思わず目を細めながら光が収まるのを待つ。光が収まった後、闘技場の床に叩きつけられたイッセーの姿が目に映った。その身に纏ったドラゴンの鎧も、所々が燃やされ、僅かに溶けていた。
『いかにドラゴンの鎧とて、フェニックスの炎を無効化はできん。ドラゴンもフェニックスも、伊達や酔狂で「伝説」の名を掲げている訳ではない』
言われてみればその通りだ。ドラゴンが力の象徴として語り継がれる存在なら、フェニックスは不死と炎の象徴で語り継がれる。本やテレビで見知っただけでは理解できない驚異に、思わずイッセーを心配してしまう。
彼が勝つ事を知識では知っていても、その道筋を誰が保証してくれると言うのか? 既に何度も繰り返した転生で、原作知識は絶対なものではないと思い知っている俺には、やはりここは現実と変わらぬ緊張感を与えられていた。
「怖いかっ!? この俺が怖いかっ!? 『赤龍帝の籠手』がなければお前はただの小僧だッ!!」
ライザーが巨大な炎を放つ。背中の噴射口から緑色のエネルギーを噴射し、その一撃を躱したイッセーは、固く握った左の拳を、ライザー目がけて振り上げる。同時にライザーの拳が放たれ、互いの拳が、互いの顔面に直撃する。
その一撃に耐えられなかったのか、イッセーの兜が内側から溢れた鮮血をドプリッ、と漏らした。
焦ってしまいながら、俺はライザーを見る。
余裕の笑みでそれを見ていたライザーは、何かを言おうとした瞬間に吐血し、ゆっくりと落下していく。
「こ、これは………っ!? 貴様、いったい………なにを―――っ!?」
ライザーの目が、観客の目が、もちろん俺の目も、イッセーが左の拳に握っていたソレを見つける。
おぞましい程に神聖な輝きを放つ金色の十字架。悪魔となっている今の俺では、嫌悪感すら抱く忌避すべき存在。
「ウチの『僧侶』は元シスターでね………っ! 戸棚の奥に仕舞ってあるのを借りて来たのさ! さすがのアンタも『赤龍帝の籠手』で高めた聖なる力は堪えるよなッ!?」
原作で読んでいた俺も、当初、ライザー戦にこの手段を使おうかと考えてもいた。実際、さっきはイチ様の力を借りてライザー眷族を威嚇してたしな。だが、悪魔にとって聖なる力の宿る物は相当の『毒』らしく、聖水一つを使うのにだって細心の注意を払わないと自爆の恐れが多大にあった。そもそも持ち歩く事自体が困難な物を武器として活用するのには無理がある。簡単な衝撃で爆発する爆弾を抱えて歩く様なものだ。危なかっしくて持ちあ歩けた物ではない。
だと言うのに、イッセーは触れただけで悪魔にダメージを与える十字架を、おまけに神器の力で強化しているのにも拘らず、その手に握り、武器として扱っている。その疑問は、悪魔だからこそ簡単に想像できる事であり、誰もが動揺の声を上げる。
その疑問に逸早く気付いたのは、原作を知る俺を除けば、彼と対峙している本人だけだった。
「ま、まさか―――!? 貴様ッ! 籠手に宿るドラゴンに、腕を食わせたなっ!?」
「ドラゴンの腕なら、悪魔の弱点は関係ないからなっ!!」
何の憂いも無く即答するイッセー。兜の内に隠された瞳は、ライザーに向けられ、俺にも解る程の覚悟を湛えている。
「正気か貴様ッ!? そんな事をすれば、二度と元には戻らないんだぞッ!?」
「それがどうしたッ!!」
間髪入れずに言葉を返したイッセーは、十字架を握り締め、背中の噴射口から緑色のエネルギーを噴き出す。
「たかが俺の腕一本………ッ! それで部長が帰ってくるなら―――!!」
背中の噴射で一気に加速したイッセーは、そのまま拳を振り被り、ライザーに向けて一直線に突貫する。
「―――易い取引だーーーーッ!!」
叫び、突き出す拳。十字架の一撃で動きが目に見える程衰えたライザーは躱せない。一瞬、恐怖に顔を歪め―――、
『Count up!』
次の瞬間、イッセーの鎧は解除され、自分の加速追いつけず、前のめりに倒れてしまった。
『どうやら時間切れの様だ。彼の支払った対価は充分だったのだろうが、最後の一撃が間に合わなかったな』
知っている。俺はこの展開を既に知っている。だから次にイッセーが起こす事も知っている。
知っているはずなのに、俺は、鎧が解除されてもなお諦めずに戦おうとするイッセーの姿に、軽い衝撃を受けていた。
なんで諦めない? どうして諦めない? もう切り札を失っているのに、どうしてそれでも戦意を失わずにいられる?
俺には理解できない。彼が起こす行動を知っていても、どうして彼がそこまでできるのか、その信念―――いや、根源が理解できない。
「絶対………ッ! 諦めねえぇ………ッ!」
禁手の影響で身体全体に相当の負担が掛っているはずなのに、それでもイッセーは立ち上がろうとする。
どうして立てる? なんで絶望しない?
解らない。俺には解らない?
一度負けた相手にまた負けたからと言って恥ではない。ましてや相手が自分よりも強い相手なのだからむしろ当然と思う事もできるはずだ。
「納得しろ」っとはさすがに言えない。むしろ納得できるはずがないのは、俺なんかでも理解できる。だが、一度出た結論を捻じ曲げようとしてまで、どうして頑張る事が出来るんだ?
俺は絶望した。自分の不甲斐無さを後悔しても、もはや抗おうとは思わなかった。
だがお前は違う。お前は立ち上がってきた。まだ、敗北したという事実は心から消えず、記憶にも新しいはずだ。それだと言うのに、どうしてすぐに舞い戻ってくる事が出来た? どうしてもう一度戦おうなどと考えられる?
そうだ。そもそもイッセーが戦おうと決めた時、彼はこんな『決闘』の形で勝負する事さえ想定してなかったはずだ。後先考えずに突撃し、大勢の前で声を張り上げ、ただ我武者羅に自分の愛した女の元に駆ける。
「バカみたいだ………」
思わず呟きが漏れた。
イッセーがライザーに襟を掴まれ持ち上げられる。ライザーが最後の言葉を送っているらしいが、俺にはイッセーしか見えていない。
バカみたいなイッセー。あまりにも愚か、あまりにも愚直で、あまりにも愚行で、愚者の言葉を体現する様な振る舞いで、ただ駆け抜ける事しかできないバカな事が取り柄のイッセー。
「まだ、だ………ッ!」
呟く彼の姿は満身創痍。既に戦う力の殆どを失っている危機的状況。
そんな無様とさえ言えてしまう姿。
「火を消すには、水だよな………?」
イッセーが懐から聖水の入った瓶を取り出す。
「聖水っ!?」
「ですが、ライザーほどの悪魔に聖水程度では………!」
木場の言葉に次いでソーナ会長が疑問を述べる。
イッセーが口で蓋を開けると、中にある水をライザーに振りかけた。
「ブーステッド・ギア! ギフト!」
『Transfer!!』
籠手から音声が鳴り響き、蓄えていた力が振りかけられる聖水へと宿る。聖なる力を強化された聖水は、振り掛ったライザーの身体を容赦無く焼きついていく。
「ぐああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
まるで硫酸を浴びたかのように顔から火傷してくライザー。思わず持ち上げていたイッセーを手放し、自分の顔を庇う。その身を瞬時に回復させていた炎は、激しく明滅し、とても不安定で頼りない揺らめきを起こしている。
「ライザーの炎が―――ッ!?」
「灰の中から復活するフェニックスと言えど、その精神までは不死身ではありませんわ」
「精神?」
「つまり、心までは不死身ではないと言う事です」
木場、副部長、塔城、そしてソーナ会長が言葉を漏らす中、やっぱり俺はイッセーの姿に釘づけになるばかりだ。
起死回生の一手を打ったイッセー。愚か者のイッセー。バカなイッセー。
だけど彼は、誰もが望みながら、誰もが諦めた物に、誰よりも強く食らいつき、ついにここまで辿り着く。
恰好良い。本当に恰好良い。
姿形、勇士にではない。俺は今、『兵藤一誠』と言う一人の人物に、果てしない感銘を受けているんだ!
「アーシアが言っていた! 悪魔は聖水と十字架が苦手なんだと! それを同時に強化して同時に使ったら、悪魔には相当のダメージだよなッ!?」
ライザーが悪足掻きとも言える炎の一撃を放つが、イッセーはプロモーションで得た『女王(クイーン)』の力で飛び上がり、簡単に躱してしまう。
「木場が言っていた! 視野を広げ、周囲と相手を見るんだと!」
着地と同時に聖水を左腕に―――ドラゴンの腕となり、十字架を握っている腕に、瓶の中身を全部ひっかける。
「朱乃さんが言っていた! 魔力は身体全体を覆うオーラから、流れる様にして集める!意識を集中させて、魔力の波動を感じるんだとッ!」
拳を突き出し、魔力を籠手に集中しながら、狙いを定める。
「子猫ちゃんが言っていた! 打撃は中心線を狙って、且つ抉り込む様に打つんだとッ!」
「ま、まて! 解っているのか!? この婚約は、悪魔にとって重要で! 大事な事なんだぞっ!?」
危機的状況に瀕して、ライザーは婚約に対する重要性を口にする。それは確かに事実で、きっと、俺達が考えているより、重大な意味を持っているのかもしれない。
「お前の様なガキが! どうこうする様な問題じゃないんだッ!!」
「………」
突き刺す様なその言葉に、イッセーが沈黙を作る。
途端、俺の中で焦りが生まれた。こんなシーンは原作には存在しない。イッセーがライザーの言葉に惑わされたのか!? それで躊躇しているのか!?
未知の事態に怯える俺を余所に、イッセーは重い口を開く様に言葉を続けた。
「甘楽が言っていた。強く想う以上の武器は無いのだと………」
「!?」
「難しい事は解んねえ! けどな、お前に負けて気を失った時、うっすらと覚えてる事があるんだよ………ッ!」
一度目を閉じ、その光景を思い出したのか、イッセーは目を見開くと同時に強い眼光を敵へと向ける!
「部長が泣いてたんだッ!! 俺が殴る理由はそれだけで充分だーーーーーーーーーーッ!!!!」
全神経、全魔力を乗せた渾身の一撃。それは深く腹に突き刺さり、はたから見ても圧倒的な力強さを認識させる。
単純な力じゃない。もっと強い何かが込められた一撃は、ついに不死身と称されたライザー・フェニックスに膝を付かせた。
次の瞬間、ライザーとイッセーの間にレイヴェルが現れると、手を広げて兄を庇おうとする。イッセーはそんな彼女に拳を突き出すと、迷う事無く言い放つ。
「文句があるなら俺の所に来いっ! いつでも相手になってやるッ!!」
途端、頬を上気させたレイヴェルは、肩の力が抜けた様にイッセーを見つめるだけになった。
決着。勝負はイッセーの勝利に終わった。それを誰もが確信した時、闘技場が歪み、消滅していく。決闘者達の戦いが終わった事で、戦場の役割もまた終わったと言う事なのだろう。
消えて行く闘技場に振り落とされるライザーとイッセー。ライザーの方はレイヴェルが抱えて行ったので問題ないが、イッセーの方はまだ単独飛行が出来ない。そのまま空中に投げだされるまま落ちて行く。
「! イッセー!!」
慌てて背中の羽を広げて飛び出す。ヒスった時に完全に覚えた飛行感覚も、素に戻ると多少なり違和感を感じる。それでも何とか飛行し、いつの間にか飛んでいたらしい塔城と共にイッセーをキャッチする。
「あ、ありがとう子猫ちゃん、甘楽………」
お礼を言うイッセー。そんなイッセーを見た俺は、何故かとても恥ずかしい気持ちになってはにかんでしまう。何に恥ずかしがってるんだ俺は?
「あらあら、おめでとうございますわ〜〜〜」
「やったねイッセー君」
後から追いついてきた副部長と木場がイッセーを称賛する。
イッセーが褒められて照れる中、塔城が俺に視線を送ってきた。その視線の意図を汲み取った俺は笑って頷く。
「行きますよ………」
塔城の合図で俺達はイッセーを軽く持ち上げ、狙いを定める。
「え?」
「せーーの………っ!」
困惑するイッセーを、俺の掛け声と共に投げ捨てる。
いきなりの事で悲鳴を上げるイッセーだったが、次の瞬間には駆け付けたマスター、リアス・グレモリーの腕の中にいた。
マスターは何度もイッセーの名を呼び、愛しそうに身体を抱き寄せている。
そんな姿を、俺は妙な気分で見守っていた。
マスターを取られた事への嫉妬でもない。ただ単純に羨ましいわけでもない。
戦いの結末でイッセーが手に入れた物。その光景が目の前にあるのだと思うと、妙に胸がざわめいたのだ。
歓喜、興奮、賞賛、羨望………。
どれも正しいとは思えないが、それらに類する感情が、俺の中で産声を上げている。
ただ一つ言える事、それは………、俺が、イッセーの姿に憧れを抱いたと言う事だ。
それからほどなくして、俺達は元の日常を取り戻した。変わった事と言えば、マスターがイッセーの家に移り住んだ事くらいだ。そのついでに、マスターの俺に対する頼みごとが少し増えた。殆どイッセー絡みの事だったが、マスターに命令されるのは、どうやら嫌じゃないらしい俺は、従順に従い、イッセーを色んな意味で追い詰める手助けをしている。
そんな風に、少し騒がしくなった程度で戻ってきた日常に対し、俺はずっと妙な気持ちを抱えていた。
イッセーを見ていると、妙に胸の辺りがざわめくのだ。
先に言っておくが恋ではない! 恐らく恋をしているであろう相手、塔城子猫に対する物とは別の類の感情なのだ。
何と言えば良いのか解らないが―――、
なんとなく………、ずっと探していた何かを見つけた。
そんな気がするのだ………。
「あの………、甘楽先輩? その………、パーティー会場で話した件なんですが………?」
「………」
やべぇっ!! こっちの整理も早くつけないとッ!?
この世界での俺の物語は、どうやら意外とまだ長く続きそうだ。
―――パーティー会場にいたとある人物の根城。
「アレは間違いなく転生者か、あるいは異端者(イレギュラー)の類だろう。出しゃばりの特性が無い所を見るに、転生者の可能性が最も高いがな」
リアス・グレモリーとライザー・フェニックスの『レーティングゲーム』の中継を確認しながら、その男は呟いていた。
その傍らに立つ、翡翠色の短い髪をしたエプロンドレスに身を包む『僧侶』は楽しそうに頬笑み、己が主に訪ねる。
「レヴィ様は『赤龍帝』より、こちらの方が気になるのですか?」
彼女が訪ねると同時に、録画された中継画面に、件(くだん)の少年、甘楽の姿が映る。ヒステリアモード・ベルセになり、ライザーの『女王』を相手に善戦を繰り広げる。
「試す必要はあるだろうな。もしこいつも無限の輪廻を渡る者だとするなら、『境界を超え交差させる力』の存在に気付くか否か………、確かめてみなければならない」
男は、モニターを消すと、踵を返し、己の眷族達が控える中を堂々と歩む。
「それが、俺達が『ギフト』を授かってまで輪廻を駆け続ける、『無限転生者(リピーター)』に与えられた、ただ一つの使命なのだからな」
後に、その男、レヴィ・レイ・スラントと補羽甘楽は、長い因縁を持つ事になる。
輪廻を巡り続け、繰り返す者達が織り成す物語が始まるのは、まだまだずっと先の事なのだ。
〜あとがき〜
やっとここまで書いたけど、まだ前篇なんですよね………。
あまり長い間一つの世界に留まるのはタイトルではないので、今の内に言っておきます。この世界の物語は、ロスヴァイセさんが仲間入りする前に終わります。そのあとまた新しい世界に行く予定なので、みなさん一緒に楽しめたらと思います。
あと、この作品は要望のお応えも率先して使用と思っています。以前頂いた案は、取り込む予定ができました。
まだ、甘楽君のキャラが完成してないので、もう少しだけ待って下さい。でも、必ず要望に応えたいと思っています。
この作品は、基本的にアニメを中心に書かれています。(作者の情報源が狭いので、応えられないタイトルがあります事を、ここに深くお詫び申し上げます)
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前篇はこれが最後です。 | ||
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同じく初めまして。更新楽しみに待ってます。(tak) はじめましてガアットさん。 誰も見てないと思ってたのですっかりご無沙汰でした。でも、せっかく応援してもらったので、また書いてみようと思います。(秋宮のん) 初めましてー突然の質問でもうしわけございませんが無限転生、甘楽はもう書かれないんですか?続きがとても気になりますし好きな作品なのでぜひ続きがよみたいです(ガアット) |
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