歪風、ゲイムギョウ界に吹き荒ぶ
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私は人間である。名前はアイエフ。

このゲイムギョウ界に存在する国のひとつ、プラネテューヌの諜報部に所属している。階級は一尉。

実際この階級にはたいした意味はないそうだが、一般国民と教会関係者という違いが必要なため教祖イストワールより授かった地位だ。

私みたいな小柄な少女(150cm)に一尉なんて大層な階級が付いているのに疑問も持ったりもするだろう。正直階級もらったときの私もそうだったが、これはプラネテューヌどころかゲイムギョウ界全体の社会現象なのだが、簡単に言えば女尊男卑だ。

国のトップである守護女神、その補佐をし女神と人間を繋ぐ教祖が100%女性であるためか女性に権力が集中しているという状態になっている。事実私の所属する諜報部、それどころか教会関係者にも男性が見当たらない。

だがそんなことは教会の中だけの話らしく、プラネテューヌ本都、それ以外の街でも女尊男卑という風潮は余り見当たらない。あくまでも【あまり】だが。

時折現れるのだ。女神、女が絶対であり男は服従するべきだとか逆に女神の暴虐を許すなとかそんな輩が。大体その辺りの後始末が私ら教会関係者の仕事とも言える。後は他国の偵察とか。

 

そんな私だけど、一つ重大な関係を一つ持っている。それはこの国、プラネテューヌの女神パープルハートことネプテューヌの親友という関係だ。

きっかけは本当にしょうもない話だが国のトップと親友というものは予想以上に社会に関係するものだ。良くも悪くも、ね。

この国では女神を信仰というか殆どアイドルを愛でるような勢いのファンクラブが存在している。その名もネプ子様((FC|ファンクラブ))だったか。そこの連中からは目の仇にされている。まるで肉を横取りされたハイエナのような目で睨まれることもあるのだ。正直私としては勘弁してほしいと思っている。あれが理由で一時期あいつの親友やめようかと思ったほどにだ。そのときは本人に見抜かれてFCの連中が((折檻|ごほうび))されていたが人間とは女神連中が思うほど綺麗なものじゃない。陰湿な睨みがきいているのぐらいは気付いている。面倒だから放置しているけど。

 

この国の女神、ネプテューヌの特徴を挙げるとするならば小さいだ。私よりも小さい。なのに自分の身長ほどの刀を振り回したり、戦闘訓練をガッチリ受けている私に対しても今だ模擬戦全勝。流石に人外ということなのだろう。その代わりなのか政治はからっきしで教祖に丸投げしているようだが。どこか抜けているのは愛嬌のつもりなのだろうか?なまじ強いのが中途半端に腹が立つ。しかもそのネプテューヌだけではなくその妹、ネプギアまでやたら強い。姉ほどではないが私の一人や二人は担げるのではないだろうかと思う。この人外姉妹め、と一人呟いたこともあった。

 

だが、そんな女神達も無敵ではないということを思い知らされたのだ。

今から三年前、突然モンスターが凶暴化するという現象が発見された。筋力、凶暴性、知性とまるで進化かと思うレベルに強くなるモンスターに襲われ死亡するという人間が爆発的に増加。女神も対応しきれなかったが、イストワールにはこの現象に覚えがあったのだ。

汚染、と呼ばれる現象。今より何百年も前、この世界に現れた犯罪神マジェコンヌが引き起こす現象に酷似しているとのイストワールの言を受け、四女神+1の封印されている場所、【墓場】への威力偵察を開始した。間違いなくこの世界の最も強いであろう偵察隊により、すぐこの問題は解決されるだろうと世間では言われた。

 

が、現実は非情だったのだ。

本来なら一日程度で帰るはずだった女神達は一週間が経っても帰らず、一ヶ月が経った頃イストワールすら認めた。【女神は敗北した】と。

それからは時間の経過がとても早く感じた。マジェコンヌの信仰者による娯楽の不正供給による人心掌握、そしてさらに販売による金銭による企業買収。人間とは恐ろしいもので一度失望すると簡単に掌を回すものだ。女神が敗北したと正式に発表されてから一週間で、マジェコンヌのワールドシェアは60%にまで到達した。マジェコンヌにより、世界はほぼ征服されたのだった。

そんな状況になっても未だに諜報部に何故所属しているのだろうかと考えることもあったが、答えもでないためもう諦めた。そして今日、世界に、私にある転機が訪れたのだ。

 

 

 

「アイエフさん、よく来てくれましたね」

 

私の目の前に浮かんでいる本、そしてそれに乗っかる妖精のような女の子。このプラネテューヌの教祖、そして事実上の実権支配者。イストワールだ。今日、私はイストワールに突然呼び出されたのだ。不祥事は起こした覚えは無いと言うと、「真面目な話です」と返された。真面目に言ったつもりだったのだけど。

しかし、イストワールも妙に神妙な顔つきで、茶化せるものではなかった。

 

「これを、知っていますか?」

 

イストワールの掌に浮いているもの。薄紫色に光る水晶のようなものだ。中にはUの自に上から線が一本入ったような模様が浮かんでいる。実物を見るのは初めてだが、知識としては知っていた。

 

「シェアクリスタル、ですか」

「はい」

 

シェアクリスタル。本来無形だが女神のエネルギー源となっている((信仰|シェア))を目に見えるほど濃縮し、固形化したもの。女神の緊急治療に使われるらしいが、よくは知らない。

 

「現在のプラネテューヌのシェアではコレ一個が限界です。ですが、逆に言えばコレ一個を作ることができました」

「…私に、何をしろと言うのですか?」

「このシェアクリスタルを使い、ギョウカイ墓場から女神を一人だけでも救出してください」

 

なんということだ。この教祖はなんて指令を下してくれやがったのか。

四女神+1が敵わない相手がいるだろう場所に人間である私一人を送って救出しろというのか。眩暈がしてくるほどの衝撃だ。

だが、イストワールの言葉から一つの希望が存在していた。

 

「救出…ということは、パープルハート様達が生きていると?」

「それは間違いありません。パープルハート及びパープルシスター、共に反応は曖昧ながらも感知できています。恐らく捕らわれているのでしょう」

「……何故、私なのでしょうか?」

 

イストワールは少し考える素振りを見せた。

私が聞くのも当然のことだ。さっきも上げたが的の戦力は未知数、だが四女神+1を捕縛できるほどではあるということだ。そこに+1にも惨敗する人間の私が行ってどうなるというのか。私には、イストワールが私を【墓場】送りにする口実を考えているように見えた。

 

「これでも教団内部の人々は全員覚えています。その中で最もこの作戦に相応しいのが、アイエフさんあなたと判断しました」

「……根拠を、伺ってもよろしいでしょうか」

「モンスター接触禁忌種ダゴンに対し倒せずとも持久戦の末撃退に成功した、という実績もあります。それに今回の作戦目的は威力偵察ではありません、あくまで救出です。言ってしまえば女神をつれて逃げ回れるような実力者である必要だったのです。以上が選考理由です」

 

実績まで上げられて選びました、といわれてしまっては本当に逃げ道がなくなったではないか。まるで死刑宣告のようだ。下っ端(って立場でもないけど)を使いっ走りやがって。いつか目にモノ言わせてやろう。

……しかし、【墓場】か。三年前チラっと聞いただけだったのだが正直怖い。行きたくない。だが行かされるのだろう。なんとも悲しきかな社会の上下関係。

 

「了解しました。ですが一つ……コンパを、連れて行ってよろしいでしょうか」

「コンパさん…………許可します。彼女は確か看護士でしたか。負傷していた場合、した場合の治療に役立つでしょう」

 

コンパ、というのは私の幼馴染の名前だ。私よりは年上だが、まるで妹のような雰囲気を持っている。現在はプラネテューヌ都内の病院に勤めているらしい。コンパもネプテューヌの親友であり、敗北宣言後は目に見えて暗くなった。少しでも元気付けてやりたい、と思って言ったのだが、別方向に理解されたようだ。それはそれでいい。

 

「ありがとうございます。出発は何時頃に」

「1200.本日の正午に」

「了解しました。失礼します」

「くれぐれも内密にお願いしますよ」

 

退出する直前に釘を刺されてしまった。どうやって誘えというのだ、もう一週間も会っていないのに。

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とりあえず教会から出てすぐに愛用の携帯電話を取り出す。

入力した番号は同僚の一人へのもの。

 

『もしもし、アイエフ?イストワール様のお説教は終わった?』

「説教じゃなかったわ。指令もらったのよ。し・れ・い。」

『おーすごいじゃん!昇進のチャンスかもよアイエフ一尉?』

「大体給料ちょっとあがるだけじゃないの昇進なんて…。とりあえず、そういうわけで暫くいなくなるかもね。どれぐらいかかるのか教えてくれなかったし」

『ああ、次に会うときはアイエフ三佐かぁ……』

「勝手に((二階級特進|ころ))すな。じゃ、私がいなくてもサボらないようにしなさいよ?」

『えー、アイエフだっていつもサボってタワークライミングじゃんー』

「あれは休暇のときだけだっつの。じゃね」

 

通話終了のボタンを押すとピッという音と共に会話が終わる。やはり同僚というのはいい。話題も近いものになりやすいし、気兼ねなく話せるからだ。親友という立ち位置だがネプテューヌは国のトップだしネプギアはその妹だし。コンパに対しては寧ろ相談される側。癒されるには癒されるがベクトルが違うのが困りものだ。さて、同僚への連絡も済ませたしコンパ誘って行くしかない。現在時刻1034。こんな数え方が身に染み付いている。

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「ハローコンパ、一週間ぶり」

「わひゃあぁぁぁあああぁぁぁ!?」

 

屋上で手すりに体重を乗せ黄昏ているコンパに話しかけると異常なほどに驚かれた。そこまで私がいたのが驚きだったのだろうか。少し傷ついた。

 

「随分な驚きようね…しょっと」

「あ、あいちゃん…なんで目の前に現れたです…?」

「ああ、屋上で黄昏てるあんたがいたからちょっと壁登ってきたわ」

「病院にはちゃんと入ってきてくださいです……」

 

落下防止用の手すりを乗り越え、病院屋上に到着。出来るだけ急いで登ったけど少し見られたかもしれない。少しミスした。

コンパは相変わらず、いつも通りを振舞おうとしてるけど全然出来てない。心が痛んだ。

 

「さてコンパ。ネプ子とネプギア、そして他の女神が敗北して早三年……。そろそろ、あいつらの顔見に行かない?」

「……生きてるの、ですか?会えるのですか…?」

「みたいよ、あんま大きな声でいえないんだけどね。許可ももらったし、適当に理由付けてあんたを借りるわ」

 

突然の申し出にコンパは困惑している。それもそうだ、ずっと死んだと思い続けていたんだから。……そう考えると、私って結構薄情なのかもしれない。

少し悩んだ後、コンパは決心したように私を見つめた。内心ドキっとした。

 

「行きます。ねぷねぷも、ぎあちゃんも助けたい、です」

「よっしその意気。私はちょっとここの人に話してくるから、あんたは準備整えなさい。120……12時に教会に集合ね」

「はいです!」

 

大分元気も戻ったようだ。あの二人を助けられる。それだけで相当な希望が溢れているのだろう。

……少し、あの人外姉妹に嫉妬した。私がコンパにとって大切な人、というのは自惚れではないと信じているが、それと同じぐらいあの二人も大切なのだろう。

…やっぱ私って、薄情なんだな。

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1157時。軽く腹ごしらえして教会に戻ってきた。病院のヒトには私が諜報部一尉であること、イストワールの勅命であることを伝えるとあっさり許可してくれた。やっぱ権力ってすごいわ。

ちょうどコンパも到着したようだ。三分前、コンパにしては珍しく遅かった。準備にそこまで手間がかかったようには見えないのだが。

 

「こんにちは、コンパさん。思えばあの二人が姿を消してからは会っていませんね」

「あ、えっと、こんにちはです、イストワールさま。えっと、あれから、忙しかったから…です」

「イストワール様、コンパをいじるのは程々に。それより本題を」

 

 

「アイエフさん、コンパさん。貴女方にはコレより、墓場に赴きそこに捕らわれているであろう女神を救出することです。といっても精々一人しか救出できませんが」

「…!?あいちゃん…?」

 

一人しか救出できない。その言葉に驚いたかコンパは私に疑問の目を向ける。

シェアクリスタルの問題上一人しか助けられない、なんてあの場で言えるわけが無い。どこに耳があるかわかったもんじゃないんだから。

……でも、やはりショックなのだろう。恐らくは全員纏めて助け出す気だっただろうから。

 

「…ごめん、コンパ。ではイストワール様。お願いいたします」

「はい。女神救出の任、期待しています」

 

イストワールの乗る本が動き、謁見の間にある台座に本がはめ込まれた。

その瞬間。何か機械の駆動音のようなものが響き、私達の目の前には紫色に光る渦のようなものが存在していた。恐らく、これが【墓場】への道なのだろう。心を決め、歩き出した。

 

「行くわよ、コンパ…」

「はいです…!」

 

渦に入った瞬間、急激に目の前が光で覆われる。視界がなくなり、咄嗟に腕で目を庇った。

キィィィィィィィ…といった感じの耳鳴りが治まり、腕を除ける。

 

 

 

「ここが………【墓場】……」

「ここに、ねぷねぷ達が………」

 

私達の見た光景は、正しく地獄だった。

足元の土からは妙な音がするし、そこら中に廃材とかした巨大なゲーム機、妙な液体を運ぶパイプ。そして流れる溶岩。言い伝えられる地獄を近代化させれば恐らくはこうなるだろう。ここに、ネプテューヌ達がいる。

あいつらを助け出して、目に物言わしてやる。……目的が不純だな、私。

 

「行くわよ。あいつらを探すの」

「はい、です!」

 

よし、往こう。あのバケモノ集団を捕まえた奴も、一目見てみたい。

そんな結局不純な動機を胸に秘めながら、私達は【墓場】を歩き出した。

説明
mk2のお話を原作より大分ドライなアイエフさんで駆け巡るお話。
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コメント
なんだこのアイエフさん、つよそう…そもそも一尉ってどのぐらい大層なのでしょう…(駆蘭)
タグ
超次元ゲイムネプテューヌmk2

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