真恋姫†夢想 弓史に一生 第七章 第八話 |
〜聖side〜
さて、鉅鹿の黄巾賊本拠地近くにやって来たわけだが………ここからどうしますか……。
「まずは、中にいる賊の数などを知るのが第一かな……。」
城が見渡せる位置にある木の上へと移動し、そこから衛星視点で城の中を覗く。
案の定と言うか当然と言うか………城の中には賊がうようよと………。
その数は3万そこそこって所か……報告と一致してるな。
成程、これは簡単には攻略できそうに無いか。
「さて、本当にどうしようかな…。」
城攻略の考えを巡らせながら覗いていると、一角だけ兵の見張りが立っている天幕がある。
あれが黄巾賊の首領、張角の居場所と言うことだろうか……。
「う〜ん……。中を覗いて確かめておきたいところだけど………あれだけ人が居るとな……。どうしたもんか……。」
いい考えが浮かばず四苦八苦していると、急に後ろから殺気を感じる。
素早く磁刀を呼び出し振り上げると、金属同士がぶつかり合う鈍い音が響いた。
「何者だっ!!?」
「貴様こそ、何者だっ!!?」
双方とも木から飛び降り、間を取って対峙する。
すると、対峙した相手の顔になにやら見覚えが……。
「あれっ……?? 甘寧さん……??」
「っ!!? 貴様、何故私の名前を知っている!!!?」
「えっ……そりゃあ、一度………。」
とそこまで言って思い出した。
そう言えば、俺変装してたっけ……。
とにかく、こんなところで誤解により殺されても困るし、甘寧さんに全てを話すことにしよう…。
「一度……何だ!!?」
彼女はまだ俺だと気付いてないらしい……。自分の名前を知られていることにかなりの嫌悪感が見て取れる。
「甘寧さん、俺ですよ。」
そう言いながらかつらを外して微笑みかけ、近付く。
と同時に甘寧さんが一歩下がる……。
「あれっ……??」
「だから、貴様は誰だと言っている!!!」
おかしいな〜……かつらは取ったから分かると思うんだけどな……。でも明らかに甘寧さん怒ってるし……。
「だから、俺ですって……広陵郡太守、徳種聖ですって。」
「なんだとっ!!?」
甘寧さんは俺を上から下まで二度三度眺めると、
「貴様、嘘をつけば逃がしてもらえると思うなよっ!!!」
さらに、怒気を強めて対峙する。
「嘘じゃないって!!!!」
それからしばらく、甘寧さんの誤解を解くのに時間を割かれるが……何とか分かってもらえたようだ。
「…………と言うことは…だ。貴様はあの時の徳種聖と言うやつで間違いないんだな?」
「そう。良かった〜……やっと伝わった〜……。」
安堵の溜息を吐いていると、甘寧さんがじろじろとこちらを見ているのに気付く。
「………何か?」
「いやっ……貴様が女だったとは思わn――――。」
「男ですって!!!! これは女装しているだけで!!!」
「……………。」
「別にそういう趣味じゃないですから!!!! あくまで変装ですから!!!!」
無言で一歩俺との距離を開けた甘寧さんに誤解の無い様に言っておく。
後で蓮音様に報告されても困るしな……。
「………そうか…。男でその美しさか……。」
「えっ?? 何か言った?」
「………何でもない!!」
何かぼそっと言ったように思ったけど……まぁ良いか。
「っと…。そうだ、甘寧さんはどうしてここに??」
「貴様と同じ目的だ。蓮音様より命をうけ情報収集をするために調査に来た。」
「そうか……。」
蓮音様ならもしかしたら何か情報を持っていたりするかもしれない。これは良い機会だな。
「蓮音様とは同盟してるし、ここは一つ情報交換をしようじゃないか?」
「…………まぁ良いだろう。私たちも情報が欲しいところだ。」
「そう来なくちゃ!! 俺たちの持ってる情報は、敵兵が3万くらい、敵の首領の名が張角、補給線の一つが潰れているって事ぐらいかな。そっちは??」
「そちらと変わらない……。何も新しい情報は無いな…。」
蓮音様の所でも情報無しか……。となると、今ここで手に入れるしかないか……。
「甘寧さん。」
「……何だ?」
「実は、敵の城の陣の中に一つだけ見張りつきの天幕があるんだけど……。」
「………手伝えと?」
「流石甘寧さん!! 察しが良い!!」
「………。まぁ、良いだろう。私も蓮音様に報告すること無しに帰るのは癪だからな。」
「そうと決まれば早速行こう!!」
「なっ!! ちょ……ちょっと待て!! ……手を引っ張るな!! おいっ!!!」
甘寧さんが何か言ってるけどとりあえずそれを無視して、甘寧さんの手を引きながら陣中へと駆け出していった。
陣中へはあっさりと言うか……特に問題なく忍び込め、今は件の天幕の近くの建物の影に隠れている。
「………見張りは……二人か…。甘寧さん、何か良い作戦は無いかな?」
「まったく……。無策で敵陣に飛び込むなど馬鹿のすることだ……。」
「はははっ……。そりゃ悪かったって…それより、策は無いの?」
「…………無いわけではない。」
「おっ!! じゃあ、早速それを!!」
「……良いんだな?」
「…………。」
あれっ? なんだろう。何か嫌な選択肢を選んだような気が………。気のせいだよな…。
「あぁ〜……見張りってつまんねぇな〜……。向こうに居る連中は酒飲んでワイワイやってんのに、何で俺がこんなとこで………。」
「しょうがねぇだろが。この天幕を警備するのは交代制。今日はその当番なんだから……。」
「でもさ〜………こんな所に敵なんか来ねぇって。俺たちの陣の最奥っすよ?」
「…………まぁ、それはそうだが。」
「それにさ〜。張角様たちの顔でも見れるってんならこの見張りも喜んでやるっすよ? ……でも、この天幕ん中覗いたら死罪? 割りにあわねぇっす。」
「………そうだよな。」
「あ〜あ……。この軍に入れば憧れの張角ちゃんたちに近づけると思って入ったのに………日々戦いに次ぐ戦い……。張角ちゃんたちの顔なんてほとんど見たことがねぇ。」
「…………。」
「こんなやってられない時は、女に酒注がせてワイワイ盛り上がりたいっすよ〜………。あんたもそう思わねぇっすか?」
「…………確かに……な……。」
「あぁ〜……暇だ〜……。 って、あん??」
「どうした?」
「いやっ、今そこにめちゃくちゃ可愛い女の子がいたような……。」
「何寝ぼけた事言ってんだ。さっきまで女女言ってたからそんな幻覚見ちまうんだよ。」
「いやっ……でも確かに……っ!!!! ほらっ!!そこ!!! こっちに歩いて来てるじゃないっすか!!!」
「何っ!!!! …………確かに……。」
「でしょ!!!! いや〜……こんな可愛い子めったにお目にかかれないっすよ。それに、手に酒持ってんじゃないっすか!!! 向こうの宴会やってる組からのお裾分けっすね!!!」
「………敵の可能性はあるな。」
「そんな訳ないじゃないっすか……。さっきも言いましたけど、ここは最奥。誰にも見つからずに敵が来ることなんてありやせんて!!」
「うっ………むぅ……。」
「あの〜……お兄さん方、お勤めご苦労様です。お酒をお持ちしました。」
「はいはいはい!!!! ありがとね〜!!!! いや〜君可愛いね〜。」
「いえっ、そんな……。私なんて……そんなことないですよ。」
「いやいや。そんな事あるっすよ!!! こんな可愛い子大陸でも一握りっすよ!!! それに声も透き通るような綺麗な声で、もう最高!!!!」
「ありがとうございます。さぁ、一献どうぞ。」
「いや〜悪いっすね〜!!!」
「さぁ、そちらのお兄さんもどうぞ……。」
「うっ……うむ。かたじけない。」
「さぁさ、ぐいっと一気に…………………飲んだら寝ちゃったよ…。」
見張りをしていた男二人は、俺が持って行った酒を一口飲むと二人とも寝てしまった。
何とも強い睡眠薬だ……って言うか甘寧さんは何でこんな酒を持っているんだろうか……。
「ご苦労だった。お前の女らしさしかと見せてもらったぞ。」
甘寧さんがほくそ笑みながらやってくる。
くそっ……男としての矜持を傷つけられた気がするぜ…。
「まぁ、上手くいったみたいだし良しとしよう。さて、ここから先は俺一人で行くから。」
「何っ!!!? 貴様、情報を独り占めする気か!!!?」
「いやっ、得た情報は確りと共有するよ…。それこそ蓮音様のためだし…。それよりも、見張りの兵以外の敵がやって来ると面倒だから、その見張りをやって欲しいんだ。頼むよ……。」
「…………分かった。しかし、後で確りと得た情報はこちらにも渡せ。良いな?」
「勿論。それじゃあよろしく!!!」
そう言って天幕へと目線を向けながら、心の中で甘寧さんに謝る。
もし、このまま二人で天幕に入ったとして、首領が天和たちだったとしよう。
甘寧さんは彼女たちの姿をしかと記憶に刻み、あまつさえその場で暗殺することも考えるだろう。
もしそうなれば、俺は甘寧さんの口封じさえ考えなければならない。
この戦いを………天和たちを救い出すためには、少しでも彼女たちの正体を知っている人が少ないように勤めなければいけないからだ。
だがもし違うなら、その時はその時で甘寧さんに助力を申し込む。
一人よりも二人の方が仕事が捗るからだ。
以上のことから、俺一人が先に天幕の中の様子を見ておいた方が良いのである。
この戦いにおける犠牲を最小限で終わらせるために………。
風に揺れる天幕の入り口付近で身を屈め、中の様子を覗く。
天幕の内部は蝋燭の光など無い真っ暗な世界で、人の気配が感じられない。
先ほどの見張りの兵の話では、中には首領の張角が居るとのことだったが……。
ここから得れる情報には限りがあると思い、一か八か天幕内に足を踏み入れることにする。
足音を極力抑えながら天幕の内部へと侵入すると、水が垂れているのだろうか……水滴の落ちる音が一定の間隔で聞こえ続けている。
段々とその暗がりに目が慣れてくると、その天幕には思いもよらぬ光景が広がっていた。
「なっ………何だよ、これ……。」
天幕にはその大きさ一杯の広さの鉄の牢屋があった。
鉄の牢屋は、その無機質な材質通りの冷たい印象を与え、その場の空気が少し冷えたような印象を与える。
ふと、その牢屋の中に人影らしきものを見つける。
よくよく目を凝らせば、三人が寄り添っているようにも見える。
真ん中にいる子は………間違いない、彼女だ。
「天和!! 地和!! 人和!! 皆無事か!!!!」
鉄格子を掴みながら、その中に居る三人に声をかけるが、三人から返事が返ってくることは無い。
答える気力が無いほど衰弱しているようだ。
「くそっ!!! こんな牢屋なんて!!!」
磁刀を取り出し、季衣の鉄の鎖のように切れないか試してみるが、
ガギィン!!!!
「っ……切れない…。」
鉄の密度が濃いその牢屋は季衣の鎖のようにはいかず、鈍い金属音だけがその場に木霊した。
「誰だ!!!! 誰が天和たちをこんな目に!!!!!」
「…………その檻、気に入ってくれましたか?」
突然かけられた言葉に驚き、後ろを振り返れば、天幕の入り口に一人分の人影が見える。
顔は見えないが、声からして男なのだろう。
「おやっ……これは失礼。では……これで見やすいでしょう。」
男がそう言って手を振ると、天幕内の蝋燭に一斉に火が灯り周囲が明るく照らされる。
「こんばんは……素敵なお嬢さん。いやっ……ここは始めましての方が良いのかな?」
そう言って礼をする男はポンチョの様な白い服を着て眼鏡をかけた、パッと見は冴えない風貌をしている。
「冴えない風貌とは心外ですね。私はこの格好が結構好きなのですが……。」
「っ!!?」
こいつは……今、俺の思っていることを読み取ったのか……??
先程よりも緊張感が高まる。
単にそれはやつが俺の思考を読み取ったと言うことだけではなく、やつ自身から感じる何とも言えない違和感のようなものも相まってである。
聖は、これまでにも変な気を持っている人と会った事はあるが、こいつのそれは他者とは明らかに異質だった。
「………その顔……。どうやら嫌われてしまったようですね…。」
「…………。」
「おやおや……そんなに険しい顔をしたら美人が台無しですよ……? 最も、私はあなたに嫌われようがどうと言うことは無いんですが……。」
「………お前、何者だ……?」
「おやっ? どうやら、男の娘のようですね……。女装が趣味とは……悪くないと思いますよ。」
「そんなことはどうでも良いから質問に答えろ!!!」
「…………私は于吉。以後お見知りおきを…。」
そして再び頭を下げ、こちらに笑みを向ける于吉。
しかし、その笑顔は決して友好的な笑顔などではなく、俺の手には汗が滲み、背筋には悪寒が走る。
こちらの警戒心は増すばかりであった。
「私は名乗りましたよ? あなたはいかがです?」
「………徳種聖だ。」
「では、徳種君。それで君はここで何をしているのですかな?」
「……お前か? 天和たちをここに閉じ込めているのは…。」
「そうですね。私がここの鍵を持っているので、私が閉じ込めています。」
「ならば、その鍵を渡してもらおうか…?」
「それはまた無理な相談です。そんな事をして私に何の得があるというのですか?」
「怪我せずにここから逃げれるぜ?」
「ほぉ〜……。確かに怪我は嫌ですね。でも、『弱い』徳種君が誰を怪我させるのでしょう?」
「そりゃ………お前に決まってんだろ!!!!」
俺は一瞬で于吉との距離を詰めると、ためらう事無く刃のほうで斬りつけた。
普段なら峰のほうで打つことを心情に置いている聖であったが、この于吉という男の気味の悪さについ刃の方で斬り付けてしまっていたのだ。
しかし、その剣速は普段なら見切れる人がいないほど素早く華麗なものであるのだが、今現実に振っているその剣はまるで素人が振っているのと変わらないほどのものだった。
なので于吉はその剣を悠々と避けると、不気味な笑顔を向けて俺に話しかける。
「誰に……決まってるんでしたっけ??」
「くそっ!!! もう一度!!!!」
先ほど同様、一足飛びで于吉との距離を詰める聖であったが、その剣速は先ほどと幾許かも変わらない鈍重なもの。
またも余裕を持って于吉にかわされてしまう。
「くっ……何故だ……。何故……こんなにも遅い!!!!」
「ふふふっ。それはね……徳種君。君が弱いからですよ……。『弱い』君が『強い』私に勝とうとすることが無理なんです。『弱い』君は無様に床に『這い蹲る』姿がお似合いですよ。」
「ぐはっ!!!!」
突然身体が地面に叩きつけられそのまま動けなくなる。
身体の自由が利かなくなり、持ち上げることさえ出来そうに無い。
それでも、何とか顔を上に上げて于吉を睨みつける。
「良いですね〜……。その反抗的な目……。そうでなくては面白くない………。」
一歩、また一歩と于吉は聖に近寄ってくる。
聖は自分の死を覚悟した。
そして願った。
自分の死後誰かが敵を討ってくれることを……。
「徳種っ!!!!!!」
突如天幕の入り口が開いたかと思うと、一陣の風が吹き抜け天幕内の蝋燭が一気に掻き消える。
その一瞬の間に、俺は何者かに抱えられて天幕の外へと連れ出された。
明暗になれる一瞬の間に起こった出来事に、于吉はやれやれと肩をすくめた。
「どうやらお仲間が一緒だったようですね……。残念です。でも、彼はまた直ぐにここに戻ってくる……。その時は、確りと息の根を止めさせていただきますね。天の御使い、徳種聖君。」
そう言って于吉は声高らかに笑うのだった。
弓史に一生 第七章 第八話 潜入 END
後書きです。
第七章第八話の投稿となりました。
遂に聖の前に姿を表した謎の男、于吉。
彼の妖しげな力の前に、聖は打つ手なく万事休すとなる。
そのピンチを救ってくれたのは…………。
そして、次回以降の流れとは………。
次話はまた日曜日に……。
それではお楽しみに〜!!!!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 遂に黄巾の乱も大詰めです。 ここからの展開にご注目ください。 |
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コメント | ||
>将軍さん コメントありがとうございます。 于吉はこのタイミングで登場です。次回以降の流れはどうなるのか……お楽しみに……。(kikkoman) 聖さんの女らしさが1上がったww ここでまさかの于吉さんとうじょう? じじか次回も楽しみに待ってます(将軍) |
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